連鎖





復讐してやる……
俺たちの命をもてあそんだあいつらに……




ミンナノカタキダ














暗闇のベッドから這い出す。
隣にはハルカ・ミナトがその肢体をさらしている。
全く妙なことになったものだ。

あの日火星で俺の復讐は果たされた。そしてネルガルに行きラピスとのリンクを切った。
今では機械が五感の補助をしてくれているが、ラピスのときと比べるとそれは明らかに鈍い。
しかし、今の俺にはこれで十分だ。火星の後継者の残党にかつて程の勢いはなく、圧倒的に不利な戦闘自体、
少なくなったためだ。

俺はあの時、火星で全てのことを成し遂げ、全てのものを失った。
俺の居所は絶対にナデシコのみんなには知られないはずだ。
アカツキの情報だと、現にルリが様々なところをハッキングしているが、
いまだに俺の情報を探り当てられないでいるらしい。
そんな中でこの女は、ハルカ・ミナトは俺に接触してきた。


「月臣元一朗を殺して……」


「時がたてば悲しいことが忘れられるなんてウソよ……」


「私の復讐はまだ終わってないの……」



結局ハルカ・ミナトも過去に自分を置き忘れてきた一人だったのか……
あの日、白鳥が死んで以来、彼女の時間は止まったままなのだろうか……
まあいい。俺は月臣を








殺すだけだ












「どういうことだ、テンカワ……」


俺は今、月臣に拳銃を向けて立っている。
奴の顔に驚いている感はない。冷静なものだ。



「別にあんたに恨みはない。あんた自身の目的と同じだったにせよ、復讐に手伝ってくれたことは
感謝しているつもりだ」


「………………頼まれたか」


「………………ああ」



そして俺はトリガーを引く…………
あいつ自身がかつて親友に向けて撃ったところを…………









「テンカワ君、お望みの情報だよ」


「すまないなアカツキ」


「別にかまわないけどさ、こっちが困ることでもないし」


「じゃあな」


「すぐ行くのかい?」


「ああ」



テンカワが部屋から出て行くとエリナが入れ違いに入ってくる。


「テンカワ君は残党狩りに行ったよ。しかし最近の彼は覇気がないね」


「そうね、まるで火星での戦いで何かを置き忘れてきたみたい……」


「まぁ、いいか。それより抜けた月臣君の穴はどうなってる?」


「はい。現在は一時的にプロスペクターが………………」







俺以外誰もいないユーチャリスのブリッジ…………
もうすぐだ、もうすぐ始まる…………

そして、敵の発見をアラームが知らせる。



心地よい痛みだ。
ブラックサレナのかけるGは俺の体に痛みをもたらす。
今はこの痛みが心地よい。
今の俺にあるのは…………ただ殺すのみ。




残りはあと一隻。
その時アキトの元に通信が入る。


「投降する。我々は武装解除し降伏する」



アキトは通信をオンラインのままにして敵艦に向けてバルカン砲を撃つ。
弾が切れるまで永遠に………………


「やめろ!我々は降伏する!聞こえないのか!!」


だがバルカン砲の音が途切れることはない。
やがて開きっぱなしにしていた通信から、苦痛のうめき声や、凄惨な映像が流れてきた。
こんなときはグラビティーブラストなどの大出力兵器で破壊されない事は悲惨だった。
バルカン砲の音は止むことがなく、さながら死のオルガンだった。




結局バルカン砲の弾が尽きたのが先だったのか、
それともミサイルに引火して艦が爆発したのが先だったのか、アキトにはわからなかった。
そして俺は帰る。何もない日常の生活に。







快楽の声が部屋に広がる。
薄暗い部屋の中、男と女はその行為に酔いしれる。
そして行為が終わった後の一瞬の静寂。
アキトは彼女に問いかける。


「こんな所に居続けていいのか?ユキナが心配するだろう」


「ウフフ、ジュン君に預けてきちゃった。大丈夫よ♪」


結局ミナトはあの日以来、俺の部屋に居続けた。
一度どうやって俺の場所を探し当てたのか聞いてみたが『女のカン』と、ごまかされてしまった。
しかし、いまだにルリが俺の場所を探し当てられていないのに、全くたいしたものだ。


「ねぇ、もう一回しようか?」


別に反対することはない。
俺はそのままミナトの美しい肢体に手を這わせていき、再び部屋に快楽の声が響く。






火星の後継者の残党を倒しては部屋に帰り、ミナトとベッドを共にする。
そんな生活がしばらく続いたとき、ミナトが突然言った。



「ねぇ、このまま2人で生活しててもいいかな?」


「なぜ今さらそんなことを聞く?」


「う〜〜ん、このまま生活しててもよかったんだけど、やっぱり言葉で確認しておきたくなってね」


「律儀だな」


「フフ、そうね」


「だが俺と居ても何もないぞ」


「そうでもないわ。こういうお互いの傷を舐めあう生活もいいかな、って最近思うの」


「そうかもな……」



そういうとアキトは立った。


「どこへ行くの?」


「ちょっと外を歩くだけだよ。すぐに帰ってくる」



「いってらっしゃい」


「…………ああ」








アキトの姿は近所の公園にあった。
ちょうど雪が降っており、あたり一面は銀世界となっていたが、アキトはかまわず公園のベンチに腰掛けた。
ひんやりとした感触が心地よい。


かつて俺はユリカたちとこんな公園で屋台を開いていた。
あの頃の幸せはもう二度と戻ることはない。
しかし、今のアキトにはこの公園が、かつて屋台を開いていた公園とダブって見えた。
ミナトとの生活か。
意外といいかもしれないな。
そう思うとやけに雪が白く思えた。
ああ、雪はこんなにも白かったのか………………









パン!パン!パン!




聞きなれた音だ。いつもは俺がつむぎだす音。
しかし今日は俺がその音を聞く側になった。
胸に赤いバラがいくつも咲き、公園の白い雪が赤く染まる。

俺の目の前には15〜16歳の男の子が立っている。
そしてその手に握られている拳銃。


「アマテラスコロニーのみんなの仇!!」


俺が最後に聞いたのはそんな声だった……………………











復讐してやる……
アマテラスコロニーのみんなの命を奪った奴に……




ミンナノカタキダ


















あとがき

どうもパコパコです。本編があまりにダークにならないので、こちらで少し暗めのものを書いてみました。
それに前回の感想メールを多くの方にいただき誠にありがとうございました。
たくさんいただいたので本編のほうは2月初旬に書きあがると思います。
それでは今後もよろしくお願いいたします。

最後に本編で出現予定のあの人から一言。

「はやく戦争になぁ〜〜れ♪」

ちなみに上の文は現実世界ではなくて、あくまで小説の世界のことです。
現実に戦争はいやですしね。

 

 

 

代理人の個人的な感想

いや別にダークになる必要はないんですが。

それとも実はダークをお書きになりたい?(笑)

 

 

それはそれとしてちょっと気になったのは最後の少年のセリフですけど、

世間一般ではアマテラスコロニーもアキトが落とした事になっているのかなぁ。

よく誤解されてるけどアマテラスを破壊したのは火星の後継者なんですよね。

まぁヤボな突っ込みですが。