――予め読者の皆様へお断りしておきますが、本日のインタビュウは御本人の強い希望により、コミュニケ(音声通信オンリー)を用いて行っております。 ……では、まずお名前と、できれば御職業をお聞かせください。

 

 わたしの名前はソニー・H・マツシタと言います。仕事は、エンジニアをしています。

 

 

 

 

 

 


 

 漆黒の戦神アナザー

 

   ソニー・H・マツシタの場合

 

By 李章正

 


 

 

 

 

 

 

 ――早速ですが、ソニーさんはどこで「彼」とお知り合いになられたんですか?

 

 えっとですね。 ……蜥蜴戦争の頃、わたしは日本の工場で働いていたんですが、休日に街に買い物に出かけて繁華街をぶらぶらしていた時、突然彼が声をかけてきたんです。

 

 ――ほほう、戦神が自分から女性にアプローチするなんて珍しいですね。で、彼になんと話しかけられたんですか?

 

 はい。彼はわたしに向かって、きらりと歯を光らせながらさわやかに微笑んで

 

「美しいお嬢さん。僕と一緒に、その辺でお茶でもいかがですか」

 

と言ったんです。

 

 ――ありがちと言うか何と言うか、非常にベタなナンパの仕方ですね(というより、それってホントに戦神? なんか、らしくないなあ)。 ……で、貴女は承諾なさったんですか?

 

 ええ、丁度暇でしたから。

 

 ――はあ、なるほど。でも、その時点で彼の正体には、当然気づいていなかったわけですよね?

 

 勿論。だって彼って、一見なんだか普通の人って感じじゃないですか? そりゃ、見た目はそう悪くはないですけど、かといってモデル並みってほどでもありませんし。 ……あれくらいの人なら、結構その辺にもいると思うんですけどね、わたし。

 

 ――そうなんですか? 私は直接の面識がないのでなんとも(戦神を良く言わない女性って、すんごく久しぶり。インパクトあるなあ)。 ……で、お茶をご一緒なさったわけですよね。よろしければ、その時の様子をお聞かせください。

 

 そうですね。彼はわたしの荷物を全部持ってくれて、喫茶店に入ってからも色々と、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれました。ああいう世話好きな人って、一緒にいると楽でいいですよね(笑)。

 

 ――ははあ。それで、お話としてはどのような話題があったのでしょう?

 

 専ら、技術関係の話でしたね。エステのチューン・アップのコツとか……。そうそう、「改造は男の浪漫だ!」って、拳を握り締めて力説してましたっけ。

 

 ――そ、そうなんですか(汗)。で、その後は……?

 

 お茶とケーキを御馳走になってから、そろそろ帰りたくなってきたのでそう言ったんですけど、なかなか離してくれなくて。しまいには馴れ馴れしく手を握ってくるもんだから、むっとして頬を1つ引っぱたいてあげたんです。

 

 ――せ、戦神を殴っちゃったんですか? 彼って、マスターなんとかというお爺さん同様に、素手でエステを叩き潰してしまえるって噂のある人なんですよ。大胆ですねー(汗)。 ……それで、どうなりました?

 

 きっと、叩かれて目が覚めたんでしょうね。漸く諦めたみたいで、泣きながら走り去っていきました。それはもう凄い勢いで(笑)。

 

 ――ははあ。まあ「彼」にしてみれば、希有と言っていい出来事だったでしょうからねえ(……そう、まるで戦神の話とは思えないほどにね)。 ……では最後に、「彼」に対して一言お願いします。

 

 テンカワさん、世の中には、あなたに靡かない女性だって結構多いんですよ。これに懲りて、手当たり次第に女性に手を出すような恥知らずな振る舞いは、以後控えるようにしてくださいね。

 

 ――では本日のインタビュウはこの辺で。今日はどうも有難う御座いました。

 

 

 

 

 

 

 ――ソニー・H・マツシタさんは、オセアニア系の某企業にお勤めとのことですが、御本人の強い希望により、名前以外の個人情報については秘匿させていただきます。

 

 

 

 

 

 

 民明書房刊『漆黒の戦神、その軌跡』第19巻より抜粋

 

 

 

 

 

 

 ――ナデシコ艦内某所。別名「お仕置き部屋」。

 

 いつものようにいつものごとく、薔薇色の鎖で椅子に縛り付けられた黒髪の青年と、それを取り巻く15名の女性達。 ……ただ、いつもならいるはずの、ナイスバディなお姉さんの姿が、今日は何故かどこにも見当たらない。

 

 だけでなく、室内の雰囲気も、普段とは全く異なっていた。 ……いつもなら充満しているはずの瘴気めいた嫉妬のオーラが、いずれの女性からも全く発生していないのだ。 ……あるのは、ただこれから起こることを純粋に楽しもうという、遊園地のそれにも似たふんわりとした空気だけ。

 

「ル、ルリちゃん信じてくれ! 俺は本当にこの人は、この人にだけは心当たりがないんだ! きっと何かの間違い……」

 

「心配しなくてもいいですよアキトさん。今日はわたしたち、『本当に』怒っていませんから。その証拠に、水差し役のミナトさん、呼んでないでしょう?

 

 だから、今日の『お仕置き』も軽めです。わたしたち一人一人と、一杯ずつお茶におつきあいしてくれるだけでいいんですから(笑)」

 

「……頼むから勘弁してくれ。15杯も続けてお茶飲んだら、舌がおかしくなっちゃうよ(涙)」

 

 

 

 

 

 

 ――同時刻。ナデシコ艦橋。

 

 大半のクルーが(何故か)出払ってがらんとした中、手持ち無沙汰な顔で計器を眺めているボディコン美女1人。

 

 そこへ、サングラスをかけた痩身の男が入ってきた。単身退屈そうに座っている彼女を目にして眉をくっと上げ、怪訝そうな表情を顔に浮かべる。

 

「あれミナトさん? さっきアキトのやつが、『例の部屋』に連れていかれてたようだけど。 ……一緒に行かなくていいの?」

 

「ああ、今日はいいのよ。みんな『本当に』冷静だから、別にお目付け役は必要ないの」

 

「へえ、珍しいこともあるもんだ。 ……でも、例の本が出たばかりだったよな? それなのに、なんでそんなに落ち着いていられるんだ? 彼女たち」

 

「ああ、ナオさんまだ本を読んでないのね……。つまりね、今回のインタビュウは、捏造記事だったからよ」

 

「ね、捏造? なんだいそりゃ。遺跡じゃあるまいし(汗)」

 

 予想外の台詞に訝る黒服の男。そんな彼に、彼女はこの度出版された本を差し出した。さっと目を通した後ぱたりとそれを閉じ、ナオは深々と溜息をつく。

 

「なるほどね。 ……にも関わらず、結局お仕置きされてしまうわけか? 哀れだな、アキトの奴(笑)」

 

「くすくす、ホント♪ 最近、手段と目的が完全に入れ替わってるもんね、ルリルリたち。 ……まあそう言うわけだから、今日はナオさん、多分『彼』の回収には行かなくて済むわよ。アキト君、自分の足で歩いて出てこられるでしょうから」

 

「そりゃあ有り難い。 ……にしても、馬鹿なことしたもんだあいつ等。いくらこのシリーズが成功したからと言って、ちょっと調子に乗りすぎちまったよな」

 

「そーそー。第一、みんながつぎはぎで文章を作ったもんだから、思いっきりばればれなのよね(笑)。 ……大体、ソニー・ヒタチ・マツシタなんて名前、知ってる人が見たら冗談としか思わないわよ。復活までどれくらいかかるかしら?」

 

 そして2人は、期せずして同じ光景を思い浮かべたのであった。

 

 

 

 

 

 

 ――やはり同時刻。ナデシコ艦内某所。別名「お仕置き部屋」。

 

 そこに「かつて人間だったもの」が計4体分、転がっていた。その有様は、正に艦橋の2人の脳裏に浮かんだ光景、そのままである。

 

 なにものが、そしてなにゆえに、このような惨劇をもたらしたのか……、賢明な読者諸君には分かり切っていると思うので、敢えて詳細な説明を加えることはしない。

 

 ……ただ、もしそこに第5の人物が存在したならば、彼は部屋の隅に蓮華と、空っぽの皿が丁度4人分、重ねられているのを目にすることができた筈である、とだけ言っておこう。

 

 

 

 

 

 

(おしまい)

 

 

 

 

 

 


 

(後書き)

 

 好! 李章正です。

 

 いやあ、とうとう書いてしまいました『戦神アナザー』。人気シリーズだけあって、普通の話ではもう書き尽くされている感があるので、例によって例の如く、変化球勝負に出たわけですが(笑)。

 

 皆さんはどの辺で、「ああ、そうか!」と気がつきましたか? ……え、女性の名前見た時点でばればれ?(汗)

 

 ところで、元々このシリーズって、「某組織」が戦神を陥れるために始めたことでしたよね。 ……何故か途中から「某同盟」が引き継いで、「彼」に対するお仕置きネタを探すためのものに転化してしまいましたけど(笑)。

 

 でも、本来の目的からして、こういう戦法もあり得たはず。特に、「彼」みたく手当たり次第だと、ホントに知らなくっても信じてもらえそうにないから、結構成功率高いんでは? いわば狼少年(笑)。

 

 ……ま、こんな露骨な捏造記事を書いてちゃ、ダメダメですけどね(笑)。

 

 それではまた。

 

 

代理人の感想

 

そうか、この手があったか(笑)!

 

・・・もっとも、どうせ捏造するならいつも通りの落とされた女性の記事を捏造して

アキトを無実の罪でお仕置に掛ける方がナンボか有効だと思うのですが、

そこに頭がいかないのが某組織たる由縁でしょうか(笑)。