p>外伝 参話 未知との遭遇


 戦いの後、中尉に付き添われて軍病院に連行された。

幸い肋骨は折れてはいるが動くのに問題は無いので入院は免れた。

しばらく、中尉には口すら聞いてもらえなかったが、それだけ心配してくれたと思うとかなり嬉しい。

 まだ内々定だが、俺は大佐に昇進して混成戦隊の司令官になるらしい。

いまさら、責任に耐えられないなんて言ってもしょうがないので、とにかくやるしかないな。

 副官は中尉にお願いするとして、戦隊参謀長と参謀を探さないと・・・。

多分・・・戦争が終わっても、軍から逃れる事は出来ないんだろうな。



  モリの日記より



「・・・寒い」

 ナデシコは修理ついでに改装中でクルーの大半は休暇中。

今は艦の近くのプレハブに寝起きしているが正直隙間風が寒い。

「・・・・・・むなしいな」

 ストーブの上でコツコツと湯気を立てるヤカン以外音のする者の無い部屋を見回して

モリは呟いた。目の前には第13戦隊を根幹とした第13混成戦隊の各書類が山のように詰まれ、足元には

食い散らかしたレトルト食品の山が転がってた。

「一番えらいって・・・損だな」

 大佐に昇進したモリは、新しく手に入れた権限を使って、ミサに2週間の長期休暇をだした。

そのついでにナデシコクルーのほぼ全員に休暇を出した。だが、新しい権限は残念ながらモリ自身には適用できなかった。

極めつけは、此方に知人が居ないので住処すらなく、仕方なく作業員用休息所の2階を借りて住み着いている。

当たり前のことだが、フロも台所もないし冷蔵庫もテレビも無い。ストーブだけは近くの連隊が使わなくなった

前世紀の物を借りた。寝るときは同じく借りてきた寝袋で、はっりきいってそこら辺の兵隊よりみすぼらしかった。

「かといって飾り物にはなりたくないし・・・・・・」

 改装の際挨拶に回った上官たちは皆自らの派閥に入らないかとしきりに言ってきた。

モリは当然断ったのだが、そのせいかどこのオフィスも貸してもらえず仕方なく現在の場所に住み着くこととなった。

「皆どうしてるんだろ?・・・楽しんでるんだろうなぁ〜」

 楽しそうな表情で艦を離れていくクルーを見送りながら何ともいえない孤独感を感じた。

「・・・イッちゃんとアオイさん、ほのラブっぽかったし。俺には春は来ないのかぁ〜」

そして最後まで艦に残っていたジュンとイツキを見送るとき、仲の良い2人を見てモリはその孤独感の意味を知った。

モリには、軍人の立場を通して以外の人間関係が全く無かった。


 すでにヤル気マイナスなモリは期限にまだ余裕があるのを確認して、外に繰り出すことにした。

「・・・・・・ゲーセンは飽きたし、本屋も新刊無いだろうし。なにするかな〜」

近くのスーパーで買った安物のコートの襟を立てて寒さをしのぎながらモリは当ても無くふらふらと歩く。

「手を上げてください!」

 突然お尻に銃口を突きつけられる。少なくとも自分の視界内にはそれらしい人物はいなかった。

「・・・・・・・???」

 手を上げて少しだけ首を動かして後ろを見る。が、人影は無い。

「こら!うごくな!」

 首を下に向けてみると多分小学生な男の子がごっつい自動小銃をモリに突きつけていた。

「あなたが破壊工作員なことは分かってるんだ。えと、ワシントン条約に従い貴方をほ、捕虜にします!」

 破壊工作員の場合捕虜じゃなくて普通は射殺なんだが・・・。つうか俺は希少動物なのか?

こうして宇宙軍大佐は謎の小学生の捕虜になった。


「御免なさい!御免なさい!・・・グス・・・本当に御免なさい!!ほら!ハーリー君も謝る!!」

 モリの短い捕虜生活は連絡を受けて慌てて駆けつけてきたエリィお姉ちゃんなる人物の涙交じりの平謝りでおわった。

「気にしないでいいです。でも・・・この子供達って?」

 推定中学生のエリィにこっ酷く叱られてしゅんとしているハーリーこと、マキビ・ハリ以下総勢8名の小学生らしき集団を見てモリは言った。

「この地域の子供達です。・・・ちょっと元気がありぎるんですが、いい子ですよ!」

 人にあんなモン突きつける奴がいい子なのか?エリィの邪気の無い笑みにたじろぎながらモリは思った。

「あの銃は?」

 モリは半眼で小学生達が抱える自動小銃を見やる。

「あっ、あれは相手から奪ったものなんです」

 あたふたしながらエリィが答える。

「相手?」

「はい。実は・・・」

 人物と背景が分からないおかげで時間がかかったが要約するとこういう事情があるらしい。

相手はサバイバルゲーム好きの大学生の集団でその背後には近くの駐屯地の兵隊らしきものがが絡んでおり

自動小銃を持っているので誰も逆らえないこと。子供達の遊び場であるこの廃工場を占拠しようとしていること。

今までのゲリラ戦で武器などを強奪したが戦力の差は激しく追い詰められたこと。

「つまり篭城中でしかも陥落直前というわけか・・・」

「・・・そんなにはっきり言わないでくださいよぉ〜」

 泣き出したエリィに慌てながらモリは冷静に戦況を分析する。

質量共に相手が有利。逆転するには質量共に上回った援軍が不可欠。というか敗北必至。

「大佐って軍人さんなんですよね?」

 唐突にエリィが何か期待したまなざしでモリを仰ぎ見る。

「ええ。・・・まあそこそこに偉いかな」

 実際は数百名から千名の部下を従える高級将校なのだが、モリは当たり障りの無い答え方をした。

「軍人さんって、銃の扱いってうまいんですよね?」

「まぁそれなりに」

 生身で累計137機の機動兵器撃破スコアを持つ男は答えた。

「お願いです!私達と戦ってください!!」

「え〜と・・・そこのところどうでしょう?管理人さん?」

 とりあえず良く分からない事を言ってみる。

「「「お願いします!!」」」

 子供に似合わない闘志を見せながら子供達は言った。

「・・・・・・分かった。手伝おう」

 根がお人よしのモリはそれ以外いえなかった。


「で・・・なんでこうなるんだ?」

「いいじゃないですか?暇なんでしょ?」

 面白いことがあると呼び出されたナオはジト目でモリをにらむ。

「それに・・・ちょっときな臭いんですよ。見たでしょ?あの銃」

 ナオに持ってきてたらったスーツケースから装備を取り出しながらモリは言った。

「あぁ。・・・モノホンだぜあれ?弾薬も火薬を落とした非殺傷弾だが・・・形状は本物と大差ない」

「それにアレ軍のじゃないでしょ?」

「・・・おそらくデットコピーのコピーだろう。・・・一体何者なんだ、ガキ共の敵って?」

 元気は一杯にバリケード―――それもモリとナオが指導した実戦向きの―――を構築する子供を見ながらナオは言った。

「さぁ。・・・気がついていると思うけどマシンチャイルドの子が居るでしょ?僕はそれじゃないかな?と思うんですよ」

 モリは腰のベルトに実弾と高速鉄甲弾の弾倉を装着する。

「・・・ずいぶんと本格的だな」

「僕の直感が言うんですよ。・・・多分本物の敵だって」

 口元をわずかに吊り上げた笑いを浮かべてモリは言った。


「18:00時だ。おい、行こうぜ」

 おおよそ町では似合わないジャングル迷彩服を来た男達が自動小銃片手に立ち上がった。

「おい、ミルコ。どうした?」

 自分達に本物と寸互いの無いレプリカを提供した男を見やる。

「何でもない。・・・それでは北辰様・・・。悪い悪い。ちょっと電話がかかってな」

「ん?コレか?」

 そういって男は小指を立てる。

「もっと大切なものだ」

 ミルコと呼ばれた男はそういって目を細める。

「そ・・・そっか?行こうぜ」

 男はミルコの爬虫類めいた笑みに薄気味悪いものを覚えた。


『リックよりモリ兄ちゃんへ。連中が最初の場所に侵入』

「モリ了解。モリより全員へ。合図したら発砲しろ」

 暗視ゴーグルを貸して見張りに立たせている子供から連絡が入る。

「・・・トーシロだな?」

「トーシロですね。・・・約一名除いて」

 リックから送られてくる赤外線映像を見ながらナオとモリは顔を見合わせる。

「あの・・・本当に大丈夫なんですよね?」

 かなり怪しい会話をする2人にエリィがおびえながら話しかける。

「多分ね」

「多分って・・・」

「戦いに確実な物なんてねぇよ」

「あぅぅぅ」

 たちまちの内に涙目になるエリィ。

「あ〜。泣かした〜」

「俺のせいか?せいなのか?」

 慌てだすナオ。

『リックからモリ兄ちゃんへ。連中が倉庫内に突入』

 暗視ゴーグルに訓練されていない動きで遮蔽物に隠れる敵が移る。

モリはナオに頷きかけると通信機に話しかける。

「全員ぶっ放せ!」




「馬鹿な!ありえん!!」

 遮蔽物に隠れたはずなのにその遮蔽物自体が目印になっていた。

 反射的に別の遮蔽物に飛び込んでやり過ごす。

「馬鹿な!馬鹿な馬鹿な馬鹿な!!」

 歯切りしながれらミルコは狙いを定めて打つ。が銃口以外でることの無い遮蔽物に

対して有効な攻撃が出来ない。

「ふざけおって!!」

 手早く弾倉を交換するとミルコは引き金を引いた。



 今までとは銃声が工場内に響く。

「まずい!全員攻撃中止!床にうつぶせになって頭を低くしていろ!!」

 声を張り上げると目の前のバリケードに火花が走る。

「モリ・・・!」

「分かってます・・・実弾ですね」

 ナオとモリは険しい表情で顔を見合わせる。正直なところ実弾相手では即席の遮蔽物など物の役に立たないからだ。

「餓鬼共!死にたくなかったマキビ・ハリを差し出せ・・・!さもなくば全員殺す!」

 ミルコの言葉に周りにいた男達があっけに取られる。

「お、おい。ミルコ・・・ちょっとやりすぎだろ?」

 ミルコは男を台尻で思いっきり殴り飛ばすと、酷薄な笑みを浮かべていった。

「我名はミルコに有らず。我は北辰様が配下、烈風!」

 烈風の威圧感に耐えられなくなったのか何人かの子供が泣き出す。

「さぁ!早くしろ!さもなくば全員殺す・・・!」

「・・・・・・させるかよ!」

 ナオの銃撃に烈風は遮蔽物に隠れる。

「実弾だと・・・!?おのれ・・・いでよ!虫型戦闘兵器!!」

 ポーズを決めてスイッチを押すと天井からジョロが降ってきた。

「あ・・・あぁ・・・あぁ!」

「・・・あいつ一体何なんだ?」

「・・・多分・・・・・・・・・バカだろう」

 あっけに取られてるナオとエリィを尻目に冷静に弾倉を交換して匍匐姿勢をとる。

「さぁ・・・死にたくなかったらマキビ・ハリを差し出せ!!」

 木蓮の連中は、何故マシンチャイルドを狙う?いやそれより・・・こいつの背後にはちょっと今までの

いるんじゃないのか?照準を合わせながらモリは思った。

「・・・・・・甘いんだよ・・・!」

 3バーストで2回引き金を引く。それだけでジョロはくず鉄に変わった。

「な!?貴様・・・何者だ!?」

「貴様だとさ・・・。俺かな?お前かな?・・・それともエリィちゃんかな?」

「私じゃないですよぉ〜」

「貴様らだ!!」

 烈風のこめかみに青筋が浮かぶ。

「正義の味方仮名一号!」

 ナオが期待した目でモリを見る。げんなりしてモリは言葉をつなげる。

「・・・正義の味方仮名3号」

 あ、2号忘れてた。まいっか?モリは照準を定めたまま小さく笑う。

「・・・・・貴様ら!?いいかげんに―――」

「・・・もう良い。烈風よ」

 全く格の違いを感じさせる声が倉庫内に響く。

「無念だが・・・伽奴らは我等より有利」

 編み笠から見え隠れする瞳は、爬虫類を思わせる瞳だった。

「ほ・・・北辰様!」

 烈風が真っ青になる。

「・・・・・・口惜しいがこの場は引こう」

「御意・・・!」

 どうする?撃つか?モリはスコープ越しに北辰に狙いを定める。

瞬間スコープ越しに北辰と目が合った。モリは弾かれたようにスコープから目を外す。

「クックックッ・・・、さらば!」

 素早く身を翻すと北辰と烈風は姿を消していた。

「!?・・・おい!モリ逃げだぞ!」

「・・・・・・・まともじゃない」

 呆然とモリは呟いた。

「あぁ?」

「アイツ・・・まともじゃない・・・!」

 ナオはモリの体が震えているのに気がついた。





あとがき


 北辰登場、ハーリー君登場。

エリィおねえちゃんは多分その場限りの一発キャラです。

 今回はハーリー君本編参加の為のお話です。あと、もしかしたら書くかも知れない

「軍人としての」続編用のイベントでもあります。(多分書かないと思ふ)

 さて、これで第3部の開幕です。こっからはいろいろあります。

木蓮とのコンタクト、ナデシコと軍との間で悩むミサ。ナデシコが和平のために動き出したとき

モリの取る行動。・・・いよいよ物語りも佳境に入ってまいります。

 続編云々はともかく、完結させますのでお見捨てのなきよう。


 敬句 

 

 

代理人の感想

・・・・・・・・・・・・・・えーと、なんつーか微妙にコメントに困るよーな。(爆)

 

シナリオの意図はわかるんですが、演出がそれに見合っていないというか、

どこかボタンを掛け違えてるように思えます。

コメディなのかシリアスなのか、モリと同じように戸惑っちゃったんですね。