機動戦艦ナデシコ

『影(シャドウ)』

 

 

 

 

 

 あれから、ジャングル付近まで逃げてきたユリカは足を止めていた。

 周りにはユリカと同じように、無人兵器から逃げてきたクルーの姿がある。

 

 周囲が騒がしかったが、ユリカには関係がない。

 

 遠くで展開される戦闘を、ここについてからずっと見続けていた。

 派手な煙を撒き散らしながら行われている戦闘は、今やガイが優勢である。

 

 無人兵器とは言え、機動兵器。

 それを、強化服を着ているからとは言え、ガイが渡り合えるような状況が信じられなかった。

 

 現に近くにいるイネスは眉を顰めていた。

 

 何やらくどくどと呟き、性能以上の能力を発揮しているなどとぼやいている。

 その不穏な言葉を聞くだけで、今度はガイがナデシコのようになってしまうのかとユリカは不安になった。

 

 映像が奔る。

 視界を一瞬で焼き尽くした光、なすすべもなく周囲に散らばった残骸。

 

 思わず、声をあげていた。

 

 

「木星トカゲのバーカ!!」

 

 

 いきなり大声をあげたからだろう。

 周りのクルーが不審そうにこちらへと顔を向けてきている。

 

 それを無視し、ユリカは遠くにいるであろう木星トカゲを睨み続けた。

 

 視線で壊せれれば良い。

 そんな剣呑さが含まれている。

 

「おい、ユリカ」

 

 背後から声がかけられた。

 振り向けば、アキトが頭をポリポリかきながら突っ立っている。

 

 周囲の視線が気になるのだろう。

 やたらと落ち着きなく、キョロキョロと視線をあちこちに送りながら口を開いた。

 

「あ、あのさ。

 ナデシコはああなってしまったけどさ、艦長なんだから元気出せよ」

 

「え」

 

「あ、いや。違うか。

 なんていうのかな、そんな風にウジウジ悩むのはらしくないっていうか」

 

「そっか。そう、かもね」

 

 その物言いに、気を抜いてしまう。

 確かに悩んでいたのだろうと思い、考えていた思考を全部とっぱらってしまう。

 

 だから、だろう。

 

 ユリカは自分でも思ってもみない行動に出ていた。

 アキトがあげた小さい驚きの声を耳にする。

 

 目の前にあるのは、生活班の黄色い制服。

 今、ユリカはアキトへと体を預けていた。

 

「ちょっと、疲れた、かな」

 

 服越しに感じられる体温を感じながら呟く。

 

「え。何か言ったか?」

 

「なんでもない」

 

 周りの喧騒を耳にしつつ、ユリカは今を考えるのをやめた。

 

 思い出すのは、連合大学での光景。

 人の流れをひとりで眺めていると、ノイズのように耳へとこびりつくものがある。

 

 親の御威光だ、七光りだ。

 それは、軍へと進路を決めた時より付いて回った呪いであった。

 

(私は私なのに)

 

 ノイズは続く。

 成果を出せば傷口を開くように囁かれる。

 

 言葉は強引に傷口を開いていき、中にあるものを傷つけていく。

 そのうち、次第に開いたところから黒いものが噴き出してくるのを感じていた。

 

 黒々としたものは、ノイズを聞けば反応する。

 例え顔は笑っていても、胸の内は黒いものが流れていく。

 

 そうして、焦燥ばかり積んでいったある日。

 軍から艦長としてスカウトしたい話があることを聞かされる。

 

 その話はミスマル ユリカとして呼ばれていた。

 

 だから、それに対して答えたのだ。

 一も二もなく、気付けば差し出されてきた契約書へと確認もせずに契約を結んでいた。

 

 後々に思い返せば、軽率な行動である。

 

 だが、この胸の内を駆け巡る焦燥を消せるはずだったのだ。

 消して自分に対して、真っ直ぐに向き直れると思っていた。

 

 それなのに、艦を守ることができなかった。

 

(―――っ!!)

 

「あれ」

 

 と、間の抜けた声が聞こえた。

 溢れる激情を抑えながら、顔をあげる。

 

 そこには、何やら呆けた顔でアキトがナデシコの方向を見ている。

 

「?」

 

 そちらへと顔を向けると、視界を阻むように夜叉が一人立っていた。

 ギラギラと疲れのせいで脂ぎった目付きで、こちらをギロリと睨んでくる。

 

 走ってきたのか、息も荒い。

 

 しかも、人を背負っている為、カニのように大股開きである。

 そんな状態で無言で睨まれてしまい、ユリカは文字通り縮み上がった。

 

「えっと」

 

 とりあえず、意志疎通を図ろうと試みる。

 だが、それが相手にとってのタイミングになったようだ。

 

「こっちは死にそうな目に遭ったのに、そっちは二人で異次元空間かぁぁ!!」

 

            ダッ―――げしぃ!!

 

「ひゃー!!」

「うわー!!」

 

 子供とは言え、人を背負った状態でドロップキックを決められる。

 空気と同化したかのように、滑るような動作でアキトとユリカを蹴飛ばす。

 

 ついでに、着地も完璧であった。

 

 その動作とは対照的に、蹴られた二人は無様にも地面に横たわる。

 そんな姿を見て少しは溜飲が下がったのか、メグミは鼻を鳴らす。

 

 メグミの後ろでは、同じように逃げてきたリョーコらが頭をかきながら経緯を見守っている。

 

「何やってるんですか!?

 子供でさえ意地張っていたというのに、御二人は抱きしめあってるだけなんて!!」

 

「え、どういうこと?」

 

 ユリカがドロップキックをされた事情が分からなくて聞く。

 すると、ぷぅっと頬を膨らましてから、メグミは声を張り上げた。

 

「わかってない!

 わかってないですよ!!」

 

「だから、何がですか」

 

「ですから、不本意とは言え、ヤマダさんが戦っていますよね。

 ええ、あの人しぶといですから、心配する必要なんてないかもしれません」

 

 ルリを地面へと静かに降ろしながらそう伝えてくる。

 

「だけど、艦長が頼りないと困るんですよ」

 

「……」

 

 艦長も何もあったものではない。

 既にユリカは、自分の艦が吹っ飛ばされたばかりであった。

 

 だから、艦長と呼ぶには語弊が生じる。

 

「分かります?

 艦長はいてもいなくても構わないんですけど、頼りなかったら困るんです。

 ま、艦が壊れたら艦長じゃないかもしれませんね。

 だったら艦長代理として頑張りましょうか? ね、提督!!」

 

 都合良く、地面に座り込んでいたフクベに問う。

 その問いに、フクベは眉の間から見せる澄んだ目を向けて答えた。

 

「ふむ、飯―――」

 

「提督も言ってますよ!!

 良いですか、まだやる気があるんだったら、しっかりしてください!!」

 

「―――」

 

 もうたくさんだった。

 

 艦長としての心構えを一々説教される覚えはない。

 だが、このまま居場所を放棄するつもりもなかった。

 

 もみくちゃに倒れていた状態から、スッと体を起こす。

 アキトが下敷きになってくれたおかげで、体に支障はない。

 

 そして、遠くに見えるナデシコの残骸を、意志の灯った瞳で見つめた。

 

 過去を思い返すのはやめた。

 だから、周囲の様子が分かる。

 

 周りにいたクルーは、気付かなかっただけで色々と行動していたようだった。

 

 何時の間にか、クルー以外にも黒服がたくさん周りにいる。

 いや、いたのだが、気付かなかっただけなのだ。

 

 他にも、ユリカを見ているクルーだけではなかったらしい。

 ジャングルの奥へと走っていく者がいたが、どうやらクリムゾンの施設へと向かっているようだ。

 

(そう、艦長は最後まで責任を果たさないと!!)

 

 もう立ち止まっている場合ではない。

 

 

「皆さーん、聞いてください!!」

 

 

 そのユリカがあげた大声に、全員動きを止める。

 視界の端に耳を塞ぐ者が見えたが、それに構っている時間はない。

 

 さらにユリカは続けた。

 

 

「ナデシコを直しましょう!!」

 

 

「 「 「 「 「 はあ!? 」 」 」 」 」

 

 それは、いつものハチャメチャな注文であった。

 

 前の釣り大会やパーティの時と、なんら変わっていない。

 今の状況を無視した提案でしかなかったが、周りのクルーは全員動きを止めてユリカを見続けている。

 

「艦長、ナデシコって、アレをか!?」

 

 当然、ウリバタケが驚いたような声をあげた。

 

「ええ」

 

 力強く頷く。

 その態度から意志が固いと思ったのか、ウリバタケが説得を始める。

 

「そりゃ、俺だって結構乗ってきた艦だから直してやりてぇけどよ。

 だけどな艦長、あそこまで吹っ飛んじまったもんを直せって言われてもよう」

 

「いいえ、直してください」

 

「まあ聞けよ。戦艦だけに精密な奴とか、専門的な部品がいる箇所とかあるんだ。

 それに直すって言われても、敵はどうやら変な砲台で地球を狙っているらしいしな」

 

               ピッ

 

 ウィンドウで映像を映す。

 そこには無骨な形をした奇妙な物体が宇宙に浮かんでいた。

 

「こんな状況で作れるのかよ。

 いや、違うな。今の地球にはあれを防ぐ手段はねぇ、俺達の負けなんだよ。

 ナデシコをあれにぶつけるにせよ、今から直していたんじゃあ間に合わねえ」

 

「それは何を基準にして言っているんですか?」

 

「な、なに?」

 

 一般的な技術者の見立てとしては正しい。

 確かに直せないかもしれないが、ことナデシコに関しては正しくないのだ。

 

「プロスさん。

 ナデシコのクルーを選考した基準はなんでしたか?」

 

 黒服と一緒にいたプロスへと向き直る。

 

「艦長、本気ですか」

 

 答えを言わず、震えるような声で確認してくる。

 当然である、何を言いたいかを察知したのだろう。

 

「もう一度聞きますよ。

 ナデシコのクルーを選考した基準はなんでしたか?」

 

「それが答えだって言うんですか」

 

「今だけで良いので、お願いします」

 

「……ナデシコのクルーの選考基準は、性格はダメでも腕は超一流でしたかな」

 

 プロスが答えを返した。

 それを言い終わらない内に、ユリカは口を開く。

 

「そうです!

 例えどんなに無茶だったとしても、それを形にするのが私達なんです!」

 

 その言葉に、周囲は唖然としており、ポカーンとしている。

 細かくバラバラにされたナデシコを、気合で直せと言っているも同意なのだ。

 

 しかも計画性ゼロ。

 どうやって直すとか、時間のあるなしのことなど一切考えてすらいない。

 

 ただ、直したいとユリカが喚いているだけだ。

 

 だが、それなのに誰もが動きを止めていた。

 そして、

 

「ふふっ」

 

 可笑しそうにメグミが笑い始める。

 

「メグちゃん?」

 

「いえ、面白い提案です。

 ナデシコを直すだなんて、本当に可笑しいんですけど」

 

 そこで一旦ルリへと目を向けた。

 地面で寝そべっているにも関わらず、スヤスヤと眠りについている。

 

 その様子を見て、何か胸に去来するものでもあったのだろう。

 

「良いですよ。

 その話に乗りました」

 

「め、メグちゃん!!

 今までメグちゃんのこと怖い人だと思っていたけど、今度からは認識を変えるね!!」

 

 相手の手を握り、ブンブン上下に動かしながらそう言う。

 メグミは、ただ黙ってその握られた手を見つめ返しており、ユリカの手を振り解こうとはしない。

 

 そして、こう言ってきた。

 

「手を組むのは初めてですね」

 

               にやり

 

 邪笑を浮かべ、メグミがそう呟く。

 手を振り解いて、懐から掌サイズの小瓶を取り出す。

 

 説明好きな人間が「あれ」と呟くのが聞こえる。

 そして、メグミは辺りで様子を伺っていたクルーへと、こう宣言した。

 

「良いですか!!

 もしナデシコを直すのに賛同しなかった場合、これを容赦なくかぶせますからね!!」

 

 メグミが取り出した小瓶。

 それは茶色のガラス瓶であり、中には瓶の半分ぐらいまで液体らしきものが入っていた。

 

 ラベルにはドクロマークにバッテン、下には赤い文字でDANGERと書かれている。

 いかにも怪しさ満点な物体であった。

 

「いや、そんな薬がなんだってんだよ」

 

 しかし、それを見たクルーの反応は鈍い。

 たかが薬と、高をくくっているのだろう。

 

 だが、ポンッと手を叩きながら、イネスが呟いた言葉に全員の反応が変わった。

 

「あのラベルどっかで見覚えがあると思ったら、私が作った薬だ」

 

               ぴきっ

 

 空気が凍る。

 数瞬後、メグミを中心に、サササッ、と全員後ずさっていく。

 

 その態度にイネスが気分を害した様子はないが、クルーを見つめながら言う。

 

「ふぅん。

 勝手に持ち出されたのは気に食わないけど、どうぞご自由に」 

 

 目をつむり、我関せずとばかりに言った。

 その言葉を聞いて、周囲にいたクルーは顔色を悪くしていく。

 

 逆にメグミは嬉しそうに口元を歪める。

 

「だ、そうです。

 それじゃあ、賛同しない人にはビシバシかけてくんでよろしく!!」

 

 

「「「「「そんなのアリかぁぁぁ!?」」」」」

 

 

 たちまち周りが騒がしくなった。

 イネスが作った薬をかけられたくないのか、傍にいた人間と話し合っている。

 

 だが、何故か誰も逃げ出そうとするものはいない。

 

 その光景を不思議そうに、ユリカは見つめていたが、

 いつまでも時間を無駄に浪費するべきではないと思い直す。

 

 また、ナナフシ改が動き出さないとも限らない。

 

「それでは、皆さんにお聞きします。

 ナデシコを直すのに、賛成という方は手をあげてください!!」

 

 島全体に響くような大声で問い掛ける。

 

「私はナデシコがなくなったら、楽しみがなくなるから賛成」

 

 と、拘束着を着けたミナトが言ってくる。

 あの無人兵器の襲撃された場所からは、どうやらゴートに担がれて移動したらしい。

 

 先程の言葉も、ゴートの肩の上から賛成したのだ。

 

(うーん、まあ賛同者だし、いいかな。

 アキトを脅かす人間という点は、この際抜きに考えておこうっと)

 

 過去の諍いから心のしこりが発生するが、無理やり飲み込む。

 

「ミナトさんは賛成ということで良いんですね」

 

 だが、顔に何かしら出ていたのだろう。

 ネコのような表情を浮かべたかと思うと、ミナトはこう言ってきた。

 

「まあまあ、過去のことなんて水に流そうじゃないの」

 

「ぐっ」

 

 思わず唸る。

 そして、言い換えそうと口を開こうとした瞬間であった。

 

「待てよ!

 せっかく意見が揃ってるんだ、言い争いはなしにしとけって!」

 

 二人の間に割って入るように、アキトが笑顔を浮かべながら間に入る。

 その割り込まれた勢いに押されるように、ユリカは言い換えそうとしていた言葉を飲み込んでしまう。

 

 いや、アキトの場の雰囲気にそぐわぬ笑顔に止められたのだ。

 

 それは微笑ましいものでも見ているかのような笑顔であった。

 ユリカとメグミとミナト、三人へと交互に視線を送りながら嬉しそうにしている。

 

「あっ、そういうことですか」

 

 得心がいったとばかりに、メグミが声をあげた。

 面白いことを知ったとばかりに、アキトと微笑み合う。

 

 そんな二人をユリカとミナトは、訝しげに見つめる。

 どうして笑っているのか、分からないらしい。

 

「えっと」

 

 ともかく、ユリカは他のクルーへと聞くことにした。

 まだ不思議そうにアキトを見つめながら、周囲にいるクルーへと声をかける。

 

「他の人は、どうなんですか」

 

 その問いかけに、プロスが応える。

 

「戦艦一隻修理するにしても、お金がかかります。

 必要な物資はクリムゾンから出してもらわないといけませんし、

 私達だけの独断で決めてしまうということは、できませんなあ」

 

「うーん」

 

 その言葉に納得して考えるが、なかなか良い案が浮かんでこない。

 そもそも会社が関わってくると、途端にユリカがしたいことはできないのだ。

 

 ナデシコを直したいのは、エゴでしかない。

 

 そこに集団利益を求める会社が絡んでくると、自分を貫くことができなくなる。

 だから、唸って考えているというポーズを取るしかなかった。

 

(でも、考えると、ナデシコってやりたい放題だったんだ。

 だいたい、プロスさんの胃が痛むだけで解決していたんだから)

 

 額の問題かもしれないが、ユリカはそう納得した。

 もうここは、ナデシコの中ではないのだと実感してしまう。

 

 それに余裕もない、クルーの視線が問う。

 

(―――えっと)

 

 直すことによって会社が得るメリットを考える。

 しかし、考えても考えても、出てくるのはデメリットばかりであった。

 

「ナデシコを直すのでしたら構いませんよ。

 勇者様一人で魔王退治をさせるわけにもいきませんから」

 

 そんなユリカへと救いは齎された。

 思考を中断し、声のした方へと顔を向ける。

 

 ちょうど黒服を引き連れて、アクアが歩いてくるところであった。

 クリムゾンの施設がある方向から来たということは、どうやら施設に行っていたらしい。

 

「いや、魔王退治なんてやる気はないんですけど」

 

 他にも、手錠で繋がれたミユキがぼやきながら付いてくる。

 へっぴり腰であったが、ずっと手錠に繋がれていることを考えれば当然であった。

 

 だが、そんな光景よりも、ユリカの頭の中で名前が木霊す。

 

「アクア・クリムゾン」

 

 確認するように、その名を口にした。

 

「ええ、後でお爺様には私の方から言っておきます。

 ですから、ナデシコを直せるものなら直してください」

 

「助かります」

 

 あえて理由は聞かなかった。

 それによって、アクアの気が変わったりしたらいけないからだ。

 

 今も黒服が疑問に思ったのか、アクアに真偽を問いただしている。

 

「それじゃあ、最後に意志確認といきましょう」

 

「直るのに時間は掛けられねえ」

 

 ウリバタケが、苦しそうに言ってくる。

 バラバラの残骸になったナデシコのことを思えば、その気持ちも分からないでもない。

 

「専門的なことは分かりませんが、頑張りましょう」

 

「それに元には戻らねえかもしれねえ」

 

「それでも、ナデシコは私達の艦ですから」

 

 言い切る。

 静まり返った場の中、楽しげに声を漏らすウリバタケの声だけが響いた。

 

「へへっ、言うねえ。

 ヨッシャア! 反対するなら、今のうちだぞ!?」

 

 周りに呼びかけるように、ウリバタケが大声を張り上げた。

 その呼びかけにメグミが反応する。

 

「誰も反対なんてさせませんよ」

 

 先程の毒が入ったビンを振りかざしながら言う。

 恐らく、反対したら、本当にとんでもないことを起こすだろう。

 

「いいえ、反対する人なんていませんよ」

 

 メグミだけなく、周囲に言い聞かせるようにユリカが呟く。

 それは、今までのような大声ではなく、本当に静かな声であった。

 

 しかし、まるで染み渡っていくように、その言葉は全員へと伝わっていく。

 

 何の根拠もない言葉、くだらないといつもなら呆れ顔をされる言葉。

 だが、今の周りにいる人間の顔を見れば、全員が同じことを思っていることが判る。

 

 なんだかんだで過ごした艦だったのだ。

 それなりに、全員愛着も湧いていたのだろう。

 

「そうそう、なかったら困るし」

 

 ミナトが続く。

 

「データや実験機材を吹き飛ばされてしまったのが誤算。

 しかもせっかく作ったラボまで消されたとなったら―――」

 

 イネスも、

 

「アタシらパイロットなのに、戦う前に負けが決まるのって嫌だよね」

 

 ヒカルも、

 

「おう!!

 こちとら、不意打ちされてハラん中、煮えくり返ってんだ!!」

 

 リョーコも、

 

「前を向くのも、悪くないわね」

 

 イズミも、

 

「止めても、勝手に始めるんでしょうしなあ」

 

 プロスも、

 

「ま、のせられるのも悪かあないね」

 

 ホウメイも、

 

「反対する理由はない」

 

 ゴートも、

 

「賛成」「やりましょう」「うん、うん」「あはは」「やろう」

 

 サユリも、エリも、ミカコも、ハルミも、ジュンコも、

 

「どうせ僕が反対したところで、誰も聞いてくれないだろうし」

 

 ジュンも、

 

「……やりたまえ」

 

 あのボケているはずのフクベも、

 

「ワシは知らん、勝手にせい」

 

 遺跡も、

 

「ハァ。なんだか分かりませんが、ここまできたら最後まで見届けますよ」

 

 ミユキも、

 誰もが先を争うように声をあげていく。

 

 それは渦を巻くように、周囲にいたクルーへと広がっている。

 

「決定、みたいだな」

 

 アキトがそうユリカへと話しかけた。

 その皆があげる声を耳にしながら、ユリカは頷きを返す代わりに空を仰いだ。

 

 

 空には、太陽が輝いていた。

 

 

 その3にジャンプ!

 

 

 

後書き

一人で目立った人が危惧されていましたが、全員目立ってしまいました。

 

>代理人さん

目立った人は殺されるなんて、まるで殺人事件みたいです。

火曜サスペンス劇場もビックリの動機、しかも犯行が衝動的だと思います。

 

まあ今回で全員フラグを立ててしまったんですけどね。

一番やばいのは、ホウメイガールズ辺りなのではないでしょうか(笑)

 

 

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

おやまぁ。

無茶苦茶だけど、なんか悪くは無いですね。

どうにかなっちゃいそうだし。

それに、すっごく楽しそうだし(笑)。

 

>一番やばいのは〜

それはやはり、普段との落差がポイントですか(笑)