機動戦艦ナデシコ

The Triple Impact


第十一話 イレギュラー



「おお、いるいる!」

火星宙域。今まさに火星の大気圏に突入しようとするダイアンサスを、木星の艦隊が待ち構えていた。

「総員戦闘配置につけ。ディモルフォセカ隊は?」

「いつでも出れるって」

「では、出撃!!」

ダイアンサスから赤、黄、緑、ピンク、そして黒の機体が射出される。

「ねえ、艦長と副長は出ないの?」

「透真さんたちが出撃するのは事態がかなり切迫した時だけですよ。前回出たのは単に他に人がいなかっただけです」

「つまり、ピンチの時の切り札ってワケね」

「そんなとこですね」

今まさに戦闘の真っ最中だと言うのに、お気楽に会話するミナトとハーリー。…まあ、ダイアンサスという戦艦自体がお気楽なのだが。

「ディモルフォセカ隊、あと十秒くらいで敵と接触する」

ラピスが淡々と状況を報告する。

「さて、パイロット連中のお手並み拝見といこうか」

腕を組みながら、透真が正面のウインドウを見つめる。そして火星宙域での戦闘が始まった。



「レッツゴー!ゲキガンガー!!」

ピンク色のディモルフォセカが絶叫しながら後先考えずに突撃し、無人兵器を何体か落としていった。

『ヤマダ、前に出すぎだ。少し抑えろ』

突出しすぎのヤマダを見かねた透真が老婆心から通信を入れる。

「俺の名前はダイゴウジ ガイだ!!」

『わかったから下がれ、艦長命令だぞ』

「チッ、わかったよ。…って、あら?」

気が付くと、見ていて哀れになるほどに敵に囲まれていたヤマダ機。

「おーい、誰か〜!ヒーローのピンチなんだぞ、助けろ〜〜!!」

ヒーローはそんなに無様に助けなんか求めないと思うのだが。

「…世話の焼ける」

ドドドドドドォン!!

ブラックサレナのカノン砲が火を吹いた瞬間、ヤマダ機を囲んでいた無人兵器達は単なる金属の塊と化した。

「す、すまねえ、アキト」

「張り切るのは構わんが…足手まといだけにはなるな」

「お、おお…」

それだけ言って敵の掃討に向かうアキト。そしてヤマダも多少は慎重に行動を開始した。

「おらおらっ!」

ドゴオォン!

「えーいっ!」

ズガアァーーン!

「…落とさせてもらいます」

チュドオォォォン!

そんなことがあったとはつゆ知らず、三人娘は敵を蹴散らし続ける。

「おっしゃあ!デカいのを叩くぜ!!」

「りょうかーい!」

「フフ…」

叫びつつ大型戦艦に突撃していく三機。だが、

『敵戦艦、フィールド増大してるよ』

「何!?」

ガガッ! ガッ!

その攻撃は戦艦のディストーションフィールドによって阻まれてしまった。

「チッ、ヤツらもフィールドか…」

「死神が見えてきたわね」

「「見えん、見えん!」」

不吉なセリフを口走るイズミに、思わずツッコミを入れるリョーコとヒカル。

「俺にまかせろおおぉぉぉぉ!!!!」

「うわっ!」

「きゃっ!」

「チッ!」

そうこうしていると、後方からいきなりヤマダ機がリョーコたちの存在を無視しつつ突進してきて戦艦に殴りかかる。…この場合、後ろからの突然の攻撃を避けた三人を褒めるべきだろうか、それとも何の勧告も無しに突撃していったヤマダを責めるべきであろうか?

「うおおおぉぉぉぉーーーーー!!!!!」

ガッ! バリバリバリバリ…

「くっそおおぉぉぉぉぉ!!!!」

もう一息で敵のフィールドを破れる所までいく…が、

ドン!

「おわぁっ!?」

結局突破はできず、さながらトランポリンのごとく跳ね飛ばされてしまった。

「くそっ!敵もフィールドか…」

「危ねーだろ、タコ!」

「す、すまん」

「カッコいいけど間抜けな特攻だったね〜」

「うるせえ!」

「死に水はとってあげるわ…」

「え?」

リョーコ、ヒカル、イズミの順にコメントをもらい、律儀にいちいち返事をするヤマダ。

「それより、どうするの?このままじゃ…」

「「「うーん…」」」

ヒカルの言うとおり、このままでは敵陣突破はできない。そこへ、

「どいてろ」

「「「「え?」」」」

アキトから通信が入り、ブラックサレナが敵戦艦へと向かっていく。

「おい、テンカワ!!無茶だ!!」

「ホントに特攻!!?」

「…生憎と、まだ死ぬつもりは無い!」

そしてブラックサレナは機体前方にのみフィールドを集中させ、

ドガアアァァァァァァンン!!!!

敵戦艦を貫いた。

「ま、俺にもこのくらいはな」

それだけ言って残敵の掃討へ向かうアキト。…他の四人はしばらく――と言っても七、八秒ほどだが――の間、唖然としていた。



「…あの野郎、俺の攻撃をそのまま真似しやがった」

透真が何となく不機嫌そうな顔でぼやく。

「うーん、でも真似するんなら最初から最後までアレでやってほしいですよねぇ」

「ブラックサレナにそれを求めるのは少し酷だな。…ま、それをやる手段が無いわけでは無いが、少々リスクが高すぎるからな」

「ゴールドサレナだからこそできる、ですか。…確かにアレを涼しい顔して乗りこなせる人間はあなたしかいないでしょうけどね」

「そういう風に設計したのはお前だろ」

「あなたの注文どおりにやったらあんな化け物みたいな機体になったんですよ。普通の人間がアレに乗ったら、間違いなく押しつぶされて死にますよ?」

「お前らは何とか操縦できたじゃないか。シュミレーターだけど」

「僕とアキトだから、ですよ」

「大体、お前の機体はデリケートすぎるんだよ。姿勢制御バランスが難しすぎるぞ?」

「高精度の射撃をするには仕方ないことです」

一部の天才にしか理解できない世界の会話を進める透真と海人。

「艦長たちの機体って、そんなにすごいの?」

「そうですね…。重力制御なしで大気圏突入している最中に、鼻歌を歌っていられる余裕があれば乗りこなせるんじゃないですか?」

「…それはさすがに無理だわ」

どうやら、ミナトが疑問を投げかけてハーリーがそれに答える、というパターンが確立したようだ。

「前方の敵90%を殲滅」

「あ、後方に反応あり」

「敵か?」

「いや、これは…ナデシコね」

「ほお?」

『どうする透真、落とすか?』

アキトがサラッととんでもないことを提案する。

「いや、やめとけ。どうせあっちの行き先はわかってる」

ダイアンサスと敵残存戦力を無視して火星へと突入するナデシコ。

そしてナデシコに遅れること二十分、ダイアンサスも火星へと突入した。



火星を取り巻くナノマシン群を抜けた先がオリンポス山のすぐ近くだったため、これ幸いと調査隊を派遣することにした透真。グズグズしているとすぐにナデシコの面々が来てしまうため、迅速に行動する必要がある。ちなみに、付近のチューリップは掃討済みだ。

「じゃ、ブルーサレナを借りますよ」

「おう、ちゃんと連れて来いよ」

そう言って副長用スイッチを押して床の下へと沈んでいく海人。

「サレナなんか持ち出して、どこ行くんですか?」

ハーリーが疑問を口にする。

「ユートピアコロニーだ」

「…例のスカウトですか」

「そういうこと。…さて、地上班メンバーはもうリストアップしといたから、とっとと研究所に行くぞ」










ブルーサレナを駆り、ユートピアコロニー跡地に到着した海人は、途方にくれていた。

「…例の落とし穴(?)の場所って、一体どこなんでしょう?」

ユートピアコロニー跡地の地下に生き残った人々がいるのはわかっているのだが、その地下に行く方法がわからない。

「仕方ありませんね、適当に歩き回ってうわぁっ!?」

ボコッ!

言ってるそばから足元の地面が崩れ、落下する。なかなか運のいいヤツである。

スタッ

無事に着地成功し、辺りを見回す…が、誰もいない。…いや、隠れて様子をうかがっている。気配からして三、四人…。

「出てきたらどうです?」

その声に応じるかのように物陰から現れる四人の男性。その手には鉄パイプが握られていた。

「誰だ!!貴様は!!?」

「さては木星のヤツだな!!こんな所まで見つけるとは!!」

そっちから質問しておいて、返事も聞かずにそっちで自己完結する男性たち。

実はその通りなんですが…あの、勝手に自分たちで結論を出さないで…おっと」

ヒュッ! ヒュンッ!

海人が話している最中に、問答無用で鉄パイプで殴りかかってくる男性たち。海人はそれを紙一重で回避し、

「やれやれ、先に手を出したのはそちらですからね?」

ドドン!

「ぐえぇっ!!!」

「ぎゃあぁっ!!!」

それだけ言って左右の二人を気絶させる。…いや、気絶しようにも、それができないほどの痛みを味わって悶絶しているようだ。

「うおおおっ!!」

ブォンッ!

大柄な男が鉄パイプを振り回しながら海人に突進するが、あっさりと避けられ、

ガッ!

回し蹴りをアゴにくらう。…彼はしばらくの間、固形物を口に入れることはできないだろう。

「く、くっそおおおお!!!!!」

最後の一人が破れかぶれで海人に向かう。鉄パイプを振りかぶり、間合いに到達したところで思い切り振り下ろす…が、

ガキィン!!

懐にあったナイフを一本取り出し、それを受け止める海人。一見するとつばぜり合いのようだが、両手で鉄パイプを持つ男と顔色も変えずに片手のナイフ一本でそれを止める男のつばぜり合いとは、なかなか現実感がない。

「フム」

ビッ!

「痛っ!」

海人はいきなり空いている右手で(海人は左利き)男のパイプを持つ手を払い、

ピッ

喉元にナイフをあてる。その目には何の感情もこもっていないかのように見えた。

「や、やめてくれ…。殺さないで…」

涙目で許しを請う男性。歯はガチガチと鳴り、声も震え、全身から汗がふき出している。見苦しいことこの上ない。

「…あなた、僕を殺すつもりでかかってきたんでしょう?だったら自分が殺されても文句は言えませんよね。では、さようなら」

「待ちなさい!!」

海人がナイフを振りぬこうとした瞬間――実は男の首は少しだけ切れていたのだが――、女性の声が響いた。

「おや、ずいぶんと仲間思いな女性だ。次はあなたがかかってくるんですか?」

ナイフは男の首にあてたままで、海人はフードをかぶった金髪の女性――イネス フレサンジュに目を向ける。

「私はそこまで愚かじゃないわよ。…彼らの無礼は謝るけど、少しやりすぎじゃないかしら?」

「ならば次からはこのようなことが二度と起こらないように、よく言い聞かせておくべきですね」

ようやく男の首からナイフを離し、微妙についた血をぬぐってそれを懐にしまう海人。

「そうさせてもらうわ。…さて、あなたは一体どこの誰で、何の目的でここに来たの?」

「…あなたのスカウトですよ、イネス フレサンジュ」

「ふーん…。なかなか興味深い話ね、聞かせてくれる?」

「では僕たちの戦艦にご案内しましょう、こんな所で話す話題でもないでしょうし」

「戦艦?あなた、もしかしてネルガルの?」

「いえ、僕の所属はノアですよ」

「ノア…、ここ二、三年で急激な発展を見せたあの…」

「ええ、そのノアです」



その後イネスを連れてブルーサレナに乗り込み、ダイアンサスへと飛び立った。ユートピアコロニーに戦艦がいなければあの付近のチューリップが活動することも無いだろうし、取りあえず妥当な策だろう。

「何なの、この機体…?現在の技術水準を完全に上回っている…」

「設計図もありますよ、見ますか?」

紙の束をイネスに渡す。その一枚一枚を見るたびにイネスは驚愕した。

「小型の相転移エンジンにグラビティブラスト?信じられないわね、誰が設計したの?」

「僕です」

「は?」

思わず間の抜けた声を出すイネス。

「だから、僕がこのサレナシリーズを設計したんですよ」

「シリーズってことは、他にもあるのね…」

「ええ、黒と金が」

「……」

イネスは、驚きとまだ見ぬ残りのサレナに対する期待で絶句する。

「フフ…これを見ちゃったら、スカウトを断ることはできないわね」

「あなたなら、そう言ってくれると思ってましたよ」

そして海人とイネスは、無事にダイアンサスに到着した…のだが、

「どうやら木星トカゲと戦闘中みたいね」

「しかもナデシコまで一緒ですか。…ハーリー、聞こえてますか?」

ダイアンサスにハーリー専用の回線で通信を入れる。

『あ、海人さん、お帰りなさい。無事にスカウトできたみたいですね』

「…一体何がどうしてどうなってそんな状態になったんですか?」

『んじゃ、最初から説明しますね』

ピクッ

何故かハーリーのセリフに過剰に反応するイネス。それに気付くことなく、ハーリーはここに至った経緯を話し始めるのだった。








三十分ほど前、オリンポス山付近。

ネルガルが残したデータ引き上げも終わって、今まさにここを去らんとしたその時、

「…タイミングの悪い」

彼方からナデシコがやって来たのであった。

『困りますなー、ネルガルのデータを勝手に持って行かれては』

「いいじゃないか、どうせ近いうちに合併するんだし」

『いえいえ、今のところは競争相手。見逃すわけには…』

「なら、一戦交えるかい?」

相変わらず妙な緊張感を漂わせながら会話する透真とプロス。

「ん?また…懲りないわねぇ」

「僕がやろうか?」

「私がやるわよ。…念のため、付近のチューリップを警戒しておいて」

「わかった。ラピス、船は任せるよ」

「了解」

ルリとハッキング合戦を開始するルチルに、それぞれの作業に取り掛かるハーリーとラピス。

「ハリラピはともかく…ルチルちゃんは何やってんの?」

「…何ですか、ハリラピって」

「ハーリー君とラピスちゃんのことよ。あ、ラピハリの方がよかった?」

「……」

停船しているので、ミナトは暇つぶしにハーリーとお話し中のようだ。



一方、ナデシコ。

「うう〜、私の存在意義って…」

自分を無視して透真と話すプロスを見て、自分の存在意義に疑問を持つユリカと、

「じゃあ、僕は…?」

それ以上に存在を無視されて苦しむジュン。

ルリは四回目のチャレンジに取り組んでいたが、やはり結果は惨敗だった。

「…なぜ、勝てないんです?」

何度やってもダイアンサスのマシンチャイルドに勝てずに苦悩する彼女に、ルチルからメッセージが届いた。

ピッ

『教えてあげましょうか』

「!?」

『そんなに大きくリアクションしてると周りにバレるわよ』

ウインドウの文字表示のみでルリにコミュニケーションをとるルチル。話しぶりからすると、あちらにはこちらの様子がわかるようだ。

「…では、教えていただきましょうか」

『フフフ、そんなに恐い顔しなくてもいいじゃない。…じゃ、解説といきましょうか』

こうしてルチルによるレクチャーが始まった。

『まず私とあなたの実力差だけど、これはそんなに圧倒的ってワケじゃないの。あなたの力を10とすると、私が13か14ってとこね。 ちなみにラピスたちが10か11で、大体あなたと互角か少し上くらいかしら』

わざわざグラフや図を使って丁寧に解説するルチル。案外マメな性格である。

「それなら、もう少しいい勝負が…」

『話は最後まで聞きなさいよ。で、ここで問題になってくるのがサポートするコンピュータの性能。前にも言ったと思うけど、これは経験と積んでいるのといないのとでは雲泥の差があるのよ。それはあなたが一番よくわかっているんじゃない?』

「それは…」

確かにかつてルリが使っていたナデシコCのオモイカネと、このオモイカネとでは性能にかなりの差がある。基本的な仕様は同じなのだが、どうもレスポンスが悪い。

『こっちのコンピュータ達…イクスとアルファとダッシュの実力は、単体だと7くらい。でも、あなたのオモイカネはほとんど経験を積んでないから2程度の力しかないの。加えてコンビネーションの練成もかかわってくるから、13に7を足して単純に20になるんじゃなくて、40以上にもなる。そっちはせいぜい12か13ってトコでしょうけど』

「……」

ルリはただ黙って、ウインドウに表示されるルチルからのメッセージを眺めていた。

『こないだのハーリーとのハッキング戦にアッサリ負けたのもそういうワケ。単純計算しても10+(3×7)=31で敵うワケないのに、コンビネーションまで使われたんじゃ勝てる確率は限りなくゼロよね。…あなたがナデシコCのときに使ってたオモイカネが一緒だったらわかんなかったけど』

「一つ、聞いていいですか?」

『なに?』

「…あなたたちがそれぞれのコンピュータを使って、三人で組んだ場合の数字はどのくらいです?」

『そうねぇ…。大体400くらいかしら?正確にはちょっと違うかもしれないけど』

「…そうですか」

どことなく落胆の色を見せるルリ。

「ル、ルリちゃんが一人でブツブツ言いながら表情を変えてる…」

「…結構恐いな」

「もしかしてルリちゃんって、あっち系の人なんじゃ…」

「どっち系の人だよ、それ」


相変わらずルリの奇行に戦々恐々とするメグミとカミヤマ。彼らの中では、すでにルリは『普通とは少しばかり違う人』にランクされていたりするのだが、そんなことはルリが知るはずもなかった。

『あ、周囲のチューリップに反応あり』

いきなりハーリーの顔を映したウインドウがナデシコのブリッジに表示される。

「『え?』」

きれいにハモる両艦長の間抜け声。そんなことには構わず、周囲のチューリップは次々と無人兵器を吐き出し続ける。

『うーん、戦艦が二つも並んでりゃ、さすがにチューリップも警戒するよなぁ』

「ですよね。…それじゃ、エステバリス隊発進!グラビティブラストもチャージ!」

『こっちもディモルフォセカ隊発進だ!』

こうして、ダイアンサスとナデシコの二大戦艦による初の共同作戦が始まったのだった。








『…ってワケです』

「なるほど」

ドドドドドドォン!!

ハーリーの話を聞いている間に一旦格納庫に入ってイネスを下ろし、自らも戦闘に参加しながら海人が納得する。

『それにしてもエステバリス隊、活躍してませんねぇ』

「仕方ないですよ。ディモルフォセカとエステバリスじゃ、ゲルググとザクくらいの性能差があるんですから」

『どっちもやられメカじゃないですか』

「…ザクやゲルググを馬鹿にしないでください。でも、僕は個人的にはゲルググの方が好きです」

『いや、ここはやはりギャンを…』

なぜかモビルスーツ談議に突入する海人とハーリー。そんな二人をよそに、戦闘は終わりつつあった。

「うーん、最後くらいは格好いい所を!ルリちゃん、とどめのグラビティブラスト発射!!」

「了解」

ユリカの指示通り、ナデシコからグラビティブラストが発射される…が、

バシュウウウゥゥゥゥン!!

「効いて…ない!?」

残りわずかの敵戦力は、わずかのままで全く減少していなかった。

『あっちもフィールドか…って、ついさっきやったような気がするな。まあいいや、アキト!』

「人使いの荒い…」

そう言いながらもブラックサレナが敵残存戦力へと向かおうとした途端、

カッ!!

ドドドドドドドドドドドドオオオオォォォォォン!!!!!

敵艦隊は数十発の黒い閃光に貫かれ、爆発四散した。

「五十発連射して故障無し。スナイパー・ライフルの改良は成功ですね」

「…海人、そういうことはあらかじめ『自分がやる』と言ってくれるとありがたいのだが」

「いやー、あなたも透真も、僕が戦場に出てるのに気付いてないみたいだったんで、つい茶目っ気が…」

「茶目っ気で済ますな!!二、三歩間違えれば結構ヤバかったぞ!!」

「ま、いいじゃないですか。結果オーライですよ」

「貴様ぁ…」

アキトが多少の恨みを込めながら海人を睨むが、海人は気にした様子もなくニコニコと笑っているだけだ。

「ねえルリちゃん、あの青い機体が使ってる武器って、グラビティブラストを小型化したものなんだよね?」

「ええ、そのハズですが」

「じゃあ、なんでフィールドに阻まれなかったの?」

「それは…」

『説明しましょう!!』

「うわぁっ!?」

ユリカがルリに聞いたのに、突然イネスがナデシコに通信を繋げて解説を始める。

『グラビティブラストをはじめとする重力兵器には、収束率というものが存在するの。この収束率が高ければ高いほど、より強力な攻撃ができるようになる。つまりディストーションフィールドを無視できるようになるわけだけど、その分攻撃できる範囲が狭まってしまう。つまり、面よりも点で攻撃するというわけね。

ダイアンサスやナデシコの場合、さすがに戦略レベルの戦いで戦艦がピンポイント攻撃するわけにもいかないから、どうしても攻撃を広範囲にする必要がある。つまり、収束率を下げなければならないの。

でもそうすると攻撃力が落ちて、敵のディストーションフィールドにガードされる確率が増大する。ジレンマよね。で、そこで登場するのが海人君のスナイパー・ライフル。

これは速射性をアップさせることによって、収束率の高い兵器の最大の欠点である、攻撃範囲の狭さを解消することに成功したの。と言っても、この武器を一発撃つ毎にかかる反動はハンパじゃなくてサレナタイプじゃないと耐えられないわ。つまり並みのパイロットや普通の一流パイロットがスナイパー・ライフルを使うのはほぼ不可能ってこと。以上、説明終わり』

ピッ

ウインドウが閉じ、ナデシコのブリッジには静寂だけが残った。

(…なんか、収束率の説明からダイアンサスの副長さんの説明にすり変わって行ったような気が……)

ユリカがイネスの説明に少々疑問を感じたが、取りあえずその疑問は頭の隅にしまっておくことにしたようだ。

「ルリちゃん、敵はまだ残ってる?」

「いえ、先ほどの攻撃によって全滅したようです」

「それじゃ、エステバリス隊を回収――」

『待って!未確認機が三機、高速で接近中!!信じられない…サレナ並のスピード!!?』

ルチルの声がダイアンサスとナデシコ、外にいる機動兵器たちに響く。

「こちらのレーダーでも確認しました。確かに三機、接近中です」

「敵なの?」

「…わかりません」



彼方から接近する機動兵器三体――その色はそれぞれ白、青、緑。エステバリスやディモルフォセカに近いが、禍々しい印象を与える外見をしている。

三機は戦艦二隻の上空で停止し、会話を始めた。

『ほう…、あれがナデシコか』

白の機体から声が聞こえる。どうやら少年のようだが、傍受できる周波数で通信しているようだ。

『…どうやら別の船も一緒のようだけど…どうする?』

青の機体がダイアンサスを眺めながら、他の二人に疑問を投げかける。

『アハハハハ!殺すんだ!!今すぐに殺すしかない!!』

異様に興奮している緑の機体。…この三人は口調こそ違うが、声は全く同じだった。

『待て、グラッジ。我々の目的はナデシコの確認だ。ここでナデシコを撃墜してしまうと今後の展開が読みづらくなる』

『どうせ遅かれ早かれこいつらは僕たちに殺されるんだ!だったら早い方がいい!!それに隣にいるあの戦艦はデータには無かった!!不確定要素は早めに消しておくべきだ!!』

『僕もその意見には賛成だねぇ…。ナデシコが落ちるのもせいぜい一年か二年の違いさ。これから待ちうける苦難を考えれば、ここで殺しておいたほうが彼らのためかもしれないよ、リグレット。…少なくとも、あのナデシコを模したと思われる戦艦は潰しておいた方がいいと思うけど?』

『…多数決か。では導き出された結論どおり、ナデシコおよび正体不明艦に攻撃を開始する。ぬかるなよ、カルマ、グラッジ』

『『了解』』

そして狩りが始まった。



ドドドドン!!

青の機体の大型ライフルが火を吹き、それが四機のエステバリスを貫く。

「ナ、ナデシコのエステバリス隊が行動不能に陥りました!!」

「うっそぉ…あっという間に四機も?」

驚きながらも状況を報告するハーリーと、呆気にとられるミナト。

「チッ、アキトと海人を先に引っ込めたのは失敗だったな…出るぞ!!」

ピッ

透真が艦長用スイッチを押し、格納庫へと向かう。あと二分もすれば出撃できるだろう。

「二分…長いわね……」

ルチルが呟く。その言葉どおり、リョーコたちは緑の機体に翻弄され、

『ハハハ!遅い、遅いぞ!!』

「うわあぁっ!!!」

「きゃあああっ!!」

「くうっ!!」

「ぐおおおおっ!!!!」

ナデシコは白の機体の攻撃を受け、

『どうした?この程度か、ナデシコ』

「ぐっ…、被害状況は!?」

「フィールド発生ブレード、相転移エンジン、ミサイル発射口、グラビティブラスト、ブースター…要するに、どこもかしこも傷だらけです」

「このスピード…ナデシコの整備が完全でも逃げ切れるもんじゃねえぞ」

「…私たち、このままここで死ぬんですか?」

ダイアンサスは青の機体の脅威にさらされていた。

『つまらないねぇ…。もっと抵抗してくれないと面白味が無い…』

「くうっ…透真たちはまだ!?」

「あと二十秒はかかる!」

「うわー、マジでヤバいわね、これ…」

「ルチル、ディモルフォセカ隊が!」

「どうしたの、ラピス…げっ!!?」



『終わりだぁ!!!』

緑の――グラッジと呼ばれた少年が操る機体が、リョーコの機体にとどめを刺すべく加速する。

「リョーコ!」

「くっ、機体がもう…」

「くそっ!動きやがれ!!」

グラッジの攻撃により、ヒカル達のディモルフォセカはすでに行動不能となっていた。かろうじて動けたリョーコがグラッジに攻撃しようとしたのだが、それが彼の癪に触ったらしく、リョーコを最初に仕留めようとしたのである。

『死ね!!!』

「テ、テンカワーーー!!!」

リョーコが叫びながら目を閉じたその瞬間、

「呼んだか?」

『何っ!?』

ドォォン!!

側面からグラビティブラストが発射され、グラッジの機体を掠める。グラッジは発射された方向にライフルの照準を合わせ、激昂した。

『誰だ!!?僕の楽しみを邪魔するな!!!』

「楽しみ、か。…俺はそういうタイプが一番嫌いなんだ」

そう言いながらブラックサレナがカノン砲を構え、緑の機体を見据えた。



「…あまり僕の設計した船を傷つけないでほしいのですが」

青の機体――カルマと呼ばれた少年の前に、ブルーサレナが立ちはだかる。

『へぇ、君が設計したのかい?』

「ええ、機動戦艦ダイアンサス。なかなかいい出来でしょう?」

『ああ、確かにいい出来だ。それだけに惜しいねぇ、これから僕に壊されるんだから』

「そう簡単に行きますかね?」

『行くさ』

両者の間に緊張感が満ちる。お互い、いつ引き金を引いてもおかしくはなかった。





ナデシコの真上で対峙する白の機体と金の機体。

『…貴様、何者だ?』

「それはこっちのセリフだ。いきなり現れやがって、何が目的なんだ、お前らは?」

『聞いていなかったのか?ナデシコ及び貴様らの破壊だ』

「ったく…、こういう議論はもっと大人数でやるべきだな。アキト!海人!一旦集合だ!!」

『カルマ、グラッジ、来い』

ヒュヒュン! ヒュヒュン!

それぞれのリーダーに従い、集結する機動兵器たち。

『まずは自己紹介だな。僕がリグレット』

『僕がカルマ』

『そして僕がグラッジだ』

後悔リグレットカルマ恨みグラッジ?なかなか面白い芸名だな。…まあいい、俺は石動 透真」

「僕の名前は天宮 海人です」

「…俺はテンカワ アキト」

自己紹介をする彼ら。…約一名が自分の魂の名前を叫んでいるが、彼の通信機の発信機能は壊れていたため(受信機能だけは生きていた)、その叫びが届くことはなかった。

『その機体はサレナか?』

『この時点でサレナが出るとは…由々しき問題だねぇ』

『フン、たとえサレナと言えども、マシンナリーチルドレンである僕たちには勝てない!!』

「マシンナリーチルドレン?マシンチャイルドの親戚か何かか?」

透真が思ったことを率直に聞く。

『あんな奴らと一緒にするな!!』

『マシンナリーチルドレンはマシンチャイルドの進化した形…言わば究極版なのさ』

『そう、僕たちは電子戦にしか能のない出来損ないとは違う』

「…出来損ない?」

ラピスが顔をしかめる。

「ムカつくなあ〜」

ハーリーも露骨に不機嫌そうだ。

「透真!海人!アキト!私が許可するから、そいつらをコナゴナに粉砕しちゃいなさい!!」

ルチルは完全に怒りモードである。

「だ、そうだ。そういうワケなんで自己紹介タイムはこの辺で終わりってことで…」

不敵な笑みを浮かべる透真。

『…始めようか』

向こうの姿は表示されないため表情は見えないが、恐らくリグレットも笑みを浮かべているだろう。…確信は無いが、透真は何故かそう思った。

『残念だが、君たちは彼女のリクエストには応えられない。所詮人間ごときにマシンナリーチルドレンを倒すことは不可能だからね…』

「実際にやってみなくちゃわかりませんよ」

こいつは絶対に笑っているな、と思いつつ海人はスナイパー・ライフルを構え、ほぼ同時にカルマの機体も大型ライフルを構えた。

『クックック、殺してやる…』

「………」

ブラックサレナとグラッジの機体のブースターが熱を帯びていく。

バシュン!!!!

六機同時に動き出す。激闘が三つ、同時に始まった。





『へぇ、なかなかの腕前だね!』

「あなたも結構やるじゃないですか!」

ドドドン!! ドン!! ドドン!!

かなり放れた位置から撃ち合う二つの青い機体。お互いにライフルを連射しながらも小刻みに動いて、相手の狙いを外させる。…やることは全く逆だが、イメージ的には超高速の卓球のラリーを思い浮かべればわかりやすいだろうか。

ドドン! ドドドン!! ドドン! ドドン!! ドドドドドン!!

紙一重で相手の攻撃を回避し、瞬時に狙いをつけ、撃つ。相手がそれを回避し、また撃ってくる。

延々とそれの繰り返しである。どちらか一方が並の相手だったなら、最初の一発で終わっていたのであろうが。

先に気を抜いた方が負ける。二人は、暗黙のうちにそれを悟っていた。



ガガガガガガァン!

「チッ!」

チュィン!

リグレットの速射性ライフルによる攻撃が、数発ほどゴールドサレナの肩アーマーに被弾する…しかし、大したダメージではない。

「ハアッ!!」

ドシュウン!

『くっ!』

ギィン!

ゴールドサレナが急加速し、白の機体に殴りかかっていくが、その拳は相手の左腕を多少掠めただけにとどまった。

『…僕とここまで戦えるヤツがいるとはな』

「ったく、機動兵器戦では間違い無く今までで最強の敵だよ、お前は!」

『当然だ』

ギュオン!

リグレットのセリフが終わらない内にどちらともなく動き出し、再び純白と黄金は戦闘を始める。





他の二つとは違い、アキトとグラッジの戦闘はかなり白熱していた。

『ハハハハハハ!!死ねぇぇぇ!!!!』

「お前が死ね!」

ガキィン!! ドガガガァン!!

グラッジの機体の拳による一撃を受けつつ、超至近距離からカノン砲を放つブラックサレナ。ダメージは五分五分と言ったところだろうか。

『これだけ密着していればグラビティブラストは使えまい!自分も爆発の巻き添えを食うからなぁ!!』

「そんな物は無くとも、お前ごときに…!」

ギギギギギギィ…

力比べを開始するアキトとグラッジ。…少なくとも、スマートな戦いでないことは明白である。



「す、すごい…」

ユリカが感嘆の声を漏らす。これだけの戦闘にお目にかかれる機会は滅多に無いだろうから、当然と言えば当然だが。

「艦長、ここはダイアンサスの皆さんにまかせて我々は逃げましょう」

「え?」

プロスの突然の提案に、目が点になるユリカ。

「あの謎の勢力と我々の戦力差はハッキリしています、ここに我らがいても足手まといになるだけ。ならばせめて、ここから少しでも離れた方が得策かと…」

「あー、そりゃ無理だ」

ブリッジの下の方からカミヤマの声がした。

「カミヤマさん、無理とは?」

「さっきのルリちゃんの報告聞いてなかったのか?ブースターとか相転移エンジンがボロクソにやられて、ほとんど機能してねーんだよ。ああ、それと、ご丁寧に補助の核パルスエンジンまでイカれちまったらしいぞ」

「おまけにフィールド発生ブレードもやられてますから、例え動けたとしても一発くらえばそれで終わりです。現在整備班が修理中ですが、『部品が全然足りなくて修理できない』と言っています」

「そ、そうですか…」

カミヤマとルリの話を聞いてヨロリとふらつくプロス。これでナデシコの生存確率は大きく下がったことになる。…ダイアンサスはまだ大丈夫そうなのだが、基本設計の差が出たのであろう。

「とにかく今はダイアンサスの艦長さんと副長さん、それとアキトを信じるしかありません!アキト、ファイト!!」

ちなみにナデシコ所属のエステバリスパイロット達はすでに回収済み、奇跡的に死者はゼロであった。



「まさかあの三人と機動兵器戦とは言え、互角に戦える奴らがいるなんて…」

三つのウインドウを順番に凝視しつつ、ルチルが呟く。

「確かに…、重大な懸念事項だね」

ハーリーは敵機のデータを収集しているようだ。

「…でも、アキトは負けない」

ブラックサレナの戦闘のみに注目しているラピス。その瞳は不安に陰りつつも、どこか確信のようなものがうかがえた。

「ま、どのみち艦長たちがやられたら私たちもオダブツなんだし、ここは黙って見てるしかないわね〜」

ミナトは気楽に見えつつ、ある種の覚悟を決めているかのように見えた。





「おおおおおっ!!」

『はあああああっ!!!』

ガシィッ!!

何度目かの激突をするアキトとグラッジ。互いに損傷が激しいが、こころなしかグラッジの方がダメージが軽く見えた。…いや、少しずつ回復していた。

『ククク、このくらいの損傷ならマシンセルで修復可能だ!』

「マシンセル…何だ、それは?」

『貴様が知る必要はない。どうせ知ってもすぐに僕に殺されるんだからな!!』

バッ!

グラッジの言葉と共に、一旦離れる二人。

(このままではジリ貧だな。…仕方ない、アレを使うか)

アキトが目を閉じ、集中する。手の甲のナノマシンが輝きだした。

「バーストモード・スタート!!」

『何っ!?』

グオオオォォッ!!!

ブラックサレナのカメラアイが赤く光り、機体が震える。

――バーストモード。ブラックサレナのみに試験的に取り付けられたこのモードは、五分間しかもたない上に、その後十分間ほど行動不能になってしまうという諸刃の剣である。

ゴールドサレナには、機体の出力が高すぎてバーストモードに耐えられる時間が三十秒しかないため取り付けられていない。ブルーサレナはもともと長期戦用の機体のため、短期決戦用のバーストモードは向いていない。もっとも、この両機の欠点は近々改善予定ではあるが…。

『フン、そんなこけおどし…!』

「こけおどしかどうか…その身をもって味わえ!!」

バシュンッ!!

『! はやい!!』

ゴールドサレナを上回るスピードでグラッジの機体に接近するブラックサレナ。そして、

「全てを噛み砕け!!必殺!!!虎牙!!!」

右拳が紅く燃え、緑の機体目掛けて突き進む。

「クッ!R−クラッシャー!!」

グラッジもそれに対抗するかのように、同じく拳からの技を繰り出した。

ズガアアァァァンン!!!!

お互い似たような技をぶつかり合わせる。

ビッ…ビシィィッ…

ブラックサレナが競り勝ち、グラッジの機体の右腕が砕けるが、

『この程度で…!!』

自己修復能力があるため、まだ余裕のあるグラッジ。しかし、その考えは甘かった。

「連弾!!!!」

『なっ!!?』

グオオオオォォォォォォォォン!!!!!!

炎に包まれた左の拳がグラッジの機体を貫く。

この技の元になった虎牙弾という技は、もともと透真の考えたものである。機体のディストーションフィールドを拳の一点に収束して放つ技だ。自分で考案しただけあって、一応ゴールドサレナも使用可能なのだが、威力はバースト状態のブラックサレナに劣る(通常の状態ではブラックサレナは虎牙弾は使えない)。

それを両拳で交互に放つから虎牙連弾。口で言うのは簡単だが、これは出力の問題からバースト状態でなければ使えない技なのだ。おまけにとんでもない集中力を必要とするため、一回使うと極度に疲弊してしまうという欠点を持っている(一発ずつなら五発は使用可能)。

加えて機体にかかる負担もかなり大きい。つまり一撃必殺で、一回の戦闘に一回しか使えない技なのである。

バチッ…バチィッ…

機体の所々から青白い電流を漏らすブラックサレナ。素人目にもわかるほど危険な状態だ。

「クッ…バーストはまだ一分半ほど続けられるが、この状態でこれ以上戦闘するとかなりヤバいな…」

息切れしながら呟くアキト。実際、彼の周囲には機体の危険な状況を知らせるためのウインドウがいくつも開いていた。

だが、どうやら神はアキトを嫌っているようだ。

『グウッ…貴っ様ああああぁぁぁぁあああ!!!!!!!よくもおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!』

「…アレをくらってまだ動けるとはな、大した頑丈さと回復能力だ」

怒り狂いつつ機体を立たせようとするグラッジを見て、アキトが感嘆したような呆れたような、打ちひしがれたような声を上げる。

『殺す!!!殺す!!!絶対に殺してやるぞ!!!!!』

『…待て、グラッジ。その損傷はマシンセルでも修復に時間がかかる。これ以上の戦闘は困難だ、この場は撤退するぞ』

「アキト、無事か?」

リグレットと透真がいつの間にかアキト達の近くに来ていた。

「透真、どうして…」

「いきなりアイツが戦闘を中断して、あのグラッジってヤツの所に行ったんでな。何かあったのかと思って後を追って来た」

「なるほど」

シュウウゥゥ…ン

話している内にバーストモードのタイムリミットが来てブラックサレナが停止する。そして、海人とカルマもやって来た。

「…疲れました、こんなに神経を使った戦闘は初めてかもしれませんね」

「ま、気持ちは分かるよ……ん?何かあっちは口喧嘩してるみたいだな?」

透真の言葉どおり、彼らは口喧嘩らしきことをしているようだった。

『嫌だ!!僕はあいつを殺すんだ!!!!たかがタンパク質とカルシウムの塊の分際で僕に傷をつけた罪は重い!!!!!』

『…僕の言うことが聞けないのか?グラッジ……』

『うっ…』

リグレットの純白の機体が、不気味なオーラを発してグラッジを圧倒する。

『そうだ、グラッジ。リグレットを怒らせると後が恐いよ?それこそ後悔するほどにねぇ、ククク…』

カルマが面白そうにグラッジに脅しをかける。自分がプレッシャーをかけられているわけではないから、気楽なものだ。

『わ、わかったよ、カルマ…。…貴様、命拾いしたな!!』

アキトにそう言いながら、リグレットとカルマの機体に支えられながら辛うじて立つグラッジの機体。

『じゃあ、遺跡に帰ろうか…。シルフィウムにここまでのダメージを与えた彼に敬意を表してね…』

『ああ。マスターに報告しなければならないことが山積みだな』

ボォォォォ…

青い光に包まれる三機の――シルフィウムと言うらしい――機体。

『また会おう、イレギュラー』

『なかなか楽しめたよ、天宮 海人』

『覚えてろよ、テンカワ アキト!!貴様を殺すのはこの僕だ!!!』

バシュン!

そして光と共に消えるシルフィウム。後には、三機のサレナが残った。

「…ボソンジャンプか」

「みたいですね。一体何なんでしょうか、彼らは?」

「さあな。マスターとか言ってたから、あいつらに命令を下す立場のヤツがいることは確からしいが。…それに遺跡、か。俺たちに『記録』を渡しておきながら、あいつらにも関係があるらしい。真意が読めんな」

思考を巡らせる三人。…が、そう簡単に答えが出るはずも無い。

「取りあえず、ダイアンサスに戻るか」

「そうしますか。ここで考えててもどうにもなりませんし」

「じゃ、悪いがブラックサレナの運搬を頼む」

動かないブラックサレナを抱えながら、ダイアンサスに戻っていくゴールドサレナとブルーサレナ。

「俺に言わせりゃお前らがイレギュラーだよ、ったく」

ルリに言わせれば、どっちもイレギュラーなのだろうが。

ともかく、今回の戦闘によってナデシコ、ダイアンサス共に多大な被害をこうむったのであった。







あとがき



ラヒミス「はっはっは、とうとう40k超えちゃいました」

ユリカ「このままどんどん記録更新しちゃうんですか?」

ラヒミス「いえ、50kは超えません!多分!!」

ユリカ「いや、多分って、そんなに自信満々に言うセリフじゃないような気が…」

ラヒミス「いいんですよ。では、今回の反省です」

ユリカ「ルチルちゃんによるレクチャー…。うーん、ちょっと無理があるような気が…」

ラヒミス「それを言わないでくださいよ。自分でも蛇足かな、とか思ってるんです」

ユリカ「何でわざわざあんなことをしたんですか?」

ラヒミス「ルリのレベルアップを促すためです。あのままじゃトータルの実力差がありすぎますから」

ユリカ「ふーん…。それとイネスさん登場シーン。やっぱり行くのは海人さんなんですね」

ラヒミス「まあ、ミカンを渡したのは海人ですし」

ユリカ「でも暴漢と戦ってるとき、何か手加減してないように見えるんですけど」

ラヒミス「してますよ。じゃなかったらあの人たち死んでますから」

ユリカ「そ、そうなんですか?」

ラヒミス「余談ですが、海人は三人の中では一番残酷なんです、ためらい無く人を殺せますから。で、意外かもしれませんけど一番甘いのがアキト」

ユリカ「つまり、アキトが一番優しいってことですね!さっすがアキト!!」

ラヒミス「…甘さと優しさは別物ですよ。んじゃ次、マシンナリーチルドレンですが、これは…」

ユリカ「α外伝のアレですか?そのまんまですね」

ラヒミス「ええ、モデルは。やっぱああいうキャラはいいですよねぇ」

ユリカ「うーん、趣味悪いですね」

ラヒミス「余計なお世話です。で、これがパワーバランスをとるための策その一」

ユリカ「じゃあ、その二は何なんですか?」

ラヒミス「ずーっと先になってから出てきます。お楽しみに」

ユリカ「ホントに先になりそうですね…。あ、それとアキトの技!カッコいいですよね〜!」

ラヒミス「虎牙連弾ですか?時ナデ読んでるときにフッと思いついたんですけどね。虎牙弾って片手で撃ってましたし。あ、それとバーストモードの時間が時ナデと違うのは、海人の尽力によるものです」

ユリカ「他にも技は考えてるんですか?」

ラヒミス「一応は。…でも、技の名前って考えるのすごく大変なんですよ」

ユリカ「たとえばどんな感じで?」

ラヒミス「私の場合は『なんとか斬』とか『なんとか撃』とか『なんとか破』とか、取りあえず技のイメージだけ決めといて、後からその技に合った単語とか漢字とかを当てはめていくんです」

ユリカ「簡単そうじゃないですか」

ラヒミス「そうは言いますけどね、『技を使うキャラのイメージ』とか、『どういう状況で使う技なのか』とか、『威力は具体的にどの程度なのか』とか、『その技を見たみんなのリアクション』とか、色々考えなきゃいけないんですよ」

ユリカ「そう言えば、虎牙連弾を使った後のみんなのリアクションが無いですね」

ラヒミス「…次回やります」

ユリカ「そういう驚きのリアクションって、毎回ただ驚いてるだけじゃマンネリ化しちゃいますよね。うーん、大変だなぁ、小説って」

ラヒミス「だからこそ、やりがいもあるんですけどね。では、次回のゲストはアオイ ジュンさんです」

ユリカ「ジュン君…出番あるのかな?」

ラヒミス「うーん…97%くらいの確率で無いと思います」

ユリカ「それって、全く無いとほぼ同意義なんじゃ…?」

ラヒミス「いえ、97%でも外れるときは外れるんですよ。『当てろよこの阿呆!!!』って経験は何度かありますし、逆に3%で『チクショウ、てめえなんかニュータイプじゃねぇ!!!』とかもあります」

ユリカ「…そんなことってあるんですか?」

ラヒミス「あるんです。思わずL1とR1とスタートとセレクトを同時に押してしまいたい衝動に駆られますね」

ユリカ「は、はあ…」





 

代理人の感想

確かにレベルアップは必要ですねぇ。

今現在、ルリを含むナデシコって

いてもいなくてもいいような存在に成り下がってますから(苦笑)。

別にアキト達を主人公にするのはいいんですが

わざわざナデシコを出すんだったらその存在に物語における意味を持たせなければ。

そうでないならナデシコを出しても話が詰まらなくなるだけです。

 

主人公最強主義って読んでて面白くもなんともありませんからね。