Scene4   ゆがんだ世界にコンニチハ







「シャア!」

アムロは自分の体を跳ね起こした。

アムロはすぐにでもシャアに飛び掛りそうな勢いだったが、それを行動におこす事はなかった。
飛びかかる以前に自分のおかれている状況を認識したからである。
自分のいる部屋は医務室だろう。消毒液の臭いやベッドからもそれがわかる。
そしてその医務室が戦艦の中にあるらしいというのもわかる。新造艦が放つ独特の臭いでわかるのだ。
しかし何より驚いたのはこの艦艇が地球連邦の物でも、ネオ・ジオンの物でもないという事だ。
自意識過剰かもしれないが自分もシャアも"知られた"人間である。どちら側の艦艇に拾われたとしても、
二人が同じ部屋になることなどありえない。
ということは…………


「そういうことだ」


シャアが答える。どうやらアムロの考えがまとまるのを待っていた様だ。
おそらくシャアも目覚めてから同様の結論に至ったのだろう。今は少しでも情報を得るためにウィンドウ
から外を見ている。


「不思議なところだなここは。月なのに我々の知っている月ではない」

「そんな事はどうでもいい!アクシズはどうなった!!」

「フォン・ブラウンもクラナダも、ここには存在していないのだよ。」

「シャア!!」

「人の意思が力になどなるものか!あんな事は予定になかった!ナンセンスだ!!」

「あの時サイコミュは人の意思を伝えたんだ。
 人間の可能性を、暖かみを伝える可能性だとなぜ認めない!!」

「私は貴様ほど人類に希望など持っていない!ヒトはヒトを、いや他の物全てを飲み込むのだ。
 そんなオールドタイプを認めるわけにはゆかん!」

「お前は自分がニュータイプのつもりか!そんな考えで貴様はアクシズを、地球をつぶそうとしたのか!!」

「地球の重力に縛られた俗物共にはそれくらいせんとわからんのだ!」

「シャア!!」


アムロがシャアに向かって跳ぶ。そして二人が医務室の床に倒れこみながら絡み合っているとき、
医務室のドアが静かに開いた。




「いや〜、処置が早くて助かってよかったですな」

「まったくです。しかしミスター彼女をどうするおつもりです?」

「私にはどうこうする権利はありませんよ。おそらく艦長が決断する事になると思いますが、
 まずは本人の目が覚めないことにはどうにも……」


医務室の二人の様子を見る事を艦長から頼まれたプロスペクターとゴートだったが、
入った二人が目にしたものは二人の殴り合いだった。


「あ、あなたたち!何をやっているんですか!ゴートさんはそっちを!」


プロスペクターはゴートに金髪の人物を捕まえること指示すると、自分はもう一人のほうに向かった。














ナデシコのほとんどの者は月に上陸した。しかし中には上陸しないで思い思いの時間をすごした者もいる。
整備班班長ウリバタケ・セイヤもそんな一人だった。
ウリバタケは大気圏の近くで拾った機体を調べ始めてから、ずっと一人で作業をしていた。
そして月につくまでじっくり調べた後、他のクルーが月に上陸した後は部屋にこもりきりになっていた。
航行中に出来なかったコンピュータのハッキングを行うためだ。
コンピュータの発達したこの時代でも限界はある。
宇宙空間など超長距離からではさすがにハッキング行為は不可能なのだ。


「くそ!どういうことだ!未発表の論文まで調べたんだぞ!!」


ウリバタケはありとあらゆる所を調べた。大企業の新規開発計画やから個人の未発表論文まで、それこそ
膨大な数を調べ上げたのだ。しかしそのどれもがあの機体の物とは違っていた。

そもそもあの機体の製作した所の技術力が異常なのだ。簡単に小型化できるのに、異様に大型のパーツを
使っている所があったり、ウリバタケには全く理解できない物まであった。
ようするに自分の知っている技術力と比較すると、あの機体の技術は異質な物が多すぎるのだ。
先ほどまで調べていた物も、大体は自分の常識に当てはまる物だったのだ。


「あの関節部の磁石……あれはいったい何なんだ。」

「………………だめだ、まったくわからねぇ。とりあえずコクピットの不明な材質でも調べてみるか」


結局その後コクピットの周りの材質すらわからなかったウリバタケは、今まで自分が持っていた
技術屋としてのプライドをいたく傷つけられたのだった。












面白くない。
イライラする。
あんな報告聞かなきゃ良かった。
あ〜、もう!

「おや?エリナ君、何プリプリしてるの?きれいな顔が台無しだよ?」

「うるさいのよ、このノーテンキ男!」

「おやおや、こりゃまたずいぶん荒れてるねぇ。何かあったのかい?」

「"何かあったの?"じゃないわよ!あ〜〜!腹が立つ!!」

「で、結局何にそんなに腹を立ててるわけ?」

「報告よ!ネルガルの本社と月ドックから!」

「へぇ、月ドックからもう報告来たんだ。運び出すときは皆出払ってたから早く運びだせたけど
 もう結果が帰ってきたのかい?」

「ええ。ドックの開発部長のイヤミ付きでね!」

『困りますねぇ〜、こんな訳のわからない物持ってこられちゃ。こっちだってコスモス作るのにフル稼働
 してるんですから。それでも社長秘書さんからの直々の命令ですからやりましたけどなんなんです?アレ。
 遺跡の技術にだってあんな変な物は作られてませんよ。ネルガルの地上開発部の人たちの試作品ですか?
 もしそうだったら言ってやって下さい。あんな馬鹿でかい機体、重たくて使い物にならないぞ、って』

「で、結局何もわからなかったと。こういうことだね?」

「そうよ!しかもご丁寧に機体まで送り返してきたわ!まったく何一つわからなかった能無しのクセして
 厄介払いだけは上手いんだから!!」

「はいはい、ご苦労様。じゃ、僕は部屋に戻るからね」


アカツキが部屋に戻ろうとするとエリナが小さな声で言った


「………………のよ」

「えっ?なに?」

「……まだあるのよ!」

「おやまぁ、まだ報告があるの?その顔だとあんまり聞きたくない話題のようだねぇ」


エリナの顔は先ほどにも増して険しくなっている。
これでは報告を聞く前から内容がしれようというものだ。


「さっき地球の本社から連絡があったわ。ウチの系列会社の一部が乗っ取られたらしいの」

「へぇ、やるもんだねぇ。で、どこの企業だい。クリムゾン?それとも明日香インダストリー?」

「企業じゃないのよ……」

「じゃあ個人で?」

(おやおやエリナ君らしくないな。簡単に乗っ取りを許すなんて)


しかしエリナの回答は驚くべき物だった。


「違うわ。企業にしろ個人にしろ、そういう奴にはマークをつけてあるもの。今回乗っ取りをかけたのは
 マフィアよ」

「ヤクザ?そいつは珍しいね」

「違うわ、マフィアよ。外国……アメリカからよ」


この時代のマフィア、あるいはヤクザは互いの抗争により、その勢力は小さな物となっていた。
様々な派閥に分かれ、複雑なパワーバランスの上に存在していた。大きな所でもかつてほどの影響力は無く、
とても大企業に太刀打ちできる力は持っていなかった。


「アメリカから?あそこは一番勢力が入り乱れてて、とてもじゃないけどこっちに出張れないんじゃ
 なかったの?」

「詳しいことは私にもわからないわ。でも確かにウチの企業の一部が乗っ取られてたのよ。
 しかも3ヶ月も前にね」

「3ヶ月!?そいつは随分前の話だね。今頃になってわかったのかい?」

「ええ。しかもスキャパレリプロジェクトにも絡んでいて、この船にも乗っているらしいわ」

「それはまずいねぇ」


アカツキの目に鋭さが増す。企業の乗っ取りだけなら少し痛いくらいだが、このプロジェクトに
手を出してきたとなると、それどころの騒ぎではない。
このプロジェクトには相当神経質になっていたはずなのに、そのウラをかかれた。

「いやな感じがするな」

アカツキはそういうとブリッジに向かった。












アキトの部屋は現在二人が住んでいる。一人はテンカワアキト本人で、もう一人は名前もわからない
アキトの拾ってきた男だった。
サングラスをつけた男は酸素欠乏症と診断されたときより、はるかに病状は回復していた。
言っている事はわかるらしく、6歳程度の知能を有するにいたっていた。
ただ違う事はいまだにしゃべれないという事と、自分については全く記憶が無いという事だった。

そして月からの買い物に帰ってきた今、全ての人が女の人の治療のためについて行ったので、
サングラスの男はアキトの部屋で眠っていた。

(わたしね〜、アイっていうの!)

(今度は名前を聞かせてもらえるかな?)

(テンカワさんの思い込みって素敵です)

(いいえ。私は会長のお使いだから……)

(立場が違えば正義もいろいろあるものさ。もっといろんなアニメを見るべきだったね)

(今日から貴方はナデシコのコックさんです)

(この艦(ふね)は私たちの艦だから)

(アキトは私をだ〜〜〜い好き!!)













「月からの離脱完了〜。かんちょお自己紹介始めましょ。まず私が操舵士のハルカミナトね♪」

「通信士のメグミレイナードです。メグちゃんって呼んでね♪」

「ホシノルリです……」


主だったクルーがブリッジに集められ、各自が自己紹介をしていく。
しかしそれは戦艦の中で行われるような自己紹介ではなく、まるで学校のようなノリであった。


「そして私が艦長のミスマルユリカで〜〜〜す。ビシッ!」


前回の『ブイッ!』は評判が悪かったらしくやめたようだ。
しかし敬礼しているユリカという図は、なかなかどうしてサマにならない。
若すぎる為というのも多分にあるのだろうが、まず艦長には見えない。

連れてこられた三人もどういう反応を示せばいいのかわからず、対応に困っている。


「それで、あなた方のお名前は?」


副長のアオイジュンが先をうながす。
こういう事に慣れてでもいるのだろうか、話を進めるのが妙に上手い。


「アムロ・レイ。見たとおり軍人です」

「シャア・アズナブル、私も軍人だよ」


シャアという金髪の男の紹介の時、隣にたったアムロがキッとにらむ。
それを見ていたナデシコクルーは、


(ねぇ、あの二人ってひょっとして仲悪いんですか?)

(メグちゃんきいてないの?あの二人ゴートさん達が行ったら喧嘩してたんだって)

(え〜?ひょっとして初対面で喧嘩してたんですかぁ?)

(どうだろ。でもそんなに気になるんだったら聞いてみたらぁ?)

(え〜?ミナトさん聞いてくださいよぉ〜)


とひそひそ話の真っ最中。
プロスペクターがわざとらしい咳払いをしてもいっこうにおさまる気配がない。


「先ほどは助けていただいたそうでありがとうございました。私は藤枝(ふじえだ)あやめと申します」


最後に残った一人が挨拶をする。その涼やかな声は、ひそひそ話をしていたナデシコクルーを再び3人に
向き直らせた。


「それでお聞きしたいのですが、月とはどういうことですか?」


藤枝あやめが質問する。彼女が着ていたモスグリーンの軍服は血まみれだったため、今はネルガル支給の
ナデシコの制服を着ている。


「月とはどういうことですか?と聞かれても月は月ですよ。」


副長のアオイジュンが答える。


「いえ、私が聞きたいのはどうやってここまで来たのかという事です。それにさっきあった街並みが
 あまりにも私の知っている街並みと違った物で」

「それは私も聞きたいと思っていた。どうやら月の街並みがひどく変わったようだったが……」


シャアが疑問に思っていたことを口にする。


「変わったって言われても、僕は5年くらい前に一度来ただけですけどそんなに変わってませんでしたよ?」

「そうですな。基本的に街並みは大して変わっていないはずですな。それから先ほどのご質問ですが
 ここへはわが社ネルガルの艦、ナデシコでやってきたのです」


二人にとって、月はいつもどうりの姿をしており、特に変わったことなどなかった。
せいぜい戦火の影響で街の一部分が壊され、景観をさこねていたくらいだろうか。
しかし、二人の回答は質問した二人に更なる混乱を招くこととなったようだ。二人とも今出たばかりの
月の街並みをモニタースクリーンで見ている。


「ところで皆さんはどうしてあんなところにいたんですか?」


突然ユリカが口を開く。
口にこそ出していなかったが、それはナデシコのクルーが思っていたことと同じだった。


「撃たれた……いえ、撃ってもらったからです」


あやめが口を開く。
その目はどこか遠くを見つめているようで、悲しみを押し殺しているようにも見えた。


「撃ってもらった?撃たれたんじゃなくて?」


オートパイロットに設定したミナトが質問をする。


「ええ…………」


どうもいまいち要領を得ない。あたりは一面重苦しい雰囲気に包まれ、誰も言葉を発しなくなった。


「このままお互いに質問をしても無意味のようですな。単刀直入に言いましょう。あなた方は誰なのです?
 失礼ですが皆様が睡眠中、遺伝子データを取らせていただきました。その結果あなた方全員が該当なし。
 つまり身元不明者と測定結果が出ました。これはどういうことですかな?」


プロスペクターが沈黙を破る。遺伝子データは世界中で新生児がうまれるたびに更新される。
それは秒刻みであり、該当なしの人間などまずありえない。
ところがこの3人はそろいもそろって『該当なし』なのだ。一人だけならまだ可能性はあったかもしれないが
3人となるとその可能性は皆無に等しい。


「そんなはずはない。俺のデータは地球連邦軍のデータバンクに入っているはずだ」


アムロが意外そうな顔で答える。それも当然だ。地球連邦軍では血液採取による遺伝子データの提供は
義務付けられているからだ。戦場では爆発などによって戦死者が誰かわからなくなることがある。
その判別をするための遺伝子データなのだから、軍にとっては絶対に必要な物となる。
当然アムロの物もデータには収められている。
しかしプロスペクターの返事はアムロにとって予想だにしない物だった。


「地球連邦軍?宇宙軍ではないのですか?」

「宇宙軍?そんな部隊は連邦にないはずです。おれの部隊はロンド・ベルという名前ですよ」


再び会話が噛み合わなくなってきた。
その時、先程から黙っていたシャアが突然言った。


「すまないがここ最近の情報を見せてもらえないだろうか」

「ルリちゃん、お願い」


ユリカの言葉を聞くと、ルリはすぐさまここ最近のデータを3人の前に表示させた。
3人は自分たちの前に突如浮かび上がったモニターに驚いたものの、すぐに目を通し始めた。
主なことは木製トカゲのことが書かれていたが、それ以外にももうすぐ宇宙軍が新型戦艦を発表するとか、
政治家の汚職事件など様々な物が書かれている。更には風俗戦線最新報告などという物まであり、
オモイカネがいかに豊富なデータをもっているかよくわかる物まであった。
そして流し読みをしていた彼らの目がだんだんと険しい物に変わっていく。


「すまないが歴史の一覧みたいな物はないだろうか」


シャアが言ったデータもすぐに3人の前に表示される。
そして今度こそ3人とも首を振ったり、ため息をついたりしている。


「失われた西暦か……」


アムロの呟きをナデシコのクルーが、そしてあやめがギョッとした顔で見つめる。


「どういうことですか?」


周りが先程のアムロのつぶやきで驚いているなか、冷静な顔をしたままのルリが聞く。


「私たちの時代ではもう西暦が使われていないということさ。私たちの時代ではこんなに西暦が
 進んでいないし、それに途中で宇宙世紀に変わったからな」

「そんなこと信じられません。何かの間違いじゃないですか?」

「私もそう願うよ。さもないと私達は時代を飛び越してしまったなどという三文小説になってしまう」


シャアとルリが互いに言い合い、ルリは"あなたもそうなんですか?"とあやめにたずねる。


「いいえ。私のいたところは西暦よ。もっとも西暦はあまり一般的ではなかったし、こんなに時代が
 進んでいなかったのだけれど。それに今2195年だとすると私は300年ほど前の人間ということ
 になるわ」


あやめのいた時代では確かに西暦も通じたが、それよりも明治や太正といった方が主流であり、
あまり西暦を意識することはなかった。

途方もない自己紹介の場となってしまったブリッジは静まりかえった。


「もう少しこの時代の事を教えてくれないか。今は少しでも情報が欲しい」


アムロの言葉により、急きょブリッジは現代歴史の授業となった。
ちなみにこの科目の一番の講師は最年少のホシノルリだった。

そして彼らが出した結論は、単純に時代を超えただけではないらしいという事だった。
アムロやシャア達からしてみれば西暦での時代が進みすぎていたし、あやめからすれば自分のいた太正
では蒸気技術が発達し過ぎているという事だった。
そして話題はここ最近起こった木星トカゲとの戦争の話題になった。


「つまり私達は火星に残った人たちを助けに行く正義の使者なのです。ブイ!」


ミスマルユリカの言葉に、隣にいたジュンもウンウンとうなずく。他のクルーたちも正義と言う言葉は
恥ずかしかったものの、悪い顔はしていない。
しかしアムロとシャアはその言葉に顔をしかめた。

結局異様に長い自己紹介の場となってしまい、本日はこれでお開きとなった。
3人にはそれぞれ個室が貸し出されることとなり、しばらくはそこで生活してもらうことになった。
3人とも他に選択肢があるわけでもなく、しばらくの間この艦で生活する事を決めた。

そして艦内クルーに新たに3人を登録した時、ルリが異常に気がついた。


「艦長。変です」

「どうしたの?ルリちゃん」

「艦内の確認を行ったところ生体反応が1つ多いんです」

「数え間違えじゃないのかな。それにほら、センサーが故障してるとか」


ジュンが何気なく言う。


「オモイカネはそんなにバカじゃありませんしセンサーも故障なんかしていません。確実に誰かが
 ナデシコの中にいます」


ルリが不愉快そうな顔をして言う。ジュンにオモイカネをバカにされたようで少々キゲンが悪いようだ。


「侵入者か。場所は」

「補給物資搬入区画です」


艦内警備責任者のゴートがブリッジを駆け出す。そしてそれに続いて手が空いたクルーもそのまま向かう。
本来なら侵入者などに対して対応するのは、訓練をつんだゴートたちの仕事なのだが、騒ぐことが好きな
ナデシコクルーには格好の話題であり、危険なことであるはずの侵入者の確認ということにも、
みんなお祭り気分で行ってしまった。
結局3人も自分たちの部屋に案内される前にこんな事が起こってしまったため、仕方なくついていった。
残ったのはオペレーターのホシノルリだけで、あわてて出て行ったクルーたちを見つめてこう言った。




「バカばっか……」


















「出前おまちどう様でした〜!」

格納庫にテンカワアキトの声が響く。その声に整備員たちが我先にとアキトのほうへ群がる。
アキトの持ってきたワゴンには大量の出前が入っており、整備員たちはそれを目当てに殺到している。
そして旨そうに食べている。自分が作ったわけではないがこの光景を見ていると誇らしくなってくる。
見習いとはいえ、料理人になってよかったと思う。そう感じるのだ。

その時アキトは手元のワゴンに醤油ラーメンが残っていることに気がついた。
確かこれはウリバタケさんが頼んだ物のはずだ。
アキトが周りを見るとウリバタケは近くにいた。しかし明らかに元気がない。


「ウリバタケさん、出前もって来ましたよ」


ウリバタケはアキトをちらっと見たが再び視線を元に戻す。そして再びため息をつきながら、
例の所属不明機を見続けている。
アキトはウリバタケの方に近づいていった。


「どうしたんスか?」

「テンカワ俺はな、多少なりとも技術屋として技術者として自信を持ってたんだ……
 それがなぁ……ハァ……」


結局ウリバタケはため息をつくだけで、話も進まない。
アキトはウリバタケの隣にいるだけだったが、時間は進んで行った。

そんな時、ゴートが格納庫に走ってきた。そして食事の終わった整備員たちと二言、三言話すと急いで
補給区画へ入っていった。そしてゴートが行ってからすぐにブリッジのメンバーがあわてて入ってきた。
ゴートと同じように補給区画へ入っていく。
アキトはその中にユリカの姿を見るとあわてて機体の後ろに隠れた。
このままでは見つかってしまうと思い、寝るように横たわっている謎の機体をよじ登る。
上からならユリカの死角になる。そう思ったのだ。

何事もなくユリカ達は通り過ぎていったが、まだしばらくは安心できない。
アキトが機体の上に隠れているとしばらくしてみんな大慌てで出てきた。
しかもみんな自分のほうを見ている。
見つけられた!
そう思ったアキトだったが、ユリカが大声で叫んだ。


「アキト!その子を捕まえてあげて!」


見ると14〜15才の女の子がこの機体をよじ登ってきていた。














「何者だ!」

目を覚ますとすごく体の大きなおじさんがいました。

(何でおこってるんだろう……私は確かにホームレスだけど怒られるようなことは……
 その時私は自分のいるところが公園でないことを思い出しました。そうか、コンテナの管理人さんなんだ)

「ご、ごめんなさい!すぐに出て行きますから」


大きなおじさんはまだ厳しい表情をしています。しかもどんどん人が増えてきました。
ここはよっぽどいちゃいけない所だったんだろう。どうしよう。でも私には謝ることしか出来ない。


「ご、ご、ごめんなさい!本当にごめんなさい!もう二度と入ったりしませんから!!」


皆何か話してたけど、私の頭はパンク寸前。
そんな時一人の人が出てきて私の遺伝子データを取った。


「高屋敷末莉さん、ですか」


その人は少し残念そうにしながら私の名前を言った。






正直少しがっかりした。前の3人と違ってしっかりと記録があったからだ。
そこに示されるデータは普通の物で、生まれたところも記載されている。
プロスペクターとしては厄介者が増えたとしか思えない。
前の3人は、まだ必要になるかもしれない可能性がある。いうなれば利用価値がある。
しかし目の前にいるこの子はそれがない。
それどころかはっきり言って迷惑だし、火星にも連れて行けない。これでは月に逆戻りして
おいていくしかないだろう。

あからさまに、『邪魔だから月においていきましょう』とはプロスペクターも言えず、ユリカ達に
『こんな子供を火星まで行かせる事は出来ないから、月に引き返そう』と言った。
ユリカ達もさすがに親元に帰したほうがいいと思ったらしい。
先程の3人と違って帰れるところがあるのだから、帰ったほうがいいとも思った。


「じゃあ末莉ちゃん。今から月に戻るから別の部屋で待っててくれるかな?」


ユリカがそういうが末莉はうなずこうとしない。それどころか予想外のことを言ってきた。



「あの……ここにいちゃダメですか?」

「末莉ちゃん。ちゃんと家に戻ったほうがいいわ。ご両親も心配してるだろうし」


ミナトがやさしく説得する。
しかし末利は頑として言うことを聞かない。


「お願いします!なんでも仕事をします!だからおいてください!なんでもしますから!
 私家出してきたんです!だからお願いします!」


皆の顔に同情の顔が浮かぶが、それでもこのまま乗せるわけには行かない。


「それでもこのまま私たちと行くのは良くない。話し合えば両親とも和解できるだろう。だからとりあえず
こっちに来なさい」


ゴートがそういって末利の腕を取ろうとした時、末利はクルーの脇をすり抜け逃げ出すように走っていった。
そして不明機の機体を登っていく。みんな大慌てで末利を追いかける。
そんな時テンカワアキトが機体の上にいるのが見えた。
そしてミスマルユリカが叫ぶ。


「アキト!その子を捕まえてあげて!」









テンカワアキトの目の前で末利はバランスを崩した。
目の前のアキトから逃げようと思ったのだろう。しかしそれが災いして機体から落ちそうになる。
その腕をアキトが寸前のところでつかんだ。


「ふぅ、大丈夫かい?」


アキトは女の子に声をかける。しかし女の子から返事はない。どうやら泣いているようだ。


「置いて下さい。お願いします。なんでもしますから。」


女の子が何度も同じ事を言う。


「そんなこといいからとにかく上がって!」

「よくありません!お願いします!」


末利はそういいながら暴れる。


「うわっ!ちょ、ちょっと!」


支えているアキトもバランスを崩しそうになる。


「やめろ!体を揺らすな!」

「いやです!世の中辛いんです!厳しいんです!助けがいるんです!助けてくれないなら…………
 もう落ちるしかないんです!!」

末利は涙を流しながらアキトに訴える。その顔は涙と鼻水でぐしょぐしょになっている。

「残飯あさるのも、学校で変な目で見られるのも、友達なくすのも、家に帰ってもお帰りの一言もないのも、
 いってきますを言う相手がいないのも…………全部、全部イヤなんです!!」

「…………」

「だから、だからおいて下さらないのなら、ここで死にます。このまま落ちて死にます。
 だから手を離してください!!」

「こんなところから落ちても骨折するだけだって!」

「いいんです!私死ぬんです!何度でも落ちますから!」

「やめろ!怪我がひどくなるだけだ!」


その時アキトのつかんでいる末利の手と逆のほうの手をつかむ者がいた。
そして末利を引っ張り上げる。
ブリッジの自己紹介にいなかったアキトは知らなかったが、それは藤枝あやめだった。

そして機体の上で安定した場所に落ち着くと、3人は座り込む。
末利はあやめの腕の中でまだ泣いている。



「……助けて……助けてください……」



「大丈夫よ。あなたは一人じゃない。みんなと一緒に生きられるの。だから大丈夫、安心して。」




そんなやり取りをアキトは隣で見ていた。陳腐な表現だがその光景は女神のように見えた。
そしてこんな声が下から聞こえてきた。


「大丈夫です!末利ちゃんのことは私があずかっちゃいます!」

「か、艦長、それはちょっと……。いえ、反対しているわけではないのですがいろいろと……」

「艦長命令です!」


見ると下でみんなが微笑んでいた。末利もその声で下を見た。
みんな優しい微笑みを浮かべている。まだ会って間もない末利に向かって。

下におりた末利はみんなに頭を下げている。そして誰かのおなかの音がなった。
みんながその音を発したほうを見ると末利がいた。
末利はバツが悪そうに、もじもじしている。
そんな時アキトが言った。


「ちょっと待ってて」


アキトは走ってワゴンのところに行くと、どんぶりを持ってやってきた。
それは冷えて伸びた醤油ラーメンだった。


「もう冷えちゃってるけど食べる?」

「ハイ!」


末利は笑いながら冷えたラーメンを食べた。
しかしそのラーメンは末利にとってひどく暖かく感じた………………












あとがき

どうも。パコパコです。
まずすみません。上旬に上げるといっておきながら遅れました。ごめんなさい!
よって2月中に第五話をあげたいと思います。
今回もどのへんをパクったか、わかる人はわかると思います。
どうしてもこのシーンは入れたかったんです。

さて次回はアレの登場です!
ヒントは

丸い
緑
そしてアムロです。

もうおわかりですね?
それでは皆様、存在理由をお読みいただきありがとうございました。


管理人の感想

いきなり喧嘩かよ、アムロとシャア(苦笑)

ま、この二人は仕方が無いとして・・・

ウリバタケが落ち込んでいる姿は、何だか斬新ですねぇ

さて、次の回にはどうやってアレを出すんでしょうか?(笑)