交錯する時の流れ

 

 

第四話その二

 

 

 

 

 ―――数刻前 火星極冠遺跡最深部 火星の後継者旗艦『かんなづき』

 

「強化兵たちの具合はどうか、ヤマサキ博士?」

 

「う〜ん、あんましもちそうにないな〜。

 後一回が限度ってところだね。

 ま、僕にとっては貴重なデータ取りになったから構わないけどさ」

 

「後一回・・・十分だ。

 次こそは間違いなく奴らがここに攻めてくる」

 

 南雲とヤマサキである。

 彼らの前には数十体の人間の形をした機械の塊が転がっていた。

 

「ジンタイプ改のほうは・・・?」

 

「あっちは他の人たちに任せてるよ。

 どうせ使い捨てだからね。

 ほとんどの部品は南雲さんたちの夜天光・改につかっちゃったからさ・・・。

 ああそうだ。自爆装置でもつけてみようか?」

 

 ヤマサキの問いには無言で答える。

 南雲としては部下の命を物のように使うこの男に腹が立たないわけではない。

 

 しかし草壁の理想を体現するためにはどうしても力が必要なのだ。

 

「北辰殿はどうしている?」

 

「北辰さんならアレのところ。

 ホント、夜天光・改に乗らなきゃ見えないなんて不便だよね〜」

 

 先の大戦で両目を失った北辰は、あの後ヤマサキによって手術を受け脳内にナノマシンを注入された。

 それは奇しくも前回のアキトと同じ境遇だったが北辰は見事それに耐え切り、夜天光・改に搭乗している間だけ

 機体のメインモニターと脳の視覚神経を直結させると言う方法で視力を取り戻したのだ。

 

「でも南雲さん、本当にいいのかい?

 こういっちゃあなんだけど、あの人もう狂ってるよ?」

 

「構わんさ。

 北辰殿の言う通り、あの2人・・・いやテンカワアキトだけでも倒さねば草壁閣下の理想はならぬ。

 たとえどんなに卑怯と罵られようともな。

 そう、すべては大義のため!!」

 

 暑苦しい。

 

「そーだねー。できれば実験体として欲しかったけどあれはほんとにバケモノだったからね。

 もし僕の仮説がはずれてたらいくらみんなを強化しても勝ち目はなかったと思うよ」

 

「ああ。しかしアレとのコンタクトを取ることに我々がはじめて成功したと言うことこそが天命なのだ。

 草壁閣下による理想の成就を、というな」

 

「ま、どうでもいいさ。

 南雲さん、北辰さんのとこにいくならついでに検査の時間だよって伝えといてくれます?

 こっち手が放せそうにないんで」

 

「了承した」

 

 南雲・ヤマサキ・北辰。そしてその下に集った多くの元木連軍人達。

 その内、戦力となるものは須らく強化処理を施し、ジンタイプ改を与えてある。

 南雲自身すら率先して強化処理を受けた。

 彼らには初めから生き残るつもりなどない。

 ただ草壁による支配を望み、その為に命すら投げ出す覚悟を持った精兵達なのだ。

 

 この地の護りに就いていた軍の艦隊は南雲率いる夜天光部隊が蹴散らした。

 さらにヒサゴプランの各コロニーでは占拠した木星プラントで生産した無人兵器達の襲撃を掛けている。

 目的は軍の保有する戦力の分散。

 そしてここ火星へのルートの閉鎖。

 

 そうすればかの憎き新地球連合はナデシコを・・・テンカワアキトを出さざるを得なくなる。

 

 たとえどんな綿密な計画を立て、どれほどの戦力を揃えようとも、

 あの男の前ではすべてが灰燼に帰す。

 それは痛いほどよくわかっていた。

 そして逆にあの男さえいなくなれば、付け入る隙などいくらでもある。ということも。

 

 同志であるヤマサキ博士の仮説も、その思いに大きく拍車をかけた。

 ボソンジャンプもオーバーテクノロジーも関係ない。

 あの男さえいなくなればいいのだ。

 そう、そして、倒すことが不可能ならこの宇宙から追い出してしまえばいい。

 ヤマサキ博士の仮説の通りなら、最強と呼ばれたあの男にすら我々は勝利することが出来るだろう。

 そして、ここへ来てその仮説は実証された。

 後はテンカワアキトの登場を待つばかり。

 

 テンカワアキトの宇宙外追放。

 それが彼ら『火星の後継者』の真の目的である。

 

 南雲が整備室を退室しようとしたとき、通信端末にナデシコ発見の知らせが入る。

 

 

「おお! ついに来たか!

 よし、起動可能なジンタイプ改はそのまま大気圏外にてナデシコを迎撃せよ!

 そのまま殲滅できるならよし。

 もしテンカワアキトがこちらに跳躍してきても挟み撃ちに出来る!」

 

 準備は全て整った。

 ここでテンカワアキトを追放し、ナデシコを沈めることが出来れば、

 例え相討ちになったとしてもこちらの勝利だ。

 なぜならばまだ草壁春樹は生きているのだから。

 

 

 

 

 

 

「くふ、くふふふふふ。

 羅刹・・・そして戦神よ・・・。

 待っていろ。外道の執念をみせてくれようぞ。

 くふふふふふふふ・・・」

 

 かんなづきの一室。無気味に笑いつづける男――北辰である。

 夜天光・改のカメラを通して彼が見ているものは一つの透明な箱だった。

 

 それは金色の光を放ちつづける立方体。

 そう、つい数時間前にかんなづきに搬入されたボソンジャンプの演算ユニット――遺跡。

 臨時の翻訳用に繋がれたA級ジャンパー達。

 遺跡はこの火星の地下、かんなづきの一室で、

 時折何かを求めるように強く明滅するのだった。

 

 

 

 


 

 

 

 

『南雲義政っ!!』

 

 通信から聞こえてくるのはジュンの声だ。

 確かそいつはこいつら――火星の後継者の親玉の名前だったはず。

 もう出てきちまうとはな。

 いきなりマイクロブラックホールの洗礼を受けて、さすがにびびったか?

 

 

 ギュウゥゥゥゥンンン!!!

 

             ズドォォォォオオオオンンン!!!!

 

 

 また一機、カザマのフェザースマッシャーによって沈んでいくゲキガンモドキ。

 オレ的に言わせてもらえばデビルガンガー。

 ・・・DFRはオーバーヒートしたらしい。

 

 つまりブリッジでは今ごろ親玉とご対面してるところだろうが、

 こっちはこっちで気を抜くわけには行かないってことだ。

 幸い、さっきの陽動でもともと数の少ない有人機を戦線から退けることに成功したらしく、

 今ここにいるのはさっき出てきたデビルガンガーと相変わらず変わり映えのない無人兵器共。

 そして新たに現れた6機の夜天光。

 

 数量としてはけして無茶な数じゃない。

 だが戦況は一気にオレ達に不利になっちまったようだ。

 

 カザマの必殺技によってほとんどの無人兵器群が消滅し、

 気軽な気持ちで残った敵を各自で撃破することに務めていたオレたちエステバリス隊。

 最悪なことにその油断がナデシコ本体の防衛を疎かにする結果に繋がってしまっていた。

 

 

 ピッ!!

 

 

『ガイ! ここは私とヒカルに任せてお前達はナデシコの防衛へ!!

 奴らはまずい!!』

 

 とりあえず目の前にいるのは5体のデビガンとその他大勢。

 あの二人ならどうとでもなる数だ。

 

 それにいざとなったらフルバーストもあることだしな。

 

 ナデシコBでは最低2機以上で行動するのが原則となっている。

 それぞれの弱点・死角を補うためだ。

 ちなみにヒカル&万葉、アサミ&イズミ、オレ&カザマ。

 

 万能型のカザマと近接型のオレの組み合わせはイマイチかもしれないが、

 ヒカルと万葉のどっちを選んでもあまり考えたくないことになりそうなのでジュンの奴に泣いて頼んだ。

 

 

「わかった! 気を付けろよ!!」

 

『ヤマダ君の方が危ないかもね・・・』

 

「心配は無用だ、ヒカル! 今日のオレはゲキガンガーだからな!」

 

 自信満々に言い放つオレを苦笑しながら見送ってくれる二人。

 しかし実際のところオレにそれほどの余裕があるわけじゃなかった。

 

 あの夜天光とか言うロボット・・・・只者じゃない!

 そしてたぶんパイロットも・・・。

 

 我知らず冷たい汗が頬を伝い、溜まった唾を飲み込む。

 

 一対一の勝負なら負けはしないだろう。

 それくらいは自惚れられる。

 だが敵は6機。加えて単体戦闘力は劣るといっても油断できないデビガンが十ちょっと。

 今さらバッタとかに遅れをとるつもりはないからそこはいいとしても、

 現在ナデシコの直衛に向かっているのはオレを含めて4機しかいない。

 しかもその中で近接型はオレだけだ。

 

 カザマの奴も大幅に改良したとは言え、

 やはり元が重武装タイプの『白百合』ではギリギリのところで差が出てしまう。

 アサミやイズミに置いてはまず近接武装の貧弱さが痛い。

 完全な近接戦闘型の夜天光相手に互角以上の戦いをしろと望むのはさすがに酷だろう。

 

 オレのガンガーだったら、フルバーストを使えれば確実に1機・・・・いや2機はいけるか?

 

 もっとも、終わった瞬間に撃墜されちまうだろうから慎重にやらなきゃならないが。

 

 

 

『貴殿は確か元ナデシコ副長、アオイ・ジュン中佐だったな。

 お初にお目にかかる。

 私が“火星の後継者”指揮官、南雲義政だ』

 

 腹の底にまでずっしりと来る低い声。

 ウィンドウに現れた男をちらりと見て、オレは息を飲んだ。

 その鋭い眼光がオレを見ている訳でもないってのに。

 

『中佐・・・素晴らしい戦艦と、素晴らしい乗員を持っているようだ。

 貴殿らの活躍は敵ながら我々も常々感心させられていた』

 

『そんなこと、今さらあなたに言われるまでもない。

 ・・・・南雲義政。

 既にこの戦いの勝敗は見えた。

 これ以上はあなた達にとっても無益でしかないはずだ。

 できれば大人しく投降して欲しい』

 

 うちの艦長も負けてはいない。

 南雲の気迫に飲まれかかったブリッジが、その凛とした声に平静を取り戻す。

 ったくよ、いつの間にやら成長しやがって・・・。

 

『我々は自らの理想と信念のために立ち上がったのだ!

 進むべきは目的の完遂のみ!』

 

『・・・・つまりどうあっても徹底抗戦の姿勢は崩さないと?』

 

『無論だ。

 ・・・・・ところで、テンカワアキトはどうした?

 よもやその戦力だけでこちらの夜天光を倒せるとでも思っているのではなかろうな?』

 

 言ってくれるな、あの南雲とか言う奴・・・

 まるでアキト以外は敵じゃねえみてえなこと言いやがって。

 

 そこまで言うなら使ってやるさ!

 一瞬でも気を抜いてみろ! それがてめえらの最期だ!

 

 

『悪いが、テンカワのことをあなた達に教える義理は無い。

 それよりもそんな事を言っているとすぐに足下をすくわれるぞ?

 たとえ夜天光を持ち出したとしても、根本的な技量差はいかんともしがたいからな』

 

『ふ・・・それは認めよう。

 確かに貴君らは地球圏はもちろん、既知宇宙内でも最も優れたパイロット。

 だが! 最後に勝利をこの手にするのは我々だ!

 今こそ草壁閣下の大望を成就させるとき!』

 

『言ってることは立派だがな・・・!

 お前の信念とやらの行き着いた先がそれか! 南雲!』

 

 と、こちらはシュン提督。

 いつもは温厚な提督にだって許せることと許せないことがある。

 万葉や舞歌さん経由とは言え、南雲という男の公明さを知ってしまったばかりにそれは尚更のことだろう。

 

 南雲義政という男について悪し様に言うものは少ない。

 多少強引なところがあるにしても、こいつは真に木連の人たちの未来を憂いているのだから。

 あっちの民衆からすればオレ達こそが悪なんだろうしな。

 

 だがそれでもオレ達には許せない、許しちゃならないことがある。

 

 強化人間・・・・

 それは簡単に力を手に入れるには最適の手段かもしれない。

 だけどオレ達ナデシコは先の大戦を通してその悲しみを知ってしまった。

 いま南雲のやっていることは『あいつら』の存在を侮辱するに等しいことなんだ。

 

 

『ああそうだとも!

 我らの理想を成就させるためには力が、犠牲が必要なのだ!!

 貴様らナデシコを・・・・テンカワアキトを倒すためには!!』

 

 その言葉を聞いて・・・オレの心は完全に冷め切った。

 結局こいつも、人の命を自分の都合で好き勝手に弄くるクチか!!

 

『・・・・・わかった。

 もう、あなた達に言うことはない。

 エステバリス隊戦闘開始! 全力を持って叩き伏せろ!』

 

『『「了解!!」』』

 

 ああ! ぶん殴ってやる!!

 

『行け! 真・六連よ!

 奴らを我らが理想の贄とする!

 テンカワアキトを引きずり出せ!!』

 

 南雲の命令に、六体の夜天光が動き始めた。

 

 

 

 

 

 ゴオオオォォォォォォ・・・

 

 

 雪原の白に映える紅の機体が尾を引いて疾駆する。

 あの南雲とか言う奴はかんなづきで高みの見物か?

 まったく。

 万葉の話ではもう少し男気のある奴だと聞いてたんだがな。

 

 

 ピッ!!

 

 

『ヤマダさん、先攻は任せます。

 とりあえず無理をせずにヒカルさん達が来るまで時間を・・・』

 

 

『わかってるよ!』

 

 

『・・・・・・ヤマダ君。気持ちはわかるけどイツキに当たるのは筋違いよ』

 

『ああ・・・そうだな。すまねえカザマ・・・』

 

『・・・いえ。私も同じ気持ちですから』

 

 さっきの通信を聞いてからこっち、オレの気分は最悪だった。

 

 戦うことを目的とされた強化兵・・・・・そいつが元に戻ることはもうない。

 

 正義だ理想だって言ったって、結局やってることは皆同じ。

 命を使い棄てて築いた世界に何の意味がある!?

 

 

『―――!! 皆さん、来ます!!』

 

 警戒を呼びかけるアサミの声。

 だが言われるまでもなくオレの目は向かってくる夜天光を捉えている。

 

 オレに向かってくるのは2機。

 だがここで負けるわけには行かない!

 

 

「おらあああああっ!!」

 

 錫杖を掲げる夜天光にオレは正面から斬りかかった。

 

 

 ガキィッ!!

 

 

 ―――! 受け止めた!?

 

「こいつ・・・!」

 

 

 ガンッ!!  ガキッン!!  ゴゥン!!

 

 

 インパクトの瞬間だけとは言えDFSと同等の切れ味を誇るゲキガンソードが悉く防がれる。

 パイロットの技量もさることながらあの錫杖は何で出来てやがるんだ!?

 

 

 ピッ!!

 

 

『ヤマダさん! その錫杖は簡易型DFSだと思われます!!

 防御用に特化されているみたいなんで正面から打ち合うのは避けてください!!

 耐久力に差がありすぎます!!』

 

 ちっ・・・このまま切り結んでたらこっちのが先に壊れちまうってことか・・・。

 

 だがそれがわかったからってどうにか出来る相手じゃない。

 一対二である以上手数は圧倒的に向こうのほうが多いからオレのゲキガンソードもそう長くは持たないだろう。

 助けを呼ぶにもイズミの奴は一体の夜天光に接近されてしまったらしくてかなり危ない状況。

 カザマに至っては同時に三体も相手してやがる。

 加えてアサミは論外だ。後方サポート以上に考えてる奴は一人もいない。

 現にカザマもあいつにはまわりのデビガン及び無人兵器達の相手をするよう指示していた。

 確かに生身の戦闘じゃ超一流だし機動兵器戦でも目覚ましい成果をあげている。

 だが実戦経験のなさは致命的だ。

 こいつらみたいなレベルを相手にするには足手纏いにしかならない。

 

 ・・・・戦闘時に有用な一瞬の判断も、機動兵器戦と生身の戦闘では違いがあるからな。

 

 結局のところ、オレがこいつらを何とかしてどっちかの救援に行かなきゃならんらしい。

 

 

「くそっ! さっきまでの奴らとは比べ物になんねえな!!」

 

 悪態を付きながらも隙を窺うことは忘れない。

 正直言って二体を相手にするのはきつい。

 連携もばっちりだしな。こいつらは。

 

 

 上段と下段。2本の錫杖が同時に薙いで来る!

 タイミングも完璧だ。

 それこそ嫌になってくるくらいに。

 

 

 キィンッ!!

 

     ビュッ!!       ガァンッ!!

 

 

 オレは上段の方をソードで叩き、その反動を使って上方へ逃げる。

 ついでにその場で半回転し、近い方の頭部に刺突をいれるが失敗。

 寸前で片割れに邪魔されてダメージを与えることは出来なかった。

 

「互いに死角を補いあってんのか・・・! 厄介な奴らだな!」

 

 一体多数の戦闘ではこっちに死角が生まれやすいのに対して相手には殆ど無くなってしまう。

 だからこそナデシコBでは単独行動が禁じられていた。

 死角がないと当然攻撃の機会が減るし、無理に行っても大きなダメージを与えられない。

 

 ・・・だが早くせんと他の二人が危ないな。

 ヒカル達が来るのにももう少しかかるだろうし。

 と言うより早く突破しないとさっき誘き出した部隊が帰ってきちまう。

 

 

 ・・・・仕方ない。やるか!

 

 

 

 ピッ!!

 

 

「カザマ! こいつらを片付けた後でお前のところに隙を作る!!

 そん時に抜けろ!!」

 

『!! わかりました!!』

 

 オレの意図を即座に察知し少しずつだが戦場をオレの方に近づけるカザマ。

 

 だが『白百合』の近接武装はDFSが一本だけだ。

 さすがにカザマの疲労が激しい。

 フルバーストの稼動終了ギリギリにあの二人が間に合うかどうかってとこか。

 

 

 さて・・・

 

 

 

「最終セーフティ解除! 解除コード“ガンガー”! フルバースト!!」

 

 

 フィィィイイイインンンン!!

 

 

 オレの『ガンガー』が、その強大な力の解放に歓喜の悲鳴をあげた。

 

 強烈なGが、

 視界を染める真っ赤なゲージが、

 何より光り輝く白き翼が溢れるほどの力の存在を教えてくれる。

 

 その神々しいまでの姿に警戒したのか、2体の夜天光がその手に持つ錫杖を構え直した。

 しばしの躊躇による沈黙。

 

 そして、同時に突撃を敢行する!

 

 

「へっ! 飛んで火に入るなんとやら・・・!

 行くぜっ!!

 必殺ぁっつ!!  Bィィィッナッコォッ!!!」

 

 

 オレは自らの黒い拳を武器にして最大速度で夜天光に迫る。

 その単純な動きに敵は回避行動もとらず、オレを叩き落そうとした。

 

 

「無駄だああああっ!!!」

 

 

 錫杖はオレの拳に触れた瞬間ほとんどなんの抗いもなく圧し折れ、

 必殺の一撃はそのまま夜天光の胴体へと吸い込まれていく。

 

 

  ゴスゥッ!!

 

      ドゴォォォォオオオンンン!!!!

 

 

「まだまだぁっ!!!」

 

 今度は左手に持ったゲキガンソードをもう一体に向かって思いっきり突く!

 狙いは真っ直ぐにコクピットだ。

 たとえ強化処理を施されていようが簡易DFSであるゲキガンソードには敵わない。

 

 だが・・・

 

 

 バキィィィン!!

 

 

「・・・ぬあ〜〜〜〜っ!! オレ様のゲキガンソード!!

 もうぜ〜ったいに許さーーーん!!」

 

 なんてことしやがんだ!

 まだ一本しかない特注品なんだぞ!

 コクピットが貫かれる瞬間に剣の中程あたりを錫杖の柄で叩いて破壊するなんてのはさすがだがな。

 

 夜天光はそのまま仲間の死にも目をくれず、武器のなくなった左側から仕掛けてくる!

 

「ちっ! 甘えっ!!」

 

 懐に飛び込んできた夜天光に、オレは折れた剣の先を蹴り飛ばして錫杖を持つ手首を切断した!

 ついでとばかりに持っていた柄の方を力任せに動力部へと突き立てる!

 

 

 ズドォォォォオオオオンンンン!!!!

 

 

 爆発を目の端だけで確認し、オレはそのままカザマのもとへ向かう。

 

 ・・・・・いた!

 やばい! 完全に劣勢に追いやられちまってる!

 

 

「ガァイ! ハイパァァァッ!! キィィィック!!!」

 

 

 フルバースト時のガンガーの最高速度ははっきり言って制御できるギリギリだ。

 アキトが使っていたブラックサレナ並のスピードがでる。

 ブローディアやダリア、ジュン専用のカミカゼエステには劣るがな。

 

 オレはそのスピードを最大限に有効活用したドロップキックを夜天光の一体に喰らわせた!

 

 

「カザマっ!!」

 

『はいっ!』

 

 

  ザシュウゥゥッ!!

 

 

 瞬間的な積層フィールドにキックの威力は半減しちまった。

 それでもバランスを崩させるには十分。

 その状態で他の2体とは違って散開するのが遅れた夜天光に、カザマのDFSが襲い掛かった。

 

 ・・・惜しいところで武器の錫杖を破壊するだけにとどまってしまったが。

 

 

『くっ・・・やりますね・・・。

 ―――ヤマダさん! その足!?』

 

「ああ。しっかりとお釣りをもらっちまったよ。

 ったく、こいつら背中に目でもついてんのか?」

 

 さっき蹴ったときだ。

 隣りにいた奴がこっちを見もしないで振るった一撃に見事に両足持ってかれた。

 オレはジ〇ングじゃねえんだぞ。

 

「だがまあ足なんかなくてもこの拳があればオレには十分だ!

 残り時間も少ないことだし、さっさと・・・・!?

 だ〜〜っ! てめえら待ちやがれっ!!」

 

 シカトかおい!

 人が決めポーズ(足がないので決まり悪いけど)を取ってるのに無視して行っちまう奴があるか!?

 

『あっ! あっちにはイズミさんが!!』

 

「げっ! やばい!」

 

 完全な近接戦闘型のこいつらを相手にしたら、後方支援型のイズミに勝機はない。

 

 いそいで夜天光の後を追うオレ達だったが・・・

 

 

 ビィ―――ッ!! ビィ―――ッ!! ビィ―――ッ!!

 

 

「っ! しまった! 時間切れか!?」

 

『!! ヤマダさん!?』

 

「オレのことは構うな! 早くイズミのところに!」

 

『くっ・・・ヤマダさん! 対G防御態勢!!』

 

 は?

 

 突拍子もない事を言われて一瞬思考が止まる。

 そうこうしている間にカザマの『白百合』がオレの『ガンガー』を掴み・・・

 

『でえええいっ!!』

 

「のわああああああああっ!!!」

 

 こともあろうに力いっぱい投げ飛ばしやがった!!

 

「何すんだああああっ!!!

 ―――!? ぐあああっ!! 内臓が! 内臓がああっ!!!」

 

『ナデシコに回収してもらってください!

 この宙域はまだ危険です!!』

 

 

 ゴオオオオォォォ・・・・

 

 

 それだけ言って颯爽と去っていくカザマ機を見送る。

 そういやこっちにはナデシコがあったな?

 

 

 ピッ!!

 

 

「ハーリー!! 回収頼む!!」

 

『了解! そのまま飛んでて下さい! フィールドにぶつけて減速させます!!』

 

 ・・・・・・・・おいこら。

 いやそうでもしないことには止まらないから仕方ないのかもしれんが・・・・。

 

 

 

 とりあえずスコアは2機・・・か。

 イズミのやつ大丈夫だろうな?

 

 

 

 

 

 

 

「ウリバタケっ! どれくらいで出れる!?」

 

「ダメだ! 最低でも二時間は掛かる! 大人しくしてろ!」

 

 くそ・・・

 

 帰艦してからオレは声に出さずに悪態をついた。

 あいつらの強さは尋常じゃなかったからな。

 これ以上何も出来ないのがもどかしい。

 

 

 ピッ!!

 

 

「提督! イズミはどうなった!?」

 

 アサルトピット内ではすることも無く、オレはブリッジに通信を入れた。

 もちろん戦況を知るためだ。

 

『ヤマダか・・・・。

 イズミ君なら無事だ。ヒカル君がなんとか間に合った。

 周りのザコはアサミ君が近寄らせないし、もうすぐカザマ君も追いつく』

 

「そうか・・・・って、万葉はどうしたんだよ!?」

 

『回収中だ。お前と同じくフルバーストを使ってしまったからしばらくは出れない』

 

 確かにアサルトピットの外が騒がしい。

 きっと万葉が回収されたのだろう。

 

 だがこれはまずいな。

 勢力的には向こうは夜天光2機、こっちはオレと万葉が戦闘不能と損失戦力は同等。

 しかしこっちはこれで近接戦闘タイプを両方失ったことになる。

 イズミ・ヒカル・アサミはサポートが主体。

 完全な近接戦闘型のやつらに近づかれたら勝ち目は無い。

 

 それに・・・

 

「まだラスボスが出てきてないしな・・・」

 

 南雲義政・・・・あのプレッシャーは普通じゃない。

 声を聞き、目を見ただけでオレは戦慄した。

 戦士の勘ってやつだと思う。

 あいつは・・・・・・・・オレよりも強い。

 

 

「おい! 誰か医療班を呼んでくれ!!」

 

 

 ガバッ!!

 

      ・・・・ご〜〜〜〜〜〜〜ん

 

 

 聞こえてきたメカニックの声にオレは飛び出した。

 頭から落ちたけどオレにとってはどうってことない。

 

 ・・・『ガンガー』の全高が7メートルくらいだとしてもな。

 

 

「いててて・・・・万葉っ!!」

 

 見えたのはメカニックの肩を借りてアサルトピットから降りようとしている万葉の姿だった。

 一見したところでは流血などが見られないことに安心する。

 

「くっ・・・・ガイか」

 

「ああ。

 おっと、無理に動くな。

 なあそこのアンタ。万葉の具合はどうなんだ?」

 

 格納庫に備えられているベンチに万葉の体を横たえ、仕事に戻ろうとするメカニックを呼び止める。

 そいつは律儀にもオレに向き直りながら答えてくれた。

 

「外傷はないです。ただ脳震盪を起こしてるみたいだからとりあえず検査しないと・・・。

 いま医療班を呼んだから、来るまでヤマダさんが見てあげててください」

 

「さんきゅ。呼び止めて悪かった」

 

 いいえ、とそっけない言葉だけで戻っていく。

 現在何も出来ないオレと違ってメカニックは忙しいからな。

 まあ大事に至らなくてよかった。

 

「焦って油断をしてしまった。

 フルバーストで何とか切り抜けたが・・・・・不甲斐ないな」

 

「何言ってんだよ。生きててくれりゃそれで十分だ。

 ほら、スタッフが来たぞ。

 ・・・・・・安静にな」

 

「ああ」

 

 駆けつけた医療スタッフに万葉を任せ、オレはふと周りを見回す。

 

 足がなく、ところどころ凸凹している『ガンガー』・・・

 デビルガンガーの偽ゲキガンソードが刺さったままの『風神皇』・・・

 そして無傷の紫色したスーパーエステバリス。

 

「なあウリバタケ! ジュンのエステは使えないのか!?」

 

「ああん!? 前に専用性の説明はしただろが!!

 それにそいつにはフルバーストがついてねえんだ!

 おめえノーマルでDFS使えんのか!?」

 

 むぅ、確かに無理だがわざわざメガホンで怒鳴るなよ・・・。

 

「くっそ〜。ナデシコのピンチだってのになんもできないのかよ」

 

 だがまあメカニック達の邪魔をするわけにもいかんから大人しくしてよう。

 それから暇潰しと状況確認のために通信を・・・

 

 

 ピッ!!

 

 

「お〜〜い提督、状況は・・・?」

 

『4時方向に重力波反応! 迎撃部隊が戻って・・・!?

 そんな!? 同方向にボース粒子反応増大!! 戦艦クラスです!!』

 

 おお、忙しそうだな・・・・ってピンチじゃねえか!!

 

『単独ジャンプが可能な戦艦だと・・・・?

 くっ! 新型か!

 ナデシコを回頭させろ!

 出現と同時にグラビティブラストで殲滅する!!

 ヒカル君邪魔だ! 射線上からどいてくれ!!』

 

『そんなこと言ったって〜〜〜!』

 

 

 ドォン! ドン! ドン!

 

 

『ヒカル! いま!』

 

 イズミ・・・・いまグラビティライフルの光線が『煌』に掠ったぞ?

 

 

『反応さらに増大! ジャンプアウトします!!』

 

 

 モニターに映る敵の増援。

 そいつらとナデシコを結ぶ線上に虹色の光が現れる。

 

 さながら多くの兵を従えた王者のように・・・。

 

 

 

 そして、一隻の戦艦がその姿を現した。

 

 

 


 なかがきその2

 

 ガイ君大活躍ー。

 でも特に意味なしー。

 次も戦闘ー。

 

 ・・・戦闘シーンって容量使う割に物語が進まなくなるから難しいです。

 

 それでは。

 

 

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