「動くな!!」

「えっ?」

急に騒がしくなったそこの音にたたき起こされるなり、ドアを破っていきなり現れた、
銃を持った兵士に何も反応できずに、チェリンカはただ目を丸くする事しか出来なかった。

「よ〜〜〜し良い子だ。こっちに来てもらおうか」

何が起こったのかはわからない。
取り敢えず分かっている事といえば、味方がこちらに銃を向けていると言う事だけだった。

「どういうこと?あんた一体……」

「答える義務はないな」

ガスっ!!

ライフルの柄で思いっきり殴られた。

「ぐっ………」

彼女は何の反応できずに、そのまま倒れる。
避ける事すら出来ない速度だった。

「何を!!」

起き上がろうとした、その直後
今度は思いっきり顔を蹴っ飛ばされた。

「いいか・・・・・来いと言ったらくりゃあ良いんだよ・・・・・・黙ってついて来い」

目がぎらぎらしている。
尋常じゃない耀きを持っている。
それでいて、声はとても醒めていた。
そして彼女の髪を掴んで、引きずるようにして、その男が部屋を出ようとした直後、何処からか声が聞こえた。

「加速剤かなあ?あれって興奮剤と混ぜても良かったっけ?」

「あ?」

「え?」

一瞬二人の行動が止まる。
そして、

「まあいいか。こうなった以上、迅速に済ませないとな」

上だ!!
そう彼女が気づいた瞬間、彼女の髪を掴んでいた兵士の首が消えた。
血を盛大に流しながら、後ろにゆっくりと倒れて行った。

「う…………嘘」

「怪我はない?見た限り大丈夫そうだけど」

作業服を着た、青年が、倒れた兵士の隣にいつのまにかいた。
良く見かける整備兵だ。
自分より1・2歳年下かもしれない。

「うん・・・・・・目の前で人が死んでも、気絶しないか
 ・・・・・・・なかなか度胸あるね。良いことだよ。運ぶ手間が省ける」

さらりとそんな事を言う少年を、彼女は何か見知らぬものを見るような目で、見つめていた。
そんな彼女を見て、ひょいと肩をすくめると、

「それじゃあ、整備場に避難しなよ。アサルトピットの中の方が安全だからね」

と言い、去って行こうとする。

「ま……待ちな!!」

「ん?」

「何で………殺したんだ」

「は?」

首を傾げる青年。
すぐに合点がいったのか、

「はああ」

と頷きながら、頷いていた。

「あのね。君が一人で切り抜けていたなら、ま、殺す必要もなかったけどね。
 そのまま去っていく気だったさ。けど実際は?」

「・・・・・・・・」

「結構、彼ヤバイ薬使っていたみたいだし、時間かけると彼のお仲間も来る可能性も高いし・・・・・・・・
 僕としては手っ取り早い方法を、とるに越したことはないと思わない?」

「そんな理由で・・・・・」

理解することが出来なかった。
なぜそんなにあっさりと人が殺せるのかが・・・・・・・。

「そんな理由だって?」

少し顔を引き締めて彼は繰り返す。

「これは本来、君達こそが行うべきことなんだよ。このクーデターを鎮めるのは兵士の役目だろ?」

「クーデター?って、え?」

彼は何を言っているのだろう?
クーデターだって?
そんな・・・・・・・・。

「それとも君は・・・・・・」

「ちょ・・・・・・ちょっとそれって一体・・・・・・・・」

今何が起こっているのかさえも、彼女の頭が理解するのを拒否していた。
というよりも理解したくなかった。
何を言っているのだ?彼は・・・・・・・・。

「安全な場所まで行く間に、軽く説明しようか!!」

しょうがないといった風に彼は肩をすくめた。

「・・・・・・・・・」

「とりあえず、安全な場所にご招待するよ」

そしてやや明るく、

「それと、微調整には必ず来てね。オオクラさんにはたかれるのは、もうごめんだよ」

と言い、彼女の腕をつかんで、走り始めた。


どおおおおおおおおおおおおおおおん!!


「!!」

「な!!なに?」

これは不味いね。
最悪なことを想定したほうがよさそうだと、彼は心の中で舌打ちした。






娯楽室で簡易的なバリケードを作って応戦している者達もいた。

「なあ……俺達って、整備士だよな」

同僚に語り掛ける男。

「そうかもな………」

溜息をつきながら、そう答える同僚。

「何で銃持ってんだ?」

銃声が鳴り止んだ瞬間狙いをつけずに、撃って来た方向に銃をぶっ放す男。
兵士の一人が、手を抑えて、引っ込む。

「命が狙われているからでしょ」

同じようにして、同僚も銃を撃つ。

「なるほど………」

「だけどクリムゾンも派手にやるねえ」

「明日には、木連の無人機が攻撃をかけてくるんじゃない?」

その言葉に三人目の男が言う。

「そうだな。良い手だ。その後大々的に放送されるな。
 『我等地球の民を木製蜥蜴から守った勇者たちの砦・・・・・・陥落』見出しはこんなもんでどうだ?」

「三文小説の文章じゃあるまいし・・・・・・でもそんなもんかなあ」

「もっと尾ひれがつくさ・・・・・・・・もっとも俺は自己犠牲旺盛な英雄になるつもりは全くないね」

「同感」

「じゃ・・・・・・やるか」

そう言った後、手に持ったパイナップルを投げる。

「ねえ………一体何なのお」

「どうなっているの一体………」

「ほら、お嬢さん方が、お困りのようだぞ」

「俺に振るか!!お前が答えろ」

二人の整備士のやり取りに割ってはいる兵士。

「答えてる場合か、耳塞げ!!」

「「あ……おう」」

バリケードの影に隠れて―二人の令嬢に耳を塞いで目を閉じる様に極めて、優しく早口で言って―爆発音と、
閃光をやり過ごすと、整備士二人が、飛び出した。
それを援護する様に、兵士がライフルを構える。
壁にべったり張り付き、1・2の3で、ドアの外に飛び出し、背中合わせに成る二人。
そして、胎児の様に縮こまっている兵士達を、気絶させる二人。
その後、慣れた手つきで部屋に引き摺り、三人で彼等の手足を拘束した。

「後は、このお嬢さんがたを、避難させるだけか」

「このまま終わればな」

「やれやれ」

「もお……やだあ………一体なんなの」

半べそになった女の子―レネス―は駄々をこねる様に言った。

「クーデター…………なの?」

青ざめた顔で問いかけるリューノ。

「いや………違うな」

兵士がそう答える。

「え?」

「使者………だな」

「し……しゃ?」

「そう」

皮憎げに笑いを浮かべる兵士。

「過去からの……な」

「な……なによ。それ」

「ま………ろくでもないものさ」

向けられた笑顔は、なに一つとして、彼女達を安心させる事はなかった。


どおおおおおおおおおおおおおおおん!!


「なっ!!」

「まさかな」

「なんなのよ!!」

「最悪かね」

「もうやだあ!!」

彼女たちをなだめながらも、苦々しさを抑えることは出来なかった。
更に彼女たちを、安全な場所に連れて行くことにも、苦労することになった。

(なんで俺が、こんな苦労せにゃならんのだ?)

ため息ひとつ吐きながら思うものが一人、

(こんなときあの女たらしがいればなあ)

ここにはいない男を望む者もいれば、

(彼女たちの面倒は、二人に任せるか)

さっさと宥める事を放棄しようと思うものもいた。
そして彼らは、彼女たちを安全な場所に連れて行く途中、更に二人女性パイロットに出会い、
彼女たちの面倒も背負い込むことになる。 




「ところであの男・・・・・・この事態想定してたと思うか?」

「可能性はある」

「・・・・・・だからと言って、感謝する気は全くないぞ。俺は」

「「当たり前だ」」

 

 

その3