機動戦艦ナデシコ

The Triple Impact


第十話 お茶会



ダイアンサス格納庫、無事に合流できた新人パイロットの自己紹介タイムが始まった。それぞれのパーソナルカラーに彩られたカスタムディモルフォセカ(0G戦フレーム)が背後に並んでいる。

「はじめまして!新人パイロットのアマノ ヒカルで〜す!!」

「おおおおおお〜〜〜〜〜!!!!」

異常な盛り上がりを見せるメカニック達。彼らにとって『女性のパイロット』は、かなり貴重な存在なのであろう。接触できる可能性も結構高いし。

「へびつかい座のB型で、十八歳!好きな食べ物はピザの端っこの硬いトコと、ちょっと湿気たおせんべいで〜す!!」

「おおおおおおおおおおお〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」

「おおお、普通っぽい女の子だ!」

「ルチルちゃんとラピスちゃんはちょっと犯罪っぽいし、ミナトさんはガードが固いらしいし、ホウメイガールズのみんなとは忙しくて接触する機会がないからな〜〜!」

「うんうん、これで俺たちにもチャンスが…!!」


ヒソヒソと同意しあうメカニック班。…メカニックって、そんなに女性と縁がないのであろうか?

「同じくパイロットのスバル リョーコ。好きなものはオニギリ、嫌いなものは鶏の皮。特技は居合い抜きと射撃だ。以上」

「うわああああああおおおお〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

もはや半狂乱状態である。

「ボーイッシュタイプ!!これはレアだぞ!!」

「ああ!これは殺伐とした環境下にある俺たちに、神が与えたもうた奇跡だ!!」

「チクショウ、いいこと言うじゃないかオマエ!!」


ずいぶんと安っぽい奇跡だ。

「リョーコちゃん、愛想が悪いよ。もっと笑顔を振りまかなきゃ」

「なんで自己紹介するのに笑顔を振りまかなきゃなんねーんだよ」

「もう、しょうがないなぁ。じゃ、私が代わりにリョーコちゃんの秘密を…」

「ヒカル!余計なことすんじゃねえ!!」

仲のいいリョーコとヒカル。…そして彼女が登場する。

ポロロ〜〜ン…

「!?」

いきなりウクレレの音が響き、何事かと音のした方向を見るその場のメンバー。

「どうも、新人パイロットのマキ イズミです…」

「な、なんか妙なタイプだな」

「い、いや、意外とまともな娘だったり…」

「…俺は違うと思うが」


一気に正気に戻り、冷静に目の前にいる女性を分析するメカニック連中。現金な奴らだ。

「フ、フフフ、フフ…ヒカルとリョーコ…二人揃って…」





…時は動き出す。

「い、一体何が…!?」

「わ、わからん!!」

「俺たちが全員、何らかの理由で意識を手放していたのは間違いないようだが…」

状況を把握しきれていないメカニック達を尻目に、楽しげにウクレレを弾くイズミ。リョーコはそんな彼女を見てこめかみに人差し指をあて、ヒカルは苦笑している。

「ったく、アイツは…」

「まあまあ、アレがあってのイズミちゃんなんだし」

どうやら彼女たち二人は、何が起こったのか分かっているようだ。慣れ、であろうか?

「そうそう、あのゴツい機体のパイロットって誰だ?」

三機のサレナを指差しながら、リョーコが尋ねる。…残り一機のディモルフォセカは気にも止めていないようだ。

「そうそう、特にあの金色の機体のパイロット!すっごいよねぇ〜、あんな急加速してたのに、当然のように乗りこなすんだから!!」

「いや、黒い機体の方がすげえだろ。あれだけ乱射しといて、撃ちもらしたのがたったの十数機だぜ?」

「アタシは青い機体が気になるわね。その撃ちもらしたヤツを、あの距離で撃ち落とす力量…。あんなに正確な射撃は見たことないわ」

「はは、どうも」

「「「え?」」」

声のした方向にいた青年を、三人同時に見る。青年は何となく気恥ずかしそうな顔をして、頬をかいていた。

「お、お前があの三つの機体のうちのどれかのパイロットなのか!?」

「ええ、ブルーサレナパイロット兼副長の天宮 海人です。よろしく」

「副長さんなのに、パイロットもやってるの?」

ヒカルが興味津々な顔をして海人に迫る。…整備班の怨みのオーラが漂ってきたが、気にしてはいけない。

「それより、残りの二人のパイロットはどこにいんだよ」

…実はもう一人パイロットがいることなど、その場の全員が忘れていた。

「…今頃、お隣でお茶でも飲んでるんじゃないですか?」

「はあ?」

リョーコにそう言って、隣を平行移動する戦艦に思いを馳せる。あの四人とミスマル ユリカのことだ、きっと気楽なお茶会でもやってるんだろう。

その予想は、九割方当たっていた。








「コーヒーと紅茶、どっちがいいですか?」

「紅茶で」

「俺はコーヒーだ」

「ココアある?」

「アキトと同じの」

にこやかに問いかけるユリカに、透真、アキト、ルチル、ラピスの順で答えるダイアンサス代表。これにジュンとプロスを加えた七人が、会談(お茶会)のメンバーである。

カチャッ

各メンバーの席に、それぞれの飲み物が置かれる。ユリカが紅茶を一口飲んだ所で、話を切り出してきた。

「ねえアキト、私が火星を離れたあの日に、何があったの?」

「…お前、そんなことを聞きに呼び出したのか?」

コーヒーを飲みつつ、呆れながらユリカと話すアキト。ちなみにアキトの服装は例の黒づくめだ(バイザーは外している)。

「だって、お父様に聞いても『わからん』としか言ってくれなかったし、プロスさんに聞いても『わかりません』なんだもん」

「あのな、ユリカ…」

「嬉しい!今でも私のこと、『ユリカ』って呼んでくれて!!」

「「ハア…」」

妙なペースで話す二人に頭を抱えるジュンとプロスとは対照的に、ダイアンサスのメンバーは純粋にお茶を楽しんでいた。

「…にがい」

「そりゃブラックだからな、砂糖くらい入れろよ」

「だって、アキトは何にも入れてないもの」

「お子様は年相応に、ミルクでも飲んでなさい」

「…ルチルだって子供のくせに」

「だからココア飲んでるんじゃない…ん?」

ルチルがココアを飲んでいる途中で、何かに気付いたような仕草をする。

「どうした?」

「んー、ちょっとね。…よいしょっと」

イスから下りて壁に右手をつく。そして目を閉じて集中し始めると、右手の甲のナノマシンが輝いた。

「これでよし」

五秒ほど経って、手を離す。

「何やってたんだ?」

「ちょっとした注意、かな?」

「なんだ、そりゃ」

透真の質問に答えて席に戻り、残りのココアに手を伸ばすルチル。何となく満足そうだ。



ナデシコブリッジ。ルリが異様な雰囲気をかもし出しつつ、お茶会会場を監視(覗き見)していた。

(…やっぱり、こんなものではよくわかりませんね。直接会うのが一番なんですが…)

どうやって一番自然に直接会うか、しかもできれば二人きりで。これが最大の難問である。

(それにしてもこの黒髪の女の子…。マシンチャイルドのようですが、何者なんでしょう?)

自分とマキビ ハリ、そしてラピス ラズリ以外のマシンチャイルド。これは大きな懸念事項であった。

「ううう、ルリちゃんが恐い…」

そんなルリのプレッシャーを間近で受けなければならないメグミ、災難以外の何物でもあるまい。ちなみにカミヤマは部屋で就寝中だ。

そんな中、ウインドウの中のルチルがおもむろに立ち上がる。

(おや、突然立ち上がったりしてどうしたんでしょう?壁に手をついて…?)

ピピッ

『覗き見はダ・メ・よ♪』

いきなりルリの前にそう書かれたウインドウが現れる。

「なっ!!?」

「ひっ!?」

突然大声を上げるルリに驚くメグミ。が、ルリはそんな事はお構い無しに思考を巡らせる。

(私が見ていた事に気付いた…。やはり只者ではありませんね、ルチル オニキス…。これはひょっとすると私よりも実力は上かも…。油断ならない相手です)

ひょっとしなくてもそうなのだが、これでルリはルチルのことを『少なくとも自分と互角程度の腕を持つ相手』と認識した。

「ああ、カミヤマさん、助けて…」

メグミはもはや涙目だ。…すがる気持ちはわからんでもないが、この場にいない人間に助けを求めても無駄である。



再びお茶会会場。まだアキトとユリカの掛け合いは続いていた。

「火星でいつも私のこと『ユリカ、ユリカ』って追っかけてきて!」

「…名前を連呼しながら追いかけてきたのはお前の方だろうが」

「そうだったっけ?」

「むー、アキト、何だか楽しそう」

「私には呆れてるように見えるけど…」

「久々の旧友との再会なんだ。大目に見てやれ、ラピス」

「でも…」


それぞれの感想を抱くダイアンサス代表と、

「うう、ユリカ〜〜、そんなにアイツのことが〜〜〜〜」

「まあまあ副長、何しろ十年ぶりの再会なんですから」

「でも…」


似たような状態のナデシコ代表。特にジュンは六歳児と同レベルである。

「でもよかった、アキトに会えて。私、何度も連絡とろうとしたの。でもお父様が、『テンカワの家は、火星で全員亡くなった』って…」

「全員亡くなった、ね…。あながち間違いでもないが」

アキトがコーヒーを飲みつつ、チラリとプロスを見る。プロスはバツの悪そうな顔で苦笑しているが、その意味をわかっていないのは、この場ではユリカとジュンの二人だけだ。

「でもアキト、無事だった。…地球にはいつ来たの?」

「三年前だ」

「なんで私に連絡してくれなかったの?」

「いや、ただ単に忘れてただけだが」

「ひっどーい!私、アキトを忘れたことなんて一日たりとも無かったのに!!」

頬を膨らませながら起こるユリカ。言動だけとれば、小学生と言っても通用しそうだ。

「あー、プロスペクターさん?」

「プロスで結構ですよ、石動さん」

「なら俺も透真でいい。…プロスさん、艦内を見学してもいいか?ああ、もちろん後でダイアンサスも見学していいから」

「別に構いませんが」

「なら決まりだ。これより一時間はナデシコ艦内で自由時間とする。では、解散!」

パンパン!

透真が手を叩き、散っていくダイアンサス代表たち。実はアキトとユリカの会話に飽きてきた透真が、暇つぶしに立案しただけなのだが…。

「あーんアキト、待ってよ〜〜!!」

「…行くぞ、ラピス」

「うん」

ユリカを無視して部屋を出るアキトとラピス。

「さて、行こうか。…紅茶うまかったよ、ごちそうさん。今度はこっちがごちそうするよ」

「それは楽しみですな」

握手してプロスと別れる透真。

「うふふ、楽しみ楽しみ〜♪」

ウキウキ気分のルチル。

こうして、それぞれのナデシコ見学が始まった。





テンカワ アキト&ラピス ラズリの場合


「…もういいか」

ユリカをうまく撒いたアキトが、不意に立ち止まる。ラピスは、突然止まったアキトに不思議そうな顔を向けた。

「気にするな、ラピス。個人的なことだ。…出て来たらどうだ?」

誰もいない空間に向けてアキトが喋る。するとそこから眼鏡をかけた中年――プロスペクターがスッと現れた。

「いやはや、かないませんな。あのときの坊やが、どうやら今では私よりも実力が上と見える」

「あれから十年か。長かったのか短かったのか…」

「私にとっては長かったですねぇ。本気で戦える相手と出会って、十年間もお預けだったんですから」

「フッ…」

アキトとプロスの間に、殺気にも似た緊張感が満ちる。それに耐えかねたラピスが、アキトのマントの裾をギュッと握った。

「…心配するな」

アキトがラピスの頭を優しく撫で、ラピスの表情が幾分か和らいだ。それを見たプロスが、興味あり気に質問する。

「その子…お子さんですか?年齢が合わないような気がしますが」

「少々込み入った事情があってな…。お前が聞きたいのはそんなことではあるまい?」

「では単刀直入にお聞きしましょう。この際あなたが何処に連れて行かれたかは、ハッキリ言ってどうでもよいのです。十年前にあなたを連れ去った『彼』…北辰とか言いましたか。『彼』は一体何処にいるのです?」

多少考えてから、アキトがその口を開く。

「…『今は』言えない」

「と言うことは、いずれ言える時が来る、という訳ですな」

「まあ、これから五年…いや、三年以内には会えると思うがな」

「…では、その時を楽しみにするとしましょうか」

その言葉が合図だったかのように、お互いに殺気を解く。

「おや、お嬢さんを恐がらせてしまったようですな、申し訳ありません。ではお二人とも、また会う日まで。…と言っても、すぐ隣を進んでるんですがね」

ラピスに軽く謝り、その場を離れるプロス。その歩行は、後ろから見ても全く隙がなかった。…アキトが知っている限り、そのような歩行ができる人物は、自分を含めてあと五人いたが。

「…あの人、恐い」

「そう言うな、俺だって似たようなものだぞ」

「でも、アキトとあの人の感じは何か違う」

「…そうか」

ラピスに言われて、かつて北辰から言われた言葉を思い出す。


『お前は非情になりきれていない。根本的な甘さを克服せねば、いずれ死ぬぞ』


そう、復讐を考えたこともあった。それこそ夜も眠れないほどに。しかし透真に、海人に、北斗に、枝織に接するうちに、徐々にその気持ちは薄れていった。

『ただ純粋に強くなりたい、目的のための強さではなく』

次第にこう思うようになった。だが、状況がそれを許さない。汚れていく手。それでも見守ってくれる親友たち。

「甘えてるんだろうな、俺は」

何かがおかしくて、一人で笑う。そう、友に甘えているのだ、自分は。そこがあの男と自分の決定的な違いだろう。

「アキト…」

「大丈夫だ、ラピス」

不安げな瞳で自分を見つめるこの少女にも甘えている。…いや、そんなものなのかもしれない。自分は所詮、ガキなのだ。何かに甘えていなければ自分を維持できない、そんなクソガキ。

なら少しでも大人に近づけばいい。自分だけの力で、誰に頼ることもなく。

「…あの男に会った収穫はあったな」

「?」

不思議そうな顔をするラピスを連れて、アキトはナデシコ艦内を進んでいくのだった。





ルチル オニキスの場合


ブリッジ。メグミは勤務時間シフトの都合上いないので、今はルリ一人だけである。そして彼女は、アキトに会うために最適なポイントを検索しようとしていた。しかし、

「アキトさんがいない?そんなバカな…確かにいるハズなのに…」

アキトの存在が確認できない。ついさっきまでユリカや他のメンバーといたところまでは確認できたのに、『警告メッセージ』が出てからは完全にロストしてしまったのだ。ついでにアキトだけではなく、他のダイアンサスメンバーまで。

「オモイカネ、もう一度検索」

『了解……検索終了、このナデシコ艦内に[テンカワ アキト]という人物は存在していません』

「くっ…」

プシュン!

「ムダよ」

ルリが焦燥していると、突然ブリッジ内に自分ではない他の少女の声が響く。

「あなたは…」

ショートカットの黒髪に金の瞳。ルチル オニキスがブリッジ出入り口に立っていた。

「取りあえず初めましてね、ホシノ ルリ。もう知ってると思うけど、私はルチル オニキス。ダイアンサスのチーフオペレータにして、ノアの会長秘書…。以後、よろしく」

ルリの視線を受け流しつつ、艦長席に向かって歩きながら喋るルチル。

「私が聞きたいのはそんなことではありません」

「あら、付き合い悪いのね。…で、何から聞きたいのかしら。何故私たちをロストしたのか?何がムダなのか?私たちは何者なのか?それともアキトのこと?」

「…!」

アキトという単語が出た途端に、ルリの顔が険しいものとなる。ルチルは艦長席に立ち、構わずに話を続けた。

「まず最初の二つだけど…」

「ラピスやハーリー君に手伝ってもらったんでしょう?さすがに私でも三人を同時に相手はできませんからね」

表情は厳しいままでルリが回答する。実際、そう考えれば多くのつじつまは合うのだ。

「三十点ね。確かに私一人でやったことじゃないけど…イクス、挨拶しなさい」

ピッ

『どうも、こんにちわ』

「えっ!?」

ルチルの声と共に現れたウインドウに驚くルリ。ハッキングされた形跡などなかったはずなのだが…。

「この子はイクス、私専用のオモイカネ型コンピュータよ。ハーリーとラピスもそれぞれ持ってるけど、その紹介はまたの機会にしましょう。…で、私とイクスの共同作業によって、私たちを認識しないようにオモイカネに細工したってワケ」

「他のコンピュータならともかく、オモイカネはそう簡単には…」

「できるわよ。…そうね、あと一年くらいオモイカネが経験を積んでればできなかっただろうけど、今のオモイカネはほとんど何のデータも無いただの超高性能コンピュータだもの。キャリア二年の私たちには勝てないわね」

「そんな…」

「私があなたに出した注意メッセージ…あれを目くらましにしてイクスをナデシコに侵入させ、後は解説した通り。ああ、私たちがダイアンサスに戻ればちゃんとイクスも引き上げさせるから、ご心配なく」

「…あなたたちは何者なんです?」

ルリが『二番目』に聞きたい事をルチルに問う。聞かれたルチルはおどけた調子で答え始めた。

「さあ、何者なんでしょうね?ただ、これだけは言っておくわ。…ホシノ ルリ、あのテンカワ アキトは、あなたの知っているテンカワ アキトじゃないわよ」

「なぜ、そのことを…!!」

思いがけず『一番』聞きたい事の回答を聞き、驚愕する。いや、それよりもなぜ…。

「なぜ、あなたが時を超えて来たことを私が知っているのか…。いずれ話せると思うけど、今はその時じゃないわね。私も又聞きだし。それじゃまた会いましょう、『電子の妖精』さん」

プシュン!

そう言ってブリッジから去るルチル。一方のルリは、敗北感と少しの絶望感に打ちひしがれていた。

「完全に負けましたね…。いえ、これは自分以上のマシンチャイルドなどいないと思っていた私の驕りですか…。アキトさん…、それならあなたは一体何処に…?」

呟き、シートに身を預ける。どこかへと消えた男性を思いながら…。



「あれがホシノ ルリ…。思った程じゃないわね、イクス?」

ルチルがナデシコをウロつきながらイクスに語りかける。傍から見てると、ちょっと危ない人に見えなくはないかもしれない。

『イジメすぎだと思いますけど?』

「いいの。世の中上には上がいるってことを分からせなくちゃ」

『なら、あなたの上はいるんですか?』

「そのうち現れるんじゃない?テクノロジーは日々進歩してるんだから」

ルチルはウインドウを通じてイクスと会話しながら、ナデシコを見学していった。



石動 透真の場合


ガツガツガツガツ…

「うん、この唐揚げはなかなか…!」

ダイアンサス艦長は食堂でメニュー制覇にチャレンジしていた。

「ダイアンサスの食堂もウマいけど、たまにゃ違う人の作った料理もいいよな!」

モグモグモグモグ…

食堂に来るや否や、いきなり『メニュー上から全部くれ。あ、支払いはノア宛に』と言ってチャレンジを開始し、早くも全メニューの六割をクリアした透真。

「お、チャンポンか。これもウマそうだ!」

ズルズルズルズル…

「…見てるこっちが食欲無くしそうな食いっぷりですね」

「いやいや、作りがいがあるじゃないか」

ナデシコ食堂責任者であるハギワラ コウジは、ニコニコしながら調理する。ハギワラに話しかけた副料理長のイワモト ユキオもそれを手伝いつつ、相変わらず際限なく食べ続ける透真を眺めていた。

「何かちょっと異常すぎませんか、あの食欲?」

「よく食べることはいいことだよ」

パクパクパクパク…

実は透真はナデシコに移動する前に日課の昂気によるトレーニングをしたため、かなり空腹なのであった。

「おお、今度はサラダか!」

どうやらメインディッシュゾーンを抜け、サラダゾーンに突入したようだ。

バリバリバリバリ…

全メニューの七割をクリアし、残り時間は二十分。果たして透真は全メニューを制覇できるのであろうか?

…実にどうでもいいことである。








ダイアンサス、ブリッジ。ナデシコ見学も終わり、代表メンバーはそれぞれの業務に戻っていた。

「あー、食った食った」

腹部をさすりながら艦長席に座る透真。艦長の威厳もへったくれも無い。

「…もうちょっと実りのある事してくださいよ」

「何を言うハーリー、俺的には十分実りのあることだったぞ」

ローテーションにより、今はハーリーがダイアンサスのオペレートを受け持っている。八時間交代制だが、戦闘時などには三人で当たることも多い。

「ハア…。あ、ナデシコから通信が入ってますけどどうします?」

「出してくれ」

ピッ

ブリッジ正面に表示されたウインドウには、ミスマル ユリカとプロスペクターが大画面で移っていた。

「何の用だ?」

『あのー、何だかナデシコとダイアンサスがちょこっとずつ離れていってるんですけど…』

ユリカが話す。確かにお茶会が終わって透真たちが戻ってから徐々にダイアンサスのスピードが上がり、今では船体十個分ほどの距離が開いていた。

「そりゃそうだ、基本性能が違うんだからな。当然巡航スピードも違うだろ」

『お互いの安全のためにも、一緒に火星に行ったほうが…』

プロスが困ったような顔で透真を説得にかかる。…しかし、その思考は透真に読まれていた。

「ああ、心配すんな。俺たちはちょっとやそっとの敵にはやられねえよ」

『いや、そういうことではなくて…』

「忙しいから通信切るぞ、んじゃ」

プツン!

「フム…」

通信を一方的に切断し、頬杖をつく透真。それを見たハーリーが、

「いいんですか、あれで?」

と質問する。

「いいんだよ、俺たちに依存されすぎても困るからな。もっともあの女…いや、プロスペクターか?とにかくあっちは俺たちを盾代わりに使おうとしているらしいな」

「やり方がセコいですね」

「生き残る確率を上げるためだよ、悪いことじゃない。ま、俺は他人の思惑通りに事が運ぶのもシャクなんで一緒に行かないだけだがね」

「ふーん…。あ、まただ。しつこいなぁ、もうこれで三回目ですよ」

透真が自分の考えを言い終わった矢先、ハーリーが何かに気付く。どうやらハッキングされたようだ。

「あの子もがんばるねぇ」

「いい加減あきらめてほしいんですけど…。行くよ、アルファ。ダッシュ、イクス、サポートよろしく」

そう言って全身にナノマシンのパターンを浮かび上がらせ、侵入者を排除すべく行動を開始するハーリー。

…侵入者の名はホシノ ルリ。どうやらルチルに負けたのが余程悔しかったと見え、ハッキングによって実戦形式でトレーニングを開始したらしい。

しかし三台のコンピュータの力を借りているとは言えハーリーに負けているようでは、道のりは遠いかもしれない。

ちなみにこのような『実戦形式によるハッキング訓練』は、とっくの昔にダイアンサスのマシンチャイルド達は実施していた。トレーニングでアキトと海人を同時に相手にする透真を見て、ルチルが思いついたのだ。

これは単純に一対一の形式だけではなく、二対一、それぞれのコンピュータのサポートある無し、時には自分の相棒以外のコンピュータと組んでみたり、と様々なことをやっていたため、必然的にマシンチャイルドたちの実力はアップしていったのである。

「よっ…と。『がんばりましょう』と送っときました」

十秒もしないうちに決着がついた。結果は言うまでもあるまい。

「あっそ。…火星まであと少し、か」

そんなことはどうでもいい、とばかりに透真が話題を切り替える。

「そう言えば僕たちが火星に行く目的って、ネルガルの研究データの引き上げだけじゃないですよね。他に何があるんです?」

ハーリーが何かの作業をしながら聞く。

「平たく言えば優秀な人材のスカウトだ。あの人物がいれば、恐らくノアの技術が五年は早く進むだろうな」

「それだけのためにわざわざ火星まで?迷惑な人ですね、あなたって」

「いや、ちゃんとダイアンサスとディモルフォセカ、それにサレナシリーズのテストも兼ねてるぞ」

「まあ、いいですけど」

その三日後、ダイアンサスは火星宙域に到達する。

その地で透真は、自分の計画が狂い始める前兆を目にするのだった。







あとがき



ラヒミス「第十話、終了でーす」

ウリバタケ「…おい」

ラヒミス「何ですか?」

ウリバタケ「俺の出番が全く無えじゃねえか!!!いままでここに来たヤツは話の中で全員何らかの見せ場があったぞ!!!!!」

ラヒミス「まあまあ、そんなことはどうでもいいじゃないですか」

ウリバタケ「よくねえ!!!!!!!!」

ラヒミス「うーん、前回のゲスト紹介は半分勢いみたいなもんでしたからねえ。ルリにしときゃよかった、と今更ながら反省です」

ウリバタケ「ったくよぉ…。んじゃ、今回の反省だな」

ラヒミス「女性パイロット陣の自己紹介は…まあ、こんなもんじゃないかと思いますけど」

ウリバタケ「…どうせなら、ここで俺を出してくれよ」

ラヒミス「あはは、過ぎた事をいつまでも悔やんでいるようでは成長は望めませんよ」

ウリバタケ「お前って、ナチュラルに人の神経を逆なでするよな」

ラヒミス「よく言われます」

ウリバタケ「…もういいや。次、ナデシコでのシーンだな」

ラヒミス「うーん、何か消化不良って感じですね。もうちょいナデシコ内の他の部署の細かい描写したかったんですけど、私にはこれが精一杯です」

ウリバタケ「そう言えばよ、艦長は何のためにナデシコに行ったんだ?」

ラヒミス「単なる暇つぶしですよ」

ウリバタケ「そういうキャラなのか、艦長って?」

ラヒミス「三分の一の私ですから」

ウリバタケ「そんなもんか?」

ラヒミス「そんなもんです。さて、次回のゲストはミスマル ユリカさんです」

ウリバタケ「よし、二人目の犠牲者を…」

ラヒミス「いや、キャラの性質上それは無いかと…」

ウリバタケ「チクショウ。あとがきだけの出番なんて、全くゼロの方がまだマシだ」

ラヒミス「そう言わずに。これはこれで目立てるでしょう?」





 

 

本日の感想

いじめっ子ルチル。

 

しかし、キャリアならルチル達をはるかに凌駕してる筈の逆行ルリなんですが・・・

ナニゆえここまで実力差があるんでしょうね?