機動戦艦ナデシコ

『影(シャドウ)』

 

 

 

 

 

ナデシコと木星トカゲが戦闘を繰り返す中、遺跡はのんびりと食事をしていた。

ボソンジャンプをしてナデシコを移動させると宣言したという割にはやる気がない。

例え胸のうちで燃えていようとも、見るものを納得させることは難しいだろう。

しかも遺跡にやる気があるのかは、誰もわからない。

なものだから、その食事をしている遺跡をイライラしながらホウメイは眺めていた。

足をコツコツ床へと当てながら踏み鳴らしている。

このような態度で訴えているのだが、遺跡は全く気にしない様子であった。

 

「うまいのう。特にワインだの、日本酒だのを使った料理は最高じゃ。

 こういうのを食べれるというのは、わしは幸せものじゃの〜う」

 

        もぐもぐ

 

愛らしいくまのヌイグルミの体を持ちながらも喋る言葉は爺むさい。

まるでファンシィな世界から抜け出そうとして、失敗してしまった物体のようである。

それはともかく、先だってカツ丼、親子丼を大量に食べた癖にまだ入るらしい。

忙しなく丸っこい手を動かしながら机に並べられた料理を消化していく。

ちなみに飲み水の代わりに酒で流している。

 

「あんたはナデシコを移動してくれるんじゃなかったのかい?

 それなのに、ちっとも作業に取り掛かってくれないじゃないか。嘘なのかい」

 

「ん? 移動?」

 

「このナデシコを瞬間移動させると言ったじゃないか!!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おぉ」

 

さも驚いたという風に身じろぎしている。

移動させるのを忘れていたのか、それとも本当にホウメイの言葉に驚いたのか。

どっちにしろ、ホウメイとしては移動させてないのは一緒だ。

その為、普段滅多に怒らないホウメイでも多少凄みを増した顔を近づけて口を開く。

対照的に遺跡はまん丸なガラス目をホウメイへと向けている。

 

「まだ腹八分目だとか言うから仕方がなく食わせてやってるんだ。

 この料理が移動させる報酬なんだろう?

 だったら、報酬を食べるよりも先にナデシコを移動させたらどうなんだい」

 

ブリッジで作戦が決定してから、遺跡は腹が減ったからと食堂へとやってきた。

何故か、移動する準備もしないで、食事を要求する姿を見てホウメイはそう考えたのだ。

 

「は?  何か勘違いしとりゃせんか?」

 

「ん? もしかしてやらないつもりかい」

 

「違う、違う。

 お嬢ちゃんは、言ったな。この食事が跳躍をすることの報酬じゃと」

 

「うん?」

 

「つまりだな、わしが跳躍計算する為には本体に接続せねばならん。

 それでナデシコを跳躍させねばならんのじゃが、その為には燃料を補充せんといかん」

 

「ということは、その為に食べてると?」

 

「そうそう、その通り」

この機械なくせに、異常に食事を続ける理由を聞きホウメイはひとまず納得した。

 

 

 

          ……………ゲップゥ

 

 

 

「・・・なんか信用ならないねぇ」

 

「ちょ、ちょい待たんかい!!

 確かに無作法だったかもしれんが、それは酷いんじゃないか!?」

 

「この戦闘中に仕事もしないで、食べてばっかりの奴を信用なんてできるわけないだろう」

 

「くっ・・・し、仕方がないのう。

 まだまだ満腹とまではいかないまでも、一回ぐらいならばいけるじゃろう」

 

全然膨らんでいないお腹をさすりながら遺跡が席を立つ。

優しくお腹をさすっているが、とても食べた量が入っているとは思えない。

そのお腹をホウメイが見詰めているうちに、遺跡は動きを止めていた。

何か不都合でも起こったのかと、ホウメイが遺跡の前で手を振ってみる。

だが、遺跡はホウメイの行動に対して、まったく反応を示さない。

目の部分に当たるガラス玉は光を失い、丸っこい腕はだらりと垂れ下がっている。

 

「ちょ、ちょい。大丈夫なのかい?」

 

「―――心配せんでもいいぞ。

 今、わしは本体に接続して跳躍の為に演算しておるのじゃから」

 

計算が終わったのだろう。

ひょいっと手をあげながら、何をしているのかをホウメイに向かって説明する。

 

「何だかあっさりとしてるね」

 

「まあ跳躍、お嬢ちゃんからして見れば瞬間移動みたいなもんかもしれんが、

 こういうことは、わしには日常茶飯事なことじゃったから。

 それに演算しているのは、本体がある場所で行っておるからのう」

 

何やら本体だのと、不穏当な台詞を吐き出すが、ヌイグルミの体に変化はなかった。

先程まで料理を食べていた頃の姿と一緒である。

 

「それと、艦の周りをうようよしている作業用機械をどかしてくれんか?

 どうにも跳躍させようとしても、奴等がうろうろしているからやりにくくていかん」

 

「今、パイロット連中が、それをしているんだろうよ」

 

「それでものう、もっと―――」

さらに遺跡が言い募ろうとした瞬間であった。 全乗員に向けて、大声をあげてきたバカがいたのである。

 

 

 

 

「そこまでだ、キョアック星人ども!!」

 

 

 

 

「さっきからの、あの振動はなんじゃ?」

 

遺跡がコミュニケから流れてくるバカでかい声についてホウメイに尋ねる。

食事をしている最中も流れていたので、遺跡としても気になったらしい。

ホウメイは、苦笑いを浮かべながらも声、即ちガイを遺跡に対して、こう紹介した。

「ああ、ナデシコを代表するバカってところかね」

 

「ふん?」

 

遺跡が手を一振りすると、外の様子を映しているウィンドウが表示される。

そこには、耳が痛くなる程の大声を発する人型ロボが映っていた。

宇宙空間を縦横無尽に動き回りながら、ナデシコの周りを飛んでいるバッタを屠っていく。

 

 

「くそぉ!! 俺の初登場がぁ!!

 見ていろよ!?

 てめぇらだけは、絶対に許さねぇ!!」

 

 

激怒しながら戦場を駆け抜ける姿は、確かにヒーローとしては見栄えはいい。

だが、怒りを抱く場所が、どこかズレているのはガイ故なのだろうか。

一緒に戦っているはずのパイロット達も、恥ずかしさに顔を染めながらバッタを退治していく。

やはり、同僚があんなのだと嫌なのだろう。

 

「なあ、あいつって撃墜しても良いのかな」

 

「そうね、バカがうつったりしないうちにね」

 

その会話を聞きながら、遺跡は「ふむっ」と顎へと手を添える。

何やら思案顔の遺跡を見ながら、ホウメイは成り行きを見守っていた。

 

「ああ、これこれ君等」

 

「ん、ヌイグルミが通信してきてるぞ」

 

「そろそろ跳躍しようと思ってるんじゃが・・・艦の周りの奴等がうっとうしい。

 何しろ跳躍しようとしても、ブンブン飛び回って質量計算をやり直させるからのう」

 

「・・・難しいことはわかんねぇよ。

 だけど、あいつらを艦から離せばいいんだな」

 

「そうじゃ、引き離すと同時にお前らは艦へと近づいといてくれ」

 

「・・・まあ碌な提案がないからな。

 とりあえず乗ってやるよ」

 

          ピッ!

 

「さて、後はその瞬間を見逃さぬだけじゃな」

 

「本当に大丈夫なんだろうね?

 失敗して、全員やられましたなんてことにならないだろうね」

 

「まあまあ、茶でも飲みながら待つかのう」

 

          コポコポ

 

ホウメイが茶を自分と遺跡のぶんに注いでいく。

その和の心が満たす充足感が、まったりとした空間を作り上げる。

どこから持ってきたのか、和菓子をテーブルの上に置いて待つ。

 

 

 

 

「うぉぉぉぉ、今だヒカルぅ!!」

 

「ゲキガンカッタ〜♪」

 

 

 

 

宇宙で行われている戦闘をウィンドウで眺めながらひたすら待つ。

遺跡も何もパイロットが憎くて、このような行動を取っているのではないのだ。

今まで料理を食べて得た燃料を無駄に消費しない為である。

 

「お、この塩饅頭はいけるのう」

 

「甘いものばかり、食べてるといけないね。

 塩気の多いものを探してくるよ」

 

「おう、頼むわい」

 

旨そうに餡子の詰まった白い饅頭を食べていく。

やはり一回分の燃料が、足りなくなるという不足の事態に備えているのかもしれない。

 

「くぅ〜、茶と合うのう!!」

 

ただの悪食なのかもしれない。

 

 

 

「よし、敵は怯んだよ。リョーコ」

 

「よっしゃあ、急いでナデシコに戻るぞ!!」

 

「はあ。なんだか、この戦艦に乗ってから、ため息ばっかりついている気がします」

 

 

 

「むっ!?」

 

コミュニケのウィンドウから流れる情報で外の状況が変化したことを知る。

 

「全員、帰還・・・しとるじゃろうな。

 よしっ!!

 演算開始、並びに跳躍じゃぁ!!」

 

「え」

 

ホウメイがスナック菓子を手に持ちながら、遺跡の声に戸惑い足を止める。

そして、跳躍は始まった。

 

          キィィン!!

 

遺跡の体から不可解な文様が浮かび上がる。

その文様から放たれる光芒が、次々にヌイグルミの体を駆け巡っていく。

遺跡のガラス玉からも盛大に光りが放たれた。

そんな様子をホウメイは、眩しそうにしながらも、必死に見ている。

 

「本当に、とんでもないものだったってことかい」

 

目を細めながら、そう呟く。

黄金色の輝きは、部屋中に満ちてゆき、高潮を迎える。

そして、ボソンジャンプは終了した。

 

「・・・お、終わったのかい?」

 

「終わったぞ、ほれ」

 

ホウメイの呟きと共に、遺跡が軽やかに腕を振ると外の様子がウィンドウに表示された。

 

 

 

 

 

 

 

 

巨大な質量を持つUFOが、宙に浮かんでいた。

丸い船体の中央から穴が出現すると、そこから長方形の物体が落下していく。

長方形の物体は、黄金色の光を放つ奇妙な物体であった。

光で遮られるが、不可思議な文様が入っていた。

その物体が落下する場所は、巨大なクレーターが存在する大地。

その光景は、まるで土に種を植える時のように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、間違えた」

 

ぽつりと遺跡が漏らす。

遺跡が犯したミスは、とんでもない場所へとナデシコをいざなっていた。

場所は、火星。それも時間軸が最悪である。

何しろ空飛ぶUFO。大地に穿たれたクレーター。そして、そこへ降下していく物体。

だが、そんな裏事情を知るものが、仰天するような場所でもコックのホウメイには関係がなかった。

 

「間違えたなんて言う気じゃないだろうね?」

 

妙に冷めた目で、遺跡へと問い掛ける。

その問いかけに対しての遺跡の返答は、こうであった。

 

「もう言ってるわい」

 

「だったら、さっさと別の場所に移動させたらどうなんだい」

 

呆れたようにホウメイが、遺跡に次の場所へと移動するように促す。

 

「ちょっと燃料の残りが気になるが・・・仕方がない。

 はぁ!!」

 

また作業を繰り返す。

光が噴出し、文様が体を走り、という風である。

とにかく二度目の作業が終了し、もう一度外の景色をウィンドウが映す。

 

「ほれ、地球じゃ」

 

「……地球に似てはいるね。

 だけど……ねぇ。

 土偶が空を飛ぶなんて聞いたことがないねぇ」

 

「いや、あれはジュピトリアンと言ってな――」

 

「あ〜、もう面倒ごとっぽいから。次に移動しておくれ」

 

「はぁ!!」

 

 

 

 

 

三度目の正直。

 

「ほれ、どうじゃ」

 

「・・・マンモスは絶滅したと思うんだけどねぇ」

 

              ぐ〜っ!

 

「まったく重労働じゃのう」

 

               スカン!!

 

「イタッ!! わ、わかったわい」

 

 

 

 

 

四回目

 

「くっ、燃料が……どうじゃっ!!」

 

「・・・また間違えたんじゃないかい?

 たくさん火星でキノコ雲が見えるんだけど」

 

「ああ、植民時代かの。

 今の戦争の根源が、あれじゃな」

 

「???」

 

おっと、マズい。次にいくぞ!!」

 

 

 

 

五回目(アマテラス爆破)、六回目(漆黒の戦神)、七回目(恐竜絶滅)、

八回目(マスターホウメイ)、九回目(時間軸正解、場所が太陽に近い)、十回目(時空の狭間)―――――…。

 

「こ……これで……どうじゃあぁ〜ー……」

 

青く澄み渡った空が広がり、白い形の定まらない雲がふよふよと浮いている。

ナデシコは、それらの下にある静かで穏やかな海にぷかぷかと漂っていた。

 

「ま、間違いない。  時間軸もバッチリじゃ……場所も地球」

 

「やれやれ、やっと帰って来れたのかい」

 

              バタッ!!

 

そして、平和な風景を余所に、すっかり干からびてしまった遺跡が倒れる。

ヌイグルミの癖にカサカサになるほど、演算を間違えたということだろう。

それはともかく、遂に地球から火星へ、火星から地球への長いナデシコの旅は終了を迎えた。

そこかしこで、地球へと帰還したことを話し合う声が聞こえる。

 

「あの黒い機体って凄かったなあ!!

 なんだっけ!? 秘剣、竜吼斬だっけな!?」

 

「俺等って、エステで艦外で見たからなあ。迫力あったよなあ。

 ……危うく太陽に吸い込まれそうになったし」

 

「うんうん、面白かったよねぇ」

 

「あの、本当に……ここって合ってるんですか?」

 

「ヌイグルミが確かめたってさ。

 ……蚊を+してメールみる……足し蚊メール」

 

「だから、そこんところがなんですってば!!」

 

ミユキの悲痛な叫びは、青い空が吸い込んでいく。

こうして地球から火星までの旅の終わりは、まったくもって情緒がない終わり方と締め方であった。

 

 

 

第16話にジャンプ!!

 

 

あとがき

 

ども、Sakanaです。

アキトがガスマスクを外しているので、ここらでいきなりというのも有りかなと一瞬思ったりしました。(ヲイ)

だけど、それは幾ら何でもアレなので断念。

とりあえず何の情緒も感動もないままに、ナデシコは地球へと帰還してしまいました。

おかしい……最初は、もっとこう殺伐とした物語にする予定だったのに……。

一体、どうしてこんなところまで来てしまったのだろう。(爆)

まあ戯言はともかく次回からは、ナナフシやらジンやら戦車やら白クマやら盛りだくさんです。

こんなSSですが、ここまで読んでいただいた方々、ありがとうございます。

 

○もしかしたら代理人が疑問を抱えて悶々としているかもしれないので返事を書こうのコーナー(一息に読む)

 

第十四話より抜粋

>勘違いから始まる恋だってあるさ。(爆)

すいません、始まりすらもしませんでした。(ヲイ)

ここはギャグに走らない方が良かったのでしょうか。

 

第十四話その2より抜粋

>ひょっとしてSakanaさんも大蒲鉾症候群の気がおありで(爆)?

あ、ありませんよ?(笑)

 

第十四話その3より抜粋

>勝○造というのも例外に入れておいて下さい(爆)

わかりました(核爆)

ということで、次回の更新では『影(シャドウ)』第十四話その2は大幅訂s(撲殺)

 

第十四話その4より抜粋、というより全部

>身につまされる代理人の感想

>は、は、あはははははははははは(汗)

>痛い、痛いよ。胸が痛いよぉ(爆)

ひょっとして鋼の城さんはプロスさんの境遇に心当たりがおありで?(核爆)

 

メグミ:「という訳で、coming soon!(超嘘)」

 

 

 

 

代理人の感想

結局、変身シーンも必殺技も巨大化後の外見の描写もなしか。

哀れガイw

 

 

>>勘違いから始まる恋だってあるさ。(爆)
>すいません、始まりすらもしませんでした。(ヲイ)
>ここはギャグに走らない方が良かったのでしょうか。

勘違いから始まらない恋だってあるさ!(爆)