前編の末尾において、瑠璃色の妖精の代わりにハーリー少年の前に姿を現した、作業服の怪しげな男たち。

 

 ――賢明な読者諸君にはすぐに察しがついたことと思うが、彼らの正体は無論ピースランド王城の召使いなどではなく、ネルガルに敵対する幾つかの組織、その1つが放った濡れ仕事専門の工作員であった。

 

「『園丁』の報告を受けた時にはまさかと思ったが――。貴重なマシン・チャイルドがこのような所に、護衛も連れず1人でのこのこやってくるとはな――。これぞ千載一遇の好機。捕まえろ!」

 

 かくして金瞳の少年は、謎の一団にあっさりと捕えられ、そのまま拉致されることになったのであった(笑)。

 

 ――まあ、彼は「不死身」ではあっても「無敵」ではない。いくら木連式柔で鍛えているとは言っても、その絶対的実力はまだまだ年齢相応といったところ。要するに、高の知れたレベルである。

 

 である以上、訓練された工作員達が、子供1人を簡単に捕まえることができたのも、至極当然のことだったと言えるであろう。

 

 

 

極秘

 

「空白の2年間」補完計画

 

Action最高幹部会

 

第6次中間報告(後編)

 

 

「空白の2年間」補完委員会

 

Action暦3年度業務計画概要

 

総括編

 

 

 

(くーっ、しまったぁ! ――まさかあの手紙が、僕をおびき出すための偽手紙だったなんて!

 よくよく考えてみれば、あんな人気の無いところに1人で来いだなんて、いかにも怪しいことだったんだけど。なにしろ筆跡が、あまりにも艦長のそれに似ていたんでつい信用してしまった(汗)。 ――ごめんなさい、艦長!)

 

 抵抗空しくあっさり敵に捕まってしまい、後悔の炎に身を焦がしつつその場から連れ去られてゆくハーリー君。

 

 ――しかし、彼は知らない。自分が受け取った手紙が偽物などではなかったことを。そして、おびき出されたのが実は自分ではなく、彼を攫った周りの連中の方であることを。――まあ、世の中には知らない方が幸せなことも、確かにあるということだね(笑)。

 

 さて、黒髪の少年に猿轡を噛ませ、穀物袋にすっぽり包んでその場を離れた児童誘拐者の一団は、程なく城のすぐ外に臨時に作られた特設駐機場に辿り着いた。そして、駐めておいたダミー企業所有の小型商用船『ロシナンテ』に慌ただしく乗り込むや、さっと中空へ舞い上がる。――哀れ、ハーリー少年は、このまま敵の手中に落ちてしまうのか?

 

 ――現代版ハメルンの笛吹き達にとっては極めて残念な事ながら、そうではなかった。今回のことは、その最初から最後まで、彼ら以外の人物が脚本を書き、演出した一幕の喜劇であり、結局のところ誘拐者達は、その掌の上で踊る斉天大聖に過ぎなかったのである。

 

 攫われた少年を乗せ、一路国境へ向かって夜空を突っ走るロシナンテ。ブリッジには、手の空いた者が集まって、早々と作戦成功の祝杯をあげていた――しかし、そこに突然、ピースランド王城から通信要請が届いたとの連絡が入る。

 

「無視すれば怪しまれるな――、繋げ。子供が映らないよう注意しろよ」

 

 まだ作業服を纏ったままだった船長は部下にそう命じた後、何くわぬ顔をしてメインスクリーンを開かせ、相手と向かい合った。――しかし次の瞬間、彼の顔は驚愕のあまり思わず引きつることになる。

 

「私はピースランド王国第1王女、ルリ・オブ・ピースランドです。時間が惜しいので単刀直入に言います。

 あなた達が、私の誕生パーティの賓客を攫ったのはちゃんとわかっています。――今すぐ投降し、ハーリー君をここへ戻しなさい。

 素直に言うことを聞けば良し――、さもなくば、直ちに実力を行使します」

 

 自分達の目標の1人が突然スクリーンに現れたのも驚きなら、彼女が口にしたことはそれ以上に衝撃的だった。一体何故、こんなにも早く足がついてしまったのか?

 

 しかしそれも一瞬のこと。内心の激しい動揺をどうにか押し隠し、船長はすぐさま弁明を試みた。――人の好さそうな微笑を顔一杯に浮かべ、いかにも訳がわからないという表情をして見せるのも、無論忘れない。

 

「なんのことでございましょうか? ――私どもは見てのとおり、ただのしがない出入り業者でして、おっしゃる意味がとんと」

 

「理解できない、ということですね。こちらの通告を。わかりました、交渉は打ち切りです。重ねて警告する余裕は、こちらにもありませんから」

 

 真珠色に輝くドレスをその身に纏い、煌びやかな宝冠を頭に飾った瑠璃色の妖精は、そう言ってあっさりと船長の弁明を断ち切った。――いや、打ち切りも何も。まだ君、交渉らしいこと殆どやってないような気がするんだが(汗)。

 

「ハーリー君、こうするしかない私たちを許してください――。でも、私は信じていますからね」

 

 そして、つながった時同様唐突に映像は途切れた。船長は、

 

「航法、最大戦速! 可能な限り早く国境を越えるんだ! 電探、周辺に敵はいないか、再度チェックしろ!」

 

「スピードアップ! 残り1分でピースランド領空離脱可能!」

 

「周辺警戒! 探知可能空域内に反応なし。――大丈夫です。今から要撃機や地対空ミサイルを上げてきたところで、とても追っつきゃしません(笑)」

 

 その報告に、一旦緊迫したブリッジの空気が一気に緩む。国境を越えてしまえば滅多なことはできない以上、自分達を実力で止めることは最早不可能との確信が彼らにはあった。――そう、確かにエステやミサイルでは届かなかっただろう。

 

 ――だが次の瞬間。

 

 凄まじい轟音と振動が、小さなロシナンテの船体を襲った。

 

「なっ、何事だ!?」 

 

「敵の攻撃です! ――これは多分、重力波レールガン! 直撃ですっ!」

 

「『ナナフシ』か! なんでそんなものがここに!?」

 

 ――そう(何故か)ピースランドには、かつての戦争でナデシコを一時的にせよ行動不能に追いやった、あの強力な兵器が据えつけられていたのである。――無論、あれに比べれば大分小型化したものではあったが。

 

 そして、ロシナンテのブリッジは忽ち悲鳴と怒号の嵐に包まれた。

 

「主機関停止! 操舵不能!」

 

「3千――、2千――、まずいです! 高度がどんどん下がっていますっ!」

 

「左舷機関部に火災発生! 自動消火装置故障! このままでは爆発します!」

 

「くっ、やむを得ん。 総員脱出! 子供を忘れるな! ――これが、ネルガルのやり方か?

 俺達はともかく、攫われた味方の安否をまるで考慮しないこの苛烈な攻撃――、奪われるくらいなら、寧ろもろともに吹き飛ばすのも辞さないというわけか。くそっ、甘かったな!」

 

 ――凡そ30秒後、所々から炎を噴き出し、黒煙を上げながら高度を下げ続ける船から、1体の脱出ポッドが吐き出された。――ドン・キホーテの愛馬が、空中で眩い光の球と化したのは、その数瞬後のことであった。

 

 

 

◆  ◆

 

 

 

 ――それから、更に4時間ほど経った後のこと。

 

 ピースランド王国国境地帯のとある村に、約1個中隊の兵士が展開していた。完全武装した彼らは、村の片隅にぽつんと建つ廃屋を、蟻の這い出る隙間もないほど十重二十重に囲い込んでいる。――そんな兵士達の中に、丈高い痩身を黒服に包み、サングラスをかけた若い男も交じっていた。

 

 まだ夜明けには暫く間があるため、外の空気は少々肌寒い。が、兵士達は不平1つ漏らすことなく、各々火器の照準をぴたりと廃屋に合わせたまま、じっと命令を待ち続けている。――そんな彼らの背後に、1台のエアカーが飛来した。それを認め、サングラスの男は徐にそちらへ近づいていく。

 

 やがて、黒塗りの車体に豪華な装飾を施され、王家の紋章で飾られたそのエアカーの中から、軽装をした1人の少女が降り立った。彼女はちらりと廃屋の方を眺めた後、歩み寄ってきたサングラスの男に小声で話しかける。

 

「状況はどうですか、ヤガミさん?」

 

「ああ、さっき報告した時から変化なしだ。完全包囲したまま、こっちからは一切手出しをしてない。――奴らはハーリーを人質にして、ずっとあの廃屋に立てこもってる。逃走用の船とか、食料を寄越せとは言ってきやがるが、こっちの投降勧告には一切反応無しだ」

 

「そうですか。――では、そろそろけりをつけましょう」

 

「お、いよいよ強行突入かい?」

 

 にやりと、顔に好戦的な笑みを浮かべるサングラスの男。漸く、思い切り腕を振るえるチャンスが来たと思ったのかもしれない。――しかし、金瞳の少女は彼の期待をあっさりと打ち砕いた。

 

「いいえ、それでは味方に無用な犠牲が出る恐れがありますから。ヤガミさん、もう1度だけ彼らに投降を勧告してみてください。

 それで応答がなければ――、あれを使います」

 

 

 

◆  ◆

 

 

 

 ――最後の投降勧告が、やはり完全に無視されてから暫くして。

 

 児童誘拐犯たちが立てこもっていた廃屋が、何の前触れもなく突如爆発した。――到底逃げ切ることはできないと悟り、観念して人質もろとも自爆したのだろうと思われた。

 

 それを見て、時を移さず兵士達は白煙と瓦礫の中に突入した。そして、爆発に巻き込まれて重傷を負い、半死半生になっている工作員たちを1人残さず捕らえ、悉く病院 ――無論監視付き―― に送り込んでいく。

 

 ――それと共に彼らは、折角の正装が見る影もなくずたぼろになり、真っ黒な顔で目を回してはいたものの、何故か体にはかすり傷1つ負っていない人質を、無事救出することに成功したのであった。

 

 

 

 

 普通なら、話はここで終わりだ。

 

 

 

 

 ――だが、不死身少年の災難はこれで終わったわけではない。寧ろ、これからが本番なのである(笑)。

 

 

 

◆  ◆

 

 

 

「――うーん、か、艦長。僕は、僕はぁ」

 

 軽い呻き声をあげて、黒髪の少年は目を覚ました。

 

 消毒薬の匂い漂う、病室を思わせる真っ白い部屋の中――。何時の間にか、彼は白いパジャマを着せられ、その身を簡易なパイプベッドの上に横たえていた。――部屋の隅に置かれたテープレコーダーから、何の意味があるのだろうか、蝉時雨とラジオ体操の音楽が微かに聞こえてくる。

 

「お気がつかれましたカ?」

 

 そう問いかけられて、彼は漸く自分の傍らに、1人の少女が座っていることに気づいた。

 

「へ? あ、あれここは? 君は誰?」

 

「ご心配なくハーリー様。ここは、王城の附属病院デス。わたくしは、ピースランド王国第2王女、ジュエル・フォン・ピースランド――。どうぞ、ジュエル、とお呼び下サイ」

 

 そう言って、少女はその限りなく蒼に近い黒の瞳でハーリーをじっと見つめる。思わずその目を見つめ返した少年は、その時漸く、彼女が昨夜のパーティの際、不注意でぶつかってしまった娘であることに気づいた。

 

「ジュエルさんですか――。第2王女? じゃ艦長の? ――あれ、艦、いやルリさんはオブ・ピースランドでしたよね。失礼ですが、ルリさんとはどういうご関係なんですか?」

 

「ええ、妹デス。――フォン・ピースランドは、魂の名前ですワ」

 

「は、はあ。そうなんですか(ヤマダさんの同類か――)」

 

 ジュエルが何の影響を受けたかまでは分からないものの、思わず顔に縦線が走ってしまうハーリーである。

 

 ――彼には理解できなかったのだが、もしこの場に桃色の妖精がいたならば、ジュエルの纏っている胸元の赤いリボンをアクセントにした青いジャンパースカートが、一体何を模したものであるか、すぐに気づいたであろう(笑)。

 

「ハーリー様は、テロリストに誘拐されて、救出作戦の時に負傷なさったのデス。それで、わたくしがずっと看病して差し上げていましたノ」

 

「そうだったんですか――」

 

「姉も、先ほどお見舞いに来たんですノ。でもその時には、ハーリー様の意識がまだお戻りになっていらっしゃらなかったノデ――。姉は、今日も主役として多忙なものですカラ――、ごめんなサイ(涙)」

 

「あ、いや分かってますよそれくらい。――それより、僕ならもう大丈夫ですから、ジュエルさんもどうぞ、皆さんの所へお戻りになってください」

 

「あら。駄目ですワ、まだお起きになってハ。船の墜落やら、犯人の自爆やら、本当に大変な目にお遭いになったのですカラ」

 

「いや。平気ですよこれくらい。別にどこも怪我してないですし」

 

 ――そう、あれだけの騒ぎに巻き込まれたにも関わらず、彼はほとんど無傷と言ってよい状態であった。

 

 さすがにここまで来ると、我ながら嘘臭い気がしてしようがないのだが――。何分、『時の流れに』本編で随所(1例を挙げるなら、序章第18話初日その2の『人間ピンボール事件(笑)』など)に見られるとおり、彼は「そういう」設定になってしまっているので――。

 

 ――やむを得ないのである。本編に忠実たるべき、外伝書きとしては(笑)。

 

「いいえ、きちんとハーリー様の面倒を見て差し上げるよう、姉に仰せつかっていますカラ。部屋からお出ししては、わたくしが姉に叱られてしまいマス」

 

「わあっ、ジュエルさん! ――分かりました、分かりましたから抱きつかないで! ベッドに押し倒さないでっ!(汗)」

 

 

 

 

 ――同時刻、王城内の一室。

 

 そこに据えられた特大のスクリーンに、翠がかった黒髪の美少女と絡み合いながらベッドの上を転げ回る、金瞳の少年の姿が映し出されていた。

 

 その有様を、顔には笑み、額には青筋を浮かべつつ眺める男達 ――長髪だったとも、サングラスをかけていたとも言うが、はっきりとはわからない―― がいたと言われているが、未確認情報である。

 

 その傍らに、これまた面白そうに笑いながら、リアルタイムでその映像を日本のU・K宛アドレスに送りつけている、 桃色の妖精がいたとも伝えられているが――、やはり真相は定かではない(笑)。

 

 

 

◆  ◆

 

 

 

 ――再度、何時とも知れぬ刻。そして、何処とも知れぬ空間。

 

 漆黒の暗闇の中、永遠の沈黙に包まれるかに思われたその場所に、再び1体のモノリスが浮かび上がった。

 

「SOUND ONLY 01」の文字を表面に穿たれたそれは、微かに光を放ちつつやはりその場に浮遊していたが、またその身を震わすようにして音声を発し始める。

 

「――今回の作戦は、完璧に成功裡に終わりました」

 

 それを合図にしたかのように、前回同様、その場に次々と同じようなモノリスが出現した。10体近く浮かび上がったそれらは、やはり円をなすように、向かい合って宙空に浮かぶ。

 

「ま、これで敵さんも暫くおとなしくなるだろう。――うっかり手を出せば火傷するのは自分の方だって、たっぷりと思い知ったことだろうからな」

 

 次いで「SOUND ONLY 08」のモノリスがそう発言した。それと同時に、他のモノリスも次々と言葉を発し始める。

 

「まるで護衛を外すわけにはいかないけれど、警戒レベルを大分下げることはできそうね。――正に、狙い通りってわけか(笑)」

 

「折角誘拐に成功しても、遠慮なく人質ごと吹き飛ばすんだもんなあ。ま、確かに『こっちの決意』って奴を敵に見せつけるには、これ以上のやり方はないけど。

 ――『不死者』か『幼き不死者』が人質になった時にしか使えない手だっていうのが、玉に瑕だがね(笑)」

 

「ええ。ですが、それを敵に教える必要はありません。――ですから『幼き不死者』にも、暫くの間入院してもらいました」

 

「――敵ごと爆弾で吹き飛んだくせに、怪我らしい怪我をどこにもしてなかったんだぜ、あいつ(笑)。

 で、しょうがないから無理矢理病室に縛り付けるしかなかったんだよ。怪しまれないようにな」

 

「ええ。うまい具合に、妹が看護を志願してくれましたから。全部任せました」

 

「ジュエルちゃんって言ったっけ? いいよねえハー、――『幼き不死者』君。あんな可愛い娘につきっきりで看護してもらえて。できれば代わってほしいくらいだよ(笑)」

 

「じゃ代わってみる? ――その前に、乗ってる船が問答無用で墜とされて、更に監禁されてる家が、粉微塵に爆砕されるわけだけど」

 

「可及的速やかに前言撤回。――にしても、あれって確か、ボソン砲で敵のど真ん中に爆弾放り込んだんだっけ?

 対艦兵器としてはいまいちだったけど、拠点攻撃には正に無敵だね、あれ(笑)。『妖精』君が考えたの? あの使い方」

 

「内緒です(笑)」

 

「――それにしても、どうせならもっとでかい花火を打ち上げてやれば良かったんじゃないか。あの10倍の爆弾放り込んでも、ハー、――『幼き不死者』の奴だったら生きてたぜ、きっと(笑)。

 それか、連中が人質をどこかの研究施設に連れ込むまで待って、その施設ごと綺麗さっぱり吹き飛ばしてやれば、もっと清々しただろうに」

 

「それでは、些か過剰殺戮になります。与える損害が大きくなり過ぎることで、リアクションがどう変わるか。かえって敵の強硬派を力づけ、早期開戦につながるかも。――今戦端を開くのは、決して望ましいことではありません。

 敵にとって、致命的な痛手ではないが繰り返して受けたくはない、その程度の損害を与えること。それが今回の場合、最適と考えられる対応だったんです。

 また、研究施設となれば無関係の実験体がいることも考えられますし――。彼らの救出作戦ならともかく、関係ない戦いの巻き添えにするわけにはいきませんから」

 

「それに、ゴート君に信徒予備軍を補給する必要もあるしね。最近、またうるさいんだよ彼――(汗)。外部での布教を押し止めるための人身御供を確保するのも、これで結構大変なんだ。無駄に死なせちゃもったいない(笑)」 

 

「そういうことね。あら、そろそろジャミングの時間切れよ。では、今日の会議はこれまでね。解散しましょ」

 

「SOUND ONLY 03」のモノリスがそう言ったのをしおに、全てのモノリスが今度は一斉に姿を消し、辺りは再び漆黒の闇に還ったのだった。

 

 

 

 

 ――これで、今回の話は大体終わりなのである。

 

 

 

 

(終わり)

 

 

 

 

(おまけ 〜後日談〜)

 

 

 

 

「ルリ、今学校から帰り? 一緒に帰ろ♪」

 

「ええ、いいですよラピス」

 

 柔らかい笑みを頬に浮かべて、瑠璃色の髪の少女は頷いた。例の作戦の後、それまで外出の都度ルリ達の周囲を固めていたボディガードは、少なくとも彼女らの視界からは完全に姿を消している。そのためもあってか、桃色の妖精は学校生活にも完全に馴染み、伸び伸びと振舞うようになっていた。

 

 以前の明るさをすっかり取り戻した妹分の姿に、ピースランド第1王女は、今回の作戦の成功を実感する。

 

「ところでラピス、今日もハーリー君が一緒じゃないんですね?」

 

「ああ、ハーリーならまだ教室の中だよ。キョウカたちがピースランドでの浮気の件で、今日もまた糾弾集会を開いてるから(笑)。

 それに教室の外では、キョウカのお兄ちゃんがいつものように、変な武器を持ってハーリーのこと待ち構えてたし――。だから、まだ2時間くらいは帰れないんじゃないかな?」

 

「そうですか――。嫉妬って醜いですね、女の子にせよ男の子にせよ」

 

「ホントホント♪」

 

 ――君らが言うか? それを(汗)。

 

 

 

 

 さて、少し背丈の伸びた影法師を引きずりながら、家路を歩む2人の少女。ミスマル邸の屋根が視界に入ってきた辺りで、ふと思い出したように、年長の少女が連れに言葉をかける。

 

「それはそうと、ねえラピス。あのVR遠隔会議システム、設定を変更しませんか?」

 

「えーっ、なんでー? 折角苦労して作ったのに。――ダッシュもがっかりするよぅ?」

 

「色々、事情があるんですよ。――というか。やはりあれだと、あまりにも雰囲気がそぐわないじゃないですか? 出席者のみなさんと」

 

「うーん、そっかなぁ? 結構合ってるような気もするんだけどね。 ――じゃあさ、今度は『戦艦の艦橋』っていうシチュエーションで作るよ! それならぴったりだし。問題ないでしょ?」

 

「ええ、それなら――、ちょっと待って下さい。念のために聞いておきますが、その戦艦って、ナデシコですよね?」

 

「――ううん、違うよ。そんな現実と同じの作っても、全然面白くないじゃん」

 

「(面白くなくてもいいんですって――!)じゃ、何なんですか?」

 

「もっちろん! 『戦艦ヒューベリオン』だよっ♪」

 

「――やっぱりいいです、今のままで(汗)」

 

「それじゃ『ソル・ビアンカ』。あ、『轟天号』も捨て難いかな?」

 

「全部却下」

 

「ぶう」

 

 

 

 

(おまけも終わり)

 

 

 

 


 

(後書き)

 

 好! 李章正です。補完シリーズ第6段完結です(笑)。

 

 さて、今回の話は、『時の流れに』第2章でマシン・チャイルドのルリちゃんたちが、「普通の」学校生活を送り得ているのは何故か? ということに焦点を当ててみました。

 

 A級ジャンパーだけでなくマシン・チャイルドだって、敵から見て高い価値を持っています。その割に彼女たち、護衛を引き連れて街を歩いているような描写はありません。一応遠くから、人目につかないようガードしてはいるらしいんですが。

 

 遠くにいたんじゃ、やっぱり即応性がいまいちでしょう。監視じゃなく護衛となれば、やはり側にくっついて歩くのがベストなのは言うまでもありませんね。

 

 ――とはいえ、別に首相や大統領ではない彼女達。「普通の生活」のためには、そんな風に囲まれて外を歩くわけにも、そりゃいきませんわな。

 

 で、彼女らを狙う敵の存在が分かっているにも関わらず、一見このように不用心と思える日々を過ごせているのには、何か理由があってのことの筈。そう考えて、こんな話をでっち上げてみました。いかがだったでしょうか?

 

 最後に神威さん、お待たせいたしました! ――それとも忘れ去られてましたでしょうか?(汗) 以前のお約束通り、漸くジュエルちゃんを登場させることができましたので。キョウカちゃんとのバトルは、まあまたそのうちに(笑)。

 

 それではまた。

 

 

代理人の感想

 

>「――これがネルガルのやり方か?」

 

これがしっと団・・・・もとい同盟のやり方です(爆笑)。

 

 

>「くそ、甘かったな!」

 

大甘です・・・・・・・というより単に相手が悪かっただけですね(笑)。

 

 

どうも、いつもの如く楽しませていただきました代理人です(笑)。

既存の設定(ハーリーの肉体の秘密とか(爆))を活かしたまま、

毎度の如く設定の隙間にピンホールショットを決めてくださるので、もう楽しみで仕方がありません。

 

ちなみに今回の最大のツボは「木星兵器の有効活用」でした。

ピースランド恐るべし(笑)。

 

 

追伸

「現状の設定」でこれ以上は無いと言うほど合ってるんじゃないかと思います(笑)。

そう言う意味でルリよりラピスの方が現実を見つめていますね(爆)。