機動戦艦ナデシコ

The Triple Impact


第九話 サレナ



ダイアンサス、食堂。一般的な昼食タイムもすぎたので、今は人影もまばらである。どのくらい少ないかと言うと、料理を運ぶのにホウメイガールズに手伝ってもらう必要がないくらいのガラガラっぷりだ。

そんな状態の食堂で、ダイアンサス主要メンバーの幾人かが一つのテーブルを囲んでいた。

「出来たぞ」

アキトがテーブルにオムライスを二つ置く。一つはラピスの分、もう一つはルチルの分だ。

「ラピスは分かるが、なんでルチルもオムライスなんだ?」

「その辺は企業秘密ね」

透真の問いに答えながら、ルチルがおいしそうにオムライスをほおばる。

「はい、天丼お待たせ」

「あ、どうも」

ホウメイが天丼を海人の席に置く。エビや各種野菜が豪勢に盛り込まれた、なかなか美味そうな一品だ。ちなみに透真は火星丼を食べている。

コトッ

ラーメンが空いている席に置かれ、そこにはラーメンを作った本人であるアキトが座った。…一応言っておくが、さすがに例の黒づくめの格好ではないので、あしからず。

「テンカワ、本気で料理人やってみる気ないかい?アタシの目から見ても結構いい筋してると思うよ、アンタは」

「…あいにくと俺はパイロットだけで手一杯さ、料理はあくまで趣味だよ。ま、ヒマな時くらいなら手伝ってもいいが」

「惜しいねぇ…。それじゃ、忙しい時は頼むよ」

「ああ、余裕があったらな」

ホウメイからの誘いを、ほんの少しだけ迷ってから断るアキト。それでも『ヒマな時は手伝う』と言うあたり、わずかに子供の頃に抱いていた夢への未練が残っているのかもしれない。

「もったいないですね、せっかくのお誘いを」

「仕方ないさ。俺の手はコックをするには少々汚れすぎているからな」

自作のラーメンをすすりながら、アキトが自嘲気味に答える。

「…料理を作っても作らなくても、アキトはアキト。でも、私はアキトに料理を作っていてほしい」

「心に潤いをもたらすためには、趣味の一つくらいは持ってた方がいいしね」

アキトが料理を作ることに賛成するマシンチャイルド二人。…残りの一人は、現在ブリッジでお留守番をしていた。



モグモグ…

ポツンと一人で遅めの昼食を孤独に食べる、ツンツン頭のハーリーと呼ばれている少年。

「ハア、何で僕だけ一人さみしく出前のチャーハンをブリッジで食べなきゃいけないんだろうね、アルファ?」

『さあ?』

『恨むんだったら、ジャンケンで負けた自分を恨めば?』

『もしくは自分の運の悪さ、とか』

「…君たちには聞いてないよ、ダッシュ、イクス」

一つのコンピュータに聞いたはずなのにウインドウが三つ出たので、残り二つのコンピュータも答えたと判断したハーリー。ウインドウが出た順にアルファ、ダッシュ、イクスである。

各コンピュータは、それぞれイクスがルチルを、ダッシュがラピスを、アルファがハーリーをマスターと認識している。とは言え、その関係は主従と言うよりは友人関係に近いのだが。

彼らとは付き合い始めてもう二年になる。ノアの経営が軌道に乗り始めた頃に三人がかりでネルガルにハッキングして、オモイカネを三つほどコピーしたのだ。『ちょっと疲れる作業』(ルチル談)だったらしい。

「…交代まで後一時間か。長い一時間になりそうだな〜」

チャーハンに付いてきたスープを飲みながら、ハーリーはこれからどのようにして暇をつぶそうか考えるのであった。





「そう言えば、防衛ラインからの攻撃が無いな?」

アキトが思いついたように呟く。ラーメンの丼はすでに空だ。

「ああ、そういや言ってなかったっけ?防衛ラインに関しては、もう一年も前から軍に話はつけてある」

透真が頬杖をつきながらアキトの呟きに答える。

「どういう話だ?」

「簡単に言うと、『火星から帰って来たらしばらくの間は軍の言うこと聞きますよ』って話」

「…もの凄いことを考える奴だな」

呆れながら透真を見るアキト。この男の突飛な行動は今に始まったわけでもないのだが、回を重ねる毎にだんだんスケールが大きくなっているような気がする。

「ちゃんと無茶すぎる命令には拒否権もあるわよ?一応、だけど」

ルチルが透真のセリフを補足する。ちなみに、この場合の『無茶すぎる命令』とは『木星に単機で乗り込んでいって敵を全滅させろ』と言うレベルのものである。

「ま、そういうわけでこの船には軍の人間は一人も乗ってないってワケだ」

「いいのか?それで」

気楽そうに透真が結論づけ、アキトが疑問を口にする。そこで、おもむろに海人が立ち上がった。

「どうした、海人?」

「ん?ちょっとそこまで行って来るだけですよ」

アキトにそう言って、食堂から出て行く。

「どこ行くんだ、アイツ?」

「自分の機体のテストだ」

「はあ?」

透真の言葉を聞いて、間抜けな顔をするアキト。…ルチルとラピスは、デザートのチョコレートケーキ(テラサキ サユリ作)にとりかかり始めていた。

取りあえず、ダイアンサスは今のところ平和であった。








「くっ…。なんなんですか、この複雑な防御壁は」

ナデシコのブリッジで、ホシノ ルリが四苦八苦していた。

ブリッジ要員が誰もいなくなったのを見計らい、ノアのホストコンピュータにハッキングを開始したのだが、恐ろしいほど完成度の高い防御プログラムが待ち構えていたのである。

苦戦しつつも何とか二つは突破できたのだが、そのどちらも決算報告だの従業員名簿だの、と大した情報ではなかった。彼女が欲しいのはもっと詳細なデータなのだ。特に、テンカワ アキトの。

だと言うのに、この防御プログラムは…。

最初の一つからかなり苦労させられた。何と言うか、プログラムの性格が悪かったのだ。二つ目は逆に几帳面な…言い方を変えれば、えらく細かい防御壁だった。

そして今とりかかっている三つ目、これがまた厄介であった。人をバカにしているかのような単純な作りかと思えば、いきなり複雑なプログラムが延々と続く。やっと抜けたかと思えばそれはフェイクで、何秒か後にまた複雑な防御壁が展開されるのだ。それがもう十九回も続いていた。

「今度こそ…!」

二十回目をクリアする。すでにルリの精神はストレスでかなり追い詰められていた。

ピピピーーッ

「え?」

いくらなんでも、もう無いだろう…。いや、あったとしても少しは休めるだろう。と思っていたルリの耳に、電子音が響く。

『残念無念、またどうぞー♪』

ルリの眼前に、そう書かれたウインドウが開く。

「ええ?」

『ここまで来れるなんて中々のウデだけど、最後の最後で油断しちゃったわね。

実は二十個目が終わった後に、ほんの少しだけユルいプログラムを入れて、そのあと間髪入れずに私の全力を投入したプログラムを入れていたのでしたー!

回を重ねるごとに休憩タイムが長くなってるコトに気がついてた?

フッフッフ、きっとそんなコト考える余裕なんて無かったでしょうねぇ。

だんだん長くなってる休憩タイムに慣れちゃって、二十回目が終わった後に数瞬ほど気を抜いたのがあなたの敗因ね。

それでは、またのチャレンジをお待ちしていまーす!!

追伸

ちなみに、私の防御壁を突破しても、まだ四つほど防御壁があるから、がんばってね♪』

「………」

ドサッ

ウインドウに表示された文字を読み終えて、ルリがその場に前のめりに倒れる。おそらく肉体と精神の両面からの疲労が原因であろう。

大体察しはついていると思うが、この防御プログラムは一つ目がハーリー、二つ目がラピス、三つ目がルチルの手によるものである。

ちなみに四つ目はハーリーとラピスの合作、五つ目がハーリーとルチル、六つ目はラピスとルチル、そして七つ目が三人全員の技術の結晶という、鬼のような構成になっている。

が、そんなことルリが知るはずは無い。

(ま、まだ四つもあるんですか…?)

今の彼女の体はどうしようもない疲労感と虚脱感に支配されていた。アレ以上のプログラムが、あと四つ…。これではアキトのデータを閲覧するのにどれほどかかることやら…。

ドゴォン!

「あー、そう言えば今は第四次ライン突破中でしたか」

ミサイル衝突の振動でゆれる艦内の中でルリは一人、今後のことについて考え始める。

「第三次防衛ライン…、確実にジュンさんが出て来るでしょうね。どうしましょう?」

ジュンはそれほど重要な人物でもないのだが、居なければ居ないで困ることもあるだろう。そんなわけで、ホシノ ルリは思考錯誤に取り掛かるのであった。

…結局、何もいい考えは浮かばなかったが。



「左三〇度、第三防衛ライン、デルフィニウム九機接近。プラス六〇度、距離八〇〇〇メートル」

「相転移エンジンの臨界ポイントまで、あとどれくらい?」

「あと、一九七五〇キロメートル」

(あああ、とうとうこの時が来ちゃいました。って言うか下手すると第三防衛ラインでナデシコ沈んじゃうような気が…)

先の分からないことに対する…いや、なまじ知っているだけ、より大きな不安がルリを包む。それでも不安を顔に出さずに作業をこなすのは流石だが。

「どうしますか?」

「…行きましょう!」

メグミの不安げな問いに、大した迷いも見せずに答えるユリカ。しかしそこで、

「けどさ、この船にロボット無いじゃん。どうやってあいつらの相手するんだ?」

カミヤマが当然の疑問を口にする。

「それについては考えがあります。ルリちゃん、デルフィニウム隊にミサイル発射!ついでにディストーションフィールドも出力最大に!」

「了解」

バシュバシュバシュバシュ!!

ズガガガアァァン!!

「九機中、四機撃墜。残存機、ナデシコに向かっています」

「うーん、四機か…。もうちょっと落とせると思ったんだけどなぁ、やっぱりそう簡単にはいかないか。カミヤマさん、少しくらい相転移エンジンや核パルスエンジンに負荷がかかっても構いませんから、可能な限り短い時間で最大船速を出して下さい!」

「あいよ。ちょいと揺れるだろうから何かにつかまってな」

カミヤマが少し気合を入れて操縦桿を握る。これまでの様子からは、ちょっと想像できない顔つきかもしれない。

「はい。皆さーん、これから揺れるそうですから何かにつかまっててくださーい!」

メグミの声が艦内に響き、クルー全員が取りあえずその場の固定物につかまる。

ゴオオォォォーーーー!!!

突然スピードを上げるナデシコ。それに面食らったのか、デルフィニウムが何機かまごつく。

チュドドォン!

まごついている間にナデシコが迫り、ディストーションフィールドが機体にぶつかって、行動不能に陥った。

ガガガガガガガ……

「くう〜〜〜〜〜〜〜っ!」

「きゃああ〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

当たり前だが、そんなことをすれば船体は揺れまくる。震度にして五か六、と言った所だろうか。

「お、おさまった…。…カミヤマさん!!どこが『ちょいと』なんです!!?大地震かと思いましたよ!!!?」

「あー、悪い悪い。何せこういうのやったこと無かったし。それにディストーションフィールドで敵に体当たり、なんて全然考えて無かったし」

ルリを挟んで問答するカミヤマとメグミ。こんな状況だと言うのに、どこか微笑ましさを感じてしまうから不思議だ。

「ルリちゃん、まだ残ってる?」

「はい。デルフィニウム隊、三機ほど残っています」

「うーん…」

ユリカが腕を組んで考え込む。彼女の計画では、この二つの攻撃で全滅、あるいは一機か二機に数を減らせるはずだったのだ。一機や二機の攻撃くらいなら何とか無視もできるだろうが、三機だとそうもいかないだろう。

世の中そう簡単にはいかないものだ、今後の教訓にしよう…と、ユリカが考えているうちに、デルフィニウムから通信が入った。

『ユリカ、最後のチャンスだ。ナデシコを戻して!』

「ジュン君!」

少し前までナデシコに乗っていた青年からの通信を受け、ユリカが多少驚く。あくまで多少、であるが(アキトからの通信の驚きと比べると、800:1くらいの驚きだ)。

『ユリカ、これ以上抵抗すればナデシコは連合宇宙軍を本格的に敵に回すことになる!僕は君と戦いたくない…』

「…ゴメン、ジュン君。私、ここから動けない。

ここが私の場所なの。ミスマル家の長女でも、お父様の娘でもない…。私が私でいられるのは、ここだけなの!」

『そんなに、あの男のことが…!分かった、ならナデシコには航行不能になってもらう!!全機、ナデシコの動力部を狙え!!』

ユリカの言葉を聞いて頭に血が上ったジュンが命令を下す。…少し考えれば分かると思うが、ナデシコはまだ地球の重力圏を抜け出していない。そんな状態で動力部を破壊すれば、当然まっ逆さまである。

そんな判断もできないほど、ジュンは冷静さを失っていた。

デルフィニウムが二機、ナデシコ後方に回りこむ。

「カミヤマさん、何とかならないんですか!?」

「デカ物ってのは小回りがきかないようにできてるんだよ。文句言うなら設計した奴に言え」

「ルリちゃん、ミサイルは!?」

「ダメです、近すぎます」

「う〜〜〜〜ん、せめて機動兵器があれば…」

「すいません、艦長…」

「プロスさんが謝ることじゃないですよ。う〜〜ん、どうしよう…」

ユリカがこれからどうするか悩み抜いていると、そこへ…、

ドゴォン! ドゴォン!

突然爆発音が響く。見ると、ナデシコ後方に回りこんでいたデルフィニウムの姿は無かった。

『なにっ!?どこからの攻撃だ!?うわぁっ!!』

ドォン!

ジュンの機体のブースター――人間で言うなら足の部分に当たる――が爆発する。

ドォン! ドォン!

続いて頭部、左腕。その衝撃で、ナデシコの方向へと流されていくデルフィニウム。

「分析できました。超遠距離からの重力兵器のようです」

「重力兵器…って、グラビティブラストみたいな?だったら何であんなに爆発が小さいの?」

「おそらく収束率が通常とは比べ物にならないほど高いものと思われます。第一次防衛ラインのもっとずっと先から撃ってるみたいですから…」

「ふーん?」

いまいち解っていないのだが、取りあえず納得した振りをするメグミ。しかし解説した当のルリは、心中穏やかではなかった。

(あそこまで収束した重力兵器なんて、五年後にも存在していない…。まさか、また『ノア』の?)

自分の知らない技術の出現によって、本格的に『ここ』が自分の知らない世界であると自覚するルリ。

それはさておき、このまま行くとデルフィニウムはナデシコのディストーションフィールドに激突してしまうコースを辿っていた。

「ルリちゃん、一瞬だけディストーションフィールド解除!ついでに格納庫のハッチも開けて!」

「艦長、それでは第一次ラインはともかく、第二次ライン上ではナデシコが無防備に…」

「その辺は謎の助っ人さんに期待しましょう!カミヤマさん、格納庫にデルフィニウムは入れられますか?」

「んー、ちょっと微妙…」

ドォン!

デルフィニウムの右腕が爆発する。そのショックによって方向転換したデルフィニウムが、ちょうど格納庫に入る。

「まさか、ここまで計算して…?」

プロスが呆然と呟く。どの陣営がやったのか大方の見当はついているのだが、まさかここまでの腕前とは思っていなかったようだ。

「第二次防衛ラインからミサイルが発射されました」

「…!」

息を呑むブリッジクルー。『謎の助っ人に期待する』とは言ったが、絶大な信頼を寄せてもいる、と言うわけでもない。それでもユリカには余裕があった。根拠は無いが、大丈夫な気がするのだ。…そしてそれは的中する。

ドドドドドドドドドドドドン!!!!

爆発するミサイル第一陣。ブリッジクルーの内の何人かは、爆発する寸前にミサイルを貫く数発の黒い閃光を目にした。

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドオォォン!!!!!

そして、すべてのミサイルがアッという間に消える。ブリッジクルーは例外なく呆気にとられていた。

「何とかしてくれるとは思ったけど、ここまですごいなんて…」

呆然としながらユリカが呟く。それは、その場にいる全員の感想そのものであった。

その後ディストーションフィールドを再展開したナデシコは、無事に第一次防衛ラインを突破。サツキミドリ二号を目指すのであった。

…ちゃっかりムネタケとその一味も脱出していたりする。








五分後、ダイアンサス格納庫。

「オーライ、オーライ…よし、ストーップ」

青いサレナがウリバタケの誘導により、格納庫のハンガーに収まった。

そして機体から天宮 海人が姿を現し、ウリバタケの元へと向かう。

「どうだった、新兵器は?」

「中々ですね、速射性も合格点です。さすがウリバタケさん」

「ケッ、このグラビティ・スナイパー・ライフルを設計したのはお前だろうが。俺は組み立てただけだよ」

ブルーサレナの隣に立てかけられたライフルを見てウリバタケが呟く。ライフルの大きさは、サレナより少し大きい、と言った所であろうか。

「んー、でも耐久性に多少問題がありますね。三十発ほど連続で撃ったら壊れちゃいましたよ」

「三十発ぅ〜!?いくらなんでもそれだけ連射したらぶっ壊れるだろうが!!」

「やっぱそうですか」

「そうだよ。…で?改良プランはもう組み立ててあるんだろ?」

「もちろん。火星に着くまでにはまとめておきますよ」

そう言って、出口に向かう。

「ったく、何でそんな湯水のようにアイデアが出てくるんだ、お前は?」

「こっちが聞きたいですよ」

後ろを向きながらウリバタケに手を振り、格納庫を後にする海人。自室に戻る途中で、透真を見かけた。

「よう、艦長に何の報告も無しってのは酷いんじゃないか?」

「…そう言えばあなたが艦長でしたっけね」

「そう言うお前は副長だろ?」

どちらともなく笑いあう二人。とても戦艦の艦長と副長の会話には聞こえない。

「立ち話もなんですし、僕の部屋に来ませんか?お茶くらいなら出しますよ」

「んじゃ、厄介になろうか」





「ああ、ちょっと待っててください。すぐに片付けますから」

足の踏み場もないほどに部屋を埋め尽くす大量の紙の山、ワケのわからない図面のようなものが描かれているものの他に、まったくの白紙もある。机の上には端末が二つ、一つは電源が入れっぱなしで、何かの処理をしているようだ。キッチンの辺りだけは整理されているが、これは単純に使用していないせいであろう。

天宮 海人の部屋は、そういう空間だった。

「常日頃から整理整頓してないから、そういうことになるんだよ」

「あはは、でもこういう部屋も趣きがあっていいでしょう?」

笑いつつ、取りあえずベッドの上に書類を運ぶ。透真がこの部屋にいる時間はそんなに長くはないだろうから、一時的な処置だ。

「お前はこれを見て趣きを感じるのか、と問いたい」

「じゃあワビサビとか、風流とか」

「…もういいよ。まだ片付けは終わらんのか?」

付き合ってられん、とばかりに話題を変える透真。基本的にツッコミ役は海人なのだが、たまにこうやってボケとツッコミが逆転することがあったりする。

「よし、バッチリですね。部屋を整理した直後って、何か自分の部屋なのに自分の部屋じゃないような気がしません?」

「それは何となくわかるが、これで『整理した』と言い張るお前ってすごいと思う」

確かに五分前よりはマシになったが、人が二人くらいギリギリでは入れるか入れないかくらいの空間ができただけである。

「さ、どうぞ。あ、紙は踏まないでくださいよ。僕の思いつきを記録した資料なんですから」

「あっそ」

『端末に記録すればいいじゃないか』と言ったこともあったが、『一瞬の閃きをデータとして記録するにはマシンチャイルドでもない限り不可能です、だから紙を使うんですよ。それにベッドで横になってるときやお風呂に入ってるときにパッと思いつくときもありますからね、それでこの部屋には紙があふれてるんです』と返された。

それはそれで一理あると思うのだが、やはり物事には限度がある、とも思う。いくらなんでも風呂場に防水性の紙を常時備え付けて置くのはやりすぎではないだろうか。

まあ、そういう所もすべてひっくるめて『天宮 海人』であるのだが…。

そう考えながら、わずかな紙の隙間を縫って部屋を進んでギリギリの隙間に座り、海人からお茶を受け取る。

「で、どうだった?機動兵器サイズのボソンジャンプは」

「基本的には生身と変わりませんね、ジャンプフィールド発生装置も特に異常は見られませんし。この分なら戦艦サイズも割と簡単にいけるんじゃないですか?」

「『記録』によると、『あっち』のアキトはそれを使いこなしていたようだが…。今の所は必要無いな。いずれは使うことになるだろうが、もっとずっと先だろうし」

意外とお茶がうまいことに密かに驚きつつ、透真が話す。実は先ほどの防衛ラインの戦闘に向かうのに、海人はテストを含めてボソンジャンプを使っていた。機動兵器サイズでジャンプできれば、これから先何かあったときに迅速に対応できるからだ。

「それに、ネルガルやクリムゾンに対するカードは多い方がいいからな。ジャンプにしろ機動兵器にしろ、まだこっちが持ってる手を明かすわけにはいかんさ」

ズズーーーッ

透真が音を立ててお茶を飲み終え、テーブルの上に置く。そして立ち上がり、再び紙と紙の隙間をうまく使いながら出口を目指す。

「あれ、もう帰っちゃうんですか?」

「こんな部屋に長居できるか。ああ、それとさっきの戦闘で使った…なんとかライフル?あれをできるだけ早く使えるようにしておけ、すぐに出番になる」

「いつまでです?」

「あと…」

左腕のコミュニケを見て、現在時刻を確認する。

「予定では二十二時間後だな」

「…やるだけやってみますよ」

「期待してるよ、じゃあな」

プシュン!

部屋のドアが閉まり、後には海人だけが残された。海人は足元にあった白紙の紙を手にとり、

「さて、気合入れていきますかね」

グラビティ・スナイパー・ライフルの再設計を開始する。目標は四時間で設計を完了し、十五時間で組み立てだ。組み立てならウリバタケに任せればいいから、自分はその間に休んでおこう。

これが海人の立てたプランだった。

実際には三時間で設計は終わり、組み立ては十二時間で終わったのだが。



二十時間後。ダイアンサスはすでにサツキミドリ2号に到着していた。

「どうしよう、三時間も早く着いてしまった」

「いいんじゃない?それだけ早く補給もできるんだし」

「そりゃそうだが」

ブリッジで補給リストを眺めながら会話する透真とルチル。他のメンバーは短めの自由時間を楽しんでいる。

「つかの間の休息、か…。予定ではもうすぐ襲撃があるはずなんだが」

「不謹慎ね、敵が襲ってくるのを待ってるなんて」

「いいじゃないか、俺だけまだ出撃してないんだから」

「ヤマダさんもまだ出撃してないけど?」

「アイツは別にいいんだよ」

「酷いわねぇ…。……!敵反応あり!!あと五分ほどでサツキミドリに到達するわ!!」

二人で雑談をしていると、突然レーダーに反応が現れた。ダイアンサスのレーダーは通常のそれよりもはるかに高性能なので、恐らくサツキミドリのレーダーには何の反応もないであろう。

「大至急全クルーに緊急連絡、全員戻りしだい発進しろ。それと…」

透真がテキパキと指示を出し、もう一つある意味非常に重要な命令を出す。

「現時刻をもって艦長の全権限を一時的にルチル オニキスに移行、以後は俺がブリッジに戻ってくるまでダイアンサス自体はルチルの命令に従うこと。なお、緊急の場合は俺に命令の優先権があるとする。この命令は俺がこれから出撃するたびに発令され、いちいち断りをしなくてもよい」

「了解」

「じゃ、俺は一足先に出撃してるから」

艦長席の前にある、マスターキー差込口の隣の赤いボタンを透真が押す。すると透真が座っているイスが回りの床ごと瞬時に沈み、完全に消えるとまた何事も無かったかのように床が穴が閉じた。

「うーん、ちょっとやってみたいかも」

その様子を見ていたルチルが、少しうらやましそうに呟く。

しかしそんなことを考えている場合ではない。これからダイアンサスは、初めて本格的な戦闘を行うのだ、しかも自分の指示で。これは責任重大である。

「うう〜、緊張する〜〜…」

自分は人を指揮するのに向いてないな、と思いつつ、ルチルは気を引き締めるのだった。





「ウリバタケさん、どうですか?」

「おう、バッチリよ!安心して出撃しな!!」

艦長用特別エレベーター(副長用も存在する)でダイレクトに格納庫に向かっている間にパイロットスーツへの着替えを済ませ、自分の機体へ乗り込む透真。小型相転移エンジンの起動も完了し、いつでも発進できる状態だ。

「ゴールドサレナ、出るぞ!!」

ドシュウウウウン!!!

そして、黄金の機体が戦地へと飛び立つ。

「しっかし、艦長が自ら機動兵器に乗って出撃する何ざ、今まで聞いたことねえぞ」

透真の出撃を見送った後で、ぼやくウリバタケ。至極もっともな意見である。



「おお、来た来た!」

接近してくる敵編隊を確認し、ゴールドサレナの両腕にディストーションフィールドが集中する。

このサレナタイプは各パイロットの特性に合わせた作りになっており、それぞれ外見は同じでも異なる特性をもっている。

たとえば海人のブルーサレナは射撃戦が主体であり、大きなダッシュ力は無い代わりに索敵能力が高く、各種長距離武器も搭載している。

逆にゴールドサレナは近接戦闘が主体で、三機中出力が最も高いのだが飛び道具は『記録』のブラックサレナと同じく、両腕のカノン砲しか装備していない(一瞬で距離をゼロにする出力があれば、遠距離兵器は必要ないと透真が判断した)。

ブラックサレナは二機の中間のような存在で、中距離戦向けの構造となっている。近接戦闘もある程度はこなすし、カノン砲や小型グラビティブラストも搭載している。射撃も格闘もこなすアキトらしい機体と言えるだろう。

もっとも、これらは全て海人の設計したものだが。

『お待たせしました』

『ずいぶんと迅速な出撃だな、透真?』

ブラックサレナとブルーサレナがゴールドサレナの横に現れる。ブルーサレナの手には、長大なライフルが握られていた。

「お前らが遅『はっはっは!!ようやく俺の出番か!!』

三人の会話に、ヤマダの大声が割り込む。

『フッ、木星トカゲどもめ、来るなら来い!!このダイゴウジ ガイ様が、命に変えてもこのコロニーを守ってみせる!!!』

「意気込んでるところ悪いが、お前はダイアンサスの防衛に当たれ」

『な、何でだよ艦長!?ヒーローがそんな消極的なことできるわけねえだろ!!あ、さては自分たちだけ目立とうって魂胆だな!!?汚えぞ!!!』

透真の命令に必死になって抗議するヤマダ。透真は呆れつつも、何とかヤマダの説得を始めた。

「いいかヤマダ、お前はサツキミドリのことばかり気にかけているが、だったらダイアンサスはどうなる?俺たち機動兵器組だけが戦っているんじゃないんだ、ダイアンサスだって戦ってる。その間にもしダイアンサスが…、俺たちの帰る場所が消えてしまったらどうする?」

『そ、それは…』

「確かにコロニーは大事だ、しかしそれ以上に俺はダイアンサスも大事なんだ。だから…、艦長としてじゃなく男として頼む、ダイアンサスを守ってくれ」

『…おう!!わかったぜ艦長!!!!ダイアンサスは俺に任せろ!!!!』

涙ぐみながらディモルフォセカをダイアンサスへと向かわせるヤマダ。完全にその姿が見えなくなったところで、

「フッ、単純なヤツだ」

透真がボソッと呟く。

『…悪人。枝織にも似たようなことを言って誤魔化したことが無かったか?』

『ああ、たしかケーキがどうこうでしたっけ?』

軽く透真を非難するアキトと海人。ちなみに『ケーキがどうこう』とは…、





九年前、木連。沙耶香がみんなで食べよう、とケーキを買ってきた。その数十五個である。

が、それを枝織があっという間に四割ほど平らげてしまった。そこで透真が、

「おい、もう食うの止めろ」

と、枝織を止めに入った。

「えー?枝織、もっとケーキ食べたいー」

「あのな、枝織。小さいうちからそんなに甘いものばっかり食べてると、そのうち太るぞ」

「え!?」

硬直する枝織。

「特にケーキはカロリーがバカみたいに高いしな。もうあんなに食っちまったんだから、明日あたりにはもう体重が増えてるかもなぁ?」

「そ、そうなの?」

「ああ。これ以上ケーキを食ったら、もう確実に太るな」

「じゃ、じゃあ、もうケーキ食べない!!」

にやけながら喋る透真のセリフを聞いて、枝織は大決断をする。

「そうか、わかってくれて俺も嬉しいよ」

にこやかに枝織に語りかける透真。そして彼は合計で三つケーキを食べたのであった。

「あれ?どうした零夜、ケーキ食べないのか?結構うまいぞ」

「……」

透真の鈍感は、この頃から発揮されていたらしい。

後日、彼は友人約二名にこう語った。

「ああ、ケーキを食べて太る心配?他のヤツはともかく、俺たちは心配ないだろ。何てったってケーキで摂取するカロリー以上に運動してるんだから。むしろケーキ二十個食べても足りないくらいだな。ハッハッハ」





「…誤魔化されるヤツが悪いんだよ」

『…何も言うまい』

『ですね。…それじゃ、ボチボチ行きますか!』

「よし、俺は突撃してデカいのを叩く。アキトは細かいヤツの掃討、海人はサポートだ。…ダイアンサス!グラビティブラストを敵に向けて発射してくれ!」

『了解!』

カッ!

ドゴオオオォォォォン!!!

透真の要請に従い、グラビティブラストを発射するダイアンサス。それによって敵がひるんだ隙に、黄金と漆黒が突撃する。

「さぁて、実戦テストといこうか!!」

そして、ほとんど一方的な戦闘が始まった。

戦艦に異常なスピードで接近し、拳による突撃で貫くゴールドサレナ。攻撃を紙一重で回避し、次の攻撃が始まるまでに七、八隻の戦艦を落とす。

縦横無尽に動きながら、カノン砲を乱射してバッタを次から次に撃墜して行くブラックサレナ。乱射と言っても、その命中率は九割を超えていた。

そんな二機の攻撃を辛うじてかいくぐった幸運な無人兵器を、ブルーサレナが容赦なく狙撃する。たまにライフルの出力を上げていくつか戦艦を落としたが、操縦している本人にとっては物足りなかった。

「ま、昨日は無数のミサイルを落とせたんだから良しとしますか」

そう考えながら、アキトが撃ちもらしたバッタを落とす。一度に一機か二機しかいなかったが。

これの繰り返しによって敵はまもなく全滅し、サツキミドリ2号はほぼノーダメージで済んだ。








ナデシコはサツキミドリ2号の目前まで来ていた。

「すごい…」

ブリッジの誰かが呟く。防衛ラインのミサイル狙撃にも驚いたが、今度はそれ以上の驚きだ。

「あの金色の機体、信じられないくらいの加速力だね。中にいる人は大丈夫なのかな?青い機体…多分、あの機体が私たちを助けてくれたんだと思うけど。黒いのは…アキトだ!うーん、素敵…。メグちゃん、戦闘が終わり次第ダイアンサスに通信入れて」

「は、はい」

ブラックサレナに関してだけ私情を挟みながらコメントするユリカに脱力しつつ、メグミは通信を入れる準備をする。

「敵、全滅した模様です」

(…ウイルス、ムダになってしまいましたね。でも、ちゃんと送っておいたハズなんですけど…)

ルリがサツキミドリに送ったウイルス――エマージェンシーコールを鳴らす働きを持つ――は送った途端にハーリーによって発見され、見事に消去されていた。戦闘開始の一時間ほど前のことである。

「メグちゃん、通信は?」

「つながりました、正面ウインドウに出します」

ピッ!

現れたウインドウには、女子供しか映っていなかった。

「あのー、艦長さんは?」

『あ、私が艦長代理のルチル オニキスです、よろしく。で、こっちがラピス ラズリで、こっちがマキビ ハリ。そっちの端にいるのがハルカ ミナトさん』

「は、はあ、どうも。それじゃ、私が艦長のミスマルユリカです、よろしく!で、隣にいるのがアオイ ジュン君に、プロスペクターさんとゴート ホーリーさん。後ろにいるのがフクベ ジン提督で、下にいるのが、あなたたちから見て左からカミヤマ タクヤさん、ホシノ ルリちゃん、メグミ レイナードちゃんです!」

ブリッジメンバーを紹介していくルチルに困惑しながらも、負けてなるものかとこちらもブリッジクルーの紹介を始めるユリカ。…一体何の勝ち負けなのだろうか?

ウイィーン

『お待たせ』

『今帰りました』

艦長席とその一メートルほど隣の床が開き、そこからイスに座った透真と立ったままの海人が現れた。ナデシコの方からは、突然艦長と副長が床から生えてきたようにしか見えなかったが。

『おや、何の話をしてたんだ?』

『お互いのブリッジクルー紹介かな?』

『んじゃ俺…はもう言ってあるから、こっちの頼りなさそうな男が副長の天宮 海人だ』

『頼りなさそうって…、酷いですねぇ』

『外見からはそう見えるんだよ』

「あ、あの!!」

『『ん?』』

ユリカが二人の漫才を止め、透真と海人がウインドウを見る。

「あのー、今までどちらにいらしてたんですか?戦闘中に艦長がいなくなるって、ちょっと問題あると思うんですけど…」

『戦闘してたが』

「はい?」

『機動兵器に乗って戦闘していた。金色の機体に乗っていたんだが、見えてなかったか?』

「ええっ!!?あ、あの金色の機体って、あなたが操縦していたんですか!!?」

「信じられないな…」

「あれ程の加速Gに耐えられるとは…」

「ムチャクチャですな」

「何でパイロットに専念しねえんだ?」

「でも艦長でパイロットって、ちょっとカッコいいかも」

「…むう」

「サレナタイプが三機…ワケがわかりません」

ナデシコの面々がそろって驚く。艦長自ら機動兵器に乗って戦うことに驚いているのか、それとも艦長があれほどの腕前をもっていることに驚いているのか…、恐らく両方だろう。

『あ、それと青い機体を操縦してたのがコイツ』

『ははは…』

透真が隣にいる人物を指差し、海人がはずかしそうに笑う。

「副長も…」

呆然と呟くユリカ。チラリと自分の隣にいる青年を見て、小さく溜息をついた。

「ユリカ、どうしたの?」

「気にしないで、ジュン君…。天宮さん、昨日はありがとうございました。おかげで防衛ラインも抜けられましたし」

『はて、何のことです?僕は昨日はブルーサレナには一度も乗っていませんが?』

「…じゃ、そういうことにしておきましょう。あ、そうそう、アキトいますか?」

何となく微妙な緊張感を海人と漂わせながら、ユリカがアキトの存在を確認する。

『あー、ちょっと待っててくれ。おーい、アキトー?』

ピッ

『何だ、透真?俺は今ブラックサレナについてウリバタケと相談中なんだが』

ウインドウが現れ、その中のアキトが面倒くさそうな顔をする。後ろにはアキトの言葉どおり、ウリバタケがちょっとだけ映っていた。

「アキト!!すごい腕前だね、さすが私の王子様!!それで、ちょっとアキトにお願いがあるんだけど、いいかな?」

『…何の用だ、ユリカ?』

心の底から嫌そうな顔をするアキト。しかしユリカは全然それに気付いていないようだ。…彼女もまた、ある意味では鈍感なのかもしれない。

「えーっとね、アキトをこのナデシコに招待したいの!!」

『『『『『『『『はあ?』』』』』』』』

ブリッジクルーとアキトはもとより、ウリバタケまでそろって素っ頓狂な声を上げる。

「ダメ?」

『いや、そんなこと言われても…。どうする、透真?』

『フム…。いいだろ、別に。俺を含めて他にも何人かお邪魔するが、いいかな?』

「ええ、もちろん!お茶の準備をして待ってますね!!」

ピッ

「さーて、いろいろ準備しなくちゃ!」

「あの、艦長?」

プロスが多少混乱しながらユリカに問いかける。すなわち『どういうつもりか』と。

「大丈夫ですよ。それに、同じ艦長同士でお話もしてみたいと思ってましたし」

「はあ…」

(まあ、いいですか。運がよければ『彼』のことも聞けるかもしれませんし…)

十年前のことを思い、密かに眼鏡を光らせるプロスと、

(願ってもないチャンスです。これほど早くアキトさんと接触できるとは…)

漆黒の機動兵器に乗っていた青年のことを思って、不気味に笑うルリ。

「なんか、ルリちゃんが怖いんですけど…」

「気にすんな。そういう年頃なんだよ、多分」

「…どういう年頃なんです?」


…彼女を挟んでそんな会話がされたが、ルリはそれに気付いていなかった。





一方、ダイアンサスでは。

「いいんですか?簡単にOK出しちゃって」

「わざわざ誘ってくれたんだ、断るのも悪いだろう?それに、敵情視察も兼ねてるしな」

海人と透真が話し合いをしていた。…普通こういう会話はブリッジではなく、もっと秘密っぽい場所で行うものだと思うが。

「…で、誰が行くんです?」

「俺とルチルとアキトとラピスだ」

「何で僕が留守番なんですか?」

「お前には補充パイロットのお出迎え、という大変重要な任務を命じる。艦長がいないときの代理は、副長の務めだろう?」

「…わかりましたよ。お茶飲みたかったんですけどねぇ」

けっこう理不尽な理由による留守番だが、それでも納得するところが二人の付き合いの長さをうかがわせる。

「ホシノ ルリ、か…。会うのが楽しみね」

「ナデシコ…、ダイアンサスと外見は似てるけど、性能は劣る船…。何でそんなところに行かなきゃいけないの?」

マシンチャイルド女性組(男性組は一人しかいないが)は、期待と疑問で静かに盛り上がる。

「僕はその間、一人で作業するのか…」

「いいじゃない。何事も経験よ、経験!」

不満タラタラのハーリーと、それをフォローするミナト。

そして三時間後、各艦の代表者がナデシコに集まる。

ちなみにサツキミドリ2号は、いつまた木星トカゲに襲撃されるかわからないので、閉鎖されることとなった。









あとがき



ルチル「なんか、回を重ねる毎に容量が増えていくわね」

ラヒミス「次回はもう少し軽くするつもりなんですけど…」

ルチル「どうだか。40k突破したりしてね?」

ラヒミス「大丈夫ですよ…、多分ね。じゃ、反省いきますか」

ルチル「ダイアンサスの防衛ライン素通りって、ちょっと強引すぎないかしら?」

ラヒミス「うーん、でも無理やり突破しちゃうと、いずれコンピュータ三つの内のいくつかが反乱起こしちゃうんですよね。そうなると少し厄介なんで」

ルチル「そっちの方が面白そうじゃない?」

ラヒミス「…それを言わないでください。それに、軍との関係をこじれさせるのも何ですし」

ルチル「『大人の事情』ってヤツね。私はそんな大人にはなりたくないわ」

ラヒミス「そんなこと言ってる子供に限って、そういう大人になったりするんですよ」

ルチル「ま、否定はしないけどね。次は…防御プログラムか」

ラヒミス「これは結構前から考えてました。いいアイデアだと思いませんか?三人による七重ガード」

ルチル「やりすぎのような気が…」

ラヒミス「他はともかく、防御面に関してはやりすぎということはありません。自論ですけど」

ルチル「ふーん。これに関してはそれほどツッコめる所でもないし、次行くわよ」

ラヒミス「サレナタイプ、全機そろっての戦闘です。サツキミドリをデビュー戦に選んだのは、火星宙域だと少し遅すぎるかな、と思ったからで…」

ルチル「パワーバランスが悪すぎないかしら?木連には北斗しかいないでしょう?」

ラヒミス「その辺はすでに考えてあります。あと二、三話中にはその対策を出せると思いますよ…フフフ」

ルチル「『今後の展開に活目せよ』ってとこ?」

ラヒミス「ええ。意外性はあると思うんですが」

ルチル「そうなんだ。そうそう、グラビティ・スナイパー・ライフルって何?」

ラヒミス「読んで字のごとくですよ。補足すると、ブルーサレナの小型相転移エンジンと繋げて弾を発射します。ブラックサレナやゴールドサレナも使用可能ですが、透真はもちろんアキトも長距離射撃は苦手なので、二人とも今のところは使う気はありません」

ルチル「ふーん、じゃあラスト、いきなりユリカがみんなをナデシコに招待したけど、これって何の意味があるの?」

ラヒミス「いや、次回を見れば分かると…」

ルチル「どうだか。書いてる途中にフッと思いついて、勢いで書いちゃったんじゃなかったかしら?」

ラヒミス「…作者の内情を暴露しないでくださいよ」

ルチル「いいじゃない、減るもんじゃないし」

ラヒミス「そりゃそうなんですけどね。それでは、次回のゲストは…誰にしましょうか?」

ルチル「キャラにそんなこと相談しないでよ。…それじゃ、ウリバタケさんなんてどうかしら?」

ラヒミス「じゃ、それでいきましょう」

ルチル「…本格的に某お昼の名物番組化してきたわね」

ラヒミス「いや、自分でもそう思ってるんですけどね」





 

 

代理人の感想

う〜む、三対一、しかも「遺跡」じこみのテクの前では流石の電子の妖精も勝てなかったか(笑)。

 

しかし、今回何より注目したいのはここ。

 

>透真が座っているイスが回りの床ごと瞬時に沈み、
>完全に消えるとまた何事も無かったかのように床が穴が閉じた。

 

浪漫と言う物をわかってますなぁ、うん。