機動戦艦ナデシコ
            あした
〜懐かしい未来〜


第6話 
“The Start”

西暦2195年。

第一次火星会戦。

「奴を火星に降ろしてはならん」

「チューリップ、衛星軌道に侵入」

「総員退避!本艦をぶつける!」


「地下がこれじゃ、地上は全滅だよ」

「デートしよ!」

「あたしね、アイっていうの」

「お兄ちゃんすごいすごーい!」


「・・・ジャンプ」

 


西暦2196年。


今日はナデシコ就航予定日の1週間前。
と言っても、結果的には就航日である。

「ガァァイ!!スーパァァーーアッパァァァァーーーッ!!」

何やら大声で叫んで派手に転んだピンクのエステバリス。
思い切り横倒しになったそのエステの横で、ウリバタケが溜息をついている。
パイロットは・・・ヤマダ・ジロウだ。

ちなみに、イネスは前回の歴史でナデシコに乗り込んだ後、それまでのナデシコの全航海記録を見ている。
記憶麻雀もあったし、彼の事は知っているが。

(百聞は一見にしかず、よね。
整備していないコックピットに乗ってあれだけ派手に倒れたら・・・足、折れてるんじゃないかしら?)

呆れて溜息をつく気にもなれないイネス。

「おたく、折れてるよ、これ」

「なぁぁにぃぃーー!!」

(・・・やれやれ。しょうがないわね)

コミュニケで医療班のメンバーを数人呼び出し、ヤマダを担架で医務室まで運ばせる。

「あっ!!俺の宝物、コックピットに置きっぱなしだ!!」

「宝物?」

まだヤマダの人格を完全に理解できていないイネスが聞き返すと、ヤマダは大声で答える。

「超合金ゲキガンガー3リミテッドモデルだよ!!」

(・・・なんでもいいけど、この人、何でいちいちこんな大声でしゃべるのかしら)

「後で取りに行けばいいでしょ。
誰も取らないわよ。
・・・いいから、連れて行って」

「あああ、俺の、ゲキガンガぁぁーーー!!」

(・・・バカ)

イネスが心の中でそう呟いたのも無理もないだろう。


(そういえば、アキト君が来ていないけど・・・前の歴史では、アキト君、いつ頃来たのかしら?
確か就航日に急遽雇われたって話だったけど。
そろそろ来てもいい頃よね?)

全く違う方向に思考が行っているが、イネスは今ヤマダの治療中である。

「ゆめがっ、あーすーをよーんでーいるーっ、と!!レッツ、ゲキガイン!!」

(・・・うるさいわね)

いっそ薬で眠らせてやろうかと考え始める。

『現在、敵機動兵器と地上軍が交戦中。
ブリッジ要員は直ちに戦闘艦橋に集合。
繰り返す、ブリッジ要員は・・・』

イネスが本気で薬を取りに行こうかと思った時、ゴートの放送が入る。
アキトは来たのだろうか、とイネスはそれしか考えていない。

「おおっ、敵かぁぁっ!!
こうしちゃいられねぇ!!
俺様の出番じゃねぇか!!」

そう言うと、近くにあった松葉杖を持ってブリッジに向かうヤマダ。

(・・・ついていけないわね)


「敵の攻撃は我々の頭上に集中している」

とりあえずイネスもブリッジに向かうと、作戦会議をしているようだった。

「敵の目的はナデシコか」

そう言ったのはフクベ提督。
この頃はまともな人だった。
・・・この頃は。

「そうとわかれば反撃よ!」

ムネタケ提督・・・この時は、副提督か。

イネスは基本的に人を嫌わないタイプである。
と言うよりも興味がないので好きも嫌いもないのだが、どうしてもこの人は好きになれない。
出来れば関わりたくないタイプだと思っている。
そのため、前回もムネタケのいる時には極力ブリッジに近寄らないようにしていた。

「どうやって」

もっともなツッコミをしたのはゴート。

「ナデシコの対空砲火を真上に向けて、敵を下から焼き払うのよ!」

ナデシコの主砲は真上は向かない。
ナデシコの構造も理解していないのかしら、と呆れ返るイネス。

「上にいる軍人さんとか、吹っ飛ばすわけ?」

「ど、どうせ全滅してるわ」

ミナトのセリフに対してとんでもない事を言うムネタケ。
この人は味方をなんとも思わないところがある。

「それって、非人道的って言いません?」

「きいぃぃぃ!!」

ムネタケはヒステリーを起こしかけているが、どう考えてもメグミの意見が正しい。

「艦長は、何か意見があるかね?」

「海底ゲートを抜けて、一旦海中へ。
その後浮上して、敵を背後より殲滅します!」

フクベの問いに、一寸の迷いもなく答えるユリカ。
さすがである。
確かに、この状況ではベストな作戦と言えるだろう。
・・・前回と同じなのだが。

「そこで俺の出番さ!!
俺様のロボットが地上に出て、囮となって敵を引きつける!
その間にナデシコは発進!
かぁぁぁ!燃えるシチュエーションだぁ!」

「何言ってるの、あなたは骨折してるでしょ」

「しまったぁぁーー」

イネスのセリフに、心底悔しそうな顔をするヤマダ。
自業自得である。

「囮なら出てます」

ルリの冷静な報告。
それに驚く一同。

「今、エレベーターにロボットが」

エレベーターで地上へ上昇中のエステバリスと通信が繋がる。

「誰だ、君は!」

フクベが叫ぶ。
ウィンドウに映っていたのは・・・


「ウラバ君!?」

これはさすがにイネスも驚いた。
コウジはイネスが確認した時点では、ナデシコの乗船予定者には入っていなかったのだから。

「あ、イネスさん」

「ウラバ君、そこで何してるの?」

「えっと、今朝ナデシコに乗る事が決まったんですけど。
ちょっと遅れちゃって」

ちっとも悪びれずに答えるコウジ。
しかもまるっきり答えになっていない。

「知り合いかね?」

フクベがイネスに尋ねる。

「ええ・・・」

「あ、僕は、ウラバ・コウジ。
科学班および整備班所属です」

「何でそんな奴が俺のロボットに乗ってるんだよ!!
それに、俺のゲキガンガーはどうした!!」

会話に乱入して叫び出すヤマダ。

「あ、これ、あなたのエステなんですか?
えっと・・・ゲキガンガー?
これですか?」

驚きもせずにそう言って、ゲキガンガーの人形を取り出すコウジ。

「ああぁぁぁーーっっ!!!
俺の、ゲキガンガーーっっっ!!」

さらに大声で叫ぶヤマダ。
ブリッジの人々は皆耳を押さえている。

「え、ええと・・・と、とりあえず、囮やってもらえるんですね?
それじゃあ、お願いします。
必ず無事に、戻って来て下さいね!」

「はい」

「俺のゲキガンガーっっ!!」

ヤマダの大声のダメージから復活しきらないまま、適当に話を進めるユリカ。
それをあまりにもあっさりと承諾するコウジ。
ひたすら叫び続けるヤマダ。

もう無茶苦茶である。

結局、どうしてコウジがエステに乗っているのかはわからないままだ。
まぁそれは戦闘終了後でもいいだろうが。
イネスはコウジがIFSをつけているのは知っていたが、腕前は知らないため大丈夫なのか不安になる。
それは他のクルーも同じだろうが。

・・・ユリカは除く。

「エレベーター停止。地上に出ます」

ルリの言葉とほぼ同時に、エステバリスは地上に出る。

「作戦は十分間。
とにかく敵を引きつけろ。
健闘を祈る」


イネスの不安に反して、コウジはなかなかうまくエステバリスを動かしていた。
攻撃はせずにひたすら逃げ続ける。

「見事な囮ぶりだ」

ゴートのお褒めの言葉。

(そうは言っても、いつまで持つか。
はっきり言ってあれだけの数のバッタから、十分間も逃げ続けるのは至難の業よ)

ナデシコに乗って多少変わったとはいえ、相変わらず悲観的な傾向があるイネス。
もっともイネスは事実を言っているだけなのだが、事実だけでは希望は生まれない。

「注水、8割方完了。
ゲート、開きます」

「エンジン、いいわよ」

「ナデシコ、発進です!!」


何とかうまく敵の攻撃をかわしながら、海の方へ向かうコウジ。

「ナデシコ、急速浮上」

急速と言っても、海中では相転移エンジンの働きはあまりに鈍い。
海面に出るにはもう少し時間がかかる。

コウジは、海にかなり近付いていた。
追い詰められている、と言った方が正しいかもしれない。

「くっ!」

仕方なく、海の方へ飛ぶコウジ。

(なんて無茶な事を・・・)

「ナデシコ、海上に出ます」

まるでナデシコが浮上してくる事を知っていたかのように、ちょうど浮上したナデシコにうまく着地したコウジ。
ナイスタイミングである。

「敵残存兵器、グラビティ・ブラスト有効射程内に全て入ってます」

「目標、敵まとめて、ぜーんぶっ!!」

ユリカの命令で、グラビティ・ブラストが発射される。
見事に殲滅される残存兵器。


「戦況を報告せよ!」

「バッタ、ジョロとも残存ゼロ。
地上軍の被害は甚大だが、戦死者数は5」

「そんな、偶然よ、偶然だわ」

「認めざるを得まい。
よくやった、艦長」

「まさに逸材!」

1人で喚いている約1名を除いて、口々に艦長を誉めるクルー達。

イネスはエステバリスに通信を開く。

「ご苦労様、ウラバ君」

「イネスさん。
良かったです、うまくいって」

「でも、どうしてあなたがエステバリスに乗っていたの?」

先程解かれなかった疑問を口にするイネス。

「エステの調整が終わったので、最終機動実験をしてただけですよ。
パイロットがいなかったもので。
そうしたらウリバタケ班長が、囮を出すらしいって話をしてたんで、
どうせだからこのまま出ちゃおうかなーと思って」

ウリバタケがブリッジの様子をモニターしていたらしい。
急な戦闘で、プロテクトが甘かったのだろうか。

「そんな軽い気持ちで戦闘に出たわけ?死ぬわよ」

「一応ちゃんと覚悟して出ましたよ。
だって、他に人がいないでしょう?
出来る事はやらなくちゃ」

(アオイ君並みの『いい人』ね。まったく・・・)

そう考えて溜息をつくイネス。

「僕は科学班にも所属する事になりましたから、改めてよろしくお願いしますね、イネスさん」

「ええ」


結局この日、アキトは現われなかった。



TO BE CONTINUED・・・

 

〜あとがき〜

――やっと本編に入りました。

イネス「まったく、プロローグに5話もかけてどうするのよ・・・。
でも、アキト君が出て来ないわね。
第一次火星会戦の話はものすごい勢いでカットしたし」

――はは・・・。
結局この話って主人公イネスさんになりそうですね。

イネス「最初は違ったわけ?」

――いやいやそういうわけではないですよ、イネスさんメインで書くことが当初の目的でしたとも。
アキトが出てこないと話は進まないんだけど・・・。

イネス「・・・執行部長としての自覚はあるの?」

――ありますともっ!
・・・アキトは暫く出てきません。
代わりにコウジが活躍します・・・多分。

イネス「相変わらず心許ないわね」

――アキトのいないナデシコっていうのを書いてみたかったんですが。
アキトがいないとユリカはどういうキャラになるのか!?

イネス「あなたの腕でそんなものが書けるの?」

――・・・出番が減るだけかも。
ユリカファンの方、ごめんなさい。
 それでは、次回をお楽しみに・・・。

イネス「楽しみにするほどのものでもないけどね」

――・・・ごもっともです。
では、感想は掲示板にお願いします・・・。

 

 

 

代理人の感想

 

執行部長がそんな事でどうします!

ここは例え嘘でも「イネスさんが主人公です!」と言い切らないと(笑)!

まあ、その結果何が起こるか保証はしかねますが(爆)

に、しても当分アキト君出番なしッスか? と、言う事は・・・・

その間にコウジ君にイネスさんの心を掴むべく色々と画策させようとする魂胆ですね(笑)!?

 

#当たるも八卦、当たらぬも八卦。

 

「おまけ」については・・・ノーコメントとさせて下さい(苦笑)。