第2幕(承前)

 

 

 

第1場 ナデシコ艦橋

 

 

 

 ユリカ、ルリ、ミナト、メグミ、ジュン、エリナ、プロスペクター、ゴート、そしてアキトが並んでいる。

 舞台奥にはメインスクリーンが開いており、そこに東舞歌が映っている。

 

舞歌 ……というわけなのよ。(溜息をつく)

 

 艦橋中が沈黙する。特に、アキトが受けた衝撃は最も大きいらしく、半ば放心状態である。

 暫しの沈黙の後、皆を代表して艦長、ミスマル・ユリカが口を開く。

 

ユリカ (真面目な口調で)お話についてはわかりました。

  しかしことがことだけに、流石にすぐ返事をするというわけには参りません。

  少々、時間をいただけますか?

舞歌 ええ、勿論です。

  ……ここからはオフレコでお願いしたいのですが、このお話は受けなくてもよいと思いますよ。

  正直なところわたしも、いま1つ本国の意向が掴めないのです。

  「あの」北辰をあなた方の艦に送り込んで料理をさせたところで、一体何の益があるのか……。

  完全に丸腰ということである以上、破壊工作の線は考えにくいのも事実ですが、

  さりとて本気で信頼醸成措置と考えているのなら、彼はあまりにミスキャストです。

  ……後は、察してください。

ユリカ わかりました。ではまた後ほど。

 

 メインスクリーンが閉じ、舞歌の姿が消える。

 

ルリ 思兼、先程の舞歌さんの話のオフレコ部分、記録から削除してください。

思兼(声のみ) OK、ルリ。

 

 暫く沈黙が続く。皆、思い思いの姿勢で先程の話について考え込んでいる模様。

 やがて、艦長が沈黙を破る。

 

ユリカ (なお真面目な口調で)みなさん。話は今聞いたとおりです。

  木連の側から和平の為の手を差し伸べてきてくれたのは喜ばしいことですが、

  何分相手が相手です。……手放しで歓迎するわけにもいきません。

  本艦としてはどのように対処すべきか、意見を聞かせてください。

 

 再び沈黙。皆、言葉の選択に困ったような表情。

 

ルリ (隣に立つアキトに傍白)どう思われますか? アキトさん。

アキト (ルリに傍白)わからない……。罠、にしてはあまりにあからさまだし、

  かと言って本気で料理だけをしに来るというのも、ちょっと信じがたいような……。

 

 やがて、考えあぐねた人々の視線がある一点に集中する。

 

メグミ なんですか? ……なぜ皆さん、あたしの方ばっかり見るんです?(不本意そうな表情をする)

ユリカ (慌てたように手を振って)あ、違うよメグちゃん。そんなんじゃないよ。

  別に、メグちゃんなら裏を読むのも簡単だろうなーとか、そんな風に思ったわけじゃなくって……。

ミナト (ユリカの口をふさぎ)はーいストップ。

  ……艦長、それ以上自爆するのはやめましょうねえ。

メグミ もう! みんなあたしのこと、一体なんだと思ってるんですか?

 

 メグミは拗ねたような表情を見せ、その場から走り去ってしまう。(退場)

 

ユリカ あ、メグちゃん!?

 

 ユリカがその後を追おうとするが、ミナトがそれを制する。

 

ミナト (静かな声で)今艦長が行っても逆効果よ。……ここは、アキト君の出番ね。

アキト え、俺ですか!?

 

 アキトが驚いたように反問する。その隣でルリが眉を顰めるが、口に出しては何も言わない。

 

ミナト ええ、メグちゃんのことはお願い。私たちは私たちにできることをするから。

  このことは、早めに他の人たちにも話して意見を取りまとめた方がいいわ。ねえ、プロスさん?

プロスペクター (頷き)そうですな。

  ことがことだけに、一応みなさんの意見を聞いておかねばならないでしょう。

 

 プロスペクターがちらりとエリナの方を見る。エリナは無言で頷く。

 

プロスペクター ……ではテンカワさん。メグミさんのことはお任せします。

  他の方は、すいませんが手分けして乗組員の皆さんから意見を集めていただけませんか?

 

 皆が揃って頷く。但し、ユリカとルリは不承不承といった感じである。

 

プロスペクター それでは、2時間後にまたここで、ということで。

 

 アキトは先程メグミが退場した方に、ルリを除くその他の面々は反対側に、それぞれ退場する。1人その場に残るルリ。

 

ルリ (少し腹立たしげに)……転んでもただでは起きないとは正にこのこと。流石ですね、メグミさん。

  でも大丈夫です。私は、アキトさんを信じていますから。

  (冷ややかな口調になって)……だからわかってますね。

  この信頼を裏切ったら、お仕置きですよ? アキトさん。(退場)

 

 

 

第2場 ナデシコ展望室

 

 

 

 1人、膝を抱え込んで座るメグミ。窓の外に広がる星の海も、その目には映っていない様子。

 ややあってアキトが登場する。少し逡巡した後、黙って彼女の横に腰掛ける。暫しの沈黙。

 

アキト ……ごめん、メグミちゃん。

メグミ ……どうして、アキトさんが謝るんですか?

アキト え? いや、それは……。

  でも、とにかく謝らないといけないような気がしたから。だから、ごめん。

  (メグミに向かって頭を下げる)

メグミ (くすりと笑って)なんですか? それ。

  (傍白)艦長のため、というわけじゃないんですね。ならいいです。

 

 再び沈黙。しかし、その場の雰囲気から先程までの重苦しさは消えている。

 やがて、メグミが再び口を開く。

 

メグミ ……「料理交流会」の件、ですよね? 

 

 俯いていたアキトが顔を上げ、メグミを見つめる。

 

メグミ 舞歌さんはああ言ってましたけど、あたしはこの話、受けても良いと思います。

  ……内心はどうあれ、形の上では木連の主戦派のほうから、交流の申し出があったわけですよね?

  それを断ってしまえば、後からどう言いつくろったところで、

  「ナデシコは本気で和平を進める気があるのか?」って言われても仕方ありません。

  案外、それが向こうの狙いなのかも……。

  けれど逆に考えれば、「あの」北辰さえも受け容れて見せるということは、

  こちらの和平を目指す姿勢の、これ以上ない強力なアピールになるわけです。

  受け容れに伴う破壊工作の危険については、こちらが気をつければ抑え込める可能性も十分ありますけど、

  逆に拒否してしまえば、それが和平への障害になってしまうのは防ぎようがありません。

  どちらを選ぶべきかは、自明の理じゃないでしょうか。

アキト 成る程、確かに理には叶っているね。しかし……。

  これが他の人なら、手放しで歓迎するところなんだけど。何分相手が相手だからなあ……。(溜息をつく)

  例え丸腰でも、素手で簡単に人を殺せる奴だし。一体裏で何を企んでいるかわかったものじゃない。

  やはり、全面的に信用するのは危険すぎるんじゃないだろうか?

メグミ (頷いて)そこは……、賭けです。断れば和平に不利になるのも事実ですが、

  かといって、受け容れて無事に済むという保証もないですから。

  ただ、単身丸腰で敵の戦艦に乗り込む以上、

  そこで破壊工作を行ったりすれば、生還を期し難いのは言うまでもないですよね。

  彼の向こうにおける地位から見て、それは考えにくいと思うんです。

アキト (首を傾げ)……つまり、奴は単なる陽動で、

  その間に他の連中が、ナデシコ以外で何かを起こそうとしてるのかもしれないってこと?

メグミ それは、わかりません。……意外と、ただの嫌がらせに過ぎないのかもしれませんし。

  それに舞歌さんが言っていたことが本当なら、本気で料理交流するつもりっていう可能性もあり得ますよ。(笑う)

アキト 北辰が若い頃、料理人を志望してたっていう、あれかい?

  ……あまり想像したくないなあ。(げんなりする)

  まあ、流石にそれはないだろうけど。メグミちゃんの言うことにも一理あるね……。(暫く考え込む)

  うん、そうだ。俺達は和平に通じる可能性のある、どんな細い道でも見逃すべきじゃない。

  (すっくとその場に立ち上がる)

  よし、決めた。受け容れるようにみんなを説得してみよう! 奴がナデシコに居る間は、

  俺が付きっきりで監視していればいいんだから。

  (傍らを見下ろし)ありがとうメグミちゃん。いい知恵を貸してくれて。

  お礼に、後で好きな料理を1つ、何でも作るよ。

メグミ (同じく立ち上がって微笑みながら)その意気ですよ、アキトさん。

  ……ところで、そのお礼なんですけど。今、ここでもらっちゃってもいいですか?

アキト (メグミの言葉に不穏なものを感じ)え? い、今ここで?(あたふたする)

メグミ 大丈夫ですよ。別に目をつぶってくださいなんて言いませんから。(くすりと笑う)

  ……ちょっとしゃがんで、頭を低くしてもらえます? そうそう。

 

 メグミの言葉に安堵の表情を見せ、言われたとおりアキトは膝を曲げて中腰になる。

 丁度、顔がメグミの胸くらいの高さにくる。

 その時、メグミはアキトの後頭部に手を回し、やおら彼の顔を自分の胸に埋める。

 

アキト !!(声にならない悲鳴。しかしその体は硬直し、ぴくりとも動かない)

 

 そのまま、暫く動かない2人。やがてメグミがアキトの頭から手を離し、彼を解放する。

 アキトは、力が抜けたようにぺたんとその場に尻餅をつく。

 

メグミ (頬を赤らめて)どうでしたアキトさん? ……そりゃ艦長とかには負けるけど、

  あたしだってそう悪くないですよね?

アキト (真っ赤な顔をして、無言のままこくこくと頷く。相変わらず、完全に放心状態のままである)

メグミ じゃ、ブリッジに戻りましょうか? そろそろみんな集まっている頃でしょうし。

 

 そう言ってメグミはアキトの左腕を取って立ち上がらせ、腕を絡める。

 アキトの動きは、ずっとぎくしゃくしたままである。

 一方メグミは顔に満面の笑みを浮かべ、空いた手で客席に向かってピースサイン。

 そのまま、2人は連れだって歩いていく。(退場)

 

 

 

第3場 ナデシコ艦内、どこともわからない場所

 

 

 

 真っ暗な舞台。その中央にルリが1人、腕組みをして佇んでいる。

 やや離れて、コンソールに向かうラピス・ラズリ。

 スポットライトの白い光が、彼女達を周りの暗闇からくっきりと浮かび上がらせている。

 

ルリ (怒りを押し殺した声で)……やってくれましたねメグミさん。

  ラピス、直ちに同盟の皆に連絡! 「同盟法廷」を招集しますよ!

ラピス (やはり怒りに声を震わせながら)了解!

ルリ (一転して静かな声で)……その後で、アキトさんにもお仕置きです!

 

 スポットライトが消え、舞台上が闇に帰る。

 

 

 

(第3幕に続く)

 

 

 


(中書き)

 メグちゃんが貧乳だなんて、一体誰が言い出したことなんでしょうか?

 いや、今回の話を書くにあたり、

 TV版ナデシコの第7話『温めの「冷たい方程式」』、及び第8話『奇跡の作戦「キスか?」』

等を観なおしてみて、改めてこう思ったわけです。

 「あれなら、十分に水準以上でしょ? いやマジでマジで」

 ……たまたま周囲が周囲だったために、SSのキャラになるに際してそういう特性を振られてしまい、

 割りを食う羽目になっちゃったんですね、きっと(笑)。

 

 いやー、久しぶりにナデシコを観て、改めてそのおもしろさに浸りました♪

 

 でも一番インパクトがあったのは、実はミナトさんのバスト。

 ミナトさん、貴女のその大きく胸の開いた制服、はっきり言って犯罪的です。猥褻物陳列予備罪です(笑)。

 ……ああ、李もナデシコに乗り組んで、あの魅惑的な谷間を心ゆくまで眺めてみたい(爆)。

 

 

 

※「同盟法廷」は、鳥井南斗さんのアイデアです。

 鳥井さん、いつもいつもオチに使わせてもらってすんません(笑)。

 

 

 

代理人の感想

あ〜、彼女が「貧乳」と言う役割を割り振られてしまった理由としてはやはり、

 

単に回りみんなホルスタイン

 

なだけかと(爆)。

 

ちなみに外見ですが・・・・設定で貧乳であっても絵面は並以上、

とゆーのはこの業界良くある事ではないかと(爆)