ラーメン屋奮戦記(北辰のおつかい)

ぽち作

 

 

 

 

 

 

「ああ、タナカ君、君のロッカーはこっちにある。着替えでもなんでも入れてくれ。」

 

「うむ。いたみいる。」

 

タナカはやけに古風な口調で、ボストンバックを無造作にロッカーにしまいながら、礼を言った。

 

「気にするな。ただ、ここの研究所の博士達は変人ばかりでさ。

 知らないうちに改造されないように気をつけろよ?おまえの左眼、義眼だよな?

 絶対、実験に付き合えとか言われそうだよな。」

 

「ここにもヤマサキのような輩がいるのだな。」

 

「ああ?なんだって?」

 

独り言のつもりだったのだが、しっかり相手に聞こえていたらしい。

 

「いや。知り合いに似たような輩がいるのでな。心配要らない。慣れている。」

 

「・・・おまえも大変な人生を歩んでいるんだなあ。」

 

妙な勘違いをされたようだが、一応、うなずいておく。

 

「じゃあ、仕事場に案内するよ。ついてきてくれ。」

 

軽くうなずいて先輩のガードマンの後をついていった。

いくつかの検問所とセキュリティーについての説明を受けながらなかに入っていく。

なにも知らない新米に研究所の設備を説明するのがうれしいらしく、オーバーなアクションを加えながら、

サカイは案内していく。

 

このクリムゾンの研究所は海底のなかに作られ、外部から孤立したつくりになっている。

そのため、他の企業や、政府、軍などの目からうまく隠れて存在している。

火星の後継者とクリムゾンは非公式な友好関係を結んでいる。

だからといって、お互いが手の内をすべてさらけ出しているわけではなく、いくつか不信な部分が多い。

そこで今回は潜入し、なにか弱みがあればそれを暴いて、今後の交渉を火星の後継者に有利に運ぶように

探るのが、タナカの、北辰の任務である。

 

そして、北辰は食堂に案内された。

お昼時のせいでだいぶ混んでいて、相席のテーブルが多い。

北辰はサカイと一緒にランチ定食を頼んで席に着いた。

 

「一応、一通り説明したけど、なにか聞きたいことあるか?」

 

「これだけ防犯設備を整えて・・・。いったいなんの研究をしているのだ?」

 

「おいおい。俺たちのようなしがない下っ端が、そんなことを知っているわけないだろう?」

 

即座に言われる。

 

「なんだよ?それともおまえ・・・スパイか?」

 

本人は渋く決めたつもりらしいが、ほほについた米粒がまぬけである。

 

「いや・・・。気になったのでな。忘れてくれ。」

 

そのとき、のんきそうな声がサカイと北辰にかけられた。

 

「すいませーん。隣はあいていますか?」

 

ラーメンが乗ったトレイをもって、白衣を着たつんつん頭の青年が後ろに立っていた。

胸にはヤマナシと書かれたネームプレートを付けている。

 

「ああ、いいですよ。博士。座ってください。」

 

愛想良くサカイは返事をした。

 

北辰は珍しく呆然とした顔で博士を見ている。

なぜ、こんなところにこいつがいるのだ?

自称ヤマナシ博士は宇宙軍の工作員、テンカワアキトであった。

 

「どうもすみません。お食事のじゃましちゃって。」

 

テンカワは愛想良くいいながら、北辰の隣に座った。

 

「かまいませんよ。ところで今、タナカとしゃべっていたのですがね。

 ここってなんの研究をしているのですか?」

 

「何って言われても。まあ、体の健康についてですよ。」

 

「えー、ほんとうですか?」

 

北辰に聞かれたときは、興味がないような顔をしていたが、サカイも研究内容に興味があったらしい。

 

「うそを言っても仕方ないですよ。ところで、こちらはタナカさんでいいんですか?」

 

いきなり話をふられたが、北辰は落ち着いて答えた。

 

「そうだ。」

 

「ああ、無愛想なやつですけど、新入りですから、気にしないでください。」

 

「そんな、失礼ですよ。」

 

その後、当り障りのない会話をしながら食事を終えた。

 

「なあ。やけにヤマナシ博士を見ていたけど、知り合いなのか?」

 

食堂からガードマンの詰め所に戻る際、サカイは北辰に尋ねた。

 

「・・・・いや。人違いだった。しかし、あんな若さで博士なのか?」

 

「この研究所のなかじゃあ、一番まともでいい人だぞ。」

 

「ほう。」

 

わざと、疑うような声で返事をする。

サカイの性格から、この後に言うであろう言葉は簡単に見当がついていたからだ。

 

「そんなに疑うなら、博士の研究室にお邪魔すればいいじゃないか。」

 

案の定、サカイはうまく話しに乗り、携帯用のコンピューターを取り出した。

 

「博士の研究室はここだけどな、夜間の見回りのときにでも本人に聞けばいいだろう?」

 

「そうだな。」

 

機嫌をこれ以上悪くされて情報が収集できなくなるのは痛いので、その後はサカイの言いたいようにさせた。

 

そして消灯時間になり、北辰は行動を起こした。

サカイに教えてもらったように、目的の場所に着いた。

すでに深夜をすぎていたが、明るく照明がついて人の気配がする。

 

「見回りです。入ってよろしいですか?」

 

丁寧に言葉をかける。

 

「ああ、どうぞ。ちらかっていますが。」

 

テンカワの返事の後にゆっくりとドアを開けた。

部屋の中は印刷された紙とフロッピーで占拠され、たしかに散らかっていた。

奥にいくとコンピューターが3台並んだ机にテンカワがなにかを打ち込んでいた。

 

「見回り、ごくろうさまです。お茶でもどうですか?」

 

にこやかに聞いてくる。

 

「いただこう。ところで・・・。なぜ、汝がいる?」

 

がらりと気配を変え、殺気に包まれた北辰にテンカワは静かに答えた。

 

「仕事だからね。インスタントのコーヒーだけどいいかな?」

 

「かまわん。」

 

しばらく、ポットが沸騰するまで時間があった。

 

「そちらこそ、誘拐未遂を犯したくせに、怪しいのはそっちだろう?」

 

「屋台のラーメン屋だったり、博士をしていたり、テロリストから人質を救出したりするのはおかしくないのか?」

 

「なるほど。立てこもり事件のとき逃走したテロリストはあんたのお仲間か。」

 

その言葉に押し黙る北辰。

 

その間にテンカワは、ナルトとシナチクの絵柄のコップに、砂糖とインスタントのコーヒーをいれる。

そういえば、昼飯もラーメンだったな。

こやつの頭の中はラーメンしかないのか?

ラーメン好きがたたって、コード・ネームをラーメン屋にしたわけでもあるまいに。

 

シュミの悪いコップを見ながら任務に関係ないことを北辰は考えた。そして尋ねた。

 

「何をたくらんでいる?」

 

「たくらんでいるのは俺じゃない。」

 

コップに沸かしたお湯を注ぎながらテンカワは答えた。

 

「ここの研究内容は調べたか?表向きは医療用の人工臓器の研究だが、実際は人体実験だ。

 政府の許可が下りていない非合法なものだ。」

 

「ふん。そんなものどこでもやっている。」

 

冷たく北辰が答えたとき、いきなり全ての照明が消えた。

 

    がしゃーん。

 

「だー。俺のナルト君とシナチク君があー。」

 

どうやら、コップを北辰に渡す瞬間に照明が消えたため、誤ってコップを床に落としたらしい。

コップに名前をつけるな。子供か、汝は?

 

「もっと、まともなコップを買え。」

 

北辰の声は凍てついていた。

 

「それで。電源はどうしたのかな?ガードマンさん。」

 

コップを悪し様に言われたので不機嫌らしいテンカワは北辰に冷たく尋ねた。

 

「電源は正、副、予備の3系統だ。いまだ回復しないということは人為的な事故だな。」

 

サカイから仕入れた知識を披露する。

 

「まずいな。

 人体実験の被害者の人工呼吸器や、生命維持装置はバッテリーに切り替わっても120分しかもたない。」

 

「汝の仕業ではないのか?」

 

「俺は侵入捜査をして、このことを上に報告するのが仕事だ、殺人が目的じゃあない。」

 

いらいらしながら、任務を北辰に教える。

 

「ここに入り込んだネズミは他にもいるということか?」

 

テンカワは部屋に備え付けの懐中電灯をつけ、北辰はガードマンの装備のライトをつけて廊下に出た。

この時間、研究室にこもっていたのはテンカワだけだったらしく、廊下は静かである。

 

「こっちだ。来てくれ。」

 

テンカワの案内で大きな室内プールにたどりついた。

バッテリーに自動で切り替わったらしく、淡いオレンジ色でなかは照らされていた。

 

「まあ、一安心だが。」

 

軽く息をついてテンカワがプールのなかの映像を奥の制御室からモニターに映す。

制御室は生命維持装置の監視のために、こちらも自動でバッテリーに切り替わっている。

そこには・・・。

幼い子供から成人まであらゆる年齢の人間がモルモットのように液体の中にただよっている。

いずれも体毛をそられ、記号が体中に記された姿から、人間扱いされていないのは明白な光景だった。

まるでヤマサキの研究室のようだな。

ちらりと、人をくった笑いを浮かべる某博士の顔を北辰は思い浮かべた。

 

「それでどうする?これだけの人数を外に運ぶのは無理だぞ。

 おまけにここは海の中だ。救援を求めたところで間に合うまい?」

 

それでも諦めずにテンカワは言った。

 

「なんとかして電源を回復させるさ。

 それにこのままの状態が続けば、酸素が不足して俺たちも死ぬしかない。」

 

「ふむ。セキュリティー室ならどうにかなるだろう。」

 

暗い廊下をライトの光だけをたよりに部屋をめざす。

 

「おい、気づいているか?」

 

正面を向いたまま北辰が言うと、同じようにこちらを見ずにテンカワが答える。

 

「ああ、誰も起きてこないのはおかしいな。」

 

その手にはいつのまにか短銃が握られていた。

 

やっと、セキュリティー室に入ると、そこには所員と、いかにも怪しい武装した工作員らしい死体数体が、

転がっている。

モニターも壁も返り血で赤く染まっている。

 

「他のやつらも同じ目だな、これは。」

 

おそらく、どこかの工作員が電源をおとして隙を突いて、研究成果を盗もうとして逆にしっぺ返しを受けたの

だろう。

 

静かになった理由を悟る。

 

ただ、その死体はなにかむりやり体を引きちぎられ、ねじ切られていて、とうてい、人間がやったようには見

えなかった。まるで癇癪をおこした子供が力任せに人形を壊したような感じである。

 

「研究所でゴリラでも飼っていたのか?」

 

仕事柄、死体を見慣れている2人だが、ここまで異常な変死体はお目にかかったことはない。

 

「いや。動物は扱っていないはずだ。それに人間の仕業だろう。コンソールをいじくったあとがある。」

 

返り血をあびたまま操作したのだろう。赤い指紋と、赤い足跡がてんてんと残っている。

大きさから考えて、13,4歳の子供のものだ。

 

「たぶん、身体能力を強化させられた試験体が工作員から逃げ出そうとして殺したんだろう。」

 

苦渋に満ちた声でテンカワはつぶやいた。

侵入捜査のため、決定的証拠を掴まなければ、軍を動かすことはできない。

これだけの規模の犯罪を警察にゆだねるわけにもいかず、見ないふりをして調べるしかなかったのだ。

 

「追いかけるしかあるまい?」

 

テンカワの心理を知ってか、静かに北辰がいった。

確かに、これは殺人だ。そして試験体の処理も上司から命令されていた。

ふう。

深呼吸してから答えた。

 

「そうだな。抵抗されたら殺すしかない。」

 

2人は赤い足跡をたどっていった。

 

ぱん、ぱんぱんぱん。

 

銃声が足跡のさきから聞こえ、走っていくと、大きなフロアーにでた。

壁は全て防弾ガラスであり、外からの水圧に負けないように作ってある。

ガラスの外では色とりどりの魚が優雅に泳いでいる。

そこは閉鎖された空間のストレスを発散するために設けられた展望室だった。

 

そして・・・・。

 

13歳くらいだろうか?全身を赤く血で染めた全裸の少女が無造作にサカイの首を引きちぎっていた。

それを見て、無言で北辰は銃を少女に向けた。殺気を感じたのか少女が北辰に飛び掛ってきた。

銃を発砲する。

しかし、少女の異常な反射神経は全ての弾丸に反応し避けた。

 

「ちっ。」

 

短く、息をついて銃を少女に投げつけたが、これもかわされる。

床に叩きつけようと、ハイキックを仕掛けるが、少女は軽い身のこなしでその足の上に着地する。

 

「っ。」

 

少女の赤く染まった手刀がのどを狙う。

その瞬間、銃声が響き、驚いた少女が北辰から離れ、銃を発砲したテンカワの方を向いた。

テンカワの右手の短銃は天井に向けられたものだった。

 

「さっさと撃て。宇宙軍でも指折りのエージェントだろう、テンカワアキト。」

 

「あまりそういわれてもうれしくないな。北辰。」

 

お互いのことはある程度、調べてあったが、なんとなく今まで本名を呼ぶのは互いに避けてきた。

しかし、北辰はテンカワを本名で呼んだ。

 

「おいで。君を傷つけないから。」

 

テンカワはゆっくりひざをつけると、銃をあっさりすてた。

少女は戸惑った顔をして、片言の言葉を話した。

 

「ホント?」

 

迷子のような声で言う。

 

「本当だ。」

 

ゆっくり少女はテンカワに近づき、その首に腕をからまわせた。

 

「オソトニデタイノ。」

 

テンカワはやさしく少女を抱きしめた。

 

「なんできみはこんなに純真なんだろうね。」

 

白衣の袖から隠しナイフがあらわれ、少女の頚動脈を深々と切り裂いていた。

 

少女がセキュリティー室の通信機をわからないまま触ったのだろう、様子のおかしい研究所にクリムゾン

の本社から、潜水艇が救助にきた。

中からは、武装したクリムゾンのシークレット・サービスがでてきたが、北辰とテンカワに制圧され、逆に彼

らが証拠隠滅のために持ってきた爆弾によって研究所ごと処理された。

 

「で、おみやげはなしですか?」

 

「ああ。」

 

「死体でもわたしはかまわなかったんですよう、北辰殿。」

 

「過ぎたことをぐちぐちぬかすな。」

 

奪った潜水艇で近くの港にはいり、テンカワと別れた。

そして、真相をクサカベ閣下に報告した後、ヤマサキ博士につかまって同じ話を繰り返してやった。

ヤマサキは最後にテンカワが殺した少女の体に興味があるらしい。

先ほどからなぜ回収しなかったのかとすねている。

 

「でも、意外ですねえ。なぜ、テンカワを殺さなかったんです?」

 

それは自分でも不思議なことだった。

だが、少女を殺した後、しばらく死体を抱きしめていた姿が気になったのだ。

そして、そのあとのシークレット・サービスたちを無表情に処理する姿が。

 

「すぐに殺すより、見逃したほうが、あとの楽しみが増えるからだ。」

 

「へえ?」

 

そう言うとヤマサキは、まあ、また変な試験体を見つけたらわたしにくださいと言い残して部屋をあとにした。

 

 

 

 

あとがき

すいません。暗いです。

北辰も一人で行動することがあるかもしれないと思って書いたのですが。

アキト君が主役をはるより、なぜか暗くなってしまいます。

少しは2人がライバルらしくなるようにしたつもりだったのですが、いかがでしたでしょうか。

 

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

 

ぽちさんからの投稿第四弾です!!

う〜ん、プロだなアキト。

ある意味、強いけど・・・やはり違和感が少し有りましたね(苦笑)

まあ、Benの想像しているアキトとは食い違うのは当たり前ですよね。

ぽちさんの書かれるアキトは迷いを振り切ってますが。

Benの書くアキトは迷走まっしぐらですから(爆)

でも、渋いぞ・・・アキト&北辰。

なんか、ぽちさんの書く北斗も読んでみたいな〜

リクエストは駄目ですかね?(苦笑)

 

それでは、ぽちさん投稿有難うございました!!

 

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