機動戦艦ナデシコ

The Triple Impact


第十七話 二つの海 Aパート



「で、月攻略戦が無事にこちらの勝利で終わって喜んでるところ悪いけど……命令よ」

高圧的な態度で言い放つムネタケ。しかし、それにユリカが口を挟んだ。

「提督!」

「なぁに?」

ムネタケが面倒臭そうに答える。

「ネルガルが軍と協定を結んだとは言え、命令如何によっては拒否権が我々には認められています!」

「ま、一応はね」

(イザとなったら、そっちの拒否権よりも軍の命令権の方が優先されるとは思うけど…)

ほくそ笑みながらユリカの話を聞くムネタケ。しかし、軍にはネルガルの拒否権を無視する事ができない理由があることを、彼は知らない。

「本艦クルーの総意に反する命令に対しては、このミスマル ユリカが艦長として拒否いたしますので、ご了解ください!」

ユリカがキッパリと言う。そんな彼女に、他のブリッジクルーは感心したような眼差しを彼女に向けた。

「ああいう事もできたんだな、ウチの艦長」

「あの程度の事を言えないようでは艦長なんて務まりませんよ」

「あれ? ルリちゃん、艦長の経験でもあるの?」

「…いえ」

「戦うだけの手駒にはならないってことね…」

「………」

小さく頷くユリカ。そして数瞬の間ムネタケと睨み合うと、ムネタケが口を開いた。

「お生憎さま、あなた達への命令は戦う事じゃないわ」

「へ?」

てっきり“どこかのチューリップを潰しに行け”とでも言われると思っていたユリカは、思わず間抜けな声を上げる。

「敵の目をかいくぐって救出作戦を成功させる事よ」

「「救出作戦?」」

扇子を広げつつ言うムネタケに、ジュンとゴートが声を揃えて聞き返した。

「木星からの攻撃は無くとも、尊い命を守るというナデシコの使命は……ま、果たさなきゃダメよねぇ」

言っているセリフは立派だが、口調が嫌味ったらしいために全く立派に聞こえない。

ピッ ピピッ ピピピッ ピッ ピピピピッ

ブリッジの床に世界地図が表示され、その上に無数の赤い点が次々と現れる。

「このように、現在二六三七個ものチューリップが地球上にあるのよねぇ」

確かに、世界地図が妙な伝染病にでも感染したのかと思うほど赤い点は多かった。

「…で、北極海域、ウチャツラワトツスク島」

ピッ ピッ

ムネタケの言葉と共に、地図のその部分が拡大される。…オモイカネも律儀な性格だ。

「ここに取り残された某国の親善大使を救出するのが、アタシ達の使命」

「しつも〜ん」

ユリカが挙手して質問する。

「なぁに?」

「何でこんな所に取り残されたんですか?」

もっともな質問だ。ユリカの隣にいるジュンも頷いている。

「大使は好奇心旺盛な方でねぇ〜。北極海の気象データ・余剰もろもろを調査していたならば、バッタに襲われ、さあ大変」

「はあ」

「ウチャツラワトツスク島付近の海域は、今の時期ほとんど毎日ブリザードに襲われてねぇ。通り過ぎるだけでも大変な所なのよ」

「…だったら取り残されたのが分かった時点で救出すれば、ブリザードを心配する必要も無かったんじゃねぇの? 大使が来た時はブリザードも吹いてなかったんだろ?」

ムネタケの説明を聞いたカミヤマがボソッと呟く。

「うっさいわね! それができてれば救出に行く必要なんて無いでしょ!!」

「そりゃ、そうか」

その呟きを聞いたムネタケがえらい剣幕で反論し、カミヤマはやる気が無さそうに納得した。

「…何はともあれ! この作戦を成功させられるのはナデシコしか無いの!!」

「ダイアンサスがいるじゃん」

再びカミヤマが呟く。

「キィーーーッ!! ダイアンサスの扱いは軍でも困ってるの!! それに、ダイアンサスは別件で作戦行動中よ!!!」

頭に血が上って、思わず言わなくていい事まで喋ってしまったムネタケ。

「扱いに困る、か…。強すぎるってのも考えもんだな」

「“そこそこ強い”って辺りで丁度いいんでしょうけどね」

「その“そこそこ強い”のがナデシコ、と言うことですか」

ブリッジ下段三人組が雑談する。

「黙らっしゃい!! いいこと、艦長!? 絶対にこの作戦は成功させるのよ!!」

「は、はい! やりましょう!!」

そして、ナデシコはウチャツラワトツスク島に向かうことになったのであった。





ピッ

正面ウインドウに、気圧配置の書き込まれた地図が表示される。

「間もなくベーリング海に入ります。ブリザードのため視界ゼロ」

「…逆に見れば、敵にとっても最悪と言う事だ。必ずしも悪くはない」

ルリの報告を受け、ゴートが言う。

「視認に切り替えても、それほど障害になる岩礁も無い。中央から突破できそうですね」

「…エンジン出力最小!」

ジュンのセリフを聞き、ユリカが指示する。

「あいよ。…それにしても、ダイアンサスに指示された作戦ってどんなんだろうな?」

ただ操舵するのもつまらないので、カミヤマが話題を提供する。

「やっぱり、激戦区に投入とかじゃないですか?」

いち早くそれに反応したのはメグミだった。

「『チューリップを十個くらい纏めて潰して来い』とかか? ゾッとしねーな」

「それでもアッサリこなしそうですけどね、あの人達なら」

「言えてるな」

チューリップを次々と片付ける三機のサレナとダイアンサス。簡単にその光景を想像できるのが凄い。

「いえ、激戦区ではないみたいです」

と思ったら、ルリが会話に参戦してきた。

「ん? 何で知ってるんだ、ルリちゃん」

「オモイカネがダッシュ――ダイアンサスに搭載されてるコンピュータの一つですけど――に聞いたそうです。それによると、ダイアンサスは南の島のテニシアン島という所に行った、とか」

「「南の島にぃ?」」

「はい、南の島に」

ルリの言葉を聞き、カミヤマとメグミが『おいおい、何だそりゃ』と言う声を上げる。

「こっちは、こんなブリザードが吹き荒れる北極海にいるってのに…」

「あっちは、太陽がさんさんと照りつける青い海にいるんですね…」

ハァ〜〜〜……

溜息をつく操舵士と通信士。

「いいよなぁ、青い海、白い砂浜…。向こうの方には可愛い女の子とか沢山いるみたいだしなぁ、ナンパでもしたいぜ、チクショウ」

「カミヤマさん、ナンパとかするんですか?」

「当然。ま、アレだ。海とかスキー場ってのはそういうロマンスを求めて来るヤツがかなりいるからな。そういう環境のせいで開放的になってるってのもあるし、男の場合も女の場合もけっこう成功しやすいんだよ」

「へぇ…」

感心するように呟くメグミ。

「あれ? 普通こういう時は、可愛く嫉妬して拗ねるってのがセオリーなんじゃねぇの?」

「…何で私が嫉妬しなくちゃいけないんですか」

「分かってないなぁ、ちょっと嫉妬しやすいくらいが可愛いんだよ」

「そんなの分かりたくないですよ…」

メグミが呆れたように言う。そしてルリは一言、

「……馬鹿」

とだけ呟いた。

一方ブリッジ上段では、カミヤマの話を聞いていたユリカが何やら考え込んでいた。

「…いや、でも、まさか……」

などとやっていると、

「艦長、ミスマル艦長! 何をボケッとしてるの? 普通に航行してるときはいいけど、作戦行動中はダメじゃない! …まったく、そんな風にいい加減だから、テンカワ君に相手にされないのよ!」

ガアアァァァァ〜〜〜ン!!!

エリナに横から叱責され、その言葉(特に後半部分)に打ちのめされる。…一応“相手にされていない”という実感はあったらしい。

「…エリナさんって、副操舵士なのに何でいきなり偉そうなんですか?」

「いえ、何せネルガルの会長秘書だった人ですからねぇ。
それに、その会長がとんでもない行動に出たのにも原因が…

「え?」

「…いや、何でもありません」

その裏でジュンとプロスが小声でボソボソと話していたが、

「皆さんも、それぞれの部署に戻って!」

「「はぁ〜〜い」」

これもエリナの鶴の一声で終了させられる。

「いいわね艦長! ピシッとしなさい、ピシッと!!」

「はぁ…」

全然ピシッとする気配が無い。

しかしユリカがそんな精神状態のままでしばらく放心している事などお構い無く、ナデシコは北極海を進むのであった。





それから暫くして。

ルリは、すでに一人になった時の癖となりつつあるアキトの探索に取りかかっていた。

別に周りに人がいても何の作業をしているのか判断できないであろうから問題ないような気がするが、“念には念を”と言う言葉もある。

万一、ネルガルのホストコンピュータにハッキングしている事がバレでもしたら、一大事どころかこれからの一生をどこか暗くて狭くて寒い所で過ごさなくてはならないかもしれない。

……一応、後ろにユリカがいるが、ユリカにコンピュータの知識はあるまい。他のみんなは昼食をとりに行ったのに、何故ユリカだけブリッジに残っているのだろうか。

(ま、どうでもいいですけどね)

目に付くもの全てのことをいちいち気にしていられる程、彼女は余裕があるわけではない。

そういうわけで、ルリはネルガルに接触してきた人物がいないかどうかのチェックを始めるのだった。

(それにしても、アカツキさんがダイアンサスに乗るとは少し驚きましたね…。“何かと問題の多い一番艦の監視”は秘書に任せて、自分は“自社のシェアを脅かしかねないライバル企業の監視”ですか。しかも石動さんはアカツキさんの正体を知ってるみたいですし……。大企業の会長同士、意気投合したんでしょうかね?)

そんな事を考えつつチェックを進めるルリ。五分もすると、洗いざらいチェックし終わってしまった。

(……いません、か……。私と同じ“この世界”に来ている――あるいはこれから来るという確信はあるんですが…。人類が滅んだ後くらいの未来とか、人類が“人類”として成り立つ前くらいの過去にジャンプアウトしてる可能性もあるんですよね…。しかし、私が“この時間”にいる以上、かなり近い位置に出ているはずです。

……? 位置? ひょっとすると、出た時間が同じでも出た場所が宇宙の果てだったりする可能性も……。

…って、ここで諦めてどうするんですか。“時間”も“場所”も近いハズです、きっと。…私は絶対に諦めませんよ、アキトさん)

気を入れなおし、ルリはアキトを見つける意思を固める。

……意思を固めたら、今度は空腹感が湧いてきた。

(それじゃ、私も食事に行きましょうか)

「前方、障害物オールクリア。これよりオートパイロットに切り替えます。…オモイカネ、後はよろしく」

小さな障害物を避けて進むくらいなら、調査のついでに片手間でできる。さすがにカミヤマやミナトほどのテクニックは無いが簡単な操艦くらいならルリでもできるのだ。これから先は大して障害物も無いので、オモイカネに任せて大丈夫だろう。

『OK。…それにしても、体があるってのは結構いいものだね』

黒い長髪の――男なのか女なのかよく分からない中性的な顔立ちをしているが、おそらく――少年がウインドウの中で微笑む。

「ホログラフでコンピュータの体を作るのは初めてでしたが、うまく行ったようですね。気に入りましたか?」

『ああ。形から入ると言うのも“人間”を知る一つの手段だと思うからね』

(………? どうも“人間”にこだわりますね、オモイカネ。まあ、今の所は問題もありませんから別に構いませんが…)

「では頼みましたよ、オモイカネ」

『ああ。それじゃ、また』

艦の制御を取りあえずオモイカネに任せ、ルリは昼食を取るべく席を立つ。

そして出口へと向かう途中で、なにやら悩んでいる様子のユリカを発見した。

「う〜〜ん、う〜〜〜ん……」

けっこう真剣なようだが、何を考えているのだろうか。

「艦長、艦長!」

放っておくのも何なので、声をかけてみる。

「え? …あれ、ルリちゃん?」

どうやらルリの接近に気付かなかったらしい。

「みんな、お昼を食べに行っちゃいましたよ。艦長はどうします?」

「…ううん、いいよ。ルリちゃんも行ってきなよ」

声のトーンが低い。…しかし、ここでルリが相談に乗った所でユリカの抱えている問題が解決するとも思えないので、

「はい、では行ってきます」

プシュン!

そう言ってブリッジから出て行くルリ。アッサリした性格である。

「はぁ……」

一人ため息をつくユリカ。そして誰もいなくなったブリッジで、彼女がとった行動は――

――想像の翼を全開にすることだった。

(……ナンパが成功しやすいって事は、まさかアキトも…。ハッ、そうだ、アキトがナンパされるってケースも……!)

胸の内に、黒々とした疑念が浮かび上がってくる。

そう言えば、本格的にダイアンサスと別行動を取るのはこれが初めての様な気もする。つまり、自分の目が完璧に届かない所にアキトが行ってしまうのも初めてだ(アキトに再会する以前は十年以上もそうだったのだが)。

(もしかして……そんな)

ナデシコと同じく、ダイアンサスにも女性クルーは多いと聞く。その中からアキトのことを気にする女性が一人や二人や三人や四人や五人くらい出てきても、おかしくないのではないか。その女性クルーが他のクルーの目を盗んでこっそりアキトを呼び出しているのでは。そしてそのまま仲良く寄り添い、海岸でも眺めているのかも。あるいは誰もいない艦内で二人きりになって……。

もはや想像と言うよりも、妄想である。

(ダメよ……、アキトはそんなことする人じゃない……、そんなことない)

気のせいだと思い込もうとしたが、一度火のついた妄想と言う名の導火線は、なかなか消えてくれなかった。ユリカは両手で頭をガッとつかみ、しきりに上下に動かし始める。

(アキトに限ってそんなこと……。でも、エリナさんの言う通り、再会してから私に冷たい気がするし……。そう言えば、私のことを忘れてたって……)

ユリカの妄想は果てしなく続いた。彼女の頭の中では場面は夜となり、アキトと女性クルー(ユリカの妄想の産物)は楽しそうに星を眺めていた。手を繋ぎ、肩を寄せ合っている。アキトの口が甘い言葉をささやき、女性クルーが恥ずかしげにうつむく。やがて彼女は顔を上げ、二人はじっと見つめあった。

(ダメよ、アキト! そんなことしちゃ!!)

ピッ

『艦長』

見かねたオモイカネがユリカの前にウインドウを出して姿を現す。しかし、効果が無い。

(抱き締めないで! やめて!!)

『艦長』

ウインドウを大きくし、ついでに音量を大きくしても駄目らしい。…それにしても一人の人間の顔が大画面に映ると言うのは、なかなかキツい物がある。

(女性クルーさんもなに目を閉じてるの!? アキトも近づかないで!! あ、あ、そんな……)

ユリカは頭を両手で抱え、激しくシェイクし始める。…奇怪なダンスにも見えなくはないが、この瞬間、彼女の妄想は暴走へとランクアップした。

『艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長艦長』

質より量と言う事で、自分の顔が表示されたウインドウを無数に飛ばし、それら一つ一つに同じセリフを連呼させる。しかし、結局は効果が無いようだ。

そんな感じでオモイカネが四苦八苦していると、

(いやあぁぁ〜〜〜〜!!! ダメ〜〜〜〜〜!!!!)

ピッ

『あ゛』

トランス状態のユリカの肘が勢い余って艦長席のあるボタンに当たってしまった。

…話は変わるが、グラビティブラストを発射させる方法は大きく分けて二つある。

一つ目はオペレータがオモイカネに指示して発射させる方法。

二つ目は艦長席に備え付けられている発射ボタンを使う方法だ。

この二つ目の手段は少々厄介で、コンピュータを通して発射させる一つ目の方法よりも優先順位が高く、オモイカネと言えども手が出せないと言う代物なのである。

しかしこの二つ目の手段はオペレータが不在の時のための非常手段のようなものであり、オペレータがいればキャンセルすることもできる。複雑なシステムなのだ。

だが現在オペレータたるルリは不在なので、

ドゴオオォォォォォンン!!

かくしてグラビティブラストは発射されたのであった。





「ホント、信じられません! 何も敵をわざわざ呼び寄せなくてもいいじゃないですか!」

怒るエリナ。無理もあるまい。

あの後、ブリッジ内はもとよりナデシコ中がてんやわんやの大騒ぎとなり、ほうほうの体で無人兵器の追撃から逃れ、現在は氷山の下に隠れている。

「だって、アキトが……」

「はあ?」

何だかよく分からないが、とにかく下らない理由らしい。…と、そこへ、

「責任を問われるのならば持ち場を離れた私の責任です。プログラム管理は私の職分です。こめんなさい」

『申し訳ない』

ルリとオモイカネが揃って頭を下げる。オモイカネもかなり無理をすれば止められたかもしれないので、責任を感じているようだ。

…謝るコンピュータと言うのも珍しいものである。

「…さて、この先は敵に察知された西側を通るのは諦め、東の群島部を低空飛行で通って行かなければならないわけだが…」

渋い顔をしつつゴートが解説する。

「低空飛行時におけるナデシコの座礁の確率は72%…。厳しい数字ですね」

何となく疲れた感じのジュン。

「んで、結局は操舵士の俺が苦労するワケね」

「頑張ってくださいね」

「めんどくせぇなぁ……」

メグミに励まされはするが、それでもやる気の無さそうなカミヤマ。ある意味、最も重要な役割である。

「ナデシコは十分後に発進。エステバリス隊は警戒態勢でスタンバイ。以上だ」

そしてゴートの号令により、ナデシコクルー達はそれぞれの持ち場へと散って行った。





バシュバシュバシュッ!!

水中用の小型無人兵器――通称ゲンゴロウの群れが、無数のミサイルを発射する。

「ったく! 今回はシンヤが親善大使を救出して終わりの楽な作戦のハズだったのによ!!」

それを回避しつつ、エステバリスのアサルトピット内でハヤトがぼやく。

「あはは〜、ま〜いいじゃないか〜。何もしないって言うのも退屈なもんだよ〜」

「それに、こういう局地戦は体験しようと思って体験できるものでもないだろうからな。何事も経験だ」

ドガァッ!

ドゥン! ドゥン!

イサオは拳で、トオルはレールガンを使って――グラビティ・スナイパー・ライフルは実戦で使用できるほど使いこなせていないようだ――上空から迫り来るバッタを駆逐する。

「プラス思考だな、お前ら…」

ザン!!

そんなポジティブシンキングをしつつ戦闘する二人を見て呆れながらも、ハヤトはフィールドランサーでバッタを切り裂いた。

「僕としては、ジャンケンで負けた僕だけが仕事をすることにならなくて良かったけど」

バババババ!

シンヤはラピッドライフルで水の中から顔を出したゲンゴロウを狙っている。

「そりゃ、お前はな。…にしても、こういう場合は親善大使の救出を優先させた方がいいんじゃねぇのか?」

シンヤの台詞に感想を言いつつ、ハヤトは大使の救出を提案した。

「確かにな。ナデシコの護衛だったら、三機でも何とかなりそうだし…」

「問題は、誰が大使の所へ行くかだね〜」

「またジャンケンする?」

「この状況でできるワケねぇだろ」

こういう作戦会議は普通、戦闘の前にやるべきなのだが。

「フム…。A案:誰かが一人で先行して大使を救出。B案:このまま木星トカゲを全滅させ、戦闘終了後にゆっくり救出。C案:この場から撤退し、後日に救出。…と言った所だな」

ドゥン!!

トオルがレールガンを撃ちつつ、現在自分が考えられるプランを話す。

「C案はまず却下として…。実質、A案とB案の二者択一か」

ガスッ!!

フィールドランサーで水面に浮かんできたゲンゴロウを串刺しにするハヤト機。

「A案の場合は迅速に救出できるだろうが、単機で突出するためエネルギーが持つかどうか微妙な所だな。逆にB案はナデシコと一緒に移動することになるだろうからエネルギーの心配は無いが、大使の身の安全が心配だ」

それぞれのプランの利点と欠点を語るトオル。

「大使の事を考えるんだったら、A案で行くしかないんじゃないの?」

「それでエネルギー切れになった結果、先行した人が死んじゃって大使が救出できなかったら意味が無いよ〜」

「でも、敵を片付けてる間に大使が死んじゃったら、それこそ意味が無いじゃないか」

チュドドオォォン!!

ズガガガァァァン!!

無人兵器群を掃討しつつ水掛け論をするシンヤとイサオ。このまま議論をしていても結論は出ないと感じたのか、イサオは他のパイロットに意見を求めることにした。

「…どっちも一長一短ってことだね〜。…ハヤト、どうする〜? どっちかを選ばなくちゃいけないんだけど〜…」

ズガァッ!!

「んなこた、わかってらぁ! だからこうやって悩んでるんじゃねぇか! ったく、どっちを選んでもリスクが――って、あれ?」

向かって来たバッタを切り裂き、取りあえず結論が出るまでは無人兵器を相手にしていようと考えていたトオルは次なる獲物を求めて辺りを見回すが、

「…いつの間にやら木星トカゲが全滅しているな」

バッタもゲンゴロウも、ただの一機も見当たらない。

「はからずもB案を選んでたってことだね〜。ま、これで大使が無事に見つかれば、結果オーライってヤツかな〜?」

あはは、と笑いながらイサオが言う。

「……そんじゃシンヤ、頑張れよ」

すると突然、ハヤトからシンヤに激励の言葉がかかった。

「え? 何で僕が?」

「何でって、元々はお前が大使を救出に行くはずだったたんだから――」

「君が行くのが筋ってものだろ〜?」

「フム、理に適ってはいるな」

三人揃ってシンヤに仕事をなすり付けるエステバリス隊。中々のチームワークだ。

「ハァ…。分かったよ、もう。それじゃ、行って来るから」

バシュン!

「頑張れよー」

「しっかりね〜」

「もしかしたら、まだ敵が潜んでいるかもしれん。気をつけろよ」

溜息をつきつつ、大使がいると思われる位置へとエステバリスを飛ばすシンヤと、それを見送る三機のエステ。

その後、シンヤは何のトラブルも無く親善大使こと実験用モルモットの白熊を無事に保護し、ナデシコの任務は終了となった。

「アキト、大丈夫……よね?」

不安げに呟くユリカ。そんな艦長の不安や、その他大勢の人間の思いを乗せながらナデシコは氷海を進んで行った。







あとがき(簡易版)



いつものスタイルのあとがきは、最後のパート(Dパートで終わる予定です)に書きます。

…長くなりそうですねぇ、今回(苦笑)。

さて、今回のユリカの暴走は某ま○らほをモデルに――と言うかパクってます。

いや、“妄想大爆発”で一番最初に思い浮かんだのがアレだったもので、つい…。

さあ、これからも良い作品をどんどんパクって……いや、真似して……いや、モデルにして……いや、参考にして頑張るぞー!





………………いや、冗談ですよ、冗談。










……………………………三分の一だけね(核爆)。





Bパートに続く