機動戦艦ナデシコ 逆襲のユリカ 



カツーンカツーンカツーンカツーン・・・
バターーーーーーン。

2202年7月7日。

階段の上にあるその台において、テンカワアキトは首をつるされた。

彼は去る前、最愛の妻の名を幾度と無く呟き続けていたという。


・・この物語はこの2年後から始まる。

−−


−連合宇宙軍佐世保支部−

「ユリカさん、お茶が入りましたよ。」
「・・・そこに置いといて。」


義母の仕事部屋にお茶を持って来たルリだったが
ユリカの返事はそっけない。

”あの日”以来、ユリカは変わった。
旧友の誰とも交わろうともしなければ
残された娘達とあえて係わろうとはしない。
以前ならここで「ありがとうルリちゃぁん!」等と言ったであろう。

今は暇を見つけては一人で出かけ、
それ以外はひたすら仕事に打ち込んでいる。

加えてこの2年、ユリカは笑顔を見せていない。
ルリやラピスはそれが気が気でならなかった。


「ユリカさん・・・、あの・・ラピスが・・。」

上目遣いでルリは口を開く。

「ホシノ少佐、今は勤務中です。
 プライベートに関する発言は禁じています。」
「しかし!ラピスはユリカさんに会いたがって・・!」
「命令無視は銃殺刑に処されますよ。」

ユリカはそう言うと腰のホルスターから
見覚えのある銃を取り出し、銃口をルリに向ける。
アキトが愛用していたあの銃が。

ここは軍隊である。上官への命令無視は反逆罪だ。
ルリは黙って言う事を聞き、敬礼する事しかできない。

「・・・了解しました。申し訳ありません。
 ・・・テンカワ・・大佐殿・・。」
ルリはそう言うと部屋を出て行った。
その顔には涙こそ流れていない物の、非常に寂しそうな表情を浮かべている。


ルリが出ていくのを確認すると、
ユリカは受話器を取り、ある場所に連絡を入れる。
出て来たのは少なくとも宇宙軍の物では無かろう軍服を来た若い士官。


「こんにちは私です。」
『テ、テンカワ大佐!どのようなご用件で!?』
「新城中佐はいらっしゃいますか?」
『はい!少々お待ちを!!』

しばし音楽が流れた後、(←しかもゲキガンガーのテーマソング)
電話の向こうの人物が変わった。

『お待たせいたしました大佐・・いえ総帥!!
 旧木連軍草壁春樹中将副官・新城中佐であります!』
「総帥はよして下さい。
 今はまだ地球連合宇宙軍大佐なんですから。
 それより、事は進んでいますか?」
『は!大佐のナビゲートによる地球資源の極秘輸送によって、
 今我々の現在の戦力は3年前相当の物までに回復しております!』
「私の旗艦はどうですか?」
『大佐の艦は完全にできあがっており、
 例のブツの積み込みも完了しております!!』
「兵の数は。」
『残党をありったけ集めました所
 以前の半数程は。後は無人兵器でカバー致します。』
「例の量産機。」
『現在120機が実戦配備可能です。』

「ふむ。」
ユリカは席を立つとしばし考え込み、
部屋をうろつく。

「よろしい。
 今にでもそちらへ伺います。長い通信は傍受されかねないのでこれで。」
『お待ちしております。』
話が終わるとユリカと新城はビシっと敬礼。
そしてプツリと通信は切れた。

「・・・。」
ユリカはその場に立ちつくし、両方の薬指にはまっている1ペアの指輪を見た。

「アキト。
 アキトの無念、もうじきはらすから。」

そう言うとアキトの指輪をぎゅうっと握りしめる。


「さて、では・・。「待って下さい!!」」
バンとドアが開く。先程の少女がドアの向こうに立っていた。
とてもひどく焦っている。

「覗き見してたの?お行儀悪いよ。」

ピシィ・・。冷たい視線がルリに注がれた。

「そんな事どうだっていいです!
 ユリカさん!今の人、木連・・いえ、火星の後継者の方でしょう!?」
「そうだけど。草壁中将の元副官さん。」
「テン・・いえユリカさん、内通してるんですか!?一体何故!!」
「分かってるでしょルリちゃんなら。そう言うワケだよ。」
「アキトさんはそんな事望んでません!!」

ルリの言葉を聞いたユリカは机の引き出しからある物を取り出し
身にまとった。
アキトの遺品の1つ・・・漆黒のマントと、バイザーである。

「私だって当時起きてたらアキトの復讐なんて望まなかったと思うよ。
 でもね、いざとなると自分はやりたくてしょうがないの。
 人の大切な物を奪っておいてのほほんと暮らす連中を、許しておけなくなる。」

「だったら何故後継者に加担するのです!
 そもそもの原因は後継者だったはず!」
「アキトを殺したのは連合宇宙軍だよ。
 世論にいい訳が立つように、言いがかりを付けてアキトを殺した!!
 誰のおかげで後継者を撃退できたか知っておきながら!!」

ここ最近は比較的穏便なルリとユリカだったが、
この密室ではお互い激しい檄を飛ばしあっている。

「ルリちゃん。私は絶対許さないよ。
 アキトを殺した軍も、
 おもしろ半分でアキトを悪者にしたてあげるマスコミも、
 何も知らない癖に勝手にアキトを侮辱する世論も!!」
「だからって反地球連合に寝返るのですか!?」
「正確に言うと違う。」
「え?」

ユリカの視線がさらに鋭さと冷たさを増した時、
彼女は言った。

「私が後継者の残党をまとめあげ、宣戦布告するのよ。この地球連合に。
 この2年はそのための準備期間。」

「ユ・・ユリカ・・さん・・。」
ルリの表情がおびえた物に変わる。
この氷牙のようなユリカの視線の前に、ルリはひざががくがく鳴る。
「恐怖」ルリはユリカに対して初めてこの感情を持った。


「じゃあねルリちゃん。
 いますぐ月か火星あたりへ引っ越す事をすすめておくよ。
 くれぐれも前線に出ようなんて思わないで。」

ユリカはマント内に装備してある、
ジャンプフィールド発生装置のスイッチを入れた。
ボース粒子が彼女の身体を包み込む。

「ま・・待って下さい!!
 御自分の仲間に矛を向ける事になりますよ!!」

しかしルリの言葉に対する返事は帰って来ぬまま、ユリカは消えた。
亡夫の黒衣をまとった、百合の花が。

後に残ったルリは膝から崩れ落ち、
床に両手をついて一人涙を流した。


−−−

「こんにちは。会うのは久しぶりですね。」

ユリカが跳んで来た場所は木星軌道上の後継者の本部。
話しかけた相手はユリカの留守を預かっている新城。

「こんにちは。え〜と、もう総帥でよろしいかな?」
「はい。そう呼んで頂ければ。」
「ところで何ですその格好?」
「見覚えありません?主人の復讐衣ですよ。」
「あ、なるほど。分かりました。では閲兵をお願いします総帥。」

二人は体育館へ向かった。
ここの体育館にはご丁寧に演説台がついているため演説にも利用される。

二人がついた頃には
数千数万の将校達が所狭しと整列している。

二人はそれら全員の見守る中、真正面の演説台へ登る。

まず新城がマイクを手にした。

「崇高なる使命とたった一つの正義の為に立ち上がった正義の使者達よ!!
 常に我等の正義は悪の地球人に妨げられてきた・・が!
 それも今日までである!!
 
 数年前、我等の精鋭部隊をたった1艦の戦艦で次々と撃破し、
 我々が連合の悪魔と恐れた戦艦”撫子”の艦長、
 テンカワ、旧姓ミスマルユリカ閣下が我等の指導者として立って下さるのだ!
 太陽系最強の指揮官がついて下さったのは、
 神が我々を勝たせんと、再度我々に与えたもうたチャンスである!!
 この機を生かし、悪の根源地球連合を徹底的にたたきのめすのだ!!」

「「「オオオオオオ!!!!」」」

一方的な演説。
沸き上がる歓声。
騒ぎ立つ将校達。
・・・これがファシズム下の情勢なのか?

「では、新たな指導者テンカワユリカ総帥、どうぞ。」

新城はマイクをユリカに渡す。
ユリカは小指を立ててゆっくり話しだす。

「まず言っておきます。私はあなた方の正義の為に、
 あなた方をまとめあげたのではありません。」
「「「え?」」」
「ちょっと総帥?」


「しかぁぁぁし!!」
「「「!!」」」
ユリカの声が急に大きくなった。

皆思わずびくつく。
普段あれだけ騒いでるこの連中がびびる大声。
どれほどの物なのか検討がつかない。

「地球連合の分からず屋さんをけっちょんけっちょんにするという事では利害が一致します!!
 ですから連合を叩くまでは私の指揮下に入っていただきます!!
 その後は新ちゃんに任せます!!
 正義でも何でも貫いてくれて結構!!

 (新ちゃん、地球に映像送信開始!)(ハイ!)<”新ちゃん”すでにパシリ・・・

 では!!
 現時刻を持ちまして!!
 わたくし火星の後継者臨時総帥テンカワユリカは、
 地球連合政府に対して宣戦を布告致します!!」

「「「ワァァァァァァ!!!」」」


・・・こうして第2次火星の後継者戦の火蓋が切って落とされた。




−−
次回予告ぅ〜


「僕は・・親友として、君を止める!!」
「貴方の親友だった女は、もういない。」


「おかしいです艦長!!
 敵主力艦隊に”Y−ユーチャリス”の姿がありません!」
「まさかユリカさん・・・これは陽動!?」


 ごごごごご・・・・。
「行けアマテラスコロニー!!忌まわしい記憶と共に!!」


「過去の男に固執したって何も生まれません!!」
「うるさいよルリちゃん!!」


「こんな物落としたら地球、寒冷化しちゃうじゃないですか!!」
「イズミさんのギャグが年中続いてると思えばいいよ!!」
「(・・・怒。)」


・・・以上次回予告でした。
ちゃんちゃん♪
(全然ちゃんちゃんなイメージじゃねぇ・・。)

 

 

 

代理人の感想

やるじゃない。(ニカッ)

 

って感じですね(笑)。

連載にするもよし、一発ネタにするもよし。

 

ただ、シリアス連載にするなら(元ネタであるとは言え)予告は賛否両論かなぁ、とも思いました。