時は火星の後継者の反乱からおよそ半年後。




以前は”幽霊ロボットはテロリスト。”・・等と紙面を飾っていた新聞も、

”闇の貴公子はラーメン屋だった!?”・・等と放送していたTV局も、

情報の回転力の前に、彼の事はもはや過去の出来事とし、

まったく関連記事を出さなくなっていた。



だんだんと巷では忘れられつつある

闇の貴公子と彼に仕える金瞳の妖精は・・


・・火星にいた。


ナデシコ2次小説


XDAYのこんな騒動 前編


火星は蜥蜴戦争終結以後より地・木両星人の共同植民星として

復旧作業が進められていた。

一度は廃墟と化したとは言え、

火星と言う広大な土地は放っておくにはもったいなさすぎる。


その領土は何億人と言う人々に住処を与える事ができる為

地球の難民問題解決にかなり貢献する事だろうし、

木星側が問題としている資源問題もかなり軽くする事もできるだろう。





ここネオユートピアコロニーは

ユートピアコロニーの跡地に造られた比較的新しいコロニーである。

”彼等”の隠れ家はこのコロニー内の街の一角にあった。

彼等がこの地を隠れ家に選んだのは某貴公子さんの望郷の念と、

まだ街は復旧途中でバタバタしている為隠れるのに都合が良かったからだ。



火星・ネオユートピアコロニー




「ちゃんちゃかちゃかちゃかっちゃんちゃんっっパフッ♪
 ちゃんちゃかちゃかちゃかっちゃんちゃんっっパフッ♪」


アジト・・隠れ家の台所で”笑〇”のテーマを口ずさみながら

ガチャガチャとホイッパーでボウルの中をかき回す桃髪金瞳娘。

某貴公子さんが地球に残してきた娘・・ルリの名から取ってラピスと名付けた少女。

ハイテンションな彼女の背後にひとつの影が近づいていた。



「ちゃんちゃらららんちゃんちゃららら〜♪・・・・ん?
 何やってんだラピス。」

ラピスの背後に現れた吉〇新喜劇のテーマを口ずさむ黒衣に身を包んだ男。

Prince Of Darkness・・

闇の貴公子と呼ばれたテンカワアキトその人である。



「ちゃんちゃかちゃかちゃか〜♪」

「おーい。」

「ちゃんちゃかちゃかちゃか〜♪」

「・・・。」

その後何度か後ろから呼んではみたものの反応は無し。

よほど熱中しているのかアキトにはまったく気づかず

彼女の〇点を口ずさむ”口”とホイッパーを回す”右手”だけが、

ただひたすら動いている。



「何やってんだよってばラピス!」

業を煮やしたアキトはラピスの肩に手を乗せて口を彼女の耳に持っていく。

これなら起きている普通の人間は起きるはず。

例えそれがWhite Snow・・・某白雪姫であっても。


「きゃっアキト!?」

やっと気付いたラピスは声を漏らし、瞬時にホイッパーを片付け

両手でボウルを抱え込み中身を隠した。


「おい、何のつもりだ?」

不思議に思ったアキトはラピスの手をつかんでボウルから離し、

中身を見ようとする。



「見ないでっ!!」

「いいだろ別に。」

アキトに腕を引っ張られながらも懸命に中身を隠そうとするラピス。

・・がどちらの力が強いかは明白。

ラピスの身体はじわじわとボウルから引き離され、最後まで抵抗していた

彼女の指先もついに陥落した。


「んーーー?」

アキトはボウルの中を覗き込む。

「あーーー!!見るなっバカアキトッ!!」


中には黒いどろっとした物体が甘い香りを発していた。

ラピスも観念したのか騒ぐのをやめる。


「・・チョコレートか?」

「(・・こく)」

黙って頷く。

「隠すこたないだろ。」

「だって・・。」


ラピスのその呟きはアキトには届いてなかった。

いや、意味が分かってもらえなかったのかな。

−−



「あのなラピス、これだけじゃちゃんと出来ないぞ。
 おいしく作るにはこっちの調味料をだな・・。」


アキトはキッチン内の戸棚に手を延ばし、

あれこれ調味料を取り出し始めた。

このお節介が後々騒動を引き起こす原因となるんだが・・。


「あーこれだこれ。そんでーー。」

ぶつぶつ言いながら瓶を引っかき回す。


「こんなもんでいいか。」

数秒後には卓上にバニラエッセンス他いろいろな調味料が並べられていた。

アキトはそのうちのひとつを取り、フタを開け、瓶を傾ける。


「あっ!!ダメッ!!やめてっ!!」

左手で抑えられ、おとなしくなっていたが再び騒ぎだすラピス。


「いいからまかせとけって。悪いようにはしないから。」

「やめろっ!!このっ!!バカっ!!」


ポタポタ。言ってる間に数滴の調味料がボールへ垂れる。




「ああ・・う・・ううっ!」

ラピスの金色の瞳からも同じように水滴が流れ出す。

その量はだんだんと増し、彼女の白い顔を濡らしていった。


ばち!

「痛てっ!」

アキトのスキをついて自分を抑えていた左手を振り払うと

一目散に勝手口へ走る。


「ラ・・ラピス・・?」


何故ラピスが泣いているのか分からなくて首を傾げ

声を漏らしたアキトにぶつけられたのは次の言葉だった。


「アキトのバカッ!!家出してやるぅぅぅぅ!!!」


・・怒鳴り終えるとラピスは勝手口のドアをあけ

北風の吹く冬空の下に身を投げ出していた。


「うわあああああああああああ!!!!!」


そしてラピスは物凄いスピードで、

後を追って外へ出たアキトの視界から消えていった。




「ラピスッ!?一体どうしたんだ!?反抗期かっ!?
 お父さんはお前をそんな風に育てた覚えは無いぞ!?」



アキトは気付いていない。

キッチンに貼ってあったカレンダーの2月の某日の欄にハートマークが描かれていた事を。

尤も描いてある事に気付いてもそれが何を意味するかまで気付くかは分からないが。


−−


「えぐっえぐっ・・。」


涙をか細い腕で拭いながら、

ラピスは何処へ行くというわけでもなく冬の街を歩いていた。

火星の冬は寒い。

彼女の服装は暖房の効いたアジト内だったから半袖のワンピースで十分だった物の

このコートが必要な程の環境に置いては防寒としての意をほとんど成さない。


「寒いよう・・。」


彼女の青ざめた唇が動くと共に周囲の宙が白く染まり。

鼻の先から流れ出した水が顎のあたりで涙と混じる。


「帰ろうかな・・・。」


肩を両手で抱き、がたがた震えながら、ラピスは道の端に座り込んだ。


「う・・もう・・歩けない・・。」


ルリもそうだが研究所生まれの研究所育ちが多いマシンチャイルドは

超がつく位のもやしっ子が多い。

基本的に生まれた時から物心つくまでずっと冷暖房完備の部屋にいるのだから。

ハーリーみたく一般家庭に引き取られるケースも無くはないが、

そんなパターンは極々まれ。大抵は気候に対してひ弱なのだ。

にも関わらず着ている衣服は半袖のワンピース。


・・・寒すぎる。



「・・・アキトォ・・。」




ばさ。そう呟いたラピスの肩に一枚のコートがかけられた。


「アキト・・?」


かけられたコートで首下から覆ったラピスは

顔を上に向けた。


「大丈夫?お嬢ちゃん。」


ニコニコ笑った長髪の女の人が、彼女の目の前に立っていた。




−−



どん!!!!


「あのラピスが・・・ラピスが俺に”バカアキト”って・・

 ラピスが・・。ラピスがグレてしまったんだぁぁぁぁぁ!!!

 そうでなきゃ反抗期だ!!俺に反抗するラピス・・うおおおお!!!」


場所は月。

具体的に言うとエリナのトコロ。

ラピスに関する事で困った事があればアキトは基本的にココへ来る。


バーのカウンターにうつ伏せ、グラスをテーブルに叩きつけているそのサマは

酒に溺れた親父そのもの。

いや、酔っぱらってるから酒に溺れてる事は確かなんだが。

既に2子持ってるから・・親父って事も確かかな。



「あんないい子だったのにさ・・

何時からだろうな・・アイツと共に戦い続けたのは・・。

俺がパスワード解析とか呟いただけでちゃ〜んと言う事聞いてくれてたのにさぁ・・。」

「はいはい。」


バカ酔いしているアキトの隣でグチを聞いているのはこのバーの

支配人を兼ねているネルガル重工の会長秘書。めちゃくちゃ呆れた顔をしている。


「くそぉ・・ラピス・・。」


「はぁ・・。それで、何があったの。
 あなたが原因って事もあるかも知れないんだから最近の彼女との
 コミュニケーション聞かせてちょうだい。」


「ああ・・異変が起きたのはちょっと前の事なんだがな・・。
 俺があいつのチョコレートづくりに手を貸してやったら急に怒り出してさ・・。」


「・・・。」



エリナが逆上し、アキトが怯える構図が描かれるのにそう時間はかからなかった。


−−−
あとがき

前後編か・・・続けられるのか?


代理人の感想

も・・・・「盲点」(謎爆)?

 

それはさておき、エリナって出来た嫁さんだよなぁ(笑)。

アキトもまんま駄目亭主だし。

あるいはお客の愚痴を聞いてあげるバーのママさんと言う構図か・・・・・

は、まさかその為にバーの支配人なんぞを(爆)?