地球連合宇宙軍 第九艦隊旗艦ディアントスは全長六百二十m、全幅百二十mとその大きさは平均的な連合の艦艇より上であり、大艦巨砲主義の象徴とも言える艦であろう。

乗員は百二十名。大型戦艦にしては少ない方であるが、その分をオモイカネとOOSワンマンオペレーションシステムがカバーしている。

メインエンジンには最新鋭のタンデム相転移エンジン、補助エンジンには対消滅リアクターが装備されている。

主砲は二連装グラビティキャノン及びグラビティブラスト。

その他にも各種ミサイル類を始めとした実弾兵器も搭載されている。

機動兵器はエステバリス二小隊にアルストロメリアが同じく二小隊。

武装や機動兵器もさる事ながら、その一番の攻撃の要は電子戦闘にある。

ディアントスは電子戦闘においては、専門艦であるタカネナデシコやミヤマナデシコには及ばないが、それらの艦艇を纏めるための役割を果たす。

十四隻の戦艦がてんでバラバラにEW電子戦闘を行っても、目覚しい成果をあげる事は出来ない。

それ故に、EWにおいては常に指揮を取る中核的存在の艦が必要となってくる。

それがディアントスであり、ひいては艦長のホシノサンゴなのである。

















時の彼方の迷い子達

第三話 陰謀と策謀

















「敵艦隊本艦の警戒グリッドイエローを突破!」。

「艦内警戒態勢パターンAへ移行します」。

地球連合宇宙軍第九艦隊――通称ナデシコフリートのクルー達は、西暦二五二〇年のクリスマスと二五二一年の元旦の両方を戦場で迎えるはめになった。

「OOSレベル最大。リミッターカット」。

西暦二五二〇年八月三日にグリフォン星系で起きた反乱騒動鎮圧のために、連合軍は鎮圧艦隊を出撃。

それにともない、第九艦隊は先発部隊として出撃。敵勢力下に楔を打つべく、橋頭堡の確保に当たる。

「了解。リミッターカットします!」。

その後、後発部隊が出撃。第九艦隊と合流した後、反乱勢力の根拠地である惑星エヴァンスへ侵攻する。

作戦としては至極妥当な物である。ではあるが、やや性急過ぎる計画である。

「右舷前方より無人兵器群!」。

ミスマルユリエは三ヶ月前、命令を受諾されるまで、帰還したばかりの自分達には命令は来ないであろうと高を括っていた。

それが自分の元に出撃命令が下ったのだから寝耳に水である。

「グラビティブラスト、発射!」。

「・・・・・まったく、艦隊同士の殴り合いだなんて、野蛮以外の何物でもないわ・・・」。

第九艦隊は一般的に最強と言われているが、それは小集団でのゲリラ戦を最も得意とするからであり、したがって今回のような正面からの殴り合いには向いていない。

にも関わらず、ここまで戦果をあげる事が出来ているのは、『星界の女神』と謳われているミスマルユリエの尽力の賜物である。

「Gキャノンは?」。

だが当の本人は非常に気だるそうである。

なぜなら、この二十四時間、ろくに睡眠をとっていないからである。

「準備完了しています」。

敵の主力はかつて蜥蜴戦争で使用されていたバッタやジョロといった、骨董品と言ってもよいような旧世紀の無人兵器である。

塵も積れば山となる。如何に旧式の無人兵器であろうとも、数が纏まれば脅威となる。

無人兵器達には休息は必要ではないが、人間には必要である。

星系に突入してからの散発的な攻撃に、ブリッジクルーは疲弊寸前であった。

ユリエはブリッジクルーの二交代制を急遽三交代制に変える事で問題を解決した。しかし、提督は彼女一人しかおらず、戦闘の度に陣頭指揮を取らざるを得ない。

その度に彼女の疲労は蓄積されてゆく。

艦長のサンゴは、遺伝子的にこういう状況に耐えられるように出来ているらしく、この十数時間、ほぼぶっ続けでIFSフィードバックレベル10を維持しているが、疲れた様子も見せず、けろりとした顔をしている。

ユリエは既に二度ほど、スタミナ剤と栄養剤の混合薬を無針注射で投薬したが、体力的にそろそろ限界のようである。

「ならさっさと発射!。薙ぎ払いなさい!!」。

睡眠不足が影響しているのだろう。彼女の声はイラついていた。

ユリエの怒声の影響か、命令は速やかに実行された。










「残存艦、撤退してゆきます」。

「・・・・はぁ・・・」。

艦隊を撃滅させてユリエは溜息を吐きつつ、どさりと椅子に腰を下ろした。

「全く・・・・・・よくもまあ、飽きもせずにこう散発的な攻撃を繰り返せるものね・・・・」。

ユリエは頬杖をしながらぼやいた。

グリフォン星系に突入してから、戦闘回数は一〇〇回を越えている。

だがその全てが、小規模な艦隊、もしくは機動兵器による散発的な攻撃である。

今日だけでも戦闘回数は十五回に昇る。

食事時、睡眠中、休息時・・・・・。艦隊指揮官である彼女はその度にブリッジの司令席に座り、指揮を取らなければならない。

全くもって疲れる事この上ない。

――もしかして敵の狙いは私の疲弊かしら・・。

そんな疑問がふと脳裏をよぎった事も何度かあった。

「・・・ホシノ艦長、被害は?」。

「各艦の被害は軽微。出撃したパイロット達は三人が死亡、六人が負傷。全体としての損害は微々たる物です」。

「そう・・・、それなら私は部屋に戻るわね・・・・ちょっとした事は各自で対処するように」。

死亡したパイロット達の事に心を痛めながら、ユリエは極めて大雑把な命令を出すと彼女は欠伸をかみ殺しつつブリッジを後にした。














――流石の提督も疲れていらっしゃるようだ・・・。

先程の戦闘の事後処理をしつつ、ショウは何の気なしに思った。

出撃してから既に三ヶ月。

作戦は極めて順調に推移していた。

後方基地の設営に一ヶ月を要した物の、その後の二ヶ月で制圧、解放したコロニーは五つを数え、地球との直通ルートも開通しつつある。

ここ数日以内に連合軍の本隊が合流する手筈となっている。

現在の所は解放したコロニーを背に、防衛戦を展開中である。

それにしても、やけに静かすぎると彼は思う。

第九艦隊を撃破する様子も無ければ、解放されたコロニーを奪還しにくる様子も無い。

先程のような散発的な小競り合いがせいぜいだ。

もし、敵の司令官が自分なら、今の内に大兵力でもって第九艦隊を叩きのめしに来るはずだ。

「副長・・・」。

「何かな艦長?」。

手持ちぶたさなのか、サンゴが話し掛けてきた。

「そろそろ敵本隊との接触があってもおかしくないと思うんですけれど・・」。

「全くその通り、実は僕もいまそれを考えていた所だよ」。

「どう思われます?」。

余り期待の篭らない――というよりどうでもいいと言ったような――様子で聞いてくる。

「まあ、普通は策があると睨むよな。何せここは敵のど真ん中だ。自軍の陣地奥深くに引き摺りこんで包囲殲滅するもよし。大兵力でもっての力押しでも良し。よりどりみどりだよな。だけどそれをしてこないと言う事は・・・」。

「言う事は?」。

サンゴの問に、副長は腕を頭の後ろで組みつつ

「可能性としては二つ。一つは、実は我々に立ち向かえるだけの兵力が存在しないと言う可能性。二つ目は敵が統率に欠けている可能性があると言う事だ」。

「どういう事です?」。

「・・・前者は説明の必要が無いので省くとして、後者は・・・・そうだな、反乱軍の中で勢力争いが起きているかもしれない」。

「勢力争いですか?」。

「そう、例えば二つの勢力があるとする。徹底抗戦を唱える交戦派と、自重を重んじる守衛派。この二つが互いに対立していると仮定する。だとしたらこの散発的な攻撃も、統率を欠いた敵の愚行かもしれない。もしくは・・・」。

そこで彼は少し考えて。

「・・・惑星やコロニーでパルチザンやレジスタンスのようなゲリラ組織が、未だに抵抗を続けているのかもしれない」。

だとするならばそれはそれで連合側有利になる可能性が大きい。

「あるいは一番考えたくない事だが、実は敵は完璧に統率が取れていて、その上で、我々の考えている以上の罠を張っているのかもしれない。だとすれば最悪だ」。

まあ、その可能性は極めて少ないだろうと思う。

蜂起してからたかだが三ヶ月やそこらで完璧な統率が取れるはずが無いからだ。

ふと気が付くと、ブリッジの全員が自分を凝視している事に気がついた。

「何だい?」。

「副長って・・・」。

「ん?」。

サンゴが喋った。

「意外と優秀だったんですね」。

――危うく椅子から転げ落ちるところだった。

「・・・・どういう意味かなホシノ君?」。

コンソールにへばり付き、引きつった笑いを浮かべながら、彼は聞いた。

「いえ、ただ副長って、提督の影で余り目立たない人のような印象を受けて・・・特に戦闘中とか」。

「・・・・・これでも一応連合大学では提督と同期で、次席だったんだけれどな・・・・」。

つまり、常にユリエに一歩先を行かれていたと言う事だ。

文部両道に秀でたユリエは天才、対して彼は秀才と言った所か。

そして秀才と言うのは、天才の陰に隠れてしまう物である。

「副提督・・」。

「なんだ?」。

オペレーターの一人が告げる。

「ダイアンサスが全艦を代表してこれからどうすれば良いか尋ねてきていますが・・・」。

「・・・いけね、進路の指示を忘れていた・・」。

サンゴは副提督のその台詞に、思わず天を仰いだ。














ユリエの部屋は、普通の士官個室より若干広い。

提督専用と言う事もあるだろうが、その造りは艦長個室とほとんど同じである。

クローゼットにベッド、書類の散乱している事務机、それに小さな本棚と食器棚が一つずつ、隅には屑篭。

バスルームと洗面所も完備されており中々快適な部屋だと言えよう。

もちろん、この艦には一般クルー向けの共同入浴施設はあるが、疲れきった時には一人でゆっくりとお湯に浸かりたいものだ。

ユリエはたっぷりとお湯の張った湯船に、爪先から沈めてゆく。

バスタオルに包まれた身体がお湯に浸かり、彼女が入った分と等しいだけのお湯が溢れ、タイルに叩きつけられる。

疲れきった身体を癒すのには入浴が一番良い方法だ。

「ふぅ・・・・・」。

思わず溜息が出た。

自分で自覚している以上に疲れが溜まっているのかもしれない。

「・・・三ヶ月か・・・」。

後方基地の設営に一ヶ月、それ以後二ヶ月に渡って後方基地の防衛を主に、襲い来る敵艦隊と戦ってきた。

第九艦隊に課せられた任務は、敵の支配地域に楔を打ち込む事。

橋頭堡を確保した以上、彼女達の役目は終った。

後は後発としてやってくる連合軍本隊と合流し、反乱軍が支配するエヴァンスへ直行する。

――と、命令書には確かその様な事がかかれていたはずだ。

敵にはこれ以上の時間を与えぬほうが良い。幸い合流してくる第三艦隊は連合艦隊の中で最速を誇る艦隊だ。一気に惑星エヴァンスまで直行し反乱軍を叩きのめすだろう。

その時、自分に与えられる役割は――

そこまで考えて彼女は頭を振った。

せっかく休息しているのだ。今ぐらい戦いの事は忘れよう・・・。

身体を倒してお湯に浮く格好になる。

漆黒の髪の毛がお湯の中にふうわりと広がり、自身の身体を覆い隠す。

彼女は何の気なしにお湯の中に広がった自分の髪の毛を片手で弄び始めた。

「・・・・・」。

ふと、その手を止めて、彼女はじっと手の中にある髪の毛を見つめた。

「―――誰?」。

脇に置いてあったコミュニケが着信のベルを鳴らした。

『私です、提督。ご休息の所、申し訳ございません』。

画像は出ない、音のみだ。風呂に入っているのだから当然だろう。

「副長ね? それで、用件は何?くだらない事だったら怒るわよ」。

お湯に浮いている体勢を崩さずに、彼女は虚空へと呼びかけた。

『はい、実は、たった今連絡シャトルが到着いたしまして』。

「そう、それで?」。

反問しつつ、彼女は湯船から身を起こした。

彼女の身体の至る所から雫が飛び散る。

『後発の連合艦隊が合流するそうです。我々には一旦コロニーにまで下がり、待機せよとの事です』。

「そう、分かったわ。ブリッジには直ぐに行きます」。

身体のいたる所から雫を滴らせながら、彼女は準備してあったバスタオルに身を包んだ。

「作戦第二陣の幕開けね・・・・・・。オモイカネ、後の処理を宜しく」。

『了解』と言うウィンドウが開くと同時に、湯船のお湯はその体積を減らしつつあった。










第九艦隊が後方基地兼根拠地としているコロニー『タケミカヅチ』は、極々標準的なありふれたコロニーだ。

コロニーナンバーは七三。

六〇番代までは太陽系内のコロニーに使われ、七〇番代からはこの星系で使われている。

『タケミカヅチ』は、第六惑星の公転軌道に位置しており、ほぼ七百日で恒星の周りを一周している。

同軌道上には同じ規模のコロニーが一三存在しており、全星系内では一四〇番代まである。

反乱軍が拠点防御の際に使用していたようだが、第九艦隊の襲撃により、人質の民間人達――蜂起の際に巻き込まれた――を残して、すたこらさっさとエヴァンスへ引き上げてしまった。

その為にこのコロニーは無血で奪還され、解放された人質達はシャトルと艦で何回かに分けて地球へ送られた。

現在コロニー内部には百数十人の軍関係者以外はほぼ無人となっている。










第三艦隊の到着と、第九艦隊の帰還はほぼ同時であった。









「――では、第七艦隊は出撃しないと・・?」。

ディアントスのブリッジにて、ミスマルユリエとフェイ=リンは通信ウィンドウ越しに会話していた。

『連合議会と軍上層部はその様に決断したわ。つまり我々は、現有兵力でこの星系を奪還しなければならなくなったわけね』。

「理不尽です!。せめて第六艦隊ぐらいの応援は必要です!」。

『あー、理不尽なのは私も承知しているわ。だけど上が決定した以上、私達は従わざるを得ないの。分かるでしょ?』。

出来の悪い生徒を諭すような調子で、ウィンドウ越しの恩師はユリエを宥めた。

「・・・・・」。

ユリエは無言で深々と溜息をついた。

先発部隊として橋頭堡を確保した以上、自分達に与えられた任務は終った。後は後方支援でのんびり出切る筈だったのに・・・・。

宇宙軍上層部は目の前に居るこの女性提督に現地司令官の任務を与え、第三、第五、第九、第一一艦隊を与えてこの星系に放り込んだのだ。

宇宙は広くて広大だ。反乱軍は惑星エヴァンスに居るが、それも確かな情報ではない。

もし、惑星に居なかった場合、四個艦隊でこの広い宇宙を捜さなければならなくなる。

議会の連中は自分の頭の上にグラビティブラストでも降って来ない限り、現場の苦労など分かろうともしないのだろう。

「・・・・・愚痴を言っても始まりませんね・・・・。そちらにこれまでの戦闘データーを転送します」。

『ご苦労様。作戦立案に役立たせてもらうわ』。

崩れた敬礼をフェイはして、ウィンドウは消えた。

「・・・・・はぁ〜〜・・・・・・・・、・・・・・・・当分休暇は取れそうに無いわね・・・・」。

ウィンドウの消えた虚空を見ながら、彼女は再び深々と溜息をついた。













「閣下、ディアントスから転送されてきた戦闘データーの解析が終了しました」。

「ご苦労様。意外と早かったわね」。

ブリッジの指揮席で頬杖を着いていた彼女は、副官の言葉に顔を上げた。

副官がオペレーターに頷くと、二人の眼前の空間に無数のウィンドウが展開した。

「ミスマル提督は我々に提出した敵のデーターから、反乱軍はかなりの統率力を持っていると推察しているようです」。

「・・・・根拠は?」。

ウィンドウの一つを操作して説明し始めた副官に、フェイは欠伸を噛み殺しながら問うた。

「第九艦隊は星系に突入してから三ヶ月、その間、三桁近い敵の小集団と交戦していますが、何れも散発的なもので、本格的な戦闘にはならなかったそうです」。

「敵に事に及ぶだけの戦力が無いだけかもしれないじゃない」。

極々一般的な結論を彼女は導き出した。

「その可能性も無くは無いのですが、中将閣下は敵に戦う意志があるのなら、大なり小なりの艦隊を派遣してくるはず。それが無いと言う事は、全軍に強力な統率力があるという事だと」。

「戦う意志が無い場合は?」。

「それなら初めから反乱など起こさないと」。

「なるほど・・・、鋭い読みだわ」。

我が教え子ながらたいしたものと、彼女は口の中で呟く。

幾つかのウィンドウを手前に引き寄せ、表示される情報を見やる。

「・・・・・まあ、今の私達には関係ないけれどね」。

コミュニケを操作してウィンドウを消すと、傍らの副官に耳打ちした。

「・・・準備は?」。

「万全です」。

「そう・・・・・・、あの子に砲門を向けるのは気が引けるけれど仕方が無いわね・・・・・・。主砲の照準をディアントスに合わせよ!」。









「あふ・・・・・・」。

自室のデスクで、書類の山と格闘していたユリエは、思わず欠伸をした。

「・・・・疲れているのかしら・・・・」。

チラリとバスルームの入口に視線をやる。

「・・・さっき入ったばかりだけど・・・、もう一度入り直すとしますか・・・」。

手にしていたペンをデスクに放り投げると、帽子を取り、上着を脱ぐ。

Yシャツのボタンに手をかけた所で、腕のコミュニケが音を立てた。

彼女は顔を顰めた。これから入浴をしようと思っているのに邪魔されるのは、実に気分が悪い。

このまま応答せずにうっちゃっておこうと決め、手首から外しかけたが、それより一瞬早くコミュニケが着信する。

「緊急通信?」。

理解した瞬間、近頃ではかなり珍しい、サンゴの切羽詰った金切り声がコミュニケから響いた。

『提督、緊急事態です!。至急ブリッジに来て下さい!』。











「一体何事!?」。

入浴を邪魔された彼女はいささか投げ遣り気味にブリッジに入室した。

「『カサブランカ』の砲門が、本艦を補足しています!!」。

「何ですって!?」。

サンゴの言葉の意味を一瞬で理解すると、彼女は指揮席へ駆け出した。

「何かの間違いじゃないの!?。『カサブランカ』に通信、フェイ提督を出して頂戴!」。

「それが、先程から試みているのですが、応答しません!」。

「繋がらないの?」。

「回線は繋がっています。ただ、受話器を向こうが取らないだけです」。

「他の方法は!?」。

「ダメです、応答なし!」。

別のオペレーターが叫んだ。

「分かったから落ち着け!。とにかく、命令があるまで絶対に発砲するな!分かったな!!」。

いささか乱暴に通信を打ち切ると、ショウはユリエに向き直った。

「ダイアンサスを含めた他の艦も同じです!、完全に主砲に補足されているとの事です!」。

「・・・砲門を向けられているのは私達だけ?。・・・・一体何が起きているの!?」。

「『カサブランカ』より通信!!」。

喧騒に包まれていたブリッジが静まり返った。

「・・・・・出して頂戴」。

指揮席に深々と腰掛けると、ユリエは重々しく言った。

正面スクリーンにフェイ・リンの顔が映った。

「一体何事ですか提督閣下。砲撃演習の予定は入っていなかった筈ですが?」。

相手が切り出す前に自分から切り込んだ。

『――ええ、そうね。『演習』の予定は入っていなかったわね。『実戦』の予定ならあるけれど』。

「私は存じておりませんが?」。

相手の青眼を真正面から見つめながらユリエは再び尋ねた。

「我々はこれから反乱軍と戦う予定では?。背後から、ましてや味方からこのような扱いを受けるとは思っていませんが?」。

『――貴女を騙すような形になって申し訳ないと思っているわ、ミスマル提督』。

歌うような口調でフェイは口を開いた。

『折角、橋頭堡を築いてくれたのに悪いけれど・・・・、貴女達にはここから引き返してもらいたいの』。

「・・・・・どういう意味でしょうか?」。

この人相手に腹の探り合いは無意味――、そう悟ると、彼女は単刀直入に尋ね返した。

『私達が連合を思っていればこそ・・・・・・・・とでも言えば分かってもらえるかしら?』。

「!」。

ユリエはその言葉の意味を瞬時に理解した。

「・・・・初めから・・・・・・・・・・・・と言う事だったのですか・・・・」。

そう。全ては仕組まれていたのだ。

この星系での反乱をユリエに発見させる事によって連合に討伐艦隊を編成させ、第三艦隊を出撃させる事。

反乱の現場にユリエが居合わせたのはただの偶然だろう。とどのつまり誰でも良いのだ。反乱軍を発見さえしてくれれば。

ただし――早すぎていけない。遅すぎず早すぎず、その意味でユリエの連合への反乱軍蜂起の知らせは実にぴったりのタイミングであった。

あとは、議会の人間に金なり物なり送って、自分達の艦隊を出撃させるようにすればよい。

そしてユリエが露払いの役割を演じている間に、自分達はせっせと反乱への準備を進めると言うわけだ。

――つまり、私はこの人の掌の上で踊らされていたという事か・・・・。

自分が利用されていた事に彼女は憤りを感じざるを得ない。

そしてこれらの計画が全て、この目の前の金髪碧眼の女提督の頭脳の中で考え出された物かと思うと、ユリエは背筋に寒さを覚えた。

「実に見事なお手並みです。教官」。

『・・・・その名前では呼ばないでと言ったけれど、ま、良いわ』。

フェイは、いや、ユリエの元教官はそう言うと懐かしそうに笑った。

『今補足しているのが貴女の艦でなければ、私は躊躇無く主砲を発射していたでしょう。・・・・全く、こればかりは私の計算違いと言わざるを得ないわね。これで間違いなく、私達の事は連合に露見する』。

「撃沈させるおつもりなのですか?」。

『まさか! 今も、そしてこれからも、貴女は私の生徒である事に代わりは無い・・・・・・。生徒を殺すなんて真似は出来ないわ』。

そう言って彼女は肩を竦め

『全く、予定通りなら二ヶ月は連合の目を誤魔化せると思っていたのに・・・』。

運命の皮肉と言うやつかしらと、彼女は呟いた。

『・・・・そのまま直進してゲートに進行してくれれば、危害は加えないわ。でも、少しでもおかしな動きを見せたら、二五〇個の砲門が一斉に火を噴くことをお忘れなく』。

雰囲気と態度をガラリと軍人のそれに変えると、フェイはユリエに命令した。

「・・・・了解しました・・・」。

一瞬の逡巡の後、ユリエはそう答えた。

取り囲まれている以上、応戦したところで意味は無い。

彼女達はディアントスがグラビティブラストの充填を開始しただけで、砲撃を開始するだろう。

これだけの集中砲火を喰らえば、いくらディアントスといえど一溜まりも無い。

「・・・聞いた通りよ、副長。全艦に下命。我に続け、戦場より離れる」。

「・・・・了解・・」。

力無くショウは答えた。

『――そうそうミスマル提督。一つだけ確認したい事があったわ』。

「・・・・なんでしょうか?」。

未だに開きっぱなしのウィンドウ――恐らく彼女達がゲートに入るまで開けておくつもりだろう――から、フェイは再びユリエに話し掛けた。

『私達と一緒に来る気は無い?』。

その科白に、ブリッジクルー達は一斉にユリエに視線を集めた。

「・・・・残念ですが」。

恐らく半ば予想していたのだろう、彼女は驚く事も無く淡々と断った。

『そう。やっぱりね・・・・・聞いてみただけよ』。

さして残念そうでも無く、フェイは首を振った。

『でもね・・・』。

浮かべていた笑みを消すと、彼女は言った。

『いいことミスマル提督。あなたの力は巨大よ。その力が、いつか貴女に災いを呼ぶでしょう。それを貴女は分かっているのかしら?』。

「・・・閣下らしくも無い問いかけですね」。

そう言うと、彼女は笑みを浮かべ

「――そんな事、百も承知ですよ」。











『何故撤退するんです!?第三艦隊の戦力ぐらい、第九艦隊の能力を持ってすれば無力化することは可能です!!』。

「多勢に無勢よ。ナデシコ艦隊のクラッキング能力を使用した所で、全ての艦艇を掌握する前に返り討ちに会うのが関の山よ」。

ダイアサンスの艦長、セーラからの通信に、ユリエは素っ気無く答えた。

「それにね、自惚れや過信は、戦いの中で最も忌むべき物よ。私だって人間である以上ミスもする。そしてこの場でそれをしないとは言い切れない。『第九艦隊だから』と言うのは、戦う理由にならないのよ」。

ウィンドウに映っている、セーラの青い瞳を見つめながら、ユリエは言った。

「それに、向こうがただで通してくれると言っているんだから、好意に甘えましょう」。

目前に迫りつつある『タケミカヅチ』のゲートを見やる。

「それじゃあジャンプ中の通信は危険だから切るわよ。文句は後で聞くわ」。

『ちょ、ちょっと待・・・・・・・・』。

プツン、とウィンドウが閉じられると、ブリッジには静けさが戻った。

まさか味方から砲門を向けられるとは思ってもいなかったのだろう。

艦隊に、そしてクルー達に与えられた心理的影響は大きい。

「艦長。落ち込んでいるところを悪いけれど、ジャンプのナビゲーションを頼めるかしら?」。

「了解しました。・・・・・・ですが私は落ち込んではいません」。

「そう。それなら宜しい」。

ディアントスを先頭に、第九艦隊十四隻は、『タケミカヅチ』のゲートへ進入していった。











「第九艦隊のボソンジャンプを確認!」。

「了承。・・・・・・・全艦グラビティブラスト発射!」。

二五〇隻の艦艇から放たれた黒い重力波の奔流は、コロニー『タケミカヅチ』を粉砕した。







「ゲートが!?」。

ダイアサンスのオペレータ。サードニクスは観測結果をセーラに報告した。

思わず後ろを振り向く彼女。当然見えるはずが無い。

「・・・・・・・こんな事が許される筈が無いわ。第三艦隊が裏切ったと知れば、連合は火を噴く勢いで責めてくる。・・・・・・・・・これはもう反乱なんてレベルじゃない。人類を二分する、一大戦争になるかもしれないっ!」。




















「―――こんな事になるなんて・・・・・、フェイ提督、貴女はご自分の行動に責任を取れるのですか?」。

静寂が支配するブリッジで、ユリエは一人呟いた。

あまりの小声だったために、側に居る副官にすら、その声は届かなかった。































次回予告

やっほ〜、やほやほ〜、ダイアンサスの艦長のセーラでぇ〜っす!!

え?なに?負け戦だったくせに随分テンション高いって?。

いいじゃん。次回予告までしんみりする必要は無いんだから。

という訳で、グリフォン星系からほうほうの定で逃げ出した私達は、一度地球に帰還します。

ところがどっこい、グリフォン星系の反乱の火種が、太陽系にも飛び火したからさー大変!私達は三度出撃するハメになっちゃったのよ〜!

おのれ反乱軍許すまじ!ろくに休みも取れないじゃないのよ!!この恨み絶対に晴らしてやる!!。

てな訳で、次回は




第四話 太陽系動乱




おっ楽しみに〜〜!




あ、そうそう。この予告と実際のお話の内容は、変わる場合があるので注意してね〜。






あとがき(二話纏めて)

漸く書き上げました、第二話&第三話。

一気に二話分を書き上げるのははっきり言って疲れました。

しかぁしっ!、面白い文章を書けるのなら、この程度は苦痛にはならぬ!!。

そう、例え応援してくれる人間が殆んど居なくとも!(泣)。

マイナー作家と罵られようとも!!(泣)。

感想メールがこなくとも(事実)、完結目指して書いてやる!!(ホントか?、おい)。







・・・・・スンマセン、一気に二話分書き上げたせいか、やたらテンション高いです。






さて・・・・、第四話に取り掛かるとするか。



 

代理人の感想

に、しても・・・・いまだに電子戦闘って有効なんでしょうか?

特に「火星の後継者」事件でナデCが大活躍したなら、

それに対する策は当然用意されていて然るべきと思うんですよね。

 

一番簡単なのは

 

艦の制御にコンピューターは不用!

意志伝達は全て伝声管!

砲の照準もエンジンの出力調整も

操艦も艦載機の発進も全て人力ッ!

航行計算その他は当然アナログ!

艦同士の通信は発光と手旗信号!

されば!

ナデシコC、恐るるに足らずッ!

(考案・プロフェッサー圧縮氏(爆))

 

でしょう!

後は敵を上回る火力さえあれば勝利は約束されたも同然ッ!

 

 

・・・駄目ですか(爆)?

 

 

まぁ、他にも通信機器と艦の操縦系統を設計段階で物理的に切り離すとか、特に厳重なフィルター掛けるとか、

あるいは電子の妖精を直接封じるウイルスとかトラップとか、

妖精に匹敵する能力を持った存在or手段の開発とか、

そしてそのどれも出来なければ妖精の直接排除。

なにせ妖精の存在によって容易に一艦隊が制圧できると言うことは、

妖精は艦隊ひとつかそれ以上の戦略的な価値を持つ存在と言うことに他なりません。

そして軍艦と違って生身の人間である妖精を排除するにはピストル一丁で充分なのです。

 

だから、もしいまだにクラッキングに対する対抗手段が確立されていないとしたら

マシンチャイルドは人間的な生活とは無縁なくらいの厳戒態勢の中で一生を過ごすことになりかねません。

マシンチャイルドが貴重かつ代えの効かない存在だからこそクラッキングは有効な手段であるわけですし。

(貴重でなければこっちもナデシコC作ればいいんです)

 

 

 

・・・まぁ、要するにあたしゃクラッキングが嫌いな訳ですが(笑)。