機動戦艦ナデシコ<灰>

エピソード7−4/お約束、それは何時までも残る、最高の素材。

 ドダダダダダダダダダダダダダダ!!!
「ヤァァァァァァ、マァァァァァァァァァ、ザァァァァァァァァ、キイィィィィィィィィッッッッ」
 リノリウム張りの実験施設の床だというのに、うっすらとヒビを入れながらイノシシ、いや暴れ牛のような突進をする男が居た。薄くなってきた頭に「ヤマサキ製毛はえ薬」を塗ったら、何故か金髪が生えてきて困ったらしい南雲だが、黒く染めては居なかった。
 口さがない下っ端に「てっぺんキューピー」と呼ばれていることを知らないらしい。
 ギュリリリリィィィィィィィ!!!
 今度は二本足でドリフトをかけながら、ヤマサキの研究室に突っ込んで行った。
 ドガシャ!
 砕け散ったドアの破片が撒き散らされ、その立ち昇った埃の中で南雲は荒い息をして居た。
「ふぐっ?!」
 その行動と形相、どちらに驚いたのかは分からないが、お昼ご飯を食べていたヤマサキ、ゆで卵を丸のまま飲み込んでしまう。
「ふんがっぐっぐ?」
 律儀に、悲鳴に聞こえない悲鳴を発した後、白目を剥いて倒れる。
 喉に詰まった卵が気道を止め、息する事が出来ない。
 南雲は「葬式は面倒だしな」と考え、部屋の隅にある掃除機を引っ張ってくる。それを適当に突っ込み、一気に卵を吸い上げる。
 後に残ったのはゼェハァと息を荒げるヤマサキ。
 南雲は正直「殺したほうが後腐れなかったのでは?」とも考えたが、現状ではそうもいかない。
(今は、な。…亡き草壁閣下の理想を体現するまではな)
 そう考えて。
 ……とりあえずお茶を飲み、人心地つけてヤマサキが疑問を発した。
「どうしたんですか、南雲さん。そんなに慌てて……ストレスは髪の毛を殺しますよ?」
「なッ、それは大変だ!!」
 途端、何処に持っていたのか分からないが、怪しげなビンに入った薬を頭にふりかけ、ブラシでトントン叩き始める。
 正直呆れたヤマサキ、もう一度聞くことにする。
「それで、何が起きたって言うんですか?」
 トントン、トントン余念のない南雲は喋るのも面倒なのか、一瞬だけ動きを止め、雑誌を一冊投げつける。……そこには、恐ろしいものが写っていた。

 そこに居たのはボロボロのトーガを纏った男だった。片手に持ったねじくれた杖を振るい、人々に声を伝える。
「終末の日は近い!」
 不思議と良く通る声に、道行く人たちの注目が集まる。
 ボディービルのように作られた不自然な筋肉ではなく、戦う為に作られた戦士の体が見えた。
 男の片目は義眼であろう、色と放つ光が違う。
「聞け! これより半日後、この街を地震が襲う! 我を信じ、この街を離れよ!」
 繰り返し言う。
 記憶を失った北辰は、その鍛えた体とアクの抜けた性格で聖者の如き空気を纏っている。
 おそらく、宗教を起こせば一ヶ月以内に危険団体として国から敵視されるものが作れるだろう。
 段々と、段々と人々が集まり、北辰は彼らを引き連れ街から歩き、離れていく。
 やがて数時間がたった……。
 誰かが「ロトの妻」のように街を振り返った時、激しい地響きと共に立つ事の出来ないほどの揺れが襲い、街が崩れていく。
 そして誰かが言った。
「聖者様の……言ったとおりだ……」
 と。


「げ、現代の、名も無き聖者……?!?!」
 その見出しを見ながら、ヤマサキは、実験途中の新兵器のデータを見る。
 普通の人間なら、見ただけで胃の中を一滴残らず吐き出すような光景を見て、逆に何とか精神を落ち着ける。
「な、南雲さん……」
「本物か、偽者かという質問なら無しだ。これは……現実だ」
 もう一度、写真を見る。
 ……命の危機を感じた。トラウマが出来たんじゃないかと、心底自分の健康を心配する。
「……僕にどうしろと?」
「私はしばらく医務室に泊り込む……後は頼む……」
「ちょっと待ってくださいよーーーっ!! ……ああ、なんでこんな事に……神様、僕のこと嫌いなんですか?」
 聞かれた神様も、流石に「神が嫌いと言う訳にもいかない」から、ほとほと困り果てている事だろう。むしろ悪魔に「僕ら親友さぁね」と親しげに肩を組まれるかもしれないが。
 嘆息し、頭をがっくりと垂れさせ、一言。
「……抜け毛見っけ」




「うわ、うわ、うわ……」
 腰が抜けんばかりの様子で百華は入ってくる。
 その顔には驚愕だけが張り付いており、今にも木星本国に帰ると言い出しそう。
 舞歌はそんな百華の狼狽を止めようと、少し強く肩を掴む。
「しっかりしなさい百華! 一体何があったの!?」
 百華は混乱している。
 ヒュッと舞歌の手が閃き、炎のコマ…が出来そうな往復ビンタが飛ぶ。
 見る間見る間に腫れ上がり、痛みで正気になった百華は今度は怯え、舞歌から逃げ出し、最近千沙の代わりにコキ使われている飛厘にすがる。
「あら、痛そうね」
 そう言うと、今度は百華が「何?」と聞くまもなく、何のラベルも付いていない軟膏を、厳重そうな手袋をつけた手で百華の顔に塗りこむ。
「¶Xγ]λ」
 人間の声帯では発音できない音が鼓膜を破らんばかりに放たれ、腫れ上がった顔は一分と立たずに元通りに。
「い、今、なに塗ったの?」
 その問いに飛厘は考え込むようなそぶりを見せ、やがて顔を赤らめ、ツイとそっぽを向き、か細く言った。
「それは、秘密よ…」
 だが、そちらを追及している暇は無い。
 舞歌は再び百華の首を掴みあげると、言った。
「……報告して頂戴」
「そ、それが、零夜ちゃんが、イツキって人に会ったって……」
「……失敗したの?!」
 百華はまるで、恐怖のキメラクリエーター・ディオルじいさんのような表情で言った。
「懐いちゃったみたい」

「イツキさん……私たち、禁断の恋に生きているのね…」
「そうよ、零夜さん……私たちは茨の道を歩く者同士、強く、強く生きていきましょう……」
 手と手を取り合って、むせ返るほど香りの強い山百合の花をバックに面々に咲かせ、微笑んでいる……二人の姿があった。
 そんな、倒錯した空気の中、イツキは言った。
「ところで、貴方のお友達って美人ぞろいなんですって?」
「ええ。もし良かったら紹介するわ」
「ぜひお願いするわ」


 ……こんな会話が、盗聴器から流れ込んでくる
 舞歌は非常に顔を青ざめ、決定を下した。
「逃げるわ」
「はい。では緊急アナウンス。待機中の全職員へ。緊急事態発生、これより我々は極秘任務につきます。20分後に通信閉鎖を行い、その上で目的地を発表しますので家族に連絡がある方は急いでください。なおこの命令に従えない者は軍法会議にかけられます、以上」
 其処まで一気に話し、舞歌を見ると
「……事態を考えると、5分以下にするべきだったわね……」
 そう言うのだった。
「それともう一つ、白鳥君達に殿(しんがり)を頼んで……そう、有体に言えば捨て駒になってもらうわ」
 あまりにもあまりなその一言に、何故か誰も反論をしないとは、零夜とイツキに対する心象は、どれほどのものなのだろうか。






 まあいつもの事だが、その日もアキトは精神的に死にかけていた。
 とりあえず、何とか顔を洗う為に洗面所へ。
「……自分で言うのもなんだが、死相浮かんでないか?
 頬はげっそりとこけ、目は落ち窪み、隈は墨でも塗ってあるのかと疑うくらいにはっきり見える。髪にはつやが無くなり、トレードマークのハリネズミ頭はヘナヘナだ。
 元凶は分かっている。
 アキトは呪う、男の生理を。
 で、警戒心ゼロどころか、狙っているとしか思えないカグヤのことを。
 頭痛をごまかすように歯ブラシを口の中に突っ込むようにして磨く。
「アイちゃんだって居るのに、何でカグヤちゃんまで家に泊り込むかな……」
 そう言いながら2LDKの我が家を見る。
 使うわけにはいかない金なら幾らでもあるが、今言ったように使うわけにはいかない金なのだ。使えば一瞬でラピルリにばれるから。逆にカグヤに付きまとわれているなら、ユリカへのアドバンテージをカグヤが手に入れる(要するに既成事実)までは、身の安全が保障される。
 しゃこしゃこしゃこ。
 歯をきっちり磨く。
 磨き残しがあると、あとで大変な事になりかねないから。
「隣でアイちゃんが寝てるってのにさー」
 がらがらがらがらぺっ。
「……下着姿で俺の布団に入って、その上抱きついてくるんだもんなー」
 今度はチューブから洗顔料を出し、あわ立て顔を洗う。
 ぱしゃぱしゃ。
 タオルを顔に当てたまま、ぼやく。
「自制するだけで、これだもんなぁ……」
 頭の中で「やっぱり逃げよう、それで誰が困るわけでなし」などと考えている。
 このあたり、開き直りと取れなくはないが、それはそれで良いのかもしれない。
「問題は、どうするかだよな…」
 と考えるのはアイちゃんのことだった。
 イネスが居るのに何故、と考える事もあるし、それ以前に係累が居るかも不明。
 すると、一番確実なのはイネスとアイを引き合わせること。
 ポケットを漁る。
 虎の子のCCが何個かある。
 こうなるとジャンプフィールド発生装置の開発をすればよかったと、少々後悔するが、反省は全くしなかった。


 だから、盗聴器とカメラが無いのを確認した上で、カグヤが風呂に入っている隙に行動に出た。
「……アイちゃん、逃げるよ」
「……カグヤお姉ちゃん、どうするの?」
「だから逃げるんだよ!」
「逃げるの?」
「逃げるおつもりでしたの?」
「げ」
 後ろを振り返る。
 どうやったのだろうか……もしやアキトの逃げようとするのを「オトメの勘」とやらで見破ったのだろうか? それはまあともかく、ついぞ今まで入浴中だけあって、タオルを巻いただけ、ほんのり桜色のカグヤがいた。
 ぐびり。
 一瞬、男の悲しいサガによって喉を鳴らし、ヤバイと感じ……
「ごめん、カグヤちゃん!」
 トン。
 結局、当身で気絶させる事にした。
 やってから思う。もっと早くにこうすればよかったと。

 現在、地球では幾つもの勢力が入り乱れている。
 最も組織力を持つ、各国軍と連合軍。士気は高いが、装備は貧弱。
 強力な装備を持ちながらも、真面目に戦ってない節のあるお笑い世界征服組織ブラックマッシュルーム、通称どくきのこ。
 趣味と実益を兼ねたスーパー戦隊。装備が変わるとチーム名が変わるので、正式名称は日替わりらしい。
 そして一部企業と、一地域の民間自警団。
 反乱軍と呼ばれる草壁派残党。
 そして、戦争を個人で力ずくで止めた最強のテロリスト<黒い悪魔>こと…アキト。


 身長差を無視して、アキトにしがみつくというか、アキトの手を引っ張りながら歩くアイちゃん。
 向かった先はネルガルの研究所で、イネスの研究室であったはずだが……。
「こっ、これは……」
 建物があったが、名前が違ってゐた。
 その名も素敵「究極天才万能最"キョウ”科学要塞研究所」……ちなみにタクシーの運転手に「後1キロだ、歩きな」といわれた時は憤慨したが、カラスが大量に群がっているこの様相を見れば、そうも言いたくなるだろう。
 アキトの口から、判然としないものが言葉となって流れ出る。
「キョウ……って、一体なんだ?」
 それに答えたのはアイちゃん。さすがはイネスになるはずの子供、という事か、至極当然とした様子で。
「凶とか狂とか恐とか脅とか強じゃないかな?」
「……どれも発音一緒だし」
「そういうこともあるよ、お兄ちゃん、何処行くの」
「イネス先生って人のとこ……」
 そう言って、案内図に駆け出していくアイちゃんに引きずられていくアキトは心底思った。
「……三つ子の魂百まで……」

 コンコン。
「イネスさん、居ますか? テンカワですけど」
「えっ、あーくん?!
「こら、待ちなさい、そんな格好で…」
 ガチャリ。
 ノックしてから、ほんの数秒後、中に居た枝織が抱きついてきた。
 逃げる用意などして居なかったというか、アイちゃんが腕を掴んだままだったから逃げられなかったというか、とにかく抱きつかれたのだ。
「あーくんだ、あーくんだ、あーくんだ、あーくんだ……」
 小さな子供がするような動作で、顔をアキトのシャツに擦り付ける。
「し、枝織ちゃん……あ゛?」
 枝織の髪は長い。そしてきっちりと抱き付かれているから、この体勢では顔と髪の毛ぐらいしか見えない。その所為で気づかなかったのだが、今の枝織は半裸だった。より正確に言えば、いわゆる検査着であり上半身が裸の状態に肌蹴ている、ということだが……。

 ここ数日、アキトの部屋にはアイちゃんとカグヤが泊り込んで居た。
 なけなしの自制心で押さえ込んでいたが、彼もまた男である。
 そこから逃げた直後にこの状況。
 天使と悪魔の声が聞こえてきた。
悪魔「ヤっちゃやイーじぇねぇか。こんだけ好かれてんだからよぉ」
天使「いけません。この少女は貴方に純粋な好意を抱いてのこの行動なのですから」
悪魔「イイコ面すんなよ。色々と我慢してんだろ、今日ぐらいゴホウビって考えろよ」
天使「いけません! 貴方はこの少女の、信頼しての笑みを失うつもりですか?」
悪魔「てめ、ウゼェんだよ」
天使「貴方こそ!」
 そう言いながら掴み合いの喧嘩を始める天使と悪魔。
 まるでジョーばりのクロスカウンターで同時に崩れ落ちる。
 ストーカー(Gガンの語り部)の衣装を着たSDプロスペクターが現れ、10カウントをするが両者ノックダウン。ゴートとフクベがポイントを発表するが全くのドロー。

 結局アキトの精神が決める事になる。
(俺は…俺は…俺は…俺は!!)
 カッと見開き、
(子供の目の前はやめとこ)
 …アイちゃんが居なくなったら、この男の理性はどうなるのだろうか。非常に危険な疑問である。

 イネスとアイは、非常に複雑そうな顔をする。
 未来を夢見る少女。
 過去の記憶を失ってしまった女性。
 それが生の状態で目の前に居るのだ、内心、複雑であろう。
 しばらく緊張状態が続いた……後で、二人はどちらともなく声にした。
「このオバチャンが?」
「この生意気そうなのが?」

 本当に同時だった。
 ギロリとした目を向けるイネスと、アイ。
 口に出したら命がなさそうな気もするが「本当にそっくり」だ……特に自分の事を棚上げするあたりが。

 はぁ、と嘆息し、アキトは緯線を周囲にめぐらせる。
 奇妙なポッドが二つある。
 大きさは高さ2メートル、直径1メートルはありそうだ。表面はガラスに似た何か別の物質で、中身が透けて見える。上のほうに電源ケーブルや通信ケーブルのようなもの、センサが大量に取り付けられている。
 それらの事を無視して何かに例えるなら、使ったら「電送人間ハエ男」でも生まれそうな奴があった。

「……これは?」
 見ても分からないし、触っても分からない。別に刻印もされておらず、下のほうにVer0.23βと書かれているから、イネスの作った怪しげな機械だろう。
 コンコンと軽く叩いてみると、かなり硬い素材らしい。
 そのアキトに気づいたのか、枝織が寄ってくる。
 何故かアキトが、何か大切なものを諦めるような苦しそうな表情で「ちゃんと服を着てくれ……」そう言ったから着替えている。赤いTシャツにオーバーオール、少し幼く見えるが良く似合っている。
「ん? あーくんそれが気になるの?」
「ん、ちょっとね…」
「ふふふふふふ……これ、すごいんだよ! イネス先生が作ってくれたんだけどね、これ使うと枝織と北ちゃん、お話できるんだよ!
「え、それってどういう……?」

 枝織は説明する。
 大体の所を理解できていればいい、と考えたのか…説明は非常におざなりだったが、イネスに楽しそうに長時間説明されるのもいやだったので、おとなしく枝織の説明を聞く事にした。
 ちなみに後ろの二人は「説明」に反応しないくらいに、舌戦を繰り広げて居た。
 まあ要するに、かつてアキト達がナデシコで仕掛けられた無人兵器の奇襲、離れた人間達の意識を一つに纏め上げた……つまりIFSを利用しての無線LAN形成。その話を聞いたイネスが人間の「裏の人格を表の人格に触れさせる事が出来るのではないか」と考えた結果がこのポッドである。
 そして枝織の場合は、北斗の人格と接触するに至ったわけである。

「あーくんもやってみようよ、楽しいよきっと!」
「え、そうは言っても…」
 言われ、そう簡単に承諾できるものではない。
 何しろかつての世界と切り離された現在……もしかつての自分が目の前に現れたら? そう考えると、足がすくみさえする
「枝織ちゃん、俺はいい…よぉ?!」
 ドスンと押され、中に入るアキトと枝織。
「ほらこうやって、ここに触るだけだよ♪」
「いやだから俺はぁぁぁぁ」

 ボスンッ!!
「何事なの! 今忙しいんだから!!」
「いやねぇ、おばさんは……余裕なくって」
「何ですってぇ!」

「……酷いなぁ枝織ちゃん、壊れちゃったじゃないか」
「ごめんあー君……」
 あれ、と思う。
 何か、どころではないもっと大きな何かがオカシイ。
「冗談……だよな」
「どうかな?」
 そう言って、お互いに「自分の体」を見る二人であった。
「む、昔のラブコメじゃないんだから……」
 楽しそうな「枝織・イン・アキトの体」と、へこむどころじゃない「アキト・イン・枝織の体」……だった。




 その部屋には流麗な書体で、教訓めいた言葉のかかれた掛け軸があった。
 あまりに流麗で、正直言えば読めない。
 が、書いた当人に言わせれば、この部屋の主の「座右の銘」の言葉をそのまま書き記したらしい。
 つまり
「一日一歩、二日で二歩、三歩進んで二歩下がる」
 ……歌詞の引用だったか。
 そこで主は風船で出来た地球儀で遊んでいた。
 無声映画一本だった喜劇王に言葉を話させた、独裁者批判の映画の一シーンを思わせる姿で。
「どうしようかしら、サセボ一つにこんなに手間取るなんて……」
 ピンポーン。
 内線が鳴り、続いて声が流れた。
『……ムネタケ閣下、面会希望です。5歳ほどの少女で”蒼の騎士の遣い”といえば分かると……』
「そう、丁重にお迎えして。可能な限り丁寧に」
『分かりました』

 僅かに時間が過ぎる。
 おそらくはSPだろうが、スーツの中に「どくきのこ下っ端スーツ」を着ているのが丸分かりなのが……らしいといえばらしいか。

「お連れしました」
「ご苦労様、下がって良いわよ」
「はっ」
 一瞬考えたが、最近では完全武装したエステバリスを素手で引きちぎるほどパワーアップしたムネタケである。むしろこのSPのほうが足手まといになりかねない。だから敬礼をすると、男は去っていった。
 残ったのは、一人の少女。
 誰もいなくなるとムネタケは膝を折った。
 まるで神に祈りをささげるかのように。
「シディ様、申し訳ありません。今だ世界掌握は……」
「顔を上げてください。私達はあくまで対等なのですから」
「しかし…」
「お願いします」
 言われ、ムネタケは立ち上がる。
 身長差があるため、今度はムネタケが見下ろすような体勢になるが、少女は全く気にしない。
「かまいません。我が主も今の生活を楽しんでいます。ただ、西欧は少しやりすぎですね
 その言葉にムネタケは、哀れな表情を浮かべ、ただ平伏するばかり。
「申し訳ありません、アタシの部下が…」
「……世界崩壊を防ぐのが私達の願い。これはその為の仕事。人を傷つけるのは本意ではありません…申し訳ありませんが、たのみます」
「…はい、お任せください」
 その声を聞き、安心したのかシディと呼ばれた少女は微笑み、音も光もなく消えた。

 隣室。
 そこで「狂気の謀略」は見ていた…一部始終を。
「シディ…探ってみる価値はあるみたいね……」
 パチリ。
 しゅっ。
 指の鳴る音と同時に幾つもの影が現れ、膝をつき頭をたれる。
「お呼びでしょうか、「狂気の謀略」様」
「ここにいるのは私と貴方たちだけ…構わないわよ、クリムゾン・ロストナンバーズ
「廃棄されかけた私達を救ってくれた貴方を世界の女王にするのが我等の願い……なんなりと」
 ……闇の中を見通すことは、誰にも出来ない。
 それが人の心の中の闇であるなら、なおさらに……。



あとがき

 ……そろそろ<灰>も収束させる方向性で……。

 傍若無人にパワーアップしたムネタケの上役、というわけではないのですが、まあ、いろんな意味で謎な”シディ”が登場しました。
 ちなみにムネタケが持っている兵器類、まともに運用すれば世界を滅ぼす大災害”火の七日間”を5分でやり遂げるだけのパワーがあります。だからこそ、何か心にストッパーを持っている人間ばかりで、大規模破壊はほとんど起こっていないのですよ。

 ……もしかしてM派の人、クリムゾン・ロストナンバーズと同じ事考えていませんか?

 これを書いていた時点はともかく、投稿直前の時にNHKであれのリメイク版が放送されましたね……。

 

 

代理人の感想

・・・・まー、元々ストイックな所はあるし、アクが抜ければこうなるのかもしれませんが・・・・

妙に似合うな、苦行者北辰(爆笑)。

そのうち法○功でも作ったりして(爆)。