第27話 混戦

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「・・・・・・なんで中佐じゃないの」

 イツキは不満だった。少なくとも自分は火星で、銃弾の中で生き抜いてきた

実戦経験者である。モリの中隊のメンバーに武器の取り扱いを教えられたし

実際に肩を並べて戦ったこともある。それなのに何故自分はよりにもよって

今回が初陣の副長とペアを組まなければならないのだろう、と。

「副長・・・・・・艦の指揮は大丈夫なんですか?」

 待機所に持ち込まれた移動端末を操作するジュンに少々嫌味をこめて言う。

「今のところはね。・・・どの道艦が動かないならブリッジに居てもここに居ても同じさ」

 ジュンはイツキの視線に居心地の悪さを感じながら言った。

「それにしてもIFSなんて良く付けてましたね?」

嫌味をこれ以上言ってもお互いのためにならないと思ったのか、イツキは当たり障りのない話題に切り替える。

「うん・・・。あるに越したことはないと思ったしね」

 ジュンは端末に視線を戻す。その行動にイツキは避けられてると感じた。

 副長と私って相性悪いのかな?ふとそう思う。取り立ててお互い個性が強いわけでもなく我が強いわけでもない。

普段ならそれがいい方向に傾くのだが、今回はどうやら勝手が違う。

「・・・・・・准尉は僕がここに居ることに不満なんだ?」

 唐突に思っている事を当てられてイツキは慌てた。

「いえ・・・別段そういうわけでは」

「いいよ。気を使わなくても。・・・確かに指揮官が待機所でエステバリスに乗る準備をしてるなんかおかしいと思う」

 突然の独白にイツキはおやという顔でジュンを見る。

「けど指揮官だからという理由でエステバリスの稼動数を減らしたくないんだ。・・・特にこういう場合はね?」

 そういって少々引きつった笑いを浮かべる。イツキはその表情に何となく懐かしい物を覚えてつい本音が零れ落ちた。

「でも射撃とか大丈夫なの?・・・あっ!失礼しました!」

「気にしない気にしない。まぁ准尉の心配はもっともだけど、一応是でも大学での実技の大半は「優」評価なんだよ?」

「でも・・・次席卒業ですよね?」

 また失言。イツキはどうもこの威厳のない副長にずけずけと物を言ってしまうらしい。

「うん。主席はユリカだね」

特に気にした風もなくジュンは端末から顔を上げずに笑ってこたえる。

「まぁ実際ユリカの指揮能力は規格外だからね。僕らみたいな普通の思考じゃ太刀打ちできないよ」

ユリカの場合実技のダメさが凄いけど。そういってジュンはまた笑った。

「正直こういうときこそユリカに居てもらいたいね。・・・正直僕じゃ荷が重い」

 すでに制空権確保のために戦闘に入った他のエステバリス隊の状況を注視しつつジュンは呟いた。

そっか。副長って昔の小隊長に似てるんだ。イツキはジュンに感じた懐かしさの正体に気がついた。


「エステバリス隊、バッタと接触。戦闘に入りました」

 閑散としたブリッジでルリは戦況を報告する。

「・・・・・・ホシノ君。この戦いの間は戦況報告は無用だ」

 することが全くないゴートが言った。

「しかしまいりましたなぁ〜。艦がここまで壊れてしまうとは。修理を考えると頭が痛いです」

 プロスペクターが電子ソロバン片手に唸る。

「まぁんな事はこの戦いが終わってから・・・・・・考えたらいいんじゃないか?」

 ナオはタバコを吸おうとして、此処は禁煙ですというルリの視線にタバコをしまった。

「いずれにせよ今は待つだけだ。・・・エステバリス隊と整備班の奮闘を祈ろう」

 ゴートの言葉にブリッジの男達は頷いてただ端然と待ち続ける体制をとった。

ルリはその押し黙った雰囲気にかすかな共通間を感じたが、オモイカネから届いた情報を報告した。

「航空隊が誘導空域に入りました。これより誘導とECMに入ります」

 それだけ言うと目を閉じてルリは電子の世界に潜った。


 アカツキのエステバリスは絶えず後ろを振り返りながら低空を駆け抜けて行く。

「団体さんかい?・・・甘いんだよねぇ!」

 突き上げるような機動で下から上にエステバリスを奔らせる。それだけの機動できれいな編隊飛行の形の爆発を3つ作り出した。

『おいロンゲ!やるじゃねぇか』

「まかせてくれたまえ!ナデシコの荒廃この一戦に有りってね・・・!」

 3バーストに設定したライフルを2度引く。戦果を確認せずに左に捻りこみ機動を取る。

『ゲキガンフレアー!!』

総受信に設定した通信機から聞きなれた雄たけびが聞こえる。

「・・・・・・バッテリーに限りがあるのに無茶をする。全く凄いよテンカワ君は!」

『そりゃリョーコの王子様だもん』

『クックック・・・どちらかといえばリョーコが王子様ね』

『ヒカル!イズミ!!後で覚悟して置けよ!!』

 何時も通りの会話に忍び笑いをもらすとアカツキは一度周りを見渡してとある地表を凝視した。

「おいおい・・・一体今は何世紀だい?」

 モニターには轟音と共に走るトラの群れが映っていた。


「戦車だって!?一体何時の?・・・タイガー戦車・・・だと?」

 呆然とするジュンを尻目にイツキは重機動戦フレームに駆け出す。一挙動でコクピットを閉める。

『カザマ・イツキ。準備良し!でます!!』

ジュンが気がついたときにはイツキのエステバリスは射出口から飛び出していった。

「准尉!待つんだ!!・・・・くっ!陸戦フレームに吸着地雷を搭載できるだけ搭載するんだ!急げ!!」

 ジュンの怒声に地雷ボックスを担いだ整備員達が集る。

「副長よりブリッジへ。カザマ准尉が飛び出した!行動をトレースしてください!」

 ぎこちなくハーネスを閉めながら矢継ぎ早に指示を出していく。

『こちらはブリッジ。ホシノ君が誘導に入った。あまり細かい支援は出来ない!』

「わかりました。ゴートさんは念のため戦闘要員以外のクルーの退艦準備の指示を」

「副長!吸着地雷セットよし!いけます!!」

 開けっ放しコクピットを覗き込むようにして整備員が言った。

「APFSDSが入ってるのは何番だ!?」

「D4ラックのラピットライフルに!予備の弾倉とセットです!!」

「ありがとう!・・・アオイ機も出るぞ!!」

 手を伸ばしてラピットライフルをつかむ、少し手間取って弾倉を積み込んでジュンのエステバリスは格納庫から飛び出した。


「アオイ機が発進。カザマ機はあと5分で接触。アオイ機は10分遅れです」

 航空隊の誘導とECMと戦況報告。ゴートとミサはルリの情報処理能力に舌を巻いた。

「本艦の現状は?」

 目を閉じていたモリが目を開けるといった。

「補助エンジンは待機状態。相転移エンジンは右舷は制御系に問題がありますが使用可能」

「現在戦闘にかかわってるクルー以外に退艦準備。敵戦車部隊の射程に入った場合本艦を放棄する。負傷者は退艦をはじめさせろ」

 プロスが何かいいたそうだったが、頭を振ると結局何も言わなかった。

「・・・中佐、退艦の準備を」

 安堵の表情でミサが近寄ってくる。

「戦隊司令がいの一番に逃げ出したら示しがつかないよ。・・・個人的にも動くつもりはない」

 可愛げの無い言い方をするなぁ。モリは自分の天邪鬼に呆れた。

「・・・・・・中佐!貴方はそんなに死にたいんですか!!」

 案の定ミサは烈火のごとく怒り狂う。瞳から零れ落ちる涙を見てモリは激しい罪悪感を覚える。

「死にたいわけじゃない。だから生きてる。・・・・・・今も俺が生きてる理由はあいつ等をぶっ潰すことだ。

その為に命を惜しむつもりはない。心配してくれてありがとう。中尉」

 モリは年相応の笑みを浮かべて言った。

「そんな!プロスさん!?」

 救いを求めるミサにプロスは同情を覚えたがしかし首を縦に振ることはなかった。モリの独白がそれ以上に

彼の心に響いたからだ。死にたいわけじゃない、だから生きている。それはプロスも同じだった。

「・・・皆さんおかしいですよ!?何故?どうして人が死にそうなのに放って置くんですか?何故!!」

 ミサの言葉に耐えるようにゴートは前だけを見つめ、ナオは火のついていないタバコをもてあそんだ。

「中尉、心にどうしても譲れないものを持つものにとって、それは命よりも大切なんだ。俺の事を思ってくれるなら

頼む・・・俺を此処にいさせてくれ。自己満足と罵ってくれても構わない。俺はもう逃げ出してまで生きたくは無いんだ」

 無気力でそしてどこか悟った笑みを浮かべてモリは言った。

「・・・・・・理解できません。・・・理解できませんよ!?」

 ミサはそう叫ぶとブリッジから飛び出した。

「航空隊が管制エリアに入りました。・・・カザマ機敵と接触。」

 メインスクリーンに航空隊のグリップが増える。

「プロスさん、通信席へ。航空隊との連絡を・・・」

 言いながらふと見たナナフシの映像にモリは数秒自分の目を疑った。モニターのナナフシが動き出していた。

「ナデシコ緊急浮上!退艦作業中止、準備が出来た区画から順次隔壁閉鎖、急げ!!」

 切羽詰ったモリの言い方にプロスとゴートが弾かれるように動く。

「通信用意良し!」

プロスは通信席に滑り込むと、モリも知らない軍の極秘回線にリンクさせた。 

p> ゴートは操舵席に座ろうとして気がついた。自分の体格ではこの席に座れない。ではどうするか?

「むぅ・・・」

 懐から拳銃を取り出して背もたれの根元に数発打ち込んで蹴飛ばす。流れるような連携技で背もたれを破壊すると座る。

本当はベルトを付けたかったが流石に諦めた。何せ背もたれが無い座席なのだ。

「操舵用意良し!ナデシコ緊急浮上!」

 何故か青くなるルリにゴートはしかし気がつかなかった。

「・・・・・・ミナトさんのお気に入りなのに」

 ルリは銃弾で穴の開いたクッションを見て呟いた。


『みんな!ナデシコが動いたよ!』

 ヒカリの声でリョウコは慌ててナデシコを見る。確かにナデシコは動き出していた。

「一体どうしたんだ?」

『どうやらアレが原因みたいだね』

 アカツキのエステバリスを指し示す先には仰角を取るナナフシがあった。

「冗談だろ!?まだ次の射撃まで5時間はあるぞ!」

『予定は未定、それが戦場でしょ?リョーコ」

『うわぁ、イズミちゃん久々にシリアス〜』

『あいつを潰さないと!ナデシコが!!』

『おいおい、僕らが抜けたらバッタをどうするんだい?』

「くっそ〜!!さっさと片付けてナナフシを落とすぞ!!」

 リョウコのエステバリスはバッタの群れに飛び込んだ。


「ナデシコが動いた。一体」

 イツキとジュンは戦車の一斉射撃を丘に隠れることで凌いだ。

『副長!どうしま・・・・・・』

「カザマ准尉!」

 爆炎とともに反撃していたイツキのエステバリスが崩れ落ちる。

「くっ!」

 敵の数が多すぎて切り込めない。かといって此処で地雷を巻いても効果は薄い。第一イツキを置いて逃げるわけには行かない。

「・・・こんなところで死んでたまるか!」

ジュンは歯噛みしながらラピットライフルで戦車の上面を打ち抜く。


「ナナフシ本艦に軸船を向けています!」

 モリは立ち上がる。胸が異音をたててきしんだ。

「取り舵20!エンジン出力最大!・・・ナナフシ近辺の制空状態は?」

 声を張り上げると同時に痛み止めをした状態特有の霞んだ痛みが、モリの胸をはしった。

「エステバリス隊が70%制圧」

 ルリの報告にモリは半瞬悩んだ後、うんと頷いて言った。

「両舷全速!衝角用意!総員対ショック、艦首付近のクルーは非難しろ!!」

「マジか!?」

 タバコをもてあそんでいたナオがタバコを落とした。

「大マジだ!!奴の砲身を押さえ込む!!ナオ!戦況報告!ホシノ君は相転移エンジンのコントロールに集中!」

 ふと気がつくと痛みがなくなっていた。変わりに何ともいえない高揚感が全身を包む。

「おうさ!!」

「此方ナデシコです。これより突っ込みます、近くの機体は避難してください!警告はしましたよ!」

「・・・全速前進!!右舷相転移エンジン一杯へ!!」

「ナデシコの荒廃この一撃に有り!!必勝痛烈な一撃を以っていざ回天を!!」

「「「サー!イエッサー!!」」」

 一気に艦橋の温度が跳ね上がる。それも微妙な方向に。

「・・・・・・・なんかイヤ」

 ルリは小さく呟いた。


あとがき


なんか魔が差したようで・・・・。

 ジュンは外に出るし、ミサは暴走するし、モリ達は常識のヒューズが飛ぶ。

構成が中途半端になりましたが・・・この続きは出来るだけ早く書きますので勘弁してください。

 いざ回天を!!

注訳:回天>天を回すこと。世界の有様を、がらりと変えること。


                                             

 敬句 

 

 

管理人の感想

大森都路楼さんからの投稿です。

随分と混乱してますねぇ・・・

まあ、タイムリミットが設けられてると人間余裕が無くなりますよねぇ・・・

仕事場とと更新作業とか(爆)