Scene2 今度は大きなヒロイモノ


「それでは今日からあなたのお部屋はこことなります。明日したから一生懸命働いてくださいね、それでは」

ドアの閉まる音と共にプロスペクターの姿が隠れた。

(俺……いきてるん…だよな?)

アキトは自分の手を何度も握りなおしながら、「自分の部屋」となったベッドの上で考えた。

(頭の傷……大丈夫だ、トランクによって出来た傷だ。両足……ちゃんとついてる。俺の荷物……この部屋に
運び込まれてる。……全部大丈夫だ)

ベッドの上に転がりながらアキトは一つ一つ確認していった。

(シェルターだと思って入ったのは戦艦の中だった。……大変だ。でも働き口が出来た。……ラッキーだ。
無事にロボットから降りられた。……よかった。この戦艦は空を飛んでる。……たいした問題じゃない)

「なんだ、けっこうツイてるじゃんオレって」

そこまで確認し終えた時、突然睡魔が襲ってきた。

(結構いろんなことがあったしな−。明日に備えて早く寝ないと。)

アキトはゴソゴソとベッドの中に入り込むと、明日からの仕事のために眠りにつこうとした。

(…………あっ、アイツのこと忘れてた。)

アキトは眠る前の一瞬だけあの男のことを思い出したが、結局睡魔には勝てずそのまま眠り込んでしまった。











                  …………30分前 格納庫




「おいおい、ずいぶんズタボロになって帰ってきたなー。おいお前らはじめるぞー!」

『ウッス!』

ウリバタケの言った通り、無事に帰還したエステバリスは致命的な損傷こそないものの、いたるところに被弾し
て帰還してきた。


「はんちょ〜、パイロットが出て来ないんスけどどうしますか〜?」

「なんだと〜?パイロットが出てこない〜?さっさとほっぽり出してコクピット周りの調整始めやがれ!!」

「ウッス!」

「……………………!! ちょっと待て。俺がパイロットを出す!」

「どうしたんすか班長、これくらい俺たちがやりますよ?」

「いいから他の所をさっさとやってろ!」

「わかりました!」

(ったく、せっかくのチャンスが早速来たんだ。この機会を逃してたまるかよ!)


ウリバタケは長い間夢にまで思い描いたアノ機会がついにやってきたかと思うと、どうしても顔に出てこよう
とする笑みをこらえながらエステバリスのハッチを開放した。


「オーイ!生きてッか?」

「………………………」

「怪我してねぇんだろ、早く出てこいよ」



アキトはふらふらとコクピットから出てくる。その足取りは誰が見てもおぼつかないものだった。
そんなアキトの肩にウリバタケは手を置いて言った。


「いいか、機械っていう物はな壊れても直せるんだ。だがな、人の命はそうはいかねぇ。人の命は修理
できねぇんだよ。エステは俺たちがいくらでも修理してやる。だからいいか、
これからも必ず生きて帰ってくるんだぞ!」

(く〜〜〜! 一度言ってみたかったこのセリフ!!機械屋に生まれたからには一度は言わねぇとな!)










              …………1時間前 ブリッジ




「艦長はまだ到着していないのですか?」

ブリッジに入ってくると同時にプロスペクターはクルーに問いかける。

「艦長どころか副艦長もまだ来てないわよ。ねぇ?」

ナイスバディと形容することの許される美人が、隣のオペレーターに同意を求める。

「はい。艦長と副艦長はまだブリッジに来てません。先ほど艦長たちの車が到着したことは確認されていますから
まだブリッジに来ないところをみると、迷っているか道草を食っている可能性が極めて高いです。」

冷静に回答をするオペレーターはまだ10才前後の女の子だ。いずれは相当の美人になるであろう
とても端正な顔立ちだが、今はまだ『かわいい』という表現のほうが当てはまる。

「私はどっかで道草を食ってると思うな〜。大体おかしくない?ブリッジにこんな女の子ばっかり集めて。
どこかで女の子でも追いかけてるんじゃないの?」

通信士のメグミ・レイナードが言う。
その言葉にオペレーターのホシノ・ルリが答える。

「いえ、その可能性はありません。だって艦長は……」

その時フリッジの扉が開かれた。

「ハ〜〜〜イ、私が艦長のミスマル・ユリカで〜す!ブイ!!」

「……女ですから」







                      ナデシコ発進後


「結局副長はどこに行ったのですかな?艦長」

戦闘もおさまってひと段落。ブリッジクルーの自己紹介も終わり
発進後のナデシコがようやく落ち着きを取り戻したとき、プロスペクターが艦長に尋ねた。

「ジュン君?私が車でひいちゃった人の面倒を見てたとき、先にブリッジに行くって出て行ったけど?」

「そんな人は来てないですけど」

ルリが報告する。

「おっかしいなぁ。う〜ん……メグちゃん。ちょっと艦内放送で呼び出してみて?」

『ぴんぽんぱんぽ〜ん。副長のアオイ・ジュンさん、副長のアオイ・ジュンさん。艦長がお待ちです。
至急ブリッジに来てください。繰り返します。
副長の………………』

まるでどこかのデパートのノリである。そしてその人物は、その恥ずかしい放送を
先ほどから行ったり来たりしている通路で聞いたていた。


「ブリッジはどっちなんだーーーー!!」


艦長、副官以下、ブリッジクルーが『コミュニケ』と呼ばれる大変便利な通信機器のことを思い出したのは
たっぷり一時間後のことである……





「……………………バカばっか」








現在ナデシコは大気圏突破の真っ最中。しかしオートパイロットの確立されたこの時代、戦闘でも起きない限り
クルーの戦う相手は『暇』ということになっている。われらの地球を守るビッグバリアもナデシコに対しては
何の反応も示さない。
プロスベクターがどこからか持ってきた地球連合軍の識別信号を発進しているナデシコには、
連合軍の設置したバリアは反応しないためだ。

なぜ連合軍の識別信号を一企業の戦艦のナデシコが持っているのか、先ほど来たジュンが
プロスペクターに聞いていたがプロスペクターの答えは

「まぁ、地獄の沙汰も何とやらということでして」

というものだった。

その答えを聞いてルリは
(おとなの理屈か……………)
と思いながら聞いていた。
賢すぎるルリには大体の予想がついていたが、まさにその通りの答えだったのだ。



「そういえばルリルリ、最近のニュースって知ってる?」

操舵士のミナトが暇つぶしに尋ねてくる。

「あの『自分は別の世界から来た』とか言ってる、いっちゃってる人達のことですか?」

「いっちゃってるって………ルリルリきついわねぇ」

「だってそうじゃないですか。別の世界なんてあるわけないのに非科学的です。
それともそういう宗教がはやってるんですか?」

「う〜ん、宗教の人達だったってニュースは聞かないわねぇ。でももし別の世界があるんだったら
行ってみたいと思わない?」

「行ってみたいな〜、あたり一面がお花畑の世界や妖精が飛んでる世界とか♪」

同じく『暇』という相手と戦っていたメグミが、話の中に入ってきた。

二人の話を聞いてるとどうやら『別世界』というのは
あたり一面お花だらけで、かっこいい男の人達がいて、耳のとんがった妖精がいたり、
ちっちゃな小人さんがいたり……と、あっちこっちの物語から付け加えられたり、自分の願望が混ざっていたりと
、とんでもない『世界』におさまりつつあった。


ルリにとってはどうでもいい話になりつつあるようで、ため息をついて口癖の言葉を言おうとしたとき、
オモイカネからアラームがなった。


「艦長、生体反応ふたつ。前方の残骸からです。」

「ほえ?残骸さんが命もってるの?」

ルリたち3人の話しに入ってこなかったのは、どうやら居眠りをしていたためらしい。
ユリカの寝ぼけた回答にプロスぺクターが

「そんなわけないでしょ艦長。残骸の中に救命ポットでもあるのですよ、しっかりしてください。」

とお小言をもらっている。

「そんな事よりこのまま放っておくとあの残骸、大気圏に突入しちゃうけど?」

と操舵士のミナトが言う。
確かに前方の残骸はこのままでは大気圏に突入してしまうコースにいた。
そうなれば中の乗員はとてもではないが生き残ることは出来ない。

「人名救助を二人にやらせよう。宇宙空間のエステバリスの訓練にちょうどいいはずだ」

さっきまで厳しい表情をしたままクロスワードパズルと延々と対決していたゴートが急に声をかけた。
ゴートがクロスワードの書いてあった紙をゴミ箱に入れたところを見ると、どうやら先ほどの対決は
敗北したようだ。


パイロットの二人はコミュニケのアラームにたたき起こされると、そのままコミュニケで説明を受け
エステバリスに乗り込んだ。



「残骸に接近します」

ナデシコが目標の残骸に接近し、エステバリスがカタパルトから発進する。

「何だあれは」

「連合軍のデルフィニュウムですかな?いや、それにしては大きいような……」

その時ブリッジではちょっとした混乱がおきていた。
残骸と思われていた漂流物が近づくにつれ、人型の機動兵器だとわかったのだ。
その機体はかつては白かったと思われる装甲を申し訳程度につけていたがあちこちを損傷しており、
もはや原型が分からないくらいの損傷だった。

「目標の詳細データが出ました。生体反応は胸部と思われるところにひとつ。それから手の部分と
思われるところにある赤いポットの中からひとつの、計二つあります。なお予測値ですがあの機体の大きさは
20メートル強とオモイカネは推測しています。」

ルリからの報告は軍事知識のあるものにちょっとした動揺を与えた。
20メートルを越す機動兵器の開発の噂など全く聞いたことがなかったからだ。


(これはひょっとしたらちょっとした拾い物ですかな……)
目標物を連合軍の新型実験機と予測したプロスペクターは思わず笑みを浮かべる。
あの方がいればさぞ喜んだでしょうな。新型機のデータと連合軍への取引材料として……
会長の隣にいる秘書のことを思い浮かべながらプロスペクターは思った。

だがナデシコ内にも喜んでいるものが……いや、狂喜乱舞しているものがいた。

「なんだなんだこの機体はーーー!!こんな大型機見たことも聞いたこともねぇぞ!おまけに内部構造が
今までのものと全く違ってやがる。くぅ〜、やっぱ戦艦に乗り込んでよかったぁ!!」

「班長、ヤマダさんの機体がまだ戻ってきてないんすけどぉ!」

「あぁ?ほっとけほっとけ!今はこの機体を調べることが……もとい人命救助が優先だ!さっさ
と中のやつをだしてやるぞ」


なれぬ構造の機体だったが一流の整備士ともなればしばらく調べれば大体の機械の構造はつかめる。
整備士たちが気を失った二人の男を助け出したのはそれからすぐのことであった。


「医療班から報告です。赤いポットに乗っていたのは金髪の30代男性。額に小さな傷跡があるそうです。
胸部のコクピットらしき部分に乗っていたのはそれよりもちょっとだけ若い男性らしいです」

「ふ〜ん、ところでヤマダさんは?なんかなんか踊り踊ってるけど……」

ナデシコのブリッジから見えるヤマダ機。本人いわく『華麗なる宙間機動』らしいが
その動きはつたないものでまるで遊園地のコーヒーカップみたいにくるくると回っているだけだった。
そしてその機体は地球の重力にひかれだんだんと落ちていった。
まさしくあっという間の出来事。ヤマダ機は自機の推力では離脱できないところまで落ちてしまい、
大気圏に突入してしまった。

事ここにいたりブリッジではようやく大騒ぎになった。
ナデシコで回収に行く案、もう一機のエステで回収に行く案、そのまま放置しておく案など
さまざまな案が出たが結局のところ『そのまま放置』で決着がついた。
エステバリスに大気圏突入能力はないが、アサルトピット単体なら降下も可能となっている。
それにヤマダ機がそのことを知ってか知らずか、フレームを分離しアサルトピット単体になったので
回収する時間と労力が惜しいため『放置』という案に落ち着いたのだ。


結局地上にヤマダ機のアサルトピットの回収を依頼し、ナデシコはなにごともなく宇宙へと飛び立った。





          
                    医務室ベット         


二人の男がベットに寝かされている。
その口からは先ほどから同じ寝言がつむぎだされる。




『………………………ララァ』












あとがき


新年明けましておめでとうございます。パコパコです。
う〜ん、そろそろ話を重たくしていかなきゃなぁと思いつつ出しちゃいました。この二人!!
他にも出す予定の方が何人かいらっしゃいます。
現在お返事がないので読んでもらえてるか分からないので執筆スピードが遅くなってます。
もし読んでいらっしゃる方がいたら感想メールください。
執筆スピードが大幅に上がっちゃいますので♪

それでは次回もサービスサービス♪

 

 

代理人の個人的な感想

待てやコラ(核爆)。

 

いや20m前後の白い機動兵器と赤い脱出ポッドと聞いた時から何か嫌な予感はしましたけどね。

・・・・・黒白赤と来ましたから今度は黄色か蒼か、はたまた緑か(爆)