機動戦艦ナデシコ

The Triple Impact


第五話 遺跡


「おお、見えた見えた。アレが火星かぁ。いやー、俺って木星と小惑星以外の星って見たこと無いから、感激だなぁ」

シャトルの操縦席からの景色を眺め、素直に感想を述べる透真。木星を出発してから早十日、退屈な日々を送りつつも、彼らは無事に火星近くまで到達した。

「…にしても、火星って思ったほど赤くないな」

「…透真、あなたちゃんと資料見ましたか?火星は約百年前に開始されたテラフォーミングの影響で今は青いんですよ。…まったく、これから行く所の大体の歴史くらい把握しておきなさい」

呆れる海人。彼はどうやら資料をちゃんと読んでいたらしい。

「ふーん、勤勉なヤツ…。ん、どうした、アキト?」

「いや、懐かしいな、と…」

「そう言えばあなたは七年前まで火星にいたんでしたっけ」

「ああ…」

アキトはバイザーを外し、少し遠い目をしながら窓の外を眺めていた。

「望郷の念でもわいてきたか?」

「…否定はしない、とだけ言っておく」

透真に言われて、かどうかはわからないが、彼はまだ自分が少年だった日のことを思い出していた。

優しかった母、厳しかった父、そして…。

「…あれ?」

「どうした?」

「いや、昔のことを思い出していたんだが、どうも思い出せないことがあるんだ。まあまあ重要なことのような気がしないでも無いんだが…」

「何だ、そりゃ?」

「うーむ………ま、いいか。思い出せないってことは、それほど重要なことでもないんだろう」

「諦めが早いですねぇ」

「ま、昔のことにいちいちこだわったって仕方ないさ。…さて、火星も見えてきたし、そろそろ実行に移すか」

アキトの記憶のことはひとまず置いておいて、一ヶ月前から計画していたことについて話し始める。

「細工は?」

「バッチリです。ポッドの整備も完璧ですよ」

「監視の奴らは?」

「殆ど警戒していない。あれでは監視の意味がないぞ」

「よし。じゃあ、あと十二時間後に大気圏突入だから…十一時間後に、だな」

「「了解」」

そう言って解散する三人。ちなみにシャトルは自動操縦である。





ゴゥン ゴゥン ゴゥン ゴゥン ゴゥン ゴゥン…

十一時間後、シャトルメイン動力室。

もうじき役目を終え、しばしの休息につくはずのこの部屋に、出発した直後には無かったはずのCDケースほどの大きさの金属製の箱が取り付けられていた。

見ると、その箱には赤と緑のランプがあり、今は緑のランプがついている。

ピッ

音とともに、ランプが緑から赤へと変わる。

ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ…

規則的に音を発し、点滅を繰り返す赤のランプ。その存在に気付いている者は、三人しかいなかった…。




「作動させたか?」

「ええ、たった今」

リモコンのようなものを上に放り投げ、そのまま床に落とす。その衝撃でそれはバラバラに壊れてしまった。

「勿体ねえな、もっと物は大切にしろよ」

「もう持ってても意味ないでしょう?それに、これからが大変なんですから、無駄な荷物は減らすべきですよ」

そう言いながら移動する透真と海人。その手には出発するときに持っていたバッグがあった。

プシュッ

二人の2メートルほど前方にある電動式のドアが開く。そこから出てきたのは、黒づくめの男だった。

「ナイスタイミング。狙ってたか?」

「…偶然だ」

あまりにもタイミングよくドアが開いたため、気配を読んでいたのではないか、と言う意味で聞いた透真。しかし、彼くらいになれば『気配を読む気配』を読むなど、造作もないことなのだが。

「いちいちドアを叩く手間が省けたんです、よしとしましょう。さて残り五十分、急ぎますよ」

「そうだな…あ」

アキトの部屋の前で立ち話していると、通路の向こう側から科学者らしい男がやって来た。

「あれ?どうしたんですか、三人そろって荷物なんか持って、そんなところで?」

「いや、大気圏突入が楽しみでね。どうせなら操縦席でその様子を見物しよう、と相談していた所さ」

口から出まかせをサラサラと口にする透真。そんな様子を見て海人は苦笑し、アキトは感心したような呆れたような顔をする。

「はぁ、そうですか」

科学者らしい男はそれっきり立ち去ってしまった。

「…気の毒に。ま、知らぬが仏とも言いますが…」

「いちいち会う人全員のことを考えたらキリがないさ。まず自分のこと、余裕があったら隣人のことってね。じゃ、行こうか」

歩き出す三人。その方向は、操縦席とは真逆だった…。




大気圏突入十五分前。ある乗組員が(名前考えるのが面倒くさいので、以後Aと呼称する)、メイン動力室の前を通りかかった。

ボン!

動力室の中から何かが破裂したような、爆発したような音が聞こえたので、Aが何となく不安になって室内をのぞくと…。

壁の一部からブスブスと煙が立ち昇り、さらにその部分からバチバチと火花が飛び散っていた。

「たっ…大変だぁ!!!」

Aは慌てて同僚の元へと向かう。それはもう、素晴らしいスピードで。



「何ぃ!!?本当か!!!!?」

「こんなこと、嘘ついてどうするんだよ!!それよりやばいよ!!もうじき大気圏突入だろ!?」

同僚のBに報告したAは、助けを請うような目でBを見る。

「ええい、ジタバタしても始まらん!!!A、おまえはGとOに連絡して、動力室の修理に当たらせろ!俺はTとFを連れて操縦室へ向かう!」

「わかった!!」

行動を開始する二人、だが…。


「ダメだ!ちょうど一番重要な所がイカレてやがる!!数分じゃ修理できるわけない!!!」

「そ、そんなぁ!!?なんとかならないのか!!!?」

悲鳴にも似た、いや悲鳴そのもののような声を上げるA。目には涙が浮かんでいる。

…このとき彼らが普通の精神状態だったら気付いていただろう、動力室の部品とは明らかに違う部品が床の上に転がっていたことに…。


「くっそおおおおおお!!!こんな所でえええ!!!!死んでたまるかよおおおおおおおお!!!!!!!」

『無人の』操縦室に飛び込むや否や、操縦桿を握り締めて必死に角度調整を始めるG。木連の人間らしく、かなり熱血している。しかし、

「何でなんだ!!?何で自動操縦が解除できない!!!?それにどんどん突入角度がヤバくなっていってる!!!!」

Oが半狂乱で喚く。無理もあるまい。

「い、いやだ…死にたくねぇ……死にたくねぇよぉぉ………」

ガクリとその場にへたりこむB。…彼にもう少し冷静さがあったら見えていたかもしれない、シャトルから飛び出す三つの脱出ポッドを…。





「おー、だんだん赤くなっていくぞ。俺、シャトルが燃え尽きる所なんて見たこと無いんだよね」

『…普通は見ないぞ』

『うーん、でも、なかなかお目にかかれるもんじゃありませんからねえ、しっかり見ておくべきですよ。…どうでもいいですけど、なんか僕たちって悪役みたいじゃないですか?』

通信機越しに会話する三人。とんでもないことを実行した直後のくせに、口調が軽い。

「しょうがねえさ、説得してわかってくれりゃ苦労はなかったんだが、よりによって俺たち以外全員、草壁に心酔してるやつで固めやがったからな。

…それに、動力室に爆弾を仕掛けたのも、自動操縦に細工してプロテクトをかけたのもお前だろうが、海人」

『…一ヶ月前にこの計画を立案したのはどこのどなたでしたっけねぇ?』

「それなら、『このシャトルに脱出ポッドは無い。心配するな、事故なんて起きる可能性は限りなくゼロだ』とか言って奴らを騙したアキトにも責任はあるぞ」

『…俺は[限りなくゼロ]とは言ったが、[絶対に起きない]とは言ってないぞ』

「人、それを『詭弁』って言うんだよ…。お、シャトルがちょっとずつ崩れていく。…悲しいね、まるで流れ星のようだ…って、そのまんまか」

『何ふざけたこと言ってんですか。…えーと、例の遺跡とか言うのは、極冠でいいんですよね?』

「ん、そのはずだ」

言いつつ、ポッドの中のコンソールに手をかざす透真。アキトから『火星に行くならやっておいたほうがいい』と言われて、IFSはすでに持っている。これでポッドに付いてあるバーニアを作動させて、突入角度を微調整するのだ。

海人にも勧めたが、すでに持っていたらしい。

「じゃ、俺たちの大気圏突入といきますか!!」

『ああ、一つ言い忘れてましたけど、必ずしも三人同じ場所に着陸するとは限りませんよ』

『…それってやばくないか?』

『大丈夫です。あなたたちに気付かれないうちに、発信機をつけておきましたから。ちなみに僕にもついていますよ』

「ポッドに入る前に渡された、時計のできそこないみたいなのが受信機だな。これの受信範囲と、ポッドの落下予測地点の誤差範囲はどうなってる?」

『受信範囲は半径約60キロ。ポッドの方は多く見積もっても誤差17、8キロって所ですから、多分大丈夫です』

「では各自、数分後、または数十分後、もしくは数時間後、ひょっとしたら数日後に会おう!!」

『『了解!』』

火星に突入する三つのポッド。その近くでは、赤く熱を帯びたシャトルが爆発していた…。





ドカァッ

「…ったく、入り口開かねえから蹴り飛ばすハメになっちまったじゃねえか。何が『整備は完璧です』だ、海人のヤツ。…おおっ、これが火星か」

スタッ

ポッドから出て、火星の大地に降り立つ透真。初めて見る『天然』の景色に感動しているようだ。

ヒュオオォォ……

「さ、寒い…。極冠辺りなんだから当たり前と言えば当たり前だが、寒い…」

冷たい風が透真の体を撫でる。こんなことならもっと厚着しておけばよかった、と彼は思った。

「うー寒、えーと、受信機は…これだな」

ピッ

寒さに震えながらもバッグから受信機を取り出し、スイッチを入れる。すると、モニターに三つの点が表示された。

「んーと、多分この真ん中の黄色い点が俺だな。すぐ近くに赤い点、遠くに青い点、か…。取りあえず、こっちの赤い点のヤツと合流するか」

雪原を一人行く透真。妙にシュールな光景である。




「透真、何で防寒着を着てないんです?」

ちゃっかりコートを着込んだ海人に会って、最初に言われた台詞がそれだった。

「…じゃ、お前は何でコートを着てるんだ?」

「持って来てましたから」

「あっそ。…俺は忘れたから」

「…あなた、頭の回転とか早くて観察力もあるのに、何でそう肝心な所で抜けてるんですか?」

「…ほっといてくれ。で、これからどうする?アキトを待つか?俺としてはここで焚き火でもおこして暖をとりたいのだが」

「何バカ言ってんですか。待ってる間の時間が無駄ですから、遺跡に向かいますよ。アキトも僕たちの位置はわかってると思いますし」

「えー、アキトにマントでも借りようと思ってたのにぃ」

「…いきなり不気味な口調にならないでください。そんなに寒いなら、昂気でも使って体をあっためればいいでしょう?」

「昂気使うと確かにあったまるけど、後でメチャクチャ腹が減るんだよぅ」

「……」

透真を無視してスタスタと歩き始める海人。どうやら、いちいち相手にしている暇は無いと判断したらしい。

「あっ、ちょっと待てよ!…ったく、せっかちなヤツは嫌われるぞ?」

「じゃあ、これからはあなたの前でだけ、せっかちに行動することにします」

「性格悪いぞ、お前!」

「今に始まったことじゃないでしょう?」

雑談をしながら歩く二人。目指すは火星極冠、遺跡である。





「ゼェ、ゼェ…これが遺跡、か?」

「みたいですね」

極冠に到達し、巨大な空洞に飛び込んだ二人。そこまではよかったが、何故か幾重にも張ってあった歪曲場(ディストーションフィールド)を、透真が昂気を使って無理やり破ってようやくここまでたどり着いた。

つい一時間前まで『寒い、寒い』と言っていた透真が、気温も服装も変わってないと言うのに汗をダラダラと流している。

「なんか変な模様がついてますね。…何やってんです、透真?」

見ると、透真がその辺をランニングしている。こんな場所でなければ、爽やかな光景に見えなくはないかもしれない。

「いや、体を動かしてないと、そのまま体温を奪われちゃいそうで…」

「…もういいです」

役に立つときはものすごく役に立つのに、時折変な行動をとる親友に頭を悩ませながらも、海人は遺跡の調査を開始した。

「ふーむ…。大きさは約4、5メートルくらい、立方体、色は金色、妙な模様…。これだけじゃ何にもわかりませんね。もっと近づいてみますか」

遺跡に近づき、触れてみる海人。それを見た透真が、

「おい、危なくないか?」

と心配する。やはり、一応親友のようだ。

「大丈夫ですよ、とって食われるってワケじゃないんですし。あなたも触ってみたらどうです?」

「そうか?」

走るのをやめて海人の隣に移動し、遺跡に触る。なるほど、確かに何も起こらない。

「ほーう、こんな手触りなのか」

それをいいことに、ベタベタと触りまくる透真。極端な彼に呆れながらも、海人はしげしげと遺跡を観察する。

「…何かわかったか?」

「何も。やっぱり機材とかが必要ですね。ここは予定通りユートピアコロニーを拠点として、ちゃんとした物を持ち運ばないと…」

「ふーん。…?なんか光ってないか、コレ?」

「え?…うわぁっ!!」

カッ!

おぼろげに光りだした遺跡が、突如として眩い閃光を発する。遺跡に触れていた二人は、そのままその場に倒れこみ、気絶した…。













…それは、一人の青年の物語。

時に、西暦2196年。

ある女性を追いかけ、戦艦に乗り込む青年。

コックとして乗り込んだはずが、どういうわけか機動兵器のパイロットに。

少しして反乱が起きる。が、アニメを見て一念発起、何とか乗り切る。

防衛ライン突破、そして友の死。

爆発するコロニー、慣れない宇宙戦闘。

火星に到達、そして老兵の犠牲による脱出。

気が付けば八ヵ月後、現れる大型戦艦。

軍からの命令を何とかこなしていく、搭載コンピュータの反乱も起きた。

一時艦を離れる。しかし、その直後に敵機動兵器と共に跳躍、二週間前の月へ。

そして明かされる『敵』の真実、揺れる心。

それでも繰り返される戦闘。そんな中、重なるそれぞれの記憶。

単身潜入してきた少女、明かされる両親の死の真相。

しばしの平和な日々。それぞれが団結し、艦を奪い返す。

和平交渉、裏切られた『正義』。

再び火星へ、少し前までの戦友との激突。

金髪の科学者との関係が明らかに。艦長とお互いに告白、そして口付け。

拘留されるが、大して変わらない日々。

拘留が解けるや否や、少女と女性を加えた三人の生活が始まる。

なぜかラーメン勝負、女性との結婚が決まる。

結婚式が終わり、シャトルに乗り込む。そして…。

爆発、男の手により気絶、見知らぬ場所へ。

実験、実験、実験、実験、実験、実験、実験…。失われる五感。

妻の姿を少しだけ見て怒り狂う。が、気絶。

かろうじて救出され、始まる訓練。復讐のためだけに牙を研ぐ。

薄桃色の髪の少女の手を借り、始まる復讐。万単位で人を殺す。

別に何も感じない。ただ、復讐の対象に勝てなかったのと、取り返せなかったことが悔しかった。

かつての仲間との戦闘、目的の物を見つける。しかし、それでも取り返せない。

墓地、共に同じ時を生きた少女との再会。現れる復讐の対象、だが逃がしてしまう。

少女に生きた証を手渡し、去る。もう二度と会わないと決めて。

世話になった女性に礼を言い、決戦の地へ向かう。

激突する赤と黒、決着が付く。そして姿を消す。虚ろな気持ちだけを乗せて…。






「…あなた…たち……に…た…くす………」









「ぐぅ…何だ、今のは?」

頭を抑えながら立ち上がる透真。辛そうな表情をしている。

「…あなたも、ですか?」

同じく起き上がる海人。

「夢…にしてはリアルすぎるな。それに、最後のあの声は何だ?」

「…判断材料が少なすぎます、今の時点では何とも言えませんね。しかし、あれは…」

「…アキト、だな。前半と後半をうまい比率で足せば、俺たちの知るアキトになるんじゃないか?」

「それにしたって残酷すぎますよ」

「ふむ…ん?これは?」

会話の途中で透真があるものに気付き、拾い上げる。それは、青いクリスタルのようなモノ――CCだった。

「こいつはたしか…チューリップ・クリスタルだったか?」

「まあ、ここはボソンジャンプの演算ユニットである遺跡がありますから、あっても不思議はありませんが…。そこら中に転がってますね、持って帰りますか?」

「A級ジャンパーでもない俺たちが持ってても…いや、待て。ちょっと試してみる」

そう言うと、透真はイメージを始める。目標はとりあえず、前方10メートル。

「ジャンプ」

呟きと共に、体が青い光に包まれ、消える。その直後、約10メートル先に光と共に現れる。

「…やはりな。遺跡の影響か何かわからんが、A級ジャンパーになっちまったらしい」

「ってことは、僕もですか」

「だろうな。…やってみろ」

海人も試す。…結果は、成功。

「…何故でしょうね?」

「さあな。おそらく最後に聞いた『声』の仕業だろうが…何を託すってんだ、一体?」

「どうにも分からないことだらけですね。…で、これからどうするんです?」

「とりあえずここにあるだけのCCを持ってアキトと合流、事情を話してユートピアコロニーまで移動。詳しい計画はその後考えるよ」

「ですね。それじゃ、ジャンプで遺跡入口まで戻りますか」

「おう」

二人は持てるだけのCCを持って、遺跡入口にジャンプする。

その後、アキトと共に何回か往復して、極冠遺跡内の殆どのCCを回収した。





時間は三十分程さかのぼる。

アキトは、遺跡に到達していた。

発信機によれば、二人はこの中にいるはずだ。

しかし、入れない。歪曲場が張ってあるせいだ。念のために石を投げ入れてみてよかった。知らずに飛び込んでいれば、今頃は体がバラバラになっていたかもしれない。

「………退屈だ…」

やることが無い。二人も、自分を待っていてくれたっていいじゃないか。それに、いくらマントを羽織っているとはいえ、寒いものは寒いんだぞ。

そんなことを考えつつ一人で長い間イジケていると、突然青い光が彼の前方に現れる。

「!?」

ボォォォォ……

チャッ!

瞬時に銃を構える、この辺は流石だ。

「あー、待て待て。俺だ、俺」

光の中から、えらく聞き覚えのある声が聞こえてきたので、銃をおろす。見ると、透真と海人が、妙な青いガラス片のようなものをポケットやらバッグやらに入れて立っていた。

「…ワケを話してもらおうか?」

「ええ、ちょっと長くなりますよ」






「…にわかには信じがたい話だが…その『俺』の話はともかく、おまえらはそのボソンジャンプとやらが出来るようになったんだな」

「そういうことだが、お前も出来ると思うぞ。なんてったって火星生まれなんだからな」

「ふむ…まあいい。後で試す。それより、ユートピアコロニーへ行くぞ。一応金は持ってきているんだろう?」

「ああ、じゃ、いこうか」

CCを取り出し、イメージングを始める。青い光に包まれる三人。

「…気味が悪いな。本当に移動できるのか?」

「余計なことは考えない方がいいですよ。それに、あなたはこの中で唯一、直接ユートピアコロニーを知っているんです。あなたのイメージがカギなんですから」

「…念のため言っておくが、街中には出るなよ。騒ぎになる」

「…言われるまでも無い、人気の無い所くらい覚えている」

「ならいい」

そして、光と共に姿が消える。

三人は取りあえずユートピアコロニーに安い部屋を借り、しばらくの間はそこで暮らすことになった。








あとがき



海人「第五話、お楽しみいただけましたでしょうか」

ラヒミス「…私の台詞を取らないでください」

海人「まあ、そうカタいことは言わずに」

ラヒミス「…大体、あなたは私と微妙にキャラがかぶってるんですよ」

海人「そういうつもりで作ったんでしょう?」

ラヒミス「そうなんですけどね。あなたとアキトと透真を足して、塩、コショウをまぶして弱火であぶったのが私ですから」

海人「なんですか、その『弱火』って?」

ラヒミス「気にしたら負けです。さて、今回の話は…」

海人「なんか色々起こりましたねぇ。ではまず、シャトルから」

ラヒミス「いやー、ちょっと反省です。微妙にダークっぽいかな?」

海人「今度こそ非難されそうですね」

ラヒミス「いや、こんな小説読んでる人なんて、代理人さんの他には極々少数しかいませんよ」

海人「うーん、他に何か解決案は無かったんですか?」

ラヒミス「『説得しておしまい』ってのも考えたんですけど、それだといずれは裏切り者が出てしまうんですよ、私がやると」

海人「いいじゃないですか、裏切り者。話が膨らみますよ?」

ラヒミス「よくありません、話がややこしくなります。それに、私にそこまでの文章力はありませんよ。…やってやれないことはありませんが」

海人「じゃ、やってくださいよ」

ラヒミス「…木連の人間がたかが一介の大尉にしか過ぎないような人物の説得なんか聞くと思いますか?」

海人「それもそうですけど…気絶させて木星に送り返すってのはどうです?」

ラヒミス「それだと、あなたたちも帰らないと不自然です。全員行方不明ってことにした方が都合もいいですし」

海人「…ああいえばこう言う。ステキな性格してますねぇ」

ラヒミス「それはあなたも同じでしょ」

海人「次に、遺跡ですが…」

ラヒミス「いきなり話をそらさないでください。」

海人「細かいことにいちいち拘ってちゃ大物になれませんよ。それより何なんです、あれは?いきなり僕と透真に原作のアキトの記憶を与えて」

ラヒミス「あれによって、逆行したのとほぼ同じ効果を与えることができます。そういう意味では、この話は最も重要なエピソード、とも言えますね」

海人「あの『声』は?」

ラヒミス「それは、ヒ・ミ・ツ♪」

海人「…確かに透真が混じっているようですね。いや、もっと酷いかな?」

ラヒミス「はっはっは、あなたも混ざっていることをお忘れなく」

海人「ハァ、自己嫌悪…。しかしあれ、時ナデ二十一話に酷似してますね」

ラヒミス「なるべく変えようと努力はしたつもりなんですが、どうしても似ちゃうんですよね。うろ覚えな所もあるんで、間違ってたらごめんなさい」

海人「さて、次回は透真がここに来ます」

ラヒミス「だから、私の台詞を取らないでくださいってば」

海人「こう言うのは先に言った者勝ちですよ。…あ、そうそう、聞きたいことがあります」

ラヒミス「今度は何です?」

海人「何かこの小説って、ギャグとシリアスが交互にきてませんか?」

ラヒミス「…気のせいでしょ。次回『も』シリアスにする予定ですし」

海人「そう言うときに限って、ギャグになったりするんですよね」

ラヒミス「…そんなこと言う人、嫌いです」

海人「あはは、これ以上ふざけた事ぬかしやがると、ぶっ殺しますよ♪」

ラヒミス「…笑顔でそんなこと言わないでくださいよ(汗)」




代理人の感想

いや、重要なのはわかるんですが「動き」が無いといまいち楽しめないかな〜っと(爆)。

 

それはさておき、アキトの記憶にはやはり封印が掛けられてるようで。

人間、あまりにおぞましい記憶は自ら封印するといいますからねぇ(爆)。