機動戦艦ナデシコ

The Triple Impact


第三話 喪失


西暦2188年、木連総合病院。

その長い髪を一つにまとめ、眼鏡をかけた妙齢の女性――石動 沙耶香が診察室にいた。

「…では、今回の分の薬を出しておきます」

五十代半ばを過ぎたあたりの男の医師が、カルテに何か書き込みながら沙耶香に言う。

「はい、ありがとうございます」

「…ご家族の方はこのことを?」

「…いえ」

少しトーンの低い声で首を振り、答える沙耶香。

「そうですか…。余計なお世話かもしれませんが、話しておいた方がよいのでは?それなりの心構え、というのも必要だと思いますし」

「いたずらに不安にさせる必要もないでしょう?あの子は優しいから…きっと、何もかも放り出して私の面倒をみようとするでしょうし…。それにまだ教えたいこともありますし、ね」

弟のことを思い、苦笑する。簡単に想像できるのが嬉しくて…少し、悲しい。

「…ならば私が言うことはもうありません。せめて弟さんと一緒にいることですな。…あの年頃の子にはまだ家族が必要です」

「ええ、努力します」

にこりと微笑む。事情を知らないものが見たら骨抜きにされそうな、美しい笑みだ。

「お大事に…と言うのもなんですが、お大事に」

「ありがとうございました」

薬を受け取り、病院を後にする沙耶香。ふと、空――と言っても人工のものだが――を見上げ…、

「もってあと一年、か…」

ポツリと、呟く。


「くっ!」

透真の蹴りをくらい、ガードしつつも後方に飛ばされるアキト。自分から後ろに飛んだつもりなのだが、それでも飛ぶ力の七割くらいは透真の蹴りによるものだ、と自覚していた。

「生意気な…」

自分の蹴りの威力を多少なりとも殺されたのが気に入らないのか、イラついた声で呟き、追撃を開始する透真。

ドン!

道場の床を蹴る音があたりに響く。観戦している三人のうち二人――海人と北斗にしかわかっていないが、透真は右の拳を振りかぶっている。そして壁に激突する数瞬前にアキトに追いつき…、

ドガァッ!!

殴り…壁に叩きつける。

「ガハッ……ァ…」

白目をむき、気絶するアキト。アキトが叩きつけられた部分の壁には、よく見ると僅かだがヒビが入っている。

「…フウ」

仕事が終わった、とでも言うような顔をする透真。アキトを肩に担いで、観客のもとへと向かう。


「いやー、大した上達振りですね、アキトは。二年で北斗とほぼ互角にまでレベルアップするんですから」

感心したように言う海人。その手の中には、何かの図面のようなものがある。

「互角じゃない。俺の方が通算勝ち数が圧倒的に多いんだからな」

少しだけ不機嫌そうな北斗。それを見て零夜が、

「あのね、北ちゃん。最初に会ったときのアキト君と今のアキト君を比べること自体、まちがってるよ。会ったばっかりの頃のアキト君、何もできずに北ちゃんに気絶させられて、訓練にならなかったじゃない」

「…まあ、そうだが」

ぼやく北斗。ちなみにアキトと北斗の対戦成績は、283戦184勝2敗97引き分け(北斗主観)である。

ドサッ

「実際、アキトの成長スピードは目を見張るものがあるからな。こちらが教えられることも多い」

アキトを床に放り投げ、三人と会話を始める透真。

「沙耶香さんが言ったとおりになったわけですね」

海人が図面を眺めながら話す。初対面の人間が見たら怒りそうな仕草だが、いつものことなのでここにいるメンバーは気にしない。

「…今度はなに見てんだ?前は確か相転移炉の設計図だったっけか」

「その相転移炉を使った戦艦の設計図ですよ。…にしてもコレ、改良の余地がありすぎますよ。まったく、僕に設計させてくれればこんな欠点だらけの戦艦にはならないのに」

「じゃ、姉さんから戦略や戦術を習っている俺が、その戦艦で構成された部隊の指揮をしてやるよ」

「…期待してますよ」

冗談交じりな透真と海人の会話。…多少の違いはあるが、この会話が後に現実となることを、この時点で誰が想像できるだろうか…。

「それにしても、よくそんな設計図が手に入りましたね。技術者の方に知り合いでもいるんですか?」

零夜が当然の疑問を口にする。

「え?忍び込んで盗んだんですよ?言ってませんでしたっけ?」

「…サラリともの凄いことををぬかすな」

海人の返答に呆れる北斗。

「でも、あそこの警備ってザル同然ですよ。第一…」

警備システムの欠点を長々と解説する海人。しかしその多くは、普通の人間には指摘されてもその欠点を突いた行動は不可能なものばかりだった。

透真は友人のそんな様子を見ながら、

(思えば、コイツとは変な出会いだったな…)

回想にふけっていた。



三年前、後に透真と北斗が出会うこととなる公園――。

夕暮れ時。姉からお使いを頼まれ、夕食の材料を片手に帰路についている透真。

公園の所にさしかかった所で、一人の少年を見つける。

それだけなら別に気にも留めないのだろうが、透真に『気に留めない』という選択肢は存在しなかった。

少年は傷だらけ、血まみれだったのである。着ている物はまともだったのだが。

「おい」

「………」

話しかけるが、返事がない。頚動脈に手を当ててみる。一応、動いているようだ。

「お人好しだなあ、オレも」

少年をおぶって家に向かう。服に血がつくがそんなことは気にしない。このまま放っておくのも後味が悪いし、何より『放ってきた』なんて言ったら姉に何をされるか分からない。

「重いな…」

道行く人がこちらを見ているようだが、無視することにする。このペースで行けば、取りあえず予定内の時間には家に着きそうだ。


「…記憶喪失?」

「そ。あ、傷はそんなに深くなかったわよ。二、三週間もすれば完治するんじゃない?」

少年の介抱を終え、食卓を囲む二人。あのあと家に着いた透真を見て、沙耶香は取りあえず夕食の準備を透真に任せ、少年の応急措置にとりかかった。

夕食の支度ができた頃、沙耶香が戻ってきて夕食の仕上げをして、現在に至る。

「…アイツがそう言ったの?」

「うん。上着とズボンだけ着替えさせて寝かせた所で目が覚めたから、どこから来た誰なのか聞いたら、『わからない』って。疲れてたのか、その後また眠っちゃったわ」

「ふーん」

あっさりと納得する透真。普通、『そいつ嘘をついてるんじゃないか?』とか尋ねそうなものだが、姉の人を見る目は確かだ。信用していいだろう。

「で、どうすんの、これから?」

「近所の施設に預けるしかないでしょ。うちは私を含めて三人も養えるほど、余裕ないんだし」

「どうやって説明するの?」

「えーっと…そうね、『親戚の人が亡くなったので、他に身よりもないのでこちらで引き取るということになったのですが、ウチにはそんな余裕もないので、こちらで預かってもらえないでしょうか』ってのでいいんじゃない?」

「ふーん…でさ、名前はどうすんの?記憶喪失なんだから、わかんないんだろ?」

「あー…、あ、あ、あ…天宮って苗字はどうかしら?」

「お隣さんの苗字だね、それ」

「うっさいわね。それから名前、名前、なまえ、なーまーえー……かいと、海の人って書いて海人ってのはどうかしら?」

「お向かいさんが半年くらい前まで飼ってた犬の名前だね」

「…無いよりマシでしょ!」

「そりゃそうだ。…にしてもネーミングセンス無いね、姉さん」

「…明日、いつもの五倍の量の鍛錬メニューね」

「…何で?」

かくして、天宮 海人は石動家の近くの施設に預けられることになったのであった。ちなみに、年は透真より一回りくらい下に見える、ということで、沙耶香が勝手に十歳に決めた。



(海人との付き合いもそれからだが…どうもおかしい点が多いんだよな、コイツ。姉さんが『二、三週間かかる』って言ってた傷を一週間で完治させちまうし、格闘センスは俺…とまではいかないまでも、アキトや北斗くらいはあるし、まだ十三だってのにそこらの学者でもわかんねえことを平気で理解しちまうし…ま、今んとこ何も怪しい所は無いからいいんだけど」

「どうしたんです、透真?僕の顔に何かついてますか?」

「いや、何も」

「?…そうですか。なら、いいです。お、目が覚めましたか、アキト」

アキト以外のこの場にいる全員の視線がアキトに集中する。

「うぐぇ…本気で殴るな、透真…」

「バカ言うな。俺が本気でおまえを殴ってたら、おまえは今頃息してねえよ」

「…そりゃどうも」

お互いに皮肉を込めたやり取りをしながら、アキトが座りなおす。そこへ、

「よし、休憩も済んだことだし、次は俺の番だな!」

突然北斗が立ち上がる。視線の先にいるのは…透真だ。

「北ちゃん、やめといたほうが…」

「うるさいぞ、零夜。それに、アキトだって一応二回は俺に勝ってるんだ。俺だって一回くらいは透真に勝てるはずだ!」

「…君がアキトに一回目に負けたのは、油断が原因じゃなかったかな?」

ちなみに二回目は、数十回の引き分けと数回の勝ちの後、接戦の末の負けである。

「黙ってろ、海人。…透真だって人間だ。油断するときもあるはずだ!」

「…目の前でそんなこと言われて、油断するやつはいないと思うぞ。それに、おまえこないだアキトとタッグで俺に挑んで引き分けてなかったっけ?二人がかりで引き分けたのに、一人で勝てるワケねえだろ。さっきのアキトをもう忘れたのか?」

「…さり気なく馬鹿にされてないか、俺?」

「気のせいだろ」

透真にジト目を向けるアキト。何とか言い返したいところだが、うまい言葉が見つからない。

「えーい、とにかく四の五の言わずに俺と戦え!!」

叫ぶ北斗。何が何でも透真と戦いたいらしい。

「あーハイハイ、わかったわかった。…どっこいしょっと」

「年寄り臭いですよ、透真」

「うるせー」

海人のセリフに苦笑交じりで答える透真。しかし、『どっこいしょ』だの『よっこらしょ』だの言っている若い人は結構いると思うのだが。

「早くしろっ!!」

道場の中央に仁王立ちしながら透真を睨む北斗。かなりイラついている様子である。

「…ったく、そんなに殺気をギラつかせちゃ勝てるものも勝てないぜ?」


十分後。

「…きゅう」

「言わんこっちゃない」

呆れたように海人が北斗に言う…が、おそらく聞こえてないだろう。気絶してるんだから。

「…ま、気持ちは分かるがな」

零夜に介抱される北斗を見つつ、呟くアキト。まだ殴られた箇所が痛いのか、腹部をさすっている。

「う、うーん…」

「あ、北ちゃ…じゃないわね、枝織ちゃん、気が付いた?」

「うう、あたまの後ろがいたいよぉ…」

明らかに先程とは違う雰囲気を出しながら、北斗の別の一面――枝織が目を覚ます。

「そりゃそうだ。後頭部を蹴って気絶させたんだからな」

「透真兄さん、せめてもうちょっと優しく気絶させてよぉ」

「気絶させるのに優しいも厳しいもあるか」

「うー…」

アキトに会った前後に北辰と山崎によって創られた『枝織』――。最初のうちは皆その変化に驚いたものだが、今では慣れたものである。…北斗はその存在を認めていないが。

「ぼやくな、枝織。透真の性格が悪いのは今に始まったことじゃない」

「でもアー君、性格ってがんばれば直せるものじゃないの?」

「『三つ子の魂百まで』。一旦形成された性格はそう簡単には変わらない。…いい言葉です」

「海人さん、それって少なくとも『いい言葉』じゃないような気が…」

上からアキト、枝織、零夜、海人の順に、少なくともほめ言葉ではないセリフを口走る。

「…好き勝手言ってくれるな、貴様ら。言っておくが、俺のこの性格は姉さんからの譲り物ゴン!!

セリフの途中でいきなり鈍い音が透真のいる辺りから響く。見ると、透真の背後にはこめかみのあたりに青筋を浮かべた沙耶香が立っている。

「…姉さん、いつからいたの?」

「北斗が枝織に変わった所あたりからね。気配を消して近づいて驚かせようと思ったら…」

「うっ…ね、姉さん、殺気はなるべく出さないようにした方がいいんじゃなかったっけ?」

「そうね。でも出さないよりも出した方が時として効果的な場合もあるのよ」

「ふ、ふーん」

にこやかに微笑む沙耶香と、対照的に顔が引きつる透真。

「さて、僕たちは居間の方に…」

おもむろに海人が立ち上がる。

「そうだな。ここにいたら邪魔になりそうだ」

アキトもそれに続く。

「あ、待って下さいよ二人とも!枝織ちゃん、あたしたちも行こっか?」

「うん、それじゃ透真兄さん、またねー」

「あ!おい!!待てよ!!逃げんなよ!!卑怯だぞ!!?」

ガラガラッ…ピシャッ

無常にも閉じてしまう入り口。そして…、

「だれか助けてええええぇぇぇぇぇ………」

あたりに響く声。取りあえず、彼らは今のところ平和だった。

そう、今のところは…。


そんなこんなで三ヶ月後…。

道場の中央で向き合う透真と沙耶香。

スッ…

互いに構えをとる。あたりに満ちる緊迫感。

「…ずいぶんと久しぶりに見る気がするな、この姉弟稽古も」

アキトが二人を見ながら呟く。その目は真剣そのものだ。

「そう言えばそうですね、最後にやったのはどの位前でしたっけ?」

アキトと同じく、海人も会話しつつ沙耶香と透真を凝視している。

「えーと、確か二ヶ月くらい前だったような気が…」

唯一の例外が零夜。見物しているメンバーの中で、零夜だけが何が起こっているのか認識できないので、それほど真剣に見てはいない。

「黙ってろ、おまえら。…もうすぐ動くぞ」

北斗に言われて、全員がこれまで以上に集中して二人を見る。その言葉どおり、どちらもいつ動いてもおかしくない状態だった。

トン!

それほど音を立てずに、二人同時に動く。

ガッ!

激突する蹴りと蹴り。一瞬離れ、今度は乱撃戦が始まる。

ビッ! シュッ! ガッ! パンッ! ヒュッ! ドンッ!

拳撃、掌打、肘、踵、膝などの応酬、そして隙あらば関節技や投げを狙う。

「くっ!」

「ちぃっ!」

互いに決定打を与えられないまま、再び離れる。

「フゥ…」

「……」

構えをとり直し、気迫を充実させていく二人。

「…珍しいな、あの二人があれだけ気を発散させるとは」

感心したようにアキトが言う。

「ある程度戦いが白熱してくると、抑えようと思っても気が抑えられなくなる。覚えが無いとは言わせんぞ、アキト?」

「そうだったな、北斗。しかし…」

そこまでの状態にもっていくには二人の実力がかなり伯仲していなくてはならない。たとえばアキトと北斗は、何度言われても戦っている内に気が膨れ上がっていく。

「あの二人があそこまで熱くなる相手など、もう当人たち以外には現れないかもしれませんね…」

海人がどこか寂しそうに喋る。そこまでの領域には、自分は…この戦いを見ている者全員は、到達できない可能性が大きい。

「ふん、いずれ熱くさせてみせるさ」

不敵な笑みを浮かべる北斗。その鳶色の瞳は、変わらず石動姉弟に向けられている。

「はあっ!!」

「つあっ!!」

攻撃の際にこれだけの大声を出すなど、この二人にとってはいつ以来のことだろうか。

ドォン!!!

先程とは違い、今度はかなり大きな音を出しながら、間違いなく太陽系内で最強の姉弟が肉迫し、

ドガアッ!!!!

三度目の激突。互いに一撃必殺の拳の一撃を繰り出し、両者とも数メートルほど飛ばされる。一瞬だけ、沙耶香からは白銀の、透真からは黄金の光が放たれていた…。

ズシャアッ ドンッ

ほぼ同時に床と激突する二人。二人が激突した場所は、コナゴナに破砕されている。

「…?なんだ、今のは?」

「お前も見えたか、アキト」

「…ってことは、僕だけじゃなかったんですね。安心しました」

「な、なになに?何の話?」

これまで石動姉弟に圧倒されてロクに喋っていなかった零夜だったが、どうやら我に返ったようだ。

「お前はあまりにも一瞬のことすぎて分からなかったみたいだが、沙耶香と透真が激突の寸前に、金色と銀色に光ったのが俺たち三人には見えたんだ」

「金色と銀色?見間違いじゃないの、北ちゃん?」

「見たのが俺だけだったらそれで済むんだろうが、あいにくと目撃者が三人もいるんでな」

「何だったんでしょうね、一体…?」

「さあな、いずれ分かるだろう」

彼らはまだ知らない。それが『昂気』と呼ばれるものであること、そしてそれは自分たちが学んでいる武術に口伝としてあることを…。

「ぐぅぅ…」

四人が議論している間に、透真が立ち上がろうとする。が、足にきているのかうまく立ち上がれない。

「…相打ちか。強くなったね、透真」

沙耶香も同じような状態らしい。立ち膝のまま止まっている。

「ふん、まだまださ。俺はもっともっと強くなってみせるよ。…新しい力も手に入れたしね」

辛そうだが嬉しそうな顔をみせる透真。右腕を振り、そこから黄金の炎のような光を出現させる。

「…そう。なら、これからは私の力は借りずにやりなさい」

「え?…何言ってんだよ、姉さん?」

突然の姉の台詞に困惑する透真。

「戦略、戦術も一通り教えたし…。もう、私があなたにあげることができる物は殆ど無くなっちゃったわね」

「ど、どうしたんだよ、一体?いきなりそんなこと言うなんてさ」

「ふふっ…。ウッ、ゴホォッ!!

ドサリ…

沙耶香が血を吐き、そのまま倒れる。

透真は、何が起こっているのか理解できなかった。

ただみんなが彼女に駆け寄る中、先程の戦闘のダメージのせいで、姉に近づくことのできない自分の体が恨めしかった。


夜中、病室の中、沙耶香がベッドに横たわっている。その脇には、透真が無言で立っていた。

あれから大騒ぎで沙耶香を病院へ運び、現在に至っていた。みんなには、席を外してもらっている。

「…いつからなの?」

「三年半…海人君に会った少し前くらいかな、発病しだしたのは」

自嘲気味に沙耶香が答える。

「…全然気付かなかった」

「薬が効いたのと…『昂気』のおかげね、多分」

「こうき?」

「木連式の口伝にそういうのがあるの。…ほら、最後の激突のときに出たアレ。私の場合は銀色、あなたの場合は金色みたいね。アレのおかげで寿命が二年は延びたわ」

「そこまでの力があるの、アレには?」

「ええ。…私がかかってるこの病気、母さんが死んだ病気と同じなの。遺伝するタイプの病気らしいわね」

「…そう」

一瞬、自分もそう遠くない将来に死ぬのか、と不安になったが、姉と同じ病気で死ぬのなら悪くない、と思う。

「あなたにこの病気は無いわ、安心していいわよ。…この病気が発病して、初めて病院に行ったとき、『母さんが死んだ病気だ』って聞かされてね?しかも遺伝するって言われたときは、まずあなたのことを思って本当に死ぬほど不安になったわ」

「まず自分の心配しろよ、バカ姉」

「…そうね。簡単な血液検査で分かるらしいわよ、この病気のあるなし」

「それで俺にはその病気は無い、と分かったわけだ」

「うん。本当によかった…」

微笑む沙耶香。儚げで、美しい…少なくとも、透真にとっては宇宙一の微笑みだった。

それを見て、透真は軽く歯軋りして病室の備え付けのイスに座り込む。

「…今夜はここで寝てもいいかな?」

「仕方ないわね…。じゃあ私からもお願い、いい?」

「できることなら」

「寝てるときに手、つないで…」

「わかった」

二人一緒に眠るなど、一体何年振りだろうか…。

透真は二人でいることの幸せを噛みしめながら、眠りに落ちていった…。






朝の光が病室に差し込む。

「ん…姉さん……?」

目覚める透真。しかし…、

つないだ手の中に、数時間前にあったぬくもりは、無い。

彼女の顔は安らかに、眠ったような表情をしていた。

「…姉さん……!」

透真はベッドに顔をうずめ、涙を幾粒か流す。

この日彼は、最も親しい人物を失った……。




あとがき


ラヒミス「第三話、終了ーって、あれ?どうしたんですか、沙耶香さん?」

沙耶香「…どうしたもこうしたもないわよ!何、これ!!!?私死んじゃってるじゃないのよ!!!!!??」

ラヒミス「いや、でもあなたは最初から死なせるつもりで作ったキャラですし…」

沙耶香「殺すことを前提にキャラを作るなあああぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!!!!!」

ラヒミス「でもでも、これが後々透真にとって重要な意味を持つようになっていくんですよ。それに、この場合沙耶香は『殺した』んじゃなくて、『死なせた』んですよ」

沙耶香「えーい、屁理屈を…。非難のメール、来るんじゃない?『何で殺したんだ』とか」

ラヒミス「いや、でも危なかったですよ。もうちょっと沙耶香のこと書いてたら、愛着が出て死なせられなくなっちゃう所でしたから。それに、一応二話で伏線は張っときましたよ?」

沙耶香「じゃあ生かしときゃいいじゃないのよ、ったく。大体、伏線って呻いて胸掴んだだけじゃない。…まあいいわ、他にもいくつか聞きたいことがあるんだけど?」

ラヒミス「なんです?」

沙耶香「えーと、まずアキト君だけ何で名前がカタカナなの?」

ラヒミス「ああ、それはアキトには木連での戸籍が無いからです」

沙耶香「はい?」

ラヒミス「北辰が保護者なんですよ、戸籍なんて在るわけないでしょう。草壁あたりが黙認しているってことで納得してください」

沙耶香「適当な…。次にアキト君の性格なんだけど…、なんか暗くない?」

ラヒミス「うーん、そうですね、ダークにするつもりはないんですが…あえて言うならドライアキトかな?とにかく私のアキトはその路線でいこうと思います」

沙耶香「『私の』って…」

ラヒミス「まあ、作家が百人いれば百通りのアキトがいるんですから、こういう表現も間違ってはいないと思いますよ」

沙耶香「ふーん…あと、海人君って一体何者?」

ラヒミス「聞いてどうすんですか、そんなこと?」

沙耶香「いや、やっぱ聞いとかないとダメかなって…」

ラヒミス「そのうちわかります、とだけ言っておきますよ。後は自分で想像でもしてなさい」

沙耶香「…私、あなたのこと好きになるの苦労しそう」

ラヒミス「そりゃどうも。…他に何かあります?」

沙耶香「コイツは…。そうそう、北辰の疑惑ってどうなったの?今回出なかったけど」

ラヒミス「それなら彼の二年間にわたる努力の末、『ある程度』消えました」

沙耶香「『ある程度』ってことは、またぶり返すのかしら?」

ラヒミス「気が向いて、なおかつ覚えてたらいつかやります。あ、それと今回の話にはちょっとした裏設定があるんですよ」

沙耶香「なに、それ?」

ラヒミス「前回のラストで、山崎が北辰に襲われたでしょ?」

沙耶香「…なんか誤解を招きそうな言い方だけど、それで?」

ラヒミス「で、そのときに負った怪我のリハビリで、あなたのいた病院に山崎がいた、って裏設定」

沙耶香「リハビリに二年もかかるもんなの?」

ラヒミス「それほどの重症ってことだったんですよ。怪我を負ってすぐに自分で適切な処置をして、そのまま病院へ…。後十分ほど処置が遅れていたら、彼の命は無かったでしょうね」

沙耶香「なんで本編に組み込まなかったのよ?」

ラヒミス「組み込めなかったんですよ。…っていうか、どこに組込みゃいいんですか?冒頭の病院に入れると拍子抜けしちゃうし、同じ理由であなたが倒れた直後にも無理だし、さすがにラストに入れる度胸は私には無いです」

沙耶香「…確かに」

ラヒミス「楽しみにしてた人、ごめんなさい」

沙耶香「そんな人、いるの?」

ラヒミス「まあ、可能性は無きにしもあらず」

沙耶香「…っていうか、このあとがき書いてる時点であなた一話と二話投稿したばっかりでしょう?」

ラヒミス「そうなんですよぉ、もう読者の皆さんにどんな印象持たれるのか不安で不安で…」

沙耶香「今回の話見て、『外道』とか思うんじゃない?」

ラヒミス「だから、あなたを死なせたのは透真にとって…そうですね、悪い言い方をすれば『踏み台』、普通の言い方をすれば『糧』、いい言い方をすれば『乗り越えるべき壁』ってところですかね」

沙耶香「なんだか釈然としないわね」

ラヒミス「ま、非難は覚悟の上ですよ」

沙耶香「そうそう、最後に一つだけいいかしら?」

ラヒミス「なんです?」

沙耶香「空迅流に、名前の付いた技ってあるの?」

ラヒミス「ありません(キッパリ)」

沙耶香「何故?」

ラヒミス「全部がまんべんなく強いからです。わかりやすくいうと、『炎の転○生』の自由格闘の人と同じ理由ですかね。決して、いちいち技の名前考えるのが面倒くさいからじゃないですよ」

沙耶香「『炎の○校生』って…わかる人いるのかしら?しかも自由格闘…」

ラヒミス「わかる人だけわかってくれりゃいいんです。それでは、次回のゲストはテンカワ アキトです」

沙耶香「思ったんだけど、この次回のゲスト紹介って某お昼の名物番組みたいね」

ラヒミス「…黙っときなさい」

 

 

代理人の感想

うあやっぱり北斗目立ってない。(爆)

 

>空迅流

自由格闘・・・・つまりケンカ殺法と言うことですね(爆)?