ラーメン屋奮戦記(悩める子羊)

 

 

 

 

 

 

 

「ん〜。どうしたもんでしょうねえ。」

 

プロスぺクターは、自室で展開したウインドウを見た。

そこにはナデシコに潜り込んでいた宇宙軍の軍人の経歴と所属が映されていた。

そのなかにはテンカワアキトの名前も混じっていた。

 

「・・・困りました。」

 

ブリッジではホシノルリが同じように展開したウインドウを眺めていた。

他人から見ればただの文字の羅列にしか見えないが、オモイカネに頼んで調べたナデシコクルーの

ナノマシーンの所有者名が暗号化されたものである。

ナデシコの窮地を救ったパイロットを探そうとしたのだが、こんなに所有者がいるとは思わなかった

のである。

地球ではあまりなじみがないナノマシーンを、持つ人間といえばパイロットである。

しかし、ナデシコは民間の戦艦であって、軍属ではない。

正式なパイロット以外にナノマシーンをもつクルーはいるはずがなかった。

ところが調べてみると多くのナノマシーン所有者がでてきてルリは呆れた。

ネルガルが戦艦を所有するにあたり、軍ともめたのは有名だ。

ナノマシーン所有者イコール軍人と考えるのは短絡的だが、一番可能性が高い。

ふう。

ルリは目をつぶった。

 

「なんかばればれですね。大人って汚い。」

 

「ルリルリ〜。どうしたの?恐い顔して?」

 

「いえ、なんでもありませんよ。ミナトさん。ところで、ルリルリとはわたしのことですか?」

 

「他にいないじゃない。」

 

ミナトはにこやかに微笑みながらウインドウをのぞいた。

 

「ん〜。なあに?これ?」

 

「・・・オモイカネのシステム・チェックです。

 バグもウイルスもありませんから、安心してください。」

 

「?そう?」

 

「はい。ところで、なんの御用ですか?」

 

「ん。御用ってほどじゃないけど、食堂に行かない?

 結構、おいしいらしいわよ?アキト君もいるし。」

 

アキトというところで、ミナトは意味深げに笑った。

 

「・・・そうですね。」

 

「うん、うん。」

 

ミナトは嬉しそうにルリの手をひいて食堂にむかった。

 

「あ、いらっしゃい。ルリちゃん。こちらは?」

 

「操舵士のハルカミナトさんです。」

 

「どうも〜。あなたがアキト君か〜。」

 

ミナトは値踏みをするようにアキトを見た。

その視線にやや逃げ腰になりながら、アキトは注文をとった。

 

「じゃ、待っててね。」

 

厨房に戻るとアキトは手際よく調理していく。

 

「ね、ルリルリ。優しそうじゃない、彼。」

 

「そうですね。」

 

「おや、お二人もこちらでしたか。」

 

ひょっこり顔をだしたプロスぺクターにルリは嫌な予感を覚えた。

 

「へ〜、プロスさんもここに来るんだ〜。」

 

ミナトの言葉にプロスぺクターは苦笑いをした。

 

「はははは。ま、腹が減ってはなんとやらですよ。

 ルリさんこそ珍しいじゃないですか?いつもは自販機のハンバーガーでしょう。」

 

「え?本当?だめよ、しっかり食事をとらなくちゃ。」

 

「平気です。研究所ではいつもハンバーガーでしたから。」

 

その言葉にミナトは沈黙した。

 

「はい、おまちどうさま。ミナトさんがランチ定食で、ルリちゃんがオムライスだね。」

 

アキトがにこやかに皿を並べた。そこへプロスペクターが声をかけた。

 

「テンカワさん。少し、お時間をいただけませんか?

 ホウメイさんにはわたしから伝えてありますから。」

 

「かまわないですよ。あ、ルリちゃん。サラダを特別につけておいたからね。

 バランスよく食べてね?」

 

「どうも。」

 

ぺこり。

 

ルリはおじぎをしながらプロスぺクターをちらりと見た。

プロスぺクターは「いやあ、これなら料理の値段をもう少し高くしてもよかったですよね〜。」と

のんきそうに言いながら、アキトと一緒に食堂を出た。

 

ミナトはルリをからかいながら食事を終え、ブリッジに戻ろうとした。

 

「じゃ、ルリルリは午後お休みだよね?しっかり休まなきゃ駄目よ?」

 

「大丈夫です。わたしは子供じゃありません。」

 

冷ややかに言うルリを暖かい目でミナトは見た。

 

「その言葉が出るうちはまだまだ子供なのよ?自覚しなさいね。じゃね。」

 

手をひらひらさせながらミナトはブリッジに続く通路に消えた。

 

釈然としないまま、ルリは自室に戻る通路を歩いていく。

プロスさんもアキトさんを軍人さんだと疑っているのかな?

 

てくてく。

 

でもあんなにお料理のうまい軍人さんがいるんでしょうか?

 

てくてく。

 

火星ではネルガルがナノマシーンの試行をしていたみたいだから、案外浸透していたとか?

 

てくてく。

 

どうしてこんなに気になるんでしょう?

 

ぴたり。

 

ふと横を見ると、プロスぺクターの部屋があるブロックに続く通路が伸びていた。

せっかくですし、プロスさんに直に聞いてみましょう。

ルリはまわれ右をしようとした。

 

がしっ!

 

「!!」

 

背後から口をおさえられ、毛布のようなシートに包まれてルリは身動きできないまま拉致された。

 

「ん。」

 

ルリは目を覚ましたが、両手両足を縛られてナデシコの倉庫に転がされていた。

床のひんやりした感触が嫌だった。

見ると銃器を持った男達が見えた。

ん、頭がずきずきする。睡眠薬の副作用ですね。

ルリは冷静に判断した。

研究所でもお世辞にも人間扱いされたことがなかったため、さほど恐怖は感じなかった。

 

「こちら、フォックス。妖精の拉致に成功しました。指示を願います。」

 

男達はどこかに連絡をとっていた。

ルリはコミュニケでオモイカネに拉致されたことを知らせようとしたが、取り上げられていた。

ナデシコのクルーの格好を男達はしていたが、どこか民間人と空気が違っていた。

やっぱり軍人さんが乗り込んでいたんですね。

でも、テンカワさんはどこにいるんでしょう?ここにいないということは民間人なんでしょうか。

 

ぴ。

 

通信を切ると、リーダーらしい男が指示を出し、きょろきょろ辺りを見ていたルリに目隠しをさせた。

そして小荷物のようにルリは担ぎ上げられた。

 

「大人しくしていろよ?」

 

「それはそっちだろ?」

 

あらぬ方向から声をかけられて男達は狼狽した。

 

「な?」

 

  しゅん。

 

   どこがこ。

 

「どこに!?」

 

「ここ。」

 

       ざく!

 

「がああああ!?」

 

            どさっ。

   ぱん、ぱん。

         がたん。

 

しばらく争う音がしたが、やがて静かになった。

 

ふわり。

 

ルリは誰かに抱き上げられるのを感じた。先ほどと違って、大切に扱われているのがわかった。

 

はふう。

 

ルリは小さく息をついた。

 

「誰ですか?」

 

「ないしょ。」

 

くすくすからかうように相手は笑って、軽くルリを抱きしめた。

マスクでもしているのか、声がくぐもっていて誰なのかわからなかった。

目隠しも自由を奪っている縄もそのままだったが、相手の暖かい体温を感じてルリは安心した。

 

「だめだよ、危ないことに頭を突っ込んじゃ。」

 

「ナノマシーンの所有者を調べるのは危ないんですか?」

 

ふう。

 

相手がため息をついたのがわかった。

 

「ネルガルもある程度は軍人が乗艦しているのはわかっているのさ。

 軍と真っ向からけんかする気はないらしくてね、そのままにしているんだ。

 それを君が調べ上げちゃったもんで、誰かさんが危機を感じちゃってね?

 君を人質にクーデターを起こそうとしたのさ。」

 

「クーデター?」

 

説明しながら相手はどこかに向かっているらしい。

むう。どこにいくんでしょう?今更殺さないと思うけど・・・。

 

「そ。でもネルガルも甘くないからね。軍に資金援助の中断を突きつけてきてね。

 困った軍が俺に君の救出を命じたんだ。」

 

「・・・いいんですか?そんなに話しちゃって?」

 

「うん。クーデターは失敗したからね。上の連中も甘いよな。」

 

苦々しげにつぶやいた。

 

ぴ。ぷしゅー。

 

どこかの扉が開く音がした。

 

「よいしょ。じゃあね。ミナトさんに連絡をしておいたから、ここで待っていてね?」

 

ぽふん。

 

柔らかなクッションの上に乗せられたのをルリは感じた。

 

20分後。

 

「きゃあ!ルリルリ!無事で良かったわ!心配するじゃないの!」

 

ミナトが驚きながらルリの縄を解いた。

ルリが目を開けると自分の部屋のベッドに乗せられていた。

 

むぎゅう。

 

ミナトの豊満な胸に顔をうずめられてルリは呼吸困難におちいりかけた。

 

ぷは〜。

 

「ごっめ〜ん。つい、嬉しくて。」

 

てへ。

 

ミナトは謝った。

 

「クーデターがあったんですか?」

 

「ルリルリ、よく知っているね〜。うん。大変だったんだよ。

 みんなでフライパンや中華鍋で武装してね、軍人さんたちは追い出しちゃった。」

 

「・・・よくみなさん無事でしたね。」

 

「うん。ルリルリを返して欲しかったら言いなりになれって言われて、最初はみんな大人しくしてい

 たんだけどね?

 ルリルリが心配でみんな躍起になって軍人さんを追い出しちゃった。」

 

「テンカワさんは?」

 

「ん?さあ?わたしはブリッジにいたから。

 でも主犯のムネタケ副提督も追い出しちゃったから、もう安心だからね。」

 

「そうですか。」

 

ルリは寂しそうにつぶやいた。

 

「しっかし、追い出さなくていいんですか?俺の正体はわかっているんでしょう?」

 

アキトはサングラスを外し、プロスぺクターを見た。

アキトはいつもの白衣ではなく、黒い戦闘服を身につけていた。

 

「ま、ルリさんを救出していただけましたし、軍人さんのひとりやふたりは残しておかないと、軍に

 信用してもらえなくなっちゃいますから。」

 

さらりとプロスぺクターは答えた。

 

「ま、いいですけど。

 ムネタケ副提督が木星にからんでいたのはそちらが教えてくれなければわかりませんでしたからね。

 じゃ、これで。」

 

再びサングラスをしたアキトにプロスぺクターは声をかけた。

 

「・・・10年前のこと、恨んでいらっしゃいますか?」

 

ぴたり。

 

アキトの足が止まった。

 

「あのとき、わたしはあなたを救えませんでした。わたしは・・・。」

 

「いいにしましょう、その話は。

 ただ、俺の両親がなぜ殺されたのかはそのうち教えてくださいね。」

 

ぴ。ぷしゅー。

 

あとには苦悩に満ちたプロスぺクターだけが残った。

 

 

あとがき

いくら軍人が武装していても、鬱憤のたまった集団にはひとたまりもないんじゃないかと思って書いてみました。

ちなみに、アキトはルリの救出だけを命じられたので、クーデターの阻止には参加していません。

 

 

 

 

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

 

ぽちさんからの投稿第七弾です!!

何だか・・・渋いぞ、プロス&アキト。

良い味出してますね〜

しかし、ムネタケって木星と関係があったんだ?

すっごく興味深い話だな〜

ルリちゃんが、やたら行動的なような気がする(苦笑)

ミナトさんもグ!!

 

それでは、ぽちさん投稿有難うございました!!

 

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