第29話  記憶への旅路 

 クルーも帰ってきて俺もやっと人間らしい生活に戻った。

昨日、新規編成の第13混成戦隊の編成完結式に出た。相転移戦艦2、巡洋艦1、駆逐艦5、総勢500名余の命を預かる事となった。

なんというか、俺の能力以上のことをやってる気がする。

 ナデシコのオモイカネが他の艦とのリンクを拒否している。いろいろと不都合があるので念のため明日

模擬戦闘を行うことにしよう。

モリの日記より


―――模擬戦闘開始。状況、遭遇戦。統制艦 ナデシコ。

『敵、戦艦3巡洋艦1、駆逐艦6、機動兵器90。接近中』

『第112水雷戦隊ミサイル攻撃。ナデシコ、イワキ、グラビティブラスト斉射。戦艦1巡洋艦1駆逐艦5、機動兵器29を破壊』

『敵機動兵器接近。迎撃にナデシコエステバリス隊が突出』

『敵砲撃。ナデシコ、イワキに集中。フィールド69%に減衰』

『エステバリス隊敵と接触。ミサイル攻撃。機動兵器31機、僚艦アカシオ、モチヅキを撃沈。死者多数』

『迎撃ライン突破部隊に対して残存艦艇による統制迎撃。機動兵器30、僚艦オオシオ、ヤハギ、イワキを撃沈』

『ナデシコ、戦線より離脱』

―――模擬戦闘終了。

 戦果

 戦艦3、巡洋艦1、駆逐艦6、機動兵器90を完全破壊。

 損害

 戦艦1、巡洋艦1、駆逐艦4。負傷、戦死400名。

 備考:自軍損害はすべてナデシコの誘導による同士撃ち。

「エラー・・・でいいのかな?」

シュミレート結果を見てユリカ言った。

「「「「ダメだろ?」」」

 ブリッジクルーは思わずツッコんだ。


「オモイカネの軍に対する敵対反応、困りましたね?」

 ミサはモリの好みに合わせて薄く入れたコーヒーを渡す。

「・・・半分は自滅だとおもうけど、反論は艦長?」

 原因の人物にちらりと視線を送る。

「あ・・・あははは」

 冷や汗をかきながらかつて地球連合に喧嘩を売った艦長は笑った。

「大佐〜」

 ハーリーがブリッジに入ってくる。ミサはモリの表情に優しさだけが浮かんだのに気がついた。

「うん?どうしたハリ?」

 モリは体ごと向き直ってハーリーと視線を合わせる。

「ホシノさんが食堂に来てくれって」

「うん。もうちょっとしてから行くから先に待ってなさい」

「ハイ!」

 満面の笑みを浮かべてブリッジを出て行くハーリーを見送る。

「・・・・・・・何か問題でも有るんですか?」

 視線、モリは仏頂面でブリッジを見渡す。

「問題は無いけど〜」

「何か父親みたいですよ、大佐」

 ミナトとメグミが堪えきれなくなった様に笑い出す。

「保護者ですよ、僕は」

「それも親バカですもんね」

 ミサはハーリーを引き取るまでの出来事を思い出して苦笑いを浮かべた。

 倉庫での一件の後モリは安全を考えてハーリーを引き取ることにした。

当初は補助金が下りなくなることを理由に渋った養父達もモリが

示した金額に手の平を返したように親権を譲った。そのあとアカツキとプロスに

連絡して半ば強引にナデシコのサブオペレータの席を準備し自らの手の届くところに置いた。

「親バカかな?やっぱり?」

「親バカです」

 キッパリとしたミサの物言いにモリは肩をすくめるとブリッジを出て行った。

「・・・大尉不機嫌そうだね?」

 機嫌の悪そうなミサを見てジュンは言った。

「もう少し自分にも強引になって欲しいんじゃないですか?」

 ジュンは傍らに居るイツキの言葉に思わず噴出す。

「アオイ副長。イツキさん。・・・変な事言わないでくださいね?」

 最近仲がいい2人をミサは恨めしげに睨んだ。


 モリが食堂に行くとそこでは珍しい光景が広がっていた。

「・・・・・・ホシノ君がテンカワに頼み込んでいる」

 ブリッジクルーの一部を除くと余り社交的ではないはずのルリがアキトに必死に頼みごとをしていた。

「珍しいことなんですか?」

 キョトンとした表情でハーリーはモリを見上げる。

「う〜ん。珍しいといえば珍しいんじゃないかな?あんまり人付き合い得意じゃなさそうだし」

「そうなんだ・・・」

 ハーリーが納得いかない顔で言った。

「ホシノ君とは仲がいいのか?」

「ハイ!オモイカネの事とかオペレーターの事とかとっても親切に教えてくれます」

「それはよかった」

 人付き合いが苦手そうなルリとハーリーが友達になれるだろうかと心配していたが、どうやら杞憂に終わったらしい。

「ところで・・・私が呼ばれたのは一体どういうことなのかな?ハリは何か聞いてるかい?」

「えと・・・たしかオモイカネの中枢に行ってなんかするらしいです」

「オモイカネの中枢部に行く?・・・・・」

 モリは引っかかる内容に考え込む。ハーリーは気圧されるように小さくなった。

「おいモリ、あんまり厳しい顔するなって。ハーリーが怖がってるだろうが」

「ウリバタケさん・・・」

「いろいろと気になるだろうがルリルリの為に一肌脱いでくれ」

 ウリバタケはそういってルリの方に視線を向ける。

「・・・・・・分かりました」

 不満があったがルリの思いつめた表情を見てモリは納得する事にした。


「臭いな〜」

「男の人の部屋って皆こんななの?」

「この部屋イヤ」

「僕もいやです」

「・・・この前よりさらにひどくなってますね」

「だ〜うるせぇ〜!じきになれる!」

「慣れたくないです」

 ハーリーの呟きにウリバタケを除く全員が頷いた。

「しょうがねぇだろう?ブリッジじゃこんな事やばくて出来ないし。おっとでた」

 モニターに割烹着を来た2頭身エステバリスが現れた。

「かわいい〜」

「なんだよこれ?」

「オモイカネのメンテナンスシステムをエステバリス型に表示したものだ」

 しばらくコミカルなエステバリスを眺めてからモリは言った。

「ただの趣味と言う事ですか・・・」

「お前・・・身も蓋もねぇな」

 ウリバタケはため息をついた。

「それで・・・僕とテンカワは何をすれば?」

「そこにある端末からIFSを通して電子世界にもぐれる。つまりお前とテンカワがオモイカネの中に潜って

暴走を止める」

「・・・え〜と」

「・・・・・・つまりオモイカネの中枢回路を破壊すればいいのか?」

「「ダメです!」」

 モリの言葉にルリとハーリーが声をそろえて怒る。

「・・・・・・・・・・・じゃあどうするんだ?」

 モリは自分で考える事を諦めた。

「モリとテンカワはあそこのIFS端末に手を付けて電子世界に潜る。サポートにルリルリとハーリーを付ける。ほら準備準備」

 やたらと元気なウリバタケに呆れてモリはアキトのほうを見た。アキトも呆れているようで肩を一つすくめるとシートに座った。

「準備はいいな〜。モリエステ、テンカワエステ始動!」

 ウリバタケは気合とともに実行ボタンを押した。


「・・・給湯室?」

 目を開けるとそこは給湯室だった。

『オモイカネのデーターを俺がイメージ化したものだ』

「立地的には・・・近いのか遠いのか、微妙なところだな」

「ここは中枢区画の近くです」

 モリの右肩にミニサイズのハーリーが乗っかる。

「うん。案内お願い。焦らないでのんびり行こう」

「ハイ!頑張ります」


「随分と目立つところに投入したね?」

 ウリバタケが振り向くとイネスとミサが鼻をつまんでいた。

「これも作戦のうちよ」

「作戦?」

「はいはいはいはい!私が考えちゃいました〜」

 ユリカが手を上げて3人の間に割り込む。

「能力的に高いモリ大佐を囮にしてオモイカネの注意をひきつけて、アキトとルリちゃんが作戦を遂行します」

「だったら危険度が大きいモリ大佐に能力的に高いホシノさんを付けるべきじゃないのかしら?」

 イネスの眉間に皺がよっているのにユリカは気がつかないまま得意げに言った。

「仲のよさから見るとハーリー君と大佐の方がいいじゃないなですか」

「アナタ・・・それだけの理由でこの組み合わせにしたの?」

 イネスの深刻な雰囲気に全員が首を傾げる。

「ねぇウリバタケ、大佐達のアクセス手段はIFSによる電子ダイブよね?」

「あぁ。柔軟なイメージが使えるからな」

「という事は、擬似的にとはいえ精神はオモイカネの中なのよね?」

「そうだ。だから精神的に強いモリを囮に指定したんだ」

「直ちに中止しなさい。―――危険よ」

 一体何が?話を聞いてたユリカとミサは顔を見合わせる。


 図書館の静寂さにふさわしくない銃声が響く。

「―――18機目。・・・多いのか少ないのか?」

 ブスブスと煙を上げる衛兵ルックのエステバリスを見やる。

「えと・・・オモイカネのセキュリティとしては少ないです」

「・・・・・・なんかあるな」

「ハイ。気をつけます」

「おねがい・・・ッ!」

 とっさに伏せて銃弾をやり過ごす。

「・・・・・・1.2.・・・15機。多いな」

 手鏡を出して相手の数を確認する。

「!?合計で63機の敵が此方を包囲しようとしてます!」

 目を閉じて周囲を索敵していたハーリーが言った。

「逃げるぞ、ハリ!」

「ハイ!・・・えとこっちです!」

 躊躇い無くモリとハーリーは逃げ出す。

「ウリバタケさん!こっちはダメだ!回収してくれ!」

 ハーリーの案内に従いながらモリは叫ぶ。

『モリ、もう少し粘れ!テンカワ達があと少しでオモイカネの中枢にたどり着く』

「了解!」

 急停止、照準、発砲。本棚から湧き出たセキュリティメカを破壊して踏み越える。

「次を右」

「次は左」

 ハーリーの誘導にしたがって本棚を駆け抜ける。

暫くするとエントランスらしい広い空間に出る。

「ここは?」

「・・・・・・・・・・うぅ」

「どうした?」

 泣きながらハーリーは言った。

「・・・・・・・迷子になりました」

「うん・・・・・・・・・困ったな」

 モリはそれだけしかいえなかった。

「でも・・・こんな区画、オモイカネには無いのに」

「しかもセキュリティもこない」

 小銃を油断無く構えて周囲を警戒する。暫くするとモリはふと違和感を覚えた。

「?部屋が光っている」

 モリがそう言った刹那、モリとハーリーを光が押し包んだ。

あとがき


 戦闘前にオモイカネの反抗期を済ませるために苦労しました。

だって戦闘中になったら、死者数百名。モリ軍法会議のち銃殺ですよ・・・(汗

 本編ではかなりあいまいに扱われていましたが、ムネタケ提督はあの事件でもなんの

被害も受けていません。・・・ある意味、彼はモリなんぞよりよっぽと凄い奴なのかもしれません。

 あと、ハーリー、モリの組み合わせは結構気に入ってます。

これにミサをどう関わらせればいいのだろう、と別の問題も発生しましたが(核爆

                                             

 敬句 

 

 

 

代理人の感想

展開としては特に突っ込むところもないんですが・・・・

ナデシコ一隻で300近い乗組員がいるのに、艦隊全部で500人?

まさか無人艦?(爆)

 

>掌を返したように

ハーリーの両親は割と人間味溢れる人物として書かれる事が多いので新鮮・・・・・だったかな?

微妙だ。