機動戦艦ナデシコ<灰>

 エピソード6−2/戦力続々増強中


「き、きゃああああああああああああ!!!!!」
 絹を引き裂いてもそんな音はしないが、絹を引き裂く女の叫びが町に木霊した!!
「うっ…ぎゃあああああああああああ!!!!!」
 そして一瞬後、木綿を切り裂くような男の声が夜の町に木霊した。
「……またかい」
「ああ……またウリバタケさんトコみたいだね」
「桑原桑原……」
 もはや近所の人は慣れっこだった。


「……で、ツヨシさん、何があったんですか?」
「全く。ニトロでもこぼしたの?」
 早朝会議だと朝っぱらから呼び出されたハーリーは不機嫌だったが、流石にものすごい怪我を負ったツヨシの顔を見て心配そうに尋ねる。ラピスは全然そんな事は無いが。
 なぜなら彼は毎日のようにハーリーと戦い、決着のついた途端に何時の間にか怪我を回復させると言う某鬼娘のダーリンの如き生命力を誇る。その彼が傷を負っているのだ!!
 驚愕せずにはいられない!!
「いや、ちょっと新装備のチェックを……」
 と、言葉を濁す。
「だってツヨシさんが怪我をしているんですよ? なのに昨日は炎も上がらなかったし、煙も昇らなかったし、きのこ雲だって!!
 などと、不穏当な事を当然に聞いてくる。
「いや、地下でやってたし」
 否定しないのか?
 だがどうしてだろう。いつもなら心配するはずのキョウカが一切口を開かず、兄の顔を見ては顔を紅くし、思い人の顔を見てはさらに紅くする。
 そしてそれに気づかないハーリーをほっぽっといてラピスが耳打ちする。
「……やっちゃった?」
「うん。お兄ちゃん、あの「没」にしたのを持ち出そうとしたから……」
 と。

 ちなみに「没」にしたものとは「金色の「一匹見たら30匹」を集めて戦闘服にすると言う……着替える手間を無くした素晴らしい兵器なのだ!!
 ただビジュアル的に問題があるので封印。きっちり完成していたのだが……。

 色々な質問を力ずくで却下しながらも、ようやく会議が始まった。
 びし!
 ラピスが演出の為だろうか髪をアップにした上「ざますメガネ」をかけ、教鞭をホワイトボードに叩きつけた!
「では、今週の「子供町内警備隊」の幹部会を始めます」
 何時の間にそんな名前になったと質問したハーリーは何故か逆さ釣りになっているが、全く気にした様子は無い。きっと慣れているのだろう。
「えーっと、まずこの間のラピスちゃんの持ってきた伝説の釘バットですが、正体不明のエネルギーが宿っているのが確認されました」
「……正体不明?」
「うん、正体不明。お父さんなんか熱き男達の魂って言ってたけど」
 気まずい雰囲気。


 ラピスは思い出す。このバットを手に入れたときの事を。
 ピン!
 足下で切れたワイヤーが罠を作動させる。逃げ場のない下水の中で爆薬が点火。虎頭の怪人が巻き込まれ、辺り一帯に瓦礫が散乱する。だが、辺りの煙が晴れた瞬間手を軽く、彼女にとってはだが、一閃させる。
 一瞬にして晴れる視界。
 彼女の手には、釘バットが握られている。
「……これ、凄い……」
 そう言って虎頭の怪人、タイガーラピスは戦利品の釘バットを振り回した。
『伝説の釘バット』
 それは空を裂き、コンクリートを貫き、スパイクボールを打ち返し、吊り天井を打ち砕き、鉄砲水を切り裂いた!!
 そしてラピスは不必要に入り組んだ、何処かの埋め立て地を思わせる地下回廊の奥で一つの入口を見つけた。
「ここかな?」
 そう言いつつ、力をため、ドアを蹴破った!!
「動くな!! …て、あれ?」
 そこにあるのは、一枚の立て札。
『ブラックマッシュルーム、サセボ本部は都合により引っ越しました。これからの運営については逐次連絡がありますので、自宅待機して下さい』
 グゴン!!!
 怒り狂ったラピスが、強化服の力を借り、釘バットを振り回す!!!
 伝説の釘バットはその力を受け、伝説の男・太田に迫る威力を解放し、地下基地を破壊する!!
 天井が崩れ、足下の落とし穴が埋まり、壁が吹き飛び、何故かラピスは無傷。
 一通り暴れて気が晴れた後、彼女は気づいた。
「…って、あれ?」
 壁の向こうにある、巨大な黒い鋼の化身に。
 そしてその巨大な物を見たとき、彼女は言葉を漏らした。
「……プレーリードッグ付きだ」
 その上にあるのは、何処をどう見ても、チハヤの腕時計と直結しているだろう。

 気を取り直すように今度はツヨシ…「間違いない、親子だ!」そう叫びたくなるウリバタケそっくりの笑みを浮かべながら。
「ようやく……発進用の割れるプールが完成したよ」
「へえ……」
「予算の関係で変形する校舎は作れなかったけどね」
 ……をい?
「ああ、それとこの間の奴にラムダ・ドライバ積んどいたから」
 まてい。
「……それとやっぱり今の人類の技術じゃXXXユニットは作れそうに無いや
 試したのか?
「ご苦労様」
 そう言いつつ「いいこいいこ」をするラピス。対し、猫のように目を細めるツヨシ。もはや彼には年長者としての威厳は全く無い。一ミリグラムも。
「あの……ラピス……ツヨシさん……キョウカちゃん……?」
 ハーリーは気づいてしまった。
 ここはもう人外の領域であると。
 だが気づかなかった。
 自分も、溶け込んでいる事に

 ところ変わって食用きのこ総合販売・有限会社おにふくべ・サセボ支店その支店長室。
 そこで……「狂気の策謀」はものすごい笑みを浮かべていた。
艦長A
「は」
 さらりと酷い呼び方をされ、それでも冷静に答える男。その顔は「未設定」と書かれた看板で隠され見る事が出来ない。「Now printing」でさえ無いあたりが悲しい。
 ちなみに彼は顔も名前も出なかったクロッカスの艦長である。着ている物も忍者装束で看板の下の顔は完全に隠されている。
艦長B
「ここに」
 これまた忍者装束の男。ただし頭は頭巾ではなく寿司ネタのウニである。彼もまた、パンジーの艦長だ。
「あなた方に作戦を伝えます」
 ことん、とトランクを置く。
「ムネタケ様よりの命令です。敵を叩けと」
 そしてトランクの上部を開き、ボタンを見せる。
 そ〜〜〜〜っ。
「やめなさい!!」
 ボタンを条件反射的に押そうとする艦長Aの頭を全力で殴る。
「ここで作動させてどうするつもりよあなた達!!」
 ふう、と重くて長い溜息をついたとき、バールたちを西欧に送ったのは間違いだったかと人材不足に頭を悩ませていた。そして次の瞬間、それが聞こえた。
「「……その作戦、我らに任せてもらおう」」
「何奴!」
「曲者!!」
 誰何の声を上げ、立ち上がろうとする艦長A・艦長B!!
 バギン!!
 ごす!
 硬いものが酷い音を立てた。
「……あなた達でしたか」
「「狂気の策謀様、その任務……我々に」」
「良いでしょう……行きなさい。コードネーム……なんでしたっけ?」
 ドコン!!
 景気よく頭からコケをかます二人組み!
「こ、コードネーム……黒髪の整備士です」
 ネルガルの会長のところに「玉の輿に乗った」女性の妹で、いき遅れるかもという焦りから足を踏み外してここに落ちてきた女性。
「銀色の薄影……」
 受信した電波人気投票・赤い消火器と毎日のように囁かれ、足を踏み外した女性。それ以前に影が薄いことに悩んだ結果とも言うが。
「これから言う地点に敵の宿舎があります。そこにそれを仕掛けてきなさい」
「はい」
「わかりました」

 さて、政府未認可のチューリップは地球全土にある。ディストーションフィールドを一定以上のエネルギーで張っていれば、一般人でも通行可能だ。第一今現在開いているチューリップは太陽系全土にわずかに10を数えるのみ。(軍事的行動を恐れ、木星付近に2つのみ)隠蔽している者にとっても見つからない様にと封印している。
 別にヒサゴプランが無くとも、この状況なら通行はさほど難しくは無いのだ。

 松葉杖をつきながらその男は自分の家へとたどり着き、ベッドへと倒れ込んだ。
「さてあなた、昨日は何処に行ってたの?
 全く笑っていない妻の目を見、ピースランド国王は気絶さえ出来ない自分の妻のプレッシャーから逃れる術がないことに絶望していた。
 ちなみに彼はこの後、本格的にどくきのこの戦闘員として、ピースランドの財力を注ぎ込んで暴れ回ることになる。

 別に、ピースランドの王妃(一説によれば女帝)は「じょせふぃーぬ」と言う名前ではないし、彼らの息子達の中に「じぇふりぃ」なる人物も居ない
 しかし、彼はストレスに負けつつあった。
 黒騎士団を作ってもおかしくないくらいに。

「……で、これはどういう事なんですか?」
「舞歌様が言うには、ここで説明会をするということだが……」
 というか。
 成人式でもやりそうな体育館の壇上に、ジャンプからキリモミスピンをかけた挙句、デスクに腹から命中し、血を吐く男の姿がある。
 そして血を吐く男は死にかけたままマイクに手をかけこう言った。
「君た……ち……手元のパン…フレット……そこに行、ってくれ……がく」
「…行くか」
「そうですね」
 薄情にも彼らはそのまま行ってしまった
 ……救急車呼んでやれよ。

「ここは何所だい?」
「ジュン君知ってるかい?」
 パンフレットにあった教習所なる場所に着いたとき、九十九と元一朗がジュンに尋ねた。知っているとすれば地球で生まれ育った彼くらいのものだろうから。
「ここは……最果ての地、東京埋立地です」
「いや、それはわかっている。俺達が聞きたいのはむしろ、今の君の「間」の方なんだが……」
 源八郎は冷静に聞く。
 目の前にはあたり一面のセイタカアワダチソウ。
 少々広いところには大きなプレハブ小屋。
 その脇には鶏小屋とビニールハウス。逆の海側にはうち捨てられた小船が一艘。
「西暦1990年代…ここに在ったと言われる…伝説の実験的組織「特車二課」の跡地だよ」
 そこはまさに陸の孤島と言うか、現代の長崎出島と言うか、とにかく…「何をやっても何処にもばれそうに無い」ほど、見渡す限り何も無かった。
 いや、あるとすればプレハブの片隅に打ち捨てられた白黒二色のロボットだろう。何気に「ALPHONSE」の文字の下に「シルバー専用」と書かれている。
「そうか、ついに俺の時代がきたか!!」
 なんと言うか、ものすごい顔をする月臣。墓場で北辰と敵対したときの顔にそっくりだった。だがそんな月臣の顔も次の瞬間凍りつく。
「私もご一緒いたしますわ♪」
「……京子……さん?」
 ぎぎぎ、と錆付いた音を立てるかのように首をまわす。そしてその背後にいたのは果たして、やっぱりなお人だった。
「はい、あなたが行くところ、私も必ずお供します」
 などと、聞こえようによっては―意味もだが―とてつもなく怖い台詞である。月臣は知っている。この台詞が飛んだ後下手をすれば「コレクター」なる映画のような世界が待っている事を「経験上」で。
「京子……その、仕事は?」
「舞歌様がおっしゃいました。「女は度胸、好きな男には地獄の果てまでお供しなさい、私も全力であなたの恋心をサポートするわ」って」
 彼らは思った。「あの人は必ず言う」と。
「は……はは……はははははははははははははははははは」
 後には微妙に壊れ気味な月臣の笑いだけが残っていた。

「……で、またこの格好か」
 四人揃って例のぴっちりした全身タイツに着替える。
 だが。
「……「博士」…ちょっと聞きたいんですが」
 誰が見てもバレバレな正体に恐れ、気づかないフリをしておく。いやそれ以前にいつのまに回復したのだろうか?
「何だね、アオイ君」
「……この銃は分かります。きっと誰かが趣味で作ったんでしょうから」
 そう言って手に持つ銃は、まるで「きゃぷてんふゅーちゃー」が持っていそうな、ある意味「木連製」な代物だ。きっと右脇腹に対する「左脇腹の浪漫回路」が発達した人の作品だろう。
「でも僕が聞きたいのはどちらかと言うと、あのです」
「……閉店した洋服店から引き取ってきたのだが?」
「いえそうではなくて……なんであの格好をしているかということなのですが……」
 マネキンは、いずれも舞歌様やミスマル・コウイチロウ氏にそっくりだった。
「気にすることは無い。スポンサーが雰囲気が出るようにと衣装を用意してくれたのでな……」
 そう言って「博士」はニヤリと……謎っぽくゲンドウ笑いをする。
 ごごごごごごごんんんん!!!
 そして戸惑っている間に京子が何とコウイチロウ似のマネキンを全部ぶち壊した!!
「あー、すっきりした。あ、元一朗様、そちらの女性型の人形が残ってますよ。どうぞ」
 とか言いながら今度は絶句するコウイチロウを余所にカメラを取り出し、RECランプをつけながら元一朗のほうを向いた。

 元一朗にとって、地獄が始まった。


「……きっと、はたから見たら取り返しのつかない事をしちゃった人に見えるんだろーなー」
 などと言いながら臨時徴発(窃盗)したリヤカーに乗せたアリサから漂う不可思議な雰囲気、そこから意識を逸らしていた。
「でもなー、アリサ…まさかエステバリスから降りるとこんなに「よわよわ」だなんて知らなかったわ……」
 ガラガラと音を立てながらリヤカーを引きながら、レイナは引きつった笑いを晒していた。





あとがき

 開き直りました。
 こうなったら登場人物全員「人外」にしようかと。…流石にまずいか。

 とりあえず、いめぇじ的には。住吉:源八郎。渡辺:九十九。
 そして岩田:元一朗……美咲が京子……彼には痛い目にでもあってもらうか。
 待て。すると六本松(弐式):ジュン!?
 でも月臣をサイボーグにする予定はありませんよ。


 

代理人の感想

 

プレーリードッグですか(笑)。

と、言うことはサセボの地下には巨大な下水網があるんですね!?

そう言えば例の腕時計はいったいどこに(汗)。