機動戦艦ナデシコ テンカワアキトの部屋


アキトの部屋は、ヴァルハラからの出向社員であるので機密保持によりこの部屋はルリにもよほどのことがない限りモニターできないようになっていた。

密談にはもってこいである。

『マスター、次はサツキミドリ2号ですね。』

「ああ、だが、どうするかな。ルリちゃんに分からずにウイルス送れるか?」

『無理だね。ルリにはオモイカネ兄さんがついてるから。僕らがブロックしても、それ自体で怪しまれちゃう。』

『それに、ブルーエルフィンの最終武装が、木連の手に渡ったりするのはさけたいし。』

「じゃ、偵察を兼ねて先に行くか。」

『それがいいと思う。ナデシコが襲われても、ブルーエルフィンならすぐ駆け付けられる。最悪、最終武装を完全に紐解けば確実に殲滅できるはずだよ。』

『あれ使うのは武器管制の私としてはさけたいな。機体にどんな負荷がかかるか、シミュレーションしかしてないから。』

「ああ、俺も同じだ。あれは、真に必要な時だけ使いたい。あれを軍に渡すのは危険すぎる。」

『じゃ、いこうか。マスター。』

『プロスさんの所へ、レッツGO。』













プロスが、自室にいると思って訪ねたアキトだったが、自室にはおらず結局エルとフィンがオモイカネに尋ね、ブリッジにいることが分かった。

「プロスさん、ここにいたんですか。」

「アキト君、どうしました?」

「サツキミドリ2号に届くことになっている荷物の受け取りと周辺宙域の偵察をかねて先行させてもらいたいんですが・・・・・・。」

「ふむ、艦長いかがしますか?」

プロスは、艦長席に座り二人の話を聞いていたジュンに許可の是非を尋ねる。

じっと聞いていたジュンであったが、機動兵器の先行ということで思いつく疑問を口にする。

「テンカワさんの機体は重力波が無くても活動できるのですか?」

(まだ、小型相転移エンジンをつんでいることは黙っているべきだな。)

「一応ね。新型のエンジン積んでるから。」

アキトは、ジュンの質問を軽くかわしつつ、そう答えた。

ジュンは、目を閉じ幾分迷った後、目を開き言った。

「分かりました。現在、ナデシコ本艦を除く戦力はテンカワさんだけです。コミュニケはいつでも着信可能にしておいてください。」

「ヤマ「ダイゴウジガイ!!」さんは、数に入れないんですか?」

「残念ですが、私は彼の戦闘をこの眼で見ていません。戦力として換算することは出来ません。それに現在、宙間戦闘用のOGフレームもありません。」

ルリの質問にジュンは真面目な顔をしてそう言った。

ルリとジュンの会話をよそに、メグミとミナトが小声で言い合う。

「ミナトさん、ヤマ「ダイゴウジガイ!!」さんて、誰でしたっけ。」

「ええと、確か、密航者だっけ? なんで、彼ここにいるのかしら。」

二人の小声が聞こえたルリが二人を見つつ無表情のままで言う。

「違います。発進当日に何故か乗りこんでいて、パイロットのくせに足を折って戦闘できなかった役立たずさんです。」

ルリの発言に、ミナトは少し笑みをうかべ、

「なかなか言うわね、ルリルリ。」

ルリが、目に疑問符をうかべ、ミナトを見る。

「ルリルリ?」

「そ、かわいいでしょ。ルリルリ。」

笑顔で返すミナトにルリは、ちょっとだけ顔に笑みを浮かべ小さく復唱する。

「ルリルリ・・・・・・。」












「テンカワアキト、ブルーエルフィンでるぞ。」

プロスは、発進体勢に入るアキトをウインドゥで見つつ思う。

(アキト君、あなたは不幸の星のもとに生まれたのかもしれません。)

秘密の男との会話を思いだし、息子のように思うアキトから視線をはずし遠い眼をする。














[回想 ビックバリア突破後すぐ]

機動戦艦ナデシコ プロスの部屋

「・・・・・・と、いう訳でミスマルユリカさんには艦を降りて頂きました。」

プロスは、ルリにも気付かれぬ端末で本社と話していた。

映っているのはロンゲ・・・・もとい今は秘密の男。

「そうか〜。しかたないね〜。でも、深刻にならなくてもいいよ。」

「はっ?」

「彼女は、公式的には、自分から降りたことになってるんだよね。だから、心配ナイナイ。」

「・・・・・・そういうことですか。」

「そういうこと、ミスマル提督も親バカここに極まれりだね。だから、艦内の徹底はまかせるよ。」

「わかりました。」



「あ、それとちょっとややこしい事態が起きてるんだ。」

「と、いいますと。」

「宇宙軍がね、現職のオブザーバーがいないのは許諾できん。と、おっしゃってね〜。いや、参った、参った。」

「では、誰か副提督に?」

「ううん。副艦長。」

「なっ!? 受けたのですか?」

プロスにしてみれば死活問題であった。何しろ副提督であれば決定権は提督に準ずるものだからだ。しかし、副艦長は違う。

何らかの理由で艦長が職務を出来ぬ場合その者が最高指揮者となるのだ。この差は非常に大きかった。

「大丈夫さ、能力第1に考えれば問題ないさ。少なくとも我侭のお姫様よりはね。」

「・・・・ということは問題児ですか?」

秘密の男は、大きく笑い、親指をグッと突き出して言う。

「ストライクだよ、プロス君。君も聞いた事があるだろう? 軍の作戦でつねに成功を収めるが、上官として気にくわない者を獲物とし、狙った獲物はみなストレスで胃潰瘍のあの子さ。ちなみに、仕官2年目なのに、病院送った人間は20人をこすらしいよ。」

「か、彼女ですか!? 会長、私に胃潰瘍になれと!?」

汗が噴出すのもかまわず、秘密の男に叫ぶプロス。どうやら彼にとって死活問題らしい。

「残念だね。ナデシコでのターゲットになりうる人物は君じゃないんだ。」

「ホッ。では、誰です?」

真面目な顔をしてプロスに会長の顔で言う。

「黒衣の天王さ。もっとも、彼は鈍感だし、何より不死身・・・・に近いし大丈夫でしょ。」

さすがにナデシコクルーの生活を思うプロスは、聞き返さずにいられなかった。

「他に軍で、どなたかいないのですか?」

「残念なことに引き受け手がいないんだよね〜。それにすでに決定事項だし、サツキミドリ2号で合流するからよろしくね。」

ハンカチで汗を拭きながらも、プロスは、さわやかな笑顔で言った。

「ふむ。では仕方ありませんな。」

「切り替え早いね〜、プロス君。」

「はっはっはっ、修行の賜物ですよ♪」

何の修行か分からないが笑顔でそう答えるプロス。

プロスの態度に冷や汗を感じながらも通信を終える秘密の男であった。

「ま、いいか。それじゃよろしく〜。」












(アキト君、ナデシコの存続のため、また、ナデシコの勝利のため、そして、なにより、私の弱りつつある胃のため、名誉ある礎となって下さい。)















(保険と治療費は、きっちりヴァルハラ持ちですが・・・・。)




未来を、君に・・・


PRINCSS OF DARKNESS





新たなる時代


第3話  闇の公子 痛みに沈む









サツキミドリから2キロ程離れた地点でアキトはサツキミドリ2号に通信を送る。

「サツキミドリ2号、応答せよ。こちら、ナデシコパイロット、テンカワアキト。そちらにあるヴァルハラの荷を受け取りにナデシコから先行してきた。入港許可を求む。」

「こちらサツキミドリ2号、了解。識別信号も確認したし、入港を許可する。」

「わかった。」

アキトは戦闘機形態のままサツキミドリ2号に入り指示された個所にブルーエルフィンを置く。

報告書を見たエルとフィンの指示のもと、コンテナを探し出しブルーエルフィンの元へ運ぶ。

「さて、コンテナを開いてっと。」

出てきたのはブルーエルフィンに対しては少々大きめのライフルだった。

注意すべきはブルーエルフィンとライフルを結ぶエネルギーパイプがあることであった。

「フィン、エネルギーパイプの接続において不具合や、故障はあるか?」

アキトは、ブルーエルフィンを機動兵器モードにしライフルを持ち上げパイプをつなぎ、フィンに武器の電気系統からのチェックを頼む。

『大丈夫。無いみたい。』

「ふむ、エル、木連勢力の反応があったら教えてくれ。後はデイスクのインストールだけだな。少し喉が乾いた。何か飲んでくる。何かあったら呼んでくれ。」

『『了解、マスター。』』








格納庫から近い個所に幸いにも休憩所があった。缶コーヒーを買って椅子に座って待つことにした。

ガコン

「ふう。」

「よう、あんた、ナデシコのパイロットなんだって?」

アキトが、自動販売機から缶コーヒーを取り出そうとした時そばから声がかかる。

「(リョーコちゃんか、初対面だからな。)そうだが? あんた、誰だ?」

「ワリィ、俺は、スバルリョーコ。ナデシコのサツキミドリ補充パイロットの一人だ。」

軽く頭をかきながらリョーコは、一歩アキトに近づきそういった。

「俺は、ヴァルハラからの出向社員で、ナデシコパイロットのテンカワアキトだ。よろしくな、スバルさん。」

「リョーコでいい。敬語使われるとムズがゆいしな。」

さっぱりした笑顔でそう言われるとアキトも笑うしかなく頷く。

「わかった。リョーコちゃん。」

リョーコは、あからさまに顔を赤らめつつ、すぐに表情を戻しアキトを見て言う。

「リョ、リョーコちゃん!? おいおい、ガキじゃねえんだ。呼び捨てにしろよ。」

「わかった、リョーコ。俺もアキトでいい。で?俺に何かようだったのか?」

「ああ、アキト。お前、黒衣の天王なんだろ、シミュレータでいいから俺と勝負してくれ。」

「わかった。だが、今は俺の機体に追加武装をつけてて、手が離せないんだ。ナデシコに乗ってからでいいか?」

「おし、約束だぞ。」

「ああ。」

そう言うとリョーコは片手を挙げアキトに合図し去っていった。

やっと守るべきものの一人に会えたアキトは、少し頬を緩めるがすぐにそれは打ち消される。

『マスター、ナデシコ以外の相転移反応、距離10キロです。』

アキトは、表情を引き締めエルの情報に耳を傾け言った。

「了解、すぐ行く。」

そこには再会を喜ぶ男はなく、仲間を守ろうとする信念持つ戦士がいた。









「サツキミドリ2号管制室、こちらナデシコパイロット、テンカワアキト。ナデシコ以外の相転移反応が確認されたので、この宙域を、偵察したい。出港許可を求む。」

「了解、こっちも確認した。危険だが偵察頼む。こちらも警戒レベルを上げ、対応する。」

「わかった。敵で可能なら破壊しておく。では、行って来る。」









『もうすぐ見えるよ、マスター。』

『バッタ数200だね』

「よし、今回は数が少ない。通常のライフルモードで十分だろう。」

「はい、マスター。」

(いまさらバッタ200ごとき俺の敵じゃない。)

ライフルと腰に装備してあるイミディエットソードで敵を近いものから殲滅していく。

アキトにとって、バッタの動きなど良く見知った物である。

10分もすればそこにはガラクタの山が出来ていた。








「ふぅ〜、おわった。サツキミドリ2号応答せよ。」

「こちらサツキミドリ2号、ご苦労さん。反応が消えたのを確認した。ナデシコが来るまでこのままの警戒レベルでいる。疲れてるならこっちで休んでくれ。冷たい飲み物ぐらいおごる。」

「了解。「ジ、ジリジリジリ・・・・・。」どうした!?」

突如、通信からアキトの耳に防犯ベルの音が鳴り響く。

「侵入者!? 編み笠? なんてふざけたやつらだ。警備員を終結させろ!!」

「ま、まずい。奴らとは戦うだけ無駄だ。民間人が勝てる相手じゃない。隔壁を閉じて足止めするうちにすぐに脱出しろ。奴らのねらいは、おそらく核パルスエンジンの破壊だ!!」

「なんだと!!あんたが言うんだ、本当なんだろう。隔壁閉じて総員に退避命令を出す。」

(クソッ、こいつらは証拠を消すための複線だったのか!? 北辰!!)

「急ぐぞ、サツキミドリ2号へいく。」

エルとフィンにすでに動き出しながら指示を出した。それほどアキトは焦っていた。









サツキミドリが目視で確認できる地点にきた時、突如、モニターの右端にメグミが映る。

「テンカワさん!!」

「どうした?」

「現在、木星蜥蜴に襲われています。すぐにナデシコに帰還して下さい。」

「了解、ナデシコに向かう。(ああっ、クソッ。何故だ!? なぜこんなことに!? サツキミドリ2号陥落は、歴史の必然だとでもいうのか?)」

アキトは、苛立ち、焦る心を隠せぬまま進路をナデシコに向ける。








「ナデシコ、現在状況は?」

「敵残存勢力は、バッタ200、ヤンマ4です。本艦に被弾損傷はありません。無理して出撃したヤマ「ダイゴウジガイ!!」さん中破で、現在自室でエステ修理及び換装がすむまで休憩中です。」

「了解。バッタ達を破壊しながら誘導して一ヶ所にまとめる。グラビティーブラストを用意しろ。」

「わかりました。」


「・・・・・・アキト君、何があったんですか?」

さすがというか、プロスはアキトの言葉に裏を感じ、アキトに尋ねた。

「プロスか。サツキミドリ2号は、もうすぐ落ちる。」

目線をプロスに移さず、音声のみで確認したアキトは無表情のままプロスに言う。

「な、なんですと!?」

驚き絶句するプロスに対し、再び抑揚のない声で、

「闇の住人が、サツキミドリ2号の核パルスエンジンを破壊する為に行動している。奴とまともに戦える者は、まず間違い無くサツキミドリ2号にはいない。」

断定的なアキトの物言いに若干の戸惑いを思いながらも未来を知るプロスはそれがアキトの仇敵であることを感じ声のトーンを落し一言いった。

「・・・・そうですか。」








「艦長、射線軸上にバッタ、ヤンマ集まりました。グラビティーブラストいけます。」

ルリの報告にジュンは頷き、敵を見て叫ぶ。

「了解、グラビティーブラスト撃てぇぇぇぇぇ。」

宇宙空間を漆黒の閃光が駆け抜け、敵を破壊していく。爆発の閃光が止んだ後、ルリがジュンに戦況報告を告げる。

「敵残存勢力0です。」

「テンカワさん、周囲の警戒を続けてお願いします。」

「了解。」












ピーーーーーーッ、ピーーーーーーッ

「コロニー方向より衝撃波きます。」

ルリの報告からまもなく多大な振動がナデシコを襲う。

ズズゥゥゥゥゥゥゥゥン

「被害状況確認。」

「サツキミドリ2号です。」

ジュンは頷き、ついでナデシコの損傷状況の報告を待った。

「フィールドジェネレーター第2区間付近に中程度の破損。」

「メグミさん、生存者いないか。気を付けて。」

「は、はい。あ、艦長、2時方向に3隻中型脱出艇の信号を確認しました。」

慌てて、インカムを構えなおすメグミ。

「救助の必要は?」

「ええっと、月まで航行するにはなんとか大丈夫だから、気にしないでくれだそうです。それと黒衣の天王に礼を言っておいて欲しいと言ってます。」

「わかったわ。彼らに無事月に着ける事を願う。と言って下さい。」

「はい。無事月に着ける事を願います。頑張って下さい。」

『了解、君、かわいい声だね。お互い無事かえってこれたらデートしない?』

「え!?」

メグミは驚いた。人が死んでいるのに不謹慎とも思った。でも、どう切り替えして言いか困ってしまった。

「メグミちゃん?何か言われたの?」

「ええと・・・・・・。デートしないかと・・・・。」

「緊張感ないわね。」

ミナトがため息をつきそう言うと、フクベが頭を振りつつ言った。

「違うぞ、ミナト君。レイナード君、デートはともかくとして、生きてまた会いましょうと言ってやってくれ。」

「あ、はい。」

「提督、何か意味が?」

ジュンもわからなかったのか、その理由をフクベに尋ねた。

「願掛けだよ。軍人が、死地に向かう時生きて互いに酒を飲もうと言うのと同じだよ。メグミ君が女性だからそういう言いまわしを使ったのだ。」

「月までの航行には問題ないと・・・・・・、そう・・・でしたね。今は、戦争中でしたね。」

迎撃能力のない脱出艇で月に向かうこれほどの難しい航行はないのだ。そのことは、軍人であるフクベだからこそよく分かっているのだった。

「だったら、月まで護衛してあげれば・・・・・・。」

「現状では無理なのよ。戦艦一隻で中型脱出艇を3隻も護衛し続けるのは無理なの。」

「そんな、見捨てるんですか?」

「ふざけないで!!見捨てる?じゃあ、貴方は私にナデシコを犠牲にしても、月まで護衛して行けと言うの?私が守ると言ったこの船で、ナデシコクルーを危険にさらして!!」

「アオイ艦長。」

プロスが止める前にフクベが止めた。

「す、すみません。言いすぎました。ごめんね、メグミちゃん。」

「いえ、私こそすみませんでした。」

ジュンは、少し深呼吸してから命令を続けた。

「遅くなりましたが、整備班ジェネレーターの点検を、周囲の状況確認及び索敵はそのまま続行。」










「おいおい、脱出ポッドか?」

「しかし、班長いい仕事してますね〜。」

整備員の視線の先には見事に溶接された脱出ポッドがあった。

「・・・・・だな。しゃあねえな、艦内を警戒体勢にさせるようゴートの旦那に報告しろ。」

「ういっす。」










ウィィーーーン、ウィィーーーン

「乗組員に緊急連絡、何者かが本艦に侵入した模様・・・・『ゴート。』」

「むっ、テンカワか、どうした。」

「オモイカネに調べてもらった所、ヤマ・・・・ガイの部屋にコミュニケの信号の合わない奴がいるようだ。確認してくれ。」

「了解した。これより、ヤマダの部屋へ向かう。」










「っ、側面より機影を確認、敵機は4機。」

ルリの報告に繋ぎっぱなしだったウリバタケ整備班に尋ねる。

「フィールド、いけますか?」

「だめだ、艦長。ジェネレーターの修理には、後10分はかかる。」

整備員の仕事を監督していたウリバタケが顔をしかめて言った。

「5分でお願いします。」

もちろんジュンにも無茶なことだとはわかっていたが、言わずにはいれなかった。ナデシコクルーを守ると誓ったから。

「機影拡大します。」

映ったのは、エステであり、コンテナ1基とエステ3機を牽引していた。見事に白いリボンをくっつけて。








所変わって、こちらヤマ「ダイゴウジガイ!!」の部屋、中はとても熱かった。

「ジョーーーーーーーーーーッ。」

「わあぁーーーーーーん。ジョーが、ジョーがぁ。」

「わかるか?」

「やっぱ、ジョーって最高ですよね。」

「わかるか〜。そうだよな〜。ジョーーは最高だぜぇーーーー。」

二人で肩を組み涙を流しつつ叫んでいた。



と、突然ドアが開き銃を持ったゴート含む警備班がドカドカと入ってくる。

「動くな!」

全員が銃を人影に向ける中盛り上がった二人はいまだに泣いていた。いっきに脱力する警備班一同であった。



「「ジョーーーーーーーーーーーッ。」」

「こちらゴート。照合の結果、サツキミドリ補充パイロット、アマノヒカルと確認。艦内警戒体勢を解除せよ。」

モニターを見て泣き叫ぶヒカルを一瞥し、安心したものの、こんなやつに警戒体勢を取っていたかと思うと自分が情けなくなるゴートであった。








「艦長どうしますか? 識別信号を出していませんが、味方の可能性もあります。」

プロスが、ジュンに決定を尋ねる。

「ルリちゃん、通信開ける?」

プロスの言葉を聞きつつ、ルリにそう尋ねるジュン。

「出来なくは無いですが、荒業ですから開いた時に向こうのエステが、機能停止するかもしれません。」

「テンカワさん。威嚇射撃を行って下さい。」

「いいの?」

少し戸惑い気味にミナトがジュンを見て言う。

首を振り、ため息をついたジュンは

「仕方がありません。」

と言った。モニターに分からぬよう少し笑ったアキトはとりあえず

「了解。」

とだけ答え、ライフルを向かってくるエステの前方に当らぬ位置に撃つ。


ズダダダダダダダダダダダッ


エステが急速上昇し弾とコンテナにぶつかることをさけて、すぐ。

ピッ

「てめえ、何しやがる。」

通信をつないだ第一声はリョーコの叫び声だった。

「やはりお前か。」

アキトは、嘆息すると同時に少し笑う。

「あー、アキトじゃねえか。何の恨みがあって・・・・。」

「艦長である私の命令でしたことです。識別信号を出し、所属と名前を言いなさい。」

会話にジュンが割りこみ話を止めさせようとするのだが、頭に血が上ったリョーコには届かなかった。

「うっせえ、今、こいつに聞いてんだよ。」

ジュンは、ため息を一つつくと、コミュニケの発信音量を最大にしつつ、

「まったく・・・・・・、識別信号を出し、所属と名前を言いなさい。」

「識別信号きました。」

ふてくされた表情で信号の操作をしたリョーコは、

「ナデシコ補充パイロット、スバルリョーコ。これでいいんだろ。」

と、怒りの矛先をジュンに向け、威嚇し始めた。

「結構です。ナデシコは、あなたを歓迎します。テンカワさんと一緒に格納庫にきてください。」

ジュンは、リョーコの威嚇をさらっと流し、笑顔で格納庫入りを許可した。






機動戦艦ナデシコ 格納庫にて


「くぁ〜、たまんねえぜ。ったくよ〜。」

エステから降りたリョーコは、周囲にすら聞こえるように不満を漏らす。

「識別信号を出していないお前が悪い。」

いち早く外にいたアキトが、リョーコを見て少し笑いつつ言う。リョーコは、少し唇の端を歪ませ、

「しゃ〜ねえだろ。核パルスエンジン狙ってるテロリストがいて、侵入されて捕まえられないから放棄するってんで、身近にあったコンテナとエステ3機ぶらさげてそのまま来たんだぞ。後1機あったけど、もってこれなかった。ま、しゃーねえだろ。」

「ああ、奴らに会わなかったんだな。良かった。」

アキトは、ここにリョーコがいることで、遭遇していない事は分かっていたのだが、ほっとしたように言った。

「言い訳あるかよ。気のあってたやつらも生きてんだかおっちんでんだか。」

リョーコの視線がアキトから別の方向に向けられ、そう独白したとき、

「生きてるよ〜。」

格納庫の扉が開いた瞬間に、入口に立っていた女が手を振りつつ言う。タイミングを見ていたのだろうか?

「ウエッ。」

入ってきた女を見て、リョーコは驚きのあまり跳び上がった。

「ど〜も〜、私、パイロットのアマノヒカル。蛇使い座のB型、18歳。好きなものは、ピザの端っこの堅いとこと、ちょっとしけったお煎餅で〜す。よろしくお願いしま〜す。」

「ま、二人残りゃ上等か。」

リョーコがもう一人の生存を絶望視しようとしたその時、消え入りそうな声がリョーコのコミュニケに入る。

「勝手に殺さないで〜。」

声を聞きつけたヒカルが、リョーコの腕を取ってイズミに尋ねる。

「イズミちゃん!?生きてたんだ、ねえ、今どこ?」

「それは・・・・・・言えない、それよりツールボックス開けてみて。」

いぶかしげにヒカルと顔を見合わせるリョーコだったが、リモコンでコンテナをあける。

ピッ

「あっ、くっ、ふっふっ、あっはは、あ〜空気がおいしい。」

出てきたのはスタイルの良い女だった。

(来るか!? 伝説となりしギャグが・・・・・・。)

一人身構えるアキトをよそに、リョーコは静かに近づき、

「てめえ、なんでんなところにいんだよ。」

「ええ〜、だって楽じゃない。ボックスの中でリョーコに運んでもらう。楽ちんだったよね。イツキ。」

と、イズミが隣を見る。首を出したのは、青白い顔をさせた女だった。

「あぅぅぅぅ、少し酔ったけどね。」

「イツキ、お前も生きてたのか!?」

その一言に、イツキは立ちあがり、握りこぶしを作って言う。

「当然よ、私が死ぬのは、病院送りにした人数で、ギネスに乗ってからよ。」

と、元気良く言ったはいいがすぐにうずくまる女。

「こっちのふざけた奴がマキイズミ、こっちで青い顔をして苦しんでんのがイツキカザマだ。まあ、なんだ、こいつら含めてよろしくな。」

来ると思っていたギャグがこないことに不信感を感じつつも、皆の無事を感じ、ほっと胸をなでおろすアキトであった。











プシュー。

格納庫の扉が開き、ジュンが入ってくる。

「アキト、スバルさん、報告が遅いから来たんだけど・・・・・・。」

視線は、いつのまにか増えている新しい乗員に向けられていた。

「ああ、アキト君だ〜。」

イツキがコンテナから飛び出しアキトの左腕に抱きつく。

アキトは、腕に抱きついてきたイツキを見つつ、(初対面だよな〜)と思う。

「・・・・・・誰だ?」

「あれ〜、忘れちゃったの? 私だよ、イツキだよ。イ・ツ・キ・カ・ザ・マ。」

少し苛立った気持ちを隠そうと、ジュンが尋ねる。

「アキト、知り合い?」

「いや。思いだせん。」

「うそ、ひどい。一緒にお風呂入った仲なのに〜。」

嫉妬の鬼が生誕した瞬間だった。アキトに笑顔を浮かべたまま殺気交じりに尋ねる。

「どういうことかしら、ア・キ・ト?」

「笑顔で殺気は、やめてくれ。(どういうことだ。この世界のイツキ=カザマとは会ってな・・・・・・、ま、まさか・・・・・・)」

おそるおそるイツキに視線を戻す。確かに知り合いの面影があった。

視線を勘違いしたのか、アキトの左腕にしがみつく力を増やして胸を押し付けるイツキ。

「ア〜キト君。」

「お前、昔のあだ名がイッコだよな。俺と同じ孤児院にいた。」

「あったり〜。」

「どういうことかしら。アキト?」

アキトの右隣に立ち、睨みつけるジュンに冷や汗をかく。

「隣の女は誰? 誰? アキト君。」

「ええと、彼女のプライベートにかかわる問題なので「いいよ、アキト君。君と私の仲じゃない。」」

「ア〜キ〜ト〜?」

すでに怒りは臨界状態だった。

納得のいく説明がなければ、沈静化どころか、以後話すらまともにしてもらえないかもしれないという感情がアキトの中に起こる。

アキトは、慌てて、

「俺の両親が死んで、プロスさんに引き取られるまでの2ヶ月間いた孤児院に、事故で両親を無くしてきたのが彼女です。来た始め、かなりおびえていて、手が開いていて警戒されなかった俺が風呂にいれていました。」

「そうだったの。」

幼少時代の思いでという事もあって、少し沈静化するジュン。

「そうねぇ。一緒に寝てたし〜。朝起きたらアキト君大人だったし、・・・・・・ポッ。」

「ポッてなんだ!? 何を言っているイツキーーッ。」


「ア・キ・ト? ちょ〜っと、いいかしら〜。すぐすむわ。」

アキトの右腕をジュンがつかむのと同時に、スルッとイツキが左腕から離れる。

「ジュ、ジュン。お、お手柔らかに・・・・たの・・・・・む。」

俺の首根っこをつかんでジュンが引っ張っていく。

「アキト君、お達者で〜。」

それを面白そうに眺めるイツキ・・・。

アキトは、思い出していた。彼女の字名を・・・。

『笑顔の小悪魔』の称号を・・・・。

アキト曰く、「泣きまねをしながら、ハンカチ振ってやがった」そうである。












「アキトみたいだな。獲物。」

「そうみたいだね。」

「可哀想に・・・・。これから、胃薬が常備薬になるのね。」

「ま、俺達は見てて楽しいからいいけどな。」

「そうそう。」

「そうね、艦長に着艦の報告できそうに無いから、シャワーでも浴びましょ。」

「そうすっか。おお〜い、イツキ〜、風呂行くぞ〜。」

「は〜い。」

3人娘は、イツキを呼ぶと楽しそうに談笑しながら格納庫を出ていった。








リョーコたちが出ていった後ろでは、整備員が何事か話し合っていた。

某組織の結成をと言う声が上がったが、イツキのプロフィールをプロスから聞いたウリバタケが脱力しアキトに同情し説得したため組織結成には至らなかったという。



















機動戦艦ナデシコ ブリッジにて


「オホン、エステの補給と改修が終わりしだい、残り1機のOGフレーム回収をお願いできますか?」

本来であれば直接ブリッジにエレベーターで来るはずだったのだが、格納庫で一騒動あったため通信で呼び出したのである。

リョーコ達はお風呂タイムを邪魔され少しいらついていた。ちなみにイツキは呼ばれなかったので、いまだにお風呂だったりする。

「へいへい、人使いの荒いこって。」

不満混じりの声でそう言う。

「そういや、ここにいるっていう二人のパイロットは?」

話題を変えるようにイズミが言う。

突如、ブリッジにヤマ「ダイゴウジガイ!!」のウインドゥが開き、

「俺か?俺の事だな、俺が、ナデシコのエースでダイゴ「プツン」」

「・・・・・・。」

「気にしないで下さい。ただの役立たずです。」

抑揚のないルリの声、満ちる沈黙。

「ははは・・・・・・。一応、パイロットの一人のヤマダジロウさんです。」

プロスが、取り繕うように言う。ついで、ジュンが、

「一人は医務室で治療中、ヤマダさんは自室にいましたので、パイロットルームに向かわせます。」

「医務室って、そいつ使えるのか?」

「大丈夫でしょう。艦長も手加減していたらしいですし、・・・・・・多分。」

プロスが、ジュンを見るとジュンは申し訳なさそうにうなだれる。

リョーコ達は、あいつかと頷いた。

「ま、いいでしょう。じゃ、待機してましょうか。リョーコ、ヒカル。」

「あいよ。」

「アイアイサ〜。」









3人が出て行くとプロスが、ジュンに近づき

「艦長。」

「プロスさん、どうしました?」

「レイナードさんなんですが、少々落ちこんでいまして、士気を維持するためにお願いできますか?」

「分かりました。」

ジュンが展望室に着くと、メグミは風景も見ずにひざを抱えて座り込んでいた。

ジュンは、その隣に座り込むとどう話しを切り出そうかと悩み中々声をかけられなかった。

しばらくすると顔を下に向けたままだったが、メグミの方から話し掛けてきた。

「ジュンさん。みんな、みんな悲しくないんでしょうか、サツキミドリの脱出艇だって生きられるか分からないだろうし、逃げられなかった人がいるかもしれない。ナデシコ出港の時も、あの時は、仕方なかったって割りきりましたけど、でも私は・・・・・・。」

「身近で人が死んで悲しくない人なんていないわ。でもね、みんなで動揺していたらどうなっていたと思う?人が死んだのは悲しいことよ。でも、そのためにやるべき事をしなかったら被害は増えるばかりよ。木星蜥蜴に襲われていたかもしれない。悲しんでいて整備班がジェネレーターを修理しなければどうなっていたと思う?」

「それは・・・・・・。」

「悲しみを押し殺してやらなきゃいけないこともあるのよ。」

「でも私は、割りきれそうにありません。」

「そう、私はね。軍人の家系に生まれ父の姿を見ていた。印象的だったのは父が友人のお葬式に行く時だったわ。生まれてからずっと紛争が起こるたびに父の友人は減っていったわ。いつも私は怖かった。明日は父が死ぬかもしれないと。」

「当たり前ですよ。」

「そう言ったら父は、私の頭をなでていったわ。『軍人の仕事は屍の上に平和を築く事、そこには悪人だけ出なく、何の罪もない一般人もいるだろう。でも、私は戦う。そこにジュンやアツヒロ、お前達次世代の子供の未来があると信じているから。』って、もちろん、始めは納得できなかったわ。でも、自分で進路を決める時に気付いたの。私も未来のために戦いたいって。現状を悲観するのは誰にでも出来る。でもね、生きている者は死んだものを踏み台にしてでも、同じ過ちが繰り返されない未来をつかむことが絶対の責務となるの。だから私は、軍人になった。父に言われたからでもなく、私の意思で軍人になった。」

「それは、ジュンさんだからです。私には・・・・。」

「目の前に轢かれそうになっている子供がいたら助ける?」

「もちろんです。」

「例え自分が死んでも?」

「はい。」

「それは、次代の子供に道を託すことにならない?」

「そうですけど。」

「そして、その子は考えてくれる、何故その人は自分の命を投げ出してまで救ってくれたのかと、自分はどう言う道を歩めば良いのかと。それは私達も同じ、死んでしまった人が何を思い、どうしたかったかを考える。その人達に変わって何が出来るのかを考える。それが戦争のある時代に生まれ、生きている私達の責務だと、私はそう思うわ。」

そう言うとジュンはメグミを見ていた視線を前に移し、

「でも、見ず知らずの人の考えなんて分からない。だからこそ、私達は生きる必要がある。これ以上犠牲者を増やさないように。彼らの死を無駄にしないという事を教訓にして出来る事を増やしていくのも一つの考えだと思うわ。別に忘れなさいとか、慣れなさいといっているわけじゃないの。ただ、被害を少なくする努力を、あなたなりにするだけなんだから。」

「私の出来る努力・・・・。」

「差し当っては、元気にオペレーターやって欲しいわね。貴方の声は、ナデシコクルーの活力のもとよ。減俸されないうちにね。」

「あ、ひど〜い。」

ジュンとメグミは、立ちあがり互いに苦笑した後歩き出した。

と、途中でジュンの足が止まるが、メグミは気付かずに出ていった。

メグミの背中を見つつジュンは思う。

「がんばりなさい。あなたは、まだ私のように深みにはまってないんだから・・・・。」

そういうと、視線を落すジュンであった。












ピッ

『アキト君だったわね。ヴァルハラの社員なんでしょう?聞きたいことがあるのいい?』

「俺に分かることなら」

『ヴァルハラにエステバリスライダーで、ディアス=クロムウェルって男いないかしら?』

「ディアスか、知っているが彼がどうかしたか?」

『イズミちゃんの彼氏なんだよね〜♪』

『あぁ、前に言ってた奴か。戦場で一緒に戦ってたらある日突然いなくなって、これまた突然にヴァルハラに入社したって連絡してきたんだろ?』

『そう・・・、一発殴ってやらないと気がすまないのよね。』

「そ、そうか。(まずい、ディアスは俺が西欧で引き抜いた奴じゃねえか。責任の一端は俺にありか!?黙ってよっと。)」

『マスター、それってマスターが西欧で引き抜いたって人でしたよね。』

『あ、あのナンパ男だね。サファイア姉とヒスイ姉にいいよってたって、ウルドとベルダンディーが言ってたよ。年一回り近く違うのにさ。』

(ああ、地獄をありがとう。エル、フィン。)

「な、何だ!?今の誰だ?」

「アキト君以外乗ってないはずでしょう?その機体。」

「ああ、紹介してなかったな。エル、フィン自己紹介して。」

『はい、スバル様、アマノ様、マキ様。僕はエル、当機の機体管制を主にするAIで、『私はフィン、同じく武器管制をしてます。二人ともどもよろしくお願いします。』』

「おう、よろしくな。」

「よろしくね〜。」

「よろしく。で、エル君、フィンちゃん聞き捨てならないこと言ってたわね。引き抜いたのアキト君だって?」

ギクッ

「ええっと、その。」

「帰ったら詳しい話聞かせてもらうから、いいわね?」

「はい。」






「んじゃ、素もぐり開始〜。」

「ちょいまち、ガイは?」

「ガイ?そんな奴しらねえぞ。」

「おかしいな、エステに乗って待機していたはずなのに。」

「ねえ、リョーコ彼じゃない。格納庫でリョーコのエステに乗ろうとしてたから、リョーコがボコった人。」

「ああ、いたわね、そんな奴。」

「ああ、あいつか〜。人のエステ乗ろうとしてやがったからな。」

(おいおい、ガイ生きてるのか?ま、自業自得か。どうせセイヤさんの言葉聞かず突っ走ったんだろうからな。)

「ま、いいか。行こうぜ、いいな、アキト。」

「ああ、了解。(すまん、ガイ。お前の事は忘れん。許せ。)」




ちなみに、ヤマ「ダイゴウジガイ!!」は、全身打撲と3ヶ所の複雑骨折にもかかわらず、

「俺が死ぬのはコックピットの中だ!!」

の言葉と供に復活し、自室でゲキガンガーを見ているうちに全快したそうである。






「これほどひどい損傷が出てるとわね。」

イズミが、サツキミドリのはがれた内装をエステの手でどけつつ言った。

「核パルスエンジンが爆発したからな。逃げられなかった者は生きていられまい。」

アキトは、声のトーンを低くしそう言う。

「他人とは言え、辛いね。」

イズミの後ろを歩くヒカルが、目じりに少し涙をため言う。

「だな。だけど、オレタチャ生きてる、立ち止まる事なんて出来ないぜ。」

リョーコの言葉に頷き、4人は進み出した。

「さてと、探すか〜。」

「ああ、おっきい真珠みっけ!!」

ハンガーの奥に片足をたたんで座るような感じで無人のエステがあった。

「んじゃ、回収作業始めるか。」

リョーコ達は、集まりそのエステに向かって歩き出そうとした。








『マ、マスター。』

「どうした?エル。」

『そ、それが、「エルフィンシリーズの予備装甲及び武装をちょっと前にサツキミドリに送ったよ〜」というラピスからのメールが今時間差で届きました。』

「何ーーーーーっ。」

「どうした?アキト。」

大声をあげたアキトを振り向いて見る3機のエステ。

「ん、いや、悪いが少しヴァルハラの私物を探してくる。」

「バッテリーだったら残量に気をつけろよ。」

「ああ、わかった。」

「エル、場所どこだ?」

『近いよ、1ブロック先。』

「よし、可能であれば持って帰る。最悪破壊する。」

『『了解』』








リョーコは、アキトが出て行くのを見送り、視線を無人のエステにもどした。

「さてと。」

リョーコが、エステに触れようと、手を伸ばしたその時、無人のはずのエステの目に光がともる。

ブゥゥゥゥゥン

「下がりなさい、リョーコ。」

驚くリョーコに対し、イズミが冷静に言う。

「え!?」

リョーコが、前方を警戒しつつ下がる。不自然な動き方をしながらもエステバリスが、立ちあがる。その身に多くのバッタを着けて。

「うわぁぁ、デビルエステバリスだ〜」

「なんだそりゃ。」

「蜥蜴にコンピュータ乗っ取られてるようね。」

3人がうろたえる中、バッタのミサイル発射孔が開き、これでもかと言うほどのミサイルが打ち出される。

ズドドドドドドドドン。

「くっそ、エネルギーの無駄使いさせやがって。」

3人は、体勢を低くしディストーションフィールドを纏う事でミサイルをしのいでいた。

リョーコ達が立ちあがるとデビルエステがこっちに銃口を向けているのが分かった。

リョーコは、ジャンプで回避しわざと遠回りして回り込んでいく。

「総重量はそっちの方が重いんだ。スピードの差で懐に割り込んで接近戦なら。」

リョーコが、つかむかと言う時、デビルエステは手にあるバッタを飛ばしリョーコの攻撃を回避する。

「ふぇぇーーん、速すぎるよ〜。」

「図体重そうな割にやるわね。」

「どうするのリョーコ。」

「へへっ、こちとら売られた喧嘩だ。やってやるぜ〜。」

リョーコの一言で、ヒカル、イズミの二人はデビルエステの真正面から突っ込んでいく。

「必殺ダブルアタッーク。じゃなくって・・・・・。」

デビルエステの両の拳に迎撃されはね返されるヒカル機、イズミ機。

しかし本命は後ろからやってきた、二人以上のスピードでデビルエステの懐に入ろうとするリョーコ。

「ボディががら空き・・・。なっ、か、かわしただと!?」

しかし、何故か分かっていたかのようにデビルエステは右腕をそのままの姿勢ではずし、右によける事で攻撃を回避する。

「リョーコ、ボーっとしてないで、回避!!」

「わあってるよ。」

はからずもデビルエステに背中を見せる格好となってしまったリョーコ機にデビルエステの銃口が向けられる。

「「リョーコォーーーーーッ。」」

絶望的な状況下でヒカルとイズミが叫ぶ。

その時、3人のまったく気付かなかった地点から数十発の弾丸が撃たれ、デビルエステのバッタのみを直撃し、機能停止させる。

「おしかったな。」

そう言って物陰から出たのはブルーエルフィンだった。

「アキト(君)!!」

「さて荷物運ぶか。」

あまりのタイミングの良さにリョーコは、通信にもかかわらずアキトに詰め寄る。

「テメエ見てやがったな。俺達が戦うとこ。」

「ああ、見てた。デビルの反応があったからな。お前達の腕を見るにはちょうどよかった。」

「ったく、一言ぐらい言ってけよな。」

「教えてくれてもいいじゃないのさ〜。」

「まったくだわ。」

「だが、そのおかげで3人の実力が測れた。ま、講釈は帰ってからシミュレーターでしよう。」

シミュレーターという言葉が、リョーコの中でこの天狗(アキト)の鼻をへし折れるとでも思ったのか、黒衣の天王と戦える事に対する喜びなのかわからないが彼女を黙らせる事に成功した。

「チッ、まあいい。荷物もって帰ろうぜ。」

「ちょっと疲れたね〜。」

「シャワーあびたいわ。」

「ん、アキトそのコンテナ何だ?」

アキトが引きずってきたコンテナを目ざとく見つけたリョーコが尋ねる。

「俺の機体と同型の機体用の装甲と武装だよ。これから必要になるかもしれないしな。(しかし、武装、装甲とも触れられた形跡がまったくない。見つからなかったとでも言うのか?しかも、予想外にデビルエステが強かった。歴史は変わりつつあるって事か。)」
















ブリッジは、新しい副艦長が来ると言うことで静かだった。

副艦長が来るという事でアキト達もナデシコ帰還後、簡単にシャワーを済ませ着替えただけでブリッジに集まっていた。

「みなさん、お集まりのようですね。」

プロスさんが、ジュンと供にはいってくる。ジュンは、アキトと目があうとすぐにそらした。

プロスさんは、そんなこと気にせず話しを続ける。

「では、副艦長の紹介です。どうぞ!!」

ブリッジのドアが開き、彼女が入ってくる。満面の笑みを浮かべ・・・・

「は〜い、私が副艦長のイツキ=カザマで〜す。よろしくね。」

「何〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ。」

アキトが叫び、ジュンがアキトを睨む。

「むふふ、アキト君。何叫んでるの〜? 私が、副艦長なのがそんなに嬉しい?」

アキトの前に来た小悪魔が、アキトを見て嬉しそうに笑う。

フルフル、アキトが、激しく首を振ると、気分を害したのか再び爆弾を投下した。

「一緒にデートした仲でしょう?」

ピク、アキトがジュンをチラッと見ると笑顔に青筋を立てているのが分かる。

(まずい・・・・・、非常に・・・・・・、異常に・・・・・・、危険だ!!)

「じゅ、十年以上前のことだろう・・・・。」

(よし、いいぞ俺。すべては時の彼方にだ。)

「火星大戦の一年ぐらい前にしたじゃない。」

「あ、あれは、お前一人とじゃなかっただろう。」

「だね。女の子ばっかり5人いたもんね。」

どうやら、アキトは、悪魔の目論み通り、藪をつついて大蛇を出したようである。

ガシッ!!

恐る恐る後ろを見ると、笑顔のジュンがいた。修羅の気をまとった・・・・

「皆さん、私の本日の仕事は終わりましたので下がります。何かありましたら呼んでください。さて、ちょ〜っと、お話しましょうか? ア・キ・ト。」

「ジュンさん。ジュ、ジュン様。ど、どうか・・・、お慈悲を・・・・。」

アキトは、ジュンに首をつかまれ、ブリッジアウトした。

尻尾を生やしハンカチをふる小悪魔が引き起こすであろう騒動に対する考えと、なぜ肺の下の辺りが痛むのだろうと言う切実とした考えが交互にうかんだ。




イツキは、哀れな獲物(アキト)を見送るとブリッジを見回し、にこやかに笑いながら宣言した。

「にししし、副艦長のイツキカザマです。今の趣味は、アキト君いじめです。」


















<おまけ>
「で、アキト君、ディアス引き抜いたの間違いなく君なのね?」

「はい。そうです。」

「ディアス生きてるのね?」

「まず間違いなく生きてると思う。ま、あいつは守るべきものの中に女性がいれば、まず死なないからな。」

「・・・それについては否定しないわ。で、彼はどこに?」

「特別任務中で教えるわけには・・・・・・、分かりました言います。言うからその握った拳とマイクを引っ込めてくれジュン、イツキ。」

「分かればいいのよ。ねえ、ジュンさん、イツキ。」

「そ、さっさと吐きなさい。」

「吐け吐け〜♪。」

「ディアスは、火星にいます。生き残った火星の人間を守護しています。」

「火星に?何でそんな所に。」

「始めは俺が仲間の一人に頼んだんだけど、いろいろあって俺の属するシヴァの隊員4人で火星の生き残りを集めて、それを守護する任務についたんだよ。」

「その中に女性は?」

「一人いるが、彼女はディアスじゃない男性と恋仲だから問題ないと思う。」

「アキト、貴方じゃないでしょうね?」

「もちろんです。ああ、でも、ディアスに関しては生き残りの女性の方がヤバイかも。あいつ天性のスケコマシだから。」

「それについても否定できないわ。艦長、一刻も速く火星に行きましょう。」

「プロスさんと要相談の必要ありですね。」

「そうね。」

(何故だ!?なんで女性がこんなに強いんだ!?前回の歴史と違いすぎるぞ。しかしいつの間に仲良くなったんだイツキとジュン!?)

「アキトも、協力してくれるわよね。」

「イエス・サー、もちろんであります。」

「なんかいやそうじゃないすか?艦長。」

「そうね。じゃ、イツキちゃん、アキトの人に言われたくない過去をナデシコクルーに披露してあげなさい。」

「ういっす。ナデシコの皆さ〜ん、臨時ニュースです。アキト君は〜。」

「待て、待ってください。協力でもなんでもしますから、勘弁して下さい。」




(ねえ、フィン。ラピスに報告する?)

(楽しいからしようよ。エル。)

(んじゃ、映像付きで送信と♪)



拝み倒して何とかイツキの口撃を免れたアキトであったが、後日、ラピス、サファイア、ヒスイのMCガールズに激励され、さらに落ちこんだらしい。













<あとがき>
どうも、PAMUです。
やりました。やってしまいました。ミスマル嬢に続く第2段、イツキ=カザマ嬢です。
テレビでは、1話限りと言うかほとんど出番無しだった彼女ですが、このSSでは、アキト君をいじめて、いじめて、いじめ倒していきます。
イズミの性格も変更しました。ギャグ無しつねに冷静沈着なイズミさんです。ギャグの無いイズミさんてあまりSSで見たこと無いし、いいかなと思っております。ま、このSSではテレビのあの性格は、元からの性格でなく恋人と死別したためなったのではないかと言う私の勝手な憶測のもとに生まれ、恋人を出しました。本当は、ギャグが浮かばない私の個人的な理由です。(笑)
次回の更新もっと早くできると良いなと思っております。

 

 

代理人の感想

・・・・・・・必然性も笑えもしないのに主人公いじめて楽しい?(苦笑)

後、キャラクターの性格を変更するにしても、変更ばっかりだと、ねぇ・・・・。