機動戦艦ナデシコ
        あした
〜懐かしい未来〜 


第14話 “Return and Reunion”

コスモスに収容されたナデシコは、無事大気圏を通過して地球に戻ってきた。
現在は、ヨコスカベイに停泊中である。

「とまぁ、そういうわけでして・・・。
 ナデシコは、修理と補給の為1ヶ月ほどヨコスカベイに停泊します」

ブリッジにて、主要クルーにそう宣言したのはプロスだ。

「その間、ドックの一部に仮住居を設けますので、クルーの皆さんにはそこで生活して頂く事になります。
 勿論行動は自由ですが、街に出る場合は監視がつく事になりますので、そこはご了承を・・・」

それぞれに反応するクルー達。
アキトは、自然と前回と比較していた。

(ヨコスカベイか・・・前回は、ウチャスラワトツスク島やテニシアン島に行った後だったが・・・。
まぁ、今更歴史の変化には驚かないがな)

イネスが最初から乗っていて、逆にアキトは火星で合流、更に前回いなかったコウジが乗っている。
それだけで歴史の変化には十分な条件だし、8ヶ月のジャンプもしていないのだ。
これで大きな変化が出ない方がおかしいだろう。

「また、修理完了後の事について、いくつか連絡があります。
 先日、ネルガルと連合軍の間で共同作戦を取る事が決定しまして・・・ねぇ、艦長?」

プロスに促され、ユリカが言葉を引き継ぐ。

「あ、はい・・・それに伴いナデシコは、地球連合軍極東方面に編入されます」

自分でも納得し切れていないようなユリカの言葉に、クルーの間に動揺が走る。
勿論アキトとイネスは別だ。

「私達に軍人になれって言うの?」

反感も露わに言うミナト。

「一時的に協力するだけでしょう?」

そう言ったのはコウジだ。
そのコウジの言葉に、ブリッジの入り口から声が返ってくる。

「その通り!」

「誰? あんた」

突如入ってきたロンゲの男に、胡散臭そうに問うミナト。

「僕はアカツキ・ナガレ。助っ人さ。
 ま、さしずめ自由の旗の下に集った、宇宙を流離う海賊のようなものかな・・・」

   バシィン!

自己陶酔に浸っているアカツキの背後から、
アカツキに続いて現われた黒髪の女性が容赦なくハリセンアタックをかます。
アカツキ、ミナトを口説く前にあっさり轟沈。

「何バカな事言ってるのよ」

シリアスな話の最中で突然始まった夫婦漫才(勿論本人たちにそのつもりは無いが)に、
流石のナデシコクルーも呆気に取られる。
これは、アキトとイネスも例外ではない。

(エリナ・・・どこから出した、その
金属製ハリセン)

その場に見事に倒れ付したアカツキを見て、冷や汗をかくアキト。

「・・・え、えー、それではですね、次に新クルーの紹介をしておきます」

流石にプロスも平静ではいられなかったようだ。
まぁ、目の前で
下剋上が行なわれたら無理もないか・・・。

「私はエリナ・キンジョウ・ウォン、
 ナデシコの修理・補給が終わり次第、副操舵士として任務につきます。
 それから、
コレはさっき自分でも言っていたようにアカツキ・ナガレ、補充パイロットです」

紹介されるまでも無いと、進んで自己紹介をするエリナ。
アカツキは既に物扱いである。
・・・上司を上司とも思わぬその発言・・・。

こうして、ナデシコが軍に編入されるという事実は
思いっきり霞んだまま、ミーティングは終了した。

「・・・って、ちょっと待ちなさい!
 終わってんじゃないわよ!
 まだアタシの紹介が済んでないでしょ!」

怒鳴りながら乱入するキノコ・・・もとい、ムネタケ。
ムネタケは、今回もしっかり脱走し、平気な顔して戻ってきたのである。
あの時イネスはヤマダを助けただけでムネタケの脱走の方には関与しなかったから、
歴史通りになったわけだ。

「ああ、そうでした。
 今日付けで我が艦に派遣された、新しい提督さんです」

苦笑い混じりに紹介するプロス。
それを聞いて、クルーはそれぞれに感想を口にする。

「あれ、生きてたんだ」

あっさりとあんまりな発言をしたのはミナト。

「無能な提督は必要ありません」

絶対零度のルリ。

「キーキー煩いし、お飾りの方がずっとマシよね〜」

不満も露わなメグミ。

「・・・って言うか、誰でしたっけ?」

ジュンに言われたらおしまいだ。

「あ、あんた達・・・提督にそんな発言していいと思ってるの!?
 アタシは提督なのよ、て・い・と・く!!」

ヒステリー的に激昂して叫ぶムネタケだが・・・

「と、言われてもねぇ。ここ軍艦じゃないし〜」

そう言ったミナトを初めとして、地位をひけらかすムネタケなど誰も相手にしない。

「いくら権威を笠に着ても、無能は無能です」

「そうそう、キノコはキノコよね〜」

ルリの発言に、メグミが同調する。
ここぞとばかりに、ムネタケを叩く一同。
そんな調子で、ミーティングは概ね平和に終了した。
・・・やはり、ナデシコが軍属になるという事実は霞んでいたが。

「あら、どこに行くの?」

ミーティング終了後、廊下を歩いていたアキトに、たまたま通りかかったイネスが声を掛けた。

「ラピスを迎えに。
 サブオペレーターとしてナデシコに乗ると言う事で、会長とプロスさんには話をつけてある。
 研究所の方には会長が話をつけてくれたらしい」

話している場所が場所なので、念の為会長と呼ぶ事にする。
まぁ、どうせそのうちバレるだろうが。

「外に出るには、監視がつくわよ?」

「何もやましい事をしに行くわけじゃないんだ、問題ない」

「まぁ、そうね・・・気を付けてね」

「ああ」

そう言うと、アキトは再び廊下を歩き出した。
それをイネスが見送る。

「行ってらっしゃい」



研究所は、ヨコスカベイやヨコスカシティ、そしてアトモ社から少し離れた所にあった。
アキトは、今回はアトモ社では何をやっているのだろうか、などと考えながら歩いていた。

(そうだ、ラピスに今から迎えに行くと連絡しておかないと・・・)

・・・してなかったのか。

【ラピス、起きてるか?】

リンクを使ってラピスに話し掛けるアキト。
今までちっとも描写が無かったが、実は今は夜である。
イネスが「気を付けて」と言ったのも無理もないかもしれない。
何せ、アキトの格好は
例の黒マントだ。
流石に、バイザーは付けていないが。

一応戦闘服なので使い勝手は良いのだが、夜にそんなものを着て街中を歩いていたら、
はっきり言って
怪しさ大爆発である。
・・・イネスも止めてやればいいものを。

まぁそれはともかく、ラピスはまだ起きていたようだ。

【アキト!】

【今から迎えに行く】

【本当!?】

あまり感情を出さないラピスだが、今は喜びの感情が伝わってくる。
それほど、アキトとまた会える事が嬉しいのだろう。
しかし、それほどアキトに依存している事は、アキトにとっては複雑だった。
ラピスには、普通の女の子として過ごして欲しいと思っていたからだ。
そう、かつて、ルリと暮らしていた時のように・・・。

【ああ、もうヨコスカシティまで来ている。
 今から行くから、待っていてくれ】

【うん、わかった、待ってる】



特に何事も無く研究所に到着し、何事も無く研究所に入る事に成功したアキト。
ラピスは、研究室の窓際に座ってアキトを待っていた。
開かない窓から、少し欠けた月が見えている。
研究者の姿も無く、やや薄暗い部屋には、微かな月の光もよく届く。
白い月の光は、小さな妖精の姿を美しく飾っていた。

『ルリちゃんが電子の妖精なら、ラピスは小さな妖精ね』

そう言ったのは、向こうの世界のエリナだったか。
あまりに絵になる情景に、妖精、という表現に改めて納得するアキト。
その間にラピスがアキトに気付き、嬉しそうに飛びついてくる。

「アキト!」

「久し振り、ラピス」

そう言って、アキトはラピスを優しく抱き上げる。
今のラピスの肉体年齢は6歳、抱き上げるだけなら出来なくも無い年齢である。
前の世界では有り得なかった事なので、ラピスは喜んでアキトの腕に収まる。

「アキト、会いたかった」

「ああ、待たせて悪かった。
 じゃあ、ナデシコに行こう」

「ナデシコ・・・みんながいるところ」

「ああ、そうだ」

「アキトの大切な人がいるところ」

そのラピスの言葉に、一瞬アキトの動きが止まる。
ラピスが、ユリカの事を言ったのかどうかはわからない。
ルリも含まれていたかもしれないし、ナデシコクルー全体を指していたかも知れない。
しかし、アキトは瞬間的に、ユリカの事を考えていたのだ。

「ああ、そうだな・・・・・・さあ、行こう」



ナデシコに・・・正確には、ヨコスカベイに到着したラピスが最初に会ったのはイネスだった。
理由は簡単、イネスが迎えに出ていたからである。

「ラピス、久し振りね」

そう言って、ラピスに優しく微笑むイネス。
何度かリンクで話していたアキトと違って、イネスは地球を出て以来話もしていないから本当に久し振りだ。

イネスの言葉に、こくっ、と頷くラピス。
基本的に、ラピスはアキト以外の人物とはあまり会話をしない。
跳んですぐにイネスと話した時もほとんどアキトの言葉を伝えただけだったし、
ナデシコが地球を出る時はラピスにとってこれ以上無い程の緊急事態だったから特別だ。
この事も、アキトにとっては問題だった。

「ラピス、オモイカネと話をしてみる?」

ラピスから言葉が無い事は大して気にせず、少しかがんでラピスに話し掛けるイネス。

「オモイカネ・・・」

<私はルリ、これはお友達のオモイカネ>

あの時のルリの言葉が、ラピスの脳裏に浮かぶ。

「ナデシコのAIだ。
 ・・・しかし、オモイカネも点検するんじゃなかったのか?」

ラピスがオモイカネを知っている事を知らないアキトは、ラピスの言葉を疑問だと思ったらしい。
ラピスにオモイカネの事を説明し、今度は自分がイネスに疑問をぶつける。

「ええ、そうよ。
 でも、点検は明日からだし、点検するのは私だから」

あっさりと答えるイネス。

「・・・確信犯だろ」

「・・・何のことかしら?
 さあラピス、行きましょうか」

アキトに呆れた目で見られ、思いっきりすっとぼけるイネス。
そのままラピスの手を引いて歩き始める。

「・・・アキト」

イネスに引っ張られながら、アキトの方を見るラピス。

「行って来るといい。一度挨拶しておくのも良いだろう。
 イネスさん、ラピスは任せる。ラピスの部屋は俺と同じだ」

「わかったわ、後でちゃんと送る」

そう答えると、イネスはそのままラピスを引っ張っていく。
・・・今日ならルリちゃんもいるかもしれないしね、そうイネスが呟いたのを聞いた者はいなかった。



端末から、オモイカネにアクセスしたラピス。

<オモイカネ、私はラピス、サブオペレーター。これから、よろしく>

≪よろしく、ラピス≫

ラピスがオモイカネと挨拶を済ませる・・・専門的に言えばナノマシンを適応させると、
そこに話し掛けてくる声があった。

<あなたは誰?>

<・・・ラピス。ラピス・ラズリ・・・>

それが、2人の妖精の最初の会話だった。



TO BE CONTINUED・・・



〜あとがき〜

――いやー、今回はなんかぶちぶち切れてますね〜、シーンが。

イネス「ギャグなんだかシリアスなんだかわからないしね」

――確かに・・・。

イネス「それにしてもあなた、原作のシーンの再現が好きね」

――はい、大好きですとも。1話でアキトとイネスさんが跳ぶシーンからしてそうですからね。
  さて、アカツキ、エリナ、ムネタケ、ラピスと、新クルー大集合であります。
  それからラピスの年齢ですが、劇場版の時点で11歳、という事にしておきました。
  ・・・本当はもっと年上ですけどね・・・何となくイメージ的に。

イネス「ラピスは壊さないつもりだそうね」

――そのつもりです。・・・あくまで「つもり」ですが。

イネス「確かに当てにはならないわね、周りに影響されやすい人だし」

――でも、ラピスを壊すにはそのきっかけを考えないといけないですから、多分無理かと。

イネス「そういう理由だったの・・・?」

――いや、それだけではないですけど。

イネス「それもある事は認めるのね・・・。そう言えば、今回ウラバ君のセリフ一言ね」

――まぁ、基本的に今回はラピスメインのつもりなので・・・次回から増えると思いますよ、コウジの出番は。
  ああそう言えば、コウジの秘密はまだ明かされませんでしたね。

イネス「いくら何でもそろそろ引っ張りすぎだと思うんだけど」

――はい、次回もう1つ別の件の準備を入れて、16、17で謎解きです。
  さてそれでは、今回はこの辺で。例によって、感想は掲示板にお願いします。

 

代理人の感想

いやいや、人間転落にはちょっとしたきっかけで充分なものですよ(核爆)?

例えばどこぞのHPで管理人やってる某氏とか(超弩級爆)。

 

それはさておき。

 

ラピスに普通の女の子として暮して欲しいなら

まず黒マントをやめるべきだと思うのですがどうでしょうか(笑)。

情操教育にそこはかとなく悪影響を与えるような気が。