…………………………

「シャトヤーンって、どういう由来なんですか?」

「……………。はい?」

「いや、名前って只の自身を表す記号ですが。
 それでも一応名前には親が何かを願って付けたものが在りますよね」

「ああ、言霊の事ですね」

「そんなようなモノです」

「私の名前には『月の聖母』という意味があるそうです。
 地球の言葉のどれにも該当しませんが」

「それ以前に親がいたことに吃驚ですけど」


「では、アキトという名前にはどのような由来があるのでしょうね?」


「知りませんよ、そんなモノ」

「でも、その名前を気に入ってるんですよね」


………………
…………………………………


「貴方は帰る事を本当は望んではいないのではありませんか?

「そんなバカな。帰りたくて仕方が無いですよ」

「昔と出会うために今を捨てる事を躊躇わないのですか?」

「一度経験してますし」

「『最悪の未来から最良の過去へは』ですけどね」

「何が言いたいんですか」


「貴方はこの世界を嫌ってはいないって事です」


……………………………………
………………


「あ〜ちゃん、そんなに働き詰めると死んじゃうよん。若いのに過労死!!」

「元から死んでるようなものですし」

「レミちゃんキック」

「痛いですよ」

「そんな可愛げの無い事言ってないで、ほら、ブレイクタイム」

「まだ作業休憩時刻なってませんよ」

「気にすんにゃっての。これは班長命令」


「………ありがとうございます」


……………
……………………
………………………………………




『俺が帰るべき場所は………ナデシコだ!!皆が揃っているナデシコだ!!
 何処に跳ばされようと、俺は絶対に帰って来る!!
 例え、遙かな距離だろうと、時を越えても────』




………………………………………
………………………
……………
… 夢を見ている。定型夢。潜在夢。逆夢。正夢。予知夢。現実反復夢。




 どれかは知らない。

 だけど、目の前に広がる光景は。

 あるいは、走馬灯のようで。

 ゆっくりと流れ。





『こちらはナデシコA所属 ブローディア
 パイロットは、テンカワ=アキト
 三年間分の遅刻は、さっきの相転移砲2発で勘弁して欲しいな』





 ────砕け散った。


天使が舞う銀河にて
第零章 第五話 閑話休題カナ?





 目が覚めた。

 最高に格好悪い夢のおかげで、目覚めは最高だった。

 元気溌剌とまでは行かなかったが、少なくとも体がだるいという事も無く、何気に低血圧な俺としては素晴らしいと思える。


 それでもどうしても欠伸が出てしまうのは人間の習性と言うものであろうか、何とか飲み込むように努力して周囲を見渡す。



「……………」



 俺の知らない場所だった。白い六方に囲まれた部屋。

 真っ白な床、壁、天井。清潔感のある白なので毎日欠かさず掃除されているような雰囲気を受ける。

 いや、受けるだけで本当は違うのかもしれないがという事を微塵にも思わずに次の確認へ承認。



「知らない………天井だ」



 ドコカで聞いた覚えのある台詞を吐きつつ、現状確認をしてみる。

 まず、どうして自分が此処にいるのか。これが現段階での最優先確認事項である。

 記憶の糸を手繰ってみませう。






 どうして、俺は此処にいるんだ?



 記憶が無い。

 覚えが無い。



 所謂、此処は何処?私は誰?状態。

 いや、自分を示す言語記号くらいは大体解るっぽいが。














 まぁ、若年性アルツハイマーの恐ろしさと言うものを身に持って知ったワケでして。

 これからは気をつけなきゃいけないな、と少しばかり自己責任能力に自己嫌悪。


 しかる後に、気を取り直して現状確認の続きをして見る。


 今までなるべく気にしないように努めていたが、手足が無茶苦茶痛い。泣きそうだ。

 一応意識は保っているのだが、痛すぎるので気絶すら出来ないってのが現状だったりしちゃう。



 過程は兎も角として、どうして自分がこんな(病室みたいな)所にいるのかは理解できたような気がする。

 気がするだけだが。非常に信憑性低し。

 妙だな、怪我をした記憶なんて無い筈なのに………



「よっと………って、痛ぇ!!」




 起きたいのに起きれないと言うのは結構な苦痛だと思う。いや、それ以上に痛いのだが。

 両腕両足両肘両膝。全部アウト。ついでに言うと肋骨が何本か折れてる気がする。




 痛い。



 どこが痛いかって。



 
内臓



「……………ひょっとしちゃって。
 俺が少し身を起こそうとした事で中途半端に折れてる肋骨が良い感じに
 内臓に喰い込んじゃって、素晴らしく危険な状態に陥っちゃってるって事かな」


 目に見えない部分も現状確認完了。

 身をもって知る大切さを学んだような気がしちゃう。

 程よくヤベェ。



「このまま行っちゃうと確実に内蔵がやられちゃうし、
 一歩間違わなくても既に結構に刺さっちゃってる上に
 両手両足両肘両膝も使えなかったりしちゃう」



 まぁ、だがしかし。

 若者は行動力だと思う。

 無気力で無関心な無意欲だらけの無意味が無為に行われていると称されている現代の若者
だが、此処は一つ、俺という任意の一転により変わってもいいのではないだろうか?



「……………アキト君が今から何をやろうかと言うと……………
 確実に重症患者間違いなしの体を無理矢理に動かそうという
 青春ドラマ真っ青な事なんですね、これが」


 自分に語りかけて勇気付けて────萎えたが────いざ体を起こしてみる。

 と、言うわけで第一ステップの片手を動かしてベッドに立て、体重を支えてみよう。



「では、いざ」

 呟いた後、行動。



………………











 これは

 かなり、痛い。

 否

 結構に、痛い。












 余りにもな激痛に声も出ない。

 これは世俗で言うチャレンジャーという奴ではないのだろうか、または自殺志願(マインドレンデル)。

 落ち着けよ俺の中の若者精神。このまま続けたら死ぬぞ。


『死にいたる病!ただし恋煩いっ!!』みたいなっ!! いや、全然関係ねぇし。


 我ながらに痛みで脳細胞麻痺中。





「……漆黒の戦神は伊達じゃないっ!!」





 頑張って見た。何の根拠もなしに。




 俺はその後、片手では上半身の体重を支えきるのは不可能だと知り、いや、知ったのだが。

 両手へと移行して結局に両手共に苦痛を味わうという地獄を見るハメになった。骨、砕けるかもしれない。



……………………



 数分後。




 限界というリミッターをはるか後方に置き去りにやったまま、まだ挑戦し続けている俺の姿がそこにあった。

 何か、この数分間だけで全治が一週間以上伸びたような気がする。


 気のせいである事をマジで願いたい。

 痛みで脳細胞が麻痺から弛緩へと移行してきた頃。






「あんた、死ぬよ」





 死にたいんなら別にそれでも構わないけどね、と謎の老婆に忠告されてしまった。


 いつの間にか(当然の事ながら)部屋に備え付けてあるドアが開いている。

 全自動ではないのに俺が気がつかなかったのは、当然の如く脳が麻痺していたからであろう。




「ほらほら、無駄な足掻きをしてないで」




 情熱にかける想いもへったくれも無い台詞と共に俺の両手足を触診して、その度に溜息に似た嘆きをわざわざこちらに首を向けてしてくれる。

 なかなかどうして素晴らしい性格の持ち主だ。


 決して紳士的とはいえない悲鳴を触られるたびに挙げている俺の言葉ではなかろうが。

 悲鳴を出そうとしても次の悲鳴がすぐに出そうになるというエンドレスは地獄だ。



……!………!!…



 視界が涙でぼやけてきたが、それでも謎の老婆を観察してみる。

 今気がついたのだが、修道女の格好をしている。駄目用語で言うならばシスターだ。断じて妹ではない。

 けれども老婆が着ているので欠片も萌え要素が無い。ちなみに俺はコスプレ萌え特性は持っていない。


 どちらにせよ、見た目八十代後半の老婆に萌えるような特殊性は持ってない。

 いや、別にその手の趣味を理解しようとしていないわけではなく、ただ、受け入れられないだけで…………。

 以上、書き下し観察文終了。




「────おうおう。
 これまた派手にやらかしてくれちゃってさ、治療のし甲斐が在るってもんだよ。
 ったく、頭蓋骨骨折に脊髄骨折じゃ足りなかったのかい?」



 老婆は俺の体を叩きながら尋ねてくる。

 正直、俺はそれ所ではない。



「筋肉剥離に四肢骨折、肋骨三本損傷とまだ軽症なのだけ残しといたのに
 骨砕いちまって痛くないのかい、あんた馬鹿だろ?ああ、何だ。内臓ヤッちゃってたかい」



 そりゃ悪かったね、と全く悪びれずに言ってくださる老婆に好感度−100

 だけど、もう既に聞ける限界と言うものを十歩前くらいに越してきた。


 言葉が右の耳から入って言って左からそのまま突き抜けていく。
 つまりは聞いていないと言う事なのだが。俺は鉄人でもなければ超人でもない、ただの普通の人間なのだ。
 それなのに限界以上までの痛みを耐え切れるであろうか?否、耐えられないに決まっている。


 聞いてはいないというけれど、ソレは危険な単語を脳が拒否しているだけで。

 本当は聞こえていて、それを理解してしまうと、今以上の痛みが襲ってくる事を知っていて。


 例えるなら────熱が有ると判っていても、実際に体温を見るまでは頑張れるようなものである。
 そう、結果を聞くまでは頑張れるのに。




「全治一ヶ月。解ったかい?」



 人は、時にして残酷だ。

 一瞬にして痛みが倍加したような錯覚が全身を貫く。

 それと同時に痛みを振り切るためなのか、脳が一斉に活動を始める。

 けど、それは無意味で。



 錯覚だろうが何だろうが脳が意識したものは痛みとして認められてだけど人間傷を負っての痛みは精神で克服できる
はずであってしかし俺は耐えれなくて克服できなくて痛いもう嫌だ止めてください痛いから何でこんな目に俺が遭っ
ているんだ嫌だ死んでしまう死にたくないやめてくれ。


 一瞬で世界が歪む。




「んぎぃぁ…ぁ…ぁぐ…ああああああ
がああぁぁっ!!!


 俺は 再び 意識を失った。














 俺が人生という記憶体の集合を一時停止させていたのはほんの少しの時間だったらしい。


 素晴らしい痛みによって強制送還させられたとも言うが。

 もう、涙が押えても溢れてきて辛抱たまらないという状況だ。それを横の老婆が哂って見ているのがまた気に触る。




 ひょっとしたら、この老婆はサド気が有るのかも知れない。ソレは、先程の行為より裏付 けが取れそうだ。


 はっ!ひょっとしちゃって最高にピンチって奴ですか、俺!?




「……感想はどうだい?骨折りマゾ君」


 しわがれた声で話しかけてくる老婆。

 その声に含みと笑いがあるのを俺は聞き逃していない。


「……過去人生の中で、ワースト3に入りますね」


 それと、骨折りマゾは止めてくださいと頼んでおく。

「んじゃぁ、骨砕きマゾだ」

 語呂悪ぃよ。

 自分の言葉がツボに嵌ったのかくっくっくと魔女のように哂う老婆。


 こう言って見ると俺は魔女に会ったことのあるような言い方になってしまうが、別にそんなファンタジックな体験はしていない。

 いや、そこそこにファンタジーかつミステリアスかつ電波チックな体験はしているが。

 あるいは、目の前のこの老婆こそは本物の魔女なのかもしれない。




「笑ってるのは自分の言葉が可笑しいからじゃないさね。
 こんだけ酷い目に逢って置いてそれでもまだ『≦』があるあんたの人生が可笑しいのさ、
 ああ、これはもちろん『狂ってる』って意味でね」


「…………一体アンタ、何者すか?」



 少なくとも、こんなエキセントリックなでんぢゃらす婆さんに出会った覚えは無い。



 俺の覚え違いと言うことは無かろう。

 それに、どうしてかは知らないが、俺はこの世界に来てから老婆と会う機会が無かった。

 なので、この人が初老婆と言う事になる。うん、別に初って付け加えなくてもいいな。発音悪いし。



 俺の対人様用記憶力は結構に幅が広いと言うのも、また要因の一つだったりする。

 ともあれ、額面どおりに素性を聞くように俺は質問したのだ。

 だから。














「医療福祉の権威! 白衣の聖母! 治療の達人! 永久なる神の処女!
 それこそがアタシ、『悪夢の樽(=nightmare barrel)』との二つ名を持つ……
 シスター・バレルさ!!!!!!(前歯キラーン」



 
もちろん最後は五色のあからさまっぽい爆発だ。


















 最後に大きく手を広げながら片足を踏み出す!と言った豪快なパフォーマンスを超越した
『思わず三十秒は死んじゃうようなインパクト』を望んだわけではないのだ。

 折角、ここまで真面目にしていたのに、台無しじゃねぇかよ。

 普通、こういうキャラクターなら「……シスター・バレル、見ての通りの修道女さ」と語ってくれよ。

 ただ少し、インパクトが少なかったりする。まぁ、かといってだし………
 まぁ、嫌過ぎる人間と知り合っちゃった訳で。初印象最悪の出会いを果たしたわけだ。





 と、言う事で。


 まぁ、どう言う事なのかを順を追って説明するとシスター・バレル(以下長いのでバレル婆さん、文字数変わらず。自爆。)はこの医療施設の特別顧問をやっておられるそうで。

 それで俺の様子&具合を見にわざわざ来てくれたそうな。

 ちなみにあの触診は趣味らしい。どちらかと言うと嫌味だが。


 ……と、此処で疑問が生ずる。しかもかなりシークレットファクター気味。

 先程バレル婆さんは『頭蓋骨骨折』だの『脊髄骨折』だのかなり物騒な事を口に出しちゃってたが、アレが冗談ではないとしたらかなり俺ってばヤバい状況だったんじゃないのかい?

 とりあえず今は頭蓋骨並びに背骨は異常ないようだが………



 いきなり真実を聞くのは自殺行為だと思うので、遠い所から聞いてみよう。




「今って皇国暦何年の何月何日でしょうか?」

「あん?確か皇国暦404年の月日は………」




 よし、このデータを下に自分の意識があった日時から差し引くと俺の入院期間が解る。

 そうすれば大体の俺の状況が手探りながらに掴めるだろう。


…………………

 あれ?

……………

 俺って、いつ、気を失ったんだっけか?

 ひょっとしちゃって俺、記憶障害を起こしちゃってますか?



「人間の脳細胞はどうやっても直せないからねぇ」



 さらっと止めを刺さないで下さい。

 傷つきます。

 傷ついてます。

 実はガラスの心の持ち主だったり。




「ほんじゃま、あんたが気にしてる何点かについて説明したげるよ。感謝しな」



 ぐりぐりと抵抗できない少年の頭蓋骨を拳で弄りながらバレルさんが言う。


 絶対この人シスターじゃねぇ。違うだろっていうかさ。
 こういう場合のシチュエーションは白衣の天使が出てきて!!

もう…こんな怪我しちゃうなんて(以下略…」なイベントが発生するパターンだろう?

 オイオイ、記憶が無い間の俺よ?どこでフラグ立て間違えた!?




「一つ・ここは聖域惑星MO3で在ると言う事。
 一つ・そしてあんたは此処に一昨日運ばれてきたばかり。
 一つ・医療に不可能は無い!!
 以上だよ」




 いや、以上だよってかなり大雑把だろうが。

 逆イネスさんですか、貴女?


 全治一ヶ月って言う点はこの時代の医療システムの基準値よりやや早い程度であろう。

 まぁ。それにしては多少誇張しすぎだとは思うのだがね。

 不可能は無いとか。


 そんな具合に半目になっていたのだろう、やれやれ顔で俺に聞いてきた。




「ハン、あんた今どこが痛いんだい?」

「………解っているのに再認識させるのは良い趣味だとは思えませんが」

「いいからさっさと言ってみな」

「両手両足両膝両肘、いわゆる四肢関係が全部アウトです」



 再認識したら痛みが更に増して来た。やはりこれが狙いだったのか。



「そんだけかい」

「まだこれ以上………」



 増やす気ですか、と言おうとして気が付いた。


 内臓が痛くない。さっきまで肋骨が刺さっていたりそうで無かったりで激痛が走っていたのに今では全然である。

 冗談抜きに痛みにカウントしてなかったほどだ、かなり吃驚。



「…………神秘ですね」

「ハン、科学さ」

「それでも感謝ものです」



 その他にも感謝すべき点がある。ソレは時間だ。


 成る程、まだ二日程度しか経っていない訳だな、いやなに、記憶が無くてもそれだけは一応安心できる。

 一歩間違えれば十年くらい経った後に涙の生還の可能性もあったからな。


 いや、自身の体をチェックした時点でその可能性は無いと踏み切ってはいたんだが。



「停滞ってオチもあるよ」

「加速している人生ですから」

「さよけ」



 んーと。後気になるのは此処が聖域惑星って言う点。

 記憶を遡って見ても俺が聖域惑星にいたような覚えは無い。って言う以前に最後の記憶すらあやふやである。



「この惑星に運ばれてきたのも一昨日だよ」


 そうですか。


 ………………状況がうまく飲み込めないのだが、まぁ、いいだろう。

 しばらくいい休暇だと思って休む事にでもしよう。

 月に一回ポジティブ精神を掲げているからな!











 ………何かもうすでに一回やっているような気もするのだが、気のせいだろう。


 あ………でも、仕事やすめねぇしなぁ………。




「お、忘れるとこだったよ。あんたに言伝がある」

「ん?誰からですか?」

「シャトヤーンの嬢からさ」

「………!?」


 思わず絶句。


 まさか純粋なるこの世界の人間でシャトヤーン様をそう呼べる人がいるとは思ってもいなかった。

 意外中の意外とでも言うべきであろう。



「『しばらく頭を冷やしていてください』だってさ」


 こうして、俺の入院生活確定。まぁ、元からそれ以外の選択肢ないんだけどさ。






「あ、そうそう。基本的にウチの職員使わないでおくれよ。皆忙しいんだからさ」

「最悪ですか、貴女」


 トイレとかどうすんだよ。人間の生理反応は意思で克服できるようなもんじゃねぇぞ。


「別にあたしが手伝ってあげてもいいけどさ………」

「有り難く辞退させていただきます」


 逃げろ逃げろ、ダッシュで逃げろ!!


「あんた珍しくIFS付けてるだろうが、それ使やぁ、大体動かせるっての」

「?出来るんですか」

「ナノマシン付けてる癖に何馬鹿ぶっこいてるんだい、記憶障害か、あん」

「………了承………」


 手伝ってもらって補手補足装着。

 気分的に
バァァァイカンフゥゥゥゥ!!って感じかも。

「五月蝿ぇよ、ジム・トリプル」

「うわ、ひでぇ」

「しかも車形態」

「最悪じゃねぇか!!」



 さておき。

 とても動きやすい。生身よりもひょっとしたらって気がしてくる。

 感想 どこで何が役立つかは分からない物である。









 入院二日目




 最初こそ戸惑ってみたものの、入院生活と言うものも結構に悪いものではない。

 厳密に言うとマトモな入院と言うのはこれが初めてなので感動も少し入っているのだが。


 しかし、それを抜きにしても快適だと思う。四肢が思い通りに動かないのが難だが、昔取った杵柄と言おうか、エステバリス以上によく動く補手補足のお陰でそれもどうにかなっているし、何よりも仕事が無い。

 やはり休日は素晴らしいものである。入院だが。


 ここ数年間ほど結構に働きづめだったので文字通り良い休養となってくれている。


 あとは空白の数週間さえ戻れば言う事無しである。

 全く…………何が悲しくてこんな怪我をする羽目になったのやら。

 知りたい気もするし 知りたくないような気もする。



 レミータさんが俺の病室を訪れたのはそんな考えに没頭している時であった。

 廊下がやけに騒がしいと思ったらこの人かよ。なんか納得。

 単独の部屋で本当に良かったと思う。


 同部屋がいたら確実に「恥をかかせおって」フェイス確定。




「あ〜ちゃん!!」




 バタン!とドアが外れそうな勢いで開き、その張本人は俺に目掛けて突進してきた。

 ちなみに俺はベッドに補手補足を付けながら寝ている格好である。



「ああ、久しぶりですねレミータさん。そんなに急いでは他の人の………わぷっ」



 迷惑ですよ、と続けようとしたのだが正面から顔を塞がれてしまったので断念。

 何だこの人見舞いと見せかけて窒息死させるのが目的か、とすわ思ったのだが何が目の前にあるかを認識してそれも断念。



 感想は柔らかくて暖かい。ちなみにそういった問題でも無さげ気味。



「無事!? 元気!? 大丈夫!? 異常無し!? 合身GO!?」



 それは戦国魔人ですという突っ込みもしようが無かった。

 上手い具合に顔面を抱きしめられている。

 苦しいと言えば苦しいのだが、何分俺も男属性でして。いやなに。



「わわっ! 手足粉砕中! マジ痛そう!」

「…………それ以前に窒息死の危険性アリです」

「おおうっ!?」



 柔らかい感触を味わうと言う事を完全に脳から排除して首を傾ける。そして喋る。

 ふう、苦しかった。「………普通に死ねますて」「男の浪漫じゃん」「追いかけてません」

 ともあれ、そこそこに暇つぶしが出来そうな相手が来てくれたのは嬉しい事である。



「でもにん、結構気持ちよかったでしょん?」

「生憎『人妻萌え』属性じゃないものですから」

「ふみみ 絶っ対ぇ篭絡させる自信あったのにさ! あーちゃんの不感症!!」

「さらっととんでもない発言してんじゃねぇ!」



 前言撤回。

 疲れそうな人が来てくれたのは悲しむべき事である。







「……でさ、あ〜ちゃん。正直な所どうする?!」

「何がですか」



 しっかりと目的を明確にして言葉を使いましょう。



「いや、これから」

「怪我が治るまで休養させていただきます、いや、マジで痛いですし」

「そんじゃまん、シャトヤーン様のお使いも出来そうにないにん」

「使い?」

「『遣い』かな? ま、でもどっちにしろで特命なんだけど」



 何だソレ?

 空白の数週間の間に俺は一体何をしてきたと言うのだ。

 ヤヴァイ、本気で不安になってきやがった。


「まぁ、あたしみたいな整備ちんには関係の無い話だけどに」との言葉よりレミータさんがこれ以上の情報を
持っていない事が推測される。 他の情報を探す事にしよう。

 気分は名探偵。体は子供、頭脳は大人!!




「……っつー事はアレもお流れになっちゃうにゃ。 ふみゃ、どしよ」

「あれって何です?」

「ホラさ、ちょっと前に言ったじゃん。 毎年恒例の『あーちゃん記念祭』」




 その言葉を聞いて大体どういう物だったかをここ数年間の記憶で取り戻してみる。

 脳内検索の結果中々早くヒットしたようだ。吐くまで呑む痴態×整備班の光景がありありと浮かんでくる。

 ひょっとしたら俺の脳内ではしっかりとぐぐってくれてるのかも知れない。

 しかし、此処数週間の記憶では『レミータさんがちょっと前に言った』という言葉だけはヒットしなかった。
 やっぱりもうちとばかり低いかも。やふー検索並?



「あ〜。すいません。皆にも……」

「ん、にゃは。 にゃむにゃむ、気にしない気にしないってば。
 ホラ、そんなに謝んなくていいからさ。ほら、あーちゃんの所為じゃねぇんだし、み?」

「ですが……」

「それよりも所為を求めるんだったら、あーちゃんをこんな目に合わした犯人だってば!!」



 そう言って『ぷんぷん』という表現が似合いそうな膨れ面をするレミータさん。まじでユリカっぽい。
 こんな表情+いつまでも若々しい肌ってのを見てみると本当に三十代なのか疑いたくなってくる。

 はっきり言って二十代前半〜中頃といった感じなのである。下手すりゃ十代だ。

 俺の中の七不思議の一つに挙げられていて、恐らく永久に解決しないのであろう。

 ちなみに次点でシャトヤーン様も。



「あーちゃんは何か覚えてね? ほら、人相とか体格とかさ」

「いや、全然……と言うか当時の一切の記憶が無いんですよ。
 これまたスッパリと。ですからそんな有機的なものじゃなくて俺がただ単に
 どうにかなったものかもしれませんし」



 それならどっちにしろその場所に復讐する!と笑って返してくるレミータさん。

 俺は笑えなかった。ソレはレミータさんの異常性も含まれていたのだが。

 実際俺がそんな事故に合うだなんて考えられなかったからだ。

 いや、交通事故に遭う人間というのは別に遭おうと思って遭っているわけではないけど。










「でもでもさ! あーちゃん意外と運動+反射神経良過ぎだしさ、ありえねぇと思うさ!」

「そんな事在りませんよ。こう見えて只の生意気なガキです」

「み。元から知ってるってばさ、んな事」

 何だとこの野郎。

 いや、女性だから野郎ではないのだが。眼で訴えてみた。



「………」



 しかし、珍しく何かを考えちゃってる模様。どうせ下らない事だろう。

 この数年間、この人からマトモな言葉は一言たりとも聞いたことが無い。

 せめて一度くらいは聞きたいものだ。

 それが叶わないなら、せめて俺の言わんとすることを理解して欲しい。



「やっぱり、あーちゃんって只の子供じゃぁ、ないよに?」



 ホラ出た。やっぱり電波ってる台詞だ。確かに俺の行動自体はもう少し子供らしく改善すべき点も在るだろうが。

 それでも、十二分にこの数年間を子供として通してきたと思う。



「今言ったじゃありませんか、只のガキですよ。
 それが証拠に白き月に着てから子供らしくすくすくと成長し続けています。
 そして今は立派な十二歳児標準となりました」



 アタシが言いたいのはそんな単純な事じゃなくてさ、と笑わずに笑うレミータさん。

 何か、こう。いつもとは大分に大分違う感じである。普段なら此処で『萌え!』とでもなるのだろうがそんな素振りもない。

 病院だからか?柄にもなく畏まってる?イヤ、畏まってる人間が絡んでくるわけねぇけどさ。


 そんな勝手な予測を立てていたら、突然レミータさんが喋り始めた。



「あーちゃんだぜ?自覚してねぇの?」

「何がですか」

「まるでさ、あーちゃんって主役みてぇだもん。この世界の」



 なんか唐突な展開。

 ってか、何か電波な展開。

 俺の人生を勝手に語られちゃってますか?

 ヲイヲイ、ちょっとソレは少しばかり断りが欲しいですに。

 そう言おうとしたのだが、口を挟む前にだんだんと妄想驀進中!!。





「だから、普通の事故には合わないし、決して普通の…うんにゃ…普通には死ねないと思うに。
 決して在り得ないこともあーちゃんの前では起こるし、在り得る事は起こらなくなる。
 ホラさ、経験ねぇ?
 自分だけに降りかかってるような馬鹿みてぇなご都合主義ってさ?」





 ソコまで言って俺の目を覗き込む。

 その顔は笑顔だった。

 嬉しがっているような不思議なものを見ているような笑顔。

 でもソレはほんの少しの憂いを含み、ソレは可能性を含み、ソレは自嘲を含んでいた。



「きっとさ、あーちゃんみたいな子をさ」



 いや、あーちゃんこそがか、と付け加えて彼女は言った。








「《無意識》って呼ばれる存在なんだと思うよ」











 その後レミータさんはここに来る前にお見舞い一気(飲み)をしていたことが発覚して病室から出て行った。

 出て行かさざるを得なかったとも言ふ。

 俺が異常に気づいた時には完全に脳までアルコールが回っていた様子で呂律が回っていなかった。



「ま、たかが戯言だからねん」



 そう最後に言い残してレミータさんは出て行った。気にするな、という事であろう。

 戯言。

 それは気にしなくてもいい言葉。だけど気になる言葉。

 俺は一体何を気にしているのだろうか?



「………普通、病院での飲酒は禁止だからって来る前に飲むか普通?」



 手ごろな問題を提示してみる。しかし気分は全くもって変わらない。当然である。


 一体自分が何を気にしているのかは、当然俺は解っているのだろう。誰の問題でもない。

 俺の問題だ。

 だけど解りたくない。脳じゃない、本能が拒否している。


 だからこそ、俺はそれにアクセスしてみる。



「《無為式》ねぇ……考えた事も無いッつーの」



 自分で呟く事によって話題をこの一点のみに集中させる。そうすれば脳が幾ら拒否しようとも過去の言葉をしまう事など出来ない。

 賽は投げられた。

 それと同時に俺の記憶が言葉に当て嵌まる画像をコンピューターよろしく出してくる。

 いわゆる、俺が《無為式》であるという証拠の画像を、だ。

 マイピクチャ内画像一斉スライドショー………っと。





 ミスマル・ユリカとの出会い

 科学者であった両親 / 死んでいった両親

 火星に攻めてきた木連 / 火星を取り戻そうとしたナデシコ



 今思い出せば、ユートピアコロニーにチューリップが落ちたときそれで死ななかったのも一因なのかもしれないな………。

 この後に物語を続かせるため、何かのために生き残らせる力が働いたのかもしれないな…なんて思ったり。

 それに………………

 一瞬そんな事を思い、深く考えようとしたが次の画像が出てきたので断念しておく。



 運良く残っていたシェルターに入れた事 そこでアイちゃんと会った事

 両親の形見がCCで上手くボソンジャンプをすることが出来た事

 そしてアイちゃんが過去に飛ばされ、未来になってイネスさんになっていた事

 ナデシコに乗り、火星に行き、過去へと戻り………今へと至る。




「………出来すぎてるっての」




 思わず苦笑い。顔面が引きつっているのでそれすらも出来ない。

 まるで主人公のようなイベントの目白押しだ。ひょっとすれば体験談の一つでアニメが作れるかもしれない。

 成程納得、俺はトラブルメーカーどころか、プラントやファクトリーの類なのかもしれない。



「と、まぁ。自分で考察してみると以上のような事になる」



 研究終了。

 なのに引っかかる。

 麺棒で耳掃除をしているような妙な感覚。

 いや、健康には素晴らしくいいんだけどね。

 ただ、俺としてはさ、しっかりと取るほうがよくて、中耳炎上等って感じが………

 イカン。話がずれてきた。



「【無為式】ってのが…………妙に気になんだよな」



 こう、珍しい単語なのだが、珍しくないような気がする。日本語的に成り立っていないの
だが事実なのでしょうがない。デジャビュって訳でも無さそうなんだがな………








 むい ―ゐ 1 【無為】

(1)あるがままにして作為しない・こと(さま)。ぶい。

(2)何もせずぶらぶらしている・こと(さま)。

(3)〔仏〕 因果関係に支配される世界を超えて、絶対に生滅変化することのないもの。
すなわち、涅槃(ねはん)・真如(しんによ)といった仏教の絶対的真理の事。無為法。ぶい。


 むいしき 2  【無為式】
 ……………
 ………………
 ……………単語としての用例登録数0件。







 即ち。

 この単語は用語としては認められていないもの。つまりは造語という事になる。

 が、旧世界での書籍にその名称が載っており、その説明によると。

 一般的な言葉を使えば事故頻発性体質並びに優秀変質者誘引体質との事で。

 より簡単に言うならばただのトラブルメーカーという事になる。


 無闇の為にのみ絶無の為のみに存在するシステム

 存在するだけで迷惑な絶対方程式

 存在するだけで迷惑

 存在するだけで

 ────存在

 ──そんざい

 ──ソンザイ

 ─────∃                  ソンザイシテイルダケデタニンノメ■■ク/
                               コンナヤ■■ンカイナク■ッテシマエ/
                                  マダ■■テイタノカ/













 意味を成さない────∃

 意味を成し遂げない────∃

 /意味の無い∃

 ∃のない意味/


 ソレは意味も無く、忌みも無い/

 存在は∃と成りて/


 理由がなくては生きて入られなくて

 存在理由(レーゾンデトル)を探していて
 だけど見つからなくて


 見つけた理由を無くして              見つけた理由を亡くして


               ソレハダレ?/
                             オレダ/


 ソレッテイキテイルイミナイヨ/
                       ソレデモオレハイキテイル/
             ウソツキ/
               ナニガダヨ/
                             キミハシンデイナイダケ/
 ソンナニチガワナイダロ/



『君の存在は迷惑だね』

『自覚済みだ』

『でも、直していない』

『【無為式】なんだろ?仕方ないじゃないか』

『仕方ない………か』

『気にしてどうなる物でもないだろうに』

『それを彼女に言ってあげたら喜んだろうに』

『彼女………?』

『はは……』

『笑うな、何気にムカつく』

『君は忘れているだけ、何れ思い出すさ』












 ……………さてはて。

 俺はいつの間にか眠っていたらしい。


 気が付くと俺の記憶していた時計の針が90℃ほど動いちゃっている。

 努めて正確に表現しなおすと三時間十分ばかり経過しているところであって、角度的に直すと大体 どのくらいになると…という具合に思案している場合でもない。

 別にしてもいいのだが、結構に面倒くさい。なので没。



 ………体が気だるい。やはり睡眠時間が三時間という中途半端な所為であろうか?

 しかしノンレム睡眠というわけでも無さそうだ。それならば夢など見ないであろう。



「誰かと会話するような夢……だったかな」



 内容までは覚えていないが、誰かと話していたような気がする。まるで鏡と話しているような感覚とでも言うのだろうか。

 凄く とても凄く 不自然な感じだった。この数年間、偶に見てしまう夢だ。


「ん……!と?」


 不意な頭痛。

 一瞬だけ視界がブラックアウトする。




「……何だぁ?」




 自分自身に問いかけてみる。しかし返事は無い。馬鹿か俺は。

 しかし、そのお陰なのか断片的に夢の記憶が戻ってきた。



『それを彼女に言ってあげたら喜んだだろうに』



 台詞が解っているのに相手の声が出てこないというのは妙すぎる感覚だ。

 いや、そんな事は今どうでもいい。【彼女】という単語が出てきた。
 夢というものは現実反復の作用もあるらしく、自分が経験した事をよく夢にもって来るらしい。

 だから、ここで言われる彼女は俺が知っている人の可能性があるのだ。

 だけど、そういわれてもなかなか簡単には思い出せるものでない。




「やっぱ、無理かな」




 やはり諦めようと寝転がった瞬間、再び頭痛が襲ってくる。



 しかも今度は半端じゃなく痛い。



 一瞬、頭部にイミディエットナイフを刺されたエステバリスを思い出す。



 まさしく、それだ。



 エステバリスはIFSで思い描く事によって動く。



 だけど、ダメージをトレースはしない。



 当然の事ながら、パイロットの生命に関わるからである。



 それを今、俺は体感しているのかもしれない。






 脳味噌にナイフが突き立てられ、ぐりぐりと脳の神経を遠慮なくぶっちぎって…………






 叫びたい     もう叫んでいるのかもしれない










 そして────





桃色の髪血の付いたお玉砲戦フレームダイマジン
トランスバール皇国美術館ゲキガンガー3騎馬シリーズ白き月
シャープシューターナイフ突っ込んでくる荷車黒い髪の女の子
轢かせないだったら俺が盾になる大丈夫助けて血が出てる
またあの子の所為だ違うそんなことはない事故じゃないか



「………っ!?」







 脳の中を犯される感覚。勝手に頭の中に入り込んでくる情報。快感でも不快でもなくて。
IFSとはまた違うソレ。細胞自体が無理矢理復活しているようで、記憶のようで…………
俺がフォーマットしたものが別媒体よりコピーされて…………









 ああ────恐ろしいな










 
助けて。
















 
助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。

 助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。
助けて

 助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助
けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助
けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助
けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて……………!!








 神に頼む。仏に頼む。自分以外の全存在に頼む。

 不快じゃない?どうして俺はそんな事を一瞬でも思ってしまったのか?不快すぎる!!

 洒落になっていなければ冗談どころでもない。



 この感覚が、情報が。



 恐ろしい   それでも    入ってくる

 少女の声が 俺に 呼びかけてくる



『アキトさん』



 それは桃色の髪の少女。顔が見えているのに判らない。

 俺は君を知らない。なのに君は俺を知っている。

 誰だ? 俺の中に入ってこないでくれ

 それは桃色の髪の少女。声が聞こえているのに判らない。

 俺は君を知らない。なのに君は俺を知っている。

 誰だ? 俺の中に入ってこないでくれ




 御免なさい

 謝ります

 だから許してください


 自分以外の全てに謝る。だから助けてください。


 身体が震える。

 蚊等だガ篩える。

 からだがふるえる。

 カラダガフルエル。
 ■■■■■■。

 だから俺は止めようとする。

 止まらない。

 永遠に入ってくるような情報は…………



「…………大丈夫ですか?」



 突然、中止された。

























 醜態を晒し続けてから数分後。

 ようやく理性というものが俺に復活してくれたらしい。

 ……そして襲ってくる羞恥心。

 サイコ君な上に電波たんな事を仕出かしちゃったと思っちゃったり思わなかったりする。

 いや、した。完璧パーペキパーフェクトにしちゃったと思う。

 羞恥より保身の方を優先させたのだ。

 いやはや、《漆黒の戦神》なんてのは人々の理想にしか過ぎないってことだ。

 イヤ、別に自分で自分を否定するわけではないが、俺は一度たりとも自分を漆黒の戦神などと思ったことがない

 ………さっきはノリで言ったけど。




 うわぁ、格好悪いなぁ。

 最低なほどに格好悪いなぁ、俺。



「……落ち着きましたか?」



 よっぽど教育がいいのだろう、6歳くらいに見えるのに見事な敬語で尋ねてくる少女。



「ん。あー、大丈夫。多分」



 多分と名目打ってみたものの、完全に落ち着いてくれたようだ。

 さっきの恐怖心は何処やらかに。

 全く……案外単純な神経を俺はしているのかもしれない。元々は只の臆病者だったくせに復讐の為だの何だの自己暗示掛けるだけでテロリストになるような野郎だ。最低か俺。

 それに比べて、目の前にいる少女はあまりにも純粋である。話してみるとよくわかる。



 何でも彼女は元々孤児だったそうで、シスターバレルに拾われてからは日夜立派なシスターになる為に頑張っているそうな。

 素晴らしく御涙頂戴な泣ける話である。


 いや、別に泣きはしないが。


 幼少のときに拾われたので生まれた惑星も、親の名前すらも覚えていないがそんな事は気にしないという所がポイント高い。

 色々と見習うべきところが多い少女だ。



「へぇ……辛くないの?」

「いえ。皆さんは優しくして下さるので」



 そりゃあなぁ。こんなに純粋で可愛い子を苛めようとする輩はいないであろう。

 仮にいた場合は速攻でリンチ確定であろうが。だけど、気になることも在る。




「でもさ、あの婆さんは中々にキレてる性格だぜ?」

「キレてる性格?………そのような方はおられませんよ」

「いや、俺が言っているのは此処の最高責任者で……」

「……最高責任者はシスターバレルですよ?」


 え、と……。


「そりゃ最高責任者は一人しかいないだろうね」

「シスターバレルはとても優しいお方です」

「…………」

「私は……あのような方になりたいです」



 ・・・・・・・・二重人格か、あの婆ぁ?それとも俺がただ単に嫌われてるだけ?

 それよりも憧憬の眼差して語らないで欲しい。
 んなバァサン一人いれば世界は飽和する。

 亜流が一人増えたら世界は崩壊するぞ。



「………?どうされました」

「君は君のままでいるのが一番だと思うよ」



 そうなのですか?と不思議そうに言う彼女に念を押しながら気になった事を尋ねてみる。

 て、言うかこれは普通最初に済ませるべきの事のような気がする。




「そういえばさ、君の名前って何て言うの?」
「はい……ヴァニラ=H(アッシュ)です」

 今日より貴方の世話をするように言われてきました、と彼女は付け加えて言った。













 それから二週間程度が経過した。




 病院生活。飽きてくるとどうしようもないと言うものだが、飽きなければそこそこにイケる。

 平均して三日に一回はレミータさんや整備班の皆がお見舞いに来てくれたりする所為もあるのだろうけど………………
一体あの人たちは惑星間の距離をどのようにして移動してきているのやら、たまに気になることがある。


「…………まさか、見舞いのたびにクロノ・ドライブ(ワープ)してんじゃねぇだろうな」


 次回のお見舞い辺りではっきりさせておかなければならないだろう。


 それと、シャープシューター。

 何故か存在を忘れていたのだが、二週間ほど前に起きた不可解な出来事のおかげで不意に記憶に蘇った。

 白き月のほうに連絡を取ってみたところ、すでに保護(回収)されたという事らしく奇跡的にお咎めはなかった。


 …………が、何故トランスバールにいたのかが分からない。

 コミュニケを通して本人にもたずねたのだが、そっちの方も全く持って記憶無しというところだ。

 全く持って不可解な事である。



「ま、いっか。あと一週間ちょいしかない入院を楽しむとしますか」



 ヴァニラの不器用ながらも献身的な看護はされてる側の俺も何か手伝いたくなるほどだし。

 一日一回は訪れてくるシスターバレルとの茶飲み話というのも中々にウンチクだか含蓄だかが篭もって
いて聞き応えがある。フクベ提督もそういやこんな感じだったかな、と回想付き。


 それで、今日も今日とて日課になってきた茶飲み話をしているところだ。




「……で、あんたは人殺しについてどう思う?」




 ………内容はえらく血生臭いが。




「どうも思いませんよ、ただ悪い事だなって感じですかね」

「嘘付けや。アンタ、知らない他人の為には怒れないだろうに」

「そんな事在りませんって。戦争の話題が出るたびに心を痛めてます」

「嘘吐き」

「本当ですって」

「嘘吐き」

「本当ですって」

「でも、本当は嘘なんだろうに」

「嘘なんですけどね」



 ホラ、やっぱりと言い、口だけで笑うバレル婆さん。

 それはまるで予想していたような予測していたような口ぶり。

 いや、違うな。確信していたのかもしれない。



「そういう貴女は一体どうなんです?」


 言ってから気付く。そういやこの婆さんシスターだった。

 何がどうあれ殺人などというもの自体許せるはずが無いだろうに。


「………普通、修道女に聞くかね、んな事」

「あ……すんません」



「と、言いたい所だがね。アタシもあんたと一緒さ。
 別に見知らぬ隣人に愛を説いたりもしなければ救う必要性も何処にも無い。
 んなもんは、個人の人生さ。勝手に一括りにゃしないよ」

「………うわぉ」


 最低かこの婆さん。


「何か言いたいことがあるっぽいねぇ」

「いえいえ。別に本当にこの婆さん修道女なのかよとか、こんな修道院は駄目だとか、
 はっきり言って生臭じゃねぇのかよとかは全く思ってませんのでどうぞご気にせず」

「………………ストレートは時に罪だよ」



 ん〜、ひょっとして回答を誤っちゃったぽい。ヤバ。どしよかな。

 やっぱもうちょとばかし遠回しな表現をすればよかったかな、と反省。



「………まぁいい」

「ですよね」

「後でゆっくりと話せばいいからね、とりあえずは次の質問だ」

「うぇ………」









「さて、次の質問だ。
 あんた、人を殺したことはあるかい?」



 一瞬、冗談抜きに視界が暗転した。

 ヲイヲイ、この方一体何をほざいちゃってマスカ?

 何だ?君とぼくの壊れた世界ってか!?






「こら、何固まってんだい。で、正直どうなんだい?」

「………因みに俺の年齢は十二歳ですよ」

「人殺しに年齢なんざ関係ない。
 事実、アタシは十の時に親を殺したさ」

「……マジっすか?」

「他人に語らせて自分が語らないのはアンフェアだからね」

「貴女からアンフェアって言葉が出てくるとは」

「いいから、はよ言え。どうせアタシしかここにゃ居ないんだからさ」


 言わなくちゃならないっぽい。

 ッてか、別に言わなくてもいいような気がするのだが…………

 プライバシーとプライベートは大切に。似たようなインスピレーションだけど意味は違う。




「ま、冥土の土産に一つ聞かせてくれよ。実はあたし、明日までの命なんだよ」

「………判りましたよ。ッたく、殺しても死になそうな癖して」

「……で、何人だい?」


 既に殺っちゃってるのは確定で話を進めてマスカ?

 もう、いいや。別に手頃な嘘程度にしか思えないだろ。

 ………特に俺の場合。




「四桁はとっくに超えてますよ。五桁はどうか忘れましたが」

「ほう!なんともワイルドな意見だ」

「……冗談ですよ」

「まぁ、そういうことにしといたるよ」




 そこで一回ふん、と笑うバレル婆さん。

 ただし顔がいやな感じにニヤついてる。ヤバイ、この人マジで信じてるかも。

 当然の事ながら他人の心中など俺に解りようはずが無い。




「…………アンタなら大丈夫そうだねぇ」

「────何がですか?」



「戦争だなんてイカレタ物が起きてもあんたは生き残れるさ」

「────話がずいぶんと飛躍しているっぽいんですけど」












「別に飛躍なんざしてないさ。
 これから数年の後、皇族が一人エオニアが反乱を起こす。
 それは一度鎮圧されるが、更なる年月を掛けて勢力を拡大させる。
 ・・・・・ソレこそ、トランスバール全土が制圧されるレベルで、だ。
 皇族は全て殺される。そして残ったのはシヴァという一人の子供。
 そして、支配権を掛けて、戦いが始まる。
 ソレを護るは……………」


 静かに淡々と話すバレル婆さん。

 その中身は何処かのファンタジー。ちょっぴり御伽噺より規模の大きいファンタジー。

 ただし、年代が特定しやすい未来のファンタジー。


「………って、何の話ですか!?」

「ん?ただの未来を話してるだけだよ」






「未来予知だなんて特殊能力持ってねぇでしょが」

「ああ、当然さ。
 これはただのお話にしか過ぎやしねぇんだからねぇ」

「なら、喋らないでくださいよ」


 変な婆さんがそんな事言うと信じちまうじゃねぇかよ。

 正直、半分信じかけた。


「ああ、悪かったね」


 そう言いながらバレル婆さんは俺に向かって、手を伸ばし…………




「ッ!?って、カハッ!!」




 いきなりアイアンクローが俺の顔を襲う。


「何すんだこの婆さんひょっとして実は悪の秘密結社の幹部だったりしやがって手始めに俺を洗脳しちゃったりするのか」とかマジで思いつつも何故か解こうとする気が起きない。

 ひょっとしちゃって洗脳って奴ですか?



「今のアンタには………か。しばらくの記憶消させてもらうよ
 さっきまでの話はとりあえず意見を聞いときたかっただけさ。覚えてなくていいんだよ」

 は?今目の前にいる老婆は何を仰いましたか?消す?記憶を?嘘だろ?

「ちょッ、何してんですか!?
 冗談にしちゃタチ悪すぎですってば!!
 アンタいつからマインドアサシンなったんですか!?ピアスしてねぇ!!」

「あたしが使うのはナノマシンさ。記憶は直せないけど弄る事なら出来る。
 いわゆる『岸部露伴に初めて合った時の広瀬康一』って奴だね。ほらほら、ヘブンズドアー。
 ああ、あん時は他にも一人雑魚いキャラがいたっけか。
 まあ名前覚えてないからいいけどさ………」

「よくねぇ!!絶対的によくねぇ!!
 あいついなかったらエコーズ発現しなかったじゃねぇかよ!!
 ッて、アンタ何の為にこんな事してんだ!?」











「シャトヤーンの嬢からの頼まれ事さ」

「…………ッな!? そうか、そう言う事かよ………」



 どうして俺が記憶を失っているのか判った。

 俺は怪我なり、見学なりの理由でこの惑星まで来たのだろう。怪我の理由までは流石にわかりかねるが。

 ……で、診察かそれに近いものを受ける事になって…………



「アンタがしくんだことだったのかよ。俺の記憶が無いのは………。
 記憶障害なんかじゃなくて、作為的にアンタが……シャトヤーン様もグルかよ!!」

「おうおう、怖いねぇ。
 だけどね、アンタのその台詞。
 もう《六回目》なんだよ。
 ま、これがラストになるんだけどさ。」

「六回目!?いやッ、それよりもラストって事は、殺すのか!?」


 ………逃げれる可能性は0に等しい。

 それこそIFSで使っているようなナノマシンの速度はエステの動き以上だ。当然の事だが。

 俺が幾ら足掻いてもがいて逆らって目の前の老婆を■した所で相打ちが精々だ。

 結局、俺はこの老婆に殺されて人生を終えるのか?


「まさか、シャトヤーンの嬢はアンタに価値を見出してる。
 それもとんでもないほどにね。
 アンタはね、ゲームのバッドエンドをグッドエンド、トゥルーエンドに修正できるんだよ。
 だろう、経験者?」



 少なくとも生き延びれる事が確定した。しかし、今の言葉は引っかかる。

 経験者という言葉を使ったからには俺の過去を知っているという事になる。ならば、それは何処までだ!?

 いや、シャトヤーン様と接点が在るって時点でそんな推測無駄だ。全部知ってるに決まってる。

 しかし、そうなると解んないのは………



「それなら、何でンな事を!?」



「あんたは嬢の描いたシナリオよか進みすぎたんだよ。
 いずれは会えんのにもう会っちまった。
 いや、遭っちまったか。発音上かわんねぇけど。



 ミルフィーユ・桜葉にヴァニラ・H。  後者は兎も角、前者はどうしようもねぇほど関わっちまう、だから記憶を消すんだよ。
 ああ、一応烏丸ちとせも加えておくかね。そこまで行くかどうか判らないけど」

 ミルフィーユ・桜葉?烏丸ちとせ?誰だよ、それ?遭ったことなんざ一度も………
 いや、過去に一度遭っているのだろう。で、それが問題となるから俺は記憶を消されて、多分その子も………


「さて、そろそろ戯言もそこまでだ、ホラ!!」


 最後に見えた光景は、緑色に染まった世界と。

 只只、悲しみに暮れるシスターバレルの顔だった。


「………悪ぃね」


 だったら、最初からすんじゃねぇよ。









「           」
「           」



「           」
「           」



「           」
「           」



「           」
「           」





「オラ、幾ら退屈だからって寝んじゃねぇよ。
 老人の話し相手も重要だぞ、そこわかってるか?」

「……んん?」


 また、いつの間にか眠っていたらしい。

 最近よくある現象だ。

 どうやら老人の話というものは得てして睡眠を促す効果があるらしい。校長然り。


 まぁ、俺らのときは校長の話し途中に全員で偽貧血でぶっ倒れてビビらせた経験があるけど。

 それ以来、全校集会無くなったからなぁ(遠い眼)

 いい思い出である。


「俺、いつから眠ってましたか?」

「んなもんアタシに訊く事かい」

「他に貴方しかいませんもん」

「自分で考えい」


 尤もな意見である。だが、しかし。



「………最近こういうの多いんすけど、何かの病気ですかね?」

「ああ、やっぱり脳が後遺症冒してんだ」

「『やっぱり』って何ッ!?」

「諦める事だね」




 そう言って背中を向けて去っていくバレル婆さん。

 直す気0ですかあの人。

 うん、あれは確実に悪魔だ。


「………っと?」


 よく寝たはずなのだが、再び睡眠が押してくる。それと共にまた何か思い出せそうな気がしてくる。

 だけど、何となく2週間前の悪夢が蘇りそうなので断念しておこう。

 君子、危うきに近寄らずって言うし。


 今日はもう、寝ることにしておいた。

 ヴァニラには悪いが、晩飯を食うような気分ではない、眠らせていただく。

 明日の朝、しっかり摂るとしよう。

 何か、考えも今一つ上手くまとまらないし。

 あともう一歩のような気がしてならない。それが何かは判らないのだが、秘密が解き明かされるというか何と言うか。

 俺にとって重要な何かが繋がるような感覚。

 まぁ、いいか………………


「今日見つからない物は……明日見つかる……ってか」




















 朝起きたら(生憎昼起きる趣味は持ち合わせていない)病院内が慌ただしかった。

 自分だけその流行の波に乗り遅れるのは癪だったので、手ごろなスタッフの人に聞いてみた。

 すると、その答えは笑ってしまうほど単純なものだった。



 シスターバレルが亡くなった。

 ────ただ、それだけの事だった。



 スタッフ総動員で駆けつけているみたいだ。どうやら、朝食にはありつけそうに無さそうである。

 残念な事に今日の日替わりメニューは俺の好物だったのだ。味気が無い病院食での数少ない楽しみ
だったというのに。……退院してからたらふく食べればいいのだが、それでも惜しい。


「…………マジでかよ」




 自分でも、これはバレルさんが亡くなった事に対してか朝食にありつけないことのどっちに言ったのか判らなかった。





 ただ、まだもう少し眠ろうかと思った。

 夢かもしれないし。





眼が覚めたらきっと………………







きっと………何なんだろうな?











『今日見つからないものは明日見つかる』

その言葉は間違っているのだ。

なぜなら、時刻軸を越えた時点で明日は今日となってしまう。

そして、同じ言葉を繰り返す事になる。

つまり、今日見つからなかった物は、永遠に……………










続く

後書きのようなもの




 ………あう。段々と駄作が更なる駄作へと向かい始めてきました………
 やはり、次回辺りから軍学校入学にしておいて、本編にもってかなければいけませんね。
 もちろん、軍学校は1話完結で(汗


 自己嫌悪のために、ここまでにしておきます。
 あ、そうです。今回、天使が舞う銀河にての補完として番外編を創りましたので、良ければお目汚しにならない程度にご覧になって下さい。

 ちなみに、とある方の影響をもろに受けました(汗
 文体も何もかも本編と違うからなぁ・・・・三人称ですし。

 

 

代理人の感想

読むの疲れた(爆)。