「どうした。」

「海中のチューリップが活動を再開、クロッカスとパンジーが、飲み込まれかけています。ナデシコ副艦長の情報で警戒し、ナデシコが撃ったミサイルによる時間稼ぎで乗員は脱出しています。」

「・・・そうか。(アオイ君、君の娘は、本物だ。)」

モニターには、ブルーエルフィンでチューリップのムチをかいくぐり、ナデシコの迎撃体制が整うのを待つ機動兵器がうつっていた。

「さすが、テンカワさんですな。」

「・・・テンカワって聞き覚えがあるんですよね。テンカワ、テンカワ・・・・・。」

首をかしげ考え込むユリカ。

「おや、アキト君とお知りあいですか?」

「アキト。アキトだ。プロスさん、行きましょう。」

ジグソーパズルの最後のピースが見つかったように、ユリカの顔が明るくなるのを感じ、

「は、はあ。(連れ帰っていいんでしょうか? 生還率が予定より下がるような気が・・・。)」

プロスは、ユリカのうれしそうな顔を見てため息をついた。

「さあ、ユリカ、こちらも反撃だ。ユリカ、指揮権を私に・・・ユリカ? どこに行った、ユリカ?」

「さきほど、出ていかれましたよ。」

ジュンが、他人事のように言う。

「何故、とめんのだ。アオイ少尉。」

「命令がありませんでしたし、お手洗いかと思いましたので。」

「むう、そうか。ユリカを探せ。」



「その必要はありません。ここですわ、お父様。」

何かのコックピットであろうか、シートベルトが見え、エンジンらしき駆動音が聞こえていた。そう、プロス達の乗ってきたヘリであった。

「待て、ユリカ。どこに行くつもりだ。」

「ナデシコですわ。」

「何ィ!?」

「あの船には私の好きな人がいるんです。それに、艦を見捨てるような事はいたしません。そう教えてくれたのはお父様じゃないですか。」

「何ぃーーーーっ!?」

「では、行ってきます。」

そう言って、一機のヘリがトビウメを離れていく。

「ユリカァァァァ。好きな男とは誰なんだぁぁぁ。」

(おいおい、普通順番逆だろう? 男のためなら艦を見捨てるって思えるぞ。やっぱり、胃薬送るか?)

アツヒロは、ナデシコで苦労するであろう姉に対し、同情の念を深く抱いた。












俺は、ナデシコの迎撃体制が整うまで、ムチをかわし続けていた。

(それほど、困難ではないな。しかし、ガイ大丈夫かな。俺が格納庫に行ったら、ブルーエルフィンに乗ろうとして焦げていたからな。)

「真のエースパイロットは、この俺、ダイゴウジガイだ。専用機は俺にこそふさわしい。」

と叫び、ヤマ「ダイゴウジガイ!!」は、アキトのブルーエルフィンに乗ろうとしてエルとフィンに電撃を食らっていた。

「何故だ〜。」と叫びつつ落ちて、骨折を悪化させ現在医務室であった。







俺が、チューリップをぎりぎりで回避しようと目で確認していると、視界がふさがれ、でかでかとウインドゥがたった。

「アキト、アキト、アキト、久しぶりだね〜。」

「なっ!? 馬鹿野郎、戦闘中だぞ、すぐウインドゥを閉じろ。」

「大丈夫、アキトはユリカの王子様。アキトはユリカが好き、そうだよね〜。」

俺は、何とか視界を確保しようと、首を開いているスペースに向ける。

が、それを拒むようにユリカのウインドゥがふさぐ。

「いいかげんにしろ。俺を殺したいのか。」

「ユリカ、アキトにだったら殺されても言いかなって、もう、何言わせるの〜アキトってば〜。」

「ちっ、ダメだ、話を聞いてない。エル、切れるか?」

機体制御をしているエルに尋ねるが、

『無理だよ、艦長のコミュニケで、それも緊急通信でつないでるから、ナデシコからじゃないと切れない。』

返ってきた答えが、俺をさらに苛立たせる。

(緊急通信だと!? な、何を考えてるんだ。)

「な、何してるんです、艦長。すぐにウインドゥを閉じて下さい。」

ヘリを運転しながら、隣にいるユリカに気付き大声で止めるよう言うプロスに対し、

「プロスさん、アキトはユリカの王子様。だから大丈夫。」

意味わからない理論で答えるユリカ。

「どうしてそういう結論になるんだ。」

エルの音声誘導で何とか、ムチを回避しつつ叫ぶアキトであった。











少し前のナデシコブリッジ

「アキトさんてすごいですよね〜。ジュンさんいいなぁ、あんなかっこいい人が彼氏だなんて〜。」

アキトとジュンの話を見聞きして、だいぶメンバーは打ち解けたようである。

「べ、別に、私とアキトはそんなんじゃ・・・・。」

ジュンの口篭もる反応が面白かったのか、

「だめよ〜、ジュンちゃん。きっちりつなぎとめておかないと。」

ミナトが、からかうように言う。

恥ずかしくてジュンの視線は、ブリッジメンバーからモニターのアキトに注がれる。

いままで、ぎりぎりでムチをかわしていたアキトが、急に大きく旋回するように動き始める。

(アキトの様子が変!?)

「ルリちゃん、テンカワさんへの通信を開いて。」

「はい。」

耳に飛び込んできたのは、ユリカとあせるアキトの声だった。

『アキトなら大丈夫だよね〜。アキトはユリカが好き。ユリカの為に囮になってくれてるんだよね。』

『いいかげんにしろ、本当に・・・落される・・・っだろうが、『マスター、後方からムチ接近、ダメよけられない。』「バキャッ」がぁぁっ。

モニターには、ムチに接触して体勢を崩し、落下するブルーエルフィンがうつっていた。

『ア、アキト、アキトが死んじゃう。グラビティーブラスト撃って、アキトを助けて。』

「「「アキト(君、さん)!!」」」

ジュンは、振りかえるルリの視線に対し、グラビティーブラスト発射命令を無視することを伝え、じっとモニターを見た。

途中で体勢を立てなおし再び上昇するブルーエルフィンに一同は安堵した。

「ホシノさん、原因はわかる?」

ムネタケが、声だけは静かに尋ねる。

「・・・艦長です。艦長がコミュニケのウインドゥを全開にして開いていたため、視界が保てなくなったためと思います。」

ルリのなかば呆れた声の報告に、ジュンは即座に命令した。

「艦長のコミュニケの着発信を止めて下さい。今すぐです。」

「はい。」







私は、画面に小さくウインドゥを開く。

「テンカワさん、大丈夫ですか?」

「ルリちゃん。大丈夫、・・・と言いたいが、エルとフィンに軽度の異常発生、バーニアにも若干の損傷、だが戦闘には支障なし。クソッ。」

テンカワさんは、そう言うと再び戦闘に戻っていきます。

テンカワさん、私に言ってましたね。

エルとフィンは、俺の家族が作ってくれた大事な相棒なんだ。

ルリちゃんのオモイカネみたいな大事な友達なんだよって。

テンカワさんの心にある痛み・・・私にも分かります。

それに、・・・エルとフィンふかふかで気持ちいいですし。

え? オモイカネどうしました?








「グラビティーブラストを、チューリップの口に向かって撃ちこみます。ミナトさん、適正位置に。ルリちゃん、用意を。」

「はいは〜い。」「はい。」






「ジュンちゃん、ついたわよ。」

「メグミさん、テンカワさんに射線軸からの離脱を。」

「OKです。」

ブリッジの扉が開くのと同時だった。

「お待たせしまし「グラビティーブラスト発射!!」」

グラビティーブラストの黒い閃光がチューリップを貫き、空へと消えていく。小さな爆発を連続しておこしていたが、一つ大きな爆発をして爆散した。

「ふぅ。メグミちゃん、回収した、クロッカス、パンジーの乗員に艦を制圧しようとした軍人を引渡し、トビウメに向かわせるよう格納庫に通達してください。それと全艦に通信をつなげて。」

ジュンは、小さく深呼吸しメグミの報告を待った。

「はい。OKです。」

メグミちゃんの声に、私はコミュニケに口を近づけ、

「あれ、ユリカの出番は!?」

ユリカを無視し話し始める。

「皆さん、ご苦労様でした。トビウメに、クロッカス、パンジーの乗員が乗るこの時間にナデシコは逃げます。手の開いている方は、交代で休んでください。以上です。」

じっと戦況を見ていた提督が口を開く。

「うむ、副艦長、見事だ。戦闘前、後共に文句のつけようがない。」

私は、提督に一礼し、

「提督、ありがとうございます。」

「ユリカの出番は〜。」






後ろでわめいているユリカを、私は無視することにした。

















未来を、君に・・・




PRINCSS OF DARKNESS





新たなる時代


第2話 後編 闇の公子 親子に笑う











「テンカワ機、格納庫に入りました。」

ルリの報告に、ユリカはパッと表情を変える。

「そうだ、アキトに会ってこよ〜っと。」

ジュンが、ユリカの襟をつかむ。そして、笑顔で・・・・。

「艦長、書類が待ってます。仕事して下さい。」

額に大きな汗を出しつつ、振り向くユリカ。

「ええ〜。でもでも、アキト、さっきの戦闘で怪我したかもしれないし・・・。」

「確かに、怪我してたら艦長だけの責任ですね。」

ルリの言ったトゲは、聞こえなかったらしい。素晴らしい耳だ。

「でしょう、ルリちゃん。だから、ユリカが行って・・・・。」

「殴らせてくれるのか?」

暗い声だった。ジュンは、少し顔を青ざめる。昔、聞いたことのある声だったから。

『テンカワアキト、ブリッジイン』

オモイカネが告げる。

「ああ、アキト、アキト、やっぱりアキトは、ユリカの王子様だね。」

アキトは、顔をうつむかせ、小声で・・・・

「・・・ざ・・・るな。」

「アキト!? どっか痛いの?」

ユリカは、それを勘違いしたのかアキトの顔を覗き込むように言った。

「ふざけるな!!何が王子様だ。俺を英雄にして殺したいなら、死んでこいと命令してくれ。」

「えっ、えっ、アキト!?」

「悪いが俺は、お前の王子様なんていうくだらん職業やってんじゃないんだよ。」

あまりの声の連続に、ユリカよりもジュンの方が過敏に反応していた。

「アキト。」

「はっきり言ってやる、俺はミスマルユリカ、貴様が「大好きだよね〜。」違う、話を聞け。」

「うんうん。わかってるよ〜。アキトは、ユリカが好き。」

「違う、いいかげんにしろ!!」




話に加わらず、ただじっと考え込んでいた彼が声を出した。

「テンカワ、それくらいにしなさい。」

「・・・ムネタケ副提督。」

何故止めるという、表情をムネタケに向けるアキト。

「貴方の怒りも、もっともだと思う。けど、ガキ以下のお嬢様の心には何言ったって無駄よ。それより、あんたの相棒を直してあげなさい。」

「しかし!!」

くどい!! 私が無駄といっている意味が分からないの?」

「くっ、了解。」

アキトは、ユリカを睨むとブリッジから出ていった。

「ええーーっ、アキト、もっとお話しようよ〜。」

ユリカが、ブリッジからアキトを追って出ようとするが、ムネタケにとめられる。

「ムネタケ副提督、なんで止めるんですかぁ。プンプン、ユリカ、アキトともっとお話したいのに〜。」








「提督、申し訳ありません。私はもう限界です。ミスターもいいわね。」

いつもの明るい声でなく、暗い押し殺した声のムネタケに一同が黙り、

「うむ。」

フクベの静かな同意と

「・・・・仕方がありません。」

プロスのハンカチで汗を拭きつつ言った言葉がブリッジに染み渡った。






「副提督の権限において、緊急動議を開きます。内容は、艦長の解任、副艦長の艦長昇格です。」

「「ええーーーーーーーーっ。」」

ユリカとジュンが叫ぶ。

「副提督として、艦長の解任を提案します。」

「提督として同意する。」

「ネルガル社として同意します。」

「上位者三名の同意を持って、ミスマルユリカを艦長職から解任します。続いて、副艦長の艦長昇格を提案します。」

「提督として同意する。」

「ネルガル社として同意いたします。」

「上位者三名の同意を持って、アオイジュンの艦長昇格を認めます。ホシノさん、今決まったことをオモイカネに報告して、それと、宇宙軍極東支部参謀ムネタケヨシサダ少将あてに私の名で今の決定事項を送ってください。」

「は、はい。」

あまりの事態の変化について行けなかったのか、焦りの混じった声でルリが言った。








「さてミスマルユリカ殿、貴方はこの艦の乗員ではなくなりました。ゴート君、彼女を艦長室にいれておいてください。マスタールームカード、艦長用コミュニケも受け取って下さい。」

プロスは、眼鏡に手をやりながらゴートに彼女を連れて行くよう合図する。

「うむ。」

「ジュンちゃ〜ん。」

ユリカは、ジュンに助けを求めようとするが、ジュンは事態の変化に対応できておらずゴートにブリッジ外へ連れて行かれる。



呆然としていたジュンだったが、フクベに肩をつかまれたことでハッとする。

「提督!?」

「アオイ新艦長、君は言ったな。艦の乗員を守るのは自分の責務であると、それが自分の仕事であると。君は十分に艦長の器だ。いや、君でなくてはいかん。出航時から君の采配で我々は勝ってきた。この艦の艦長は、副艦長であった君であると誰もが思っている。自信を持ち、周りを見てみなさい。」

「皆さん。」

ジュンが、周りを見ると、そこには、ナデシコの主要クルーのウインドゥがあった。

『頼むぜぇ。アオイ新艦長。整備は任しときな。』

ウリバタケ含む整備班が、片腕に力を入れたポーズで笑って言う。

『よろしくお願いするよ。アオイ新艦長。疲れたら、うまいもん食わしてやるよ。』

ホウメイ含む食堂班が、にこやかに笑いながら言う。

「「「頑張って(ね、下さい)。アオイ新艦長。」」」

ミナト、メグミが笑って、ルリが無表情な顔に少しだけ笑みを見せて言う。

そして、フクベとムネタケがまっすぐにジュンを見て言う。

「この艦の艦長は、君だ。」

「提督。」

「拝命してもらえるかしら?」

「副提督。」

ジュンは、目を閉じ軽く深呼吸すると自分にすら言い聞かせるように静かに目を開け宣言した。









「・・・・アオイジュン、拝命させていただきます。」




















「さて、アオイ艦長。ミスマルユリカさんですが、どうしますか?」

プロスの言葉に、ジュンは少し考え込むと、

「このまま行くとするなら、サツキミドリですね。でも、ミスマル提督の性格からそこまで行かせるとは思えません。順次対応、これしかないでしょう。」

ムネタケもそれに同意する。

「そうなるわね。」

「さて、アオイ艦長、私の言葉に続き、艦内に新任のお言葉をお願いできますでしょうか?」

「はい。」

「では、メグミさん、全艦に通信をつないで下さい。」

「わかりました。どうぞ。」

「え〜、プロスペクターです。このたび、ミスマルユリカ艦長を解任し、副艦長に新艦長になっていただきました。その理由は、皆さんもご存知の通りですのであえていいません。さて、それでは、アオイ新艦長にお言葉を頂きたいと思います。」

「私が、新艦長になったアオイジュンです。皆さん、若輩者ですが一生懸命務めさせていただきます。どうぞよろしくお願いします。本艦は、これより予定通り火星を目指し航行します。このナデシコが、無事に生還できるかどうかは、私の力はもとより皆さんの力にかかっていると思います。それぞれの部署で最大限の努力をお願いいたします。二度目ですが、よろしくお願いします。以上です。」











「ジュンが・・・・そうか。」

ブルーエルフィンのコックピットでエルとフィンの修理をしていたアキトは小さくつぶやいた。

『いいんですか? マスター、ユリカさんのこと。』

エルの突然の質問にアキトは手を止め、微かに笑った。

「ん? ああ、ラピスから聞いたのか、確かに俺はユリカを愛し結婚した。でも、この世界のユリカじゃないんだ。そばにいればいるほど、それをひしひしと感じる。だから、いいんだよ。それに、今の俺にはジュンがいるしな。」

フィンが、アキトのことを気遣って話題を変える。

『そ、それよりもマスター、ご迷惑かけました。僕らの発声器が壊れるなんて。』

「二人が無事で良かったよ。ルリちゃんも心配していたしね。あとで二人とも挨拶しておいで。」

『は〜い。そういえばマスター、オモイカネ兄さんも僕らみたいなボディが欲しいっていってたよ。』

「オモイカネが・・・。(どうやら、成長が早まっているようだな)わかった、ラピスに頼んでおこう。」

『じゃ、オモイカネ兄さんにサツキミドリあたりで来るって伝えときますね。』

「よし、今日中に、どんなボディがいいか、動物とかいろいろ検索して、決めるよういっといてくれ。」

『『はい。』』




















連合総合作戦本部 総司令部内大会議場

「ナデシコ許すまじ。国家対国家の戦争が終わった今、地球人類は一致団結して木星蜥蜴と戦うべきときだ。だが、ナデシコは火星に向かうと言う。こんな勝手を許していれば地球はどうなる! 」

「総司令、緊急通信が、・・・・その、ナデシコからです。」

「何!? つなげ。」

「始めまして、連合軍の皆様、ナデシコ艦長のアオイジュンです。」

モニターにうつったのは、フクベを右後ろにおいた、黒い髪の美女アオイジュンだった。

「「おお、ヤマトナデシコ。」」

連合軍の各支部の代表達がジュンを見て色めきだつ。

それを抑えるかのように、壇上にいた威圧感ある男が言う。

「連合軍総司令フィリップ=モーリスである。さてナデシコ、御用向きは何かな。我々としては、軍属になって行動し、地球を共に守ってもらえると嬉しいのだが?」

「我々は、事前に打ち合わせしていた行動予定の通り、火星に向かいます。その際、障害となりうるビックバリアの1区画の停止をお願いしたいのです。」

申し訳なさそうな表情のジュンであったが、きちんと要望を丁寧に言う。

「ならん。ナデシコという戦力は、連合軍によって管理、使用されねばならない。みすみす帰ってこれるかも分からぬ火星になぞ行かせるわけにはいかん。」

ジュンは、小さくため息をついた。

「では、仕方がありません。」

「仕方ない? 無理に突破する気かね。」

ジュンは、表情に若干の笑みをうかべ言う。

「いえ、選手交代です。では、ヴァルハラ社のテンカワさん。」

ジュンが、モニターから右に消え、代わりに黒髪の深い目をした青年が立つ。

「了解。始めまして、連合軍のお歴々の方々、私は、ヴァルハラ社 機動兵器部門シヴァ統括部長テンカワアキトです。」

「ヴァルハラ社員が何のようかね?」

「ナデシコの私的運用に関しては、事前にネルガル、ヴァルハラとの三者間協議において承認されているはずです。そちらは、その交渉を無効にしようとしている。そうですね?」

「悪いが、私の預かり知らぬことだ。」

連合軍総司令は、悪びれもせずそう言い放った。

「そうですか。では、その際にヴァルハラが支援すると言って喜んでおられた資金提供に関しても無効でよろしいですね。」

「何!? しょ、書類を回せ。」

「さらに、その際に、軍が無効にしようとした場合、ナデシコはその実力を持って突破させていただくとの項目もありましたが、かまいませんね?」

「何!? 確認する。こ、これは・・・・・・。」

フィリップは、部下から渡された書類に目を通し、絶句する。

「これよりナデシコは、その実力を持ってビックバリアを突破させていただきます。なお、資金提供は、ナデシコが攻撃されたり、ビックバリアが解除されない場合、一ドルもありません。では、失礼させていただきます。」

「ま、待ちたまえ。」

「何か?」

「ナ、ナデシコの私的運用を認める。」

突然の総司令の方向転換に議事堂にいる者達が騒ぎ始める。

「総司令!!、何を・・・・・・。」

「黙りたまえ。詳しくは、後で言う。」

フィリップは、議事堂に響き渡るような声で一喝する。

「寛大な処置感謝いたします。では、予定通りビックバリアを、こちらの指定時間に指定地域を解除して下さい。では、失礼します。」







「総司令。」

「今から説明する。ヴァルハラ社が連合に資金提供をすると言うのは事実だ。その予算は、艦隊すべてに広く分配され、総予算の10%に及ぶ。その予算を新たに捻出するすべはない。それとも、各艦隊の指揮者よ。予算を削減されてまで止められるか分からないナデシコへのプライドを取るかね?(見事だ、ヴァルハラの鬼札、黒衣の天王よ。)」

幾分自分への自嘲をこめ微かに笑う。

「むぅ。」

「くっ。」

「・・・・ここに、ナデシコの私的運用に関し連合として認める。異議のあるものは?」

全員、何も言わず、ただ沈黙のみがすぎていく。

「・・・・異議なし。」

一人がつぶやくように言ったことで、議事堂内のほぼ全員がそろって言う。

「異議なし。」

と。



「ムネやん、ユリカ、艦長ではないのか。」

じっと総司令とナデシコとの通信を聞いていたミスマルコウイチロウは、淋しそうに隣にいたムネタケヨシサダに聞いた。

「残念だが、解任されたそうだ。」

ヨシサダは、目を閉じたまま答えた。

「そうか。確かに、まだ早かったかもしれん。」

「ミスマルの。気を落すな、まだお前にはやる事があろう?」

「そう・・・だな。ユリカを一人前にしなければ。アオイ君の娘のように。」

コウイチロウは、遠い目をして答えた。












「でも良かったの〜? 軍に喧嘩を売るような真似して。」

操舵士の席に座りながらミナトが言う。

「いいんですよ、ヴァルハラの顧客は民間ですし、医療関係と情報関係で十分やっていけます。兵器分野を削減してもどうと言うことはないんですよ。それに、幹部の軍人にとって、自己の利益が一番大事ですからね。」

アキトは、本社への書類をしたためつつ質問に答える。

「アキト、私の父も幹部職の軍人なんだけど?」

トゲを含んだ目でアキトを見るジュン。

「失礼、極一部の人をのぞき・・・だな。」

慌てて、アキトが訂正した。その声に、ジュンは微かに笑った。

「ま、いいでしょう。これで防衛ラインは、動かないわね。」

「連合総司令が認めましたからな。」

フクベとお茶を飲むプロスが言った。
















連合軍極東支部基地 
  
「アオイ少尉、君に命令だ。」

トビウメから降りたアオイアツヒロ少尉は、次の命令を待ち極東支部に戻ってきていた。

そして、極東支部に上司であり、自身の軍学校の先輩であるヒロサキナオヤ少佐の部屋にきていた。

「はっ。」

「・・・・だ。」

はじめ何を言われたか分からなかったジュンだったが、慌てて聞き返す。

「はっ!? 本気ですか?上は?」

「復唱はどうした、アオイ少尉。」

「はっ、アオイアツヒロ少尉。任務につきます。」

ナオヤは、静かに椅子に座るとアツヒロを見てただ一言。

「・・・・すまんな。」

ナオヤの言葉に、ジュンも心とは裏腹にただ一言。

「気にしないで下さい。先輩。」

「それと、今回の任務はお前の恋人も連れて行け。」

「少尉!?」

「年頃の娘と一緒に密室の中は、公私共にまずいだろ。」

「・・・・わかりました。カタオカ少尉に伝えておきます。」
















「サクラ基地よりデルフィニウム三機接近中です。」

ルリが言った言葉に、驚くジュン。

「え!? 通信可能領域に達したらつないで下さい。変ね、なぜかしら。」

「ブリッジ。」

通信をつないだのは、ウリバタケだった。

「大変だ。ヤマ「ダイゴウジガイだ!」の奴がエステで飛び出しやがった。高高度使用のやつだから落ちることはまだないんだが、武器なしでだ。」

「武器無しに関してはかまいません。むしろ幸運と言えます。メグミさん、ヤマ「ダイゴウジガイ!!」さんに通信をつないで下さい。」

「はい、ヤマ「ダイゴウジガイ!!」さん、聞こえていますよね。骨折はどうしたんですか?」

「おお、安心しろ、研究所は俺が守るぜ。テンカワ、俺こそがエースだと証明してやるぜ。骨折!? んなもん、ゲキガンガー見て寝ておきたら、いつのまにか治ってたぜ。」

ジュンは、アキトの顔をチラッと見、二人でため息をついた。

「ヤマ「ダイゴウジガイ!!」さん、戦闘を禁じます。」

「な、何故だ!?」

分からないと言うようにエステの中で叫ぶキチ・・・・・ガイ。

「すでに連合との話し合いで決着はついています。貴方が攻撃した場合、貴方はただの犯罪者です。」

「何ぃーーーーーーーーーっ!?」

「すぐに帰還して下さい。」

「ううっ、ちくしょーーーーーーーーっ。」

ブリッジの冷たい視線の中、キチ・・・・・ガイはすごすごと格納庫に戻っていった。

「ヤマ「ダイゴウジガイ!!」さん。何してるんでしょうね。」

「さあな、俺には分からん世界だ。」

アキトは、ルリの質問にそう答え、昔のことを棚に上げ遠い目をした。






「デルフィニウムから、通信入りました。」

ルリが、ジュンに報告する。

「こちらは、連合軍極東支部所属アオイアツヒロ少尉です。」

モニターにうつったのは、ジュンにそっくりだが少し雄雄しい感じを受ける男だった。

「ナデシコ艦長アオイジュンです。連合とは話し合いがすんでいるはずですが、どういうことですか?」

「姉さん、僕も、いえ、僕らも辛いんですよ。率直に言いますと、パシリです。」

「はぁ!?」

アツヒロは、目を閉じ少し迷った後、

「ミスマル提督が、艦長でなくなった以上、お嬢さんをナデシコには置いておけないとおっしゃいまして、そちらとしても一民間人となった彼女の扱いには困るでしょう。渡して頂けませんか? それと、ムネタケ少佐、貴方に帰還命令が出ています。」

「どういうことですか? ムネタケ副提督が帰還なんて。」

「・・・・・・大変、遺憾なことですが。もともと、ムネタケ少佐は、ミスマルユリカさんの補佐役として、ムネタケ少将にお願いして、ミスマル中将がいれたらしいのです。聞いていらっしゃいますよね。」

「ええ、少将から聞いているわ。」

アツヒロの質問に、ため息を一つ深くつきムネタケが答えた


「プロスさん、ミスマルユリカに関しては、俺としては引き取ってもらうべきだと思うんだが?」

アキトは、迷うことなくそう言った。

「ふむ、そうですな。サツキミドリで騒がれても困りますしな。副提督はいかがします?」

「仕方ないわ。彼らの顔を立てて降りるわ。短かったけど、ありがとうね。」

ブリッジメンバーが、いろいろな思いを含めムネタケを見る。

ジュンが、代表してムネタケ提督の前に出て連合式の挨拶をしていった。

「副提督。ありがとうございました。」

ムネタケは、小さく頷くとフクベに向き直り、深くお辞儀をしたまま言った。

「提督、最後までお供できませんでした。申し訳ありません。」

「いいや、ムネタケ、お前は良い軍人になった。これからも頑張ってくれ。」

「はっ。では、フクベ提督失礼いたします。」

最後に、連合式の挨拶をフクベにするとブリッジから出ていった。



「では、アオイ少尉、格納庫の扉を開けますのでそちらにきてください。」

「了解、カタオカ少尉、ムザキ少尉お願いします。」

「はい。」 「了解。」



「プロスさん、ミスマルユリカだが騒ぐと思うのでクロロホルムを使うことを進めるぞ。」

アキトが、真顔でそう言った。

「ま、状況に応じてですな。」

ポケットの中からクロロホルムのビンを取りだし、アキトに見せちょっと引かせる。

(常備薬か!?)



プロスは、艦長室でユリカと会っていた。

「ミスマルユリカさん、お迎えが参りましたよ。」

「え!? アキトは!? アキトはユリカが降りてもいいの?」

プロスに詰め寄るように食って掛かるユリカ。

「さあ、アキト君は何も言ってませんでしたよ。」

「でもでもでも、アキトが・・・・・。」

「むう、仕方ありません。」

そういうと、あっという間、プロスの手がユリカの口と鼻をハンカチで覆っていた。

「はぅ。」

ユリカは脱力し、すぐに夢の園へと飛んでいった。



「御協力感謝いたします。っと、アキト兄さん、お久しぶりです。最後にお会いしたのは2ヶ月前でしたかね。」

「ああ、久しぶりだな。以前より顔つきが男らしくなったんじゃないか。」

「嘘でも嬉しいですよ。」

「ちょっと待って、今の話だと、アツヒロあんたアキトの居場所知ってて黙ってたの?」

アツヒロが、顔を真っ青にして慌てて言う。

「え!? ヤバ。ごめん、アキト兄さん。」

「ははは・・・・・。ま、まあ、いいさ。」

かわいた笑いをしながらアキトは、ジュンに目を向けようとして恐怖で止める。

救いの手は、アツヒロからもたらされた。

「詫びに姉さんの恥ずかしい話を一つ。」

「ア、アツヒロ!?」

ブリッジのメンバーが、聞き耳を立てて聞く。あ、ミナトの目が、か、輝いている。

「アキト兄さんが、いなくなって、姉さんかなり落ちこんでね。父さんが、これ幸いと見合いを組んだんだ。ところが姉さん、それに気付いて、見合い式場で、相手を言葉と体術でズタボロにのして病院送りにしたんだ。くっくっくっ、父さん青ざめていたよ。」

「ふふ、こいつらしいな。」

アキトが、ジュンに目を向けて笑う。

「その後、奇妙なことに、姉さんをうらんで、退院後襲おうとしていた見合い相手が、病院に逆戻り・・・。黒天にやられたっていってたらしいよ。どういうことだろうね、アキト兄さん?」

突然振られた話に、アキトは、口篭もってしまう。

「ふ、ふ〜ん。そ、そうか・・・。」

『へえ、黒天がねぇ。』

コミュニケからウインドゥを出したムネタケが、ニヤニヤとアキトを見る。

「黒天ですか。」

いつの間に戻ってきたのか、プロスが後ろから現れアキトを見る。

「何故、俺を見る。」

「だって、兄さんの別名が黒衣の天王だからでしょう?」

「アキト・・・、あなた。」

「ま、アキト兄さんは、姉さんの幸せも含め考えて姿消したけど、逆効果だったって事かな。」

アキトは、右手を目にかぶせるように視線を隠しつつ言った。

「アツヒロ、まったくいらんことするね。お前は。」

「お褒めに預かり光栄かな、アキト兄さん。乱暴で、不器用な姉ですがよろしくお願いします。守ってやって下さい。」

「当然。」

「アツヒロ、覚えてなさいよ。」

両手を握り締めながら、モニターの向こうで笑う愚弟に目をやる。

「ふふ、無事に帰ってくることだね。」

「アオイ少尉、ミスマルユリカ嬢、ムネタケ少佐の回収終了しました。」

「了解、チハヤ。」

キュピーン。アキトの脳裏にいたずら心が芽生える。

(ジュン、これを言え。)

(何?これ?)

(くっくっくっ、ささやかな仕返しさ。)

「ええっと、アオイアツヒロ殿。我々が無事帰還するまで、結婚して身を固めると言うことが無いようにね。」

アツヒロには何の事かわからなかったが、そばにいたカタオカ少尉には効果抜群だった。

「え!? アツヒロ君。好きな人・・・・いたんだ。」

「ち、違うんだ。僕は、チハヤ、君以外・・・・。」

「ほんと? アツヒロ君。」

「うん、俺が好きなのはチハヤ君だけだよ。」

笑いながら、ムザキ少尉のデルフィニウムに乗っていたムネタケが言う。

「お二人さん?まだ通信つながってるわよ。」

「はぅ。」

「あっちゃ〜。って、アキト兄さんですね。」

チハヤは、顔を真っ赤にしてウインドゥを閉じてしまい、アツヒロも苦笑いした。

「ささやかなる仕返しさ、がんばって彼女をゲットしな〜♪」



「ふぅ、ナデシコ艦長アオイジュン殿。貴殿を含むナデシコクルーの安全と無事な生還を心から願う。」

「連合軍極東支部アオイアツヒロ少尉殿。貴殿の配慮に感謝する。」

そう言うと、アツヒロ達はサクラ基地に戻っていった。







アキトが、コミュニケではなく、ヴァルハラ社の小型通信機を見ると着信のシグナルが出ていた。

(ん!? アツヒロからか・・・『トラの牙集まりつつあれど、まだその時を迎えず。』か。がんばってくれ、アツヒロ。地球の未来はお前達にかかってる。)











「進路そのまま、機動戦艦ナデシコ。サツキミドリに向け発進。」




















<おまけ>
「ムネタケ少佐。お目を悪くするかもしれませんが、ムザキ少尉の持つ書類に目を通して頂けますか。」

「これです。」

「新しい任務かしら? ・・・・・・ま、待ちなさい。こ、これは、超特級機密事項じゃない。」

「ええ、この戦争の真実です。」

「参ったわね。100年前の亡霊か。いえ、これはもう・・・・。」

「そう、すでに我々の戦争なんですよ。ムネタケ少佐。」

「アオイ少尉。私に何をさせようって言うの?」

「我々の仲間になって頂けませんか?この戦争を終結させるために。」

「これは、あなた達だけの考えなの? まあ、いいわ。」

「「「では!?」」」

「協力しましょう。でも、民間人に悪となるなら私はお断りよ。」

「もちろんです。」

「当然です。」

「アオイ少尉、カタオカ少尉、ムザキ少尉、それで私は何をすればいいの?」

「今はまだその時ではありません。」

「そう、我々の真の戦いはこれから始まるんです。」

「「「すべては、人類の未来の為に。」」」
















<あとがき>
いかがでしょうか。第2話後編です。
ミスマルユリカ嬢が、ナデシコから消えました。さらば、天真爛漫よ。
すみません、ムネタケも降ろしました。出来る限りと言っても、途中までですが本編どうりに行きたかったのです。ムネタケファンの方、暫しお待ち下さい。
アツヒロ君も暗躍中です。彼にもこれから多大な波がきます。

さて、次回ですがサツキミドリです。オリジナルキャラではありませんが、性格の違う困ったさんが4人ほどナデシコにきます。
リョーコ、ヒカル、イズミ、そして、あの娘が出てきます。次回の更新をお待ち下さい。

 

代理人の感想

・・・・・・ここまでやるなら最初から出さなきゃ良かったのに。