ラーメン屋奮戦記(ナデシコ登場)

 

 

 

 

 

 

 

「さて、ここが新しい職場だよ、テンカワ。

 あんたには無理を言って、戦艦まで連れてきちまったけど、よかったのかい?」

 

「かまいませんよ。俺は身寄りがありませんし、ホウメイさんのところでもう少し修行させてもらいたかった

 ですから。」

 

戦艦ナデシコの調理担当として、テンカワアキトは厨房でコックのホウメイと食材や、調味料の整理をしていた。

 

 

ホウメイがネルガルの戦艦ナデシコのコックとして乗り込むことを知った連合軍は、テンカワアキトをホウメイの

食堂で急遽働かせた。

そして、ナデシコの監視をするために修行と称して一緒にナデシコに乗り込ませた。

 

「ホウメイさん。よろしいですかな?」

 

その声に振り返ると、ネルガルの番頭であり、ナデシコの会計監査役でもある、プロスペクターが少女を

連れてきていた。

 

「おや、かわいい子だねェ。」

 

ホウメイは手を休めて2人に近づく。アキトも何食わぬ顔でそばによった。

 

「こちらが厨房担当のホウメイさんとテンカワアキトさんです。

 あと、5人の女性が調理の手伝いをなさっています。

 そして、こちらがオペレーターを担当しているホシノルリさんです。」

 

「ちっちゃいのにえらいんだねえ。」

 

「よろしくね、ルリちゃん。」

 

アキトはどことなく、ラピスに似た少女に好感を抱いた。

ラピスの髪はピンクがかっているのに対し、ルリの髪は青みがかっていた。

 

なにげなく握手をする。

 

(このひと、IFSをつけてる。調理に必要ないのに。)

 

ルリは大きいアキトの手を握ったときに、軽いナノマシーンの接触を感じていた。

 

「さ、ルリさん。次はブリッジです。」

 

「・・・はい。」

 

とことことプロスのあとを追いかけた。

 

(やっぱり、ラピスほど強力なナノマシーンを投与されてはいないか。

 ナノマシーン『ラピスラズリ』の簡易型みたいだな。)

 

アキトは握手したときに、ルリに簡単な暗号を送信してみたが、向こうには伝わらなかったようだ。

 

(ラピスの代理として、あの子がオモイカネをオペレートするのか。)

 

「どうしたんだい、テンカワ?」

 

「すみません。あんな小さい子が戦艦に乗るなんてかわいそうで。」

 

「そうだねえ。でも、あたしたちはみんなにおいしい食事をつくって喜んでもらえるんだよ。

 だから、あの子にはあんたがとっときの料理を作って励ましてやれば大丈夫さ。」

 

「はい!」

 

そのあとホウメイガールズの5人も加わって、調理場は忙しくなった。

 

 

 

 

「どうしました、ルリさん。具合でも悪いのですか?」

 

ルリがオペレート席でぼんやりしているのを見て、プロスは声をかけた。

 

「あの、テンカワさんは調理のかたですよね。なんでIFSをつけているのか気になったんです。」

 

「ああ、彼はむかし、火星にいらしていて、そのときにつけたようです。」

 

「・・・そうですか。」

 

「なあ〜に〜?ルリちゃんのお眼鏡にかなう男の子がいたの?」

 

「いえ、男の子ではなく、男性です。それにそういった感情は相手にもっていません。ミナトさん。」

 

「うふふ。ルリちゃん、かわいい。」

 

(もう、メグミさんまで。)

 

到着の遅れている艦長を待つ間、ブリッジのクルー達はおしゃべりに余念がなかった。

 

 

 

 

(テンカワアキトさんは、やはりあのときのお子さんでしょうね。)

 

プロスは先ほど会った青年について考えていた。

 

(死体はみつからず、生きていても、あの環境では死んだものと思っていましたが。)

 

自分がいながら、大人の都合で銃弾をあびせてしまった少年。

 

「大丈夫ですか、ミスター。」

 

「ああ、すみません。ところで、ゴートさんは宇宙軍にいらしてたんですよねえ。

 凄腕の工作員の噂とか知りませんか?」

 

突然の質問にも表情を変えずに答えた。

 

「やはり、諜報部のキムラ中佐でしょう。『笑う狼』とあだ名されるくらい、いつも余裕で任務をこなす人物です。

 それから、『ラーメン屋』でしょう。本名は知りませんが、キムラが手塩にかけて育てた若手らしいですが。」

 

「そうですか。」

 

プロスはさりげなくウインドウで食堂の様子を見ていた。

 

 

 

「おまたせー。わたしが艦長のミスマルユリカです。ぶいー!」

 

能天気な声で白い制服に身を包んだ女性がブリッジに到着した。

 

「は?」

 

クルーは全員固まっていた。

 

「ばか。」

 

ルリは冷め切った口調でつぶやいた。

 

 

 

(アキト。地上で軍がバッタとジョロと交戦中。クリムゾンが情報を木星に流したらしいの。)

 

(わかった。最新鋭艦を土の中に埋もれさせるわけにいかないからな。

 パイロットがけがしているから、代わりに出ることになるかもしれない。ラピス、中佐に伝えといてくれ。)

 

(うん。)

 

「ホウメイさん、すみませんが、少し外を見てきてもいいですか?」

 

「かまわないよ。」

 

アキトは食堂を出ると、格納庫をめざした。

 

 

 

 

「おい、なんでコックがここにいるんだ?」

 

「すいません。知り合いがこちらにいるのを名簿で見たものですから、ちょっと、挨拶させてください。」

 

「仕事の邪魔すんじゃねーぞ?」

 

「はい。」

 

白いコック姿のアキトを整備班の班長ウリバタケセイヤは見咎めたが、相手が素直に謝ったため、そのまま

格納庫の休憩室に入るのを許可した。

 

中では、10人くらいの整備員が、交替で休憩をとっていた。

いつなにが起こるかわからないため、3交替で仕事をしている。

そのなかの、食事中のツナギ姿の中年にアキトは近づいた。

 

「おひさしぶりです、マスヤマさん。」

 

親しげにその隣に腰掛ける。マスヤマと呼ばれた男性はアキトを見ると嫌そうな顔をした。

 

「・・・『ラーメン屋』か。おまえも『お仕事』か?この艦で?」

 

「はい。ただの監視ですから、お気になさらず。上で軍がバッタ達と交戦中です。

 せっかくの戦艦を土に埋もれさせる気はそちらの上司もないでしょう?」

 

「・・・エステは組み立てが終わったばかりだ。なんの調整もしていないぞ。

 ま、おまえなら、悪運だけでどうにかできるか・・・。」

 

テーブルの下でエステの起動キーの暗号を手渡す。

 

「きのこにばれないようにしてくれよ?」

 

「もちろんです。」

 

 

 

「ちょっとー。なんとかしなさいよ。」

 

ブリッジではきのこ頭のムネタケ副提督が近づきつつある木星蜥蜴の攻撃による振動におびえていた。

 

「ルリちゃん、エステバリス隊はどうしているの?」

 

「パイロットのヤマダジロウさんが骨折のためでれません。

 それ以外のパイロットの搭乗予定は1週間後のため、不在です。」

 

艦長の質問に冷たくルリは答えた。

 

「なんですってー!どうにかなさい、艦長でしょー、あんた。」

 

「落ち着け、ムネタケ。」

 

フクベ提督が声をかけるが効果はない。

 

「軍人さんはもっと落ち着いているかと思ったのに。」

 

「現実なんてこんなものよ、メグちゃん。」

 

「大人はわかりません。」

 

女性陣は逆に冷静になっていた。

 

 

 

 

ぴぴぴ。

 

(?どうしたの、オモイカネ。)

 

(格納庫からエステバリスが1機起動し、地上に出るエレベーターで移動しています。)

 

(パイロットとウインドウ回線を開いて。)

 

(駄目です。あちらが回線を閉じています。)

 

「現在、エステバリスが地上に向かい移動しています。」

 

外部カメラの映像をウインドウで開けながら報告するルリ。

 

そこにはピンク色のエステバリスが1機、エレベーターで地上を目指していた。

 

「通信できませんか?」

 

「あちらが回線を閉じているため、映像も出せません。」

 

「・・・エンジン始動してください。エステバリスが地上に出次第、水中から地上に発進します。」

 

「囮にするつもりか?何者かもわからないのに。」

 

「このまま生き埋めにされるよりはましです。」

 

ゴートの言葉に冷ややかに応対するユリカ。

 

「それしかあるまい。存分にやりたまえ、艦長。」

 

「はい!」

 

提督の声にユリカは微笑んだ。

 

 

 

「うわー。いっぱいいるなあ。」

 

アキトは地上を蹂躙するバッタとジョロのむれにあきれた。軍は壊滅状態である。

 

「こちらは地上部隊703大隊のハヤカワ大佐だ!!貴様の所属はどこだ!?」

 

いらいらした声で地上から拡声器でがなりたてる男性がいた。

 

「こちら、戦艦ナデシコ所属エステバリス隊です。わたしが囮になりますから、後退してください。」

 

アキトは外部スピーカーで話し掛けると、バッタの群れに飛び出した。

 

 

(オモイカネ、あのエステとの回線をこじあけて。)

 

(いけません、ルリ。規定に反します。)

 

(・・・おねがい。気になるの。)

 

(わかりました。)

 

ルリはナデシコの発進の操作をしながら、謎のパイロットの乗るエステバリスの映像を何とか出そうとしていた。

 

民間の戦艦といえども、ある程度の規定はある。

いつものルリならそれを破る行動に出るはずがなかったが、いまは違っていた。

 

(プロテクトを突破しました。)

 

(ありがとう、オモイカネ。)

 

自分にだけ見えるように小さくウインドウをあける。

 

そこには。

 

黒い戦闘服を身につけた男性が口元をゆがませながらエステバリスを操作していた。

 

ウインドウ越しでも相手の刺すような集中力を感じて、ルリはつばをのみこんだ。

 

顔には黒いバイザーをつけているため、表情はわからないが、バッタを1匹落とすたびに愉悦にゆがんでいるの

が感じられた。

 

(・・・テンカワさんじゃない。)

 

なぜかパイロットは先ほど会った、テンカワアキトではないかと思っていたのだが、あまりにも身にまとう空気が

違っていた。これは別人だ。ルリはそう思った。

 

(よかった。)

 

そのとき、相手のパイロットがこちらの視線に気づいたかのように顔を向けた。

 

(どうして!?相手にはこちらの映像を送ってないのに!!)

 

慌てて回線を閉じる。

 

「どうしたの、ルリちゃん?」

 

顔色の悪いルリに心配げにメグミが訊いてきた。

 

「いえ、なんでもありません。」

 

なるべくいつものように冷たく答えたが、やや声がかすれていた。

 

「すばらしい囮ぶりだ。」

 

「・・・そうですねえ。」

 

プロスはゴートに相槌をうちながら考えていた。

 

(これは訓練された動きですね。しかも民間ではなく軍隊の訓練を受けたものですね。

 テンカワさんの姿を確認できませんし、彼が『ラーメン屋』さんのようですね。さて、どうしたものか・・。)

 

「敵、主砲の有効射程距離に入りました。」

 

「ナデシコ浮上、グラビティ・ブラスト発射!!」

 

「了解。」

 

ちゅどーん。

 

あわ立つように伸びていくグラビティ・ブラストの光にバッタやジョロはひしゃげながら破壊されていく。

 

「目標、沈黙しました。軍から通信がきています。」

 

「開いて、メグミちゃん。」

 

「こちらは地上部隊703大隊のハヤカワ大佐だ。民間に助けられるとは思わなかったが、助かった。

 そちらのパイロットによろしく伝えてくれ。」

 

土や血で汚れた顔でにやりと大佐は笑って、敬礼した。

 

「え?ああ。はい。」

 

わけもわからずユリカは返礼した。

 

「えーと。エステはどうなりました?」

 

「艦の上に載っています。」

 

主砲を撃つときにナデシコの上に着陸し、そのままになっていた。

 

「いそいで回収してください。パイロットのかたにお礼を言わないと。」

 

ユリカは喜んで命令したが、回収されたエステバリスのコクピットには誰もいなかった。

 

 

 

 

 

そのころ・・・。

 

「うう、頭が痛いよーう。」

 

アキトはナデシコが海中から飛び出した際、エステをその上に停止させ、ばれないうちに艦内に戻ろうとした。

 

マスヤマに緊急脱出用の扉を開けておいてもらったため、タラップをつたって行こうとした。

その際、主砲の発射の衝撃に見事に転び、滑り落ちて頭から艦内に戻った。

 

あまりの痛さに涙目になっている。

 

「・・・・あほ。」

 

マスヤマは某オペレーターのように無表情につぶやいた。

 

 

 

 

 

あとがき

 

どうも、ぽちです。

 

え〜と、テレビ版に乱入しちゃいましたが、大丈夫なんだろうか(汗)

 

・・・・それでは、また(冷や汗)

 

 

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

 

ぽちさんからの投稿第六弾です!!

おお、アキトが黒い王子様をしてる!!

こんな場面がくるとは予想もしてませんでしたね。

やりますな・・・ぽちさん。

しかも、TVと合流するとは!!

これは今後の話に期待大ですね!!

 

・・・個人的にはプロスの動向が気にかかる(笑)

 

 

それでは、ぽちさん投稿有難うございました!!

 

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