《『運』ってやつは、絶えず変わる。今後頭部にがんと一撃くわせたかと思うと、
 次の瞬間には砂糖をほおばらせてくれたりする。
 問題は唯一つ、へこたれてしまわないことだ。》
                     〜A・シリトー〜



 確率とは一体如何なるものだと貴方は思っていますか?そしてそれを貴方は応えることが
出来ますか?もしも出来ると言い張れるのであれば私は貴方を心の底より尊敬いたします。
 さて、人は一体どのように答えるのでしょうか?

 ある人は『確率は確率であってそれ以上でもそれ以下でもない』という無難な答を。
 ある人は『一つの事象(出来事)の起こり得る確からしさ(可能性)の度合い。その数値。
数学的には1を超えることがなく、負にならない。確からしさ。蓋然率。公算』という答。
 はたまたある人は『[probability]』というそのまま和英にした答を。

 それらは全てが正解である。そしてそれらは全て確率の意味を無意識にこう取る。

『偶然にのみ起こることであってそれらのサイコロの目は動かしようがない。』と。

 まさしくその通りである。間違っていない。正しい。素晴らしい。圧倒的な意味だ。
それらの考えを人々は蔓延として記憶していてそれを継承し、永久に変わらない。確実に。
 だが、世の中にはそんな確率というものと確実を吹き飛ばす要因があるのもまた事実。

 一つは量子論。コレはもはや錬金術といってもいいほどに確率がない、全てが狂う。
 一つは相対性理論。コレもまた全てを解明できず、《追う者と追われる者》に代表される
例の通り、数式と事実が相違しあうということも挙がっているが否定できないという正に・
・・・サイコロジカルな学問である。

 そして、最後に・・・ミルフィーユ・桜葉という一個人の存在が挙げられる。
 誤解されないように最初に釘をさしておくが、別にコレは『人の思いは奇跡を起こす!』
とか言ったそんなご都合主義の漫画の中でしか起こらない絵空事とは全く違った領域をベク
トルの上で示している。まぁ、全てが全てそういうわけでも無いのだが。
 彼女は生きながらにして偶然を身に呼ぶ者。

 呼び方で言えば聖者、もしくは悪魔の子。どちらかに合うであろう。

 そして彼女は周囲から後者のほうに取られていることが多い。
 彼女もまたそれを認めつつ前向きに生きようとしている。
 しかし・・・・そんな生き方は彼女の視野を狭める結果となるであろう。
 何処かでそれは改めなければ。むしろ、しなければならないのであって否定の余地はない。
 例えば・・・・彼女以上の何かを持つ《誰か》ならば・・・・・・・・・
 


 天使が舞う銀河にて

 第零章 第四話前編 運命と宿命の選択


『今日この時が至福の時なのさ』
『なら明日からは絶望の日々ね』
 



 前回白き月からトランスバールへロストテクノロジーを探しに行くことになった俺達。
 ・・・・・うわぁ、感情篭ってねぇ。


 あの後、俺たちは出発前に積み込んでおいたステルス迷彩によってトランスバールの余り
厳重とは言えない警備網を掻い潜った。まぁ、白き月と比較してのことだし普通の戦闘機や
航宙機では不可能な芸当なのだろうけど。うむうむ、改めて素晴らしい性能である。
 紋章機の最高速度は高速艇をも遥かに凌ぐ。まず網に引っかかることはない。 
 大気圏の突入もお手の物。最高で数十Gのかかる地域にも単独で突っ込めるという紋章機に死角はない。
 そう、所謂楽勝であった。進入自体は・・・・進入だけならば・・・・・・・・

 問題は別にあった。ベクトルというものが明後日に向いているのが一つ。


 根本的なものなので文句がつけようないうえに俺の実力不足かもしれないので自分に対して
しか怒れないというのがまた極まっている。おかげで最近胃が痛い。
 ・・・・・・ロストテクノロジーが見つからないのだ、相対的で絶対的に。
 零ではないのだが線を越えていない。結果を出していなければ零と変わること無い。

 今現在、俺たちはトランスバールの市街地にいて空き家を一軒借りている。

 トランスバールに到着してから既に三ヶ月が経過している。最初に与えられた課題の締め
切りが近い。後半月しかない。このままでは初課題から失敗してしまう。それはマズイ。
 このままでは流石に逝けない。よし、睡眠時間を削ってでも・・・・・・・
 ン・・・・【逝】けない?






 一週間後。





「ね・・・・眠い。もう限界だ。ヒカルちゃんゴメン、君は偉かった。二週間も寝なかった
なんて俺には到底無理だ・・・・・さすがに体力が・・・・・」


 大失敗な俺がそこにいた。いや、訂正。未だに現在進行形である。
 目蓋が重い。重たすぎる。今日一日で目薬何本打ったけか・・・・・・眠い、眠すぎる。
 一週間徹夜が出来る人間というのは素晴らしいかもしれない。最初の三日は俺でも楽勝で
あった。程よく脳内麻薬が分泌されて、所謂ナチュラル・ハイになれたのだ・・・・・が、
 一昨日ソレが切れた。そして一気に押し寄せてくる睡魔。で、今に至る。
 

『アキトさんしっかりして下さい!このままでは締め切りに間に合いませんよ!!』


 シャープシューターは今現在俺の通信装置の端末の中にメインを移している。その通信装
置というのはクロノストリングという物で所謂コミニュケの発展型である。使いやすい。
白き月のシャトヤーン様の周りにいる人にとっては当然の装備であるというが。ふむ。
 通信設備の研究者にとっては涎モノだな、持ち運びに優れている上に何時如何なる状況で
あろうが通信できる。まぁ、少しの例外はあるにしろそれでもお釣りがくる高性能だ。

 んで、その数ある機能を活用して今シャープシューターと会話しているわけだが・・・・


「ああ・・・・シャープシューター・・・・俺、眠たくなってきたよ」

『私は平気な上にルーベンスの絵もまだ見ていません!逝かないで下さい、アキトさん!』


 ルーベンスって何だっけかな。
 今の俺はそんな科学の恩恵を素直に喜べるような感受性は欠片も残っていない。
 ともかく眠たい。
 おかげで訳の解らない言葉が喉を経由して脊髄反射の如く出てくる。


「シャープシューター、賢いシャープシューター、君は俺のいいパートナーであってくれた
何時も空から、君を見守っているよ・・・・・・」

『そんな事言わないで下さい!と言うより、配役を変えないで下さい!!』

「いい絵を描くんだよ・・・・・・」

『アキトさん?アキトさん?!アキトさん!!寝ないで下さい、せめて戸締りしてから寝て
下さい!無用心ですよ、泥棒が入りますよ、・・・それに、絵って何ですか〜〜!!??』

 落選した絵のことだよ。(逃)

 シャープシューターが何か言っているようだが、もう俺には何も聞こえない。
 とうとう寝れるんだ。ああ、シャトヤーン様、俺は・・・もう思い残すことは在りません。
一心不乱に寝させていただきます。ハイ、寝ますとも。



『・・・さん、アキトさんいますか〜?入っちゃいますよ〜〜』
ギィィ
『この声は・・・あの子ですね。外部スピーカーOFF。代わりに内線ON 』




ガチャリ



『あれ、寝てる、お〜い、やっほ〜アキトさ〜〜ん』


 ・・・・・ZZZ。

『起きてくださ〜い。アキトさ〜ん』


 ・・・・GGGGG ZZZZZ。キコエナイキコエナイ

『よぉし、こうなったら・・・・・・』

(起きて下さいアキトさ〜〜ん〜〜〜!!!危険です、危険です、危険ですよ〜〜!!)

スゥゥゥゥゥ



 さぁて、ピッチャー(バッター?!)振りかぶったぁ!!!!by誰か







ゴスァゲキョガツゴ!!! 
   くわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!

(うわ・・・・・・・・)

「?!っ痛ぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!?????????」

「あ、起きました。お早うございますアキトさん、えへ」


 えへじゃねぇよ、この娘ってば。数えで十歳なのに既に殺人経験者か?
 今確実に鈍器で殴っただろう、しかも次は何か金物みたいな者で・・・・戮る気満満?


「だってアキトさん起きませんもん。でも、アキトさんはこのくらい大丈夫ですし」


 この子の名前はミルフィーユ・桜葉。トランスバール皇国に着てから知り合った女の子で
ある。まぁ・・・・借りた家がたまたま彼女の家の近くであったことが直接的な原因だ。
 引っ越してきてからすぐに彼女のほうからコミュニケーションを取ってきてくれ、俺が一
人暮らしをしていると知ると彼女の母親に知らせ、俺の世話を焼いてくれるという心優しい
少女である。家族ぐるみでいい家庭である。
 まぁ・・・・たまに周りを見てなかったり、今のようなことも在るが・・・・。
 他には、彼女は一種の特異体質であるということくらいか。とんでもないクラスの。
 並の人間だったら確実に命が絶てるレベルの。絶たせるかも。
 まぁ、どちらにしろ生きると言う行為から程遠い位置に立たされるが。
 ふと思い出す。この娘と初めて出会った時の事を。



『初めまして〜、ミルフィーユ・桜葉です。よろしくお願いしますね〜。ミルフィーって呼
んでくれると好感度が初期パラメーターでMAXになります』

『人生にパラメーターは存在しないんだ』

『実は隠しなんですよ〜』

『兎も角、ミルフィーユか。何か、お菓子の名前みたいだね』

『えへへ、私もこの名前すっっごく気に入ってるんです。お兄さんもこの名前どうですか?
分けて上げますよ』

『かなり、役所に迷惑をかけまくることを平気で言わない、そこ』

『ですけどアキトってのも結構に変なものがあるような気がします〜。文字数的に不吉な気配
満満ですよ。名前というものは大事なんですよ〜』

『否定しぱなっしかい。いや、だからね』

『まぁまぁ、例えば『人』の『為』になる『名前』とかきまして・・・・・・』

『ふむふむ』

『偽名』

『頼むから黙っててくれないかな』

『ですですよ〜』

『ああ・・・・もう・・・』

『ちなみに趣味はお料理です〜』

『君とは仲良くなれそうだ』


 初っ端から沸きまくってた会話だったな。まぁ、多少省略してるが、それでもか!!
 ちなみにその直後に二人揃って車に轢き掛けられた。俺は掠り傷、ミルフィー無傷。
 そしてドライバー昇天。『百花繚乱狂い咲き!ただし彼岸花』みたいなっ!



「普通に死ぬよ・・・・絶対に死ぬから」

「でもアキトさん平気そうですし」


 ・・・・・何故だか知らないけど、この子を見ているとラッキースターを思い出す。


「俺じゃなかったら確実に死ぬ上に、俺でもかなり危うかった」


 一応、最後の一撃はガードしたからこの程度で済んでいるのだ。


「じゃぁ、今度からはコレでシマスね♪」

 オタマ。しかも何か赤色の液体がくっ付いたりしてたり、してなかったり・・・・・・・
いや・・・・してやがる。そして頭の辺りから血がだくだくと抜けていく感じ。
 
 今度からじゃなくて今使いやがっただろう、この娘は。


「もうしないで下さい、いや、本当にお願いします」

「何で敬語なんですか?」

 必要だから。





 それで、彼女の用件はというと今日は両親が不在だということで俺と一緒にいなさいと言
われたそうな。で、土産として朝ごはんも持ってきて・・・と。うむ、よくわかる話だ。
 ただ、解るとかそういう以前の問題があったりする。今は緊急時なのだ。

「ソレが今日はだね・・・・・・」

「それでは今日一日宜しくお願いしますね、アキトさん☆」

 無邪気な笑顔。血が付いたオタマが無ければいい光景であろう。(苦笑)
 だけど・・・・締め切り。期限が限りなく近づいてきている締め切り。
 好意と締め切り。此処ではっきりしなければ立ち往生である、かなり究極の選択。
 さぁ・・・・・俺よ。今の気持ちは・・・・・・DOTCH?!

 そりゃぁ、もちろんの如く当然の如く。



「健康一番、寝なければいけません。一週間一睡も寝てません。ではお休み」


 その後、包丁が壁に刺さった。





 俺の部屋。借りている部屋だが3LDK、かなり豪奢である。一人で住むには広すぎる。
まぁ、そんなだから時々ミルフィーがお泊りに来たりとしているが・・・・今回は。


 ミルフィーが持ってきてくれた朝食を片付けてると、いきなりミルフィーが喋り始めた。
どうやら対象は俺のようである。まぁ・・・当然なのだが、こう、戯言めいた考えでないと
眠ってしまいそうなので俺としてもかなり必死だ。「戯言って何ですか?」気にしないで。 
 考えたところで所詮結果は単一。一つの結果にしかならないが。


「それでなんですがアキトさん、今日は一緒に博物館に行きませんか?今日から一週間色々
な珍しいものの展覧会を行うんですって!見たいです〜」

「間に合わない・・・・・・締め切りが(泣)」

「もうお父さんから2枚チケットを貰っちゃいました。ね、逝きましょうよ」


 いつまで行くが逝くになっているんだろう。もしかしてミルフィー、まじで俺を殺す気?
兎も角、博物館はともかくとして珍しいものか・・・・ロストテクノロジーがあるかもしれ
ないな、情報収集のためにも行ってみようかな・・・・・。


(アキトさん・・・・藁に縋ってますよ・・・・・)


 キコエナイキコエナイ。ああ、聞こえないな。
 別に俺は溺れてなどいないのだ。決して、そう決して溺れてなどいないのだ。
 俺の今の状況を水に入ったという過程で表すと、

 ほんのちょっと水が器官に入って喉が詰まって呼吸が出来なくて筋肉弛緩してるだけさ。
 ・・・・・もがいてるだけで溺れてないんだ。


「・・・・うん、まぁ、行ってもいいけど、逝くのは勘弁ね」

「?・・・・・・・それじゃぁ、早速行きましょうか!」


 今からですか。今現在朝の十時半。少し早すぎる間が否めないんですが・・・・・・・
行っちゃうんだね、君って娘は・・・・ああ、太陽の光が眩しいなぁ・・・・・
 引っ張らないで・・・・・あう。皮膚を直接は痛いよ。跡が残るってばよ。 
 あと・・・掴むときには爪は切っていて欲しかった。喰いこんでるからかなりに痛い。
 コレは一種の新手の虐めかい? 


 8月 照りつける太陽。そして炎天下。
 夏である。しかも例年に比べて最高気温が2℃近く高いらしい。ついでに今日がその日だ。
 別にそれ自体だけならば俺には関係のない話である。

 今までの俺ならば『ああ、夏か・・・。宇宙にいるとまるで縁がないなぁ』とか何とか
想いながら整備作業でもしていたのだろう。うん、夏に情景すら抱いた。
 ただし・・・・・自分がそれのど真ん中にくるとは思ってもいなかった。 
 昼と夜では公転速度と自転速度の関係で昼のほうがゆっくりと太陽の周りを回っているそう
だがはっきりといって逆にして欲しい。暑すぎだろうよ、空もまぁ澄み切って・・・・・
 さぞかし、赤外線と紫外線が放射されているのだろう。


「アキトさ〜〜ん、早く行きましょうよ〜〜。追いてっちゃいますよ〜〜」


 前方数m前にミルフィーが見える。白いワンピースに麦藁帽子。夏の少女らしい格好だ。
よく似合ってもいるし、そして何よりもこの場所と環境に適応している。
 白いワンピースは光を反射させて熱が篭らないし、麦藁帽子は熱中症を避けれる。
 うん、機能性たっぷり。その上水筒とランチボックス、完璧だね。君は。君だけは。

 君は完璧、俺は駄目駄目。


「そんな格好してるから暑いのに〜、何でいつもソレなんですか〜?」



 激的に放っといて欲しい。ってか、ほっとけ。
 今現在の俺の格好は所謂【黒一色】である。マントとバイザーこそ着てないが・・・・・
着てれば即補導か。世知辛い世の中だ。ともかく、コレが最近の基本である。

 とは言っても只の服ではない。こう見えても白き月開発部の汗と努力の結晶であるロスト
テクノロジーを使った代物なのだ!!耐熱耐水耐圧防弾他諸々・・・・・・
 筋肉強化のないパワードスーツのようなものだ、コレを着ていればまず怪我をすることは
少ない。重みは普通の服以下でこの耐久力、軍辺りが欲しがる事間違いなし。
 そして、コレの他に大きめのナップサックを持っているというのが今の俺の服装である。
 戦闘においては機能性たっぷり、コレでもかというほどに素晴らしく至せりつくせり。
 これぞ機能美!! 


 ただ・・・・色々と色彩を他に用意しておけば良かったかも知れない。



 真っ黒な服のおかげで日光が服の中に溜まって・・・・暑い、て言うかむしろ熱い。
そして、一週間一睡もしてない体にソレはキツイ。挙句、頭には何も被っていない。日光が
頭に直射されて、所謂熱中症になる寸前だったりしちゃう。死ぬ。本当に死ぬ。
 やはり所詮は子供の体である。自然に耐性が付いていない。
 そもそも自然と触れ合ってすらいないんだが。うん・・・・・次は農業惑星に行こうっと。
そこでゆっくりと自然に体慣らして、トレーニングして・・・・・・・・・
 

 ああ・・・・・意識が遠のいて・・・・・・・


ピト ファサッ

 ん・・・・・冷たい?



「大丈夫ですか、アキトさん?そこはかとなく死にかけてますけど」
 

 ああ、成る程。ミルフィーが俺の頭に【外まで冷たい魔法瓶】を当ててくれてるのか。
 そして自分の被っていた麦藁帽子を俺に・・・・・・・ 
 ありがたい。そしてそれ以上に嬉しい・・・・いい娘だ、本当に。 


「・・・ありがとう、ミルフィー、助かるよ」

 嘘偽り全く無しに素直に感謝を述べる、本当に感謝しているし。自然と顔も微笑む。
 ミルフィーもそんな俺につられてか笑顔で・・・・・・・・

「エヘヘ、気にしないで下さい。さぁ、逝きましょう」




 ・・・・・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・
 だからさぁ。




 皇国立博物館・・・・正式名称は正常な人間には発音しにくいこと請け合いなのでパス。
 ────ってか、誰が付けたのか知りたい。見つけたら一発ドツイてやる。
 そんなことはともかくにしろ間違う事無き、銀河一の博物館である。格が違う。
 かつて俺も大英博物館に言ったことがあるが・・・・ここまで凄くは無かった。

 美術品、歴史的価値の有る物の山、山、山!そんなものが大量に所狭しとある。
 どれ一つ取っても並の博物館では目玉を飾れることであろう。
 実際に俺が見ても希少的価値があるという物だらけ・・・・・・なのだが。


「アキトさ〜ん、コレって何ですか?」

「【算盤】だね。技術ではなくても一応時空震を乗り越えた唯一の当時の物だよ」

「あれは何ですか〜?」

「ああ、【コミュニケ】だね、以下略」

「物知りですねぇ」

「・・・・・・まぁね」


 何か馴染みがありすぎるものが多くて気が削がれる、大幅に著しく。いや・・俺が悪いさ。
俺は所詮昔の人類であって当時の物を見ても感慨を浮かべないだけなのさ。ソレが証拠に。
 俺の視線の向うにはガイドの人とソレにつられる集団。


『こちらに見えるのが【宇宙ソロバン】になります』

『おお・・・コレが【宇宙ソロバン】ですか。初めて見る一品です』

『素晴らしい。私も当時に生まれたかった。こんな美しい物がこの世に・・・・・』


 そうさ、コレがこの時代の普通の反応だ。算盤一つでこれ程までに・・・・・・
 まぁ、コレは算盤ってか電卓なんだけどさぁ。


『ええ、この【宇宙ソロバン】は大変希少価値の有る物でして、一千万ギャラの価値があり
ます』


 何?今、何て言った、一千万ギャラ?普通の一般人の軽く二年分の給料額だぞ、それは。
たかがソロバン、されどソロバン。軽く・・・・・時代ギャップが・・・・・・・・


『おや、何かしら彫られているようですが、何と書いてあるのですかな?』

『ハイ、当時と今の言語・文字は今と大して変わりません。ですので、研究者達は薄くなっ
ていった文字を解読することに成功しました』

『素晴らしいですな。で、何と?』





『《プロスペクター》、だそうです。残念ながらこの言葉の意味までは・・・・』



ズササササァァァァァァァァァ!!!!



「どうしたんですかアキトさん?!突然ヘッドスライディングなんかして!!」

「ふっ・・・・・・ふふふふふふ」


 何でまた一体こういうものが発掘されますかな、この世の中っていう腐ったものは!!
 まぁ、グラビティブラストでも壊れないと噂高かったプロスさんのだからいいが・・・
実際、俺が誤ってエステで踏みつけてもひび割れただけですぐ直ったが・・・・・

 全く、恐ろしすぎる偶然である。偶然だ、ああ偶然だ、偶然だな。
 


『おやおや、こちらの書籍も時空震に生き残ったのですか、紙だというのに・・・・』

『ええ、金庫にぎっしりと詰められていたそうです。後世の我々に伝えるためかと』

『英雄ですな、それで内容とその残した人の名前は解るのですかな』

『はい、残した方の名前は《アマノ・ヒカル》で、内容は恐らく彼女がミスから出版したで
あろう当時の成文化を伝える《アキト×アカツキ、ジュン総受けという》ソドミィな内容の
・・・・』











 もう嫌だ、帰りたい。
 何で残ってんだよ、ンナ物がさぁ。
 





「アキトさん・・・顔色が悪いですよ。大丈夫ですか?」

「とりあえず、ここから離れたら元気になると思うから、次のフロアに行こう。ね?」

「はぁ・・・逝きかけてますよ、本当に」



 

 
 大丈夫、眠気すっきり。



 その代わり、やる気が根こそぎごっそり。





 んで、次のフロア。

「こんな物までが・・・・か・・皮肉なものだよ、本当」

「アキトさん・・・・コレ、《ロボット》ですよね?」

(何なんですか、コレも、《ロストテクノロジー》。私達と同じ物なんですか?)


 ミルフィーはさておき、シャープシューターもさすがに驚くか、何せ俺も正直驚いた。
まさか、コイツがこの時代にも存在しているとはな、未来は全く驚かせてくれる。
 高さが百メートルを越す博物館の特設フロア。その半分近くを埋めるソレは・・・・・・




「《ダイテツジン》、《ダイマジン》、《ダイデンジン》か。まさか、とは思ったがな」


 木連軍、後期主力部隊《ジンタイプ》。その究極系がそこに鎮座していた。座ってないが
そこはご愛嬌で。ともかく、木連優人部隊が乗る鉄壁のスーパーロボットである。
 ロケットパンチに口からビーム、胸からはグラビティブラスト。恐るべき機体であった。
動きが鈍いという欠点があったが、後に優華部隊が乗る《皇タイプ》によってソレを無くし
た。配置数からいっても名目と共に《木連》の最強兵器である。
 ・・・・・まぁ、二週目は雑魚だったが。《夜天光》とか出てきたし。火星の後継者かよ。
 九十九達も全然って言っても良いほどに活躍してなかったしなぁ。
 何か、こう、『英雄此処に眠る』って感じでさ。

 あ・・・・死んでなかった。二週目は救うことが出来たんだった。
 救ってもジュンより存在感が薄かったけどな。



(「アキトさん、知ってるんですか!?」)


 見事なソプラノなハモリを有難う。知っているも何もそういう問題ではない。
 果たして俺は若年性アルツハイマー症候群ではないし、記憶があやふやにもなっていない
から記憶の上で確かだろう。コレは何かというのをしっかりキッパリと断言できる・・・が。
 俺としても今の俺の立場ってものがある。アキト・マイヤーズであってテンカワ=アキト
ではないのだ。すらすらと答えてしまっては怪しまれることこの上ないであろう。
 と、なると・・・・・・



「ミルフィー、ほら、あそこでお菓子配ってるよ。行っておいで!」

「え?あ!はい、わ〜い、博物館クッキーだ〜!!」



 誤魔化しの一手。まずはミルフィー撃破。続いては・・・・・・・・・




(あの・・・・どうしてそこで誤魔化すのかを訊ねて宜しいでしょうか?)




 難関だ。シャープシューターが擬似体映像付きで睨んでいる。和姿が可愛いね(逃)。
 何事も真剣に取り組む性格だが、その分、生真面目すぎて柔和な考えが出来ない。って。
いや、そりゃぁ誤魔化しきれるとは思っていなかったが、ここまでとは・・・・・・。
 うぅむ。


「ミルフィーに聞かせる話じゃないよ。コレはあくまで兵器なんだからね」

(では、ミルフィーユさんは行ったので是非とも続きをお話ください)


 正論、撃沈。いや、続きって言われても・・・・・ねぇ?

 選択肢 真実を話す。Y/N


 Yを選んだ場合・・・・・・・・・脳内補完してみよう。


『実は俺はこの時代の人間じゃなくて時空震以前の時代より来た人間なんだぜぃ』

『ええっ!?何ですとぉっ!』

『そしてコレは俺の時代に在った兵器なんだ、どうだ、凄いだろう!!』

『ベリーブラボー素晴らしいですぅ!』

『だろう、言った甲斐があったってものさ、さぁ、そしてこれにレッツゲキガ・イン!!』

『イェイ!そしてウィズミーゴー!』

 ・・・・・だめだ。俺には物語は作れない。なんていう三文芝居だよ。こりゃ。
 俺もさることながらシャープシューターもンな性格してないってば。
 このままで行くとNを選んだ結果も正しい結果は導けそうに無いな、さて、どうするか。
・・・・・・・・思いつかない。何にもさっぱりと思いつかない。やばい。

 実際俺としてはンナ事よりも気に掛かっている事がある。このフロアの展示物は兵器である。
しかも只の兵器ではない。俺の時代の兵器や更にもう少し先を言ったような技術がてんこ盛り
されている。別に、それだけなら優秀な博物館ということですむのだが。
 俺が問題にしているところはそんな平凡なところではない。
 ここには日常よりもリスクファクターが高いのだ、ここにいる因子によって。
 しかも、今はその因子が俺の目の届く範囲にいない。
 結構・・・・・・・危険すぎる橋を渡っているのかもしれない。
「皆で渡れば怖くないっ!ただし重量制限あります!」みたいなっ!! 



(アキトさん?)

「それがだね・・・・・・・・・・」


ズゥゥゥゥゥゥゥゥン


「何だ?!」



 突然会場全体に響く鈍い反響音。そして若干どころでは済まされない揺れ。そう・・・・
地震ではない。何かが、倒れたような・・・・・何がだ?
 その答はすぐにあちらのほうからやってきた。



ヴィィィィィィィィィ
       ガシュガシュガシュガシュ


『うわわわわ、な、何なんだコレは!?』
『お客様、落ち着いてください・・・・・きゃぁぁぁぁぁl!!!!!』
『機、機械でできた【虫】だって言うのかよ・・・・』



 虫。無人機である。詳しく言うならば木連が作り出した労働用無人機だ。
 
《アリ》=主に単純労働と雑務をこなす。宇宙船内部修理・整備用のトビイロ、資源採掘用
のクロヤマ、食料生産用のハキリ等がある。用途種類で名前は違うが一般的に働きアリとし
か呼ばれない。・・・・ン年間たってもンな事だけは覚えてるもんだな。


 遠くには倒れた柱が見える。恐らくは目前で駆動しているこいつらが倒したものだろう。
だが・・・・・なんでこんな所で動いているんだ、何で動き始めてしまったんだ?!
 タイミング的にはOKだったけど・・・・・・・


「ふぇぇぇん、何で動いちゃうの〜?ちょっと触っただけなのに〜〜!!」


 ミルフィー・・・・・・・やっぱ君かい。お兄ちゃんは悲しいよ、うん。
彼女の特異体質、《無為式》とでも呼ぶべきだろうか、何処かで聞いた事があるけど。
 周りにいると何かしらとにかく危険度の高いトラブルが起こるのである。もう既に俺も
何回か命の危険に立たされたことがある。シャトヤーン様の勅命クラスばかりである。

 あるときはトランスバール皇国史上最大のカーチェイスに巻き込まれたり・・・・
 あるときはレストランで一緒に食事を取っていたらテロリストが現れたり・・・・・
 あるときはキャンプに行ってたら突然《森の王》と呼ばれる熊に襲われたり・・・

 今回も何かしらあるとは考えていたが、まさかこれほどとは・・・・無人兵器かよ。
 まぁ、こんなものがある会場に足を踏み入れたのは俺だけどさ。
 ンな事より、今は!!



「自分の身を守ることだけ考えていろ、隠れていろミルフィー!!」

「へ?・・・は・・はい!」

 言いつつナップサックの中からあれを取り出しておかねば、取れない!?む、この?!
 あ、取れた。

「全員、伏せて目を閉じ耳を塞ぎ口を半開きにして下さい、二秒後に閃光弾を使います!」

『は、はいぃぃぃ?!』×フロア全員


 そして─────閃光。頃合を見てジャマーも投擲。
 コレで指揮系統があるかはともかく、とりあえず集団行動は出来なくなる。そして───
 とりあえずこのフロアの中にいる誰よりも大声で叫び、早足で駆ける。
そうすれば自分のいる空間の中で最も敵対行動性が認められる対象・・・・即ち俺に全無人
兵器の注意を向けることが出来る。・・・だから黙ってろ、そこの発狂してる客!あんたが
一番に死ぬぞ?!『ひいいい?!』あ、倒れた。神経が過負荷に倒れなかったか。
 丁度いいけど。まぁ、救護は後からでも遅くは無いだろう。死んでも自分の責任だし。
 兎も角、もう何匹かは俺のほうにその無機質の澄んだ眼を向けている。戮る気満満だ。
 だが、俺は敵の進行を食い止めて死んでいく海燕ジョーにはならない! 
                               マニアだ(泣)


「せいっやぁ!!!」


 バキィッ!!
           バリィィッィィィンッ!!!!!

 突然円を描く様にして会場内を回っていたのをサイドステップに変えての横蹴り。 
 無人兵器であろうが反応できるものではないと自負する蹴りがアリの頭部に命中する。
 その衝撃はアリ単体では抑えられる物ではなく吹っ飛んで他のアリを巻き込む。
 一応・・・・・戦車を蹴り倒すことが出来るからな。(ナデひな参照)
 まぁ、当然の如く靴にはロストテクノロジーの衝撃緩和剤をしっかりと入れてあるが。
 そうでもしないと骨が折れる。ちなみに筋肉を増強できるようにもしてある。
 俺だって、まだ死にたくないし。 

 
 よし・・・・パワードスーツ部隊よりは楽な相手だ。
 相手が多数の人間だと色々と下拵えをしなければいけないからな・・・・工作戦ばかりでこ
うして白兵戦をするのは実に久しぶりである。


『きゃぁぁぁぁぁ、美術品がぁぁぁぁ!!!!』 


 ・・・・・前言撤回、かなり難易度高いわ。
 この人達は美術品と俺の命、ひいては自身の命。どっちが大切だと思っているんだろう。
まぁ・・・・職務熱心なのはいい事だろうが。
 兎も角、美術品、ロストテクノロジーを傷つけないように・・・・・・・・


『良かった。『アキト×アカツキ』は無事のようですね。まだ読ん・・ゴホン、検証が』








・                              おっと足(脚)が。 




ブン!

バキャキャキャキャ パリィィィィィィン ボウワァッ!!!


『きゃぁぁぁ。重要なヤオイが燃えていくぅぅぅぅ!!!!萌えてないのにぃぃ!!』


 ああしまったアリが近くに来て何かしようとしてたから蹴飛ばしてしまった 偶然て怖いな











 ゴメンねヒカルちゃん、君が後世に残したものを守りきることが出来なかったよ。
 おのれ無人機め、この恨み、果たさずにおくべきか!!



(アキトさん・・・・今まで見た中で一番晴れやかな顔をなさってますよ)



 気のせいだよ。俺は今復讐の念に囚われている。今だったら昔に戻れそうだ。
 まぁ、んな戯言はいいとしまして・・・・・と。



 残りはひぃふぅみぃの・・・・・・計八機。装備の一式を使えば余裕で何とかなる相手だ。
 じゃぁ、一丁実践トレーニングと洒落込むか。
 ふん・・・・・つまらなくなってきやがった。



 ディストーションフィールドを張り始めたアリが何匹か出てきた・・・が、関係ない。
白き月より配布された護身具の威力は折紙付だ。格段なる威力を持って粉砕する。
 もちろん保身も完璧である。マントにバイザー、ナップサックに入れてきたものがある。
 これらの装備により防御面においても鉄壁の守りである。後は手に・・・・・・・・・・ 
ロストテクノロジー製の絶縁絶熱《万能手袋》、こういう時にも役に立つな。
 料理の鍋敷きに愛用してたのだが・・・・・・・・謝っておこう。

 バルカンを放出しようとしても無駄である。既に何千年と経っている。武装は使い物に
なっていない。乾いた音を立てて何も出てこない。ミサイルもまた叱り。
 こんな物騒な物を手入れした挙句実弾込めるような馬鹿なスタッフは流石にいないだろう。
 そして白兵戦になれば俺の十八番。こいつらに勝ち目はない。
 後、数分で片が付きそうだな。このまま行けば・・・・・・・・・・


(アキトさん、危ない!!)

「何!?」


 危険を察知した本能だけで横に飛びのく。その数瞬後にその場所には鉄拳がめり込んで
いた。ただし、何の比喩でも何でもない【鉄(特殊チタン製)の拳】が、だ。
 通称・・・・ワイヤードフィストという対白兵戦用の武器が・・・・・・・



「エステバリスぅっっ!?コレまでかよ、しかもデビルエステ!!」

(曼珠沙華がどうかしたんですか?!)


 天然ボケをこんな所で発揮しなくていいよ、シャープシューター。空気で読んでくれ。
こいつまで時空震を乗り越えたというのか、量産型とはいえ気が重い。重量がある。
 戦車は蹴り一発でひっくり返す自信はあるが、コイツを一撃は無理だろう・・・・・。
《砲戦フレーム(=ワイヤードフィスト装備)》は。しかもご丁寧に三年後のだ。


 ああ・・・しっかり整備されてるしさ。実弾まで装填済みかよ。動かす気だったのか?
 出て来いスタッフ、もしくは責任者。

 単純計算しても重量は普通のエステの約倍はある。きつい事この上ないぞ。
 一体原因は?!・・・・って、しっかし・・・・まさか・・・・ねぇ。


「変なスイッチ押したら拘束取れちゃいました〜、アキトさん、ゴメンなさ〜い!!!」


 やっぱりかよ。自分の身の安全は考えろといったけど、俺の命を危うくしろとは言って
ねぇぞ。しかもそのスイッチ、そう簡単には押せないように見えるんだけどさ。
 一昔前の火災報知気みたいに『強く押す』って書いてねぇか、ソレ?!


ズゥゥゥゥゥン ガガガガガガガガガ


 床を削る激しいローラー音と共にコッチに向かってくる砲戦フレーム。マズイなぁ・・。
今しがた、ようやく警備員も一個中隊位で来たみたいだけど完全にビビッている。
 さすがにマニュアルに無かったであろう。重要文化財とのアクションだなんて。
 コッチのほうでも流石にアレは荷が重い。いくら桁外れの威力とは言っても十M前後ある
敵との戦いは想定されていない。効果が目に見えて薄い。

 だが、このままでは即で人命に関わる。何か無いか、何か?
 ・・・・・・・・アレだ!?


(アキトさん、何を!?)


 俺は目に付いたソレの元へ走りこむとソレを縛っている拘束具を全て取り払う。何、一応
は超法規活動ができるんだ。気にしてはいけないのだ、この位は目を瞑って貰おう。
 コクピットは頭部。階段を踊り場越しに飛び越えて一気にコクピットの中に搭乗する。
セットアップマニュアル確認。よし、変わってないな。さすがにコレで出るのは初めてか。
・・・それでは・・・・・《小型相転移エンジン》起動。・・生きてるもんだな。

『我らの熱き言葉を言い、熱血を吹き込め!!』

 ああ・・・・・・・パスワードね。
 散々研究者を悩ませたであろう。音声入力識パスワード。未だに悩んでいるに違いない。
しかし、俺はソレを言い放つ、多少どころか著しく恥ずかしくても!! 


『例え如何に敵が強大とても!』

(・・・・アキトさん?)

『我々優人部隊は最後の切り札!』

(あの〜・・・・・・)

『正義の拳が叩いて砕く!!』

(あうあう)

『レッツ!ゲキガ・イン!!!《ダイテツジン》起動!!!!』

(・・・・アキトさんが壊れた)



 相転移エンジンが起動してダイテツジンに《熱血》エネルギーが充填されるのがわかる。
解りたくねぇ・・・・・・・。熱血してねぇよ、熱血してねぇのに。
 初めて乗ってみるが、ダイテツジンというよりも木連の後期メカというのはこんなのばか
しか?いちいち乗るたびにコレなのか?乗るための最低必須条件が若々しい男子以上であっ
てユリカレベルの大声を出さなければいけないのか!?
 ・・・・なんていう改悪だよ。誰か改善してくれ、おのれ草壁、おのれゲキガン思想!


 コクピット周りには既にゲキガンガーが流れている。周りは映像付きでアニメライブだ。
・・・・・・五月蝿い、そしてシンドイ。ついでに言うともう疲れた。飽きた。


『止めて!あの人は六郎兄さんなの!』
     『だが今は暗黒戦士シックースだ!』

   「・・・・・・・・・・」
   (・・・・わぁ!・・・)

『お願い、止めて!貴方達が戦う理由なんて無いわ!』
  『ゴメン・・・・・ナナコさん・・・・』
『お願い、行かないで、ケン!!!』


プチッ


(どうして切られるのですか、せっかく面白いところですのに)

「五月蝿くて戦いに集中できないのが一番の理由」

(ですが、パワー・・・・・下がってますよ)


 言われてパワーメーターを見る。確かに下がっている。えらい下がりようだ。
 何で、どうして、ひょっとして!!

プチッ


『フハハ、よくぞ出てきたゲキガンガー3.父さんの作り出したスーパーロボット!!』

『暗黒戦士シックース!!決着をつけるぞ・・・・これ以上悲しみの時間は要らない!』

『よかろう・・・・・勝負だ!!』



(あ、上昇しました。付けてると上がるんですね。ロストテクノロジーって奥が深い)

「・・・・・・俺も初めて知ったよ、んな機構・・・・・・。」

 熱血なんて嫌いだ。

(でも、まだ限界までパワーが上昇していません)






・                            ・・・・・・あ、マイク。


 えと。
 コレは声というか音量を大きくする装置であって。



「キャ〜、アキトさ〜ん、助けてくださ〜い!!」


 迷ってる暇無しかい。

 マイクを掴んだ瞬間に流れる懐かしきメロディ。行き届きすぎだろうが、いらねぇよ!
 コレを整備した博物館スタッフ、出て来い!!一発殴る!



ピカァァン
 チャァァン チャララァラララララ
    ララララララララ ラァ!!
      ダダッダダダダダン ダダンダダン


《夢が明日を呼んでいる〜♪魂の叫びさレッツゴーパッション♪いつの日か平和を取り戻せ
 この手にレッツゴーゲキガンガー3♪》

(あ・・・パワーが急激に上昇中。鰻登りです!!)



 以前って言うか一周目でミナトさんとメグミちゃんが口を揃えて言ってたっけ。
『木連の人達はいい人達なんだけど・・・・・・ちょっと、アレの傾向が強いわ』
 アレ=ゲキガンマニア。・・・確かに死ぬわ。恥ずかしくて悶え死にしそう。


《知ってるかい♪地球の、宝は君たちさ!守っりたい〜♪この自由と輝きを!!
 空と海と大地と皆のパワー!!一人が皆の為に、勇気を出してさあ立ち上がろうぜ♪》





『何だ・・・この魂を揺さぶる音楽は・・・ロストカルチャーなのか?』

『あれにはアキトさんが乗っている・・・・・わかります、声で!!』

『歌で・・・・戦っているというのか、音声入力システムの域か・・・・・』違う!!



 ああ・・・・外部スピーカーがONになっているよ、助けて、助けてよ母さん・・・・
泣きたくなってきたけど泣いちゃいけないんだ、今俺は戦っているから。・・後で泣こう。
 さて・・・・ここからがサビだ。歌って歌って歌いきろう。



 何かさぁ、木連の集団洗脳というものが解って来たよ(泣)




(《レッツ!ゲキガ・イン!!》)



 シャープシューター、ノリいいな。歌詞見て歌ってくれるなんて、もしかしてハマッた?
 生真面目な人ほどはまったら凄いって言うか木連全体がその傾向にあったし・・・・・・
 文化交流が・・・・・過去と未来との文化交流が今ここに・・・・・・・



(《夢を強く抱きしめよう!前だけを見つめてレッツゴーパッション!!》)


 ダイテツジンの腕から火花が飛び散ると共に射出されていわゆる《ゲキガンパンチ》がデ
ビルエステの胴体に直撃する。まぁ、さすがは超重量系と言おうか倒れはしない。
 しかし、ソレは十分すぎるほどの隙を作り出す。ここで更に・・・・・・・・・・・・


ドグォッ


 マニュアル操作で《ゲキガンフィンガー(=アイアンクロー)》を叩き込み、そこで掌中
に搭載されているレーザー砲を顔面に突き刺す。まずコレで頭に乗っかってるアリを仕留め
る。所詮は機動力が圧倒的に低い砲戦フレームだ。そして更にコンボを・・・・・・・


(アキトさん歌ってください!)



 ・・・・・決めさせてよ、歌わなくてももう勝てるんですけど。


(《倒せ暗黒の〜♪宇宙の魔王をレッツゴーゲキガンガー3!!!!!》)




 歌い終わりと共にダイテツジンの口から《ゲキガンビーム》が出る。・・・・何故にっ?
いや、何気に戦いの途中途中から入力していない攻撃が出ていたが・・・・音声入力式なのか
?!。予測がつかない点では一週目のリョーコちゃん達ならば互角以上で戦えるだろう。
・・・・・・・・・・ひょっとして優人部隊って歌ってるだけなのか?
 まぁ、そんなこんなでようやく戦いは終わり・・・・・・・・・・・・
 終わり、終り、終、尾張、御割、汚環理、オワリ。




 これから・・・・・どうしよう。当面の問題は、片付いてしまった今、どうやってこの場
を切り抜けるかである。周りには武装警官隊。そして避難民。そしてミルフィー。
 避難民達はシールドに入れられて出口へと向かっている。当然の事ながらミルフィーもだ。
 ここで素直に降りた場合、事情聴取をまのがれることは無いであろう。確実で絶対に。
 かといってコレに乗ったままだと色々不便でもあるし、問題だらけである。
 切り抜けろってか、コレを?

 どうしよう、どうする、どうすれば、どうなる?ちとばかし考えてみようか。
 以下の選択肢よりお選び下さい。


  デュワといって飛び去る/このまま暴れる/降りて話し合い/交渉/自爆


 待て、最後のは一体何だ?自爆?有耶無耶主義ここに極まる、コトナカレかよ。最悪か?
それは銀河の果てまですっ飛ばしておいて、他のを検証してみよう。うん、他の他のと。
 まず最初・・・・・OUTですね、ええ、こりゃもう絶対に。円谷は流石に拙い。
 次のは・・・・・・ハイ終了。
 次とその次は・・・・をいをい、それこそどうやってだよ。

 話し合い?交渉?不可能だろ。俺は今子供である。こんな姿で出て行ったらどうなってし
まうのかは容易に想像がつく。あっという間に取り囲まれて連れてかれてしまうであろう。
 まぁ・・・・・反撃すれば余裕で逃げとおして見せる自信がたっぷりとあるが。

 そんな事しなくても俺事態はかなり厳しい立場にある。

 何せ相手側に俺の声紋が行ってしまっているのである。あれだけ歌えばそれは当然という
感じであるが。チェックこそ用意されてなかろうがダイテツジンが有人機であるというのは
既にばれてしまっている。コレをコトナカレにしろってのは無理というものであろう。
 ああ・・・・・どうしようかな。本当にどうしようかな。


ガシャン
   ウィィィィィィィィィン              ・・・・・あ、この音って。



『また動き出したぞ〜!機動兵器だ〜!!!』

『よし、今度こそ我々が片をつけるぞ。了承は取ってある!』

『そこにいる・・・・そう、『ゲキガンガー3』はどういたしますか?』

『行動を起こさない限り放っておけ。少なくとも敵対行動は今のところしていない』

『客を絶対シールド内から出すな!!そしてそのまま避難経路の確保を!!』


 よっしゃ、ナイスタイミング。逃げよう。さて、コクピットハッチを開いていざ脱出!
その後はミルフィー連れて逃げの一手、さあ、逃げろや逃げろ!
 さて、まずはコクピットシートを外して・・・・・・・


(アキトさん、アキトさん!!)

「ん、何だい?」

(ゲキガンガー3のデータ、もって帰りましょうよ。今アクセスして読み込みますから)

「不許可」

(どうしてですか、こんなにも素晴らしい作品を戦火によって失うわけには行きません!)



 結局、コクピットから出るのにこの後数分かかることになった。問題のデータは・・・

 

(へぇ・・こんなに話数があるんですね。コレはもうマラソンで見なくてはいけませんね!)

「頼むから今は見ないで、いやまぢで」

(うう・・・・・でも後から一緒に見ましょうね)



 しっかりと保存済み。か弱い僕を強くしてください神様。
 まぁ・・・・それはそれといいとして、機体の中には他にも色々とあった。 
 そう、色色と。


(しかしアキトさん、持ち出したのはいいですけど・・・・何でこんな物が?)


 そうシャープシューターが指すのは俺が脇に抱えているソレ。そこそこの重量と中々の硬さ
を持つ材質で出来たものである。まぁ、信じられないのも無理はない。こんな物まで在るとい
うのはね。木連にとっては普通なのだが。
 しっかし、よくもまぁばれなかったものだよ。ンな物が機体内にあるっていうのにさ。

 木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパおよび他衛星小惑星国家間反地球共同連合体突撃宇宙
優人部隊専用機搭載の短刀である。使用目的はいざと言う時の白兵戦用や自害用である。
 まぁ、俺が持ち出した理由はもちろんの事・・・・・・・・・・


(アキトさん、この白袴と鉢巻は一体・・・・・・・・)

「ってうわ?!何でンな物まで持ってきてんだ俺ってばよ!」

(まさか・・・・駄目です、そんな死なないで下さい!!)


 俺がやるのは前者であって後者ではありません。死にませんよ。
 何はともあれ、天然ボケボケに今は付き合ってはおれん、さっさとミルフィーを探して帰ろ
う。そしてゆっくりと眠ろう。明日もきっと暑いだろうし。


 おっと、無人兵器からは摂れる物を摂っておかなければ・・・・・。


 うむ、結構ロストテクノロジー(一部不明)も集めることが出来たし、順調順調。
 無人兵器からも小型相転移炉取り出すことで来たし、コレで何かに生かすことが出来るかも
しれない。材料さえそろえばコレを使ってDFSを作る事だって夢ではない、希望に満ちる。
 さぁ、そんな夢と希望と明日と正義を抱きつつ、ミルフィーは・・・・・・・・・いた。



「お〜〜い、ミルフィー!」

「アキトさん!よかった〜、無事だったんですね〜〜」


 よしよし、そう言ってくれる事はありがたいし、何よりミルフィーに怪我が見当たらないと
いうのも良い事だ。


「は?!ナイフです!アキトさん、まさか誰かを殺して解して並べて揃えて晒すんですか!」


 誰がだよ。
 

「うう・・・・アキトさんがそんな殺人鬼だったなんて・・・」


 勝手に話しススメンナ。


「あの〜、ミルフィーユ・桜葉さん?!」

「ひょっとして殺し名を持つほどの殺人一族なのですかアキトさんは?!」

「だからね」

「あう〜、秘密を知ってしまったからには私も消されちゃうんですね。短い人生でした」

「おいこら」


 この娘、俺の話を聞いてくれてやがりませんね。殺人鬼なのは事実だから兎も角。
 全く、しっかりと人の話は聞きましょうよ。俺もイネスさんの説明いつも聞いてたんだぞ。
 だからちょっとはこのくらい聞いて・・・・・・・・・・・


「と、まぁ冗談はこのくらいにしておきまして危ないところでしたね、アキトさん☆」

「冗談なのかよっ!?」


 中々に良過ぎる性格をしてくれちゃってますね。
 しっかし殺し名って、俺は零崎ですか匂宮ですか石凪ですか墓守ですか?
 俺にはそんなスキルは無い上に殺せても解すのは不可能です。曲弦糸使えないし。
 ・・・・・・十七分割?練習すればあるいは力技で何とかなるかも。


「さて、次はどのフロアを回りますか?」

「帰ります」


 即決即断いざ実行。思い立ったが吉日。お家へ帰る。でんでんでんぐり返しでバイバイバ
イあとは野となれ山となれ、ケセラ・セィラ。


「いや・・・最後の二つは違うな」

「何がですか。というよりもまだ回り足りません〜。ここのカフェテリア回ってませんし」

「とっくに文字通り潰れてます、ぺっしゃんこ」

「ふぇぇぇ!!ここのケーキ美味しいって評判だったのに〜〜!!!」

「後で俺が作ってあげます」

「ええ〜〜!ここのケーキとっても有名で友達も『名物に美味いものなし』って言ってたんで
すよ〜!!」

 不味いんじゃねぇのか、ソレ。


 そんな心温まるような素敵なことをほざき合いつつ俺たちは出口へと向かって行った。
 後では何か色色としてBGMが流れているが聞かないことに努めておこう。危ないし。
 今はこの頭のあったかさ加減が真冬のコタツなミルフィーを連れてかなくてはいけない。


「ところでアキトさん、帰るって言っても後のアレは放って置いていいんですか?」

「俺には関係ないし」

「ええ〜、そんな無責任ですよ〜」

「起動させた君のほうに責任が被るというのは俺の気の所為かい?」

「大海の雀の涙ですよ〜」



 意味的には大差ないけど、混ぜないで。

 いい性格しすぎ。まぁ、年齢的に罪にはならないだろうし、彼女自身もコレを解決できな
いであろう。ならば放っといていいのかもしれない。よくないのかもしれないが。
 後に見えるのはエステバリス重機動フレーム対警備員一個中隊、撃ち合ってる射ち合って
る。まぁ、勝てるであろう。押しているし、ミルフィーがここに下手にいて三次災害を引き
起こさない限りは平和なのだ。
 右と左の撃ち合い。さて、どちらが勝つでしょう。正解は両者とも互角(五画)



「ほらほら、帰るよ」

「は〜い」






 ンで、しばらくした後の帰り道。


「しっかし・・・・・また、色色と起きちゃいましたね」

「明日の新聞の一面は貰ったも当然だね」


 本当に・・・・今日一日だけでどれだけの重要文化財がなくなったのであろうか。
 恐らく原因は隣にいる少女だと思う。何かしら極端な運勢を持つ彼女のことだ。今回も周
りにその【無為式】により災い、厄を呼び寄せてしまったのであろう。
 彼女自身には何の罪もない、だけどそれでも運の天秤はどちらかに傾く。勝手にだ。


「はぁ・・・・・・・・」

「ミルフィー・・・・」


 当然落ち込んでいるだろうな。折角楽しみにしていたイベントがお流れになってしまった
のである。彼女の心中は察するに余りある。




「アキトさんって・・・・疫病神(えきびょうがみ)?!」



ズサササササァァァァァァ

 ソレを言うなら疫病神(やくびょうがみ)だよ。漢字一緒だけど。
 俺かよ原因。そうか俺だったんだな。俺なんですね。俺が災いを一身に呼んでるんだね。
 って────


「何でそうなるの!!」

「あう・・・・・怒られました」

「全く・・・・・・・・」



 この娘ってばさ、もう少しこう、何てーのか、子供らしく素晴らしくポジティブなのは結
構だが、もうちょっとしたものが必要なのでは。そう・・・・例えば。



「わかってます────本当はわかってます。全部、私の運が悪いんです──」

「そうそう、こんな感じに・・・・って、ミルフィー?!」

「──私が側にいるといつも起こらないようなことが起きて、それで皆が迷惑して、それで
アキトさんがソレを何とかしてくれて・・・」

「お・・・おいおい」

「いつも笑いながら助けてくれて、それで・・えっぐ・・・う・・うぅ・・・ううう〜。」


 ちょっと待てSTOPジャスタモーメント。何だ、何だこの状況は??!!
 ミルフィーが泣いてしまった。やっぱり彼女なりに気にしていたのであろう。とはいえ、
泣かないでくれ。ミルフィー、君の涙は見たくない。誰のよりも君のが見たくない。
 笑ってくれよ。いつもどおりに、普段どおりに笑ってくれよ。

 確かに少しぐらいはそういったことは必要なのかもしれないと俺は思った。もう少し考え
て欲しいとも思った。だけど、まさか、こういう状況になるとは・・・・・・頼むよ。
 掛ける言葉を無くしちゃうじゃないか。苦手なんだよ、こういうのはさ。
 いつまで経っても、どれだけ時間が流れようが。


「いっつもいっつもアキトさんには・・・・うぐっ・・・迷惑ばっかり掛けて・・・・私は
・・何のお礼も出来なくて・・・・なのにアキトさんは何も言わないでくれて・・・・・」

「気にしなくていいんだよ。だから泣かないでくれよ」

「もう・・アキトさんだって『仏の顔も二度あることは一兎をも得ず』と思ってますよね」


 シリアスな場面だろうが突っ込むべき所はしっかりと突っ込んでおこう。
 
 思ってねぇ、ってか、んな【ことわざ】初めて聞いたぞ。混ぜるな、色々と。
 そんなことを言われたら真面目に聞く気が無くなって来たではないか、でもミルフィーは
本気で泣いているし、それについては挟むべき余地はない。そう思うと、又こちらとしても
アンニュイな気分になってくる。ソレはゴメンこうむりたい。俺は思ってもいないのに。
 だからこそ、言っておかねばならないな。はっきりと言っておかなければならない。


「思ってないって。全然、これっぽちも全く」

「・・そんなこと・・ありません・・はず・・です。だって私が、アキトさんに・・・」

「俺の気持ちを勝手に決めないでよ。俺はミルフィーのことが好きだよ。これは最初会った
時から増えてはいるけど減ってないし、これからもずっと減ることはないと思ってるんだ」

「でも・・・・・・・・・・」


 まどろっこしいことを言わないでくれ。俺は確かに思ってるんだ。
 だからこそ、分かってくれよ。信じてくれ。泣かないでくれ。辛くなるから。



「もう一回言うと俺はミルフィーのことが好きだし、嫌いになることなんか絶対にない。君
は確かに極端な運を持っている。うん、ソレは事実であって神様でない限り変えようがない
かもしれない。けどね。だけどね、ソレは君が望んで不幸を撒き散らしてるのかい?違うだ
ろう?別に君は全く悪意を持ってないんだ、人が息をするよりも自然に、君自身が作用でき
ないほどのどこかで働いている力なんだ」

「・・うぐっ・・・難しくてよく分かりません」


 ちょっと難しかったかな。まぁ、意味不明なだけだが。要約すると・・・・・・・・ 


「つまりは─────俺は何があっても君が好きって言う事。ね、コレで分かった?」

「?!・・・ア・・キトさん・・・アキトさん・・アキトさん・・う、ううううう」



「だからさ、君が背負わなければいけないものの少しぐらいは肩代わりするよ」



「う・・・うぇ・・・・うぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!!!」



 自分のことを今はっきりと偽善者だと思った。最低だと、最悪だと思った。
 コレで俺は彼女を安心させることは出来たのであろう。だから・・・だからこそ非道だ。
一度、餌を与えておいて二度目はあげないというのは人間特有のエゴイズムだそうだ。 
だとしたら、よっぽど俺は人間らしいということになるのかもしれない、正にソレだ。
 俺は何時までもこのトランスバールには留まっているわけにはいかないのである。いや、
むしろ留まることが出来ないのである。早ければもう1〜2週間後にはこの星を発つ事にな
るであろう。そして、その後此処に戻ってくる確率は程なく低い。
 いつかは元の世界にも返る。そうなれば会うことはまず一生無くなる。

 思いだけ言葉に出しても結果が伴わなければ戯言以上には成りえないのだ。
 この場逃れの言い訳なのかもしれない。俺がどれだけ思っても彼女を完璧に救うことは出
来ない。誰にも出来ないのかもしれない。いや、シャトヤーン様ならばあるいは・・・・・
 コレも戯言だな。俺は特例だから会えるのだ。普通では会えないのだろうな。
 だから、今の俺にはこうして笑ってくれるまで泣かせて上げる事しか出来ない。
 コレはこの娘の将来に対しての未来への贖罪なのだろうか、それとも情け心なのか。
 そんな事ばかり自然と思いついてしまう俺に自己嫌悪。

 人間としての何か大切なものがどんどん壊れていってるのかも知れない。元々は無事だっ
たのだ。元から壊れている欠陥製品でもないとすれば、俺は一体何なのだろう。
 単なる人間失格なのかもしれない。


「・・・ひっく・・・えぐっ・・・アキ・・・トさん・・・・アキトさん・・・」


 ねぇ、ミルフィー。俺は君が思っているほどにいい人間でもないし、偽善者という仮面を
被った更なる偽善者なのかもしれない。
 ソレを知っても、君は俺をこうして、慕ってくれるのかい?
 こんな自業自得で自縄自縛で自画自賛で自作自演で自由自在に自暴自棄な奴を。


「アキトさん・・・・約束ですよ・・・・嫌いにならないで下さいね・・・・私の事・・」

「ああ・・・約束するよ。」

「破ったら、獄門貼り付け兼、星中引き摺り回しで死ぬまで針飲まし続けますからね」


 約束は出来る。・・・が、流石にソレを突きつけられると流石に痛い。
 守れるけど緊張が伴い続けるのは厳しいです。
 と、その前に性格直ってきてやがらねぇか、この娘は?しっかりと立派に毒吐けてるし。


「─────ああ。じゃ、帰ろうか」

「ひっく、何なんですか、えぐっ今の絶妙な間は」

「無茶な公約に対する少しの反発」



 こんな具合に俺達は心が温まる会話をしながら家へと帰ることにした。




 間




「・・・・どうしてですかねぇ?メレンゲがメレンゲでないモノになっています」

「原因のその一としてはそのエッセンスがあがると俺は思う」

「え〜!!せっかく通販で買った特製のエッセンスなんですよぉ!!」

「そうでもない限り、現在進行形でひび割れて鱗が出来て目玉が生えるような宇宙融生体は出
来上がる事は決して無いとも再び俺は思う。」


 今現在、俺達はさっきミルフィーに約束したとおり博物館で売られていたケーキを作って
いる。ミルフィーから訊く限りは雑誌に作り方が載っていたというので彼女の記憶力を頼り
に作成している・・・・・のだが。
 途中途中でミルフィーが記憶にアレンジを加えちゃっているようで進行は至って遅い。
 ちなみに現在の制作進行度は−100%である、0未満からの出発になりそうである。


「よっと・・・・で、この失敗作はゴミ箱にでも捨てて置けばいいの?」

「短刀刺しながらさらっと言わないで下さいアキトさん、ちょっと怖いですよ〜」

「いや、流石に三匹目だと驚くよりも慣れのほうが強い」


 そう言いながら俺としては好きになれそうにもない物体Xをゴミ箱に片付けておく。ま、
あれだけ切り刻めば再生もしないであろう。元は普通の鳥の卵のたんぱく質のはずだし。
 ・・・・・・なんでそんなものがああ言うB級ホラー映画の主役語れるものになるかな。


「あ、注意書きに宇宙線に当ててはいけないってなってます」

 つまりは四方の外壁が三十cm近くある金属の塊の中でしか使えないって事だね。

「全く、どういった状況で使うんでしょうねぇ〜」

「買った君が言えた立場ではないと思う俺は間違っているのでしょうか」

「ですですよ〜」


 間違ってねぇよ。


「まあ、ゲッター線浴びさせるよりはましでしょう」

「爆弾発言してんじゃねぇ」

「うぐっ・・・・酷いですアキトさん!十歳児にそんな言葉使いをするなんて?!偽者ですか
?!前世魔人の正体見たり外道焼身霊波光線!!」


 ンなネタ・・誰も知らないと思うぞ。ちなみにこの未来では再々々々々放送されて視聴率
がかなり高いんだそうな。何かヤック・デカルチャといった感じが否めない。
 ミルフィーもさ、もっと女の子らしいアニメを見ようではないか。特撮じゃない奴。
 全く、さて、料理だか調理だか分からないものの続きを・・・・・・・・ 


「そんなこんなな紆余曲折の中でようやくケーキが出来上がりました〜!!」


 時間的概念って物が今一瞬にして崩壊したよ。


「どうしたんですか〜?後はお皿に並べましょうよ〜、あ、フォーク持ってきますね〜」

「ねぇ、結果はあるのに過程が無いのはどうかと思うよ」

「ミルフィーの三秒クッキング〜〜!!ふるって混ぜてまたふるって〜」


 黙ってくれないかな。俺の理性が保てれる内に。


「それじゃぁ、とっとと持ってっちゃってください。私もすぐに行きますから」

「さらっと流してくれる君の性格に困憊」

 
 その後『名物に旨い物なし』というケーキを食してみた。はっきり言って不味いってか、
バタークリーム使ってねぇか?やけに舌に絡むんだが・・・・うわ、喉にも!!気色悪いに
も程がある。ミルフィーも同じらしい、嫌な具合に顔をしかめて水を一気飲みしている。


「アキトさん・・・、おいしくありません・・コレ」

「まぁ、俺は作ってないし責任は全てミルフィー持ちね」

「あう・・どこで間違えましたかね」


 思いっきり悩んでください。そうすれば解決の糸口が見えるだろうよ。全く持って嫌な食
べ物が喉を通っていく・・・・・あの博物館、潰れて正解だったかもしれない。
 うわ、コーヒーが喉に付いたクリームと混ざり合って何とも言えない気色悪さが。
 一体どういう原料使ったんだ?!
 ・・・・・・って?!なんか喉で膨らんできたぞ?!な、NANDA?!




「やっぱりあの時に通販で買ったあれとあれ混ぜた所為ですかね〜?」




 その後、俺はしばらくトイレの番人と化した。じわじわと襲ってきやがる・・・・・ロス
トテクノロジーレベルかよ。このとき、効力だけならばユリカとメグミちゃんの料理を抜い
た。少なくともあの二人の料理は一回気絶してしまえば後味すっきりだった。
 だが、今回のは一味違う。腹を下しもせず、嘔吐感すら一切無いのだが・・・とことん体
調不良を起こす。死ねるレベルだ。圧倒的だ。一寸法師だ。

 本日決めた事。絶対にその通販会社を潰す、紋章機使ってでも潰す。


「アキトさん・・その・・・大丈夫ですか〜?」

「何で君は平気なんだい?ミルフィーユ・桜葉ちゃん?!」


 おお、神よ。何故貴方様は人という群の中にこうした異を持たれるのですか?どうしてケ
ーキ一口しか食べてない俺と根性で完食したミルフィーにこれほどの差があると言うんだ!
 この願い、神よ聞きたまえ!!


「でも・・・それなりに何か血色も悪くなさそうですし。大丈夫ですねっ!!」

「今日だけで君に何回殺されかけたことか・・・・・」

「生きてるからいいじゃありませんか、生きていれば何だって出来ます!」

「もういい・・・・さっさと風呂入って寝させていただきます」


 風呂・・・・・全自動式だからもう沸いてるはずだよな・・・・・だったら入って今日一
日の疲れを吹き飛ばしてしまおう。限界だ。疲労で疲弊で倒れること数秒前って感じだ。
 さて、そんじゃま、命の洗濯にでも・・・・・・・・・


「あ、アキトさんお風呂入るんですか?」

「うん、だからとりあえず適当にくつろいでて、冷蔵庫の中にあるものは食べていいから」

「それには及びません!ね、一緒に入りましょうよ?」


 何を突然言いますかなこの娘は。


「子供はさっさと寝ましょう。」

「うえ〜!アキトさんだって私と四つ、厳密に言えば三年と一ヶ月しか変わらないじゃない
ですか〜」

「うん、そうだね。でも今の俺は思春期真っ盛りだし。年が余り離れていない子供と一緒に
入ると何気にデンジャラスかも知れないから」


 まぁ、そんなことは百に一つも無いんだが。俺はそんな不特定多数な人間ではないのだ。
 此処でルリちゃんとラピスについて持ち出してくるような無粋な輩には鉄拳制裁。


「ロリコンですか!?」

「誰がだ?!」


 幾ら何でもソレはない。肉体年齢こそ三年ちょいしか離れていないが、精神年齢だけで純
粋に計算すると二十年近く離れているのだ。正に大人と子供。一回りどころか二回り、三回
りほど離れているのだ。
 そんな子供に欲情するほど、壊れてはいない。


(そんな・・・・アキトさんにそんな趣味があったなんて・・・・・)

 ゲキガンガーでも観戦してなさい、君は。



 ともかく、こうして一日は終わっていきそうなのであった。



            続いてしまおうよ、あ〜ちゃん。 



 おまけ そのころの白き月で

 実は次回より『魔法天使ミルフィー』が始まります。
 ロストテクノロジーの杖を持って右へ左へ宇宙と銀河で大活躍。
 そして彼女の通った後には萌えと多くの難民が生まれる。
 ピンチの時には謎の黒い王子様が黒き刃(DFS)で助けに来るぞ!!

 そんなこんなで絶対無敵、バーンとやっちゃえミルフィー。
 では第一話『えぇっ!私って魔女っ子だったんですか?!』をお楽しみに〜!!

 製作者レミータ 総監督シャトヤーン 製作元白き月













『何をしているんですか?レミータ班長?』『にゃはは、どうせ本編に出れないならと』

『全く、これだからあ〜ちゃんに呆れられるんですよ』『気にしない気にしない』

『で、どう・・・・一口乗る?』『乗りません』



 何かしら・・・・遠くから電波を受信しているかもしれない白き月であった。


『にゃはは、それではお便りコーナー!』『いつの間にか話を進めないで下さい』

『い〜ジャン副班長!何?学生時代は委員長だったとか?真面目ちゃんか?!』

『違います。ずっと図書委員でした。』『ふ〜ン、私はずっと帰宅部部長だったさ』

『ヲイ』

 兎も角、来たメールの中から無作為に数通選んで見ました。

『それでは最初のお便りは『リン』様です、ありがと〜ごぜ〜ます!!』

『有難う御座います(ペコリ)』

『ほうほう、率直な意見と的確なアドバイスが聞いてますね。ピョロ弐式が感謝の涙を流し
ていますよ』

「そうですね。この『レミータさんは永久封印しても構わないと思いますよ』発言は素晴ら
しく最高ですからね』

『あう・・ポジティブ精神!続いてのお便りは『時の番人』さまです!感謝感激!!』

『へぇ・・・・作家同士でも繋がりがあるものなのですね』

『そらそうよ。ピョロ弐式なんて駄目人間で自分を卑下しぱなっしなのにちゃっかり友好だ
けは持とうとするからね』

『図々しいですね』『まぁ、『逆獏』様にこの間フレンド発言までしてたからにぃ』

『さておき、『時の番人』様、有難う御座いました。』

『又宜しくお願いしちゃったりしますよん、いや、切実にピョロ弐式が望んでるし』

『そういえば班長。感想掲示板のほうでも色色と言われてましたね。』

『おお!『零崎零式』様という殺し名を持った殺人一族まで登場しちゃったからね』

『ええ、それに因んで家の馬鹿も零崎家に養子に入ろうと門前へと・・・・・』

『行こうとして気が付けば殺されて解されて並べられて揃えられて晒されてましたね』

『それでは今は一体誰が書いているんでしょうね?』『それは触れてはいけないよん』

『いいですけど、零式さまの意見ではヒロインは『僕様ちゃん』にしてはどうかと・・・』


『うに〜、それじゃ僕様ちゃんが僕様ちゃんって話せばいいんだね〜』

『止めて下さい、班長』


 恐らくは『僕様ちゃん』計画は凍結することこの上ないと思います。


『それではそろそろあ〜ちゃんが感受するころだから終わっちゃうよん』

『怒涛の如くですね』

『そ言えば副班長?あんた確か名前・・・・・・ナンダッケカナ?』

『何を言ってるんですか、私の名前は『  」です。もう。」

『表示されてないってば。そんじゃま、暇な人にでも考えてもらいますか』

『うう・・・・・』

『ほんじゃま、気を取り直してほら一緒に』


『『毎度の如くですがご意見ご感想ご苦情その他諸々受け付けております。ですので、もし
何らかあったら是非ともどうぞお送り下さい』』


『それじゃあ、最後に私ことレミータよりの一言で締めくくりたいと思います。一発渋いの
決めるよ!』

『・・・・・・・嘘つき』




『おお・・・・死んでしまうとは何事じゃ』


 こんなレミータさんに『いい加減にしてください!あんた5秒しか真面目になれない病気
なんですか!』と言いたい人もいたら是非ともどうぞ。
 
           そんなこんなで恐らくは続きます。

 

 

 

代理人の感想

ペド野郎め(爆)。

 

 

 

 

 

・・・いや、それ以外に何か言うことあります?