漆黒の戦神アナザー外伝

「敷島 英二の議」

 

 

 

 

プロローグ

 

 

 

 

 

 

 

「それでは本法案は賛成多数により可決致します」

地球連合議会において「経済再生五箇年計画法」が採択された。

地球圏・木星圏間の戦争、通称「蜥蜴戦争」が一応終結した。戦後復興に向けた各種計画が盛りこまれたこの法案は、大規模軍縮と復興の為の大規模公共事業が目玉である。

仕事は幾らあっても困らないし、その費用を捻出するための軍縮であった。

 

 

この法案の基本草案を制作・修正した財務官僚が、財務長官の前に立っていた。

「本気かね、シキシマ君」

「はい、長官。戦争が終わった当初より考えていた事です」

財務省官僚のトップ、シキシマ エイジ財務事務次官は封書を財務長官の執務机の上に置いた。

 

「辞表」

 

封書にはそう書かれていた。

「何が不満なんだ。君はこのまま行けばいずれ財務長官も夢では無かろうに」

「一身上の都合、としか申せません」

シキシマの事を慰留しようとするが、本人にはそのつもりが無いらしい。

「法案が可決された以上、私の地球連合に対する仕事は全て終わりました。あとは

私が居なくても出来る事だけです」

「・・・退職して何をやるつもりだ。まさか「漆黒の戦神」の元に赴くつもりか」

地球連合議員の間で「漆黒の戦神」問題はかなり酷い状態で、二派に分かれて論争が起こっていた。

戦神擁護派と排斥派で、後者が圧倒的多数だった。理由は様々だが共通した思いは、「権力が戦神に奪われるかもしれない」が根底に在るからだ。

本人が聞いたら、鼻で笑ってパンチをニ〜三発かますかもしれないが。

「娘も嫁ぎましたし、再就職先が婿殿の元もいいかと考えましたが、今の所そのつもりは有りません」

 

一人娘のカスミがアキトに嫁いで(押し掛けて、とも言うが)一年たっている。

後から後から、嫁が増えていく気配こそアレ、減る気配は一向に見られない。

アキトの二十五、六人目の義父となったシキシマだが、その事については全く気にもしていない。本人曰く、

「婿殿と娘が決めたことだし、親が口出しする問題でも無いだろう」

娘の自主性を重んじているのか、放任主義なのか、無責任なのかよく解らない言葉だ。

ちなみに親友の青山の娘達もアキトに嫁いだらしい。

青山と言う人物は京都で千年以上続いている剣術道場の道場主で、嘗てのライバル同士である。剣道全日本選手権では三連覇成し遂げ、北辰一刀流皆伝のシキシマが唯一自分を負かせられると思っている相手だ。

 

シキシマは一度ナデシコからオファーを受けた。アキトたちナデシコメンバーが知るほぼ唯一の経済・財政のエキスパートだからだ。

だがシキシマはそのオファーを断っている。

「私は自分の職務に対し誇りと信念を持っている。今、自分の職務を投げ出すのは、その誇りと信念に反する。それに、戦争で疲弊しきった地球経済を立て直すのは、ハッキリ言って私以外では無理だ」

過信とも取れる言葉だが、大規模戦争の中でも地球経済を破綻させなかったのは間違いなくシキシマ エイジの官僚としての手腕だ。

少なくとも財政実務において、彼のやった事は他者の追随を許さない。

伊達や酔狂で「連合の金庫番」と言う異名を持っているわけではない。

その代わりに友人の、海神伝七郎地球連合議員主席秘書官三堂公介を紹介したのだが。

その後、その二メートルの巨体を誇る友人に色々愚痴られたのは此処だけの秘密だ。

また睡眠時間が減ったらしい。

 

「ならばどうするつもりだ」

財務長官は少し血管を浮かばせて再度尋ねる。

「今度は祖国日本の復興に尽くしますよ」

まっすぐ初老の財務長官の目を見てシキシマはそう言い切った。

この財務長官との付き合いも短くはない。財務長官もシキシマの言外の言葉の意味を感じ取ったらしい。

「ふう・・・。私も今年中に辞意を表明して、故郷でゆっくり暮らそうと思ったのだが。事務次官、君は年寄りをまだこき使わせる気かね」

「・・・・・・」

「今の地球連合首相の政治手腕は、私が知っている限りトップクラスだろう。だが地球連合首相の任期は二期八年。後二年少しだ。その後任も優秀だとは限らない。いや、大衆は有能な政治家よりも、適度に無能な政治家を好む。今の首相は乱世向きな人だ。だが、乱世が終わったら・・・」

乱世にあっては有能な指導者を。治世にあってはそうでない者でも。人類の歴史はその事を如実に語っていた。

「長官は後がまに座ろうとは思わないんですか?」

少し意地悪に聞いてみる。

「私がその職に就いたら、胃に穴が空いてしまうよ。私は自分の健康のために首相に成らないんだ」

実にスコットランド人らしい言葉だ。やれるけどやらない。

「解った。君の辞表は今週付けで受理しよう。今までご苦労だった」

「有り難う御座います、長官。それでは本日の仕事が終わったら、私物の整理と挨拶回りをしてきます」

一礼して財務長官執務室を出ようとするシキシマが、扉の前に立ち止まりこう言った。

 

「健康のためというなら、葉巻の量を減らした方が絶対に健康的ですよ」

 

スコットランド人のようなジョークを返すシキシマであった。

 

 

 

 

 

 

後に「歴代最高の内閣総理大臣」と言われる敷島英二。

 

その第一歩は地球連合財務省の退職からであった。

 

 

 

 

 

 

続く・・・

 

 

 

 

 

 

 

ペテン師です。

・・・。やっちまった! 連載するなんて、なんて無謀な。

しかも戦神アナザー外伝。大丈夫か自分。

 

でもやる以上、出来る限りやってみます。

読んでくれた神のような方々、遅い更新になると思いますが見捨てないで。

 

 

最後に、設定の使用を許可して下さったプロフェッサー圧縮氏、別人二十八号氏にありったけの感謝を。

 

 

それでは

 

 

 

 

代理人の感想

SSBBSにて好評連載中の政治漫画SS、遂に本格連載開始!

いや、李章正さんの作品もそうですけど「他人とは違うアプローチからの作品」というのは

やっぱり読んでて楽しいですし、続きが楽しみなものなんですよねぇ。

 

ただひとつ、心配するべき点があるとすれば「これってナデシコSSなのか?」と言われることくらいでしょう(核爆)。