エリナ・キンジョウ・ウォンとして・・・

 

 

 

「……エリナ君、…………本気かい?」

 

静まりかえった室内にアカツキの声が響く。 他の出席者たちも私からこの意見が出たのが意外なことらしく、誰も声を出せないでいる。

 

「はい。もうアレには利用価値がありません。切り捨てるべきかと」

「しかしあの戦闘データは惜しい。それにもう片方は貴重な成功サンプルだ」

 

重役の一人がようやく意見を口にする。 しかしそれも予想していた質問だ。

 

「データのほうは既に月ドックによったときに回収済みです。被験体の方も既に我々の手の内にあります」

「やつからどうやって引き離したんだ!?」

「被験体の健康確認と偽って離しました。アレは被験体に甘いですから」

 

周りが私の意見に傾きつつある。もう少しすればこの場は私の独壇場となる。 そうすれば後はアカツキも認めるしかなくなる。計画も動き出す…………

 

「しかしどうやって消すんだ。パイロットとしても一流、本人も強い。更にボソンジャンプで  自由に行動できるんだぞ。仮に消せたとしても、甚大な被害が出るのではないかね?」

「別に直接手を下すようなマネをしなくても方法はあります。彼の体は現在、薬によって生かされているのですから」

「3年も待てというのか!?」

 

そう。彼の体は薬によってかろうじて保つことが出来ている状態だ。しかも3年が限度。 薬が強すぎるためそれ以上は体が持たないのだ。 そのことはこの場にいる全ての者が知っている。

 

「別に馬鹿正直に薬を投与しつづけさせる必要はないでしょう。私達はアレの薬を抑えればいいだけです。  そうすれば手持ちの薬がなくなり次第、死にます……」

 

彼の薬はネルガルが作り出した特別な物。他では絶対に手に入らない。

そしてネルガルがその薬を全て抑えたとすれば彼の命は…………

重役たちが騒ぎ始めた。私の案に成功の兆しが見えたためだろう。 ネルガルが安全になれば自分たちの地位も安全になる。そういう考えが如実に現れていた。

 

「現在アレはどれくらい薬を持っているのかね?」

 

確認するような口調で重役の一人が口にする。

 

「約一週間分です」

 

ざわめきが更に大きくなった。

 

「会長、いかがいたしましょう」

 

私の言葉が更に追い討ちをかける。

 

「………………………………君に任せる」

 

全てが動き出した。

彼を消滅させるための計画が。

私を中心にして………………………

その日から重役たちは示し合わせたように一週間の特別休暇をとった。 彼の存在が怖いらしい。

けど私には関係ない………… 私はいつも通りの一週間を過ごすだけ…………

彼を切り捨てる決定が下ってから三日がたった…… 彼はまだ何の行動も起こしていない。 既に彼専用の薬は全て処分され、手持ちの薬も心もとなくなるはずだ。

大丈夫、彼は私の元にくる……。 必ず…………

五日目の夜。

私のがらんとしたオフィスにノックが響く……

 

「開いてるわ……」

 

扉が開き、中に人が入ってくる気配がした。

 

「もう少しまってて、後少しで全てが終わるの」

 

私は目の前のモニターから視線を動かさずに、入ってきた人物に言う。 そして私は様々な操作を終え、実行キーを押す。

これで全て完了。 自分の目で確認することは出来ないけど、彼らが自信作といったプログラムだ。 確実に仕事をしてくれたはず…………

 

「お待たせ。悪かったわね、待たせて……」

「………………」

 

入ってきた人物からの返答はない。 私は気にせず言葉を続ける。

 

「ちょっとここのところ忙しくてね。ようやく昨日ソフトが届いて、今仕事が終わったところよ」

「………………」

「重役達が休んで大変よ。使えないやつらだけど、居なければ居ないで困るものね」

「…………結局わからなかった」

「………………」

「君がなぜあんなことをしたのか、結局俺にはわからなかった…………」

 

入ってきた人物はエリナに対して自分の疑問を口にした。

彼はここ数日間調べていた。 なぜエリナがそんな事をしたのか。 しかし結局わからず、直接エリナに問いただしに来たのだった。

 

「ちょっと意外だったわ。あなたの事だからもう少し早くここに来るかと思ってたけど」

「まるで俺が直情的に行動しているみたいに聞こえるな」

 

男がどこか憮然とした口調で言う。

 

「あら、ごめんなさい。なんとなくそんな気がしたのよ」

 

エリナは口元に笑みをたたえながら言った。

そして自分のデスクからあるものを取り出す。 黒光りする小型のオートマチック拳銃…………。 人を殺すために作られた純粋な凶器…………。 それを入ってきたアキトに向ける。

 

「あなたと出会って楽しかったわ」

「……………………」

「本当よ?ナデシコに乗っていた時にふがいないあなたを見てちょっといらついた時もあったけど、  悪くはなかったわ」

 

ナデシコと聞いてアキトの顔がゆがむ。 彼にとってその言葉は自分の人生そのものに等しい。

 

「何か言い残すことはある?」

「みんなには…………………………いや、なんでもない。」

「そう。ごめんなさいね、こんなことになって…………」

「……………………」

「私を恨んで死んで…………」

「そうしよう」

 

そういいながらもアキトの口元は笑っていた。

その笑みは最近浮かべていた彼のそれではない。

かつてナデシコ時代にアキトが浮かべていた、さわやかな笑みだった。

 

「………………………………」

 

エリナのオフィスに乾いた銃声が響く。

そしてエリナがネルガルシークレットサービスに連絡する。

 

「ゴミが出たわ…………処理して…………」

 

あれから一ヶ月。世間は特に変わらない。
凶悪テロリスト、テンカワアキトの行方はいまだわからず誰もが必死に捜索している。
ただしここでひとつ変わったことがある。 世の中のコンピューターの中から「テンカワアキト」という人物のデータが忽然と消えたのだ。 戸籍や身長、それら全ての個人データが消えた。
当然、彼が残した実戦データやボソンジャンプの記録データもなくなった。
ネットワークから独立したコンピュータに、テンカワアキトのデータを打ち込んでも すぐにそれは消えていく。

ありとあらゆるデータがデリートされ、残っているのは記憶の中にだけ。 テンカワアキトという人物が公式記録に残ることは絶対に………………ない。

ネルガルは今も通常どうり営業中。 ボールペンからミサイルまで、幅広い分野に浸透中。 アカツキも会長として辣腕を振るっている。

私もいつもの生活を送っている。 いつもと変わらない毎日。 彼が死んでからも日常は何も変わらなかった。

私のデスクには今も大量のデータが流れ込んでくる。 大雑把なところがあるアカツキの変わりに、細かいことを全て進めていく。 そしてそのデスクの中には二つの拳銃がある。

私自身の小型オートマチックと、彼が持っていた大型のリボルバーが……………………。

 

 

 

あとがき

パコパコです。 まず最初にすみません。長編小説かけませんでした。 すみません、ごめんなさい、でも見捨てないで!

復帰に当たってまず短編を出しました。

いや〜、エリナさんを書いてたらこういう風になりました。 甘〜い恋愛が好きな人には禁断の話かも……

さて、この話。気に入っていただけたでしょうか? 実はこの話、短編でもう一回分の話を考えています。

「続きを読みたいです!」

というようなメールが多かったら、続きを書くつもりです。(逆に評判が悪かったら書きません)

仕事とスランプのダブルパンチで長編を書けないでいる私に、 どうか励ましのお便りを(笑)

 

 

管理人の感想

パコパコさんからの投稿です。

うぬ、エリナさんのお話ですね。

しかも、なんか悲恋っぽい(苦笑)

それにしても、思いっきり飾りになってるな・・・アカツキ(笑)

さて、エリナがこういう行動に出た動機は、結局なんだったのでしょうか?

裏では、ルリ達も関係してるっぽいですしね。

 

出来れば、続編を期待しています。