かつて未来と呼ばれる過去の中で彼はナデシコと呼ばれる戦艦に乗っていた。
 けっして楽しいことばかりではなかったが、彼にとってそこはかけがえの
 ない場所であった。

 そして戦うことを終えた後、彼は自分の夢を家族と一緒に叶えようとした。  
 
 しかし、その夢は叶うことなく家族は引き裂かれていった。

 そして彼は復讐のために闇の王子に姿を変える。
 
 復讐が終わった後に居場所を感じることが出来ず、愛しい者から逃げていたとき
 
 奇跡は起こった。
 
 彼の精神は過去へ逆行し、また一握りの者も彼と共に跳んだ。

 そして彼は未来で起きた惨劇を繰り返さぬために、彼は戦い抜いた。
 
 新たな仲間との出会いと別れ。新たな敵との出会い。

 そうして、ようやく終わろうとしていたときにそれは起きた。
 
 世界を変えた代償だったのか、彼は別世界に跳ばされてしまった。
 
 彼の名はテンカワ=アキト、漆黒の戦神と呼ばれた者である・・・・・・・




天使が舞う銀河にて







天使が舞う銀河にて



 第零章 第一話 新たなる誕生

 自分には勝てないんだよ。わかってる?



「それでは私はこれから仕事に向かわなければならないが……・タクト、色々と不都合があると思うが頑張るんだぞ。直にお兄ちゃん達も来てくれるからな」

 タクト。
 その名前は自分の事を指しているらしい。
 昨日から今日にかけて、そして今日もよくその名前を自分に言われる。
 名前というものは所詮個人を表すための記号だと聞いた事があるが、嘘だと思う。

 ………結構に辛い物がある。
 
 そして、その名前を使って話しかけてくる誰かに対して文の構成から考えて最も適当だと思う答えを返しておく。まぁ、普通に考えれば『タクトの』父親なのだろう。
 一応念のために他人行儀に振舞う。これもまた皮肉な話である。
 世界中どこを探しても中々聞ける話ではないだろう。

「あ、はい解りました。ご迷惑をお掛け致します」

「タクト……私はお前の父なのだぞ、いくら記憶が無いからといって気を使うことはない。もちろん敬語も不要だ。今まで通りパパと呼んでおくれ」

 肉体年齢に照らし合わせると確かにそう呼ぶ年齢なのだが、いかんせん俺がその単語を使うのは難しいと思う。だけどしなくてはならない。
 親子のスキンシップは大切にっ!

「うん。じゃあねパパ、行ってらっしゃい」

「ああ、では行って来る。最後にベッド横にある聖書はしっかり読んでおきなさい、月の聖母の事を知らないなどトランスバールの民として恥ずかしいからな。」

 そして、こちらに向かってくる結構体つきがいいダンディなお父様。
 抱きしめようとする腕は熊のように太くて、正にベア・ハッグと言った所だ。
 ちょっと待って!それは既に言葉にならなくて………

 声にならない悲鳴。

シュィィィィィィィン プシュゥゥゥゥゥゥゥ

 扉が閉まる。

 残されるのは苦悶の表情の俺のみ。

 前言撤回、親子のスキンシップは程ほどに。
 全力で思い切り抱きしめられるというのは肉体年齢が幼い子供にとっては苦痛にしかならない。この経験は時期に自分がする番になったら役立たせてもらおう。
 ともあれ、


「は〜ッ、何が悲しくて子供に、しかも人様の体に入ってるんだろう俺は」


 誰に向けてでもないが勝手に口から出る、どうしようもない状況であった。
 泣けてくる。いや、涙こそ出ないがそれでも絶望的状況ってのがここまで目の辺りにあると流石に凹みたくもなってくる。とりあえずは自分のことを振り返ってみる。
《タクト=マイヤーズ》ではない《テンカワ=アキト》の事を………

 この体になってからもう何回思いだしたかすら覚えてないが、原因であって元凶であろう遺跡によって空間を跳ばされた直後のことを頭の中に浮かべる。

「確かあの時に………」

 機体が一切動かない謎の異空間の中に俺達はいたんだ。









「どうやら完全に別の空間に移ったようだな、機体の揺れも安定してきた……何が起きるか解らない人類未踏の空間、か…ブロス、ディア………試しに予想してみないか?」

「アキト兄!!そんなことを言ってる場合じゃ!!」
「そうだよ!!どうなるか解らないっていうのに!!」

 怒鳴られた。
 しかも同時一斉攻撃、ナイス連携&ナイスハーモニー
 いやいや、世界初というか人類初の偉業だ!なんてお気楽な事を考えてるのではなくて。
 俺の意図してるのは……

「だからだよ。今現在俺達に出来ることはない、これが事実であって現実なんだ。仮に機体を動かせたとしてもこの異空間の中で正常に作動させられるか分からない。何せ、慣性系すらつかめないんだからな。正常に作動できたとしても、何処にも行く当てがないさ。この中にいる限りは………そして、遺跡が俺達の決定権を握ってる。」

「!アキト兄……」
「!それじゃあ、私たちがいる意味って………」

「でもね、二人とも考える事くらいは出来るだろう?データや科学的検証も何もない予想がさ、な?」

『え?』

「ひょっとしたら元の世界に帰れるかもしれない、そう言った楽観的な予想をさ」

『アキト兄……』 


 俺だって少しでも希望を見出したい。
 そして帰りたい。
 皆がいるあの世界へ。約束したあの世界へ。
 でも、それは俺達には決められない。
 だったら、せめて考えるくらいはしてもいいのではないか。
 不幸中の幸いとでも言おうか、全ては遺跡が決めるのなら思想する事、つまりはイメージが伝わってくれるかもしれない。帰れる可能性は決して0ではないのだ。 



「まあ、少しポジティブすぎる考え方かもしれないけどさ」


 冗談交じりに二人に返してみたり。
 さっきから揃って悲痛で悲壮な表情しかしてなかったのでコッチとしても気が重かったのだ。想像して欲しい。二人の10歳前後の子供が沈んでいる中にぽつんと一人座っている男。哀しいを通り越して痛すぎる。
 それに、家族とも呼べるこの子達にそんな表情はして欲しくない、これが第一だ。
 だから、笑顔を見せてくれよ。 

「もう、アキト兄ったら。ちょっと楽観的すぎるよ」
「そうそうブロスの言うとおり、どうしてそのポジティブさを同盟に使えないの?」

 復活。そして毒吐きまくり。
 
「ど…同盟の事はこの際置いておかないか」

『ええ〜〜、ルリ姉やラピス姉、それに他の皆のことを忘れちゃうの、うっわ〜昼の連ドラみたいに《昔の女》で割り切っちゃうの〜〜』

「ふ…二人とも何時の間にそんな言葉まで……」

『このくらい常識だよ!!』


 自分が果てしなく苦い顔をしているだろうという事が鏡を見なくても自認できる。
 ちょっとばかり沈みたくなってきた。
 まぁ、結果的に復活してくれたからよしとしよう。
 そうでもしなければ現在進行形で『座布団男』とか言われてるのに耐えれそうにない。
 想像して欲しい。二人の十歳前後の子供が大人顔負けに毒吐きまくってる中にぽつんと沈んでいる一人の男。痛すぎるを通り越して嫌過ぎる。

                


「ま、まぁその事については後々の事にして。で、二人はどうなると思う……?そう、これからを考えようじゃないか」
 

 話を矯正してみる。
 何とかして話題の筋を本流に戻さなければいけない。 
 このままではイメージもへったくれもあったものではない。


「(ひそひそ)アキト兄ったらさりげなく話題すり替えようとしてるよ」
「(ひそひそ)大人ってずるいよね、本当。」

 聞いちゃいねぇようだ。
 副流は本流に交わらずに海に向かってまっしぐら直進中。
 誰か止めてくれ。

「お、おいおい二人とも…………」

 聞いてくれよ。
 その言葉の続きを紡ごうとしたら、突然にそれは起きた。 


パァァァァァァァァァァッ


「な?!ジャンプフィールドの結成だと!?」

 いきなり独特のまるで吸い込まれていくようなジャンプ感覚が体に圧し掛かってくる。これは決してありえないはずだ、何せ俺は発生装置を使用していないのだから。ならば、ブロスとディアの仕業か?いや、違う。こんな異空間の中で俺を飛ばす理由がない。だったら、これは一体、どういうことだ!
 

「何だ!?一体何が起こってると言うんだ、ブロス、ディア!!」


 全力で叫ぶ。そんなにしなくても聞こえるのだが、それでも心情的に叫びたくなる。必死に叫んで壊れたように吼えていてる中で自分の中の冷静な部分が結論を出す。そしてそれを認めてはいけないという自分が存在する。だから、俺は……家族に訊く。
 それが、辛い思いをさせると解っていても。


「ブロス、ディア!!………頼む、報告してくれ」


 怒鳴るのをやめ、諭すように話し掛ける。俺の内心ではこのまま狂ってしまいたい気分だが、必死に自己と理性を保つ。此処で終わる事は全て終わるのと同義語だからだ。
 それが解ってくれたのか、ようやく二人が口を開く。
 そして、答えを涙混じりに報告してきた。

 決して報告をしてはいけないという様子で、だが。




「ア…アキト兄の……周りの……ひっく……ボース粒子が…異常……えぐっ……上昇中」

「このままじゃ…えぐっ…アキト兄だけ…ひっく…跳ばされちゃう…」



 それはあまりにもあまりな結末であったかもしれない。
 此処まで一緒に来て更に仲間……いや、家族と別れなくてはいけなくなったのだ。
 別れる。それは再会を伴うものではないかもしれない。 
 また会える、という事が起きない可能性しかない。
 そんな答えを訊いたとき、俺の心の中は妙に冷めていた。
 死ぬ瞬間の人間の気持ちが解ったような気がする、いや、実際そうなのかもしれない。仮にこのまま何もない宇宙空間の中にでもほうっぽりだされたら確実に絶命するだろう。 
 そういった意味でも、お別れの可能性もある。
 むしろ、その可能性のほうが圧倒的に高い。




「そっか」




 と、短く呟いた。
 全くもって自分で予想したとおりである。
 笑えもしないが。



 ディアとブロスが必死にキャンセラーを発動させようとする、だが無駄だ。その程度しかないキャンセラーでどうにかなるようならば最初の時も打ち消せたはずである。
 相手は全てのジャンプを取り仕切っている相手なのだ、生半可な科学力で対抗できる相手ではない。 

 そして……



パァァァァァァァァァァァァァァァッ



「また…ジャンプが最終段階に入ったようだな………」

 輝きを増す虹色の光芒を見ながら再び同じ言葉を言う。
 出来る事ならば、帰るときにもう一度言いたかった言葉だ。



「嫌だよ!!アキト兄と離れるなんて嫌だよ!!ック・・・ひっく」
「アキト兄!!ぐすっ、アキト兄ッ!!」



 それを必死にディアとブロスがジャンプをキャンセルしようとする。
 しかしそれは決して叶わない。
 もう、いいよ。こう呟いても一向に聞こうとはしない。
 全く……何て人間以上の人間らしさだよ、見ていて哀しくなってくる。
 怨むぜルリちゃんとラピス。せめてもう少し無機質だったら此処まで思わなかったのに。


「アキト兄、絶対に……絶対にまた会えるよね!!絶対に!!」

 ああ、もちろんだ。と笑って言うがまだ泣いている。
 やはり、最後の強がり西か見えないのだろう。もしくは、決してありえないと思っているのかもしれない。いや、ジャンプはイメージ次第。
 会おうと強く念じれば・・・会えるかも知れない。 
 伝えよう。


「ディア!ブロス!俺がこの後予想する未来にはお前達が映っている。そう、もし姿形こそ変わろうが絶対にお前達と一緒にいる未来が見える。例え、世界や次元を越えても……必ず……これが俺の予想する未来だ。きっとお前達と一緒に………」



パシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!

 そして、言い切る前に俺は飛ばされた。
 最後に、二人がどのような表情をしていたのかは見えなかった。
 暗転。







「その後の記憶が無くて気が付けばタクト=マイヤーズという子供の体になっていた」

 盛大な独り言だな、それで言い終わるとベッドに大の字に横たわる。
 何回目になるか覚えてないが再び残された二人のことを思う。
 姿形がってまさか自分が変わることになるとは思ってもいなかったが。
 かといって、いきなりブローディアがバードチェンジとかしてたらかなりびびるが。うん
我ながら発想が貧困である。だからイメージに失敗するのだろう。


「ディア、ブロス、お前達もこの世界に来てくれているのかも定かじゃない……だけど、俺は何があろうとお前達を見つけてみせる、必ず」


 と、そこまで考えたところでふと何か引っかかっていることを思いだした。
 どうして今まで思い出さなかったのが不思議に思えるくらいだ。

「待てよ、そう言えば…元々の体の持ち主……タクト=マイヤーズはどうなったんだ………まさか俺が介入してしまったことで………」


 自分が来る前からタクト=マイヤーズという人間はこの世界に存在していた。
 なら、その子はどうなってしまったのか、俺という存在に負けて消滅してしまったのか。
嫌な考えに辿り着く、すっかり気分が滅入っていたら病室のドアが開いた。



プシュッ シュィィィィィィィィィィィン



「おい、見ろよヨーゼフ、タクトの奴どうやら無事みたいだぞ」
「よかった〜っ、これでパパやママに怒られなくてすむね兄さん」



 入ってきたのはどちらとも十歳前後の子供達であった。
 一人はデブで一人はチビ。とりあえず心の中で字をジャイアンとスネ夫に確定。
 そう言えば、さっきタクトの父さんが言ってたな、お兄ちゃん達が来るって。
 ………自分の体をまじまじと見てみる。そして、目の前の凸凹コンビを見てみる。 

 よかった、当たりを引いたようだ。というのが正直な感想だった。 

 いや、タクト君の事については自己嫌悪を思いっきり抱いているが、それでもどっちにしろそれを味わうのだったら、まだこの子の方がよかった。
 しかし、コイツラの名前はどうでもいいとして今気になることを言ってたな。
 もしかすると…いや、結論づけるのは早い、まずは聞いてみるか。 


「やあ、俺は無事だけど………一体どういう事かな?『怒られなくてすむ』って」

 とりあえず再び他人行儀モード。
 こう見えて口調は悪いが実はいい奴という裏業を使われたらいきなり喧嘩腰になるのは只の阿呆だ。こういうのはじっくりと時間をかけて自分という存在の確認を行わなければならない。



「【俺】!?、なあ聞いたかヨーゼフ、弱虫タクトが【俺】だってよ、何、受け狙い?」

「聞いた聞いた、いつも俺達がからかってはママに泣きついてるタクトが【俺】だって、 馬鹿じゃねぇの。似合わねぇぞ、こら」



 子供というのはこれだから………いい感じに怒りの琴線を弾いてくれる。
 しかし、そこは俺も子供ではない。そこそこに受け流しておいて再度トライ。
 いつもからかうというのが気にかかる。
 もしかしたらといった過程が脳内で保管されているが、あくまで仮説の域を超えない。
 まぁ、それが一番いいのかもしれないが。
 しかし、子供言葉はかなり辛い物がある。
『体は子供、頭脳は大人』を実践するとは思わなかった。


「えっと、も一度訊くけど……どうして俺が無事だと兄ちゃんたちが怒られないのかな?」



 すると未だに馬鹿笑いしながら返してきた。
 それが何を生むかを知らずに。



「ギャハっ、そりゃお前が無事じゃなかったらよ、俺達が突き落としたってばれちゃうじゃないか、本当に覚えてないのか?やっぱり馬鹿だなタクトは。なあ、ヨーゼフ」

「うん兄さん、しっかし良かった良かった無事なようで、お前がいなくなったらこれから悪戯が出来なくなるし。これからもかわいがってやるよ泣き虫タクト」



 それを聞いて完全に理解した。
 つまり俺がこの体に介入する前に既にタクト=マイヤーズは死んでいたのだ。
 そして、ちょうど俺が入ったことによって体のみが生き延びることが出来たのだ。
 何故、この幼い身で死ぬようなことになったのか?
 この馬鹿兄弟の執拗なる虐待のせいである。 
 
 さて、俺としての結果だけを考えれば丁度の具合に空きが出来たおかげで宇宙空間の中で血液が沸騰して死ぬ目にあうといった悲惨な死に方をしなくてすんだのだ。結果論だけを見ると感謝である。だが、理性的、人道的に見てこれらの行動を俺はどう評価するか?
 答えは一つ。

 教育の時間が必要である。
 

 怒りを抑える必要はなかった、何故実の兄弟にこれほど非道いことが出来るのかなんて事は言わない。そういった事を考えれない人間だっているのだ。だから、罪を憎んで人を憎まず。だけど、罪の対価である罰は人間に与えられる。当然の報いだ。

 容赦手加減の必要はあるのか、と脳裏をよぎったが別に今は自分も子供であって被害者であることを思い出して必要なしと決定する。

 少し迫力には欠けるが本来の口調に戻す。


「さて、人一人殺しておいて全く反省していない糞ガキ共をどうしたものか」


 自分の声が完全に子供だっていうのが情けないところだ。迫力も糞も無いに等しい。オマケに一応はこの糞ガキ共の弟という立場なのだ。あー、嫌になってくる。おかげであちらさんは糞ガキ呼ばわりされた事に腹を立てている。 
 恐らくは、端から見ると反抗期に入った弟にキレている兄弟の図になるのだろう。
 内心、微妙な光景だなとは思うが、それよりも最優先すべきは…成敗である。
 天の裁きを待ってはおれぬ………ってか。  

「あぁん?何言っちゃってるわけ」
「タクトの癖によ」

「黙っててくれないか。耳障りで仕方が無い」

「なにハンコーしてんだよ、いつもやってるんだからいいだろうがよ!!」 
「そうそう」
 
 …ふぅん…

「いつもだから良い、か。一回やられる方の辛さという物を味わってみるかい?」
『あぁ?!』
 

 ジャイアン(仮)の神経が限界を迎えたようだ。やれるもんだったらやってみな、という月並みな台詞をはきながら突進してくる。その様は豚の突進によく似ている。
 うむ、我ながらよく出来た比喩だ。

「おりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 良く言えば体格のよい、悪く言えば肥満体の突進が腕というマニピュレーターを振り回し始める。これからの行動を予測すると思いっきり殴るつもりなのだろう。解り易い。
 そしてそれをスネ夫(仮)は笑って見ている。まるでいつも通りだと言わんばかりだ。
 実際はそうなのだろう。
 体重にして35キロオーバーの重量の突進はタクトサイズの子供だったら軽く吹っ飛ばすだろう。そして、それを毎日続けてきた、と。随分と恐怖だっただろう。 
 だけど、俺にとっては……

「避けただと?!」

 ベッドから体を少しずらすだけですぐにかわす事が出来る。
 どういうことだか、身体的能力も受け継いでいるようだ。ご都合主義だと思う。
 だけど、折角のその能力も今の体で使うと体自体が壊れてしまう。
 これが空想の世界だったら問題なく使えたりするものだろうが、そこまでご都合では無さそうだ。まぁ、いい。別に使うまでもない。

 ベッドから降り、少し距離をとる。
 すると、予測どおりもう一度突っ込んでくる。 


「安心してくれていい、骨は折れないし痕も残らない。」


 デブの振り下ろそうとした拳を掴み、突進に使われていたデブの運動量を自分の運動量に換えて投げ飛ばす。柔で言う『柔よく剛を制す』と言う奴だ。因みに木連式柔の場合は『剛よく剛を制す』だったので、この辺りは独学で覚えた。
 が、そんな事はやられるほうにしては関係ないだろう。

 空中で一回転した後、どすん、という擬音と共にベッドの上に落ちる。


「あう!?」


 俺に向かったはずが、突然上下が逆さになったと思ったらベッドの上にいる。そんな具合に事情を理解しきれていないデブが喚く前に仰向けになった腹に当て身をする。
 ごふっ、と一回呻いた後に沈黙するデブ。
 その体は死んだように動かない、いや、痙攣だけはしている。

 そして振り返って、スネ夫(仮)の方を向く。
 
「ひいっ、ひいっ!!」

 おうおう、脅えてる脅えてる。見ていて嗜虐心を増長させるぐらいにいい感じにびびっている。だが、俺は児童虐待をする気なんかさらさらとない。それは只の弱いもの苛めだ。
 まぁ、此処までびびられると制裁する気も起きないし、いい教育ぐらいにはなってくれただろう。トラウマになっているのがベストだ。
 

「あ、そうだ」
「は、ははっっははははいいいいいい、な、なんあなんであありませうか!?」

 あ、なんか面白いかもこの反応。
 何とか声を振り絞って出してるって感じだ、よっぽど神経が細いのだろう。
 このまま気を失っていきそうな感じだ。
 

「少し病室を空けるから、これの事もあるから此処で待機しといてくれないかな。で、誰かが来てもトイレに行ったとだけ伝えておいてくれると助かるんだけど」


 そう言って【ポジティブ・ムーン】と書かれた聖書を持って病室を後にしておく。この本がさっき言ってた月の聖母とやらが書いてある本だろう。情報収集っと。
 残されたスネ夫(仮)が言いつけを守って気絶しなかったかは分からない。
 別にいいけどさ。







「天恵…それによって我々は生活してゆくことが出来る。
 それらは【白き月】の【シャトヤーン様】によって備蓄、管理されている、か」

 屋上でこの世界の聖書を読みながら呟いてみる。もちろんの事ながら独り言だ。
 やはり自分がいた世界とはだいぶ違っているようだ。
 しかし、書体のほうは何でか知らないが一緒で、言語のほうも確かめるまでもないが話せるという点において一緒だと思っていいようだ。
 ただ、文化だけが少しずつちぐはぐになっているのが不思議な点である。


 此処に来る前に借りてきた本によると此処の世界の歴史という物は・・・・・






 かつて偉大な文明が存在した。
 
 今ではEDENと言う名が知られるだけの星間文明である。
 
 その時代には、魔法としか思えないような科学技術が発展していたという。

 人類は時空を制し、全銀河にネットワークを創造していた。

 しかし、それは神の領域であったのかもしれない。

 何故なら、天罰のごとき災厄が突如としてEDENに下されたからである。

 それは時空震と呼ばれるモノ、今となってはその言葉から時空全体に歪みが
 走ったモノだとしか推測するしかない。

 それによって、人類は移動手段と通信手段を同時に失ったのである。

 そして、EDENは崩壊する。

 高度に発達した科学技術と物質文明は、一つの惑星『地球』だけでは
 維持することが不可能であったのだ。
 
 EDENの崩壊という現実に直面したとき、地球の当時の統治者は、
 賢明であった、あるいは残酷であった。

 文明を進んで放棄することにより、最悪の破局は逃れられたから。
 また、その代償として、何億という命が失われたからである。

 しかし、生き残った人口こそが、地球の資源で養える限界であったと評論家は
 推測している。只、当時のことを表す貴重な資料にはこう書かれている。

‘力の限り戦った結果である’と。

 戦いがなにを指し示しているのかは誰も知らない。

 百年ほどの後、地球は幾つかの国に分かれ、それぞれが覇を競い合う戦乱の
 時代を迎える。

 だが、その武器はレーザーでもミサイルでもなく、鋼の剣や槍であり、
 乗り物は馬と帆船であった。

 そんな地球に、救世主が現れたのは、六〇〇年余り前のことである。

 救世主の名は、シャトヤーン。【白き月】の聖母である。

 白き月は、先文明EDENの科学技術の結晶とも言うべき巨大な球形の
 人口構造物であり、多くの先文明の遺産と生産手段をも持ち合わせていた。

 白き月は、地球の住人に、失われた技術という天恵を与えることで、
 先代文明の栄光の幾ばくかを取り戻せたのである。

 そして、その中には、恒星間航行と恒星間通信の技術も含まれていた。

 かくして、聖母の元に統一された地球は、星間ネットワークの再構築のため、
 名前をトランスバールに変え、宇宙の大海へと乗り出すことになる。

 星間国家トランスバール皇国の成立である。

 暗黒時代を生きながらえた人類が細々と暮らす幾多の惑星を統合し、
 皇国はその版図を広げていった。

 そう、かつてのように………

 その拡大の時代…大航海の時代は今も尚皇王や貴族は現状に満足を覚えず、
 再構築は続いている。

 しかし、神聖なる白き月と永遠なる月の聖母シャトヤーンに対する畏敬の念を
 皇王や貴族は失ってきている。

 ……まぁ、こんな物になるらしい。
 




 ちなみに【白き月】が【現れた】のが400年前であって、皇国が出来たのは
 300年前だという。それ以前の200年の歴史を著す物は極端に薄い。

 ただ一つはっきりしていることがある。

 このトランスバール皇国は時空震以前には【地球】と呼ばれていたことである。


 聖書を閉じる。
 そして呟く。


「そっか、俺は今度も時を越えてきたのか………しかも今度は未来かよ。今度は俺に何をしろというんだ?あの時、俺を輝ける時に戻してくれたときは感謝した。やり直せると思った
だが、ようやく全てが終わらせたらこれだ!何がしたいんだよ!?新たに手に入れた幸せ、俺が居るべき場所から俺を遠ざけた!!一体、俺に何をしろと言っているんだ!!!!」



 最後には自分でも気付かぬ内に叫んでいた。
 持っていた聖書が自分の握力によって圧縮されページが一枚落ちる。
 それは風に舞い、外へ落ちていきそうなので掴んでおいた。

「くそっ!」

 このままページも握りつぶしてしまおうかと思う。しかし、それはただの八つ当たりだ。現実には何の作用も果たさない、何の意味もなさない行為だ。意味が無い。
 そう思って何とか踏みとどまる。すると当然ページを持っている意味が無くなる。手持ち無沙汰になるのもどうかと思って何気は無しにそれを有効活用、すなわち読んで見た。
 その瞬間、俺の中の時が止まった。


“シャトヤーン様が管理されるロストテクノロジーには時を越えることの出来る水晶があるとも言われている。そのロストテクノロジーはかつて銀河ネットワークを繋ぐ大銀河に人類が飛び出していくときに使用されたと伝えられている。しかし、使用法は不明で何かしらの動力源に使われたのではないかと研究されている。”



 まさしくC・C(チューリップ・クリスタル)である。
 しかもイネスさんが研究していた完全に時空を越えることの出来る特別製である。
 もう一度読み返す。
 そして確信する。
 
 これさえ手に入れば。
 そう思うと居ても立ってもいられなくなってきた。 
 ダッシュで自分の病室へと戻る!

【白き月】に行くために!! 





 

「あら、タクト。お帰りなさい、お腹の調子が悪いの?トイレに行ってるってヨーゼフから聞いていたけど」

「お・おおおお・かえり・・・な・・さい・・・」


 ナイスタイミング!病室にはちょうどいい具合にタクトの母親がいた。心配そうに具合を聞いてくるがそんなものに今は構ってられる心境ではない。こちらの用件の方が自分にとっては重要なのだ。自己中心的という言葉をこの際捨てておく。


「ママ、心配してくれてありがとう。ぼくはもう平気だよ。」

「あらあら、それは一安心ね」

「ところで、一つだけお願いしたい事があるんだ」

「なぁに?何だって訊いちゃうわよ」


「実は……【白き月】のシャトヤーン様に使える【月の巫女】になりたいんだ!!」
「………」
「あれ?」


 返事が返ってこないと寂しかったり。
 いや、俺はそこまで変な事を言った覚えはないのですが。
 ただ、ちょっと自分の人生は自分で決める敵な発言をしただけなんですけど。



 

「い…いきなり何を言い出すのタクト、やっぱりまだ休んでた方がいいんじゃないの」



 かんな〜〜〜り、時間をかけてからようやく回復した母親が声を出す。
 月の巫女にさせたくないというのがひしひしと伝わってくる。そこまで駄目な職業だったかと思ってさっき見た資料の中での月の巫女についておさらいしてみる。
 
 え、と確か【月の巫女】というのは基本的に職業ではなく、シャトヤーン様にお仕えする
白き月の人々のことであって、まあ、信仰者のような物だそうだ。基本的に誰でもなれるのだが、何か手に職を持ってないとなることは難しいらしくて、事実、医者や技術者、そして稀に何かを経営している人がいるくらいである。というかそれ系しかほぼ居ない。
 彼らはそう言った物があるために純粋に使えることが出来るのだ。
 残りは一握りの者がシャトヤーンの宮殿での世話になっているくらいである。

 そんでもって、貴族からの出身者は殆どいない、何故か?答えはこれまた簡単。

 お金や地位が大切だからである。
 って、あぁ、此処までさらって納得。世間体を気にしちゃってるわけですね。まぁ、珍しいものは異端として扱うのが世の常だし。だからと言って、そんなものに止められるわけにもいかない。必死の説得をしてみよう。


「ううん、ぼくは平気だよ。お願い!ぼくを【月の巫女】にさせて下さい!」

「ちょっと待ってタクト。あまりにも唐突すぎるわ、何でなりたいか説明して!!」

 よっしゃ脈あり。
 俺の発言に困惑を隠せないもののとりあえず理由を聞いてくる。即ち、しっかりとした説明さえあれば許してくれる可能性もある。
 して、その説明とは。
 ……説明……
 考えてなかったり。

「ほら、何かあるんでしょう。いってごらんなさい」

 追い討ちをありがとう。
 この際、というかもと体が口からでまかせしかない!!
 ならば、状況に最も合う手段を見つける!!
 そして、それはたった一つ!!

「(ゴートさん、御免なさい!!)ぼくは神様に出会ったんだ。そして神様はぼくに仰有られました。汝、月の神に仕えよ。さらば汝に祝福ある”と。更に神様は仰有られました。
“汝、これを拒めば汝の家末代まで祟られるであろう”とも」



 神懸かりな理由だった。
 もうちっと他に無かったのかと思うが、あればソッチをやっている。
 最終手段は最低な手段であるよい例だ。
 この際、母親の感性がお花畑である可能性にかけよう。


 


「そ・・・そんな・・・・」

(あっちゃ〜〜、やっぱり無理矢理過ぎたかな・・・・・)



 失敗。
 この二文字が圧し掛かってくる。


「そう言った深いわけも知らないで引き留めて御免なさい。だから貴方は自分の名前を神に仕えるためにアキトと名乗ったのね!!分かりました、お父様には私が報告しておきます。
シャトヤーン様のため、ひいてはマイヤーズ家の為に行って来てタクト、いえ、アキト!」



 成功の二文字だったようだ。って、これでいいのかなと凄く不安になる。が、この人も中々の信仰者のようだ、こんなにすぐに信じるとはという具合に自分を納得させる。
 とりあえず、未来世界にてユリカクラスのお花畑さんを発見いたしました。 
 その後は正に疾風怒濤だった。 
 精密検査を訴える医者を(権力で)黙らせて速攻で退院し、自家用の飛行機を使ってあっという間に屋敷に戻り、瞬速とでもいえる速さで必要書類をまとめるという母親を横目に見ながら「ああ、こういうキャラっぽい」と納得するのであった。



 てな訳で色々とした手続き、準備を終えた三日後








「行ってらっしゃい、しっかりとお仕え頑張るのよアキト」



 母親が俺の拳を握りながら力を入れてくる、涙なぞ一筋も流れていない。寧ろ………何か誇ってるし。やっぱり電波さんのほうが良かったかなと思う。
 そして、次に父親が前にやってくる。
 感慨深げに俺に目線を合わせて、言う。


「タクト………いや、今はアキトだったな。人生とは分からぬモノだ、まさかお前が【月の巫女】になることを決意するとはな……………」

「うん。ゴメンねパパ、ぼく行って来るよ!」

「アキト、お前はまだ6歳だ。辛いことがあったらマイヤーズの家に電話するのだぞ。それと私の計らいでお前は宮殿でシャトヤーン様の周りを世話する侍女のような職種に就く事になった、くれぐれもシャトヤーン様に粗相の無いようにな」



 途中からは既に言葉が潤っていた。涙がぼろぼろと出始めてきている。
 ちょっとばかり情が移ってくるかもしれない。
 ただし、その情のあまりに再びベア・ハッグをしてくるのを除けばだが。


 彼としては三男が一番可愛かったらしい。
 気持ちは痛いほどにわかる。マジで痛いし。
 だが、【ラブリータクトたんハンカチ(ハート)】で涙を拭くのはやめてくれ。
 息子コンプレックスという父親はかなり厳しいものがある。
 
 しかしその事を差し引いてもこのタクトの父親には感謝するべきである。
 何せマイヤーズ家のコネクションを使ってシャトヤーン様の近くで働くことの出来るよう計らってくれたのだ。俺にとっては何よりもありがたい。
 体が離れて喋れるようになった後、しっかりと礼を告げておく。


「ありがとうパパ、きっと必ずシャトヤーン様のお役に立ってくるよ」


 そう言って感謝の意味を込めてこっちも抱きつく。
 まぁ、三男至上主義の親が盛大に鼻血を出しているが放っておこう。
 かからない所に居れば安全だし。


「しかし残念ねぇ、お兄ちゃん達が見送りにこれなくて」

「ううん、いいよ。パパとママが来てくれたんだし」


 母親の言うとおりあの凸凹コンビは見送りに来ていない。よっぽど俺に畏怖を覚えたのであろう、この三日間近寄ってすらこなかった。まぁ、自業自得であろう。
 そんな事をしていても時間は経つものである。


“ピンポーン”


「あ、そろそろシャトルが発射するみたいだね。それじゃあパパ、ママ、しばらく会えなくなるけど、体には気をつけてね。それと、兄ちゃんたちにはどうかよろしく伝えておいて。それじゃ行ってきます。」



 挨拶としてはこんなものだろう。
 手短だが、言いたい事は全部伝わった。
 だから、これでよかったのだ。
 そして俺は後ろで両親が言っていることなど聞こえない。


「ねえ、貴方………」 
「………何だい?」
「私たちが言うべき事、全部あの子に取られちゃいましたわね。」
『………』


 ああ、キコエナイキコエナイ。
 そんな親の苦悩は空港に捨てておく。
 後は、何らかの事故が無い限りは白き月についてくれるだろう。
 しかし親馬鹿な家族だったな。どのくらいかといえばこのシャトルがタクト専用機である事からわかって欲しい。あ、アキト専用機か。

 しかし、何かこれからか、と思うと何だか眠くなってきた。
 座席に伝わる振動は心地よい乳母車となり睡眠欲を誘う。
  
「それでは、寝ます」
 
 誰に言うでもなく呟いて、そしていつの間にか暗闇の中に身を任せた。


 





        零章第二話へ続く




 後書き:改訂してみました。いや、逆に悪くなってるかもしれませんが。
     読んで頂けると幸いです。


 

 

代理人の感想

GAですか・・・・お馬鹿極まりないTVアニメ版は好きだったんですが、

ゲームのほうは全く知りません。

それこそ主人公の声がアキトと同じということくらいしか(笑)。

すいませんね。(苦笑)