紅の戦神

 

 

第五話

 

 

 

 戦闘が終わった後はその疲れもあるだろうと、とりあえず休みの許可を貰った。

 正直疲労など塵ほども感じていなかったが、せっかくルリちゃんが気を利かせて申請してくれたのだ。

 ありがたく休ませてもらうことにして、現在に至る。

 

 

 ついさっき会ったジュンはなかなかに生き生きとした顔をしていた。

 記録映像ではしっかりユリカに『お友達』宣言をされていたみたいだがあまり応えていないらしい。

 それよりも俺が言った事を真剣に考えてくれているんだろう。

 

 

 ブラックサレナとブローディアの開発は歴史通り。

 またも資金の事を完全に忘れてしまっていたが、それはルリちゃんが上手くやってくれた。

 

 どうも金銭感覚が疎いんだよな、俺は。

 一回目は保険の不備で借金地獄。

 二回目は地球圏の大企業の筆頭株主として金に関して困ったことはない。

 こんなんでまともな金銭感覚が付くはずないよ・・・。

 

 ま、とにかく今の問題はこれからどうやってみんなを誤魔化すか、だ。

 枝織ちゃんのほうはもういいとして、どちらかと言えば今は俺のほうが怪しがられているだろう。

 だが昨日のは実力を隠していたら枝織ちゃんに負けていただろうからな。仕方ないさ。

 

 ・・・ん? そう言えば結局枝織ちゃんに何をさせたのかって?

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・とりあえず、泡踊り(爆)とだけ言っておこうか。うん。

 

 

 

 

 はあ・・・未知の体験だった・・・。

 

 某同盟のお仕置きは直接的なものが禁じられていたしな。

 何よりあの時は俺の精神状態がやばかった。

 もしかしたら遺跡は、俺の置かれた状況に同情してここに送ってくれたのかもしれない。

 

 因みに枝織ちゃんはまだおやすみ中だ。俺のベッドでね。

 

 目覚めたときの彼女の甘い香りが、俺の名を呟く声が、のぞきこんだあどけない寝顔が。

 それだけで俺を幸せな気持ちにしてくれる・・・。

 

 人を愛し、愛されるということは本来ならばこんなにも素晴らしいことだったんだな・・・。

 つくづく俺のいた立場が尋常でなかったことを思い知らされるよ。

 いままで俺にとっては恋愛ごとなんてトラウマのひとつに過ぎなかったから。

 ま、だからと言って帰らないというわけにも行かないが。

 

 

 

 さて、ブリッジに到着した。思考を切り替えなくては。

 俺は言い訳を考えながらブリッジへと入って行った。

 

 

 

 

 

「さてさて・・・テンカワさん達の戦闘記録を今先ほどブリッジ全員で拝見させていただきました」

 

「正直に言って信じられんほどの腕だ。

 どうせこういうことになるんだからできれば一度に事情を説明して欲しかったな」

 

 いや、俺は地球で最強のパイロットだ、って言っても変な目で見られるだけだと思うが。

 

「アキト! アキトは私の為に頑張ってくれたんだよね!」

 

 すまんユリカ。どちらかと言うと自分の欲望のためだ。

 

「しかし・・・いまいち腑に落ちませんな。

 先日、ナデシコ搭乗の際に調べさせて頂いたテンカワさんの経歴にはこれといっておかしな点は見当たりませんでした。

 あなたが軍やその他の組織に所属していたという痕跡は全くありません。

 だがこの実力!

 はっきり言ってしまえばお二人の力を持ってすれば・・・」

 

「ああ。今の連合軍では到底太刀打ちできない。

 お前達二人だけで一方面軍をすら凌駕してしまうだろう。

 ましてやナデシコなど相手にもならん」

 

 ・・・ちょっと調子に乗りすぎたか?

 まあ今ごろ反省しても遅い。

 ここはやはり誤魔化すしかないだろう。

 

 

 

 で、結局前回と同じ言い訳にした。これと言っていいのが思い浮かばなかったこともあるしな。

 下手なこと言ってぼろが出ては堪らない。

 

 ルリちゃんの視線が俺には痛かったよ・・・。

 

 

 

 

 

 

 その後、ルリちゃんが当直になったのを見計らって俺はブリッジを訪れた。

 サツキミドリの人々を助けるためだ。

 これも前と同じ方法でいいだろう。

 

 ・・・なにやら俺の人生ってだんだんゲームみたいになってきてないか?

 

 

「あ、アキトさん何か御用ですか?」

 

 俺に気付いたルリちゃんが振り返る。

 

「ああ。サツキミドリのことでちょっとね」

 

 そういえばはじめのときは葬式でてんてこ舞いになったんだよな。

 ユリカとジュンがどこの宗教なんだかわからないような服で走り回ってたっけ。

 

 葬式といえばナデシコには様々な民族衣装がおいてある。

 どうせだからまた何か枝織ちゃんに着てもらいたいが・・・。

 

「サツキミドリ・・・どうしましょうか?」

 

「うん、エマージェンシーコールを鳴らすウィルスを送りつけてくれないか?

 要するにサツキミドリから全員が脱出できればいいんだから・・・」

 

 さらりと言った俺の言葉にルリちゃんの顔が驚愕に変わる。

 考えても見なかったらしい。

 いつもは頭脳担当のルリちゃんを出し抜いたようで少し気持ちがよかった。

 

「アキトさん・・・結構大胆な計画を立てるんですね。

 とてもさっきの嘘を思いついた人と同一人物とは思えません」

 

 嘘は苦手なんだよ。俺は。

 

「でもまあそれが一番効果的かもしれませんね。

 わかりました。早速サツキミドリに仕掛けをしておきます。

 ・・・ふふっ、こういうのは久しぶりですね」

 

 ニヤリと笑うルリちゃん。

 俺はすぐにでもこの場から逃げ出したくなった・・・。

 

「あ、ああそれじゃ頼むよ。

 俺はトレーニングルームに行ってるから・・・。

 どうやら体が鈍っちゃってるみたいだし」

 

「そうですか?

 ・・・確かにあの頃のアキトさんは体を鍛えられていましたからね」

 

 昂気で体中の筋組織を刺激すれば比較的簡単にもとの筋力を取り戻せるだろう。

 もし北斗が今に戻ってきているとしたら、怠けていてはすぐに突き放されてしまう。

 

 俺はかつて、戦うための力を嫌悪していたことがある。

 欲しくて手に入れた力じゃない、復讐のための呪われた力なんだ、と。

 

 だが結局のところで力に違いなどないということを教えられた。

 今では北斗との戦いをどこかで渇望している俺がいる。

 あいつは俺が勝手に背負ってしまっていた重荷をひとつ、力任せに放り出してくれたんだ。

 

「それじゃ俺は行ってくる。あとはお願いするよ」

 

「はい。頑張ってくださいね」

 

「ああ」

 

 俺はブリッジを後にした。

 

 

 

 

 ―――瓜畑秘密研究所

 

 トレーニングルームに向かう前に俺が立ち寄ったのはウリバタケさんの私室だ。

 以前はあまり訪れることはなかったが、戻ってきてからはかなり頻繁にこの場に立っている。

 この先どうなるかは分からないが、今のところ彼は同志だからな。

 

 プシュ!!

 

 こちらが何もせずとも勝手に扉が開く。

 入り口の上部に設置されている各種センサーが訪問者の情報を部屋の主に知らせる仕掛けとなっているのだ。

 

「よく来たな、アキト・・・・・・ジャンルは?」

 

聖職者関係でお願いします」

 

 余計な言葉は俺たちの間では必要ない。

 そして、それだけでも十分に通じ合える。

 

 俺の返答にウリバタケさんはニヤリといやらしい笑みを寄越して来た。

 

「ふ・・・なかなか通だな、おめえも」

 

「いやいや、セイヤさんほどじゃありませんよ・・・」

 

 お互いに声を殺して笑いあう。

 ちなみに俺が入ってきてからこの部屋には明かりが点いていない。

 暗闇の中相手を悟ることが出来るのは、小さな声と気配だけだ。

 

「・・・この中から好きなのを選べ」

 

 ブゥン・・・

 

 その言葉と同時に俺の横にあったディスプレイに光がともり、俺の横顔を照らした。

 俺はそこに向き直る。

 

 表示されたリストのほとんどははっきり言って理解不能だった。

 なにせ世界には数百の宗教があり、日本国籍の多いナデシコにもかなりの数の葬式形態が存在する。

 全てを把握することなど不可能だろう。

 

 とにかく、一通り目を通して俺は心を決めた。

 我ながらこう言った事に関する判断力は敬服に値するな。

 

「セイヤさん・・・」

 

「決まったか?」

 

「はい・・・僧服やシャーマン、シスターとかもいいと思ったんですけど・・・」

 

「なに、違うのか? それじゃあいったい・・・?」

 

 ウリバタケさんが不審な気持ちを抱いたのが気配でわかる。

 

 確かにどれもが素晴らしかった。想像するだけで身が打ち震える。

 だが! 時には別の形でアプローチすることも必要だと俺は考えたのだ!

 

 

「巫女服には最後まで悩まされましたよ。

 清廉・純粋を体現するかのようなその姿にね・・・。

 ―――だがしかし! 俺は敢えて・・・敢えてこれを選ぶ!!

 そう、本日のコスチュームは・・・・・・!!

 

 神父服だ!!!」

 

 

「な、なんとぉっ!!」

 

 

 

 ピカーーっ!! っと室内に特殊効果の稲妻が走る!

 

 

「そう! 神父服!!

 女の子が男装をするのはそれだけで萌えのひとつである!!

 小柄な少女が大き目の男物の衣服を纏うその姿もまたしかり!!

 さらにこれは聖なる者を貶めると言う禁忌にも触れる!!」

 

 

「!! そうか!!

 聖なる装束に身を包んだ男装の美少女!!

 萌えの要素を掛け合わせることで劇的な相乗効果を生み出す!!

 まさに合わせ技!! こんな簡単なことに今まで気付かなかったとは!!」

 

 

 

「セイヤさんっ!!!」

 

 

「アキトっ!!!」

 

 

 

   がしぃっ!!!

 

 

 

 漢泣きをしながら熱い固く右手を握り合う。

 

 その時だ・・・!

 

 

  ――――ガタンッ!

 

 

「「―――何者だ!!?」」

 

 部屋の入り口の方から聞こえてきた小さな物音。

 どうやら熱くなりすぎて気配を悟ることが出来なかったらしい。

 

 俺とウリバタケさんは声を合わせて音がした方向へ視線を送った。

 

 

「ち・・・違う!! 僕は何も見ていない! 何も聞いてない!!」

 

「「―――ジュン!?」」

 

「許してくれ! 知らなかったんだよ!!

 ナデシコ内部でこんな陰謀が蠢いていたなんて!!」

 

 そう言って脱兎の如く逃げ出すジュン!

 だが甘い! この俺から逃げられると思うな!

 

「待つんだジュン!!」

 

「うわああああっ!! は、放せテンカワ!!

 君たちのことは誰にも言わない! 今見たことは忘れる!!」

 

「悪いが見てしまった以上、このままお前を放置するわけには行かない。

 ・・・どうします? セイヤさん」

 

「そうだな。そろそろ新たな同志が欲しいと思っていたところだ。

 ・・・よしアキト。ジュンを研究所に運び入れてくれ」

 

「了解!」

 

 俺たちのやり取りに不可解なものを感じたジュンは急激に蒼褪める。

 

「まさか・・・まさか君たち! この僕を悪の道に引きずり込むつもりか!?

 そ、そんなものには屈しないぞ! 僕は僕の正義のために戦うんだ!!」

 

「人聞きの悪いことを言うなよな。ただ単に無駄な衣装を有効活用してるだけだぞ?」

 

「その通りだ。なあに、お前にもすぐに俺たちの活動の崇高さが理解できるさ。

 ・・・おおアキト、あとはいいぞ。

 それからブツはいつものところだ。

 お求めのやつはK−375番だからな」

 

 いつものところとは衣裳部屋のことだ。

 そこには既にウリバタケさんが厳選した数十着の衣装が独立して極秘に保管されている。

 先日のアンミラもナース服もここから出資された。

 

「ええ、ありがとうございます。

 それじゃあこれは約束の・・・」

 

 衣装代は枝織ちゃんの生写真である。

 

 枝織ちゃんは一見したところではかなり無防備に見えるが、その実全く隙がない。

 本当に全てをさらけ出すのはいまのところ俺の前でだけだ。

 

 故に俺はそれらの表情を写真に収めてウリバタケさんをはじめとしたメカニック達に提供し、

 その見返りとして様々な種類の衣装を獲得する。

 もちろんそれほど露出がないやつだけ。本当の秘蔵品は俺だけのものだ。

 時にはウリバタケさんがわざわざ衣装を作ってくれたりもするけどな。

 それとこれとは話が別。

 

 

「と・・・取引現場そのままじゃないか!! 誰か助けてくれ〜〜〜〜!!!

 こんなことなら改めてテンカワに礼を言おうなんて思わなければ良かった〜〜〜!!!」

 

「こらっ! 騒ぐんじゃねえ!!」

 

「ちくしょう! 裏切ったな! 僕の気持ちを裏切ったな!!

 ユリカと同じに裏切ったんだ!!」

 

 既に拘束されていたジュンがウリバタケさんに引っ張られて部屋に入っていく。

 俺はそんなものには見向きもせずに、軽やかな歩調で衣裳部屋へと急いだ。

 

 

 

 

 

「はじめまして〜!! 新人パイロットのアマノ・ヒカルで〜す!!」

 

「うおおおおおおおおっ!!!」

 

 ・・・餓えてるな〜、みんな。

 俺には全く関係ないことだけど。

 

 ひとしきり汗を流した後は部屋に戻ってシャワーを浴び、新クルーの紹介があるということで格納庫に来た。

 まだ眠っていた枝織ちゃんを起こして持っていた服を着せ、今は俺の隣りで彼女達の自己紹介を聞いている。

 そう、例の神父服だ。

 少しサイズが大きくてブカブカしているがそれがまたいい。

 胸元に揺れるロザリオが眩しいよ。

 

「よお、俺の名前はスバル・リョーコ。18歳。

 パイロットだ。これからよろしく」

 

 ルリちゃんは上手くやってくれたようで、今回も3人とも自分の機体を確保して来れた。

 が、やはり0G戦フレームが1機残ってるようだ。

 この後取りに行くことになるだろう。

 

「くーー! これだよこれ!

 普段は男っぽいけど好きな奴の前でだけ女の子らしい恥じらいを見せる!

 もうサイコーだね! よーし、決めた! 俺は絶対リョーコちゃんを堕として見せる!」

 

 ・・・・・・とかなんとかはメカニックの叫び。

 俺じゃないぞ。

 

 でも気持ちはわからないでもない。

 そうだな、例えば・・・

 

 

 

『北斗!? どうしたんだその格好!?』

 

『お、おかしいか? 俺がスカートなんか履いたら・・・』

 

『い、いや、そんなことはないけど・・・。

 ・・・って言うかスカート云々の前に何故メイド?』

 

『舞歌に聞いたんだ。この格好ならきっとアキトも喜んでくれるって・・・だから、その・・・』

 

『北斗・・・まさか俺の為に・・・?』

 

『か、勘違いするな! 俺はただ・・・!』

 

『北斗〜!!』

 

『うわっ! あ・・・その・・・・・・アキト、優しくして・・・』

 

『違うだろう、北斗?

 今のお前は俺のメイドなんだ。なら俺のことはなんて呼べばいい?』

 

『あぅ・・・ご、ご主人様・・・?』

 

『ふふ、よく言えたね。それじゃ、ご褒美だ・・・』

 

『あっ・・・ふあぁ・・・んっ、アキ・・・ご主人様ぁっ・・・!』

 

 

 

 さ・・・最高だ(涙)!!

 

 

「・・・アー君? なんかヘンなこと考えてない?」

 

 うおっ!? 枝織ちゃん何時の間に俺の前に回りこんだんだ!?

 

「い、いやだな枝織ちゃん! ちょっと北斗の奴どうしてるかなーって思ってさ、はは・・・」

 

「む〜〜〜・・・。

 ま、北ちゃんならいいけど〜〜・・・」

 

「え? それは・・・?」

 

「だって私、北ちゃんのこともアー君と同じくらい大好きだもん!

 アー君が他のコを見るのはちょっと嫌だけど北ちゃんだったら別にいいかな〜って。

 でもでも、ちゃんと私のことも見ててよね!」

 

 それは・・・・・・つまり公認ってことか?

 

 俺はこれ以上自分の欲望に素直になってしまっていいのか!?

 

 ちょっと待て。考えてみよう。

 かたや北斗と枝織ちゃんの見た目は同じだがタイプは正反対の美少女コンビ。

 かたや美女・美少女が選り取りみどりだが、共通して嫉妬心が強いサディスト集団。

 

 

 比べるまでもないじゃないか!!

 

 

 ごめんよみんな。俺も男なんだ・・・。

 

 

 ベベベン♪

 

 

「うわあっ!!」

 

 また背後に回られた!?

 油断していたとは言えこの人は本当にいったい何者なんだ?

 

「フ・・・・・・鬼畜ね」

 

 しまった声に出ていたか!? まさかこの俺がハーリー君と同じミスをっ!?

 

「どんも〜〜、新人パイロットのマキ・イズミです」

 

「ど、どうも・・・」

 

「ふふふふふふふ・・・ヒカルとリョーコ・・・二人揃って・・・」

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 は!? なんだったんだ今の空白の時間は!?

 ここ数秒の記憶が欠如しているぞっ!?

 

「ア、アー君・・・ごめん・・・私もう、だめ・・・」

 

「枝織ちゃん!? 枝織ちゃんしっかりするんだ!!」

 

 まずい! 枝織ちゃんにはイズミさんに対する免疫がまるでない!

 彼女の精神攻撃の前ではまだ幼い枝織ちゃんの心はいいカモだ。

 

 

 結局、ナデシコが通常業務に移れたのは一時間後だった。

 その間には唯一耳栓をしていて聞いていなかったルリちゃんと、

 なにやら「萌えが、萌えが・・・」と呟くジュンが機械のように淡々と仕事をする姿が見られたらしい。

 

 ・・・ジュン、あの後いったい何があった?

 

 

 

 

 

 その後、俺たちパイロットとブリッジクルーはブリッジに集まった。

 0G戦フレーム回収のための作戦会議をするためだ。

 ま、会議って言ってももうほとんど決まってるようなものだから、世間話になってしまっているようだが。

 

「ねえねえ! この艦に乗ってるパイロットって誰なんですか〜?」

 

「はい! このナデシコのエースパイロットにして私の王(モガッ)」

 

 ヒカルちゃんの質問に答えかけたユリカの口をプロスさんが塞ぐ。

 素晴らしい反応速度だ。

 

「この艦のパイロットは俺、テンカワアキトとこっちの枝織ちゃん。

 それから後一人は医務室に行けばいつでも会えるから一度お見舞いに行ってやってくれ」

 

 ヒカルちゃんに対して言う。

 まあ趣味は合うはずだから問題ないだろう。

 

「あ、よろしくお願いしま〜す!

 ところで枝織ちゃん、そのカッコって・・・?」

 

「これ?

 へへ〜、さっきアー君に貰ったんだ♪ いいでしょ!」

 

 ヒカルちゃんの目が輝いている・・・(汗)。

 どうやらコスプレイヤー魂に火をつけてしまったようだ。

 

「はいはい、皆さん世間話はそれくらいにして・・・。

 サツキミドリに残された0G戦フレームの回収についての話を優先してください。

 あれも安いものではありませんので・・・」

 

「とにかく取りに行きゃいいんだろ? さっさと行こうぜ」

 

 リョーコちゃんのその一言で全てが決まったようだ。

 

 結局は宇宙に慣れるという意味合いも兼ねて全員で行くことになった。

 

「くすん、ルリちゃん。みんなが私をいじめるの」

 

「私、少女ですから」

 

 変わらないな、二人とも。

 

 

 

 

 

 

 医務室のガイを残して全員がサツキミドリに向かい、その途中でリョーコちゃんが通信を入れてきた。

 

 

 ピッ!!

 

 

『なあ、お前・・・テンカワっつったよな?』

 

「ああ、そうだよスバルさん」

 

『・・・それやめろ。体が痒くなっちまう。

 リョーコでいいよ』

 

 うーむ、前にいきなり呼び捨てにしたら怒られたんだけどな・・・。

 むずかしいコだ。

 

「わかったよ。これからよろしくね、リョーコちゃん」

 

 

 ピッ!!

 

 

『じゃあ私もヒカル、でいいからね! アキト君に枝織ちゃん!』

 

「はいはい、了解しました」『うん、よろしくね! ヒカルちゃん!』

 

 返事を返しながら周りに気を配る。

 

『・・・リョーコ、テンカワ君に何を言いたかったの?』

 

 よしっ! 今回は登場の瞬間を捉えたぞ、イズミさん!

 

 ・・・・・・ふ、虚しい。

 

『そうそう! テンカワに枝織! お前ら本当にすげえ腕だな!

 地球圏脱出の戦闘記録、見させてもらったぜ!』

 

『あ〜うんうん、とても人間業とは思えなかったよ。

 枝織ちゃん、ミサイルさばくなんてどうやってやったの?』

 

『え〜〜? ただ向かってくるのを手でどかしただけだよ?』

 

『・・・あのね、簡単にそんなことが出来たら苦労しないわ』

 

 枝織ちゃんにとっては出来て当たり前のことなんだろうな。

 ま、みんなに同じ事を求めるのは酷だ。

 

「みんな、サツキミドリが見えてきた。無駄話は終わりだよ」

 

『よ〜し、俺が先行して案内する!

 おめえらしっかりついて来いよ!! 警戒も怠るな!!』

 

『了解!』(みんな)

 

 

 

 

 

 

『デビルエステバリスだ〜〜〜〜!!』

 

 やはりバッタ達に捕われていたエステバリス。

 ヒカルちゃん命名、デビルエステバリスが通路上で俺たちに対して襲い掛かってきた。

 

 ヒュン ヒュン!

 

 狭い通路で上下左右に飛び回りこちらを撹乱する。

 まあ俺にとっては止まっているのとたいして変わりはないがな。

 

『く・・・ちょこまかと動き回りやがってっ!!』

 

『・・・狙いが定まらないわ』

 

 やはりみんなには見えていないようだ。

 とは言えこんなところで時間を使っても仕方ない。

 さっさと片付けよう。

 

 俺は持っていたライフルの銃口をデビルエステに向けた。

 

 

  ガシッ!!

 

           ズドンッ!!!

 

 

 はずしたら格好悪いのでしっかり狙いをつけた銃口が火を噴く前に、エステバリスの装甲が陥没する。

 飛び回るデビルエステに枝織ちゃんの乗るエステが飛びつき、両腕を極めた後で背中から踏み潰したのだ。

 

 あれがもし人間だったら両肩と背骨がいってるな・・・。

 

『うわ・・・すっご〜〜い』

 

『一撃・・・それも一瞬でかよ』

 

『古流柔術? ・・・いえ、少し違うか。

 どっちにしろエステでそんな技が出せるなんて信じられないわね・・・』

 

『う〜んとね、柔の技なんだけど・・・名前は覚えてないや』

 

 みんなの賞賛を浴びてる枝織ちゃん。

 それはいい。

 だが俺はこの構えてしまったライフルをいったい何処に向ければいいんだ!?

 

 

 

 

 

「ふう、やれやれ。なんか俺目立ってないな〜・・・」

 

 ナデシコの格納庫に帰って思わず哀愁に浸る。

 やることないぞ、本気で。まあ楽でいいのかもしれないが・・・。

 

 

 ピッ!!

 

 

『お帰りなさい、アキト君』

 

 通信はミナトさんからだった。

 まさかミナトさんから通信・・・しかも秘匿通信がかかってくるとは思ってもいなかったな。

 なにかあったのか?

 

「はあ、ただいま帰りました。

 なにか御用ですか?」

 

『・・・枝織ちゃんのことなんだけどね』

 

 少し困ったようにこめかみのあたりを指で抑えながら言葉を紡ぐミナトさん。

 その様子に俺は一気に不安になる。

 

「あの・・・枝織ちゃんが何か?」

 

『ええ・・・今日の枝織ちゃん、牧師さんの格好してたでしょ?

 それにこの前は看護婦の格好・・・。

 で、聞いてみるとアキト君に勧められたって言うじゃない?

 あなた、いったいなに考えてるの?』

 

 

 俺のことかっ!?

 

 

「な、なななな何言ってんですかっ!?

 そりゃあ・・・確かに勧めましたけどね。

 それは別に疚しい理由じゃなく・・・。

 そう! ただ純粋に枝織ちゃんに可愛い格好をさせてあげたかったんですよ!」

 

 まずいな・・・ここで常識人ミナトさんの不信を買ったら計画に大きな支障が出てしまう。

 なんとか切り抜けなくては・・・。

 

『だからってあんなマニアックな格好させなくたっていいじゃないの!?』

 

 まだまだ序の口ですよ・・・って、そんなこと言ったらお終いだろが!

 

「で、でもほら、ミナトさんは可愛いと思いませんでしたか?」

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

 お? これはいけるか?

 

「枝織ちゃんは前に言った父親のせいでまともな幼少時代を送ることが出来ませんでした。

 生活のほとんどが地下牢の中で、服も囚人服のような簡素な物しか着せてもらえなかったんです」

 

『そんな・・・・・・』

 

 正確には北斗が、だがな。

 枝織ちゃんは暗殺のときとか、結構着飾ることが多かったらしい。

 

「だったら、ちょっとくらいハメをはずしてみたっていいでしょう?

 そうは思いませんか、ミナトさん?」

 

 はずれてるのは俺のほうだとか言うツッコミはなしだ。

 

『・・・・・・そう・・・ね。そうかもしれないわね。

 ごめんなさい、アキト君。事情も良く知らないのにしゃしゃり出ちゃって・・・』

 

 よし! 誤魔化せた!

 

「いえ、そんなことないです。

 枝織ちゃんのことそこまで考えてくれてるなんて、本人もきっと喜びますよ」

 

『ま、これが私の性分なのよね〜。

 そうだ、アキト君。私のほうでも枝織ちゃんに色々着せてみていいかしら?

 ちゃんとした普通の女の子が着るような服をね』

 

「ぜひお願いします。

 よければその他にも色々と教えてあげてください。

 まだどこか世間知らずなところもあるみたいなんで・・・」

 

『了〜解! それじゃあね、アキト君』

 

「ええ、じゃ、よろしくお願いします」

 

 ピッ!!

 

 通信を切る。

 そうだよな。常識のある人の目から見れば枝織ちゃんの格好はかなり異常だったはず。

 

 ま、ミナトさんさえ仲間につけてしまえばあとはたぶん大丈夫だ。

 

 これは計画成就に向けての大幅な前進となるだろう。

 

 

 

 

 そう、全ては犬耳のために!!

 

 

 

 

 あとがき

 なにやらアキトが暴走してますね〜。

 模試の結果が最悪で、その気持ちを引き摺ったまま書いたらこんなものになってしまいました。

 僕がナデシコを見始めたのは劇場版が始まる少し前の深夜枠なんです。

 だからこの話はテレビ版見てないんですね。

 書いてて情景が浮かんでこなくて苦労しました。

 

 今回のコスチュームは神父服でした。

 でも実は学ランを着て欲しかった。

 さすがにそれは無茶苦茶でしょうと思って取りやめましたが。

 チアガールよりも学ラン・白手袋・長鉢巻の女子生徒に萌えるのは僕だけでしょうか?

 

 それから今回アキトの妄想のなかに出てきた北斗ですが、あれはあくまでアキトの妄想です。

 実際はどうなるかはまだ決めてません。

 

 泡踊り? ・・・なんですか、それは?

 僕はまだ未成年なので何があったのかよくわかりません(笑)。

 みなさんご自由に想像してください。

 

 次回はもうちょっと真面目になりたいと思っています。

 それでは読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

代理人の

「アキトさん。あなたは堕落しました(びしぃっ!)」のコーナー(笑)

 

気分が落ちこむと思わずダークなものを書いてしまう人は知っていますが、

気分が落ちこむと本能に忠実な作品を書いてしまう人と言うのは初めて知りました(超爆)。

それはさておき、本日の堕落ポイントはここ!

 

 人を愛し、愛されるということは本来ならばこんなにも素晴らしいことだったんだな・・・。

 

こう言うとなんかカッコイイですが、やってることはただの鬼畜(笑)!

偽善と言うのはあらゆる罪の中でももっとも重い罪だぞ(爆笑)。

そして、もう一つここだけは外せなかった、私的にツボ・ポイント!

 

「ふ・・・なかなか通だな、おめえも」

 

「いやいや、セイヤさんほどじゃありませんよ・・・」

 

 

おお、シャボン玉ホリデー(核爆)。

 

 

 

不定期おまけ連載

「緑麗さん、貴方は堕落しました(びしぃっ!)」のコーナー(超爆)

 

 

 僕はまだ未成年なので何があったのかよくわかりません(笑)。

 

 

緑麗さんの嘘つき(笑)。