機動戦艦ナデシコ
        あした
〜懐かしい未来〜 


第8話 “For What Purpose Do You Exist?”

地球連合軍は、火星に向かおうとするナデシコを阻止しようとする。
艦長であるユリカが流暢な英語でスピーチするも、交渉は決裂。
結果、ナデシコは7段階の防衛ラインを強制的に突破するしかなくなる。

とまあ、今のところ正史通りに進んでいるわけだ。


因みにイネスは現在ブリッジにいる。
防衛ラインに関する説明は必要だと思ってやって来たのだ。
最近説明の機会が無くて欲求不満だったらしい。


「現在地球は7段階の防衛ラインで守られているわ。
ナデシコはそれを逆に1つづつ突破していかないといけない。
スクラムジェット戦闘機の航続高度は既に突破、
空中艦隊は久しぶりのまとまった軍事行動に刺激された木星兵器と交戦中。
事実上この2つは無力化しているから、
現在は地上からのミサイル攻撃、つまり第四防衛ラインを突破している最中、というわけね」

「なんかめんどくさいの。
一気に宇宙まで出られないわけ?」

「そ、それがそうもいかないんだな」

メグミの言葉に答えたのはミナト。
イネスは説明を続ける。

「地球引力圏脱出速度は秒速11、2km。
それだけの脱出速度を得るには、
ナデシコのメイン動力源である相転移エンジンを臨界まで持っていかないといけないわ。
でも相転移エンジンは真空をより低位の真空と入れ替えることによってエネルギーを得る機関だから、
より真空に近い高度でないと臨界は来ない。
相転移反応の臨界点は高度2万km、でもその前に第三、第二防衛ラインを突破しないといけない・・・」

ガクン!

「ああっ」

ブリッジに衝撃が伝わり、振袖姿のままのユリカは見事に尻餅をつく。

「またフィールドが弱まったようだな」

ゴートが呟く。

「仕方ありませんよ、ディストーションフィールドは木星蜥蜴の重力波ビーム用装備、
実体弾による攻撃では多少のダメージもあります」

「ウラバ君・・・いつからそこにいたの?」

私の説明を奪ったわね、とイネスはコウジを睨みつける。

「ついさっき」

笑って答えるコウジ。
なかなかいい度胸である。

「艦長、着替えてきたらどうだね?」

いまだ尻餅をついたままのユリカに、フクベ提督が困ったように声をかける。

「はぁい、そうしますー」

明るく返事をしてブリッジを出て行くユリカ。
アキトがいなくても大して変わらない気がする。
実際、ユリカはアキトがいなくても諦めさえつけば意外とあっさり立ち直るだろう。
寧ろユリカがいないとダメなのはアキトの方だ。

「ウラバ、第三防衛ラインに到達し次第、ヤマダと一緒に出撃してもらう。
ドクター、いいな?」

「ええ、ヤマダ君の治療は大体済んでいるわ。
完治はしていないけど、出撃できるでしょう」

イネスの言葉に頷くゴート。

「ウラバも、わかったな?」

「はい、了解です」


第三防衛ライン。
コウジが発進する前に、ヤマダが勝手にエステで発進してしまった。
イネスの言う通り、抑制は意味が無いようだ。

「ゆめが、あっすっをよーんーでーいるー!!
たまっしーいーのさけーびさレッツゴーパッション!!」

ゴートやウリバタケの話も聞かず、何やら大声で歌いながら発進するヤマダ。

「大丈夫なの?あの人」

ブリッジでその様子を見ながら、メグミが呟く。
もっともな疑問だ。

「まぁ、あの人がダメでもウラバさんがいるし。
大丈夫なんじゃないの?」

自分でも納得していないような口ぶりで言うミナト。
コウジは現在格納庫で発進準備中だ。


ヤマダは武器を持たずに出て、空中で武器を受け取る作戦を考えていたようだが、結果は失敗。
当たり前よね、アニメじゃないんだから、と呆れ返るイネス。

(1−Bタイプを1つ使い物にならなくして。
きっと後でプロスさんから減給を言い渡されるわ)

ユリカの横でそろばんを叩いているプロス。
イネスの予想は見事に当たっていたりする。

仕方なく直接デルフィニウムを殴りつけて、9機中2機を落としたヤマダ。
しかし結局残りのデルフィニウム隊に囲まれてしまう。

発進準備を終え、コウジが発進する。

「もう、しょうがないなぁ」

呟きながらデルフィニウム隊の隊列を崩し、1機を落とした。

その時、デルフィニウムからブリッジに通信が入る。

『ユリカ、最後のチャンスだ、ナデシコを戻して!』

ジュン。
そういえば姿が見えなかったわね、などと今頃になって気付くイネス。
前回と同じように連合軍との交渉のときに置いて行かれたわけだ。
誰も気にしていなかった・・・と言うよりも、気付いていなかったようだが。

『ジュンくん』

『ユリカ、今ならまだ間に合う。
ナデシコを地球に戻すんだ!』

「相転移エンジン、臨界まで後19650km」

ルリが淡々と報告する。

『ごめんジュンくん。
私、ここから動けない』

『えっ』

『私が私でいられるのは、ここだけなの』

『どうして・・・どうしてなんだ、ユリカ。
・・・僕は君と戦いたくない』

ヤマダはこの間にも2機のデルフィニウムを落としていた。
しかし、今度は残りの機体に羽交い絞めにされてしまう。

『どうしてもと言うなら、まずこの機体から破壊する!』

『くっそーっ、はなせぇぇーっ!!』

本当に一流のパイロットなのか疑いたくなる。
多分、性格のせいで腕が落ちているのだろうが・・・。

(腕が良ければ性格は問わない、っていうのも考え物よね)

しかし、それはイネス自身にもしっかり当てはまっている。

「臨界まであと19550km。
エンジン稼働率50%」

『ナデシコを火星に行かせる訳にはいかない!』

『ナデシコの邪魔をすると言うなら、あなたを放っておく訳にもいきません』

ジュンの前にコウジが立ち塞がる。

『・・・わかった。
それなら、僕と一対一で勝負だ!』

『えっ、一対一ですか?』

驚くコウジ。

『あーっ、ずるいぞ、この俺を差し置いてーっ!!』

何とか羽交い絞めから逃れたヤマダが1機のデルフィニウムを落としながら抗議する。

『僕が負ければデルフィニウム隊は撤退させる』

ヤマダの言葉などまるっきり聞いていないジュン。

「ふむ、損な勝負ではありませんな」

宇宙そろばんを打って呟くプロス。
一体何の計算をしているのだろうか。

『・・・わかりました。
じゃあ、勝負ですね』

真剣な顔になるコウジ。

「臨界まであと19400km」

『アオイさん、どうしてナデシコの邪魔をするんですか?』

コウジがジュンの名前を覚えていたことにイネスは引っ掛かりを覚える。

(トビウメに置き去りにされたアオイ君とウラバ君はまったく接触していないわよね?
アオイ君と接触したのはブリッジ要員だけ、艦内放送でアオイ君の顔はみんな見ているけど・・・。
乗員名簿を見たのかしら?)

『火星に向かえば、ナデシコは反逆者だ。
連合軍と敵対することになる』

『いいじゃないですか。
みんなそれぞれの信じるものの為に戦ってるんです。
連合軍が地球を守れるとも限らないじゃないですか』

『違う!
僕は、この手で地球を守ってみせる!
正義を貫いてみせる!』

お互いに譲らない戦い、意見。

『地球の為なら、好きな人とも戦うんですか!?
そこまでして地球を守るのが正義だとでも言うんですか!?』

「臨界まで19000km。
第二防衛ライン射程圏内です」

残ったデルフィニウムは地球に降下していく。
ジュンが退避命令を出したらしい。

『好きな人が地球の敵になるのが、耐えられないんじゃないかっ!!』

ジュンの渾身の力を込めた攻撃。
コウジはそれを避け、ジュンに叫ぶ。

『どうしてですか!
自分の好きな相手なら、どうしてその人を認められないんですか!!
守りたい人がいるなら、その人の為にその居場所を守る、それだけでいいじゃないですか!!』

『!!』

ユリカは2人の会話を静かに見守っている。
意味が分かっているかどうかは疑問だ。

「臨界まで15000km。
ミサイル接近」

「今ミサイルが来たら避けきれないわね」

(さあ、どうするの?アオイ君)


方向を変え、ミサイルに向かっていくジュン。

『あっちょっと・・・あっ』

エネルギー範囲のギリギリで戦っていたコウジは、ジュンを追おうとしてエネルギー範囲外に出てしまう。

『しまった、エネルギー範囲から出ちゃった』

『こっちもエネルギー切れだー』

同じく追ってきたヤマダ。
ジュンのデルフィニウムは、ナデシコの楯になるように両手を広げる。

『あのバカ、ミサイルの楯に!』

バカって、ヤマダが言えた義理ではないと思うが。

『もう少しでナデシコが追いついてきます』

コウジの言葉通り、エステバリスはすぐにナデシコのエネルギー範囲内に入る。

「臨界まであと10000km」

(それにしても、極端ね、アオイ君。
地球を守る為には、好きな人の乗る艦とも戦う。
好きな人を守る為なら、命さえ投げ出す?)

『それはダメです!』

イネスの思考に同調するようにコウジが叫ぶ。

ジュンのデルフィニウムを捕まえるヤマダとコウジ。

『!』

『ダメです。
今命を捨てて守ったとしても、そんなの守った事になりません。
一度助けてそれで終わりなんて無責任です。
守るなら、最後まで側にいて、最後まで守り続けないとダメです』

まったくだ。
アキトに聞かせてやりたい、と思うイネス。

「臨界まで300km」


3機はナデシコに収容される。
ミサイルは、出力最大となったディストーションフィールドで防がれた。


その後ナデシコは第一防衛ラインのバリアに接触、バリア衛星は無理がたたって爆発し、ナデシコは宇宙に出る。



「今頃地球では核融合炉の爆発に伴う大規模なブラックアウトが起こっているでしょうね。
まぁ、自業自得かしら」

3人がブリッジに入ってくる。

「ユリカ、ごめん・・・」

「ジュンくん、謝る事なんてないよ。
ジュンくんはお友達として私のこと心配してくれたんだよね。
ありがとう」

「あ、いや、そのー・・・」

(哀れね、アオイ君)

さすがにイネスもジュンに同情する。

「まーまー。
生きてればいい事もあるって!
頼むから、俺より目立つ死に方はしないでくれよな」

「なんです?それ」

ヤマダに肩を抱かれ、ヤマダの持っている物に気がつくジュン。

「ああ、これ?」

「あ、この前のゲキガンガーってやつですか?」

「そ、ゲキガンシール。
6機も倒したんだぜ、俺のスペースガンガーに貼らなきゃ!」

コウジの言葉にヤマダは嬉しそうに答える。

「さて、じゃあ格納庫に・・・」

「と、そうはいかないのよね」

そう言って、突如ヤマダの後ろに現れたイネスはヤマダに無針注射で鎮静剤を打ち、眠らせる。

「わわっ」

倒れたヤマダをコウジが慌てて支える。

「あなたは仮にもまだ骨折中なんですからね。
戦闘以外の時は安静を守ってもらうわよ」

「もう聞いてませんって・・・」

ヤマダを支えながら苦笑いするコウジ。

「ウラバ君、悪いけどヤマダ君を医務室まで運んでくれない?
いくらなんでも私じゃ無理だし」

「はい」

コウジはそう言ってヤマダを背負い、医務室に向かう。

(これで目的の1つは達成できたかしらね)

コウジとヤマダを見送るイネス。

(かくして、ナデシコは火星へ向かう、か・・・)



TO BE CONTINUED・・・




〜あとがき〜

――なんか・・・途中でコウジが某謎のプリーストに見えてきた・・・。
そのあとはルリとかぶったりジュンとかぶったり・・・。
丁寧語キャラがみんな同じに見えてくる・・・。

イネス「・・・不様ね」

――いやイネスさん、それ違う・・・

イネス「細かい事はいいのよ」

――そうですか・・・。
ところで今回はたくさん説明できましたよね?

イネス「そうね。
5話ぶりくらいだわ」

――今回はたっぷりあったでしょう?
なんたって説明的なセリフ全部イネスさんに回したんですから。

イネス「何言ってるのよ。
ウラバ君に私の説明奪わせたくせに」

――いや、あれはですね、コウジのキャラをですね・・・

イネス「・・・気を抜かないことね」

――うう、怖い・・・(泣)
それにしても、話が進まん・・・。
だってイネスさんが自分から大きな行動起こすわけないじゃないかぁー。
アキトがいないと・・・。

イネス「よくそうやって本人の前で・・・。
でも、まだ暫くアキト君が出てくる予定はないんでしょう?」

――はい。
出せばいいだけの話なんですけどね・・・。
まだ暫くTV版通りの話が続くと思います・・・。
ではでは・・・。

イネス「感想は掲示板にお願いしますね」

 

 

代理人の感想

 

コウジくんの正体がだんだんバレてゆきつつありますね〜。

「平凡な好青年」の化けの皮が一枚ずつ剥がれてくようだ(笑)。

でも、同じ丁寧語でも某謎の神官とは似ても似付かないと思うんですが・・・私の気のせいですか(苦笑)?