機動戦艦ナデシコ

The Triple Impact


第十六話 空白を埋めるために



ノアの会長室。

その部屋の本来の主であるはずのノア会長は、三ヶ月ほど前に遠い星へと旅立ってしまった。

そのため、今はその男の第二秘書の女性がたった一人で仕事を切り盛りしている。

「ううう、辛いです、キツイです、寂しいですぅ〜〜…」

苦しげな言葉を吐きながら仕事をこなしている彼女の名は、アイハラ リン。

一年と少し前、ネルガルとの『賭け』が決まった直後にノア会長が採用した女性だ。

公的な場に出る場合、さすがに第一秘書である十歳にも満たない少女を出すわけにもいかないので第二秘書を募集した結果、集まった二十六人の人間の中から厳正なる審査の結果選び出された、有能な人材である。

仕事はかなりできる方で、ルックスも中々。少々おっちょこちょいなのが玉にキズの二十一歳。さそり座のO型で、特技は紅茶を煎れること。

…実は、この『紅茶を煎れるのが上手い』というのが採用の決め手だったりするのだが、それを知っているのは今の所ノア会長の石動 透真だけである。

「クスン、一ヵ月半くらい前に『火星から地球に向かう』って連絡があったのはいいけど、それからは待てど暮らせど連絡すら来ないし…」

涙で瞳を潤ませながら、それでも仕事をこなしていくリン。

「会長ぉぉ〜〜、今は一体、太陽系のどの辺ににいるんですかぁぁ〜〜…」

などとリンが涙ながらに嘆いたその時、

ガチャッ

約三ヶ月ぶりに、リン以外の人間の手によって会長室のドアが開かれた。

「? 誰ですかぁ……って、副会長にテンカワさん?」

「…久しぶり。……痛っ」

「アタタ…。いやぁリンさん、ご苦労様です」

開いたドアの前に立っていたのは、ノアの副会長兼開発部長である天宮 海人とSS(ネルガルやクリムゾンに比べるとかなり規模は劣るが)隊長兼テストパイロットであるテンカワ アキトであった。

…であったのだが、二人とも何故か服装・身体共にボロボロで、よくこんな格好で警備の人間が通したもんだな、とリンが感心するやら呆れるやら複雑な感情を抱くほどのボロボロっぷりである。

「…お二人ともどうしたんですか、その格好?」

思わず海人とアキトに尋ねるリン。

「いえ、ちょっと透真のリハビリに付き合わされまして…」

「はい? 会長のリハビリ?」

「ったく、あの野郎…。傷が完治するなりいきなり『リハビリするから付き合え』とか言って強引に戦闘訓練ルームに連れ込みやがって…」

「ただでさえ一対一じゃこっちの勝ち目が薄いってのに『昂気』まで使われちゃ、いくらナイフと銃が使用可能でもお手上げですよ」

「しかも、それを二週間ぶっ通し…」

「僕達は透真みたいに異常な回復力なんて無いですからね。こっちの身がもたないってことで…」

「命からがら、こっそりジャンプで逃げて来たというワケだ」

「は、はぁ…。…それで何の問題も無く最上階まで来れたんですね。納得です」

リンは『木星トカゲ』の正体こそ知らされていないが、一応、彼らがボソンジャンプという手段を使って戦力を送り込んでいること、また透真たち三人がそれを使いこなしていること程度は知らされていた。

「それで、その会長を乗せたダイアンサスは今どの辺にいるんですか?」

「え? …今どの辺にいるか知ってるか、海人?」

「自分の乗ってる艦の現在の位置くらい正確に把握しといてくださいよ、アキト。えーっと、僕達がジャンプした時点でもう地球とは目と鼻の先でしたから…。今頃は大気圏突入して、ナデシコと分かれてドッグ入港って所ですかね」

思い浮かべるようにして、ダイアンサス(とナデシコ)の状況を解説する海人。

「だったら、わざわざジャンプしてまで逃げて来る必要なかったんじゃないですか?」

「…そういうセリフは、一回でも透真の修練に付き合ってから言ってください」

海人がにこやかに微笑みながら、そこはかとなくプレッシャーを漂わせる。

「まあ、いい経験と言えなくもなかったがな。二人がかりでなら、ぶっ通しで二週間が限界ってことが分かっただけでも収穫だ」

「最初の一週間くらいは、明らかに本調子じゃありませんでしたがね」

「……人がほんの少しいい気分に浸っている所に水を差すな」

現時点で自分(と海人)がどの程度透真に通用するのか分析できたことを感慨深げに頷くアキトだったが、直後に海人の言葉を聞いて不機嫌になる。

「とにかく、会長はじきに戻って来るってことですね? やったぁ! これで仕事漬けの日々から開放されるんですね!!」

「戻って来たって、透真が仕事をするとは限りませんが」

「うっ…。…副会長のイジワル…」

ワッと気持ちを盛り上げるリンだったが、海人の一言によって一気に気持ちを盛り下げられた。

「諦めろアイハラ、コイツはこういうヤツなんだよ。いわゆる『ツッコミ役』だな」

「失敬な。『ボケ』だってこなしますよ? どちらかと言うと『ツッコミ』はあなたでしょう、アキト」

「…俺は『傍観』で頼む」

「何ですか、それ? …しかし、確実に『ボケ』なのは…」

「ああ、俺たち三人の中じゃ一番ノリが軽いからな。うってつけだろう」

「…もう大体予想ついてますけど、それって――」

リンがその人物のことについて口にしようとしたその時、

ボオォォォ……

会長室の中央に突如として青い光の塊が発生し、その中から年の頃二十代前半と思われる男性が姿を現した。

「…ん? 何だお前ら、見ないと思ったらこんな所にいたのか」

「おや、『ボケ役』さん。何でまたジャンプなんて使って来たんです?」

「その『ボケ役』ってのは何だ?」

「こっちの話だ、気にするな。…で、ジャンプの理由は?」

現れた男――石動 透真の質問をあっさりと躱し、アキトは透真に質問で返した。

「いやー、無事に地球に着いて入港したのはいいんだけどな。色々な手続きとか軍との話とかあってさ、面倒だからエスケープしてきたってワケだよ」

「…ダイアンサス艦長兼ノア会長なんですから、軍と話しくらいしてくださいよ」

「嫌だね、かったるい」

「お前な…。…? だったら今、そういう手続きは誰がやってるんだ?」

呆れつつ、アキトが透真に尋ねる。

「ルチルだ」

「……九歳の少女に全てを任せるなよ」

「いいじゃねぇか、いい経験にもなるだろうし。…流石に子供が出るわけにもいかんだろうから通信はできんだろうが…、まあ、その他のややこしい手続きはこなしてくれるだろ。ハルカ君でも代理に立てて、『艦長は今、体調が優れないため自室で休んでいます』とでも言って少々強引に納得させてるだろうな」

「…えらく細かい予想ですね。そこまでルチルの行動を正確に予想できる根拠は何です?」

「俺ならそうするからだ」

「あ、そうですか」

こんな感じでこの男と同じ思考パターンの人間が増殖していったら嫌だなぁ、などと思いつつ、海人は当面の質問を切り上げた。

「しっかし、この部屋も久しぶりだな。…お?」

会長室をグルリと見回し、視線が自分のデスクの辺りに差しかかった所で透真は自分の秘書である女性を発見した。

「か……」

「よう、元気だったか? アイハラ」

透真がその女性――リンに呼びかけると、

「会長!! 会長!! くわあぁいちょおうおうぅおぅぅぉうぉぅぅぅ…!!!」

突然滂沱の如く涙を流しながら、透真めがけて猛ダッシュしてきた。

サッ

身の危険を感じた透真は、それを軽く回避する。

ドゲシッ!!

「アグァッ!!」

勢い余って壁に激突するリン。彼女はしばらくその壁の付近で悶絶すると、やがて痛みが引いたのかゆっくりと透真の方を向く。

「ううう〜〜…何で避けるんですかぁ。あ、おでこから血が…」

「人の顔を見るなり泣きながら突進してくるんじゃねえよ、ったく」

「だって寂しかったんですよぅ。来る日も来る日も会長室で一人きりでお仕事なんて、私にはとても耐えられるものでは…」

「あー、ハイハイわかったわかった。わかったから、ウルウルしながら責めるように俺を見るんじゃない」

「ホントにわかってるんですか? 三ヶ月以上もの間、こんな密閉された空間で黙々と仕事に励んでいた私の気持ちが!!」

「わかったって言ってんだろうが」

などと会長と第二秘書が変な漫才をしていると、

ピピッ

「あれ? どこかから通信ですかね?」

「みたいだな。出て――」

『透真ぁっ!!! やっぱりここにいたわね!!!』

いきなり第一秘書が絶叫しながら会長室に通信を入れてきた。

「なんだ、ルチルか。手続きやら何やらは終わったか?」

透真はルチルの絶叫にも大して怯んだりせず、雑務完了の確認をする。

『ええ、終わったわよ…。こんな子供がウインドウ通信で代表者代理って名乗るわけにもいかないから、ミナトさんを代理に立ててね…!』

そして雑務完了の報告をするルチル。彼女の声が怒気を多大に孕んでいることと額に青筋が浮かんでいることを除けば、企業内や軍部内でよく見かける光景ではある。

「それは何より。んじゃ、さっさと帰って来い」

『言われなくてもそうするわよ!! ったく、人にさんざん心配かけたと思ったら今度は迷惑をかけるって、どういう神経してんのよアンタは!!? 親の顔が見てみたいわね!!!』

「そりゃ無理ってもんだぞ。母親は俺を生んですぐ、父親は物心つく前に死んじまったからなぁ。写真も残ってないし」

『この…!! …今から超特急以上のスピードでそっちに行くから待ってなさい!! いいわね!! その部屋を動くんじゃないわよ!!』

「御到着をお待ちしておりまーす」

ブツンッ

以上で、会長とその第一秘書の通信は終わった。

「う〜ん、雑務を押し付けた程度であそこまで怒るとは…。まだまだガキだな、アイツも」

「会長…、ルチルちゃんだってまだ九歳なんですからガキも何も…」

リンが呆れて透真に口を出す。

「これくらいでいいんだよ。何でか分からんが、マシンチャイルドってのは子供扱いすると怒り出すからな。…さて、それじゃルチルが来るまで会長らしいことをやっておくか。アイハラ、早速だが俺がいない間のノアの動きと、各企業の動向を報告してくれ」

「…かしこまりました、会長。まず、ここ三ヶ月あまりのノアですが、ディモルフォセカの水中戦フレームはすでに実戦テストの段階に入りました。後は会長の承認さえいただければ、いつでもそのように軍に働きかけることが可能です」

顔つきを真面目なものに変える透真とリン。アキトは『公私の区別がえらくハッキリしてるなぁ』と、そんな二人の様子を見ながら思った。

「ほう、僕抜きでそこまで行くとは。せいぜい今は実験段階くらいかと思ってましたよ」

意外そうな声で海人が言う。

「副会長が残した設計図がありましたから。…それと、クリムゾンと明日香から送られてきた産業スパイも、ある程度摘発できました。後でそのリストを渡しておきます」

「フム、ネルガルの人間はいないんだな?」

「はい。ネルガルの人間だと目星を付けていた者もいたのですが、会長が火星に向かう直前に、自主的に辞表を提出してきました」

「んー、アカツキの奴、約束は守ったわけか。感心感心」

「約束? 何ですか、それ?」

リンが訊く。ネルガルとの取引はリンの関与する所ではないため、イマイチよく分からないのだ。

「俺が火星に行ってる間は、ノアには一切手を出さないって事にしてたのさ。こっちも同く、ネルガルへのハッキングその他一切の手出しはしないって事になっててな」

「はあ…。まあ、報告する事はこのくらいですかね。ヨソも別に大きな動きはしてませんし」

「では、これからの事を考えていくか。取りあえず一ヵ月半は潰せたわけだから、残りは約半年と少し。さて、どうやって時間を潰すか…」

「…何で半年なんですか?」

「『誤差』は、なるべく少なくしたいんでね。…っと、お前に言っても分からんか」

この発言を理解できるのはこの場にいる海人とアキト、そして現在猛スピードで向かっているであろうノア所属の三人のマシンチャイルド、そして付け加えるならホシノ ルリだけである。

リンは透真がこのような自分の理解できない発言をした場合、基本的に聞かなかったことにしている。自分が手を出せない領域の話であることが、何となく理解できるからだ。

「時間を潰す手段…と言いますか、やることだったら山ほどありますよ。ダイアンサスの修理、三機のサレナの再設計および組み立て、ネルガルとの話し合い、ダイアンサスクルーの今後の身の振り方、…あと通常業務もありますね」

「…最後の通常業務ってのは、いらないんじゃないのか?」

嫌そうな顔をしつつ、リンを見る透真。

「いります」

感情は込められていないが、力強くキッパリとそう告げるリン。これまで透真がやるはずだった通常業務に苦しめられたため、譲れない物があるのだろう。

「へいへい、わかりましたよ。…さぁて、取りあえずは…」

透真が考え込――もうとしたら、

『ア、アイハラさん! 何だかよく分からない十歳前後くらいの少女が、警備の人間を次々ぶっ飛ばしながら会長室へ向かって行きます!!』

警備の方から悲痛な叫び声を乗せた通信が届いた。ちなみにサウンドオンリーである。

「……君、新人?」

『へ? は、はい、二ヶ月前からこちらに勤めておりますが……って、誰ですか、あなた?』

「あ〜、そうだな。アイハラ リンの直属の上司とでも名乗っておこうか。…どうでもいいが、そのショートカットのガキの顔と名前くらい覚えておいて損は無いぞ。ノアにはあと二人ほど子供がいるが……まあ、その辺はおいおい覚えていけばいいか」

『あの、どういう意味で…』

「おお、そうだった。ま、そのガキは放っといてOKだ。俺が直接鍛えたヤツだからな、下手に手を出すと骨の二、三本は折れる危険があるし」

『あ、あの…』

「それじゃ、縁があったらまた会おう。新人の警備君」

ピッ

通信を切る。

「フゥ…。取りあえずは、ルチルの相手をしなきゃならんか…」

「自業自得って言いませんか、それ?」

心の底から呆れた様子で海人が言う。

「暇潰しにはなるさ」

「…どうせだったら、仕事で潰してください」

不機嫌そうな声で透真に釘を刺すリンだったが、

「それは言いっこ無しってことで…」

ぬかに釘で終わったようだ。

「さてさて、どうやって面白おかしくからかうかね?」

「…面白おかしくなくていいです」










一週間後。

「よお、アカツキ」

「やあ、石動君。火星の土産は無いのかい?」

「例えあっても、お前にくれてやる義理は無いな」

「そりゃ残念…」

((…何でこんなに軽い挨拶をしてるのかしら、この二人?))

ネルガル本社ビルにて対面する、地球を代表する四つの企業のうち二つの企業の両会長(と、その秘書)。

片や長い歴史と実績を誇るネルガル重工の会長、アカツキ ナガレ。

片や僅か三年ほどで地球トップレベルの企業にまで躍り出た注目度ナンバーワンの企業ノアの会長、石動 透真。

この二人が対面するなど、ハッキリ言って新聞の三面記事どころか号外が出てもいいくらいだ。

…だと言うのに、実にフレンドリーで軽い雰囲気である。

「じゃ、堅苦しい挨拶や回りくどい前置きは抜きにして、早速だが本題に入ろうか。俺とお前が一年前にした、あの賭け…」

「確か、『より大きな成果を上げて地球に戻って来た方が勝者で、敗者の企業を傘下に入れられる』だったっけ?」

「…だったな、確か」

それまで軽かった雰囲気が、一気に緊迫する。このように雰囲気を操作したり、他人が操作した雰囲気に流されないという点で二人は共通していた。

…もっとも、それができないようでは人の上に立つなど到底無理なのだが。

(あうう〜〜、こういう雰囲気って苦手ですぅ〜〜…)

(…何で初めっからこういう雰囲気でやらないのよ、あの二人は?)

困惑するノア会長(第二)秘書と、不機嫌になるネルガル会長秘書。透真とアカツキが操作した雰囲気に流されまくっている。

「それじゃ、お互いの成果のお披露目――するまでも無いよね。火星から持ってきた物と言えば、ネルガルウチの研究データくらいだし…」

「『戦果』の面で言えば、圧倒的にノアこっちなんだが……それだとこっちに分がありすぎるってんで、俺が『戦闘の内容は加味しない』ってことにしたんだよなぁ」

「いや〜、助かったよ。一年前の君に感謝感激だね」

「俺は後悔の嵐だよ…」

内容はともかく、口調はまるで友人同士の会話である。…それでも、この場にいるものしか理解できない何とも言えない緊張感はあったが。

「ネルガルの研究データに関しては、海人が『暇つぶしに見る』程度にはなるってよ」

「…つまり、大して役に立たないってことかい。天宮君が言うなら確かなんだろうけど…。こりゃ、ますます優劣がつけづらくなったねぇ」

「どうしよっか?」

おどけた仕草をする透真。その様子を見たアカツキが不敵に笑い、透真に話しかけた。

「…それについて、僕の方で一つ提案がある」

「ほう?」

「帰って来たのは同着、戦闘内容は参考にならない、おまけに持ってきたデータは役立たず……となると、ここは『引き分け』ってことにしないかい?」

「!!?」

驚くエリナ。どうやら、この提案はアカツキの頭の中だけで考えられたものらしい。

「へぇ、てっきり何が何でも『こっちの勝ちだ』って言い張るかと思ったぞ」

「他の重役連中はどうだか知らないけど、僕はそこまで傲慢じゃないよ。引くべき所は引くさ」

「…で、ノアとネルガルの今後の関係はどうするつもりだ? 敵対するって言うなら相手になってやるが…」

透真がほんの少しだけ闘気を体から出す。相手を怯ませる効果があって、交渉ではこれが意外と有効な手なのだ。

しかし、アカツキは怯んだ様子も無く(内心はどうだか知らないが)話を続ける。

「いやいや、話は最後まで聞くもんだよ、石動君。これからがこの話の重要な所なんだからさ。…でさ、君のノアと僕のネルガル…手を組むことにしないかい?」

「「はあ!!!?」」

思わず叫んでしまう両会長秘書。一方の透真は、平然としたものである。

「合併でもするのか?」

「んー、それでもいいんだけどね。そうしちゃうと派閥とか何とか色々とややこしいことになっちゃうし、何より手続きが面倒だろう? だから、この場合は合併とか吸収とか、資金を出し合って新しい企業を作るとかじゃなくて……『提携』ってことさ」

「…ふーん」

一通り話を聞くと透真はアカツキを十数秒ほど視線で射抜き続け、そして結論を出した。

「…ま、いいだろ。乗ってやるよ、その話」

「そりゃありがたい。それで、ノアとネルガルの提携上の力関係は完全に50:50フィフティ:フィフティってことでいいかな?」

「ああ、異存は無い。じゃあ、これからは持ちつ持たれつでやって行くことになるな」

「…では、提携を祝して乾杯――と言っても、ここには酒もグラスも無いしね。握手で我慢するとしますか」

「乾杯はまたの機会、か」

言いつつ握手するアカツキと透真。手を離すと、透真が再び口を開いた。

「んじゃ、契約書その他は後で作成するとして…。話は変わるが、お前、軍との関係をどうするつもりだ? ナデシコが地球を飛び立つ際に、軍にかなりの被害を与えたそうじゃないか。ちょっとやそっとじゃ納得してくれんだろう?」

「一応は考えてるよ。何せ、こっちには『火星に行って帰って来た艦』っていうカードがあるからね。全面的に協力するってことにすれば、少しは大目に見てくれるさ」

「…イマイチ決め手に欠けるな、それだと」

「大丈夫さ。ネルガルの息のかかった人間だって、軍部には少なくないしね」

笑みを浮かべながら、アカツキはウインクする。

透真は『男のウインクなんぞ見たくない』という思いを胸の奥底に秘めつつ、呆れた様子で話を続ける。

「…大人ってのは汚いねぇ」

「クリムゾンだってやってるよ、こういうこと。ノアはどうなんだい?」

「俺はちゃんと話して分かる人間としか協力してないぞ。金は一切ばら撒いてないのが自慢だ」

「…形は違えど、やってるんじゃないか」

「そうだが……、金で付いた人間は金で離れるぞ、アカツキ」

「それでも強い結び付きであることは間違いないだろう?」

「…お前にはお前のやり方がある、か。その件についてはこれ以上言及するのは止めとこう。じゃ、俺はこの辺で。…行くぞ、アイハラ」

「は、はい!」

席から立ち上がってリンと共に出口のドアへと向かう透真。その途中、振り向いて悪戯っぽく微笑みながら、

「一応、ノアと協力関係にある人間に、ネルガルについて便宜をはかってくれるように言っておくよ」

とアカツキに向かって言った。

「そのことについて借りを作る気は無かったんだけど…。取りあえずよろしくお願いしておこうか」

おどけた様子で協力の申し出を受けるアカツキ。『一本とられた』感じはあるが、『困っている』感じは無い。

そして透真がネルガル会長室を出る直前に、

「……ああ、そうそう、石動君」

「何だ?」

アカツキが透真を呼び止めた。

「後でちょっと個人的なお願いをしたいんだけど、いいかな?」

「できることなら、な」

「んじゃ、そのうちにいつもの店で」

「ああ」

バタン

そして会長室のドアが閉まり、残っているのはアカツキとエリナのみとなった。

アカツキは透真の姿が消えたのを確認すると、大きく息を吐く。

「フゥーーーーッ……。いやぁ、キツイね、彼と面と向かって交渉するのは。寿命が三日くらい縮んだような気がするよ。…あれ、どうしたんだいエリナ君?」

チラッと秘書に目を向けてみると、その秘書は額に五、六本の血管を浮かばせ、さらに顔面を真っ赤にして目を閉じながらブルブルと小刻みに震えていた。よく見てみると、握りこぶしまで作っている。

「おーーい、エリナくーん、聞こえてるー?」

手でメガホンを作り、エリナに自分の言葉がちゃんと届いているかどうか確認する。

「聞こえてるわよ!!!」

いきなりエリナに会長室全体を揺るがすような大声で叫ばれ、アカツキは思わずのけぞり倒れそうになる……が、何とか踏ん張って耐えた。どうやら身体能力は人並み以上らしい。

「よっ…と。あー、ビックリした。いきなりどうしたんだい? そんな剣幕で怒ってたんじゃ、せっかくの綺麗な顔が台無しだよ?」

「私の顔のことなんてどうでもいいの!! それより何、さっきのアレは!!? なんで『ノアと手を結ぶ』なんて選択肢が出てくるのよ!!!?」

エリナの激怒の理由を聞き、アカツキは意外そうな顔をする。

「ああ、そのことかい? 何にも口出しして来なかったから、てっきり君は納得して賛成してくれてるのかと思ったんだけど」

「…呆れて物が言えなかっただけよ!!」

喉を痛めそうな勢いでアカツキに叫び続けるエリナ。

「やれやれ…。あながち的外れな選択でもないと思うけどね? プロス君やゴート君からの報告書は君だって読んだだろう?」

「確かに、ノアの技術力はネルガルをかなり上回ってるようだけど…。だからって、何も対等な条件じゃなくてもいいじゃない! 50:50じゃなくて、7:3とか6:4とか…」

無論、数字の大きい方がネルガルである。

「…あのねえ、それだと逆に2:8くらいでこっちが圧倒的に不利になるよ。なんてったってナデシコはダイアンサスにかなり大きな借りがあるから、石動君はきっとそれを武器に使ってくる。それに――」

「――それに、何よ?」

「石動君と正面きって真剣に話してみれば君もきっと分かると思うけど、あの圧迫感の中でそんな大それたことを言う勇気は僕には無いよ」

「ったく…。そう言えば、その『石動 透真への個人的なお願い』って何なの?」

エリナが思い出したように言う。

「うーん…。年がいも無いワガママ、かな?」

「何よ、それ?」

「いくらエリナ君の頼みでも、こればっかりは言えないね。…さてと」

アカツキは自分のデスクまで移動し、その上にある通信機のスイッチを入れる。

「連合軍総司令に繋いで。…そう、『仲直りしたい』ってさ」










ダイアンサスのオーバーホール自体は地球に戻って来て三週間ほどで終わったため、今はヨコスカのドッグに停泊し、再び飛び立つ時を待っている。

しかし内部施設は稼動を続けており、自動販売機やランドリー、大浴場などは使用可能であった。

「…ネルガルと軍のゴタゴタが治まるまで約一ヶ月ですか。意外と早かったですね」

その使用可能な施設の内の一つ、ダイアンサスの食堂で火星丼――ハヤシライス丼にタコさんウインナーを乗せた物――を頬張りながら透真に言う海人。ちなみにこの食堂には今、ノア創立メンバー+1が揃い踏みしている。

「まあな。軍の連中は物分かりがよくて助かるよ」

こっちは中華丼を食べている透真。

「…何かしましたね?」

海人は透真の言葉の裏に隠された『何か』を察し、それについて尋ねる。…そもそも軍にいる人間が皆『物分かりのいい連中』だったら、自分達の苦労の一割か二割くらいは軽減されるはずである。

「いや? 俺は・・ちゃんと話し合ってノアに協力してくれるように約束した人間に『ネルガルにも酌量の余地はあると思うので…』みたいなメールを送っただけだぞ?」

「そうそう、苦労したのは僕達なんですから」

蕎麦を口に運びながらハーリーが口を出す。

「一体何をやった…って言うか、何をやらされたんだ、お前ら?」

尋ねるアキト。その目の前には、自作の麻婆丼が置いてある。

「簡単に言うと、身辺調査してその結果を本人に報告するってとこね。ある一定のライン以上の地位にいる人間に、スキャンダルはつきものでしょ? あ、透真がメール送った相手にはやってないから安心して」

どことなく疲れた様子で、定食の漬物を箸でつまみながら言うルチル。言い終わると、それを口内へと放り込んでポリポリと咀嚼する。

「…なるほどな」

「素敵な仕事ですねぇ」

「会長ぉ、この子達にそういう仕事をさせるのはちょっと…」

困ったような顔をして透真を軽く非難するリン。彼女はナポリタンを食している。

「…けど、けっこうおもしろかった」

アキト作のラーメンのスープをレンゲを使ってすすりつつ、ラピスが呟く。

「そうよね。他人の秘密を覗き見するのって案外楽しいわ。…中でも面白かったのがね、四人くらい愛人がいる男がいたんだけど、その愛人の一人が妊娠したとかで危うく裁判沙汰になりかけたってのがあったの。それで、その愛人とは何とか直談判でかなりの額の慰謝料やら、その後の生活保障やらの面倒を見るってことで収まったんだけど、今度は別の愛人が妊娠しちゃったっていう話。いやー、これは笑ったわ」

「タイプは違うけど、おもしろい話なら僕もあるよ。その人自体は別にまとも…よりかはちょっとアレだけど、その人の息子がそりゃもう救いようが無いほどの馬鹿でね。傷害だの器物破損だの麻薬取締法違反だの銃刀法違反だの殺人だの…。

…そうそう、一つわかんないのがあったんですけど、『婦女暴行』ってなんですか?」

ブッ!

中華丼を食べ終わり、リンが煎れてくれた食後の紅茶を飲んでいた透真が慌てて紅茶を噴き出す。

「…知らんのか?」

アキトが何とも言えない微妙な顔をしてハーリーに聞く。

「ええ。文面からすると『女の人に乱暴した』ってことなんでしょうけど、それだと傷害で一くくりにできるような気がしますし…」

「女性は特別扱いされてるってことじゃないの? 昔は男の方が特別扱いされてたみたいだけど、今は女の方に時代が動いてるって意味よ、きっと」

ルチルがえらく検討外れな意見を出す。

「…やっぱガキだな、こいつら」

「六歳と九歳だからな」

「…少し安心したよ。アイハラ、紅茶おかわり」

「はい、会長」


「…そうなのかな? 海人さん、実際の所はどうなんです?」

何で僕に聞くんですか…。………あ〜、そうですね。あなた達が二十歳くらいになったら、もう分かってるでしょう、きっと」

「教えてくれないんですか?」

「……人から教わることだけが全てじゃありませんよ、ハーリー」

「はぁ…。あ、そうそう、ラピスは何かおもしろいことしてた人っていたの?」

釈然としないものを感じつつ、ハーリーはラピスに聞く。

「…女装趣味とか、元暴走族の総長だったとか。どっちも真面目で通ってた人だった。画像も残ってたから記録しといたけど、見る?」

「見たい見たい! あ、そう言えば無理心中未遂ってのもあったわね」

「家庭内暴力とかもあったよ」

「…何で無理心中を知ってて婦女暴行を知らないんだろうな」

「って言うか、女装や暴走族の画像を記録する六歳の少女って…」

「うーーむ、ラピスの情操教育をミナトさんが買って出てくれたんだが…。頼んでみようかな?」

「私もそれがいいと思いますよ」

「このまま順調にあの子たちが成長したら、どんな大人になるんですかねぇ」

「言うな、海人。想像したら恐い」


「あ、あのー…。食器お下げしてもいいですか?」

大人達がヒソヒソ声で会話していると、後ろからホウメイガールズの一人であるテラサキ サユリに声をかけられた。

トレイを持っているので、どうやら食器を下げに来たようなのだが、子供達が物凄い会話をしていたので今まで声をかけようにもかけられなかったらしい。

「……僕は構いませんが」

「俺も」

「ちょっと待て、すぐに食い終わる。……よし、終わったぞ」

「私はまだ…」

「…私もまだ」

「それじゃ、持って行ってください」

「佃煮がまだ残ってるから、五分後に来て」

「はい。よっ…と」

合計で四人分の食器を一度にトレイに乗せ、サユリは多少フラつきつつキッチンへと向かって行った。

そして、海人はそんなサユリの様子をジーーッと見つめる。

「何だ海人、ああいうのが好みだったのか?」

今まで海人のそういう仕草を見たことが無かったため、興味津々で透真が聞いた。

「いえ、そういうわけではないんですが…。どうも、サユリさんの声を聞いてると妙な気分になるんですよ。懐かしいようで、そうでないような…」

「何ですか、それ?」

海人にしてはあやふやな表現であったため、ハーリーが訝る。

「う〜〜〜〜ん、デジャヴってやつですかね?」

「デジャヴってのは一時的な記憶の混乱によるものらしいわよ」

佃煮を一つ一つ丁寧に箸でつまみながらルチルが言う。

「記憶……ですか。ここ三年の間にサユリさんに会っているなら覚えていると思いますし、それ以前に会っている可能性はゼロだと断言できますし……」

「声を聞くと妙な気分になるんだったら、声が誰かと似てるんじゃないのか?」

アキトが頬杖をつきながら口を出した。

「声…ですか。う〜〜ん」

(地球ではないでしょう…。火星…でもないですね。だとすると木連…? …もしかして、僕が記憶を無くす前のことですかね?)

考え込む海人。そんな彼の様子を尻目に、会話は進んで行く。

「記憶って言えば………。それにしても、何の話題からこの話になったんだっけ?」

「…さあ」

ラピスがポツリと呟いた。










二週間後、ノア会長室。

「…かくして少年少女の働きにより、ネルガルは事なきを得たのでした。…ってわけですか」

しみじみと呆れながら海人が言う。その手には十数枚ほどの書類があった。

「ま、間違ってはいないな」

悪びれた様子も無く、気楽そうな透真。

「でも、いいんですか? あれって…」

「脅迫だな」

「脅迫ですね」

リンが言いかけて思わず口をつぐんだセリフを、透真と海人が二人揃って付け加える。

ちなみに、マシンチャイルド達とアキトは外出中である。

「会長も副会長も、サラッとそういうこと言わないでくださいよぉ…」

打ちひしがれた様子のリン。どうやら罪悪感に苛まれているようである。

「別に気にすることはねぇだろ。脅迫されても文句が言えないことやってた――いや、現在進行形もあったな」

「そんなもんですかねぇ…」

「お前は何事も気にしすぎなんだよ、アイハラ。もっと気楽に行け」

「はあ……」

(気楽すぎるのもどうかと思うんだけどなぁ…)

彼女の苦しみは続く。そんなリンのことはさておいて、透真と海人は話を続けた。

「で、たしか『報告したいことがある』とか言ってたな。何についての報告だ?」

「火星で遭遇した彼ら――マシンナリーチルドレンについて、です」

「……ほう」

海人の言葉に、一転して目つきを鋭いものへと変える透真。

「と言っても、さすがに正体や目的などは分かりませんが…。取りあえず判明したことだけでも、と思いまして」

「…随分と勿体振った言い方だな。直した方がいいぞ」

「以後、気を付けます。では、早速――」

ガチャッ

「説明しましょう!!」

海人が本格的に内容に触れ始めた途端、突然会長室のドアが開かれ、そこからイネス フレサンジュが嬉しそうに姿を現した。

…どうやら、登場のタイミングを計っていたらしい。

「…何で先生が説明するんだよ?」

「私も海人君と一緒に研究してたからよ。では、本題に入ろうかしら。今回マシンナリーチルドレンについて分かったことは、彼らの乗っていた機体――シルフィウムとか言ったかしら、それを構成している物質についてよ」

「彼らはマシンセルと呼んでいましたね」

コンビで説明を開始するイネスと海人。

「で、そのマシンセルについてなんだけど、私たちで勝手に『自律型自己修復金属細胞』って正式名称を付けさせてもらったから」

「長ったらしい名前だな」

「通称マシンセル、でいいですよ。言いにくいですし。で、マシンセルの性質についてですが…」

「正式名称の通り、損傷したら元の形を維持しようと自力で増殖して再生してしまう能力があるの」

「…要するに、デビルガ「違います」

話を聞いていたリンが口を挟もうとするが、海人に却下されてしまった。

「…話を戻すわね。でも、ここで一つの疑問が生まれる。海人君やアキト君がそれぞれの相手のシルフィウムを半壊状態にしたけど、それならその本体から離れた残骸が再生して、別の新しい機体が生まれてもおかしくはないでしょう?」

「ですが、回収した残骸は再生せず、微弱な電流を流すことによって僅かに反応しただけでした」

「以上のことから、一つの仮説が成り立つの。つまり、シルフィウムの本体には再生をつかさどる中枢みたいなものがあって、それから切り離すか、あるいはその中枢自体を破壊すればシルフィウムは完全に破壊できるってこと」

「へぇ…。で、その中枢ってどこにあるんだ?」

透真が感心しつつ、質問する。

「多分、胴体のどこかです。僕が吹き飛ばしたのは下半身でしたし、アキトも虎牙連弾の一発目で左腕を破壊しましたから」

「アバウトだな…」

「何も分からないよりはいいでしょう? …それと、一番重要なことなんですが…」

「そのマシンセルに類似したものが二つあるの。それが…」

「…A級ジャンパーのナノマシンと、マシンチャイルドに使われているナノマシンなんです」

「何?」

「つまり、火星に腐るほどあるナノマシンが、マシンチャイルドのナノマシンをベースに『遺跡』か何かの作用でマシンセルに変化――進化と言うべきですかね? した可能性が高いってわけです」

「しかもそのマシンセル……多分、うまくすれば生物を作ることも可能でしょうね」

「もちろん、雛型となるDNAは必要だと思いますが」

「つまり、あれか? あのマシンナリーチルドレンは…」

「雛型はおそらく『マスター』と呼ばれている人物でしょう。そして、おそらく『マスター』はどこかからマシンチャイルドのナノマシンを手に入れ――」

「マシンセルを作り出し、さらにそれを使ってマシンナリーチルドレンやシルフィウムを作った」

「ま、あくまで仮説の段階ですがね」

二人の仮説から導き出される結論を出しかける透真だったが、その結論部分を海人とイネスに横取りされてしまった。

透真はそんな二人にムカつきつつも、自分の考えを述べてみる。

「…個人的に気になることが二つある」

「何です?」

「まず、奴らは俺達のことをイレギュラーと言っていた…。つまり、『予定された存在ではない』と言うことだろう。だったら、その『予定』とは何だ?」

「それは…」

海人は『おそらく三年前、火星で見た『テンカワ アキトの記録』のことだろう』と言おうとするが、この場にはイネスとリンがいるため言いよどむ振りをする。

「次に、その『予定』についてのデータをどこから、どうやって入手したんだ?」

「………」

『遺跡』だろう、と視線で伝える。そのくらい、少し考えれば分かりそうなものだが。

「…それが分かれば苦労しないわよ」

「だよなぁ、やっぱり…」

イネスに言われて、どことなく気が抜けたようになる透真。

(ああ、なるほど…。僕達が知っていることと彼らの言動を照らし合わせれば『遺跡』からその『予定』についての情報を入手したことは容易に想像がつきますが、今の所それは僕達六人の間だけのトップシークレットですし…。あえて分からない振りをした、ということですか)

海人が納得したような顔をする。その様子を透真が見て、話題を切り替えた。

「…さて、我々が火星を発って早三ヶ月。これから何をするべきかね?」

「連合軍のアズマ准将って人から、『いい加減にダイアンサスを戦場に出せ』って用件の連絡が引っ切り無しに届いてますけど?」

透真が考え込もうとした矢先に、リンが口を挟む。それを聞いた透真は露骨に嫌そうな顔をして、

「あずまぁ? ……気が乗らんな」

「あれ? その准将さんと知り合いなんですか?」

「…俺は『あずま』って名前に、あまりいい思い出が無いんだ」

口に手を当ててイラつき始める透真。どうやら何かを思い出したらしい。

「そんな理由で出し渋りしないでくださいよぉ…」

「分かってるよ。…そうだな、『一ヶ月後に出す』と返信してくれ」

「かしこまりました」

「…何で一ヶ月なの?」

イネスが聞く。ダイアンサスの整備も、サレナの改良型の組み立ても終わった。ならば今すぐ出しても問題は無いはずである。

「その間に色々とやるべきことがあるからだよ。差し当たって…」

パァン!

透真が自分の右拳を左の掌にぶつける。

「鍛える」

その顔は、どことなく嬉しそうでもあった。










ダイアンサス内、シミュレーションルーム。

「…誰だ、お前?」

リョーコが、自分達の前に現れたキザったらしい男に質問する。

「僕はアカツキ ナガレ。現在建造中のナデシコ二番艦、コスモスに乗るはずだった男さ」

キラーン、と歯を光らせるアカツキ。

「だったら、何でダイアンサスにいるの?」

「僕はそこにいるダイアンサス艦長でありノア会長でもある石動 透真君とは友人の間柄でね。ちょっとお願いして乗せてもらったんだよ」

アカツキはヒカルの問いに正直に答える。…少なくとも、嘘は含まれていない。

「ネルガルの戦艦に乗るはずだったってことは、お前ってネルガルのテストパイロットか何かなのか?」

「…ま、そんな所だね。ネルガル所属ってのは間違い無いよ」

「ふーん…」

何となく納得するリョーコ。そう言えばノアとネルガルが提携したとかいうニュースをやっていたので、その影響か。などと彼女は考えていた。

…一般に嘘と言うものは一から十まで全てが嘘で構成されているとバレ易いが、その中に何割か本当のことを混ぜるとかなりバレにくくなるものなのである。

「んじゃ、自己紹介か。オレはスバル リョーコ、よろしく」

「私はアマノ ヒカル。よろしくぅ!」

「…マキ イズミ」

ポロロ〜〜ン……

何処かからウクレレを取り出し、いきなり弾き語りを始めようとするイズミ。

ガッ!

「うおりゃあっ!!」

ヒューーーン……  カラーン…

――だったが、リョーコに問答無用でウクレレを奪われ、シミュレーションルームの隅の方に投げ飛ばされてしまった。

「…コイツのことは、あんま気にすんな」

「あ、ああ、分かったよ…」

額に汗を一筋ほどかきつつ、イズミがどういう人間か取りあえず理解するアカツキ。

「えーと、次は…」

「フッ…。真打は最後に登場するもの…。そして、最後に登場する真打とはヒーロー!! この場合のヒーローとはこの俺のこと!! そう、人呼んでダイアンサスのヒーローこと燃える正義の味方!! その名も――」

「ヤマダ ジロウだ。…ちなみに、ヒーローとか呼んでるヤツなんて誰もいないから、誤解するなよ」

徐々にテンションを上げながら自己紹介していくヤマダの台詞を問答無用で中断させ、『これまでのハイテンションは一体何だったんだ』とでも言うようなローテンションで透真はヤマダの紹介をした。

「違ーーう!! 俺の名前はダイゴウジ――」

「分かった分かった。んじゃ、まだるっこしい挨拶はここまでにして、早速訓練を始めるか。みんな、シミュレータに入ってくれ」

「俺の話――うおぉっ!?」

他の面々が続々とシミュレータの中へと入っていく中で一人だけ喚いていたヤマダだったが、透真に首根っこを猫のようにつかまれてシミュレータの中に放り込まれる。

そしてアカツキ以外の全員が中に入ったのを確認すると、自分も移動を開始する。

「なかなかバラエティに富んだメンバーだね」

「まあな。…少なくとも、退屈だけはしないで済むさ」

「確かにね」

アカツキと透真はそんな会話をすると、それぞれ仮想空間の戦場へと向かって行った。





赤、黄、緑、ピンク、そして青紫の機体が、黄金の機体と対峙する。

「ありゃ? 噂のサレナじゃないのかい?」

透真の使用している機体は、ゴールドサレナではなく金色のカスタムディモルフォセカであった。…もっとも、リョーコたちの機体もカスタム機なのであるが。

「フン、たかがお前たちごときにゴールドサレナなんぞ使ったら、あっという間に終わっちまってつまらんだろうが」

「…言ってくれるじゃねぇか。だったら、ゴールドサレナを引っ張り出してやるぜ!」

リョーコが少し不機嫌になる。その赤い機体の手には、フィールドランサーが握られていた。

「その意気や良し。…さて、御託はいいから、さっさと来な」

「よぉし!! 俺にまかせろおぉぉぉ!!!」

ギュン!!

「あ、おい、ヤマダ!」

フィールドランサーを携えたヤマダ機が、一直線に透真機へと進む。

「くらえ! 熱血――」

大きくランサーを振りかぶるヤマダ機。それを見た透真が、

「…自分の実力もわきまえずに独断先行、一直線に突っ込みすぎ……論外」

ゴッ!

ズガアァン!!

がら空きになったヤマダ機の胴体部へフィールドを纏わせた拳を叩きこみ、ヤマダ機を沈黙させる。

「ヤマダ! …ええい、ヒカル、イズミ、フォーメーションだ!!」

「「了解!」」

散開して透真機を囲むように陣形を展開するリョーコ達。――しかし、

(…囲まれた場合は、慌てずに一つずつ潰す…)

姉から教わった戦術の知識を使い、透真はまずラピッドライフルとフィールドランサーの二つを持っている黄色の機体に狙いを定めた。

いきなり自分に向かって来たことに面食らったのか、ヒカル機は少し身じろぎする。――まあ、それはいい。とっさの判断力なんてものは、訓練と実戦を積み重ねれば自然と身につく。問題は、

「中距離と近距離…、どっちつかずの中途半端な武装だな。内蔵されているならともかく、装備する武器はなるべく統一しろ。何でもかんでもこなそうとすると、早死にするぞ」

ドガッ!

ヒカル機の後ろに回り、二言三言忠告すると、拳で胸部を貫く。

そしてすぐさま、今度は緑の機体へと急加速する。

「クッ!」

ドン! ドン! ドン!

レールガンを使って黄金の機体を狙うイズミ。しかし、ことごとく外れてしまう。

(悪い腕じゃないが…。海人と比較するとどうしても落ちるな。ま、それはともかく…)

「…お前の場合は、まとまりすぎだ」

回避していく内に、イズミ機と透真機の距離がほぼゼロになる。そして、

ズガン!!

持っているレールガンごと破壊する。こういう一辺倒の相手というのはその攻撃のスペシャリストである(または自分がそうだと思い込んでいる)場合が多いため、やり易いのだ。

…もっとも、スペシャリストであったら距離を詰められた場合のことも考えるだろうし、これが海人だった場合は近づくことすら困難だったろう。

(『極めた』って自信が無い限り、そういうのは止めた方がいいからな…)

とは言え自分は機動兵器戦で、ほとんど拳撃しか使っていないのだが。

(まあ、肉弾戦は俺が唯一、絶対の自信を持つ分野だしな)

それはさておき。

思考を切り替えた透真は、自分を囲んだ三人の最後の一人に向かった。

「……!!」

リョーコの精神に緊張が走り、体が幾分か強張る。

しかし、それも一瞬で終わり、フィールドランサーを正眼に構えた。

「面白ぇ…。オレの力がどこまで通用するか試してやる! いくぜ、艦長!!」

ドシュン!

言いつつ、横に飛ぶリョーコ機。真正面から攻めても通用しないことは、ヤマダがすでに実証してくれていた。

「むっ」

透真機が前進を止める。

そのまま後ろに回りこみ、さらにそのまま前に回りこむリョーコ機。どうやら距離をとると言うわけでもなさそうだ。

(撹乱か? いや、これは…)

リョーコ機は回転しつつ、徐々に距離を詰めてきた。

どうやら螺旋状に周って、どこから攻撃してくるのか分からなくさせる戦法らしい。目の回りそうな戦い方だ。

透真は『ふうっ』と息を吐くと、目を閉じて自分のディモルフォセカに何か拳法の構えのようなものをとらせた。

ギュン! ギュン! ギュン!

そうこうしている内に、赤いディモルフォセカは金のディモルフォセカの間近にまで迫っていた。リョーコ機のフィールドランサーと透真機の腕の両方を目一杯伸ばせば、触れ合いそうな距離だ。

「つあぁっ!!」

ジャキン!

そしてリョーコ機が、透真機から見て右後方から斬りつけようともう一段階ほど速度を上げる。

その刹那、透真は目を見開き、そして、

――ガッ!!

自分を目掛けて向かってきた刃を、右肘にフィールドを集中させて受け止めた。

「うげっ!? マジかよ…!」

「目の付け所は悪くなかったんだがな、そういう戦法はもう少し大人数でやれ」

そして振り向きざまに左の裏拳で、

バキャッ!!

リョーコ機、沈黙。

少々お目にかかれないことをやられたので驚いたのは分かるが、せめて回避する素振りくらいは見せて欲しかった。

(戦場ってのは何が起こるか分からんから、そういう心構えだけはやって欲しいもんだ。…ま、この辺は慣れか。さて、)

「残るはお前一人だけだな」

「…う〜〜ん、勝てる気が全くしないんだけど?」

「勝つ見込みの無い相手と戦うのも、いい経験になるぞ。それに実を言うと、さっきやった手品のせいで右腕の肘から先が動かん」

「そりゃ朗報だ。…んじゃ、頑張ってみますかね」

アカツキ機はラピッドライフルを構え、黄金の機体に攻撃を開始する。





「はあぁぁ〜〜〜〜〜………」

シミュレーションルーム内のモニターを見ていたリンが、盛大な溜息をつく。仕事の合間を縫っての訓練だったため、せっかくだからとルチルとリンも付き合ったのだ。

ちなみに他のパイロット連中がいないのは、シミュレータが完全に終了しないと出ることもできないからである。

「どうしたの、リン?」

溜息を聞いたルチルが、リンに聞いた。

「いや、普段の仕事もあれくらい真剣にやってくれればって…」

『戦闘中の自分の様子を客観的に判断するため』とか言う名目で、シミュレータの内部には小型カメラが存在していた。そして機体が戦闘している大型画面の隣にある十数個の小型画面の内の一つの中では、確かに透真が仕事中にはほとんど見せない真剣な表情をしている。

「仕方ないでしょ、戦闘バカなんだから」

「ううぅ、何だかとっても納得できる理由ですけど…」

せめて戦闘時の十分の一でも真面目にやってくれれば、今頃ノアはネルガルやクリムゾンを退けて地球トップの企業になっていたかもしれない。

「はあぁぁ〜〜〜〜〜………」

また溜息をつく。

「ほらほら、溜息ばっかりついてると幸せが逃げるわよ? 取りあえず画面の中の透真なり、透真の操る機体なりを眺めてなさい」

全く少女らしくない台詞を吐くルチル。その言葉に従って、リンは画面に目をやった。

大画面の中では青紫の機体が銃を乱射し、黄金の機体がそれを華麗に回避している。

『どうした? 全然当たらんぞ、アカツキ』

『…一発くらい当たってあげようという殊勝な考えは無いのかい?』

『あるわけ無いだろ、そんなもん。…それじゃ、こっちの攻撃に移らせてもらうか』

そして、大画面の脇にある小画面に映る透真が眼光を鋭い物に変える。

「あ…」

リンは一瞬、自分の心臓の鼓動が大きくなるのを感じた。

と、思ったのも束の間。

ガシュン!

いきなり透真は使い物にならなくなった自機の右腕をパージし、

ガシッ! ブゥオン!!

それを左手で持ったと思ったら、それをアカツキ機へ思いっきり投げつけた。

『げっ!? おいおい……!!』

教科書に無い戦い方に度肝を抜かれ、思わず機体の動きを止めるアカツキ。

硬直していたのは僅か二、三秒間だけだったが、透真にはそれだけあれば十分だった。

ギュウオオオォォォォン!

素晴らしいスピードで加速する黄金の機体。片腕一本分軽くなっているため、速度が上がったのだろうか。

アカツキが慌てて銃を構え直すが、もう遅い。

そして投げつけた片腕とほぼ同時に、

ドガッガァン!!

『ダブルパンチ――とは、ちょっと違うか』

激突して、終了。

「滅茶苦茶な戦い方するわね…。どう思う、リン――って、リン?」

「はぁ……」

さっきと溜息の質が違う。

(…前々からそういう気配は感じてたけど、これで確定ね…。ったく、厄介なことになってきたわ)

あんな戦闘バカを気にする女性など、そうそう現れないと思っていたのだが。

「結局、こっちもバカってことかしらね。他にもいるのかしら、そんなバカ?」

呟くルチル。隣のリンには聞こえていないだろう。別に聞こえていてもどういう意味かは分からないだろうが。





「っくしゅん! くしゅん!」

「二回は悪口だったな、零夜」

「うん。…誰が言ってるんだろ?」

「なに、『二回は悪口』って?」

「くしゃみの回数によって、噂の種類が分かるんだそうだ。俺は二回の悪口しか覚えてないから、詳しくは零夜に聞け」

「んじゃ後で教えてね、零夜。…さーて、続き続き!」

「フン、凝りないヤツだな。これまで何回俺に気絶させられた?」

「私、このまま順調に行ったら半年以内にアンタを超える自信があるわよ、北斗」

「…いくらお前が『アイツ』だろうと、そう簡単に超えられてたまるか。行くぞ、エス!!」










透真との訓練の翌日、ダイアンサス内のシミュレーションルーム。シミュレータはすでに起動済みだ。

大画面の中では赤、黄、緑、ピンク、青紫の合計五機の機体と、一機の青の機体が対峙している。

「さて、と。ただ戦っても僕の勝利は見えてますし…。あ、そうだ、こうしましょう」

「…何だよ?」

海人の台詞にカチンとくるリョーコ。しかし十中八九そうなるだろうと何となく予想できるので、大して反論はしない。

「僕の攻撃に十秒間ほど耐えてください。それまでエンドレスに続けます」

「はあ? それじゃ、五人揃う必要無えじゃねぇか」

「んー、多分勘違いしているようですから言いますけど、一人づつじゃなくて五人一斉にかかって来て十秒ですよ」

「「「「「………」」」」」

絶句する五人。ちなみに海人の使っている機体はディモルフォセカで、武装はグラビティ・スナイパー・ライフル一丁のみである。

「…一人当たり、二秒以内?」

「単純計算すると、そうなるわね」

「こりゃ、甘く見られたもんだ」

「馬鹿にしやがってぇ…」

「へっ、逆に十秒以内に倒してやるぜ!!」

「「「「いや、それは多分、無理」」」」

ヤマダ以外は、けっこう謙虚なようだ。

「では早速ですが、行きますよ」

ドドドドドオォォン!!!

――結局、今回は延べ二時間四十七分二十八秒ほどかかってようやく終了した。










「……やる事が無いな」

「ネルガルの本社の方で何かゴタゴタしてるみたいだから、仕方ないんじゃないですか?」

「『何もしないでただ生きてるだけ』ってのは、かなり辛いもんがあるんだよ」

「分からないでもないですけど、いくら何でもそこまでは…」

「ったく、それもこれも、とっとと出航しないナデシコが悪い」

「別に戦艦に罪は無いんじゃ…」

妙な会話を繰り広げるナデシコ操舵士カミヤマ タクヤと、同じく通信士メグミ レイナード。ちなみに、ここはナデシコ食堂である。

「艦長や副長は何やってんだろうな?」

「ナデシコの中でゲームやってたり雑務してるみたいですよ」

「プロスさんとゴートさんは?」

「ネルガル本社に戻って、色々お仕事してるって話ですけど」

「フクベの爺さんは?」

「この前、退艦しちゃったじゃないですか」

「そうだっけ。…んじゃ、ルリちゃんは?」

「何か調べ物してるみたいですけど…」

プシュン!

噂をすれば、ルリが食堂に入ってきた。

「ラーメンください」

そしてラーメンをトレイの上に乗せて座る席を探す。

「ルリちゃーん、こっちこっちーー!」

メグミが腕を振って自分の位置を知らせるので、ルリはそこへと向かって歩を進めた。

「タイムリーな登場だな」

「…どうも」

メグミの隣に座るルリ。

「調べ物してるって話だったけど、一体何を調べてたんだ?」

プライバシーの侵害など一ピコグラムも気にせず、ルリに質問するカミヤマ。そんな彼の様子を見てメグミが少しだけ顔をしかめるが、ルリは素直に、

「ネルガルにここ最近、接触してきた人間がいないかどうかを調べてました」

と、答えた。

「な、何故?」

メグミが顔いっぱいに疑問を浮かべて質問する。

「秘密です」

サラッとメグミの追及を躱し、ラーメンをすすり始めるルリ。

(う〜〜む、ここ最近はあの不気味な仕草も無くなってきたから安心してたんだが…)

(謎の多い女の子ね……)

この瞬間、ルリはカミヤマとメグミの中で『不気味な女の子』から『ミステリアスな少女』へとクラスチェンジした(ルリの全くあずかり知らないことではあるが)。

「………」

ズズ〜〜〜ッ

無言でラーメンをすするルリ。

「……あ、そうだ。パイロット連中は何やってんだ?」

何だか気まずい雰囲気になりつつあったので、カミヤマが少々強引に話題を持ち上げる。

「ダイアンサスの艦長が来て、訓練してます」

即座にルリが返答する。

「ふーん、どんな訓練なのかしら?」

疑問を口にするメグミ。それを聞いたルリが、

コクコク… コトッ

「…見ます?」

ラーメンのスープを飲む手を止め、二人に聞いた。

「見るって、どうやって見るんだ?」

「こうやってです。……オモイカネ、シミュレータの映像を出して」

ピッ

『了解』

ルリが言った直後に文字が書かれたウインドウが現れ、すぐに画面が切り替わった。





ウインドウの中では、今まさに激戦が繰り広げられている。

『チィッ! 個人個人でかかっても勝ち目は無いか!!』

舌打ちするトオル。ハヤトがそれを受け、

『んなこたぁ、わかってらあ! 行くぞ、みんな!!』

他の三人に合図を送る。そしてハヤト機が加速し、

グオオォォォォン!

フィールドランサーを剣のように構え、透真機へと向かって行った。

『はあぁっ!!』

ギィンッ!!

フィールドランサーで斬りつけるが、フィールドを纏わせた拳でアッサリとさばかれる。

ヒュウゥン!

そのままの勢いで透真機から離れるハヤト機。

『? もう少し食い下がってくるかと思ったが――』

などと呟いた直後、

『――!!』

バババババ!!

シンヤがラピッドライフルで攻撃してくる。が、

シャッ!!

紙一重で回避――したと思ったら、

『…アレを避けるとはね〜』

いつの間にかすぐ近くまで迫っていたイサオが、左側からフィールドに包まれた拳で殴りかかってきた。

『おっと!』

しかし、透真はそれを予測していたように機体を九十度ほど反転させ、同じく拳をフィールドに包んでイサオ機の拳にぶつける。

ガッ!! ギギギギイイィィィ…

まるで、つばぜり合いのように拳で押し合う透真とイサオ。しかしフィールドの集約は集中力、および精神力が大きく関わってくる。つまり、

『…こっちが不利ってことかい! 嫌になってくるね〜!!』

バッ!!

そうと判断すると、イサオは即座に離脱する。

『ほぉ、かなり判断力は―――!!』

ギュン!

セリフの途中で、その場から高速で移動する。その次の瞬間、

パシュ!

非常に収束率の高い重力兵器による攻撃が、先程まで透真機のいた空間を通り過ぎて行った。

透真がその攻撃の飛んできた先に目をやると、そこにはグラビティ・スナイパー・ライフルを両手で抱えるトオルの機体があった。

『くぅっ…、反動が強すぎる。ここまで扱いづらい武器を軽々と連射できるとは…。ダイアンサスの副長は化物か?』

どうやら、スナイパー・ライフルを使いこなせていないようだ。

『…なかなか見事なチームプレイだったぞ。俺達三人以外の相手だったら、大抵の敵は倒せるだろうな』

エステバリス隊の攻撃を全て躱した透真が、感心したように言う。

『そりゃどうも〜。…でも、何で僕達の攻撃をことごとく避けることができたんだい〜?』

『うん。普通だったら僕の攻撃に当たって、そのままイサオに止めを刺されるハズなんだけど…』

『その二つを連続して躱したばかりか、俺の長距離射撃まで回避するとはな』

『どんなカラクリなんだい、艦長さんよ?』

そんなエステバリス隊の質問に透真は一言、

『勘だ』

とだけ答えた。

『『『『……勘?』』』』

『そうとしか言いようが無い。まあ、こればっかりはいくらシミュレータで訓練しても身につかんだろうからな、あまり気にするな。…さて、第二ラウンド行こうか?』

『意外とスパルタだね〜、艦長さん。さっきの攻撃が通用しなかったんなら、次は何をすればいいんだろうね〜?』

『いいじゃねぇか。今度はその『勘』とやらを上回る攻撃をすればいいんだろ?』

『…簡単に言わないでよ、ハヤト』

『だが、突き詰めて言えばそうなるだろう。…行くぞ』

そして、再び四機と一機が交錯を始める。





「高性能なシミュレータだなー。俺がナデシコの操舵のレクチャー受ける時もシミュレータ使ったけど、やっぱ機動兵器になると規模が違うわ」

ウインドウに映る戦闘の様子を眺めつつ、カミヤマが呟く。

「ロボットの操縦の方がデリケートっぽいですから、より精密になってるんじゃないですか?」

それを聞いたメグミが、自分の考えをカミヤマに語った。

「…戦艦の操舵だって、けっこうデリケートなんだぞ。…でもよ、ダイアンサスの艦長と表面上でも互角に戦えるんなら、あのワケ分からん奴らとだってそれなりに戦えたんじゃねぇのか?」

ちなみにカミヤマの言う『ワケ分からん奴ら』というのは、マシンナリーチルドレンのことである。

「ん〜〜、それは…、装備の違いとか、不意を突かれたからとか、油断があったからとか…」

「…それもあるでしょうが、お二人とも大事な点を見逃していますよ」

「「え?」」

メグミとカミヤマの会話に、これまで傍観者の立場をとっていたルリが割り込む。どうやらラーメンは食べ終わったようだ。

「大事な点って、何だ?」

「ダイアンサスの艦長――石動さんの乗っている機体を見てください」

言われて、シミュレーションエリア内を飛び回る黄金の機体を見る。

「…見たけど」

「別に変わった様子は無いんじゃない?」

「では、マシンナリーチルドレンと戦っていた時は、その機体を使っていましたか?」

「「…あ」」

ルリに指摘されたことで初めてそのことに気付いた。確かに、あの時と今では使っている機体が違う。

「つまり、石動さんなりのハンデということでしょうね」

言い終わり、ラーメンの丼を持って席を立つルリ。そして丼を食器置き場に置くと、食堂を出て行く。

プシュン!

「……何故、ルリちゃんにそれが分かるんだろうな?」

「それなりに色々と経験してるってことじゃないですか?」

「どんな経験だ、そりゃ。…にしても、いい加減ヒマ潰しに食堂に入り浸るのも飽きてきたなぁ」

「ですよねぇ…」

ダレまくる操舵士と通信士。しかし、彼らのこの悩みも今の内だけであることに、彼ら自身気付いていなかった。










木連コロニー、兵器開発研究所。

ボオォォォォ…

青い光が、誰もいない空間に突如として発生する。

そしてその中から現れる黒ずくめの青年――テンカワ アキト。

透真に頼まれて、木連の現在の状況を確認するためにジャンプしてきたのだ。

「…変わらんな、ここは」

正確に言うと変わりようが無い――と言うか、変えるほど資源に余裕が無いのである。

しかし、本当に変わっていない。警備体制の穴すらも。

「昔、海人が『警備はザル同然』とか言っていたが、本当にそうだな」

言いつつ、中に侵入する。

程無く情報室(データベース)に到着した。やはり変わっていない。

「さて…」

ピッ

懐から何か手のひら大の機械を取り出し、それを使って電子制御式のロックを解除する。組み立ては海人、プログラムはラピスの手によるものだ。

プシュン!

入口が開いて、アキトを迎え入れる。そして端末の前に立ち、先程使った機械とは別の機械を端末に繋いだ。これも海人作成、ラピスプログラムだ。

「検索条件、『ジンシリーズ』…。該当項目を全てコピー」

五秒で終わった。これがクリムゾンとかネルガルとか明日香とかだったら、二、三分くらいかかってヒヤヒヤものだったのだが。

「限られた空間だからな。仕方ないと言えばそれまでだが…」

そして、次の目的地へと向かうべくCCを取り出す。

「…山崎研究所」

そして青い光を放ち、その場からかき消える。

――確か、次の検索条件は『空間跳躍』だったはずだ。










「…ひと仕事終えたばかりで疲れてるんだが……、これも仕事の内か」

シミュレータの中で呟くアキト。ついさっき戻って来たばかりのところに、いきなり透真から『俺も海人も手が離せないから、お前がやれ。あ、データのコピーはありがたく貰っとくぞ』とか言われてシミュレーションルームに向かわされたのである。

「さて、透真は普通に戦闘、海人は攻撃を回避することを重視、か」

ならば自分は何かに重点を置くべきだろうか。それとも普通にやるべきか。

「…よし、決めた。お前達が俺に一発でも攻撃を当てることができたら終了だ」

「……ま、そりゃ別にいいんだけどよ」

アキトの提案自体には納得しつつも、どこか納得のいかないものをその声に含めているリョーコ。

「テンカワ君、その機体は何かな?」

どこか引きつった声で、にこやかに質問するアカツキ。

「…ブラックサレナだが、それがどうした」

アキトはサラッと答える。

「艦長も副長もサレナは使ってなかったのに、何故アキト君はサレナなのかな?」

頬に汗を一筋ほど流しつつ、ヒカルがアキトに訊く。『あの二人が普通にディモルフォセカを使ってもほとんど歯が立たなかったのに、サレナでは全く勝ち目が無くなってしまう』とでも考えているのだろう。

「俺の訓練でもあるからな。なるべく実戦に近い方がいいだろう」

「…ということは、つまり…」

艦長と副長はサレナで戦場に出る。つまり、アレは二人にとって『訓練』の内にも入っていなかったのか。

そのイズミの思考は間違っている可能性も大きかったが、その通りである可能性も否定できない。…特に艦長に関しては。

イズミの手に、自然と力が入る。

「へっ、俺達だって艦長や副長との訓練で少しは腕が上がってんだ! 甘く見るなよ!!」

叫ぶヤマダ。確かに少しずつレベルが上がっているのは実感している。が、

「少しくらい腕が上がった程度でどうにかなるとも思えないけど…」

ヒカルが水を差す。

「負ける負けるとばかり思ってちゃ、勝てる相手にも勝てなくなるよ、ヒカル君。…それじゃみんな、張り切って行こうか」

「「「「了解!!」」」」

そしてアカツキの指揮により、五機の機動兵器が漆黒の機体へ攻撃を開始した。

「…そうだな、ただ回避するのも芸が無いし…。そう、俺の訓練でもあるからな、復習の意味も込めて『アレ』をやってみるか」

向かってくるそれぞれの攻撃を眺めながら、アキトは久し振りに『育ての親』から伝授された操縦技術を使ってみることにした。

実を言うと今回のサレナの改良は、これを付加するためでもあった。その操縦技術とは――

「………傀儡舞くぐつまい

――四時間半ほど経過した時点で、アキトは『食堂の手伝いの時間だ』とだけ言い残し、シミュレーションルームを後にしたのであった。










軍の要請から一ヶ月。ダイアンサスとナデシコは共に月攻略戦に参加することとなった。

両艦の周囲には、相転移エンジンを搭載した数多くのリアトリス級戦艦が陣取っている。

相転移エンジンを搭載したと言ってもディストーションフィールドとグラビティブラストが使えるようになっただけなのだが、それでも敵と対等に渡り合えるようになったと言うのはかなり大きな意味を持っていた。

そして、ナデシコのブリッジでは。

「…で、さ。出航したのはいいんだけどよ」

「何で軍と共同戦線なんでしょうね?」

呟くカミヤマとメグミ。ネルガルと軍が和解したため、共同戦線になるのは理解できなくも無い。しかし、彼らの中に釈然としない物があるのも事実だ。

…しかし、彼らが納得いかない最大の理由は、

「そりゃまあ、八千歩くらい譲って軍と協力するのはいいとしてもだ」

「フクベさんの代わりの提督が…」

「「よりによってアレだってことだな(ですね)」」

「ホホホ、さあ、アタシのためにジャンジャン敵を倒すのよ!」

ブリッジ上方のムネタケを眺めつつ、悲嘆にくれる両名。ちなみにルリはムネタケの存在自体を無視しており、淡々と作業をこなしている。

その一方で、

「あの極楽トンボが…! なんでダイアンサスに乗ってんのよ……!!」

(ったく、何で会長秘書が乗ってくるんですかね…。しかし、会長も無茶しますなぁ。おかげで私にとばっちりが来るじゃないですか、もう)

怒りのボルテージがかなり高いレベルでキープされている新任の副操舵士、エリナ キンジョウ ウォン。そしてその怒りの矛先をもっとも向けられやすい立場にいるプロスペクターが心の中で盛大な溜息を吐いていた。

「敵戦艦より、多数の小型兵器の出現を確認」

報告するルリ。それを受けたユリカが、エステバリス隊の発進を指示する。

「エステバリス隊、ただちに発進! …あ、ダイアンサスの方も出て来たね」

どことなく緊張感に欠ける発進指令であった。





「へへっ、艦隊戦だから戦艦はそれほど落とせねぇだろうが、バッタやジョロは根こそぎ落としまくってやる!」

「おっしゃあ! やってやるぜ!!」

気合を入れるリョーコ。普段の訓練で溜まった鬱憤をこの戦闘で晴らすつもりなのだろう。他の面々も口には出していないようだが(約一名を除く)その気持ちは同じらしい。

しかし、そんな彼らの意気込みも艦長の一言によって全く別の方向へと移行することとなるのであった。

『ああ、この戦闘で俺が勝手に設定したノルマをクリアできない場合は、訓練でSpecial Menu(かなり本格的な発音)をやってもらうから、あしからず』

「「「「「す、すぺーしゃるめにゅーって、なに!!!?」」」」」

『さー、みんな、がんばろー! ちなみにノルマがクリアできなかった場合は、俺か海人かアキトが出るからー』

「「「「「すぺーしゃるめにゅーって、なに!!!?」」」」」

ディモルフォセカ隊の叫びを無視して話を続ける透真。そして、各パイロットの目の前にノルマが表示される。

ピッ

「うげっ!?」

「ええ!?」

「…!」

「うおっ!!」

「…おいおい石動君、本気かい?」

『五人全員の合計で、だよ。一人当たりでその数字はいくらなんでもお前達には無理だろうしな』

「『お前達には』ってのが気になるが…。まあ、五人でなら何とか…」

「できそう…かな?」

首をかしげるリョーコとヒカル。一人では到底不可能な数字と時間制限だったが、五人で割るとかなり微妙な数字なのだ。

「いーや、できる!! みんなの力を合わせれば、できるはずだぁ!!」

ヤマダがやる気満々で叫ぶ。どうやら『みんなの力を合わせる』というフレーズが気に入ったらしい。

「……えーい、ウダウダ言ってても始まんねえ!! とにかく行くぞ!!」

かくして、ディモルフォセカ隊は半ばヤケクソ気味に敵陣に向かって攻撃を開始したのであった。





「おうおう、頑張ってるねー。…さて、と」

艦長席からディモルフォセカ隊の様子を見物しつつ、透真はどこかへと通信を繋げる。

「ウリバタケさん、ゴールドサレナの調整は? ………よし。それなら、いつでも出れるようにしといてください」

「…会長、今のって…」

呆れた眼差しで透真を見るリン。…どうしてもダイアンサスに乗ると言ってきかなかったので、今回の戦闘から彼女が乗艦することになったのである。ちなみに、仕事はメールで送られた分をこなすことにした。

「フッ、アイツ等がギリギリでやれるかやれないかのラインを見極め、それにほんの僅か上乗せした。俺の目に狂いが無い限りアイツ等は…」

ニヤリ

「………」

『どうしてこの能力をもっと別の所で生かさないんだろう』と考えながらも、心のどこかで『そのアイディア結構いいかも』とか思っているリンがそこにいた。

…染まってきたのかもしれない。





…月攻略戦はこの戦闘を含めて四ヶ月に渡り四回ほど行われたが、その戦闘が終わる度にダイアンサスのシミュレータルームから数人の男女の苦しむ声が三日三晩聞こえてきたそうである。







あとがき



ラヒミス「第十六話、終了です」

リョーコ「なんか、更新が早くねぇか?」

ラヒミス「……試験期間中って、どうして筆の進みが(筆じゃないけど)速いんでしょうね?」

リョーコ「ハァ…。ったく、次の話はこのツケが回ってきて、更新が遅れるんじゃねぇだろうな?」

ラヒミス「では、今回の反省に行きましょうか」

リョーコ「…サラッと無視すんな」

ラヒミス「新キャラの秘書が登場です」

リョーコ「…この作品、ちょっとオリキャラが多すぎる気がするんだけどよ」

ラヒミス「大丈夫です、予定ではオリキャラはあと二人しか出ませんし、しかもかなり後になる予定です」

リョーコ「ホントか?」

ラヒミス「これは本当ですよ。これはね」

リョーコ「『これは』? …まあいいや。んで、次にネルガルだけど…」

ラヒミス「…ごめんなさい、許してください、アレしか思いつかなかったんです」

リョーコ「平謝りかい…」

ラヒミス「いやー、何故みなさんがナデシコを八ヵ月後に飛ばすのかが身に沁みて理解できましたね。これを読んでいる作家のみなさんは、ちゃんとチューリップを使ってナデシコを火星から飛ばした方がいいですよ」

リョーコ「んなこと勧めてどうすんだ…」

ラヒミス「経験者は語るってヤツです。…しかし、我ながら強引な手段ですねぇ」

リョーコ「何でノアと提携させたんだよ?」

ラヒミス「敵対しても、お互いに百害あって一理無しでしょう? だったら手を組ませちゃえ…ってね」

リョーコ「ホントに強引だな…。んじゃ次、軍との問題の解決手段……これも強引だな」

ラヒミス「少し強引なくらいでいいんですよ。でなくては問題解決などできません」

リョーコ「しっかし、ネルガルって軍にそういうことやってたのか?」

ラヒミス「原作では八ヶ月の間に軍との関係を完全に修復していたようですからね。やってても不思議ではないでしょう」

リョーコ「そうだけどよ…。ダメ押しの手段が…」

ラヒミス「はっはっは、子供って残酷ですから」

リョーコ「『はっはっは』で済ますんじゃねぇ」

ラヒミス「ま、この話題はこの辺で。…そうそう、この話にはちょっとした――いや、けっこう大きいかな? とにかく悪戯があります」

リョーコ「…分かるヤツには分かりやすすぎる悪戯だけどな。いや、分かんなくても分かるんじゃねぇのか?」

ラヒミス「声優ネタは一回やってみたかったんですよ」

リョーコ「ナデシコって、声優の使い回しが多かったからなぁ…」

ラヒミス「フフフ、あの部分を読んだ人が『おいおい』と呟く光景が目に浮かぶようです」

リョーコ「でも、もうやれねぇだろ?」

ラヒミス「いえいえ、やる予定はありますよ、近い内に」

リョーコ「はあ?」

ラヒミス「ヒントは、『海人絡みでもう一つ』。…この時点でどのキャラが出てくるのか予測できた人は、かなりのナデシコファンであると言えるでしょう。…そして、その予測はおそらく当たっていますよ。クックック…」

リョーコ「……ま、いいや。次は…マシンセルか」

ラヒミス「これはうまくまとめた自信があります。オリジナルの要素も加味できましたし」

リョーコ「っつーか、これってもうほとんどオリジナルなんじゃ…」

ラヒミス「そうとも言いますけど、ベースは『外伝』ですからね。…あーもう、『第二次α』にマシンナリーチルドレン出ないんでしょうかね? …出ないんでしょうね…」

リョーコ「お前がス○ロボ好きなのは分かったから、次行くぞ」

ラヒミス「おや、つれない…。おお、そうだ。アズマ准将ですが、彼は名前だけで終わる可能性が非常に高いです」

リョーコ「ひ、ひでぇ…」

ラヒミス「さすがに、もう彼を入れる隙間はありませんからね。では次は訓練です」

リョーコ「…圧倒的だな」

ラヒミス「仕方ないでしょう、この時点ではまだ実力差がありすぎます。だからこその訓練でもあるんですけどね」

リョーコ「…でもよ、何でテンカワが傀儡舞を使えるんだよ?」

ラヒミス「育ての親が北辰ですからね。…でも、ブラックサレナって傀儡舞に対抗するために作られたはずなのに、アキトがその傀儡舞を使って戦うっていうのも、皮肉が効いてていいと思いませんか?」

リョーコ「…この悪趣味野郎…」

ラヒミス「どういたしまして。…それでは、次回のゲストはイネス フレサンジュです」

リョーコ「説明が長くなりそうだな」

ラヒミス「それでこその彼女でしょう? まあ、読み飛ばされないように努力はしますよ」

リョーコ「…ま、頑張ってくれや」





代理人の個人的な感想

どうして、こうも主人公は偉そうなんでしょう?

どうして有能という域を越えて、万能で無敵で全知で無謬なんでしょう?




ついでに突っ込んでおくと、この時期に傀儡舞が存在しているのが疑問です。

あれは夜天光や六連等、大戦中には木連に存在しなかった小型人型兵器と

それに装備されている可動式ノズルと言う特殊な機構があって初めて成立する技術であって、

いくら北辰でも生身やジンタイプでは傀儡舞はできまいと思うのですが如何。

読者として無茶をやるなとは言いませんが、それを納得させてくれる展開は欲しいですね。