ラーメン屋奮戦記(木星の影)

 

 

 

 

 

「こちら、現場です。現在、テロリストは明日香インダストリーの令嬢、カグヤ・オニキリマルさんを人質にとり

 ビルに立てこもっています。

 なお、人質の安全の代わりに連合宇宙軍総司令の身柄を要求しています。

 立てこもりから3時間、膠着状態が続いています。以上、中継先のサワイでした。」

 

 

 

「ああ、とうとう、マスコミにまで嗅ぎつかれちゃいましたね。

 どうします?人質と交換に総司令を差し出しますか?

 それとも、人質の安全は無視してマスコミごと制圧しますか?」

 

「究極の選択だな。まあ、ヒゲ親父が死んだら喜ぶ人間は多いだろうな。」

 

からかう口調だが、眉間に皺を寄せ5杯目のコーヒーを飲み干した。

 

ただでさえ狭い指揮車両内はタバコとコーヒーのにおいが充満している。

 

「声紋の分析はどうだ?」

 

「はい。先ほどの犯行声明の人物は、連合宇宙軍元大佐のカワハラシンヤであることが確認できました。」

 

    ぴっ。

 

オペレーターが、こちらにも見やすいように椅子ごと脇にどいて、ディスプレイをむける。

 

 

 

カワハラシンヤ

 

ヨコスカシティ生まれ。

地球連合大学を優秀な成績で卒業。とくに射撃に優れる。

ヤツシマ作戦において倒れた隊長の代理として活躍。被害を最小限に抑えた功績により殊勲章を受賞。

 

タカマガ作戦において、暴徒200人を鎮圧。

 

月基地クーデターをエステバリス隊により鎮圧。その功績により大佐に昇進。

 

以後、数々の勲章を受賞。

 

その後、交通事故により右腕を損傷。手術後、後遺症により任務遂行が難しくなり退役。

 

以後、消息不明。

 

追記

 

部下に人望が厚く、彼に肩入れをおこなう人物が多い。

 

 

「到底、こんなことを行うような人物ではなかったようだな。

 愛人がいたとか、借金があったなんてことはないか?」

 

「全くありません。むしろ潔癖主義者であったようです。」

 

「警察の動きは?」

 

「軍がでばってきたのが気に入らなかったようですが、100メートル先までマスコミを退避させました。

 とりあえず、いうことを聞いてくれるようですが。」

 

ずずずずず。

 

申し合わせたように全員がまずそうにコーヒーをすすった。

 

けがによる退役は本人の本意ではなかっただろうが、華々しい経歴だ。

 

金銭的にも余裕のある生活をしているはずなのに、何でこんな面倒を起こすんだ。

 

どうせなら、俺たちが退役してからにすればいいだろうに。

 

その場にいた全員の思いである。

 

 

彼が人質にしている美女は無数の不動産と企業をしたがえる、あの、明日香インダストリーの令嬢だ。

傷ひとつつけようものなら、その政治的発言力を生かして、この救出作戦に参加した人間全てを社会的に

抹殺しかねない。

 

では、総司令を代わりに差し出すのか?

 

そんなことをすれば間違いなくクビになる。

 

どちらに転んでもいいことはない。

 

作戦部長は頭を抱えた。

 

彼には3人の息子がいて、来年は次男と三男が高校と大学に進学する。学費の数字が彼の頭をよぎる。

 

へそくりを使うしかないのだろうか。

 

いつのまにか涙目になっていた。

 

 

謎の木星蜥蜴のバッタに毎日右往左往しているのに、元軍人がテロリストだとわかれば民衆の軍への不信感

はますます強くなる。それを回避するために警察を排除してまで、軍は立てこもり事件を解決しようとしていた。

 

「どうしましょう。下手に潜入して興奮させて人質を傷つけさせるわけにいきませんよ?」

 

「彼以外に共犯者はいるのか?」

 

「確認できているのはカワハラを含めて8名です。

 いずれも軍役についていたため、銃火器の取り扱いになれています。

 あのビルですが、すでに占拠されています。

 あそこには最新鋭のガードシステムが設置されていて、やつらにさとられずに侵入するのは不可能です。

 ハッキングをしていますが、はかばかしくありません。」

 

「むう。」

 

    ぷるるるるる。

 

やけにのんびりした音が響いた。犯人からの要求だろう。

 

『だいぶ悩んでいるようだが、決心はついたか?』

 

渋い声が訊いてきた。カワハラ元大佐だろう。

 

「誰のせいだとおもっている?」。

 

眉間には血管が浮いて、いまにもはじけそうだ。

 

『ふ。こちらは全員武装して爆弾を持っている。このビルが粉々になるような破壊力のものを。

 下手をすればお嬢さんも吹き飛ぶぞ?』

 

ちっ。うちの家計の苦しみも知らないくせに。

 

「彼女は無事か?確認させてくれ。」

 

しばし静かになる。そして・・・。

 

『聞きましたわよ。このテロリスト達は元軍属ですって?

 バッタ一匹にてこずっているくせに、元身内の犯罪も止められなかったのですか。』

 

辛らつに言及してくる。

 

ただ、その美声と品のある口調から、彼女がカグヤ・オニキリマルであるとわかる。

 

もちろん声紋分析からも証明された。

 

「お嬢さん、必ずお助けしますから待っていてください。」

 

そして誰かに代わる気配がした。

 

『正義はこちらにある。そう、総司令に伝えろ。

 今までの地球の悪事がいつまでも隠しきれるものではないと。』

 

最後に意味深げにカワハラが宣言して、接触は切れた。

 

なんのことだ?

 

テロリストの言うことを真に受ける気はないが、やけに真摯な声が気になった。

 

 

 

作戦部長は食事の配達をするふりをして中に潜入し、人質を保護するしかないと判断した。

 

ただし、誰がそんなことをするかが問題だった。

 

そこで、諜報部からテンカワアキトという、工作員をまわしてもらうことにした。

 

 

 

「えーと、じゃあ、いってきます。」

 

とても軍人と思えない人懐っこい顔をしたテンカワは、ラーメンの入った岡持ちを持ってビルに近づいていった。

相手を油断させるために白いコックの格好をしているのが、やけにさまになっている。

 

たしかにあいつのコードネームはラーメン屋だが、まさか本当にそうなんじゃあないだろな?

 

やけに雰囲気と格好が似合いすぎて作戦部長はばかなことを考えた。

 

「こんにちは。ラーメンをお届けに参りました。」

 

ビルのロビー前で立ち止まり、声をかける。

 

ずさささささ。

 

武装した男3人に無言でビルにつれこまれる。狙撃を想定した迅速な動きである。

 

そして、ロビーが閉まり、男達に囲まれる。

 

「そんなものは頼んでいない。」

 

言いながらも、やはりお腹がすいていたのだろう、ごくりとラーメンの岡持ちを見て生唾を飲み込んだ。

 

「えーと。軍のかたに頼まれまして。代金もいただいていますし・・。どうしましょう?」

 

「「「・・・・・・。」」」

 

「じゃあ、帰りますね。」

 

岡持ちを再びもって出口を向いた。

 

「まあ、待てよ。大佐に連絡してからでいいじゃないか。」

 

一番年上らしい男がテンカワを呼び止めて、内線で連絡をとる。

 

こんなのが軍人なわけないしな。

 

男は大佐に熱意ある説得をし、ラーメンをゲットすることができた。

 

「よし、このまま奥のエレベーターに乗って、最上階の貴賓室に届けろ。」

 

そういいながらも、いい匂いの岡持ちから目が離せない。

 

「いいのですか、一人で向かわせて?」

 

「誰かが見張ったほうがいいのでは?」

 

「俺たちがここを離れるほうが危険だ。」

 

他の2人の意見を一蹴する。

 

「ただし。ここにもラーメンを置いていけよ。」

 

「はい。わかりました。じゃあ、こちらにおきますね。」

 

ラーメン屋がガラス張りの外の風景が見えるエレベーターに消えると、

後にはラーメンを懸命にすする音だけが響いた。

 

「ラーメン屋がエレベーターに乗り込みました。」

 

望遠レンズで姿を確認して作戦部長に報告する。

 

「よし。全員、逃げ道のないように展開して次の指示を待て。」

 

「はっ。」

 

あわただしく周囲は動き始めた。

 

なんとしても作戦を成功させて、子供達の学費を確保しなければ。

 

作戦部長の思いはただそれだけであった。

 

 

貴賓室と書かれた部屋の扉の前でテンカワは深呼吸をした。

 

彼の任務は表向き、人質の救出だが、裏側は地球と木星のことをなにかしら知っているらしい、

カワハラの殺害であった。

 

臭いものにはふたか。

 

はあー。

 

そして扉をノックした。

 

「すみません。こちらに届けろと言われたんですが。」

 

「入れ。」

 

声のとおりに中に入ると、部屋の真中のソファに長い黒髪の美女がご機嫌斜めに足を組んで座っている。

思わず話し掛けようと身を乗り出した瞬間、背後から左胸に銃口を押し付けられて立ち止まるしかなかった。

 

「あ、あの、ラーメンなんですが・・・。」

 

声が微妙に裏返る。

 

無言で身体検査をし、なにも持っていないことがわかってから銃を背中から離した。

 

「ふん。真っ正直に何も持たずに来たということは民間人か。」

 

へたー。

 

テンカワはその場にしゃがみこんだ。

 

「大丈夫か、きみ?」

 

大佐の階級章をつけた男が声をかけて肩を貸してくれた。

 

「ああ、すみません。」

 

礼をいいつつ、右腕を見ると、どうやら不自由らしい。

 

これがカワハラか。

 

「なんなの?軍人は民間人をこんな危険に巻き込むなんて。」

 

ソファの美女、カグヤが憮然と言い放った。

 

「上層部が腐っているからな。

 自分達の罪を隠しておまけに木星の人々を根絶やしにしようとしているくらいだからな。」

 

「大佐、それくらいにしましょう。」

 

テンカワを背後から襲った中佐の階級章をつけた男がカワハラをたしなめた。

 

「なにをいう。この作戦が成功すれば、このばかげた戦争を止められるのだぞ。

 そして、平和な関係を結ぶのだ。」

 

熱心にカワハラがいうほど、中佐の表情は冷たくなるようだった。

 

「だいいち、わたしにこのことを知らせたのは・・・。」

 

その瞬間、中佐が大佐に拳銃をむけて引き金を引いた。

 

それを見た少佐の格好の男が中佐に発砲しようとしたが、逆に銃弾に倒れた。

 

「おしゃべりが。」

 

 

カワハラが演説をしている最中に中佐が銃口を大佐に向けようとしたのを見て、テンカワは慌ててカグヤを

肩にかついで出口に向かった。

少佐がこちらを止めるか、中佐を止めるか悩んでいる隙に非常口を開けて外に出た。

いくら防犯体制に優れていても、中から開けられたのでは意味がない。

 

そのまま階段を駆け下りる。

 

 

 

「ふん、人質はもってかれたか。」

 

さして悔しがらずに中佐はつぶやいた。

 

ぴぴぴぴぴぴ。

 

テーブルの上の内線が鳴り響く。

 

この番号はセキュリティー室か。

 

「今の銃声は何事ですか?」

 

慌てた声でいう。

 

「ラーメン屋が人質を連れて逃げた。居場所は確認できないか?」

 

「ビル内部の熱源をみましたが、それらしい影はありません。」

 

ということは外の非常階段を使っているのか?

 

「ロビーの連中はどうした。」

 

ビル内に銃声が響いたはずだ。気づかないはずがない。

 

急いでロビーの防犯カメラを調べさせる。

 

「あっ。全員眠っています。外傷は見当たりません。」

 

ふん。眠り薬入りのラーメンか。

 

「作戦は失敗し、大佐は銃で自殺された。

 このままでは我々はテロリストの汚名をかぶることになる。

 15分後に爆弾のスイッチを押す。全員、正義のために今は耐えて脱出しろ。」

 

まあ、こいつらを取りのがすほど、地球の軍人も甘くはないだろうが。

 

「わたしは大佐のあとをおう。後は任せた。」

 

そういって、こちらから内線を切る。

 

ふん。元軍人を使ってテロを起こし、明日香インダストリーを怒らせて軍の人事と経済バランスを滅茶苦茶に

したかったのだが。

 

まあ、軍内部を混乱させることができただけ、上出来か。

後は我々木星がからんでいた証拠を爆発で消せば問題はない。

 

 

「ぜえ、ぜえ。」

 

さすがに階段を何十階も降りるのは疲れる。

 

テンカワはへとへとだった。カワハラは内部分裂で殺された。

あとは表の任務のカグヤを安全な場所につれていけばいい。

もちろん、途中でカグヤを下に降ろして自分で走ってもらっているが、こちらも疲れたらしい。

 

はあ、奥の手を使うか。

 

ラピス、聞こえるか?

 

脳裏にピンク色の髪をした少女を思い浮かべる。

 

即座に返答がきた。

 

うん、アキト。もう一つ下の階の非常口を開けることができたよ。

 

よし。あと、テロリスト達はどうしてる?

 

地下から逃げようとしたけど、捕まえたから大丈夫だよ。ただ、貴賓室にまだ1人残っているけど。

 

あきらめたのかな?

 

ううん。外部と連絡をとってるみたい。でも、かなり高度な暗号なの。

 

わかった。急いで脱出する。

 

「カグヤさん、こっちです。」

 

「・・・・・。」

 

疲れたのか黙ってテンカワに続いた。

 

ラピスの言うとおり、開いていた非常ドアでなかにはいる。

 

そこはクラシックカーが展示されているホールだった。

 

「これで逃げましょう。」

 

テンカワは赤いクラシックカーにカギがついているのを見てカグヤに提案し、エンジンをかけようとした。

 

しかし、なかなかかからない。

 

「あ、あれあれ?」

 

冷や汗をかきながら何度も試すがうんともすんともいわない。

 

そのとき、隣の席に座っていたカグヤの肩が細かく震えているのに気がついた。

 

「あ、あの、震えてますけど、大丈夫ですか?」

 

恐る恐るたずねる。

 

   ぶち。

 

なにかがちぎれる音がした。

 

「もう、何をもたもたなさっているの。」

 

      どごっ。

 

カグヤのけりが効いたのか、エンジンがかかった。

 

「もう、どきなさい。わたくしが運転します。」

 

深窓の令嬢のけりを見て、おもわず、テンカワは助手席に移って、運転席をゆずる。

 

カグヤはおもいっきりアクセルをふんだ。

 

「うっわー。」

 

           どこげしゃぐしゃ。

 

カグヤは車をフルスピードで運転し、ビルの中の階段を走り降りた。

 

 

 

貴賓室の中佐は大佐の死体を調べていた。

爆弾をこのビルに仕掛けてあり、そのスイッチを彼に持たせていたからだ。

 

しかし、見つからない。

 

そのとき、中身をぶちまけた岡持ちが目に入った。

 

まさか。

 

がしゃーん。

 

ものすごい音に望遠レンズで外をうかがう。

 

見ると、車が閉まったままのロビーの扉を破壊しながら、外に飛び出すところだった。

 

下の階に飾ってあった車を人質だった女が運転し、助手席で出前にきた男がなんとか車にかじりついている。

男の右手には爆弾のスイッチが握られていた。

 

「はははははは。」

 

やってくれる。カワハラが肩を貸したときに奪われていたのか。

 

そのとき、貴賓室に淡いボソンの光がみちて、機動兵器が出現した。

 

「爆発させるのだろう?シンジョウ。」

 

コクピットがひらき、左眼に義眼をはめた男が中佐に声をかけた。

 

「例のおかしな工作員にスイッチを奪われてな。まあ、証拠はすでに消してある。

 カワハラの死体が見つかったところでこちらの正体がばれることはあるまい。」

 

平然と、コクピットに乗り込む。

 

「テンカワアキトか。」

 

ぼそりと、義眼の男、北辰はつぶやくと機動兵器は光につつまれ消えた。

 

 

 

テンカワがビルに入ってから、数十分後、

とつぜん、赤いクラシックカーがロビーを破壊しながら外に飛び出してきた。

 

   ずざあああああああ。

 

ものすごい土煙をあげながら指揮車両に横付けしてきた。

 

「何事だー。」

 

全員外に出ると、黒髪をなびかせた美女が不機嫌そうに仁王立ちをしている。

 

「こんな危険な目に民間人を会わせるなんて、誰が責任者なの。」

 

テンカワを民間人のラーメン屋だと勘違いしているらしい。

作戦部長は車の助手席で気絶しているテンカワに説明させようと近づいた。

 

「おい、残りのテロリストはどうした。爆弾はどうなった?」

 

がくがくゆすると、うっすら目を開き、右手に持っていたスイッチを手渡すと、ふたたび気絶した。

 

よほど、恐ろしい運転だったのだろう。

 

「なんじゃあ、こりゃあ。」

 

   ぽち。

 

                  ちゅどーん。

 

爆発するビル、辺りをおおう轟音と土煙。

 

ぽん。

 

「弁償して頂戴。」

 

カグヤは作戦部長の肩を叩いて静かに言った。

 

後にはすすけた背中の作戦部長が呆然と立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

あとがき

 

ぽちです。

 

仕事が忙しいと、シリアスしか書けなくなる気がする今日この頃です。

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

 

ぽちさんからの投稿第三弾です!!

おお、ますますミッション・インポッシブルだ(笑)

う〜ん、なかなかの腕利きなんやねアキト君。

それとSSでは初登場のカグヤ嬢!!

もう、思いっきり我儘ぶりを発揮されてますな〜

で、今回のBenの一押しは・・・

作戦部長でしょう!!

そのすすけた背中が最高ですぜ!!(笑)

 

それでは、ぽちさん投稿有難うございました!!

 

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