紅の戦神外伝

 

「Rouge et Noir」

 

 

第六話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼らは、どうしようもなく異端だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たとえば、強さを極め切った戦士。

 たとえば、殺すことを止めた暗殺者。

 たとえば、人間であることを捨てた少女。

 たとえば、命すらも躊躇なく差し出す従者。

 たとえば、英雄を憎む殺人鬼。

 

 彼らは、私にとってどうしようもなくどうしようもなくどうしようもなく異端だった。

 

 

 絶対的に、絶大的に違っていた。

 考え方の根本が、根幹が違っていた。

 見つめる世界も、視界も違っていた。

 存在する次元が、違っているのかもしれなかった。

 

 つまりはつまり、そういうことなのだ。

 つまりはつまり、そういうことなのだろう。

 

 異端とは何なのか。

 異端とは何でないのか。

 

 手を伸ばしたその遥か先に存在し、足を踏み出す気にもならない距離をおいて、そこにいた彼ら。

 

 彼らはひどく自立的で、

 どうにもならないくらいに超越していて、

 どうしようもなく孤独で、

 どうする気にもならないほどに不可思議で、

 

 やはり、異端だった。

 

 

 だが、しかし。

 けれど、それでも。ただひとつだけ。

 ひとつだけ、彼らにも私と同じことがあったと思う。

 それだけは確信できる。

 信じられると思う。

 

 

 拳に血を滲ませ、下を向いて。

 色のない笑顔で、下を向いて。

 抱えた膝の間に、下を向いて。

 自分の意志すら、下を向いて。

 溢れる憎しみに、下を向いて。

 

 

 彼らは、彼らは。

 

 いつも恐れていた。

 いつも、悲しいほどに哀しかった。

 

 彼らは、彼らは。

 

 私と同様に、同等に、平等に。

 彼らは哀しかった。

 

 

 だからきっと、どんな悲劇が待っていようと。

 私はきっと、どんな結末が待っていようと。

 

 たぶんきっと、私は彼らを許すしかないのだろう。

 

 彼らが、きっと私を許してくれるように。

 

 

 だから、必要ない。

 

 

 既に、紅に染まってしまった私には。

 そしていま、漆黒の前にいる私には。

 

 

 いま以外の何も、必要ない。

 

 

 

 必要、なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 膝を抱えて。下を向いて。

 

 

 

「ひどいなぁ・・・」

 

 暗闇の、薄暗いコンテナブロックに一人の少女が蹲っていた。

 全身を覆う黒のアンダースーツに身を包み。

 何を見るでもないその表情は、普段の少女の溌剌さからは想像も出来ないほどに沈んでいた。

 冷たい鉄の床に直接、力なく座り込んだ少女は呟く。

 

 

「・・・本当に、ひどい」

 

 

 言葉とは裏腹に、俯いた横顔には笑みが浮かんだ。

 他を蔑み、自らを嘲るように口の端を吊り上げただけの冷たい笑み。

 それを隠すかのように、膝の間に深く顔をうずめる。

 肩を小刻みに振るわせて、少女はなおも身を縮めた。

 

 

「まさか十年間もなんて・・・」

 

 

 ぐすっ、と鼻を啜る音が混じる。

 ひきつけを起したかのように、全身が痙攣をはじめる。

 

 たった一人の少女。

 その涙を掬う者は誰もいない。

 

 

「こんな・・・長く・・・」

 

 

 怒りのあまりに、悲しみのあまりに。

 あるいは自分の不甲斐なさ故に。おそらくは全てか。

 握り締めた拳はとうに血の気を失っていた。

 強靭な握力が皮膚を貫き、真っ赤な血が滴る。

 それでも少女は気にも留めなかった。

 留める気にも、ならなかった。

 

 

「こんなにも、長い間・・・!」

 

 

 震えがピタリと止まる。

 顔を上げる。

 涙に充血した瞳が虚空を睨む。

 

 凍りつくような殺気。

 瞬間、全ての音が断たれる。

 

 

「貴方を・・・殺し損ねていたなんて」

 

 

 涙混じりの、ひどい、鼻声で、彼女はそう呟いた。

 

 

「・・・殺せなかったなんて!」

 

 

 嗚咽に塗れた、ひどい、嗄れ声で、彼女はそう叫んだ。

 

 

 

 知らないままでいたかった。

 そう、思うことがある。

 知る必要などなかった筈だ。

 そう、自問してしまう時がある。

 

 選択肢は、あったのだ。

 私が望むならばそこには、別の道が用意されていたのだ。

 

 選んだのは私の意志だった。

 決意したのは他ならぬ私自身だった。

 

 自分の意志で踏み出す一歩を。

 自分の足で踏みしめるべき道を。

 

 私は選択した。

 私は決定した。

 

 

 知らなければ、幸せでいられたかもしれない。

 知らなければ、悲しむことなんてなかったかもしれない。

 

 

 けれども。

 それでも。

 

 

 

「テンカワ・アキト・・・」

 

 

 私は知ってしまった。

 

 

 十年前。火星。

 ユートピアコロニー。

 ネルガル。偽装テロ。

 全ての元凶・・・・・・テンカワ。

 

 

「何で! あなたが!」

 

 

 ―――生き残っているのか。

 

 多くの。

 本当に多くの。

 本当に本当に多くの無関係の人々を巻き込んでおいて。

 

 ―――何故、当事者の身内であるあの男がのうのうと生きていられるのか。

 

 ・・・私に、無断で。

 私に、何の断りもなく!

 私の知らないところで! 勝手に! 自由に!

 

 ―――生きている!!

 

 

「ひどいっ!!」

 

 

 ―――ママは、死んだのに。

 

 不公平だ。

 

 

「ひどい! ひどいっ!!」

 

 

 立ち上がって、壁や床を手当たり次第に殴り付け、蹴り荒らす。

 裸の拳が見る間に血で染まり、鉄製の壁が無残に変形していく。

 

 止められなかった。

 

 だって、私はこんなにも苦しいのだ。

 こんなにも、そう、私は寂しいのだ。

 

 家族を殺された。

 両足を引き千切られた。

 日常も何もかも失くして、人間であることすら止めなければならなかったのに!

 

 無関係だった私を地獄に叩き落しておいて、十年間も生きるなんて!

 

 

「許されていい、筈がない」

 

 

 選択をせねばならない。

 

 踏み出す一歩を。踏みしめる道を。

 選ばなくてはいけない。

 私の決意が。私の意志が。

 

 

「許していい、筈がないっ!」

 

 

 心臓が、歯車へと変わる。

 血液が、潤滑油へと変化する。

 

 殺気は糧に。

 決意は力に。

 

 だから、そう。

 きっと、そう。

 

 

―――私は、あなたを殺したい

 

 

 殺意―――

 

 夜よりも暗いその感情が、大切な『約束』すらも覆い隠してしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ギャース! ギャース! ギャー―――!

 

 

 寝室の簡素なベッドの上。

 緑色の恐竜を象った目覚まし時計が、その役目を果たすべく盛大に咆哮をあげていた。

 音はだんだんと大きくなっていく仕掛けで、しばらくすると今度は手に持ったシンバルをガンガンと鳴らし始める。

 そのボリュームが人間の可聴域を突破しそうな大きさになってようやく、この部屋の主は身を起こした。

 

「・・・はぁい、静かにしましょうね〜」

 

 人差し指でぽちっと、撒き散らされるだけだった騒音を止める。

 低血圧というわけでもなかったが、それでも朝に強いわけでもない。

 しばしの間、ぼーっと視線を天井に向けた後、のそのそとシーツから這い出す。

 

 地下室であるこの部屋には、しかし何故だか朝日が届く。

 そういう作りになっているだけのことだったが、女性としては別段文句を言うべきことでもなく、

 どちらかと言えば有り難いと思っていたくらいだった。

 それを差し引いてしまえば、この部屋では、ベッドの脇に置かれた緑色の目覚し時計だけが唯一時間を知らせてくれるものだったのだから。

 

 

「・・・起きます」

 

 呟いて、伸びをする。

 呑気な声音。

 それは柔和な容貌と相まって彼女の性格を如実に表していた。

 女性の名をミシェル=ファー=ハーテッドと言う。

 

 室内は質素簡素をモットーに作られているようであり、家具と言えばベッド以外には小さなテーブルと椅子がワンセットだけだった。

 

 もちろん、この部屋はミシェルの自室ではない。

 先日の襲撃騒ぎのドサクサに紛れて妙な男達に誘拐され、宛がわれたのがこの部屋だった。

 

 なぜ自分が誘拐などされなければならなかったのか。

 私を攫って来た男達は、何も教えてくれなかった。

 否。ただの一言すら、声を発することもしなかった。

 何を尋ねても。どんな文句を言っても。試しに暴れてみても。

 彼らは何も言わず、何もしなかった。

 

 不気味で不思議な男達。

 しかしその見た目や態度とは裏腹に、ひどく紳士的。

 ちょっとくらいの我侭なら、やはり何も言わずに聞いてくれる。

 

「・・・クレヴァーよりも甲斐性があるかもね」

 

 きっと私を心配しているだろう夫を思い出して、少し笑う。

 拉致され、監禁されていると言うのにその表情に悲壮感はない。

 むしろ日々の家事から解き放たれる休暇を楽しんでいる具合も見られる。

 

 つまり彼女は、突然の監禁生活に既に完璧に順応していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガチャ!

 

 

 私は、寝起きの頭を軽く支えながら寝室を出た。

 ドアの外はこれまた殺風景な廊下が続いている。

、20メートルほどの通路の先には地上に上がるための階段を確認することも出来た。

 

 あたりに誰の気配もないことを確認して、ひそりひそりとそちらに向かって歩き出してみる。

 

 

 しかし、2,3メートルも進んだところで、横の部屋から出てきた巨大な人影に行く手を遮られた。

 

「・・・・・・・・・」

 

「あ、どうもお早うございます。

 今日もお早いんですねぇ」

 

「・・・・・・・・・」

 

「そうですわ。ご一緒に朝のお散歩なんてどうでしょう?

 きっと清々しい気分になれますわよ。

 貴方たちって、なんだか陰惨としてますし」

 

「・・・・・・戻レ」

 

「え? あ、いや! ちょっと!

 放しなさ・・・どこ触ってますの!?

 って、ああ待って! 待ちなさいって・・・もう!!」

 

 問答無用に摘まみだされた。くすん。

 

 この男たちには、一切の融通が通用しない。

 こっちが何を言おうが、どんな懐柔策に出ようが、まるで機械のように与えられた仕事をこなすだけ。

 と言っても私は別に招待されてここに滞在している『お客様』と言うわけではないのだし、

 彼らもどこだかの一流ホテルの使用人と言うわけでもないのだから、この程度の反応で満足するしかないだろう。

 もしあれ以上の反応が欲しいのならば、突然目の前に躍り出て扇情的なポーズと一緒に『おっはー!』とか言ってみるしかないが、

 さすがにそこまで体を張ってみる気にはなれなかった。

 いや、というか突然そんなことをしたら、最悪銃殺されるかもしれない。

 この人達ならやりそうだ。なんとなくそう思った。

 

 たったいま私を連れ戻した男は『廉貞』と呼ばれていた。

 

 見た目は大柄な白人マッチョなのにそんな中華風なネーミングは如何なものかと思うが、

 思ったからと言ってどうなるものでもない。

 廉貞さんの他にも、私の見張りにはあと4人の似たような男性が交代で付いているようだった。

 確か『禄存』『文曲』『武曲』『破軍』。

 全員中華。ただし見た目は白人マッチョ。許せない。

 しかもみんな服装も髪型も背格好も一緒。

 あまりにソックリなので区別が付かないと文句を言ったら、次の日からは名札をつけて来てくれるようになった。

 黒サングラス、黒スーツ。小学生がつけているような大きな黄色い名札。

 眩暈がした。

 

「・・・まぁ、我がまま言える立場でないことは承知しているのだけれどね」

 

 帰りたい。

 

 唐突に、そう思った。

 ずくり、と胸に淀む痛み。

 過度の不安から来るのであろうその痛みに、私は少しだけ強く服の裾を握り締めた。

 

 心配ごとがある。

 

 クレヴァーは、サラは大丈夫だったろうか。

 戦闘があったはずだ。

 響く爆発。崩れる家屋。

 軍の救助部隊は現れることなく。

 

 彼らは、私の家族は。

 無事だったのだろうか。

 

「大丈夫に、決まっているじゃない・・・」

 

 言い聞かせる。

 それは自分に対して。

 きっと大丈夫だ。

 儚く崩れる現実も、唐突に訪れる悲劇も、得てして物語の中だけのこと。

 

 胸の中の予感が教えてくれる。彼らはきっと無事でいると。

 

「だって、アリサがいるもの」

 

 もう一人の家族。

 久しぶりの再会を喫するはずだった愛娘。

 あの娘ならば、サラたちを守ってくれているだろう。

 

 強い娘だ。

 我が娘ながら、尊敬にすら値するほど強く優しい娘だ。

 もしかしたら、逆に私があの娘に心配を掛けてしまっているのかもしれない。

 

 

「帰らなくちゃ」

 

 母親が娘に心配をかけていてどうするというのだ。

 私は帰らなくてはいけない。

 家族を安心させてやらなければならない。

 こんなところでのうのうと過ごしていていい筈がない。

 

「帰らなくちゃ・・・」

 

 顔を上げ、室内を見回す。

 相も変わらずに殺風景な部屋。

 立ち上がった。

 ベッドの脇に備え付けられた木製の椅子を持ち上げる。

 簡素に見えて、なかなか作りはしっかりしているようだ。

 手の中の感触を確かめるように、何度か握る位置を変えてみる。

 

 武器。

 

 生唾をごくんと飲み下す。

 正確には、これしか武器になりそうなものがなかった。

 私はこの武器を駆使して、ここから脱出しなくてはならない。

 

 冷静になれ、なんて言葉はいまの私には必要なかった。

 危険は承知の上。無謀だと言われても甘んじて受ける。

 何時まで続くとも知れない監禁生活は、おそらくもっと危険だと思うから。

 どんな好待遇を与えられても、拉致され監禁されている事実が私の精神に与える影響は変わらない。

 

 帰らなくてはいけない。

 

 時計の針は8時を示す。

 何時も通りならば、あの白人マッチョのうちの誰かがそろそろ朝食を持ってくるはず。

 狙いはその時だ。

 体格で劣る私は、その一瞬を逃せば全てが終わるだろう。

 一撃で仕留める。そして逃げる。

 

 私は帰らなくてはいけない。

 

 

 カツ、カツ、カツ・・・

 

 

 固い靴底が床とぶつかり合って鳴らす甲高い音。

 逸る気持ちが錯覚させるのか、それはいつもよりも軽快なリズムを刻んでいるかのように聞こえる。

 それに呼応するかのごとく、私の心音も高まっていき・・・

 

 

 カチャ!

 

 

 扉が、開く!

 

 

 

「このぉぉっ!!!」

 

 

 バキィイッ!!

 

 

 フルスイング。

 いまだかつてない、渾身の一撃。

 今日の私は最高だ。

 大リーガーだって夢じゃない。

 

 しばし余韻に浸るミシェル、37歳。

 

 

「・・・はっ!

 しまったこんなことしてる場合じゃありませんでしたわね。

 はやく脱出しないと―――っ!?」

 

 はっと気付き、開いたドアに足を向けようとする。

 だがその一歩が踏み出されることはなかった。

 視線の先には一人の大男。

 サングラスに黒スーツ、胸に輝く黄色の名札がいとをかし。

 

 ずれたサングラスの奥の瞳は白く濁っているようだった。

 

 

「・・・ナニカアッタカ?」

 

「全く何にもありませんわっ! ええそりゃもう!!」

 

 気付いてすらない・・・

 鈍感にも程があるのでは?

 

「・・・・・・?

 イスガ壊レテイルナ。モッテ来ヨウ」

 

「はわわっ! ど、どうぞお構いなく!!」

 

 慌てて手に持っていた椅子の残骸を投げ捨てる。

 脱出計画がいきなり最初の段階で頓挫したのもそうだが、

 害を与えようとした相手に気を使われてしまうというのはなんだかひどく私を後ろめたい気分にさせた。

 

 

 どやどや、と。

 

 大人数の足音が聞こえてきたのはその時である。

 私と、廉貞さんをはじめとした監視の人以外に、この地下室を訪れる人はこれが初めてだった。

 

「・・・・・・・・・」

 

「よぉう化け物! お疲れさん!

 ちょっとそっちのミセスを借りてくぜ?」

 

「わ、私ですの・・・?」

 

 入ってきたのは4人の、全員男性。白人が2人に、黒人と東洋系が一人ずつ。

 軽薄な口調で話しかけてきたのは、ひと際大きな体躯を持つ白人男性だ。

 有無を言わさない、といった口調だった。

 対する廉貞さんは無言。

 もともと言葉を発することのほうが珍しいが、彼が黙って立っているとそれだけでかなり迫力がある。

 男達はたじろいだように後退したのも無理からぬことだろう。

 

「あー、聞こえなかったか?

 もしもしオキテマスカー?」

 

「・・・必要ナイ」

 

「・・・会話を成立させろよばか」

 

 廉貞さんは静かに、だがはっきりと拒否を示す。

 それが予想外だったのだろう。男達はそろってきょとんとした表情になった。

 私も・・・同様だ。

 思わずその横顔を見上げる。

 

「・・・なんだよ、まだ連絡がきてねぇかな?

 これだから寄せ集めの組織ってのはよぉ。

 ま、とにかくこっちも命令でね。はいそーですかって訳にもいかねーのよ。

 悪ぃけど、大人しく渡してくれるかい?」

 

「許可デキナイ」

 

「・・・えーっと、正気デスカ?

 命令っつってんだよ、こっちは。許可ってなによおい」

 

 口上を一言で切って伏せるその言葉に、剣呑な空気が流れる。

 男達は不愉快に。私は恐れに。

 ただ一人、廉貞さんのみがぴくりとも表情を変えない。

 

「お前・・・なに言っているか、わかってるのか?」

 

 問いただすのは後ろにいた黒人の男だ。

 くちゃくちゃとガムを噛む音に、私は眉を顰める。

 

「・・・あー、おっけーおっけー。

 もういいわ。そういや別にお前さんの承諾を得る必要なんかないわけだし」

 

 場を切ったのは最初に話していた、白人の男性。

 おそらく彼がこの中でのリーダーなのだろう。

 

「安心しとけ。今回だきゃ大目に見といてやるよ。

 ま、命令は命令だから人質は連れて行かせてもらうけど。

 ・・・邪魔なんて、しねーよなまさか」

 

「・・・・・・・・・」

 

 無言だった。

 しかし、道を譲ろうとする気配はない。

 

「・・・脳みそまで腐っちゃってんじゃないか、このゾンビ野郎」

 

「判断力や応用力に欠けるとは聞いてたけどなぁ・・・ったく。

 だから得体の知れない奴らとの共同作戦なんて御免だったんだ。

 おい、いいから構わず連れてけ」

 

「ああ」

 

「え、ちょ、ちょっとっ!」

 

 後ろに控えていた東洋系の男が、私の腕を取って強引に引っ張った。

 手首に痛みが走る。

 振り解こうにも、男と女では腕力に差がありすぎた。

 

 だが・・・

 

 

「待テ」

 

「おっ・・・ぐ、ぐああっ!」

 

 男の腕を、廉貞さんが掴む。

 みしみしと。めきめきと。

 男と女の差以上に、その腕力には赤ん坊とプロレスラーくらいの違いがあるようだった。

 

 男の腕は、ぴくりとも動かない。

 空間に固定されたように、ただし骨の軋む音だけが響く。

 私は唖然としてその光景を眺めていた。

 

「貴様―――放せっ!」

 

 残りの二人の行動は迅速だった。

 懐から拳銃を取り出すと、こちらにその銃口を向ける。

 

「抵抗するな! 手を放せ!!」

 

 別には敵対するつもりでもなかったのだろう廉貞さんは素直にその言葉に従った。

 ぶんっ、と乱暴な動作で掴んだ男を解放する。

 にも拘らず、男達は銃を下げようとはしなかった。

 

 銃を握る男達の顔に躊躇いは感じない。

 私は、足が竦むのをとめることが出来なかった。

 

「この野郎・・・!

 いいか、もう一度言う!

 人質の身柄をこちらに渡すんだ!」

 

「・・・・・・・・・」

 

 彼は答えない。

 

「人質を、こちらに、渡せと言っている!」

 

「・・・・・・・・・」

 

 彼は応えない。

 

「渡すんだっ!!」

 

「・・・・・・許可デキナイ」

 

「貴様っ―――!!」

 

「まあまあ、待て待てお前ら。

 ちょっとは穏便にいこーぜ? 俺らは生命と良識のある文明人なんだからよ」

 

 ちょいちょいとこめかみを指でつつきながら、蔑みの表情で仲間達を止める男。

 

「なぁあんた。俺たちも雇われの身で、辛いんだよ。

 ほんとはこんな無理強いみたいなこと、したかないんだぜ?

 でもよ、命令に違反したとあっちゃ、あの隊長が何を言ってくるかわからんのよ。

 な、頼むぜ兄弟。俺らのこと助けると思ってよぉ」

 

「許可デキナイ」

 

「へっ、ひでぇなおい。

 俺たちなんかどうなったって構わないって訳かい。

 いやーまじ血も涙もないねー! さすが一回死んだお人は言うことが違う!

 ・・・おいおい、なんか反応してくれって。俺だけ一人で馬鹿みてーじゃん」

 

「・・・・・・・・・」

 

「けっ、つまんねーの。

 ・・・それならこういう趣向はどうだよ!」

 

 

 ズガァンッ!!

 

 

 ばっと男が身を翻したかと思うと、突如として銃声が響きわたった。

 そしてほぼ同時に、ほんの少しだけ廉貞さんの体がびくんと震える。

 抜き打ちの銃弾が命中したのは彼の右肩。

 黒いスーツに隠された肩の付け根辺りに、鉛の弾丸がめり込んでいた。

 

「ひゃははっ! おいおいとんだ間抜けだな!

 最強の強化兵士部隊が聞いて呆れるぜ。

 ご大層な肩書き並べてる割にゃあ、ちっとも“らしい”反応してくれ・・・ねぇ・・・」

 

 ・・・だが、それだけだった。

 

 

 カランッ!

 

 

 何事もなかったかのように腕を軽く振る。

 固いものが床に落ちる音がやけに耳に残る。

 転がった弾丸は、まるで押し潰されたかのように拉げていた。

 着弾した傷口そのものはスーツに隠れて見えないが、血の一滴すら流れないのはあまりに不自然だと思った。

 

 弾丸の殺傷力を凌駕する、何がしかの防御力を彼は備えているのだ。

 信じられない光景だった。

 

「嘘だ・・・」

 

 誰かの口から漏れた言葉は、しかし皆の総意を如実に表していた。

 先ほどの私の攻撃で壊れてしまったサングラスが、いつの間にか床に落ちている。

 背後に庇われている状態の私には彼の表情は見えないが、正面側の男達が息を呑むのが分かる。

 あの眼・・・白濁した、生気の感じられない瞳。

 それはもはや、生ある者のそれではなかったのだ。

 

 一歩。

 廉貞さんが踏み出す。

 

 一歩。

 男達が後退する。

 

 手には銃が構えられたまま。

 引き鉄に掛かったままの指が震えている。

 いつ発砲されてもおかしくない。

 

「くっ・・・!!

 たかが死に損なってるだけの化け物だろうがっ!」

 

 発砲。

 一つの銃口が恐怖に押されて火を噴き、残りの男たちも一斉に殺意の弾丸を炸裂させる。

 連続する乾いた銃声。

 室内に響く火薬の炸裂音で、耳が痛くなる。

 

 4つの拳銃に装填されていた弾丸を全て撃ち尽くすと、次には痛いくらいの静寂がやってきた。

 空の銃を構える男達と、耳を押さえてしゃがみ込む私。

 その中間、やや私よりの位置で、腕を交差させて立ち尽くす廉貞さん。

 

 

 カランカラン―――!

 

 

 再び、軽い金属音が連続して響いた。

 いくつもの弾丸が、固い床とぶつかり合って奏でる音色。

 非常識なまでの防御の鎧も、体の全てを覆っているわけではなく、

 ところどころには銃弾が埋まったままの箇所も見受けられる。

 

 しかし―――

 

 効いてない。

 彼は、ダメージを感じていない。

 

 なぜならば彼は、彼を含めて私がこの場所で出会った黒服の監視たちはみな、痛みも苦しみも感じないのだから。

 彼らの肉体は既に死んでいた・・・

 もちろん、私には知る由もないことだったが。

 

 

 ぐぐっ、と廉貞さんの体が沈み込む。

 攻撃態勢だ、と。きっと誰もが理解した。

 その動きは獲物を前にした肉食動物のそれに似ている。

 もしくは引き絞られた弓か。

 

 おそらく次の瞬間には4つの肉塊が出来上がる。

 圧倒的な暴力の前で、それはもはや確定事項。

 私はその残虐な光景を想像し、固く堅く、瞼をつぶった。

 

 その時だ。

 

 

「はいストーップ!」

 

 

 声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なーにをやってくれちゃってるんですか、貴方達は」

 

「お、お前は・・・!」

 

「・・・・・・・・・」

 

 突然響いた制止の声は、なんとか間に合ったようだった。

 戦意を霧散させた男達に、廉貞さんも攻撃態勢を解く。

 

 現れたのは、まだあどけなさを残す少女。

 もちろんはじめて見る顔だった。

 

「まったく、廉貞からの知らせが届いたんで来てみれば・・・

 ―――説明してもらえます?」

 

「わ、我々はただ、命令通りに人質を・・・」

 

「『人質を』・・・へぇ人質を、ね。

 ミシェルさんがどうかしました?

 答えてくださいな、はっきりときっぱりと。

 ね、『真紅の牙』のおじさま方」

 

 静かな声音だった。

 少女のものとは思えない、落ち着いた態度。

 そして口元に浮かぶ侮蔑。

 少女の見下げ果てたような言い方に、リーダーの男が苦虫を噛み潰したような顔になる。

 

「・・・確保して来いっつー命令だよ!」

 

「確保? なんでまた?」

 

「あほか! 機密だぞ!

 どうしてお前に教える必要があるんだよ!!」

 

「・・・はぁ?」

 

 白人の顔が、怒りにさっと紅潮していた。

 いつまた、銃に手を掛けてもおかしくないように思える。

 

 しかし・・・

 

「『はぁ?』じゃねえ! アッタマ悪りーガキだな!

 殺されてーのかこの・・・っ!!!?」

 

 

  ズドンッ!!

 

 

 爆発音。

 否、爆発したような衝撃音。

 同時に男の体が跳ね上がり・・・天井に激突した後で墜落する。

 

 倒れ伏した男の前に立つ少女は右足を高く上げた体勢を、ゆっくりと元に戻しながら言った。

 

「なんか、寝ぼけてたみたいですね。

 目、覚めましたか?」

 

「がっ・・・げぇぇっ・・・っ!」

 

 胃液を吐きながら悶絶する男に、少女はにこやかに話しかける。

 誰もが一瞬惚けてしまう、笑顔。

 しかし次の瞬間には、残った3人の男達が思い出したように銃を構える。

 

 ・・・違う、構えようとした。

 

 

  ヒュ・・・ン!

 

 

 空気を切り裂く風の音。

 認識できたのはそれだけ。

 

 突然、少女の姿がぶれたかと思うとその手の中に3丁の拳銃が出現した。

 まるで画質の悪い動画のような、知覚できるギリギリのぶれ。

 私にはそれしか分からなかった。

 

「危ないですよこんなとこで。

 跳弾とか、当たったらどうするんですか」

 

「な、何・・・?」

 

 構えたはずの銃がないことに、今さらながらに気付く男達。

 茫然自失。

 訳が分からないといった表情。

 

「あのですね、ミシェルさんの扱いって私に一任されてるんですよ?

 彼女をどうにかしたいなら、まず私に話を通すのがスジってもんじゃありません?」

 

「だ、だがこれは隊長からの・・・!」

 

「私、なにか間違ったこと言ってます? 言ってませんよね?」

 

「む、むぐっ・・・」

 

 にこやかに、虫も殺さないような笑顔を向けられただけで。

 その視線の先にいる男達は何も言えなくなってしまう。

 指一本すら、動かすことができなくなってしまう。

 

 裏の世界で生きてきたものとしての勘、あるいは動物としての本能。

 それらが集約して、彼らから反骨心というものを根こそぎ奪ってしまっている。

 

 つまりは、『格』の違い。

 

 

 

「ぐぅっ・・・く、くそっ・・・い、いきなり、かよ」

 

「あれ、動けるんだ。

 ・・・思ったより頑丈ですね。うーん、手加減しすぎましたか」

 

 呻くような、呪うような声は足元から。

 先ほど少女の蹴りを受けて地面に倒れ伏した男性が、吐き捨てるように言う。

 

「間違って間違って間違いだらけだよクソブス!

 新参の、しかも正規の隊員でもないガキがいっちょ前に対等気取りか! ふざけんな!!

 だいたい、お前らのようなリビング・デッドどもと共同戦線なんて、俺は最初から認めてねぇっ!

 ・・・吐き気がするんだ! 気持ち悪ーんだよ!!

 なんなんだよお前ら!! 何でここにいるんだ!!

 俺たちは クリムゾンの最精鋭部隊『真紅の牙』だぞ!!

 生きた人間を殺しはするが、死んだ後まで面倒見れるか!!!」

 

 いまだダメージが抜け切っていないのか、額には多量のあぶら汗。

 呼吸も不規則で、立つことすらままならない。

 それでも、頭を掻き毟るほどの勢いで、唾と一緒に内心をぶちまける。

 今にも襲い掛からんという迫力だった。

 もし私がこんな風に詰め寄られたら、きっと何も言えずに震えてしまうだろう。

 

 けれど彼女は。

 けれどそんな彼に対して・・・

 

 

  ドスゥッ!

 

 

「がっ・・・!!」

 

 一切の躊躇も遠慮もなく、無造作にその右足を突き入れた。

 

「は、やめて下さいよ。なにそれ?

 ふざけんなって感じです、ふーざーけーんーなー!」

 

「げっ、かはっ!! や、やめ・・・ごぇっ! 」

 

 倒れている男性の腹部に、何度も何度も、蹴りを入れる。

 爪先が鳩尾に突き刺さり、喘ぐ顎を足裏が踏み抜き。

 2メートルに近いはずの体躯が、あるいは跳ね、あるいは折り曲げられる様は見るものを硬直させた。

 まるで力を入れたように見えないのに、その爪先はいとも簡単に彼の肉体に深々と突き刺さる。

 

「私だって貴方たちなんか大嫌いなんです。

 ウォルフ所長の命令がなきゃ、貴方達と同じ空気を呼吸するのだってお断りです。

 だいたい、なんか勘違いしてるみたいですけど・・・」

 

 蹲り、動かなくなった男の体を、とどめとばかりに仲間達に向かって蹴り飛ばす。

 慌てて支えた『真紅の牙』の面々を睥睨しながら、彼女は続けた。

 

 

「認めてないのは私。

 納得してないのも私。

 貴方達みたいな塵芥集団といっしょの生活に我慢してるのも。

 虎の子の『七星』まで持ち出して貴方達の力不足を補ってあげてるのも。

 全部全部、私のほうでしょう?

 最低最悪のテロリスト風情が、なにを勘違いして偉そうに。

 『俺たちは真紅の牙だぞ』とかよくも恥ずかしげもなく言えますよね。

 自分達は人間失格ですーって公言してるだけじゃないですか。

 つーかそもそもカタオカさんの後ろ盾がなければ何もできない小心者のクセにいい気になってんじゃねーよばーか」

 

 

 絶対零度。最高級の侮蔑の視線。

 それに曝される男達の顔を彩る恐怖畏怖戦慄。

 憤怒に紅潮していた頬が、急速に色を失っていく。

 

「うっわ、サイアク。

 こんな小娘にこれだけ言われてるのに、目を合わせることすらできませんか?

 なんかもう見てるだけでムカつく。存在が許せません。

 貴方達、もうこの世界から引退したほうが身のためだと思いますよ本気で」

 

 彷徨う男達の視線は、それでも決して彼女を見ようとはしない。

 だがその内心は屈辱に打ち震えていることだろう。

 握りこんだ拳が、ぶるぶると震えている。

 

「・・・ま、どうでもいいんですけどね。

 もともと分かりきっていたことですし?

 じゃ、まあ、納得したならどうぞお帰りをお願いします。

 今度来る時はちゃんと私のほうに話を通してからにしてくださいね。

 あ、でもできればもう来ないで下さい」

 

 ぱっと表情が切り替わって、満面の笑顔を浮かべる少女。

 さっきまでの険悪な雰囲気を一掃するかのようだった。

 張り詰めていた空気が和らぎ、私も胸をなでおろす。

 

 が・・・

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

 蹲ったままの男達は、その場を動こうとしない。

 不満に塗れた反抗的な表情をその顔に貼り付けている。

 

 なぜ自分たちがこんな目にあうのか。

 こんな小娘に、自分達の半分も生きていないようなガキに。

 言いたい放題に言われて、やりたい放題にやられて。

 

 何も言い返せずに地に這いつくばっている。

 

 男達の尊大なプライドが、そのまま尻尾を巻いて逃げることを是としなかった。

 

 

「・・・ちっ」

 

 不名誉な敗走か無謀な反抗か、判断に使った一瞬の躊躇。

 ちょこんと小首をかしげた少女に、ごくごく小さく、本当に微かな音で白人男性が舌打ちをする。

 しかしそれは・・・たぶん、とても愚かしい行動だった。

 

 

  ゴキンッ!!

 

 

「あ? ・・・あ、あがああああっ!!」

 

 またも一瞬だった。

 唐突に、白人の鼻が直角に折れ曲がる。

 

「ああ、あああああっ・・・!!!?」

 

「あはは、すみません。

 変な顔がますます変な顔になっちゃいましたね。

 ・・・っていうか貴方、こんなノロマのクセにムカつきすぎ。

 全然ゆっくり動いてあげたのに、簡単に私を見失ってるし。

 どうです、貴方が化け物と蔑む存在の性能は?

 堪能しました? え、まだ? それはいけませんねー」

 

 

 グギュルッ!!

 

 

「ひっ・・・!」

 

 思わず悲鳴を上げそうになった私の眼前で、少女がにこやかに右腕を回す。

 その腕が掴むものは・・・もちろん白人特有の筋の通った鼻。

 180度ほど捻じれてしまったそれには、もはや鼻と呼べるだけの特徴を見出すことができなかったが。

 

「あがっ、あがが・・・いぅぅっ!!」

 

「見苦しいんでいちいち叫ばないでもらえます?

 喉も潰しましょうか?」

 

 左腕を貫手にして構える。

 その容赦の無さに、事態を傍観するだけだった男達も流石に仲間を庇おうとする。

 

「や、止めてくれ!!

 俺たちが悪かった! た、頼む!」

 

「わお、仲間思いなんですね。

 んじゃあこの人の代わりに貴方が痛い目みてみます?」

 

「ま、待っ・・・げぇっ!!」

 

 左手で東洋人の首を掴む少女。

 顔が見る見るうちに紫色に変わっていく。

 

 思わず私は、少女の腕にしがみついた。

 

 

「待って! 待ってください!!

 やり過ぎです!! このままでは死んでしまう・・・!

 廉貞さん! 貴方も止めてください! 廉貞さん!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

 彼ならば。

 私では無理でも、彼ならばきっとこの娘を止められる。

 そう思って呼びかけてみても、彼は無言で立ち尽くすだけだった。

 

「あ、無駄ですよー。

 『七星』は私の行動を妨げることができませんから。

 うん、でも、そうですね。ここらへんにしておきましょうか。

 そろそろ反省、つーか後悔したでしょうし?」

 

 声の最後を半音上げて、ついでにギンッと睨みを利かせる。

 男達は、こくこくと慌てふためきながら首を立てに何度も振った。

 

「分かったなら・・・帰ってください、ね?」

 

 

  がばっ!!

 

 

 未だにうまく立てない一人をほかの三人が抱えるように、それはもう一目散に。

 あっと声を上げる余裕もなく、既に影も形も見えなくなっていた。

 

 そして去り際。

 

 

「あ、あが・・・放せ! 放せぇっ!

 殺してやる! ぶっ殺してやるぞあの女ぁっ!!」

 

「やめろ! 挑発するな!

 殺されるぞ!!」

 

「があああああっ!!

 ちくしょう! ちくしょう! ちくしょう!!

 殺させろ!! 殺させろぉっ!!!」

 

「あ、鼻落ちた・・・」

 

「ぎぃあああああああああああっ!!」

 

 

 通路に響く怨嗟の声。

 あまりの憎悪に、直接ぶつけられた訳でもない私も血の気がうせる。

 もっとも、少女のほうはあまり気にした様子は無かったが。

 

「うわ、反省してなさそうだしー。

 あ、ピストル忘れてますよー・・・って、もう行っちゃいましたね。

 まあいいや。あとでカタオカさんに届けときましょう」

 

 手元に残った3丁の拳銃を弄びつつ、一人ごちる少女。

 そして、ふと気が付いたように私に視線を向ける。

 

 事態のあまりに唐突な展開についていけなくなっていた私は、その視線の前にようやく我を取り戻した。

 

 

「・・・・・・・・・あ」

 

「どーも、ミシェルさん。

 すみません、なんかご迷惑をお掛けしてしまったみたいで」

 

「あ、いえ・・・や、そうではなく・・・ええ?」

 

「どーかしました? 大丈夫ですか?

 あいつらに何かされたんでしたら今から追っかけてトドメ入れて来ますけど・・・」

 

「そ、それは止めてくださいっ!」

 

「あはは、冗談ですよー。やだなーもう。

 あ、そろそろ放して下さいね」

 

「え、あ、ああ! 御免なさい!」

 

 しがみ付いたままだった腕をぱっと解放する。

 

 ・・・細い腕だった。

 普通の、年相応の女の子の、細腕だった。

 

 思わずまじまじと、その腕を凝視する。

 

「大事無くて、なによりでした」

 

 そういう少女の顔はとても晴れやかで。

 とてもとてもとても、さっきまでの恐ろしい姿からは想像もできなかった。

 

 ぺこり、と一つお辞儀して立ち去ろうとする少女を、私は思わず呼び止める。

 

「あの! ・・・あ、貴女、お名前は?」

 

 振り返る、少女。

 私は、息を呑む。

 

 

 

「アサミです。アサミ=シュンリン=カザマ。

 『シュンリン』の名を継ぐ、単体戦闘型強化人間・・・・・・いわゆる『化け物』?」

 

「化け物、だなんて・・・そんな」

 

「あはは、優しいんですね。

 でも・・・・・・事実ですから。

 それに私、気に入ってるんです。みんなから化け物って言われるの」

 

 自信に満ち溢れた、その表情。

 そこに、悲壮の影は無かった。

 

 いや、むしろ・・・そこに有るは強き意思。

 

 

「私は、人じゃない・・・でも、それがいったいどうだって言うんです?」

 

 その瞳に、決意を宿らせて。

 彼女は受け入れた。

 

「私は他の人たちよりも力持ちだし、足も速い。

 病気もしないし、怪我だってしにくいです。

 そりゃあ、ちっとも悩んだことが無いなんて言ったら嘘になりますけど。

 でも私は、私の体をこういう風に作り変えてくれた、ウォルフ所長を恨んだことなんて一度だってありません」

 

 己の存在を、殺戮にしか使えない進化を。

 最初の人殺以来、封印し続けてきた、誰もが『化け物』と蔑み慄く自身の能力を。

 

 

「貴女が貴女であることを誇るように。

 人が人であることを誇るように。

 私は、私であることを誇りに思おうと思います。

 ・・・だって私は、アサミ=シュンリン=カザマですから」

 

 

 アサミ=シュンリン=カザマは、いま、再び、その心に。

 

 

「いやまあ、私に人間やめさせた方の人を許すつもりはないんですけどね、あはは」

 

 

 ―――受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 医務室。

 

 

「ちくしょう!! ―――痛えっ! 痛えっ!!」

 

「おい落ち着け! 暴れたら治療ができないだろう!」

 

「黙れよクソ野郎! なに涼しい顔してやがんだ!

 てめぇも鼻をもがれてみるかよ!!

 くそっ!! あのガキ、ぶっ殺してやる!!

 許さねえ! 絶対に許さねえぞちくしょうっ!

 地べたに這いつくばらせて足の指を舐めさせて!

 泣き叫ぶ顔を切り刻み! 髪を引き千切りながら犯しつくしてやる!

 俺を虚仮にしやがって! ちくしょう! 俺を馬鹿にしやがって!!」

 

 白一色だった医務室に盛大に赤をぶちまけながら、男が叫ぶ。

 その顔には本来あるべきパーツが一つ、存在していなかった。

 

「お前こそ黙れヴァーリッジ!

 お前があの化け物につっかかって行ったお陰でこっちはとんだとばっちりさ!

 みろよこの首を! 指がめり込んで、あと少しで喉を食い破られるところだった!!」

 

「うるせえ! うるせえんだよキムチ野郎!

 ちくしょう! どいつもこいつも!! くそっくそっくそっ!!

 ふざけんじゃねえぞ!

 俺があの化け物に殺されかけてた時、お前ら全員何してやがった!

 あと少しで喉を食いちぎられるところだっただと?

 それがどうした、こっちは鼻をまるごと持って行かれちまったんだぞ!」

 

 白人の男・・・ヴァーリッジ=スタンフォードが、東洋系に掴みかかろうとして止められる。

 東洋系の男はキム=ゲイヒュンと言った。

 

「ちくしょう痛え・・・血が、止まらねえ。

 くそっ! なんなんだ・・・なんなんだ、あいつは! あのガキは!?

 殺してやる・・・!!

 絶対! 絶対にぶっ殺してやるぞ化け物!!」

 

「ヴァーリッジ!! いい加減に・・・!?」

 

 黒人のベニー=ジョーンズが彼を羽交い絞めにしようとした時、一人の男が医務室内に入ってきた。

 軍人上がりのフィニアス=ブルーベックは、その男に対して即座に正対した。

 

「よう、入るぜ。

 ―――うお、随分とまあやられたもんだなおい」

 

「テ・・・テツヤ隊長!?」

 

「あーあ、こりゃもう治んねーわ。

 災難だったな、ヴァーリッジ」

 

 ぽんっ、と肩に手を置く。

 目を見開き、その手を注視するヴァーリッジ。

 テツヤの行為は・・・ひどく、ひどくヴァーリッジの心を波立たせた。

 

 

『つーかそもそもカタオカさんの後ろ盾がなければ何もできない小心者のクセにいい気になってんじゃねーよばーか』

 

 

 ヴァーリッジの脳裏に、アサミの言葉が蘇る。

 

 

「うるせえ!!」

 

 気づいた時には、ヴァーリッジはその手を思い切り跳ね除けていた。

 

「おっと! なんだよ痛てーな・・・」

 

「五月蝿えよ! 五月蝿えんだよあんたは!!

 なに見下してんだよ! いつあんたは俺を見下せるくらい偉くなったんだよ!!

 あんたが『真紅の牙』の隊長なんてやってられんのは!

 ただ単にあんたが会長に気に入られてるってだけだろうが!! あんたの実力じゃない!!」

 

 実力じゃ負けてない!

 いや、むしろいつも安全なところで指示だけ出してるこいつより、いまや俺のほうが上のはずだ!

 俺は、ずっと実戦の只中にいた。こいつとは・・・もう違う!

 

 そんな思いが内心に渦巻く。

 

「おい! いい加減にしろ!

 申し訳ありません隊長! ヴァーリッジは錯乱しておりますので・・・」

 

「黙れフィニアス!

 お前らだって思ってるはずだ! 実力じゃ負けてないってな!

 そりゃそうさ! 後ろで踏ん反り返ってるだけのあんたなんかに俺たちが負ける訳がない!

 負ける訳がないんだ!!」

 

 そう、『真紅の牙』はもともと一つのチームじゃない。

 好き勝手やってきたならず者どもや切り捨てられた工作員。

 雇われた傭兵から政治取引で服役を免れた犯罪者まで。

 極めて能力の高い『個人』をロバート会長が一纏めにしただけのものだ。

 そして、カタオカ・テツヤをリーダーに据えているのには便宜上の意味以上のものはない。

 ただ、会長がたまたまテツヤを気に入っただけ。

 それを不満に思う声は、もともと抑圧されることを嫌う連中の中にいつでもあった。

 

 誰もが、会長を恐れて従っていただけだ。

 カタオカ・テツヤの代わりなどいくらでもいる。

 

 そう、思い込もうとしていた。

 

 

「くっくっくっ! これはいい!

 カタオカさん、貴方も人望がありませんねぇ」

 

「・・・お前にだけは言われたくないな。

 まあ、どうやら否定もできねえみたいだがよ」

 

 テツヤの後ろからもう一人の男が。

 場にそぐわない黒スーツには埃一つついていない。

 オールバックに撫で付けられた銀髪は、嫌でも人目を惹いた。

 

「・・・お前・・・『消火栓(ハイドラント)』!?

 ロバート会長直属のエマージィ=マクガーレンか!!」

 

「おや、私を知っているとは・・・?

 なるほどなるほど。確かに能力は悪くないようですが、さて」

 

 曰く、その男の行動を妨げてはならない。

 曰く、その男の素性を探ってはならない。

 曰く、その男の企図を疑ってはならない。

 

 調べれば調べるほど、クリムゾンの暗部に近づいていくその正体。

 ロバート=クリムゾン会長の右腕にして鬼札(ジョーカー)

 『消火栓』エマージィ=マクガーレン。

 

 

「・・・ところでその鼻どなたにやられたんです?

 見たところ引き千切られたようですが・・・尋常の膂力ではない」

 

「っ!! あのガキだ!!

 俺達の基地で我がもの顔でのさばってる化け物だよ!!

 くそぉ・・・俺の鼻・・・鼻を、あいつ・・・!!」

 

 目が尋常ではなかった。

 ぎらぎらと、憎しみの色の焔が燃え滾っている。

 

「ああ、そういや人質連れて来いって命令出したっけか。

 ・・・『消火栓』が」

 

「ええっ! ひどいカタオカさん!

 責任転嫁ですか!

 隊の責任者としてそういう態度は如何なものかと思いますよ、私は!」

 

「戦鬼との交渉に使いたいから女連れて来いっつったの、お前だろうが。

 けどお前らもなー・・・ガキ相手にむきになって突っかかんなよ大人気ねぇ。

 ・・・まあ、過剰反応するカザマも大概だが」

 

 なっさけねー、と続けるテツヤ。

 ヴァーリッジたちは何も言い返すことができない。

 

 だが、不満は溜まっていく。

 

 

「・・・殺させろ、あの女」

 

「はっ・・・寝惚けるなよ、ヴァーリッジ。

 そんなことを俺が許すと思うか、ん?」

 

「あんたには聞いてねえよ!」

 

「・・・あん?」

 

 暗い暗い眼。

 それはまっすぐエマージィに向けられる。

 

「おや、もしかして私に言ってるんですか?」

 

 無言で頷く。

 その眼だけをぎらぎらと光らせて。

 

「許可しねえってんなら、別にいい。

 だが、そーなっちまったら俺は何するかわからねえぞ。

 あの化け物に、俺を虚仮にしたことを後悔させてやらなきゃ、もう収まらねえ・・・!!」

 

「負け犬の雪辱戦ってやつですか?

 どうせ返り討ちになるだけだと思いますけど・・・ふむ」

 

 考え込む仕種をしてみせる。

 白い手袋に包まれた指先を顎にあて、数秒間虚空を睨んだかと思うと・・・

 

「・・・条件がありますが、ま、いいでしょう」

 

「おいおい・・・?」

 

「貴方は、おそらく私と同じ人種だ。

 その怒り、その憎しみ、その強き精神。

 ・・・認めましょう、貴方の執念と欲望と反骨心を」

 

 両腕をばっと広げる。

 大仰な仕草。芝居じみた台詞。

 しかしこの男にはそれが意外なほど合っていた。

 

「ですが相手があの『人形遣い』ウォルフ=シュンリンの最高傑作と言われるアサミさん。

 貴方には、些か荷が勝ちすぎるでしょう。

 ならば・・・『力』をご提供いたします。もちろんタダではありませんが。

 私は、貴方が最も望む形での力を提供すると同時に、貴方の持つ自由を完全に奪う。

 契約が成立した時点で、貴方は私の手足となるのです。

 報酬はアサミ=シュンリン=カザマの殺害権。

 ・・・これが条件ですが、いかがですか?」

 

「・・・殺していいんだな?」

 

「それが貴方に可能ならば」

 

 にやりと、厭らしく笑うエマージィ。

 不吉を体現したかのような表情だった。

 

「そちらのお三方は如何されます?」

 

 エマージィに問われたフィニアス達三人は、互いに顔を見合わせる。

 

「・・・正直、俺たちはヴァーリッジほどあのモンスターに対してこだわりはない。

 が、お前の言う『力』とやらにはかなり興味を惹かれるな」

 

「よろしいでしょう。

 さっき確認してきましたけど、一応人数分は用意することが可能ですから。

 ・・・一応、私の指揮下には入ってもらいますが」

 

「・・・隊長?」

 

 どうします、といった感じでテツヤに請う。

 テツヤはそれに対して肩を竦めて見せるだけだった。

 それは、了承の証しだ。

 

「・・・それで、何をくれるって言うんだ?」

 

「本社で開発中の・・・まあ、言わばパワードスーツみたいなものですかねぇ?

 最初に言っておきますが、これ実戦テストも兼ねてますから。

 あとでモルモットにしたー、とかごねないで下さいよ?」

 

「・・・別に構わん」

 

「重畳、重畳。

 ヴァーリッジさん?」

 

「聞くなよ、聞くまでもねえことを。

 モルモット? はっ! 上等!

 あの女をひねり潰せるのなら、悪魔にだって魂を売ってやるさ!!」

 

「・・・・・・その言葉、忘れないで下さいよ?」

 

 

 望みどおりの反応に、薄い笑いを堪え切れないエマージィ。

 愚かで愚かで、愚かしく。

 しかしそれ故に、自分の手の平の上で容易く踊ってくれるバカな兵士達。

 

 誰にも聞こえぬ声で、隣のテツヤにすら聞こえぬ声で。

 エマージィは、そっと呟く。

 

 

 

 

「『死者の鎧(スレイヴ・デッド)』とは・・・科学者らしい無粋なネーミングですね、ウォルフ所長?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕暮れの空気が街を流れている。

 少し肌寒い―――と考えてから、着の身着のままでここへ来てしまった事に思い至った。

 軍では所持できる私物に限りがあったから、置いてきた荷物に未練などはなかったが、

 さすがに上着くらいは持ってきておけばよかったかもしれない。

 

 もう日も沈むだろうと言うのに、通りにはまばらの人影があった。

 この街の人々の顔は明るい。

 町並みにも、戦争の爪跡はさほど見られず、ほとんどの人々は常と変わらぬ日常を送っていることだろう。

 

 私は夕方の、ことに夕焼けの時分がとても好きだ。

 青い空がだんだんと薄緑色に変わり、それは黄色からオレンジ、赤と色を変えつつ、

 やがて深紅から暗い紫へ、そして夜の闇となって地平線の黒と溶けあっていく。

 時にはそれが水面に映り、薄紅色と淡い水色が織りなす波模様がゆらゆらと時の経つのを忘れさせることもある。

 欧州のそれは華やかに、暮れていく。

 私はこの景色が好きだった。

 

 

 

 

 

「で、どーなったんです?」

 

「・・・どうなった、とは?」

 

「だから、テンカワ アキトに教えてあげたんじゃないんですか?

 アリサさんはもう敵になっちゃいましたよー。

 あなたは振られちゃったんですよー、やーい女ったらしー、って」

 

「・・・後ろ半分はなんなんです」

 

「えー、なぁんだ、何も言わずに出てきちゃったんですか?

 勿体無いなー。

 せっかくほら、かの有名な『稀代の女たらし』が女性関係で失敗を演じる初めての瞬間だったかもしれないのに」

 

「そんなことをしてどうなります。

 それに私は・・・あの人に正面から宣戦布告するほど、無謀ではないつもりです」

 

「そうですかねー。

 いままで観察してた様子だと、彼がアリサさんを害するようなことはほぼ有り得ないはずなんですけど」

 

「アキトさんに限ればそうなのかもしれませんが・・・」

 

「ああ、なるほど。心配事はその周りですか。

 たしかにヤガミ ナオとか影護枝織とか、危ない人たち揃い踏みですね」

 

 さもありなん、といった感じで目の前の少女は神妙に頷いた。

 

 少女―――クリムゾンの連絡員であるアサミ=カザマと名乗る少女は、まだ14歳だった。

 

 この年齢で工作員、しかもかなり重要な位置にいるらしいことにどうしても違和感を感じてしまう。

 見た感じは普通の女の子なのだ、この娘は。

 同年代の少女達に比べて発育が早いのと、身なりにあまり気を使わないことを除けば、彼女はごく普通の女の子だった。

 

 ただ・・・

 それが私の甘さであるということも、自覚していた。

 目の前の少女は、尋常の人間ではないのだということもわかっていた。

 どんな姿かたちをしていても、その正体は人外の化け物。

 そういう点ではアキトさんや枝織ちゃんと似たようなものなのかもしれないが。

 

 

 私は、未だにお爺様の屋敷の付近の街にいた。

 もう、日も暮れようという時間。

 にも拘らず、街のカフェでアサミさんと、アサミ=カザマとテーブルを挟んでいたのだった。

 

 ついさっき、お爺様の屋敷を飛び出たすぐ矢先。

 いきなりの呼び出しが掛かったのだ。

 

 

「まさか屋敷を出た途端・・・ああも堂々と接触してくるとは思いませんでしたが」

 

「あはは、まぁいいじゃないですか。

 どーせこっちに来るつもりだったんでしょう?」

 

「それは・・・って、何で知ってるんです?

 私がクリムゾンに行くこと、お爺様以外の前では口外していないはずなのですけど」

 

「ああ、盗聴してましたもん」

 

「・・・・・・・・・」

 

 絶句。

 この娘、絶対に悪いとか思ってない。

 

 今日のアサミさんは、随分と、なんと言うかまあ、適当っぽいファッションをしていた。

 少しばかり油に汚れた作業衣に軍手。

 胸の辺りで開かれているファスナーから覗くのは無地の白Tシャツ。

 かと言って整備員がよく履いているような鉄板入りの安全靴ではなく、底の深いバッシュのようなスポーツシューズ。

 額にはバンダナ代わりにタオルを当てていたが、これにも油汚れが付着していた。

 少なくとも、年頃の女の子が好むようなファッションではないことは確かだろう。

 

「いや別にいっつもこんな格好してるわけじゃありませんからね。

 今日は・・・ちょっと、急いでましたんで」

 

 服を見ていた私に気付いたのか、少し恥ずかしそうに弁解する。

 

 急いでいた、というのはおそらく疑わなくていいだろう。

 誘拐とも見紛うような手法でもって、西欧方面軍総司令のお膝元から私を連れ出したのもおそらくそれ故か。

 

 アサミさんが直々に出向き、尚且つこれほどに急く様な事態・・・

 

 あまり、いい予感のするものではなかった。

 

 

「で、アサミさん」

 

「はい?」

 

「そろそろ、本題に移りませんか?」

 

「ああ・・・そうですね。時間も惜しいですし」

 

 ちらりと時計に視線を送る。

 短針がちょうど6時を指し示しているところだった。

 

 今回のこの会合は確かにあちら側からの要請によるものだったが、これは私にとっても渡りに船だった。

 クリムゾン行きを決意したものの、約束では連絡は常に向こうから接触してくることとなっていて、

 実際にいままでの途中報告を行った際も全てエマージィの指示によって場が設けられていたのだ。

 私のほうから彼らにコンタクトを取るのはほとんど不可能に近かった。

 

「あ、でもちょうど良かったかもしれません。

 思わずアリサさんを連れてきちゃいましたけど、実際このまま帰ったらエマージィさんに怒られちゃうとこだったんですよねー」

 

「・・・ちょっと待ってください。

 この行動・・・私を連れ出したのって、マクガーレン氏の指示・・・ですよね?」

 

「ええ? 違いますよそんな。

 エマージィさんは何も知りませんし、そもそも教えてませんよ、私。

 なんか企んでるみたいだったけど、いつもの事だし私はそういうの苦手なんで勝手に来ちゃいました」

 

 えへ、とアサミさんは笑窪を作る。

 笑顔が可愛いのはいいことだけれど、できれば団体行動についてもう少し真剣に考えて欲しかった。

 

「その点、アリサさんもこっち側に付く決心をしてくれたみたいですし、まあ結果オーライかなぁ、って」

 

「・・・・・・・・・」

 

 軍手をツナギのポケットに押し込みながら、てへへと笑って誤魔化そうとするアサミさんに再び絶句。

 

 そう。

 本来なら、有り得ない。そういう約束だったのだから。

 

 この娘・・・大丈夫なんだろうか?

 

 

「ん、それでですね。

 アリサさんをお呼び立てした理由なんですけど・・・」

 

「あ、待ってください」

 

「ええっ?」

 

 絶句する私を完全に置き去りにして話を進めようとするアサミさんを、私は手の平で制止した。

 アサミさんはそれにオーバーリアクションで驚く。

 

「本題に入る前に、確認しておきたいのですけれど」

 

 アサミさんの非難するような視線を無視して、私は口を開いた。

 その強い口調に、しぶしぶ話の切り出しを譲ってくれる。

 

「う〜・・・なんですか?

 あんまり面倒なのはダメですよ。面倒だし」

 

 どうやら重度の面倒臭がりらしい。

 年頃のムスメとしてはあまり褒められたものではない。

 

「母の無事を・・・確かめさせて頂きたいのです」

 

 むっ、とアサミさんの表情が真剣なものに変わる。

 いままで彼らクリムゾンの言うことにただ従うだけだった私からの初めての要請。

 しかもその望みは、何もかもをすっ飛ばして一息に相手側の切り札に到達するものだった。

 

「母が、まだ無事であると言う証しを。

 それがなければ・・・私は今後一切、あなた達に協力しません」

 

 誠意を見せて欲しかった。

 私は、とても普通なら考えられないような状況で彼らの脅迫と同義の要求を呑んできたのだ。

 たとえクリムゾンが非人道的組織の代表格だったとしても、

 ならばだからこそいま確認しておかなければならなかった。

 気楽に放置するには、この問題は私にとってあまりに重かった。

 

「強気、なんですね」

 

「・・・私も、後がないんです」

 

 正直な思いが、つい溜息と共に漏れた。

 漆黒の戦鬼を敵に回した私には、もう後がない。

 軍を辞めてしまった私には、もう帰るべき家すらない。

 

 もしも・・・考えたくもないことだが、もし母が既に彼らの手に掛かっていたとしたら。

 たとえ存命であったとしても、その身体・精神に後遺症を残すほどの苦痛を与えられていたとしたら。

 この場で目の前の人外に殺されたとしても、私は彼らに利を齎すつもりはない。そう絶対に。

 踊らされるだけの哀れな道化になるわけにはいかない。

 

 お互いに、しばし見つめ合う。

 もしいまが昼で、いつものように人で溢れていたとしたら、私たちはきっと多くの好奇の視線に晒されている事だろう。

 私もアサミさんも、やはり人目を引いてしまう容貌なだけに、互いを射殺すように睨み合ってる様子は鬼気迫るものがある。

 

 

「・・・そうですね」

 

 さきに拮抗を崩したのはアサミさんだった。

 満足したように、にこりと笑顔を形作る。

 年相応の無邪気な笑顔で、一瞬、勘繰ることすら忘れてしまった。

 

「いいんじゃないですか?

 うん、強気。いいですよ、そっちの方が。

 ご自分のお母様のことなんだから、心配ですよねやっぱり。

 当たり前ですよ、それ。あたりまえあたりまえ」

 

 突然、上機嫌になったアサミさんはぺらぺらとまるで同世代の友人とお喋りするかのように話し出した。

 なんとなく、思い出されるのはハイスクール時代。

 こういう人懐っこい子はどこのクラスにも必ず一人はいたものだ。

 もっとも、私自身はそういう手合いを苦手としていたのだが。

 

「でもま、それはとりあえずこっちに置いときましょうよ。

 だってミシェルさんの無事は、アリサさんが私達の所に来たならすぐに分かることなんですから。

 大丈夫です。誓って、私達はあなたのお母様に対して危害を加えるようなことはしていません」

 

 尚も言い募ろうとする私に手の平を向け、至極真面目な顔で誓いを切るアサミさん。

 言いながら、伝票を手に取り席を立った。

 

「出ましょう?

 私の話・・・ちょっと、こんなトコでするような内容じゃないと思うんで」

 

「話・・・?」

 

「思い出話ですよ、なんてことない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ・・・アリサ中尉?」

 

「え?」

 

「・・・っ!」

 

 思わず声に出し、思わず隠れる。

 

 

 

 不足物品の買出し―――それが、今日の俺に与えられた使命だ。

 

 ・・・と言っても、今回は前回までのような武器や弾薬と言った装備類の補給じゃない。

 そういう種類の補給に四苦八苦言っているような時代はもはや終わったんだ。

 なにせ今の俺たちといったらこの西欧の英雄。

 装備だってなんだって、最優先とは行かないまでもかなり融通が利く様になった。

 今日の買出しは何てことはない、極々有り触れた日用品の仕入れが目的だった。

 

 その途中。

 その姿を確認したのは、一息入れようと車を降り自動販売機で缶コーヒーを買ったときだ。

 

 見知った顔の隣には、見知らぬ連れがいた。

 だからと言うわけではないが、隠れなければならないような気がした俺は咄嗟に車の陰に身を潜める。

 

「どうかしました?」

 

「いえ・・・

 いま、誰かに呼ばれたような気がしたのですけれど・・・」

 

「ん、そーですか?

 私は気付きませんでしたけど?」

 

「・・・ああ、きっと気のせいですね。

 少し、過敏になっているのかもしれません」

 

 なんで、こんな所で・・・こんな時間に中尉に会うんだ?

 中尉、いまテンカワたちと実家に帰ってるって話だけど・・・

 って、ああ・・・そういえば中尉の実家ってこの近くだったっけか。

 

「おっ・・・? え?」

 

 突然きょろきょろと辺りを見回し始める少女。

 一瞬、眼があったような気がして思わずのぞかせていた頭を引っ込める。

 

「あー、はいはい・・・確認。

 あ、すいませんアリサさん。じゃあ行きましょうか」

 

「・・・?」

 

「気にしなくていいですよ。

 ・・・気にするほどの価値もないでしょうし。

 つーか貪狼、近くにいたんですね・・・あ、なんでもないですこっちの話」

 

「はぁ・・・?」

 

 言いながら、観察する俺には気付かず、その場を後にする2人。

 俺の車のすぐ横を通過する。

 

 うーむ・・・

 

「・・・美少女か」

 

 美少女だった。

 アリサ中尉も間違いなく美少女だが、どちらかと言うと美人の部類に入る美少女。

 俺的美少女観から言わせて貰うならば、連れの少女のほうが正しく美少女に分類される。

 うむ、系統は異なるが枝織ちゃんとどっこいどっこいか。

 

 しばし、意味もなくその後姿を眺めた。

 並んで歩く姿は、その身長差から姉妹のようにも見える。

 作業服姿が少し気にはなったが、そういうキャラも私的にオーケーだ。

 

 しかし・・・なんだろね、あの2人から醸し出される怪しい匂いは。

 何かある。

 何かあるぞと俺のシックスセンスが告げている。

 

「これで尾けなきゃ・・・サイトウ タダシの名が廃るって感じだよなぁ」

 

 カバンの中の愛用デジカメを確認。

 飲みかけのコーヒーを一息に乾し、俺は運転席に滑り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アサミ・カザマ―――。14歳。女の子。

 宝物の赤いリボンで顔の横に垂らした一房の髪を結んでいる。

 背丈は低め。容姿は美少女。

 7月1日生まれのO型。

 家族構成、義祖父。のみ。

 基本的に真面目。

 とにかく冗談が通じにくいところがあり、気分屋。

 4歳の時にウォルフに引き取られ、以後10年間をその孫娘として生きる。

 学校に通った経験は持たないが、世界的な科学者たちの中で育ったためか理数系の知識は並以上。

 精神的に幼く、善悪の判断がつかない。

 ウォルフに対する上位自我。他人に対する無関心。

 エディプスコンプレックス。母親という存在に対して幻想のようなものを抱いている。

 

 

 特記事項―――『遺伝子改編型強化人間』

 

 自分自身の『強さ』に絶対の自信と偏愛を持つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実を言いますと、私ってば火星出身なのです」

 

 アサミ・カザマは突然に。

 何の前触れも前置きも迷いも澱みも躊躇も遠慮もなく。

 すらりとさらりとまるで自然で必然で当然であるかのように。

 ―――そう言い放った。

 

「ですから、火星生まれの火星育ちだったりするですよ。

 私、アサミ・カザマは」

 

 だからなんだと思う。

 いまいち意図が汲めなかった。

 しかし彼女は疑問顔の私を全く無視して台詞を続ける。

 

「しかもユートピアコロニー」

 

「はぁ・・・」

 

「テンカワ アキトが火星の出身であると、まことしやかに流れている噂はご存知です?」

 

「・・・どこで流れてるんですか?」

 

「それはヒミツです」

 

 テンカワ・アキト。出身、火星ユートピアコロニー。

 実は私は知っている。

 黙っていて、と言われたのでなんとなく報告書には書かなかったが。

 

 ばれてるなら意味なかったですね。

 

「えーと・・・知り合い、ですか。もしかして?」

 

「んー・・・」

 

 腕を組む。

 むむむっ、と眉根を寄せる。

 

「アサミさん?」

 

「・・・びみょー、です」

 

 脱力した。

 なにが言いたいんだろう、この娘は。

 

「近所にいたような気もするんですけどねー。

 なにぶん私もコドモでしたんで。コ・ド・モ。

 まぁ、テンカワって苗字も大して珍しくないですし。

 いたっけなー。いなかったけなー」

 

「はぁ・・・」

 

 この娘の相手してると生返事ばかりになってしまう。

 

「・・・で、ですよ」

 

 そこで私に振るんですか。

 

「なんでしょう?」

 

「ほんとのとこ、どうなんですか?」

 

 至極真面目なその顔に、私は内心でぎくりとする。

 こちらを非難するような雰囲気は感じないが、ひどく自分が責められているような気がした。

 

「さあ・・・あの、私にはなんとも」

 

「そうですか・・・知らないなら、ま、いいんですけどね。

 テンカワさんの出身地、っつーか出身惑星?

 火星って噂、私は信憑性アリと見てるんですが」

 

「・・・・・・」

 

「だいたい、うちの諜報部が総力を挙げて調べたにも関わらず出身地すら分からないってのがそもそも不思議に過ぎたんですよね。

 火星出身ってんだったら、そこらへんは納得できます。

 いくらなんでも地球外は捜索の範囲外でしたし」

 

「じゃあ、やはり火星出身なんじゃないですか?」

 

「・・・ふぅ」

 

「あ、ひどい」

 

 ため息つかれてしまった。

 呆れたような態度。

 なにやらひどい言い掛かりをつけられているようでちょっぴり腹が立つ。

 

 そこでですよ、とアサミさんはもう一度仕切りなおした。

 

「確認して欲しいんです。

 ・・・噂が本当か、どうか。

 本当に、テンカワさんは火星ユートピアコロニーのテンカワさんなのか」

 

「本当なんじゃないですか?

 それ以外に可能性なんて・・・」

 

「確認して、欲しいんです」

 

 真剣だった。

 真摯で必死な表情だった。

 とてもとても大切なことを確かめるかのように、切実な顔だった。

 

「・・・それは、重要なことなのですか?」

 

 もちろん、と答える。

 あまりに当然だとでも言うように。

 

「だって、もし間違ってたら・・・・・・・・・取り返しがつかないんです」

 

 なにに関して取り返しがつかないのか。

 それを語るつもりは彼女にはないようだった。

 

 けれど・・・私は、私の目を見て静かに話すアサミさんを、とても怖いと思った。

 とても、怖い人のように思えた。

 何かを決意した、決定した人の持つ怖さを感じた。

 

 なるほど、と。

 とりあえず私は表面上だけでも納得した体裁を整える。

 

「・・・でも、それは無理だと思います。

 私はもう『Moon Night』に戻ることはできないんですよ。

 既に最高指揮官である御爺様に辞表も提出しました。

 はっきりと、別れを告げてきてしまったんです」

 

 それは私にとって、辛く苦しい選択だった。

 信じてくれた仲間を。信頼できる上司を。

 好意を寄せてくれる人たちみんなを裏切る行いだった。

 しかし・・・

 

「そんなもの」

 

 沈む私、戻れない辛さに耐える私を彼女は鼻で笑う。

 

 まるでどうでもいい。

 私の悩みや心痛など、『それ』に比べればまるで何でもない。

 

 彼女の目はそう語っているように思えた。

 

そんなものはどうとでもなります(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 嘲った。

 嫌らしく否らしく厭らしく、彼女は笑った。

 

「どーでもいいんですよ。テンカワ アキトが貴女をどれだけ怪しもうが。

 もう既に限界ぎりぎりいっぱいいっぱいぶっちぎりで貴女は怪しさ満点なんです。

 もし私が『Moon Night』の立場だったら絶対に信用しません。

 いまさら疑惑の一つや二つ、増えたところで全体なんの不都合がありますか?

 あの男は、どーせ絶対に貴女を疑ったりしませんよ」

 

「そ、そうでしょうか・・・?

 けれど、避けられるべき危険は避けるに越したことはないと思いますが」

 

「危険・・・? は、危険ですか危険。

 キケンキケン。なんですかソレ。そんなのあるわけないじゃないですか。

 だって、テンカワ アキトですよ?

 なんかもーこうふざけんなーってくらいに貴女を信用しちゃってるみたいなんでぶっちゃけこっちが拍子抜けしてるくらいです。

 いいじゃないですか、もう一度会ってあげれば。

 いいじゃないですか、面と向かって裏切ってあげれば。

 楽しみですね。いったいどんな顔してくれるんでしょうね。

 いいな、私も見たいな。羨ましいですよアリサさん。うわーほんと羨ましいなー」

 

 それは・・・事実だった。

 何故かは、知らない。

 理由を聞いても、教えてくれなかった。

 けれどしかし、それは事実以外の何ものでもない。

 

 テンカワ アキトは、アリサ=ファー=ハーテッドを信頼し信用していた。

 

 そこには、何の根拠も理由も原因もなく。

 しかし間違いなく、漆黒の戦鬼は白銀の戦乙女を信じていた。

 

 だからこそ、彼の下から離れてしまった私の心痛はこれほどまでに重いのだが。

 

 

「どっちにしろ変わらないんですよ。

 そう、何も変わりようがないんです。

 貴女はただ確かめてくればいい。

 本当か否か。それを確かめてくるのが・・・そうですね、それじゃあそれが入社試験です。

 クリムゾンに亡命するなら、言い得て妙ですけどなんか新入社員より亡命者って感じなんでこう言っちゃいますね。

 ウチに来たいなら、ソレ、確認してきてください。うん決定」

 

 無茶苦茶だ。

 

「アリサさんに危険はないと思いますよ?

 断言してもいいです。危険皆無の安全確実です。

 一言、確認してくるだけ。

 たったそれだけで、お母様の自由も貴女自身の安全も全部まとめて約束します。

 破格じゃないですか。いい条件だと思いますけどね。

 あ、そうだ。別に電話でもいいですよ。はいケータイ。

 さくっと一言確認しちゃってみてください。さくさくっと」

 

「・・・わかりません。

 何故、それほどまでに確認を取らなければならないのですか?

 アキトさんの出身地が、火星であることになにか意味でもあるのでしょうか」

 

 押しつけられた民間の携帯通信機を弄びながら、問う。

 

 アキトさんは・・・食事時の何気ない会話の中でだったが、確かに火星出身だと述べた。

 嘘をつく理由は、ないと思う。

 どこから流れた噂か知らないが『Moon Night』のメンバーなら普通に知っていてもおかしくない。

 なんでもない世間話でさらっと出てしまうようなことが、なぜそんな重要なのだろう。

 

「意味? ありますよもちろん!

 私が。必要としているんです、その真偽を。

 どっちかしっかりはっきりしてくれないと、私が困るんです」

 

 聞き分けのない子供にものを聞かせるような言い方で、アサミさんは言う。

 

「私、ここに来る前にある人と約束してるんですよね。

 その人は私にとってとても大事な人で、その約束もとても大事なものなんですよ。

 いつもなら、私は絶対にその約束を破ったりはしないんですけど、時と場合によっては・・・

 つまりいまに限れば、テンカワ アキトの出自に関してですが。

 優先順位っていうんですか、これ?

 私にとってたとえその大切な約束を侵したとしても、やらなきゃならないことってあるんです。

 それが何かは言えませんけど」

 

 一生懸命だった。

 それが、年相応に見えた。

 

「とても大切なことなんです。

 間違えるわけにはいかないんです。

 もし約束を違えれば私は私を許せないし、

 もしテンカワさんが“そう”なんだったら、それを見過ごしたらやっぱり私は私を許さない。

 そーいうものなんです」

 

 必死で必至。

 頑迷に懸命。

 

 自分よりも幼い少女の、本気のお願い。

 それがどういう種類のものにせよ、人間と言うのは因果なもので、やはりそれには断り辛いものがある。

 私だって例外じゃない。

 たとえその中身が化け物然としてるといっても、見た目は無害な女の子。

 心情的にも理性的にも、私は彼女の『お願い』を受理した。

 

 それには、任務自体がそれほど抵抗感のあるものではなかったこともあるかもしれない。

 

 だから・・・

 

 

「・・・わかりました」

 

 私はそう答えた。

 

 

 

 ―――答えて、しまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・ふむ。

 

 つまりあれか。アリサ中尉はクリムゾン社のスパイっちゅーわけですか。

 

 ・・・・・・・・・・・・。

 

「―――って、オオゴトじゃねえかよっ!」

 

 うわーマジですか。

 あのアリサ中尉が。白銀の戦乙女が。

 西欧方面軍最高司令官の孫娘が。

 

 企業の狗。

 

「シャレになんねえ・・・」

 

 どうしよう、どうしよう、どうしよう。

 

 やっぱここはシュン隊長に報告すべきなんだろうなあ。

 いやでも隊長と言えど所詮は組織の人間なんだし、

 さすがにグラシス中将の孫娘にスパイ容疑掛けるにはもっと確かな証拠とかいるだろうし。

 

 ・・・テンカワは、どうだろう。

 

 アイツなら、そういう組織の云々とかなしにして動いてくれるんじゃないか。

 話を聞くと、やはりというかクリムゾンの目的はアイツみたいだし。

 あー・・・でもテンカワ、アリサ中尉のこと完っ璧に信じちゃってっかんなー。

 逆に俺が疑われたりして、はは。

 

「・・・いや笑ってる場合じゃねー」

 

 証拠だ。証拠写真を撮っとこう。

 いくらなんでも密会の現場をばっちり押さえとけば、テンカワだって俺を信じざるをえない。

 

「カメラ・・・くそ、カメラどこだ」

 

 視線を少しはなれた二人に向けたまま、俺は手探りで鞄をかき回す。

 

 やばい、早くしないと別れちまうぞあいつら。

 一緒にいるとこ撮んなきゃ意味ねーよ。

 あーくそ、早く早く早く・・・

 

 

 ついっ。

 

 

 何の前触れもなく、それこそ突然に唐突に。

 

「ん?」

 

 俺の顔の横に、そっとカメラが差し出された。

 愛用のデジタルカメラだ。間違いない。

 なんだよ、あるじゃんか。

 

 

「お、さんきゅーヤシオちゃん」

 

 俺は迷わずレンズを二人に向け・・・

 

 

 

「・・・いえ、どうかお気になさらず(・・・・・・・・・・)

 

 カメラを、放り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠く、というには割り合い近く。

 なにやら悲鳴が聞こえてきた。

 

「わ、なんでしょう?」

 

「んー、気にしなくてもいいんじゃないですか?

 きっとね、何でもないことが起こっただけですよ。

 季節柄っていうんですか、こういうのって。春だからー、とか。いま春じゃないけど」

 

「・・・・・・はぁ。

 まあ、いいです。関係なさそうですし」

 

「で、結局どーするんです?」

 

「べつに電話くらいならそんな気を使うこともないのですが・・・

 ・・・でもこの携帯使ったら拙いですよね。

 ログ、残りますし」

 

「う、それは拙いかも・・・」

 

「・・・考えがあるわけじゃなかったんですね、やっぱり」

 

「な、なにをそんな・・・もちろん考えてましたよ!

 これはそうテスト! アリサさんを軽ーくテストしたげたんです!

 工作員たるものこういうことには敏感になってもらわなきゃ困りますからね。うは、うはははは・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「なぁんですか、その目はー・・・」

 

 頬を紅く染め、上目使いで私を見るアサミさんはとても可愛かった。

 ・・・彼女が人外の化け物だなんて、信じられないくらいに。

 

「ふぅ・・・怒らないで下さいね」

 

「え、何のことです?」

 

 髪をかき上げて切り出した私に、アサミさんはきょとんとした顔を向ける。

 その姿に警戒心が緩んだと言うわけではないが、私は彼女に真実を告げることにした。

 彼女には知る権利があるのかもしれない。

 勝手な判断だが、なんとなくそう思わずにはいられなかった。

 

「アキトさんの出身は火星のユートピアコロニーで間違いありません。

 本人の口から、直接お聞きしたことがあります。

 あまり声を大きくして言い触れ回らないように言われてましたので黙ってましたが・・・」

 

 ちらり、とアサミさんの様子を確認する。

 きょとんとした顔がさらにきょとんとして、つまり瞳がどんどんまんまるになっていく。

 

「・・・テンカワ アキトはいつまで火星に?」

 

「・・・?

 生まれた時から・・・つい最近まではいたらしいですね。

 ナデシコに乗ったのは、地球に来てから1年かそこらだと」

 

 アサミさんの瞳が、すっと細くなる。

 切り替わりの速さに多少驚きはしたものの、私は冷静にそれに答えた。

 そこらへんは、アキトさん本人から聞いていることだ。

 

「・・・確定か」

 

 ぼそっと呟くアサミさん。

 同時に、背中をぞくりとする悪寒が駆け巡った。

 

「なら、善は急げと言うことで・・・すみませんアリサさん。

 しばらくそこらで時間潰してきてもらえます?

 ちょっと、野暮用ができちゃったもので」

 

「それは、構いませんが・・・」

 

「ほんとごめんなさい!

 じゃ、ほらさっきの喫茶店でコーヒーでも飲んでてくださいよ。

 終わったら迎えに行きますから。

 あ、今の時間はもうバーになっちゃってるですかね?

 まあ別にお酒飲んでてもいいですよ。車はこっちで用意しますし」

 

 昼は喫茶店で夜になったらアルコールもだすカフェ&バースタイルはここらでは珍しくない。

 だが、今日はアルコールを、という気分にはなれなかった。

 お酒に逃避をしているみたいで、気分がよくない。

 

 私の背中を両手で急かすアサミさん。

 その姿に戸惑いを覚えつつ、私はその場を後にする。

 悲鳴は、もう聞こえなかった。

 

 

 数歩分だけ歩を進めて、なんとなく、振り返る。

 

 

「・・・・・・アサミ・・・さん?」

 

 そこには・・・誰もいない。

 そこには、誰もいなかった。

 

 砂塵がただ風の中に舞っているだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 走る。

 走った。

 

 走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って

 走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って

 走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って

 

 とにかく無我夢中で走り続ける。

 とにかく無我夢中で走り続けた。

 

 殺される。そう思った。

 何故かなんて問うまでもなく、どうしてかなんて考える意味もなく。

 本能が確信した。

 俺は殺される。確信があった。

 

 だから、全力で逃げ出す。

 だから、全力で逃げ出した。

 

 ヤシオ=シュンリン。

 こいつは。

 

 

 ガシャン!

 

 

「申し訳ありませんが」

 

 足はもう上がらず。

 肺は超過勤務にストを起し。

 心臓は熱心にドラムロールの真っ最中。

 気力だけはさっさと砕けてしまった俺の目の前に、無残に破壊されたデジカメが放り捨てられる。

 目の前には一人の長身のメイド。

 つい数日前に俺たちの基地にやってきたばかりの、人形のような女。

 その造形の美しさを仲間達と論じていた昨夜のことを思い出す。

 

 

「貴方の逃亡は、許可致しかねます」

 

 絶体絶命だった。

 

 こうなってしまってはいまさらだが、聞いてはいけないことを聞いてしまったのだと後悔した。

 テンカワに疑惑を抱かせるのは構わないが、それを確信させてはいけない。今はまだ。

 そんなことが分かったところで、実にいまさらだ。

 救いもなにもありゃしない。

 

 俺をこのまま無事に帰してしまえばこいつらの計画はすべて崩れ去る。

 分かりきったことだ。

 きっと許してはくれないだろう。

 許すはずが無かった。

 

「―――サイトウ・タダシ伍長と認識します」

 

「お、お前・・・お前はっ!!?」

 

 問いかけ―――

 そこに意味があったわけでもなく、何かを期待したわけでもない。

 ただ、口をついて出た、問いかけ。

 

 だがそんな他愛もない問いかけに、ヤシオは律義に答えた。

 

 

「私は、名乗る名を持ち合わせておりません。然れば呼称はご自由に。

 ですが、冥途への道連れに名が必要と仰られるならば、ヤシオとお覚えくださいませ。

 我が名は八潮。ヤシオ・シュンリン。

 『シュンリン』の名を継ぐ、単体戦闘型強化人間・・・かまわなければ単に『化け物』と」

 

 淡々と述べるその声には、動揺も哀憫も、ついでに容赦もなかった。

 ガシャン、という音とともに小型拳銃の銃口が額をポイントする。

 体中の震えを抑える事が出来ない。歯がガチガチとかみ合った。

 喉の奥が引き攣り、目蓋から涙が溢れそうになる。

 

「くそぉ・・・くそぉっ!!」

 

 死にたくない。

 こんなところで、死にたくない!

 

 なのに・・・体が動かない!

 『行動しようとする意思』をズタズタに切り裂かれる。

 俺の体が、俺の支配を外れたような感覚・・・俺が、俺で無くなる感覚。

 

 金色の光が、割れ、弾け、俺を満たす感覚。

 

「ちくしょう・・・なんだよコレ・・・なんだよ、コレはぁっ!!」

 

 やめてくれ。

 ヤメテクレ。

 俺を、終わらせないでくれ。

 俺を、俺でいさせてくれ。

 

 

 最後、くらい・・・!

 

 

 

 「やめなさい、貪狼」

 

 唐突に、光が消える。

 

 銃口の外れる気配。

 助かったと言う思い。

 だが一瞬後、まだ状況が好転した訳じゃないという現実を認識しなおす。

 四つん這いになった俺の上に影が被さり、俺は視線を上げた。

 

 

「――――――」

 

 言葉もない。

 引き攣った喉が、音の発生を阻害する。

 俺は息を呑んだ。

 

 

 ・・・少女が見下ろしていた。

 

 

 そこには、殺意も敵意も悪意すらも、何もない。

 例えるならばそう・・・まるで道端の野良犬を見ているような目つきだった。

 

 ―――そうだ犬だ。

 

 俺は思った。

 

 俺は犬だ。殺す価値も無い路傍の野良犬だ。

 あわれな捨て犬。捨てられた子犬なんだ。

 

 自分に念を凝らして少女を見上げる。

 できることならば、本当に犬になって尻尾でも振りたい気分だった。

 少女に腹を見せて、翻意も叛意も何もかもを持ち得ないことを証明したかった。

 

 俺にはわかる。

 こいつは・・・『化け物(モンスター)』だ。

 

 逆らうことなど、自殺よりも人殺よりも愚かしい。

 

 

「貪狼」

 

「はい」

 

 少女が呼び、ヤシオが応える。

 

 ヤシオの左手にあった小型拳銃は、既に姿を消していた。

 無表情な長身のメイドだけが、ただ悠然と佇んでいる。

 

 少女の相変わらず冷たい視線が、地に這いつくばる俺を貫く。

 また、恐怖で喉が鳴った。

 ただ見ているだけ。見下してすらいない。

 

「・・・この人は?」

 

「『Moon Night』の整備員の一人です。

 とりわけ、重要な価値は持っていないと判断します」

 

「ふむ・・・。

 まあ、エサにはちょうどいいのかもしれませんね」

 

 言いながら、少女は俺の胸倉に手を掛ける。

 すると、大して力を入れた風でもないにも拘らず、片手で俺を立ち上がらせた。

 そのまま俺の足は地面から離れ、恐怖と困惑でパニクったところで今度は壁に叩きつけられる。

 背中をしたたかにぶつけて息が詰まった。

 

「テンカワ・アキトを誘き寄せます。

 この男と・・・あなたの能力で」

 

 その瞳に映る狂気。

 

 

 急激に引き倒されて、転がりかけた俺を支える2本の細い腕。

 

 顔を上げ、『金色』を見る。

 

 

「・・・『ダスティ・ミラー』」

 

 

 暗闇の中で、俺を見つめる金色の瞳。

 それが俺の記憶に残った最後の世界だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――眩暈が、した。

 

 

 

 

  ガシャァンッ!!

 

 

「し、枝織ちゃん!?」

 

 積み上げてあったお皿が盛大に倒れる。

 食器類は鉄製で、幸いなことにこれといった被害はなかった。

 音を聞きつけて駆け寄ってくる気配は、きっとレイナちゃんだろう。

 

 ・・・そう、私は厨房の床に倒れ伏していた。

 

 

「な、なにコレ・・・すごい熱じゃない!」

 

「あ、あはは・・・体、動かないや・・・」

 

 頭が痛い。寒気がする。

 視界がグラグラ揺れて、意識が朦朧とした。

 ・・・こんなこと、今までにない。

 体が全く言うことを聞いてくれないなんて、初めての経験だった。

 

「おーい、どうした?

 なんかすげー音がしたけど・・・って!!

 うわあああっ!! どーした枝織ちゃん!!」

 

「ナ、ナオさん・・・おっきぃ声・・・やめて。頭、響く・・・から」

 

 ひょいと顔を出したナオさんは、私を見たとたんにあらん限りの声で叫ぶ。

 ぐゎんぐゎんぐゎん。

 耳元でフライパンを叩いたかのような音量に、頭蓋骨が軋んだ気がした。

 

 とにかく、身体中が熱かった。

 冷たい床に全身を預けていると言うのに、感覚がない。

 指先を動かそうとしてみても力が入らない。

 呼吸が浅く速くなって行き、意識を集中させることが出来なくなっている。

 生まれてから今まで自然にやってきたことが、全部、不可能になってしまってる。

 

 ・・・うーん、なんでだろ?

 頭がぼーっとするよぉ・・・

 

 

「た、たいへんだっ!

 アキト!! アキトーーー!!」

 

「静かにしてよ!! なに考えてんのっ!?

 枝織ちゃんが苦しんでんじゃない!!

 ナオさんちょっとデリカシーなさすぎ!!」

 

「・・・・・・・・・・・・二人とも、死んじゃえ、ばか」

 

 

  パタン!

 

 

 叫ぶナオさんに同じくらいの声で叫び返すレイナちゃん。

 2人に対して生涯二度目の殺意を感じながら、私は敢え無く意識を手放した。

 

 

 

 ・・・・・・でも、なんだろ、これ。

 苦しいけど・・・寒気もするし、頭も痛いし、目も回るけど、だけど。

 

 だけど、なんだろうこれ?

 

 

 

 なんか・・・・・・・・・・・・・・・懐かしい匂いがする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「歓迎し、歓待しましょう。

 クリムゾンへようこそ、アリサさん」

 

 私を出迎えた男性は、いやらしい笑顔でそうのたまった。

 埃一つないスーツは相変わらずで、撫で付けられた銀髪も変わらない。

 趣味の悪い黄色のサングラスも、何一つ変わりようがないこの男には、いつも嫌悪しか持てない。

 

「・・・よろしくお願いします、ミスター」

 

「ふむ、よろしくと言う割には随分敵意のある表情ですが・・・まあ、いいでしょう。

 これからはお仲間ですからね。意外なことに」

 

 くっくっ、と笑う。

 私は笑わない。

 

「ところで、その手に持っているのは何です?」

 

「目敏いんですね、さすがに。

 ・・・一応、手土産にと思いまして」

 

「ほう、それはそれはご丁寧に。ご丁寧にどうも。

 いやいや、なかなかいいご判断ですよ。

 存外にこういう仕事が性に合ってるのではありませんか、アリサさん。

 ・・・で、中味は?」

 

 一枚のメモリーを見せびらかすように弄ぶ。

 エマージィ=マクガーレンの、黄色い色眼鏡の奥の目が糸のように細くなった。

 

 

「『漆黒の戦鬼』テンカワ アキトの最新戦闘データです。

 それから・・・」

 

 ふっと、私は視線を落とした。

 エマージィ=マクガーレンの眼を真っ直ぐに見ていることができなかった。

 

 これは重大な裏切り行為。

 許されない背徳。侵してはならなかった境界線。

 

 しかし必要なことだった。

 クリムゾンという巨大企業を相手にアドバンテージを得るためには。

 この、エマージィ=マクガーレンという油断のならない男と、互角に相対するためには。

 

 私には、こうすることが必要で必然で、むしろ義務であり使命だった。

 

 

「テンカワ アキト専用のエステバリスカスタム。

 そのサポート・プログラムをコピーして来ました。

 製作者の名はラピス・ラズリ。経歴その他、名前以外の全てが不明ですが。

 ・・・このデータ、おそらくネルガルの最重要機密に位置するはずです」

 

「ほう・・・ふむ、確かに。いや、確かに仰るとおり」

 

 本気で驚いているのだろう。

 一度は細くなった瞳が大きく見開かれている。

 なかなかにレアな表情だと思った。

 少なくとも、この男の生の感情というものを私はあまり見たことがない。

 

「素晴らしい。まさに僥倖、大手柄と言っていいでしょう。

 いやあちょっとした保険のつもりでアリサさんに声を掛けたんですが、意外な功績でしたね。

 なんと言うか・・・放した稚魚が立派な鮭になって帰ってきたのを見た気分ですよ。

 おっと気を悪くしないでくださいね。あくまで例えです、例え」

 

 表情に、おそらく作り物ではない満面の笑みを張り付かせる。

 差し出される手。

 白手袋のはめられたその手を私はしばし見つめ、そして挑むようにエマージィを睨む。

 彼は怪訝そうに眉を顰めた。

 

「・・・お願いがあります」

 

 ・・・ただでくれてやる訳にはいかない。

 

「おっと・・・なるほど。そういうことでしたか。

 いやあすみません気が付かなくて。

 ・・・お母様のことですね?」

 

 こくん、と頷く。

 私が彼らに求めるものなんて、他にはないのだから。

 

「ええ、ええ、いいですとも。もちろん了承しましょう。

 ご希望ならばすぐにでも解放します。

 もともと貴方に対する人質だったわけですしね。

 本人がこのように協力的になってくれた以上、身柄を拘束する必要もありませんから」

 

 部下らしき人に目配せをし、人質を解放するよう命令する。

 それを見届けて、ようやく私はメモリーを彼に手渡した。

 

 いやあ、それにしてもいい仕事だ。

 言いながら渡されたディスクを胸のポケットに大事そうにしまうエマージィ。

 

 

  きしり―――

 

 

 胸の軋む音がする。

 

 

 

「ああ、お会いになりますか?

 よろしければここへ案内させますが」

 

 

 お母様に会う・・・

 ただそれだけのために、私は今まで苦痛を友とし、裏切りを繰り返した。

 軍を裏切り、仲間を騙し、ようやくこの場に立つことができた。

 

 お母様が、いる。

 おそらくすぐ近くに。

 おそらく、もうすぐそこに。

 やっと、お母様に・・・会える。

 

 だが。

 

 

 会わせる顔など、どこにあるというのだ?

 どの顔をさげて、お母様に会えるというのか。

 

 

「・・・いいえ、結構です」

 

 

  きしり―――

 

 

 胸の軋む音が、また。

 

 

「ふむ、複雑な心境ですね。

 いやきっと私のせいなんでしょうけど・・・って、恨まないでくださいよ?

 こっちも仕方がなかったんですから。

 いやはや、まともな手段では・・・あの戦鬼には対抗できませんからねぇ」

 

 しみじみ、と言った感じで何度か首肯する。

 

 仕方がない・・・その言葉に、怒りを感じる資格を私は持たない。

 誰よりもまず私こそが、その言葉に支配されているのだから。

 

 仕方がなかった。

 何度繰り返してきたんだろう、ここに来るまでに。

 何度繰り返していくんだろう、ここから先へ進むために。

 

 仕方がなかったから。

 

 ・・・涙が出そうだった。

 

 

「さてさて、それでは。

 入社したばかりのとこ申し訳ないんですか、こちらも人手不足でして。

 早速ですけれど仕事のお話をさせて頂きます。

 まあ、何事も早いうちに経験しておくに限りますしね」

 

 大きく、息を吸う。目の前の男にけして悟られぬように。

 それは最後の覚悟。

 後戻りはできない。

 する気など、ない。

 

「・・・構いません。

 貴方たちと契約を済ませた時から、覚悟は決まってます」

 

「それは重畳。

 ではこちらをご覧ください」

 

 

  パチン!

 

 

 指を鳴らす、鋭い音。

 どういう演出のつもりか、同時に彼の背後ににウィンドウが浮かび上がった。

 映し出される、一枚の写真画像。

 

 私は首を傾げる。

 どこか、見覚えが・・・

 

「・・・・・・・・・え?」

 

 思わず、目を見開く。

 

 その人物は、こんな血生臭い場所には全く不似合いで、全く不釣合いで、まさに予想外だったから。

 

 

「彼女、浚ってきて下さいな。

 ミシェルさんの代わりってことで」

 

 よく手入れされた流れるような、栗色の髪。

 ぷくっとした、柔らかそうな頬は赤みが差して。

 年相応のあどけなさを満遍なく振りまく、その笑顔は―――

 

 

「・・・貴女は、顔見知りでしたよね?

 できるだけ穏便に、適当な理由をつけてこちらの指定する場所まで連れてきてくれませんかね。

 そうすれば後は、『真紅の牙』のカタオカさんが引き継ぎますので」

 

「・・・・・・・・・そんな」

 

「おや、覚悟はもうお済みだったのでは?

 ・・・まあ無理なようでしたら他の者にやらせますよ。

 アリサさんのお気持ちも分からないではありませんしね。

 ただ・・・となると少々手荒な方法になりますなぁ。

 あまり、無駄に犠牲者を出すのは好まないのですが。スマートさに欠ける」

 

「ま、待ってください!」

 

 

 罪が、体を蝕んでいく。

 もう止まらない。もう止まれない。

 

 どこで、狂ってしまったのだろう。

 どこで、歯車が外れてしまったのか。

 

 輝く笑顔を思い出す。

 アキトさんに抱き上げられて、幸せそのものだったその顔が脳裏に蘇る。

 

 あの娘も・・・同じだ、私と。

 何も知らない、知ることなんてできない世界で着々と進む運命の流れにただ翻弄されるだけ。

 何の責任も、間違いもなかった。

 ただ、精一杯に生きていた。生きようとしていた。

 

 それなのに。

 

 奪われていく、何もかもが。

 抗うことすらできず、留めることすらできず。

 逆らうことも、歯向かうことも、何も出来ずに。

 

 私たちは、為すがままに流されていく。

 

 

 

  ぎしり―――

 

 

 

 胸が・・・軋んだ。

 

 

 

 戦慄く手で、胸元を鷲づかみにする。

 顔を伏せる。前髪が表情を隠す。

 

 喉が、震えている。

 頬の筋肉が強張っている。

 

 全身全霊をもって否定しようとする意思を、私は理性を持って押さえつける。

 

 搾り出され、紡がれる言葉。

 意志が意思を凌駕し、抑えつける。

 

 

「・・・私が・・・やります」

 

「そうですか、それは良かった。

 まあ、何事も経験ですからね。

 あまり気負わず、気楽な感じで拉致って来てください・・・って、こんな言い方したら余計気負っちゃいますかね?

 くくっ、申し訳ありません。どうにも性分で」

 

 顔を伏せた私の眼前で、エマージィ=マクガーレンは静かに哂う。

 

 

 

 

 

 ―――メティス・テア。

 

 映し出された画像の片隅に、そう、記されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「風邪です」

 

 きっぱり・・・いや、“ど”きっぱりとヤシオは言った。

 

 

 

 

「・・・風邪?」

 

「はい」

 

「・・・間違いは?」

 

「ありません」

 

 枝織ちゃんが倒れてから、2時間後。

 とりあえず運んでおいた枝織ちゃんの自室に、ようやく医学の心得のあるヤツが来たと思ったら、そいつはとんだ無愛想だった。

 ・・・と言うのはこの際どうでもいい。

 

 問題は衛生兵の一人もいない『Moon Night』の方だろう。

 確かに今までコレといった怪我人は出ていないが、仮にも一つの軍隊に衛生兵が一人もいないとはどういうことか。

 シュン隊長らしくないミスだ。

 

「ふぅ〜・・・やれやれ。

 久々に肝が冷えたぞ、俺は。

 アキトがいない時に枝織君にもしものことがあったらと思うと・・・ぞっとせんな」

 

「同感です隊長。

 それにしても・・・ヤシオ君がいてくれて助かった。

 薬はあるし、そこそこ知識もあるから普段ある程度のことは自分でやってしまうからなぁ。

 それに補充人員も、なかなか・・・」

 

 駆けつけたシュン隊長とカズシ副長も安堵の溜め息。

 そしてやはり、衛生兵の不在に頭を抱える。

 

 『Moon Night』は確かに今の西欧の英雄的部隊で、戦闘部署の奴らにとっては是が非でも入りたい憧れ的な部隊だ。

 だが・・・後方支援組にとっては、そうもいかない。

 敵勢力の殲滅率が高いとは言え、部隊が身を置くのは間違えようもなく最前線。

 直接戦うことのない者たちだからこそ、腰が引けてしまうようで。

 再三の人員要請も、今までマトモな損傷を被ったことがないことを口実にのらりくらりとかわされて来たらしい。

 

 アキトには言えん内容だ。

 

 

「・・・ふん、まあ今回ばかりは認めてやる。

 よくやった馬鹿メイド。一時はどうなることかと思ったぞ。

 とにかくもうぴくりとも動かんし、熱はどんどん高くなるし・・・」

 

「・・・検温は」

 

「ん?」

 

「検温は、されましたか?」

 

 じっと俺を見る。

 今まで、枝織ちゃんに向けられていた視線を、真っ直ぐ俺に向ける。

 金色の視線に射抜かれて、少々ムズ痒かった。

 

「ああ、いや、ちょっと体温計がどこにあったかわかんなくてな。

 だから触れた感触で判断したんだが・・・なんか、40度近くあったような。

 結局、どれくらい熱出てたんだ?」

 

「・・・・・・だいたいそれくらいです」

 

 興味を失ったように視線を外す。

 相変わらずの無表情だったが、俺にはヤシオが少し慌てているように感じた。

 

 ・・・この鉄面皮メイドが慌てる?

 想像も出来んな。

 

 

「・・・それにしてもお前、色々と器用によくやるよな。

 こんなの、どこで身につけたんだ?」

 

「教えません」

 

 こいつ、身も蓋もねぇ。

 

「・・・・・・・・・ヒ・ミ・ツ?」

 

「無理するな。

 可愛くもなんともねぇし、そもそも疑問形にする意味がねぇだろ」

 

「・・・無念です」

 

 駄目だ。こいつという人間がまったくわかんねぇ。

 せめてもう少し感情を表現してくれればなぁ・・・

 いやまあどうでもいいんだが。

 

「・・・それじゃあ、俺たちは職務に戻るとしよう。

 後のことはよろしく頼む。

 ヤガミ君、あまりヤシオ君に突っかかるなよ?」

 

「そりゃないですよ隊長。

 なんか俺が一方的に因縁つけてるみたいじゃないですか」

 

「違わんだろーが。

 ったく、行きましょう隊長」

 

「ああ。じゃあ、な。

 枝織君が起きたら、ゆっくり休むように伝えといてくれ」

 

 へーい、と適当に答える。

 レイナちゃんはもう自分の仕事に戻っていた。

 シュン隊長にカズシ副長も同じく。

 と言うか、サラちゃんがグラシス中将の屋敷に留まっている今、護衛と付き人の俺ら2人が暇になるわけで。

 

「さて・・・ん?」

 

 唐突に、ヤシオが枝織ちゃんの服を脱がし始めた。

 

「おおっ!」

 

 ぴたと手が止まる。

 じろりと俺を見る相貌には非難の色。

 最近、何だかんだでこいつの思っていることが少しは分かるようになってきた。

 

「・・・・・・・・・衣服を交換いたしますので」

 

「・・・・・・・・・おうよ」

 

 咄嗟のこととは言え、反応してしまった自分が情けない。

 男ってのは悲しい生き物だ。

 

 とりあえず素直に部屋を出ようとするが・・・

 

「・・・テンカワ様には報告しておきます」

 

「待ったああぶべらっ!!」

 

「早く出てけ」

 

「ぐおおおおっ!!

 め、目にっ!! 割れたサングラスが目にぃっ!!!」

 

 腰に縋り付く俺を足蹴にするヤシオ。

 ヤクザキックだ。サングラスは簡単に割れ砕け、破片が顔に突き刺さる。ぎゃあ。

 

 

 暴れ悶える俺には見向きもせず、ヤシオは再び枝織ちゃんを見る。

 その額には僅かに汗。

 ナオの言うとおり、ヤシオは珍しく焦っていたのだ。

 

 

「・・・体温、52度」

 

 

 ヤシオの呟きが、空しく響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――同刻

 

 

 

 

「・・・これがか?」

 

 薄闇の中、立ち尽くす影。

 呆然と呟く。その姿は紅の少女。

 

 

 パチパチパチ・・・

 

 

 響く拍手。

 黒一色だった闇の中に、ぬっと白衣の男が現れる。

 

「いやあお見事お見事!

 さすがだね! まさかあの北斗クンが手も足も出ないなんて!」

 

「ヤマサキ・・・」

 

 紅の少女・・・沙耶は男に向き直る。

 その両手は、ぬめりとした液体で赤く染まっていた。

 血。血液。

 それは、たったいま倒した相手のもの。

 

「でも早かったね。

 僕の予想ではもう少し苦戦すると思ってたんだけど」

 

「これが・・・真紅の羅刹・・・?」

 

「“元”真紅の羅刹だよ。

 今日からは、君がその名で呼ばれることになるんじゃないかな?」

 

 赤い両手を呆然と見詰める。

 信じられない、といった表情。

 そして、有り溢れる不満の色。

 

「姉上・・・こんなにも、脆く儚い存在だったというのか」

 

「あるいは、あまりに君が鋭く強靭な存在で在りすぎたか、だ。

 ボクも鼻が高い・・・どうやら北辰さんに怒られないで済みそーだよあっはっは!」

 

「こんな・・・」

 

 本気で嬉しそうに高笑うヤマサキを一顧だにせず、沙耶は俯く。

 ―――いや、視線を下に向ける。

 倒れ伏す影に。

 もう一人の、紅の少女に。

 

「姉上・・・」

 

 血の繋がりなどなく、会話をしたことすらないが。

 北辰の娘ということは、すなわち沙耶にとっての姉だ。

 そこに特別な感情を抱いたりはしない。

 しかしそれでも、自分と同等かそれ以上と言われてきた姉がこの程度では、あまりに呆気なさすぎる。

 あまりに、詰まらない。

 

「戦気昂揚薬、あんまし効かなかったかな?

 うーんやっぱり薬物は全部分解されちゃうみたいだねー。

 なんでか不思議だけど・・・まあもういいや。

 そろそろ次の段階に移るか」

 

 倒れた北斗の長く美しい紅髪をむんずと掴み、ずるずると引き摺っていくヤマサキ。

 喜色満面の笑顔。

 沙耶は思わず寒気を感じた。

 

「な、何をするつもりじゃお主・・・?」

 

「ん? なにって決まってるでしょう?

 解剖だよ解剖。北斗クンの肉体の神秘、今こそさあ解き明かさんってね。

 ・・・っとその前に遺伝情報を残さなきゃだけど」

 

「遺伝情報?」

 

「ボクはクローン技術とかは使わない主義でね。あんな不確かな技術には頼らない。

 北斗クンにはちゃんと子供を生んでもらうよ。

 受精させたら体外に出して培養槽の中で育てるのさ。

 そしたら一度に何人もの子供を作ることが出来るし。

 後世のために貴重な研究材料を残す。科学者の鏡だねボクは」

 

「・・・時間が掛かりそうじゃが」

 

「必要数を確保したらすぐ解剖に回すよ。

 科学者にとってはね、必要な時間ならいくら掛かっても苦じゃないからさ」

 

 両手を大仰に振り回して語るヤマサキ。

 掴んでいた北斗が地面に突っ伏す。

 沙耶は眉を顰めるが、ヤマサキ本人は全く気にしていないようだった。

 

 彼の中ではもはや・・・いや、昔から北斗は研究材料、モノと等価だった。

 

「今まで・・・姉上を生かしておいたのは、沙耶の性能を確認するためであったな?」

 

「え? うん、まあそうだね。

 木星最強の北斗クンを凌駕しなきゃ意味がなかったわけだし。

 そして、君は見事に北斗クンを超えた」

 

「・・・姉上は衰弱していた」

 

「あの北斗クンだよ?

 半死人の状態でも、北辰さんを片手であしらえるんだ。

 肉体の衰弱はあまり戦闘力に関係ないんじゃないかな、不思議だけど」

 

「この状態の姉上に勝っても、儂は嬉しくない!」

 

「あー・・・殺すなってこと?」

 

 頷く。力一杯に頷く。

 

 完璧でなければならなかった。

 完璧に、北斗を凌駕しなければならなかった。

 それはただ単に強さで上回ればいいというだけの話ではない。

 

 あの『力』を・・・手に入れなければ。

 木蓮式柔最終奥義『武羅威』 その証しである昂気。

 

 たとえ北斗を打ち破ったとしても、昂気を纏えぬ沙耶に、きっと北辰は落胆する。

 それは・・・我慢できない。

 沙耶は、いつだって北辰にとっての一番でありたいのだ。

 『北斗のほうが優れていた』などと北辰の口から言わせるわけには行かない。

 

「父上に、叱られるのは嫌じゃ」

 

 北辰に褒めてもらいたい。

 北辰に頭を撫でて欲しい。

 北辰の腕に抱きしめられたい。

 

 沙耶は知らない。

 かつて、それだけのために殺戮を繰り返した少女の存在を。

 彼女は知りえない。

 

「・・・・・・はぁ。言っても無駄みたいだね。

 あーあ、結局ボクの研究はまた伸びちゃう訳か。

 君や北辰さんの我がままに付き合うのも、もう慣れちゃったよほんと」

 

「済まぬ。許せヤマサキ」

 

「ははは、水臭いなぁ。

 ボクと沙耶ちゃんの仲じゃないか」

 

「・・・・・・儂とお主がただならぬ関係にあるかのような発言は止めよ。

 鳥肌が立って悪寒が背中を駆け上がって冷や汗が滝のように流れてくる」

 

「そ、そこまで嫌がらなくてもいいんじゃないかな・・・?」

 

 

 他愛のない会話をしながら、その場を後にする2人。

 沙耶は自室へ。ヤマサキは北斗を治療するために人員を呼びにいく。

 

 残されるのは、いまだ倒れ伏す北斗のみだった。

 ぴくりとも動かない。動けない。

 

 蓄積されたダメージは、肉体の衰弱とも重なって。

 もはや昂気を練ることすらできそうにない。

 あんな子供に。自分よりも・・・アキトよりも遥かに劣る実力しか持たぬ紛い物に。

 良いようにやられても、出来たのは彼女にとっては儚いとしか表現できない抵抗だけ。

 生存本能だけが、沙耶に対して抗っていた。

 

 そこに、武神たる北斗は欠片も見えず。

 

 

 意識と無意識の狭間。

 眠りと覚醒の境界線上。

 卑しくも、惨めにも、ただ生き続けるだけの北斗は思う。

 ただ、認識する。

 

 そこには何の意味もなく。

 そこには何の理由もなく。

 

 認識は唐突で、理不尽であるがゆえに自然で。

 ただただ、現象を認め、存在を知り。

 

 

 懐かしい、匂いがした。

 

 

 あいつの匂い。

 匂いというよりも気配。

 その存在。その意識。その概念。

 

 何時の日も、共にあったもう一人の・・・自分。

 

 左手に浮かび上がっていた文様が煌々と輝き、熱を放つ。

 身体が熱くなる。

 意識が朦朧とする。

 波打つ心臓が、閉じているはずの視界をぐらつかせる。

 

 

 懐かしい、匂いがする。

 

 

 頬を伝い落ちる、一筋の涙。

 ゆっくりと開れる、ひび割れた唇。

 

 微かに、密かに。

 

 それは。

 その言葉は。

 

 北斗がはじめて訴える、心からの―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・帰りたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき

 

 すみません(・・・いつも謝罪からあとがきに入るようになったら終わりです)

 いやあ、実は6月には書きあがってたんですけどね。

 ちょっと沖縄と長野にそれぞれ1ヶ月くらい所用で出かけてまして。

 一週間くらい実家に帰ったんですけど、パソを寮に置きっ放しにしちゃってまして。

 戻ってきたと思ったら、学科試験と自衛隊中央観閲式のための訓練などで忙しくて。

 時間の過ぎるのが早い早い(いやほんとごめんなさい)

 

 しかし、アリサをクリムゾンにお引越しさせるためだけにこんな行数使っちゃってまあ。

 相変わらず纏める能力のなさを実感します。だらだらと無駄に長い。

 次回からはようやく本編の流れに戻るんでしょうか。

 オリキャラ主体になってくると書いてるほうは書きやすくても読み手にとっては分かり辛くなりますからね。

 はよ戻さないけませんね。

 

 で、近況報告。

 ・・・知ってる人限定で言っちゃいますけど。

 『戯言シリーズ』面白いですね。緑麗は『ヒトクイマジカル』から読み始めた邪道野郎ですが。

 (倉庫を整理した時に持主不明物品の中にあったんで頂戴したんです)

 あと最近のベストヒットが『スクールランブル』

 あれはいいです。かなり来てます。

 SS書こうかなと思うんですが、書くとしたら短編かな。

 緑麗に短編作品なんて高度なもんは書けんです。

 どなたかActionに新たな風を起してみません?(←他力本願)

 できれば播磨×沢近(旗派って言うらしいです)か八雲(おにぎり派って以下略)で。

 

 

 ではでは。

 

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

うーむ。これはこれで楽しいんですが、短くまとめたいならやはりお母さんのパートは余分でしたかねー。

真紅の牙の隊員との因縁を作りたいのであれば、アリサがらみにシフトする手もありましたし。

とは言えお母さんパートがないと暗くなりすぎって話もあるので、これはこれで問題ないかと。

 

しかし北斗・・・無残。

リベンジGO! GOGO!

その為にも今は耐えてくれ!

 

>黒サングラス、黒スーツ。小学生がつけているような大きな黄色い名札。

思わず茶を吹き出しました・・・・不覚っ!(爆)