紅の戦神

 

 

第十七話

 

 

 

 

「クルスク工業地帯。

 アタシ達が生まれるずっと昔から軍需産業・・・とりわけ陸戦兵器の開発で盛り上がっているところよ。

 で、このクルスク工業地帯が木星蜥蜴に占拠されちゃったのよね。

 そのうえ奴らったら、いままでどの戦線にも投入されたことの無い新型兵器を配備した・・・」

 

 次なるお仕事の現場へと向かうナデシコ。

 そのブリッジ。

 最近、尊敬とは言わないまでもかつてのように嫌われるようなことのなくなったムネタケが淡々と説明する。

 

「その新兵器を破壊するのが、今回の私たちの任務と言うわけですね提督!」

 

「そうよ。司令部ではこれに対して『ナナフシ』という呼称を設定しているわ。

 いままでも軍の特殊部隊が破壊に向かったけど・・・三回とも全滅」

 

 三回の全滅・・・できればその詳しい情報が欲しいところだがな。

 まあそれは提督であるムネタケや艦長のユリカの仕事だ。

 情報分析と作戦立案はパイロットが安易に口出ししていい問題じゃない。

 もっとも、俺の持つ未来の知識が役立つのならば惜しむつもりは無いが。

 

「なんと・・・これまた不経済な」

 

「・・・全滅、か」

 

 プロスさんが唸り、ナカザトが眉を顰める。

 全滅・・・そのひとつの単語に隠された戦死者の数を思ったのだろう。

 ・・・民間人主体で平和的思考の傾向が強いナデシコでは比較的忘れられてしまうことが多い。

 

「そこでナデシコの登場!

 グラビティブラストで決まり! うん!」

 

 ユリカ・・・そんな当然の如く前置きを省くのは止めてくれ。

 誰もが一発で理解できるわけじゃないんだから。

 

「そうか、遠距離射撃か」

 

 補足するジュン。

 ご苦労なことだ。さしずめユリカ専用の通訳と言うところだろうか。

 

「そのとおり!」

 

「ま、安全策かな」

 

 なぜか残念そうなエリナさん。

 ま、あえてつっこむのは控えておこう。

 

「経済的側面からも賛同しますぞ」

 

「アキトさんも危険に晒されずに済みますしね」

 

「お? メグちゃん言うわね〜〜」

 

「でもリョーコさんと枝織ちゃんを亡き者にする計画が潰れちゃったのは残念ですけど・・・」

 

「お〜〜い・・・(汗)」

 

「あ、やだなーミナトさん。聞いてたんですか?

 冗談ですよ、冗談・・・・・・・・・半分くらいは(くすっ)」

 

 ・・・聞こえない。俺には何も聞こえなかった・・・。

 

「と、とにかくただちに作戦を開始しましょう!!」

 

「地球圏最大の威力を誇り、地球圏最長の射程を誇るナデシコのグラビティブラスト・・・

 ま、適材適所ってとこかしらね」

 

 ユリカが締め、今度はムネタケが捕捉し、結局前回と同じような作戦となった。

 だがそれが失敗することを俺は知っている。

 ナナフシの射程はグラビティブラストよりも長い。

 こちらが撃つ前に向こうの攻撃が船体を貫くだろう。

 ディストーションフィールドすら役に立たなかったのだ。

 前回みたいに人的被害が皆無という訳にはいかないかもしれない。

 

「少し待つんだ、ユリカ。

 この映像から見て・・・こいつは長距離用の固定砲台の一種のように思える。

 ならこの大砲の射程距離はどれくらいなんだ?」

 

「それについての確かな情報はないわ。

 破壊に向かった連合軍の特殊部隊も、ナナフシの持つ対空迎撃システムの前にあっさりと敗退。

 残念だけどやっとのことで敵の正体が分かったって程度なのよ」

 

 答えたのはユリカではなくムネタケだった。

 

「対空迎撃システム・・・それじゃ通常の空戦兵器は役に立たないんですね。

 おそらくナデシコの空戦エステも・・・」

 

「そうね。だからこそ連合軍は苦汁を飲んで、グラビティブラストを持つナデシコに協力を要請したんだもの。

 敵の射程は分からない。だから自分達の持つ最長射程兵器を持って殲滅に当たる。

 ま、兵法には適っているわよね〜〜」

 

 う〜む、そう言われてしまえばその通りなんだが・・・

 

「でも・・・やっぱり情報収集してからの方がいいんじゃないですか?」

 

「そうよ、攻撃だけが戦いじゃないんだし」

 

 メグミちゃんとミナトさんが不審そうに言う。

 だがその問いにムネタケやユリカ、ジュンやナカザトは揃って難しそうな顔をした。

 ・・・ついでにネルガルチームも。

 

「それが駄目なんです・・・・・・ね、ジュン君?」

 

「うん、これ以上は時間的にね。

 クルスクは連合陸軍で現役稼動している生産工場の一つなんだよ。

 しかも現在使われている軍の兵器は大部分がここで造られている・・・」

 

「補給が絶たれたら戦争は出来ない。

 少なくても補給が減ったり遅れたりすれば戦況も悪くなる・・・そういうことだな」

 

「そうなのよね。それに生産工場を変えるには時間とお金が掛かるでしょ?

 いまの連合軍にはそんな余裕はないのよ。

 お金も・・・特に時間は深刻な問題だわ」

 

 早急にクルスクを解放しなくてはいけないということか。

 いまだってけして地球側が優勢と言うわけじゃない。

 補給量の低下は戦力の低下に繋がる。

 何よりナナフシにどんな能力があるのか分からないと言うのは軍にとってかなりの脅威だろう。

 与えられた時間の中で講じられる手段として、少数精鋭による一点突破を図るも失敗。

 そして残された方法がナデシコのグラビティブラストによる超長距離射撃か。

 まあ、失敗したときのことを考えて今ごろ戦力の召集に走り回ってるのかもしれんが。

 

 ・・・勘弁してくれ。

 だいたいなんでそんな重要拠点をこうも簡単に占拠されてしまったんだ?

 

「でも大丈夫! グラビティブラストなら一発だもん!」

 

「だが敵の射程がこっちよりも長かったら・・・」

 

「う〜ん・・・この砲台を見るに加速器が搭載されている。

 射撃準備に入ったら分かるんじゃないかな?」

 

「分かります。

 ただその場合、私がデータ処理に全力を尽くさなければいけなくなるので

 操船はミナトさんに全任する事になりますが・・・」

 

 ジュンの思いつきにルリちゃんが続ける。

 敵弾が発射される瞬間に回避行動を取ればどんな砲撃もかわすことができるはずだが・・・

 

「タイミングはたぶんほんの一瞬です。

 ナナフシ自体、とっくに発射態勢は整えていると思いますから。

 砲弾を撃ち出す瞬間を察知し、おそらくはかなり際どいレベルでの回避が必要になります」

 

 ミナトさんなら可能だとは思いますけど、と続けるルリちゃん。

 ブリッジは再び熟考モードに突入する。

 この作戦は完全にミナトさんの操船技術に頼りきった作戦だ。

 個人に掛かる負担もさることながら・・・失敗したときのリスクもまた大きすぎる。

 

 

 

「しかし・・・どうして木連はあのナナフシを量産しなかったんだろうな。

 あれが大挙して襲って来たら地球側の被害は甚大なものになる」

 

「しょーがないよ。だってアレ失敗作だもん」

 

 ぼそりと一人呟いた俺に、さっきから退屈そうにしていた枝織ちゃんが口をはさむ。

 枝織ちゃんもパイロットなので一応ブリーフィングには参加していたが、ほとんど自分から発言したりしない。

 木連の兵器の特性を完全と言っていいほどに理解している枝織ちゃんだ。

 妙なところで怪しまれたりしてもいいことはない。

 

「・・・失敗作?」

 

「うん、舞歌お姉さんに言われて北ちゃんが兵器関係の資料を全部頭に入れてたんだけどね。

 アレってまず第一に製作時間がとんでもないの。

 マイクロブラックホールの生成機構に・・・半年くらいかな?」

 

「半年・・・なるほど、だったら他の兵器の生産を優先したいだろうな。

 木連の武器はその絶対的な数だ。

 トップが質より量を選択したんだろう」

 

「それからね、多くても三発しか撃てないの。

 しかも安定悪いし、射角も狭いし・・・下手すると地球自体にひどい被害が出ちゃうし」

 

 指折り欠点を上げていく枝織ちゃん。

 そうだな。

 木連が地球にとてつもない被害を及ぼす可能性のあるブラックホール兵器を地上で使用するのは解せない。

 彼らの目的の一つには地球の大地があるはずだ。

 限定された木連の生活スペースでは賄えないほどに人口が増えてしまっては地球に移住するしか道はない。

 そんな彼らが地球を破壊するような真似をするだろうか?

 今回のは一部の強硬派の独断専行と見てもいいかもしれない。

 防衛用に宇宙空間に砲塔を向けるのならいいが、もし地表に向けて放たれたりしたら・・・。

 どう考えても敵地に直接送り込むような兵器じゃないぞ。

 

 

「・・・そうですね。やはりグラビティブラストを使用した遠距離攻撃作戦で行きましょう。

 グラビティブラストの方が射程が長いのかもしれませんし。

 でももし向こうの方が射程が長く、こっちの発射前に撃ってきたら・・・

 そのときはミナトさん。大変ですけどお任せしてもいいですか?」

 

「もちろんよ。お仕事だもんね?」

 

 かかる責任に眉一つ動かすことなく笑顔で返すミナトさん。

 ユリカは真剣な面持ちで力強く頷く。

 つまり、敵が撃って来なければそのままナデシコのグラビティブラストで破壊。

 撃ってきたら一度かわしてやっぱりグラビティブラストで破壊。

 『前』はほとんど不意打ちみたいなものだったからどうにも出来なかったが、

 こうやってきちんと心構えが出来ていたらきっと回避できるはずだ。

 

「じゃ、作戦ポイントに到着するまでは各自自由にしてちょうだい」

 

「よし、これにて解散っ!」

 

 最後にゴートさんの号令を聞き、俺たちはそのまま解散していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり・・・・・・昂気の応用でこんなにもDFSを使った技に幅ができる」

 

「DFSの制御が昂気の発現に似てるから?」

 

「おそらくね。

 DFSを媒介にして昂気を使うことでかなりの増幅効果があるみたいだ。

 もっとも・・・機体が持たないから滅多には使えないけど」

 

 解散後、俺は枝織ちゃんと二人でシミュレーションルームに来ていた。

 完成したDFSとバーストモードのプログラムを試すためだ。

 そして昂気をDFSに上乗せすると言う前回では考えもしなかった方法によって、

 どれほどの技ができるようになったかを実際に試してみたかった。

 

 だが・・・思えば俺が使っていた技はこうやって出来てきたんだな。

 ふとしたことから思いついたフィールドの特殊操作による木連式の機動兵器での使用。

 この技術によって、所詮一夜漬けでしかなかった俺の戦闘力は格段にアップした。

 そして今ではさらに磨きをかけている。

 

 ちなみに技名を叫ぶのはもはや当たり前の事だった。

 

「それに今の段階じゃDFS自体も技の威力に耐えられないだろう。

 やはり昂気の使用は控えた方がいいかな?

 当分はバーストモードもあるし・・・なにより過ぎた力が滅ぼすのは敵ばかりとは限らない」

 

 いまの地球にはナデシコがあり、そしてナデシコには俺と枝織ちゃんがいる。

 それだけでももうあまりに戦闘力が突出し過ぎているんだ。

 これ以上は危険以外の何物でもないかも知れない。

 そう、歴史に新たな力が介入してさえ来なければ・・・。

 

「それじゃDFSだけで使える技を試しとこ?」

 

「ああ、そうだね」

 

 そんなわけで久しぶりに枝織ちゃんとの模擬戦をやった。

 

 

 

 

「そうだ! ねえアー君、こーゆーのはどうかな?」

 

「ん?」

 

「こうやって・・・うんそう、時間差で・・・・」

 

「!! なるほど! それならいまのDFSでも十分耐えられる!」

 

 

 

 

 

 

 

「作戦開始まで、あと8分30秒」

 

「グラビティブラストにエネルギーバイパス回路接続」

 

「エネルギーチャージ完了と共にグラビティブラストのトリガーをルリちゃんから私へ。

 そのままルリちゃんは敵の状態の監視。

 少しでも彼我のタイムラグを無くしてミナトさんのサポートに勤めてください」

 

「了解。相転移エンジン、異常なし。

 ディストーションフィールド出力13パーセントダウン。

 艦長、グラビティブラストの充填が完了しました。

 艦長席のコンソールからの発射が可能です」

 

「確認しました・・・・・・ミナトさん?」

 

「いつでもオッケーよ」

 

「オモイカネが判断する敵弾の予測射線をリアルタイムで表示します」

 

「サンキュ、ルリルリ♪」

 

「では最終セーフティ解除。

 艦長より全クルーへ通達。

 もしもの場合に備えて全員いつでも対ショック体勢がとれるようにして置いてください」

 

「了解」(全員)

 

 

 

「いやあ、きびきびとしていていい雰囲気ですな〜」(プロスペクター)

 

「・・・普通はこういうものではないのか?」(ナカザト)

 

「ま、ナデシコだからね。

 君もそのうちこう言った空気に違和感を感じるようになるよ」(ジュン)

 

「うむ・・・」(ゴート)

 

「そうなったら軍人としてはもう終わりかもだけどね」(ムネタケ)

 

 

 

「予定作戦ポイントまであと800。

 秒読みに入ります。

 10、9、8、7・・・・・・!!

 目標に高エネルギー反応確認!! 発射まで約3秒!!」

 

 

「ミナトさん!!!」

 

 

「余裕余裕! ちょっと揺れるわよ〜〜!!」

 

 

 ゴオオオオオォォォォッ!!!

 

 

 

 

「わわわ・・・っ!!」

 

「おっと! ジュン、鍛え方が足りんぞ?」

 

「あ、ああ。済まないナカザト・・・」

 

 

 

「敵弾発射しま・・・・・・いえ! 敵、なおも本艦を捕捉!!」

 

「え〜〜〜〜〜〜!!!」

 

「発射寸前で砲身を動かすだと!? んな無茶苦茶な・・・!!」

 

「ハ・・・ハルカ・ミナト!! 大丈夫なの!?」

 

「エリナさん! 黙ってないと舌噛むわよ!!」

 

「敵弾発射っ!!」

 

 

 ドゴォォォォオオオオオオンンン!!!!

 

 

「まだまだ〜〜〜〜!!!」

 

「ひょえ〜〜〜〜〜!!!」

 

 

 

 

 

「おおおおっ!!? 落ちる!! 横に落ちる〜〜!!!」

 

「ナ、ナカザト〜〜〜!!!」

 

「ほっときなさい副長!! 我が身が第一でしょ!!」

 

「・・・・・・・・・・・・そうですね、提督」

 

「貴様ら〜〜〜〜!!!」

 

「お、お二人とも、それはあまりにも・・・」

 

「惨い・・・な」

 

 

 

 

 ドギャァァァァアアアアアンンンン!!!!

 

 

「回避成功!! 敵弾の影響でディストーションフィールド消失!!」

 

「慣性制御に異常発生!! このままでは墜落します!!」

 

「まだよ! 艦長狙って!!」

 

「は、はいっ!!」

 

「ちょ・・・!! 待ちなさい!! こんな状態で攻撃する気!?

 一度不時着してから・・・きゃ〜〜〜〜〜!!!」

 

 

「ぐえっ!!」

 

「あ・・・あらナカザト君、助かったわ(汗)」

 

 

「グラビティブラスト、異常ありませ〜〜ん!!

 っていうかこれ戦艦ですよね!? なんでドリフトしてるんですか〜〜!!?」

 

 

 ピッ!!

 

 

『こちら格納庫!! 何なんだよ一体!!? いきなり横に吹っ飛んだぞ!!』

 

「もういや〜〜〜〜!!」

 

『メグミちゃん! 何がどうなってやがんだ!! おい!!』

 

 

「シフトアップ!! シフトアップ!!

 ヒールアンドトゥー!!

 そーれ! フル・スロットルよ〜〜〜!!!」

 

「ミ、ミナトさん目が据わってますね・・・(汗)

 でもすごい・・・こんな状態で常に艦首を目標に向けられるなんて・・・!!」

 

「ル・・・ルリちゃん!! 状況報告!!」

 

「あ、はい!! ナナフシ、グラビティブラストの有効射程範囲内!!

 ただしこのままだとナデシコは前方の山に横から衝突します!!」

 

「衝突〜〜!? ダメダメ!!

 ミナトさん急いで艦体制御を・・・!!」

 

「いいから!! 艦長はナナフシを撃って!!

 ナデシコのことは私に任せなさい!!」

 

「で、でもでも〜〜!!」

 

「!! 大丈夫ですユリカさん!!

 ミナトさんを信じてください!! 私が保証します!!」

 

「さっすがルリルリ、分かってくれてるみたいね♪」

 

「え? え?

 ん〜〜〜〜・・・・もう! わっかりましたぁっ!!

 グラビティブラスト、発射!!!」

 

 

 ドガァァァァアアアアアンンン!!!!

 

 

「オッケー!! ルリルリお願い!!」

 

「はい! ナデシコ全推進システムフル稼働!!

 オモイカネ、今グラビティブラストがなぎ払った山の斜面に艦体を誘導して!!」

 

【フィールド出力に問題があるため危険】

 

「ミナトさん!!」

 

「そこをなんとかするのが私のお仕事よ!」

 

「胴体着陸!!? 総員対ショック姿勢を!!」

 

 

 ズシャァァァァァアアアアアアッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 結局、ナデシコがかなり無理な姿勢で放ったグラビティブラストはナナフシを掠めることに成功した。

 掠めただけ?

 と、普通なら思うところだが、それによってナナフシは砲身を失うことになったのだからほとんど作戦成功だろう。

 大砲を失った固定砲台にはもう戦力なんて皆無だからな。

 

 それにしても今回は揺れた・・・・。

 パイロット組はエステで待機してたからいいものの、他の部署は大変だったろうな。

 人的被害は某提督補佐官一名が軽い怪我を負っただけで済んだが他は目も当てられない。

 これからしばらくは艦内の清掃が全クルーに義務付けられるだろう。

 

 とくに食堂・・・・・・あ、ホウメイさんの調味料大丈夫だったかな?

 

 

 ピッ!!

 

 

『これにて作戦はひとまず終了。パイロットはブリッジに集合せよ』

 

「了解、っと。

 けっこう呆気なかったな。新必殺技の出番はなしか・・・」

 

 ゴートさんからの集合命令に俺たちはブリッジへと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

「左舷ディストーションブレード全壊。

 相転移エンジン2基のうち一つがダウン。

 胴体着陸なんてやったもんだから艦底部はほぼ全滅でしょうね。

 結果として作戦は成功したからいいようなものの・・・・・・

 あなたたち!! 会社の備品をなんだと思ってるの!!」

 

 あまりの損害額にぶちきれるエリナさん。

 まあ錚々たる壊れっぷりだったからな。

 その気持ちも分からないではない。

 

「でもー・・・操舵士は操船がお仕事じゃない?」

 

「はい。ミナトさんでなければナデシコは今ごろ木っ端微塵だったかもしれません。

 少なくとも、敵弾がブリッジを貫通していたら私たちは全員おだぶつですね」

 

「だからよ!! 責任は問わないから愚痴くらい言わせなさい!!」

 

「「あははは・・・(汗)」」

 

 エリナさんもミナトさんの働きを買っているからあまり強くは出られないようだ。

 今回の主演女優は間違いなくミナトさんだったわけだし。

 

「お互いにたった一発きりの銃弾に全てを賭けて・・・

 くぅ〜! 熱血の新境地だぁ〜〜!!」

 

「でもすごいよねー。

 いくら最新鋭だからって戦艦であんな真似ができるなんて・・・・。

 私驚いちゃった。こーんな感じ」

 

 びよよ〜んととび出るオモチャ眼鏡のヒカルちゃん。

 

「・・・能ある鷹は爪隠す、ね」

 

「ほんとすげーぜ! 見直したよ、ミナトさん!」

 

「まあ一部環境破壊になっちゃったみたいだけどね。

 そこらへんはきっとネルガル会長が上手く立ち回ってくれるさ。

 そうネルガル会長が。そこんとこよろしく」

 

 なにげに自分を売り込むアカツキ。

 まさかまだばれてないとか思ってるのか?

 ・・・まあ、お前の問題だから俺がどうこう言うつもりはないが。

 

「みんな誉めすぎよ・・・(汗)

 私はただ自分の仕事をしただけ。プロならそれに誇りを持たなきゃね」

 

 そう言ってウィンクをする。

 なんか・・・かっこいいよな。

 

 作戦中、ナナフシの攻撃を受けたナデシコはディストーションフィールドと慣性制御システムに異常が起こった。

 放っておけば第一航行速度そのまま、岩石だらけの山肌に衝突していたところだ。

 そこでミナトさんは、ナナフシを砲撃するついでに前方の山をグラビティブラストで即興に舗装したのだ。

 ナデシコの誇る地球圏最強の兵器、グラビティブラスト。

 その威力の前には頑強な山という障害物も熱したナイフでバターを切るに等しい。

 円筒形に抉れた山肌に軟着陸し、事なきを得たというわけだ。

 

 ナデシコのスペックと、ミナトさんの操舵技術があって初めて可能となる方法だろう。

 

 

 ピッ!!

 

 

『戦勝ムードに水を差すようで気が引けるけど・・・・艦長、悪い知らせよ』

 

「ほえ?」

 

 みんながブリッジに集合している間もデータ処理のために持ち場を離れなかったイネスさんからの通信。

 その重い口調に自然とみんなもイネスさんに注目する。

 その視線の中でイネスさんは静かに言葉を紡いだ。

 

『さっきの攻撃から情報を解析して分かったんだけど・・・

 ナナフシの正体はおそらく重力波レールガン。

 生成したマイクロブラックホールを加速し、あの長大な砲身から撃ち出すのでしょう。

 その威力は絶大の一言に尽きるわ』

 

「はぁ・・・でももう壊れちゃったんですから・・・」

 

『問題はそこよ。

 確かにナナフシの砲身を破壊することは出来たわね。

 でもナナフシ自体のマイクロブラックホール生成機構がいまだ生きているとしたら?

 搭載されている人工知能が砲身が失われたことに気付かずにレールガンを放とうとしたら?』

 

「・・・・・・したら?」

 

『どっかーん・・・ね、おそらく。

 クルスクは消滅。場合によっては地球規模での大災害に発展する可能性もあるわ。

 重力波レールガンから射出されるマイクロブラックホールはすぐに蒸発してくれるんだけど

 この場合は蒸発なしのブラックホールそのものによる未曾有の破壊エネルギーを放射するのだから』

 

「えーーーーーーっ!!!!」

 

 それは・・・もしかして前より酷い状況になってるのか?

 

『ナナフシのマイクロブラックホールの生成時間は12時間。

 17時に攻撃を受けたから、次ぎの攻撃は明朝5時になるわね。

 そして・・・』

 

「ど、どうしようアキト!!」

 

「落ち着けユリカ。考えても見ろ。

 12時間もあるんだぞ。どうとでもできるさ」

 

 今回はナナフシ自体の対空迎撃システムがなくなったから

 エネルギーの問題さえクリアしたら空戦フレームで破壊に向かうことができる。

 時間的にはかなり余裕があるはずだ。

 

「そっか・・・そうだよね!

 それじゃ早速地上部隊を編成して・・・」

 

「敵、ナデシコを包囲しました」

 

「え? なにルリちゃん?」

 

「囲まれてます」

 

「あ、そっか・・・・・・・って、なんで〜〜〜〜〜!!?」

 

 戦車部隊か・・・!!

 あれだけ派手に不時着したんだ。余程の馬鹿でなければすぐに位置を捕捉できる。

 

「ちなみにこれが周辺の敵勢力。

 赤いのが敵です」

 

「うわ真っ赤・・・」

 

「旧時代に使われた戦車という陸戦兵器です。

 その数およそ2万・・・」

 

 

「2万っすか!!?」

 

 

 なんで体育会系なんだよ、ユリカ・・・。

 

「はい、現在も続々とクルスク工業地帯から増援が来てます。

 どうやら木星蜥蜴は、旧時代の戦車製造プラントを以前から乗っ取っていたみたいです」

 

「ほへ〜〜、これが戦車か〜〜」

 

「なに感心してんだよヒカル! そんな時じゃねーだろ!?」

 

「だって戦車だよ? ね、ヤマダ君」

 

「おおよ! だが俺の名はダイゴウジ・ガイだ!」

 

「いやはや・・・見事に囲まれましたな」

 

「どうするんだミスマル。もはや蟻一匹這い出る隙間もないぞ?」

 

「ナデシコのディストーションフィールドは使用不可能だしね」

 

 次々と襲って来る最悪な状況に、さすがのユリカも頭を抱え込む。

 だが状況的にはシビアだとは思うが、時間的には余裕があるので俺には不安はない。

 それだけに使える策も多岐にわたるわけだが・・・さて、どうするのか。

 

「・・・・・・そうね。

 テンカワ、アンタ『攻める』のと『護る』の、選ぶとしたらどっちが得意?」

 

「はい?

 ・・・う〜ん、俺はどちらかと言えば護る方が性に合ってますけど・・・」

 

「あらそう、なら決まりね。

 影護枝織・・・アンタ一人でちゃちゃーっとナナフシ壊して来なさい。

 空戦フレームならすぐでしょ」

 

 

「なっ・・・!!?」(全員)

 

 

「えー、別にいいけどー・・・」

 

 提督からのいきなりの命令に俺の顔を窺う枝織ちゃん。

 枝織ちゃんも今の命令が不可能であることは分かったんだろう。

 俺を見る視線に「どうしよう?」という意思が込められている。

 いったいどうしたんだムネタケ?

 それが不可能なことくらい、わからないわけじゃないだろうに。

 

「提督、確かにそれは俺も考えてましたけどエネルギーの問題があります。

 DFSはあれでかなりエネルギーを喰うんですよ。

 ナナフシくらいの大きさの物体を破壊するとなったら・・・・・そうですね。

 予備バッテリーまるまる一つ分くらいのエネルギーは余裕で必要でしょう。

 それ以前に空戦フレームじゃ向こう岸まで辿り着けません」

 

 それでなければ俺がとっくに破壊に向かっている。

 

「わかってるわよそんなこと。

 だから空戦フレームに予備バッテリーをありったけ持たせればいいじゃない。

 どうせ武装はDFSとかいうやつしか使わないんだし・・・」

 

「それでも空戦エステにつけられるバッテリーは一つが限度だろ?」

 

 みんなが思っていたことを代表してリョーコちゃんが口に出す。

 

「それじゃあ向こうにつくのが精一杯だよ?」

 

「・・・そうね、DFSどころか何も出来ないで終わってしまうわ」

 

「そこはほら、アレがあったじゃない。

 あの・・・なんだっけ? よく出前とかでテンカワが持ってるやつ・・・」

 

「・・・・・・岡持ち、ですか? もしかして」

 

 いきなりなんだ?

 

「そうそれよ、あったでしょ?

 エステバリス用の補給物資運搬用の岡持ちみたいなのが。

 アレに詰め込むだけ詰め込んでいったら十分なんじゃないの?

 影護枝織なら両手が塞がってても戦車如きに墜とされるようなヘマはしないでしょうし」

 

 ぽんっ! と、全員が一斉に手を打った。

 おいおい、考えもしなかった方法だなそれは。

 確かにあのデリバリーセットなら十分な量の補助バッテリーを持っていくことができる。

 砲戦フレーム用の装備だからすっかり忘れていた。

 

「いい、それ。

 ユリカ! 提督の作戦で行こう!」

 

「え、うん、アキトが言うなら・・・でも枝織ちゃん一人で大丈夫なの?」

 

「当たり前さ! なぁ、枝織ちゃん?」

 

「うん! よゆーだね、よゆー!」

 

 ほんとは俺もついていきたいとこだが・・・・こっちはこっちでやらなきゃならないことがある。

 

 

「作戦会議も大切ですけどそろそろ戦車部隊の第一陣が戦闘範囲に入りますよ?」

 

「あう! 忘れてた!

 それじゃエステバリス隊は出撃準備を!

 枝織ちゃんの機体は空戦に改修後、必要な機材を詰めてそれから出撃!

 みなさん、なんとしても枝織ちゃんのために道を作り出してください!!」

 

 

「了解!!」(パイロット全員)

 

 

 ルリちゃんの報告にユリカが命令を出し、俺たちパイロットがブリッジを飛び出る。

 エステの状態はさっきのままなのですぐにでも出撃が可能だ。

 

 

 

 

 

 

「アカツキ、悪いけど俺を一番最初に出撃させてくれないか?」

 

『テンカワ君? 別にいいけど・・・・・・何をするつもりだい?』

 

 エステに搭乗しながら通信を開き、戦闘リーダーであるアカツキに進言する。

 

「ふ・・・それは見てのお楽しみだ。

 ただし俺がいいと言うまで他のみんなをけして外に出さないでくれ」

 

『それは・・・でもナデシコを護らないと・・・』

 

「頼む。もしかしたら巻き添えにしてしまうかもしれないんだ」

 

 新必殺技・・・こんなところで試せるとは思わなかったな。

 さっき枝織ちゃんが発案して俺が改良したDFSの応用テクニックだ。

 俺や枝織ちゃんのように昂気が使えて、さらに完全に制御できることが絶対条件だが。

 

『・・・わかったよ。

 みんないいかい? テンカワ君が面白いものを見せてくれるそうだ。

 彼の指示があるまで僕らは待機。誰か異論は?』

 

『オレは別に構わないぜ。

 テンカワのことだからまたとんでもないことやらかすんだろ?』

 

『右に同じく〜〜!』

 

『・・・楽しみにしてるわ』

 

『ふっ! 読めたぞアキト!!

 おめー隠れて必殺技の特訓をしてやがったな!?

 そいつをこんな場面でお披露目するとは・・・・・・・分かる!! 分かるぞその気持ち!!

 よっしゃあ!! 俺が許す!! 思う存分暴れて来い!!!』

 

「す・・・鋭いな、お前・・・(汗)」

 

 俺の行動パターンってガイに読まれるくらい単純なのか・・・?

 

『アー君! さっそくやるの?』

 

「ああ、ついさっき考えたばかりのやつだ。

 枝織ちゃんに負けてられないからね」

 

 そうだ、もう名前も決め台詞も考えた。

 ラピスが喜びそうなやつだ。

 だからあとは実戦あるのみ。

 

 

 

「では・・・テンカワアキト!! 出撃する!!」

 

 

 右手にDFSを携え、俺は一人で敵陣に切り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 パイロットからの報告に私は愕然としました。

 なんとアキトさんが一人で出撃したいと言うんです。

 敵は旧式とは言え2万の大軍。冗談じゃありません。

 

 でも続くアキトさんのセリフに私たちは何も言えなくなりました。

 

『大丈夫、ナデシコは俺が護る!

 だからみんな! 俺を信じてくれ!!』

 

 ・・・こんなこと言われてしまってはもうどうにでもしてって感じです。メロメロです。

 わかりました、信じます。

 アキトさん。私はユリカさんよりも当社比1.7倍くらいに信じていますから。

 

 

 敵陣深く切り込んだアキトさんのエステは、そのまま上空高くに一気に上りました。

 

 そして・・・

 

 

                           ソイル
『貴様らに相応しい砂は決まった!!』

 

 

 私が見つめるスクリーンに信じられない情報が浮かび上がります!!

 でも砂ですか?

 どういう意味があるんでしょう。

 ・・・いえ、きっとまた何かのアニメですね。まあかっこいいから良しとします。

 

「アキトさんのエステに莫大なエネルギーが集中しています!!」

 

「ありえないわ!! DFSの限界強度を超えて・・・・・・・・・まさかっ!!?」

 

 私の報告と、同じようにデータに目を向けていたイネスさんの声が重なります。

 取り乱すのも仕方ありません。

 表示された数値は・・・・明らかにDFSの耐え得る限界の値を軽々突破していたのですから。

 

 

『悠久の時告げる光 ブリットシルバー!!』

 

 

 DFSの白刃が柄を離れ、白と言うよりは銀色に近い色になって球状でテンカワ機の周りを周回し始めます。

 

「イネスさん、どういうことですか?」

 

「そうね、艦長。みんなにもわかるように説明しておかなくてはならないわ。

 いまアキト君が使っているのは絶大な威力を誇るDFS。

 しかしそれにも当然限界値は存在するの。

 ナデシコからのエネルギーウェーブの範囲内において、

 エステは半永久的に活動できるから動力源には問題ない。

 でもね、どんなに豊富な水源でも一度に汲み上げられる水量は決まっているでしょう?

 今のアキト君はその限界以上のエネルギーを集めようとしているのよ。

 このままでは・・・・・・・・・パンクするわ!」

 

「そんな!! それじゃアキトは・・・!!」

 

「くっ!! 正気かテンカワ!!

 ウリバタケ整備班長!! アカツキ達を至急出撃準備!!」

 

「待って下さい!! アキトさんは冷静です!!

 きっと何か考えがあってのことなんです!!

 言ってたじゃないですか! 『俺を信じてくれ』って!!」

 

 そう、アキトさんは言ったんです。

 私たちを護ると。自分を信じて欲しいと。

 

「なら私たちのすべきことは、アキトさんを信じることです!

 アキトさんは必ず約束を護ってくれます! みなさんだって知っているでしょう!?」

 

「テンカワを疑うわけじゃないけど・・・・しかし実際に危険な状態なんだ。

 もしかしたらテンカワ自身も制御しきれていないんじゃ・・・」

 

「いいえ、それは違うわアオイ君。

 アキト君は制御している! あの途方もなく強大な力を!!」

 

「だがDFSのスペックでは・・・!!」

 

 

『断絶の時告げる一瞬 スチールグレイ!!』

 

 

 また一つ・・・今度は灰色がかった球体が周回を始めます。

 あの色の変化はどうやってつけているのでしょうか?

 考えられるのはディストーションフィールドの圧縮率に変化をつけてる事ですけど・・・

 そんなことが可能なのですか? アキトさんは!

 

「彼は・・・アキト君は信じられない手段で限界値の問題をクリアしたのよ。

 ・・・あの周回している球体があるでしょう?

 あれの一つ一つがDFSの限界値ギリギリのエネルギー量を持っているわ。

 つまり、アキト君は限界まで集めたディストーションフィールドをDFSから切り離し

 エステバリス本来の制御機構によって支えているのよ!」

 

「そんなことができるんですか?

 ならDFSなんかなくても素手で十分エステは強いんじゃ・・・?」

 

 不振そうにメグミさんが質問します。

 イネスさんはそれに対して大仰に白衣をはためかせて振りかえると、

 

「そう! 本当ならエステの制御機構で支えられるような代物じゃない!

 それをアキト君は・・・・!!

 本当に・・・本当に危ういバランスを凄まじい集中力で支えているのよ!!

 針の上にまた針を積み重ねていくような人間離れした集中力!!

 でも・・・・・・ほんの少しでもそれが崩れたりしたら・・・!!」

 

「なっ・・・!! し、死ぬのが怖くないのか!! あいつは!!」

 

「制御できる自信があるということでしょうね。

 ・・・ホシノ・ルリ。テンカワの身体データはどう?」

 

 提督が冷静に私に問います。

 ですから私はそれに対して冷静に答えました。

 ・・・たとえそれが信じられないような内容だったとしても。

 

「正常です・・・・まったくの平常心・・・!!!」

 

「なら・・・アタシ達はただ信じていればいいのよ。

 さっきアンタが言ったみたいにね?」

 

 ふっ、と微笑むムネタケ提督・・・・・・やめてください。

 悪寒がとりはだと一緒に全身を駆け巡りました。

 

 

『そして・・・破壊の時告げる暗黒 デストロイブラック!!!』

 

 

 新たに生まれた闇色の刃・・・。

 醜くも美しく、神々しいまでの悪意と優しさ・・・。

 矛盾が当然の如く存在する異世界が、いま、私たちの前に広がります。

 

 何時の間にか私は・・・全てを投げ捨ててアキトさんにただ見惚れてしまっていました・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 ブリッジの会話を聞き流しながら、俺は一瞬足りとも気を抜かなかった。

 新たな必殺技の使用に際しての高揚感は・・・ない。

 不必要な感情の乱れは剣にも僅かながら現われる。

 常に平常心であること、それが新たな境地へと踏み出すための第一歩だ。

 

 この技の原案はさきほど枝織ちゃんが考え出した。

 一度にDFSが扱えるエネルギー量は限られている。

 ならば限界まで収束したDFSの刃を時間差で撃ち出し、融合させてはどうか。

 それはきっと俺が今まで使っていたブローディアの一撃すら凌駕するような破壊力を持つのではないか。

 つまりそういうことだ。

 

 シュミレーションで試した結果ではなかなかの威力だった。

 かつて、サツキミドリの欠片を消滅させたような『八竜』には確かに及ばない。

 それでも俺が日常的に振るっていたような技では到底届かないだろう。

 もっとも、発動までにかなりの時間を要するのが難点といえば難点だ。

 

 いま、俺の眼下には幾千、幾万の兵器の群れがある。

 既に一部は戦闘範囲に入り始めた。

 一発一発の威力はさほどではないが、それでもフィールドを持たない今のナデシコは恰好の的でしかない。

 

 だから俺は、俺の大切な人たちを護るためにこの技を放とう!!

 

 

『崩壊の魔竜よ! 我が前に顕現せよ!!

 

 奥義!! 煌竜天翔斬!!』

 

 

 グワァァァアアアァァァアアアアッ!!!!!

 

 

 俺が生み出した三匹の闇色の竜。

 それらが顎を広げ、ナデシコを中心として螺旋を描くように襲撃する!!

 

 

 ドゴゴゴゴゴゴォォォオオオオンンン!!!!

 

 

 地面も山もまるでゼリーのように抉り取り、ついでとばかりに戦車部隊を飲み込んでいく。

 意志を持っているかのような三竜の恐怖。

 バッタ達が戦車から抜け出し蜘蛛の子を散らすように逃げ始める!

 

 

 ドガッアアアアアアアアッ!!!

 

 

               バゴォォォオオオンンン・・・・

 

 

        ズオォォォォオオオオオッ!!!!

 

 

 周囲に展開していた2万の大軍を根こそぎ喰らい尽くし・・・

 その大地にすら深い深い傷跡をつけ・・・

 そして竜の名に相応しく天へと昇っていく・・・

 

 後には残骸すら無く、破壊跡だけが晒された。

 三匹の竜が全てを喰らい尽くしてしまったかのように・・・

 

 

 

 

 

 

 

『行って来ま〜〜〜す♪』

 

「枝織機、発進します。

 敵戦車隊は8割方消滅。

 各パイロットは残敵掃討のために出撃してください」

 

「ここまで次元が違うと恐怖を通り越してもう呆れるしかないわね〜」

 

「アキトさん・・・・・・かっこいい

 

「むっ! だめだよメグちゃん!!

 アキトはユリカの王子様なんだからね!!」

 

「そう思っているのはミスマル・ユリカ! 貴方だけじゃない?」

 

「「「なんでエリナさんまで入ってくるんですか?」」」

 

「え!? え〜〜〜〜と・・・(滝汗)」

 

 

 

 

「・・・アレを見た後でこんな会話ができるとはな」(ナカザト)

 

「こっちももう呆れるしかない?」(ジュン)

 

「・・・ですなぁ〜」(プロスペクター)

 

「うむ・・・」(ゴート)

 

「ふぅ、アタシってばとんでもないやつに味方してんのかも知れないわね・・・」(ムネタケ)

 

 

 

 

 

   ・・・・・・ドゴォォォォオオオオオオンンンン!!!!!

 

 

「ナナフシ撃破。枝織さんの帰艦まではおよそ一時間半です」

 

「は〜〜い! 艦内警戒態勢解除!

 それではみなさん・・・・!!」

 

 俺がほとんどの敵を殲滅し、いまようやく残敵掃討も終わった。

 同時にブリッジに入ってきたナナフシ撃破の朗報。

 なかなかに緊張する展開だったためか、ブリッジも一気にだらけた雰囲気となる。

 そんな中でユリカが全クルーに言い放ったのは・・・

 

 

 

「お掃除しましょう〜〜〜〜♪」

 

 

「げ〜〜〜〜〜〜!!」(全員)

 

 

 ナデシコは季節はずれの大掃除をする羽目になった・・・。

 

 

 

 

 完全に片付いたのはなんと三日後のことだった。もちろん修理は別だ。

 三日で終わったのは艦内に散らばっていたガラクタ(元は備品)の始末。

 破損した備品の購入はもっぱらプロスさんが。

 力仕事は俺やガイ、ゴートさんやアカツキと言った男連中(含整備員)

 差し入れにホウメイさんが腕を振るい(調味料は特殊な陳列法のため被害ナシ)、

 枝織ちゃんとホウメイガールズが出前に奔走する。

 交代制ではあったが、昼夜問わずにここまで活気があったのはおそらく初めてのことだろう。

 

 

 

 で、ここに交代要員がいなくてまったく休んでいない男もいた。

 

 

「ふ・・・ふふふふ! 72時間耐久事後処理及び苦情受付(精神的に辛い)!!

 半分以上はユリカの分なのに文句一つ言わずに引き受けた僕!!

 そしてついに!! そう、ついに僕は向こう側の世界を見た!!

 ならば示そう!! 僕のア〇ター能力を!!

           エ タ ー ナ ル サ ポ ー タ ー
 『永遠の世話係』!!」

 

 

「はいはい、あっちの世界に行ってないで次の苦情を処理しとけよ?」

 

「・・・・ナカザト、君もタフだね。

 いやなんとなく・・・」

 

「まあな。あの提督の補佐なんてやってたら嫌でもこうなるさ」

 

 

 

「「・・・はぁ〜〜〜〜・・・」」

 

 

 

 

 ちなみにその頃の俺は爆睡中だったり(笑)。

 

 ただ枝織ちゃん・・・

 やっぱり軍服姿(ナ〇ス軍)で寝るのは止めた方がいいんじゃないかな?

 まあ可愛いけどさ。

 体が痛くなるよ、それ。

 

 

 

 

 

 ・・・・・・やはり脱がしてあげなくては!

 

 


 

 あとがき

 

 モトネタ・・・分かりましたか? 分かりましたよね?

 そう、アンリミテッドなアレです。

 緑麗の中では一部に限り大ヒットしているアニメなんです。

 その一部をパロってみたんですけど、こういうのもありでしょうか?

 

 さて、ナナフシはミナトさんによって倒されました(笑)

 まあとどめを刺したのは枝織ですけどね。

 ナナフシ攻略戦をこのような形で解決したのはまたも初めてだと思うんで結構満足してます。

 

 だけど・・・『萌え』がない!! 無さ過ぎる!!

 どうしてしまったんでしょう緑麗は!!

 最近、管理人さんのゲーム日記に出て来る某生首女神様が異様に可愛く思えてしまうなど、

 精神的にやばげな傾向はありましたけどまさか丸々一話を真面目な感じで終わらせるなんて!!

 うう・・・枝織ちゃんを期待されていた方、重ね重ね申し訳ありません。

 どうも現在の緑麗は漢モードみたいです。

 ビバ熱血。ビバ必殺技。

 大艦巨砲主義万歳!!(謎爆)

 

 ・・・熱は無いです。

 熱は無いんですけど・・・・・・自分が何を言ってるのかわからない(爆)

 

 

 

 

 

 

代理人の
緑麗さん! あなたは今猛烈に熱血しているっ! のコーナー(笑) 

そうっ! それでこそ! それでこそ真の「漢」と言うもの! 

堕落の声に耳を傾ける事はありません・・・ 

さぁ、あなたも今こそ漢になるのですっ!