機動戦艦ナデシコ<灰>

エピソード12−5/エンカウント・5!


 ジェイとカエンは口を揃えて横島っぽく
『死ぬ、このままでは死んでしまう…』
 と、卑屈な顔で必死に逃げ道を探していた。

「アーボックとマタドガースはヤラレ雑魚じゃなかったのか…?」
「詳しいなカエン…」
「真面目なお前と違って俺は読書なんかしねえ。代わりにゲームはやったが」
 相性が最悪だった。
 カエンの武器、名前そのままの火炎攻撃が「えんまく」に引火するので焼死しかけた。カエンの火よりも、煙幕を吐き出すパワーの方が強いらしい。
 ジェイの力もあれだけの太さを持つ蛇の筋力が発揮する「まきつき」は逃げようがない。それ以前に何故かアニメのロボットの攻撃のように異常に良く『生体部品』に命中するのだ。きっと種が弾けているのだろう。
「カエン……このままでは、間違いなく殺される。ここでか、それともエルにかの違いしかないが……」
 息も絶え絶え、しかし……ジェイの目から光は消えていない。
「だがどうする、このままでは…」
 そこまで言ったとき、二人は「むぐーーー」という悲鳴で後ろを振り返った。
 コジロウ(ツヨシ)が、サボネアに抱きつかれて転がっている。
 ゾッとした。あんな立派な刺の攻撃を受ければ死にかねない。
 そこまで思い至ったとき、カエンは何かに気づいてもう一度振り返って、そして見た。……逃げ去るジェイを。
「仲間を置いて逃げるなーーーーっ!」
「ちがぁぁぁーーーう! 公衆電話を、探しているのだーーッ!」

 20世紀の終わりに公衆電話が一般化して以来、公衆電話は常に絶滅の危機に晒されてきた。しかし、災害時など、有線の連絡網が有用であることを知らしめる事件は幾度となく起こった。
 だからこそ避難所になるような施設、つまり学校や公民館。それにどの商店街にもいくつかは設置されている。
 そう、ここは学校なのだ。
 そしてジェイの目に見えた。校舎の中の職員玄関の向こうの事務室の前に設置された、一台の公衆電話の姿が。
「…我、勝機を見たり!」
 妙に時代がかった台詞を吐くジェイ。
 それを見てカエンは…
「頭は、打ってなかったよな…」
 と、心配げに呟いた。

「…ラピスちゃん、どうしよっか…」
 心配げなキョウカ。
「こんなに遅くなったら、お父さん心配しちゃうよ…」
(そっちが心配なのか! …つーか、お兄ちゃんの心配は?!)
 と、声にならない声でサボネアに抱きしめられているツヨシの心の声があった。
 しかしやはりそれにラピスが気づく事はなく…
「いーのいーの。でもなんでウツボットじゃなくてサボネアなんだろーねー」
「ま、あんまり忠実なのも寂しいからということで…」
 そう言いながら、気がついたらこの状況を受け入れていた事に、しかし今ではさして気にしていない事実を言葉にする。
「しかしポケモンって、生き物の割にはそのままでヌイグルミみたいな格好をしてるね…」
 このような生物は今までいなかったはずなのに、今此処にいる事に疑問を挟まないのは、やはり不自然だ。だが、それが今此処で起きている異常事態そのものであることに気づいている人間は、一体どれほどいるのだろうか。

  化物にしか見えない小学生が訳の分からない話をしているうちに、ジェイはガラスを破って校舎に進入、非常ベルが鳴り響く中、他のものには目もくれずに公衆電話に黒いカードを突っ込む。テレホンカードではないようだが、少なくとも偽造カードでもないらしい。
 それを遠目で見ていたラピスは、いつもの如く時代を無視した台詞を呟いた。
「あ、ブラックチェンバー」
 公衆電話の下から現れたトランクをジェイは引きずりながらカエンの元に戻る。
 そして、口を開いた。
「カエン、お前の能力はなんだ?」
「今更なに言って…」
「良いから言ってみろ」
「火炎放射…」
 その言葉に得心が言ったのか、ジェイは物凄く陰鬱な表情を見せた。
「そうだ。Dの相転移炉とフィールド、エルの鋼糸、インの隠れ蓑、おまえのそれ。…なあ。俺の…このジェイ様の能力って一体なんだ?」
「……そういえば…何だったっけ?」
 無体な言葉に、ジェイは笑うしかなかった。
 その虚ろな笑いの中、時たま「本編でも謎なんだよな、俺の力って……」という謎の台詞が混ざっていたようだが、やはり不明である事に代わりは無かった。
「ええい、そんな事はもうどうでもいい、今こそ見よこの俺の真なる力を!!」
 そして、ジェイは自棄なのか、それとも虚勢なのか、物凄く朗らかに叫んだ。
 ブラックチェンバーのトランク、その中にはバラバラにされたロボットのような物が入っている。リアルさよりもおもちゃライクなデザインを感じさせた。
「俺の正体。それは…それは…それは! 人間<ティンペット>+<メダル>!!」
「何か知らんが色々と、人間として大切な物を捨てているような気がするぞ、それは!!」
 そう言いながら、体にパーツをつけていく。エクスレイ、スライドソード、ブラッキハンマー、アウトストリップ。完成したそれは正にクワガタ型メダロット!
「ちなみにパーツ名はNaviのやつな」
 そんな事、既にカエンは聞いちゃいなかった。なぜなら聞いているのも馬鹿らしかったからだった。賢明な判断である。
「ちなみに覚えているメダフォースは?」
 気まずい沈黙。
「おい?」
 気まずい沈黙再び。
「まさかと思うが…」
 そして、やはり気まずい沈黙しか返って来なかったと言う。



 ルリとアユミ、二人は地下の避難所に居た。
 避難所とは言っても、不思議な事にシェルターではなく、むしろ茶室のような佇まいを見せている。
 茶室の『ような』と表現したのは、ある種博物館じみていたからだ。棚には何枚もの皿が飾られており、壷…いや甕が並んでいる。しかしやはり違和感がある。皿は全て同じ形・模様の石。甕は口に封印が施され、中身は一切不明だ。隣にある冷蔵庫など幾重にも鎖が巻かれており、その上錠がなされている。
「ここ…避難所なんだよね」
「シアさんはそう言っていましたが…」
 言いつつ、部屋の中を見やる。
 茶器が置かれ、囲炉裏には薬缶がくべられている。シュンシュンと沸き立つそれは、今までここに誰かが居た事を想像させるが、少なくとも今この部屋には誰もいない。
 ルリが、ここに居たのは誰か。何故避難所などをシアが持っているのかと思いをめぐらしているとき――
「お茶菓子見っけ♪」
 ――お気楽にも、室内を物色し、あまつさえ口の中に団子を頬張っているアユミが居た。その光景に、ルリが目を覆うと――
 ズドム。
 壁から槍が生えた。

 不思議な事にアユミの手にあった、今まさに口に運ばんとしていた菓子が粉々に砕け散る。偶然であることを願いたくなるほど近くを通った槍、それを見つめたままアユミが動きを止めていると、何かが感じられた。無論、突然壁に槍が生えるわけがないので犯人がいるはず。だからか、壁の向こうから素人のルリやアユミにもわかるほど濃密な気配がする。
 二人の目が、自然とそちらを向き――
 ドド、ズドドドドドドド!!!
 高橋名人ばりの一秒間16連射、槍の雨霰、瞬く間に壁が蜂の巣以下に変わっていく。その向こうに居たのは、老練たる兵(つわもの)…そんな言葉が自然と浮かんでくる老人だった。ちなみにクラスはジェネラル。アーマーナイトからのクラスチェンジはすでに済ませてあるらしい。
 その老人は、眼光鋭く口を開く。
「小娘ども、何故我が隠れ家におる…」
 ただ一度、口を開いただけで……空気が『銭形警部に発見されたルパン』『成歩堂弁護士を頼っての裁判』を経て『バーサークした宮間夕菜とご対面』に変わる。むしろ『目の前に、ご機嫌状態のアーカード様』…これが一番近いか。

 だが、そんな危険な老人にルリもアユミも見覚えがあった。テレビや新聞、そして教科書で。
「…第一次火星大戦の英雄…」
「フクベ・ジン提督……」
 その呟きに、気分をいたく害したのか、フクベ・ジンは顔を忌々しげに歪め『自分は英雄ではない』と吐き捨てた。

「ほう、シア殿とクーシャ様のご友人であらせられるか」
 先ほどの”槍の一件”は、突如好々爺の笑みを浮かべたフクベの顔に毒気を抜かれたか、それとも”槍、再び”を怖れたのかは分からないが、どこかギスギスとした雰囲気を残しているルリとアユミにお茶を振舞っていた。
「……ねえ、ルリルリ、あの二人に”様”って、どういうことなのかな」
「それは、私にもわかりません、気になるなら尋ねてみれば……」
「ダメ、怖いし」
 どうやら後者のほうらしい。
 顔の上にはっきりと縦線を入れながら、ボソボソと話す。無論、顔は愛想笑いを浮かべたまま。この空気からすれば、これは非常に”面の皮が厚い”と言わざるを得ない。
 仕方なしに、ヘタレなルリに変わってアユミがおずおずと切り出す。
「…『様』…ですか」
「うむ。……内々に進められていたスキャパレリ・プロジェクトという物が有ってな、それが突如潰れ、儂は思いあまって”戦友達の居る場所”に行こうか思案していた時の事――」
 ……このとき、ルリとアユミは話に引き込まれる事なく”老人は話が長い”と言う言葉の意味を、身をもって再確認する羽目となった。余りに憐れな話であるが……。

 そして話の余りの長さにルリとアユミの髪が白くなりかけた頃……
「ふむ、これについて話はしたかね?」
 そう言いつつ、背後にあった数々の品を指差した。
「あう〜」
「う〜」
 少々『鍵』の入った台詞を垂れ流すほど脳みそが程よく茹だった二人、この言葉をどうとらえたかは知らないが、フクベはとてもマイペースそうに皿を見た。
「これは『呪泉郷』から回収された『水』だ」
「はい?」
「これは円盤石といってな、データ化された生命が封じられている」
「…えぇ?!」
「その上、昨日からは『悪魔の実』と呼ばれる植物……遂に生物が現れた
 二人の額からジトリと汗が噴出し、すぐさま滝のように流れ出した。
 ゴトン。
 何か、重い音がした。
 ルリとアユミの丁度後ろに落ちたため、二人よりもフクベが先に気づいた。
「…また、封じられるべきものが現れたか……」
 と。
 好奇心に負けた二人は、後ろを見て後悔して前を向いた。
「あの、フクベ提督…」
「元、だ」
「この、青くて、二頭身で」
「お腹に半月形のポケットがついているのは……」
「「どちら様で?」」

 するとフクベは質問を無視し、123キロのそれを軽々と持ち上げて何故か茶室(風の建築物)の床下にある収納に放り込み、代わりに取り出したコンクリートを練り始めた。
「あの、さっきのは一体…」
「この間は、頭に二本角だか髪の毛だかよく分からないものが付いた十万馬力のロボットだった。しかもパンツ一枚の……」
「そ、」
「それはそれは…」
「だが、未だに『黒い円盤石』はムネタケの部下…元部下に奪われたままだ」
 何か、聞いてはいけないことを聞く決意をした二人を、フクベは更なる問題発言ではぐらかした。今までの質問は脳内のメモリーから揮発したろうが、全く別の懸案事項が入力されれば、余り問題の大きさは変わっていないように思われる。
「黒い…」
「…アレ…ですか…」
 愛想笑いというか、聞いてはいけないものを聞いたときの反応というか……微妙な表情を浮かべる二人がそこにいる。
 だがフクベは、何か含んだ顔をして呟く。
「君達はこれが何か知らなかった。だが私が『固有名詞』を用いた途端『理解』した……おかしいだろう。だがこの原因を知らねば、君達……いやホシノ君、君は死ぬ。『奴ら』に殺されるからだ」
「私、が、…死ぬ?」
「どうしてルリルリが? それに私は?!」
 不可思議な言葉。
 フクベは何かを詳しく知っている。そして、それについての情報もかなりのようだ。だが……
「…私にはそれを言う『権限』がない」
 まるで狐につままれたように二人は『…権限?』と呟き、
「では、その権限をもっているのは…」
「もしかして、シア……様…ですか」
 殺意の波動を放ち始めたフクベの眼光を浴び、敬称を付け直すヘタレなルリ。
 フクベは無言を返した。
 その無言は、肯定のそれだった。


 アキトは、徐々にだが思い出していた。
 火星の後継者事件の直後、地球と木星の間で選ばれた『生贄』の事……大衆が求めるのは、目に見える『真実』であって『事実』ではないこと…。
 そして、ネルガルが隠匿していたプロトタイプナデシコ改修艦……制式化されれば『ナデシコD』と呼ばれるはずだった戦艦に乗っている事。最大の事案は、積荷が自分達だけではなく……悲劇の原因となったボソンジャンプの演算装置。最もこれが、火星に有った物か同系機かの判別はつかないのだが。
 此処に居る自分の理性は、幻覚であると判断していた。だが直接脳に送り込まれる情報は現実との区別などつけようがない。視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚。当時の自分が感じ取れなかった情報まで、気色悪いほど鮮明に感じ取れるのだ。だから、目に見えて衰弱していくユリカ、必死で追手から船を逃すために不眠不休に近い状態で働くラピスとルリ。もはや何時死ぬかさえ分からない自分自身。
 やがて磨耗した精神が眠りを誘い、時が経ち目を覚ましたとき、其処は病院だった。
「知らない天井だ……」
 気が滅入る。
 幾度、死線を彷徨ったろうか。その度に此処ではないが、此処と同じ部屋に意味の部屋に居た自分を思い出した。
「目が覚めたようだな」
「! …誰だ!」
 ベッドを囲むカーテンの向こうに人影が見えた。
 油断していた。この病室は個室ではなく、大部屋だった。それどころか自分以外の人間が入院患者ではなく監視要員だと言う可能性も捨てきれないのだ。
「誰だ、とはご挨拶だな。コロニー連続襲撃犯テンカワ・アキト」
 その声に含まれていたものが、はっきりとした敵意だと、今更気づいた。
 起き上がろうとして、目を開いているのに殆ど何も見えない――その状況に気づいたとき、何かが体の上に放り投げられた。それが何かを理解するよりも早く―
「視覚矯正用のバイザーは修理しておいた。外を案内するから付けろ」
「え? あ、ああ…」
 何か釈然としないものを感じながらも、今はこの流れに身を任せるしかない。バイザーをつけ、しかしバイザー越しのあの頼りない視界ではない、鮮明な画像が見える。そしてこれが何らかの”記録”である事を再確認させる。
 そして見た、今まで話していたものが一体、何であるかを。
 禿げ上がった頭、大きな口、黄色の瞳、張り出した頬骨と、突き出した顎。そして、――そして、全身を覆う鱗。蜥蜴人間(リザードマン)だ。
 その衝撃は余りに凄まじく、至近距離で、今まで人間だと思っていたものが全く異なる姿をしていたなど想像もしない、どころか想像する余裕もない現実的な世界の中にいたアキトに衝撃が走った。
 防衛本能のようなもの。
 未知のものに対する恐怖。
 それがない混ぜになって、アキトは拳を振るった。
 ゴキリ。
「つっ…」
「ぐうっ!!」
 まるで蚊に刺されたかのようなリアクションを取るリザードマンに対し、力加減を忘れたアキトの方がダメージを負う。鈍い音は、手首の関節が外れたものだ。
 リザードマンはそのアキトを軽く転ばし、うつ伏せにした状態で心臓の上に足を置く。この状態から心臓をいつでも踏み潰せる、そういわんばかりだった。
「ユリカは…ラピスは、ルリちゃんをどうした!」
「問いには答えよう。だがその前に言うべき事がある――」
 途端、アキトを踏みしめる足に力が入った。
 ギシギシ、ミシミシという音が聞こえたような気がした。
 いや、むしろ聞こえていなければおかしいほどの圧力がかかっていた。
「火星の後継者の息のかかったコロニーだけでなく、ロストコロニーを落としてくれた貴様に、かける情けなど欠片も無い……だが。貴様に”罪”を見せるまでは殺すなと厳命されている」
「罪…だと?」
「ユリカという女、あれが本当に人間だと思っているのか、貴様は…」
「?!」
 奇妙な発言。
 しかし、それが真実かどうか分からないが、アキトの心臓は冷水を浴びせ掛けられた、または針を刺されたかのように急激に悲鳴のような鼓動をあげた。
「此処はロストコロニー”アビス”。…来い、ロストコロニー”ゲヘナ”から来た者達がお前を待っている」
 アビスもゲヘナも、どちらも地獄を指す言葉。
 それに対する不審の上が顔に出ていたのだろうか、リザードマンが言った。
「住めば都。……例えそれが地獄でも。これが俺達の見出した真実だ」
 その言葉を聞いたとき、突如視界が反転した。室内から屋外へと。
 目の前に広がった光景……おそらくコロニーの外壁だろう。其処から船体をのぞかせる、アキトが乗っていた船。その周囲にまるで壁と同化させるよう、酸素漏れを防ぐための硬化剤が厳重に施され、壁の一部となっている……ものだった。
 しかし。
「な、こ、これは?!」
 その作業を行っているのは、奇妙なディティールを持った存在だ。『シルエットのみ』は人間のそれだ。だが細部が大きく異なる。複数の目をもつ人間、鱗を持つ人間、鰓や水掻きを持った人間、羽毛に覆われ翼を持った人間、小人や巨人もいる。
 目を丸くするアキト。
 その意味を察したか……リザードマンが口を開く。
「亜人が珍しいか? ……『外』の人間にとってはそうだろうが…」
「突然変異……?」
「突然変異だと? …く…くく…」
 苦笑い、そしてこみ上げてくるものを押さえ込もうとする表情。やがてそれは遠慮のない笑い声に変わる。
「く…はは、ははははははははははははははははは!!!」
 ギンッ!!
 ただでさえ爬虫類じみているその容貌に、一切の温度を排除した『冷たい』目をアキトに向け言った。蜥蜴…いや毒蛇のそれを。
「否! 断じて否!!」
 怒号。
 かつて復讐者として闇の中に身をやつしたアキトであったが、これは違う。暗さが、冷たさが、熱さが、全てが織り交ざったその根の深さが違う。
「…我らは、末裔。捨てられたものの末裔なのだ……。いや、今言うべきはこの事では無い。伝えよう、闇の中に隠すべき、忌むべき真実を」
 恐怖の感情の中、このリザードマンにどこか自分と似た何かを見て、アキトは逆にほっとした。目の前にいるのは間違いなく人間だと。闇が共鳴したと言い変えてもいい。アキトに理解できる何かがあったのだ。
 だから、彼の言葉を聞く気になれた。首肯し、続きを促す。
「我々の祖先は、月の独立運動家だった。だが地球の者達の関係によって火星へと逃亡……」
「それは知っている。だが、彼らは皆木連に…」
「捨てられたのだよ、我々は。火星にも、木星にも行く事が出来なかった…逃げられずに捕縛され、人体実験の材料にされた人間の末裔なのだ」
「!」
 息を呑むアキト。
 人体実験という言葉がもつ意味は、彼にとっては計り知れない。
 ただその一言で限りない負の感情が、心の中に押し込めてきた闇が噴出してくるのを実感出来る。
「地球で生まれ育った人間がそのまま火星で生活できるわけが無いだろう? 適応するためにはどんな体質の人間で無ければならないか。火星で生まれた人間が、月で生まれた人間が地球の1G下で生活できるようにするにはどうすればいいか。人間を人間以上とするには――身体能力、成長速度、容姿、寿命――それらを今以上にするためにはどうすればいいか。人間以外の種の遺伝子を組み込んだ人間は、何を感じ取れるのかを」
 そこまで一気に喋り、息をついた。
「木連の奴らは逃げるために俺達の祖先を捨てていった!! 逃げ損ねて捕まった月の独立運動家を、地球の奴らは『リサイクル』とぬかしてこのような非道を行なった! ――そして必死で逃げ、この場にコロニーを造り暮らしていた俺達! その俺達のコロニーに、地球圏でテストが出来ないからと、わざわざここまで来てグラビティブラストを打ち込んだ馬鹿がいた」
 アキトを見る目に、憎悪以外のものが消えた。
「――それが貴様だ。あの時…400を数えるゲヘナの人間は、たった6人しか生き残らなかった」

あとがき

 えー、文中で書きにくかったことを少々。
 ユーチャリスは、何処のドックで作られた物かは不明ですが、少なくとも公式の記録が残るような状況で建造された事は無いと思われます。ナデシコの系列艦と思われる戦艦が、幽霊ロボットとの接触を持ったとき、ネルガルが「誤魔化しやすくするため」には。おそらくは他のどの機関にも察知されないような秘密の場所で、全くの秘密裏に作られたはず。
 とすれば、運用試験も秘密裏に。
 その際、地球から離れた場所に浮いていた小惑星をグラビティーブラストの発射実験でブチ壊していたり、ディストーションフィールドの耐久試験で小惑星に体当たりをしたりと……その際、偶然グラビティーブラストの命中した小惑星が隠れ里で、ロストコロニー・ゲヘナとしています。

 <黒>のほうで、チューリップの中にロストしたデュラハンが最終的に流れ着いた場所、それがシアたちの故郷、ロストコロニー・ゲヘナです。
 ゲヘナの人間は、外観はごく普通の人間ですが身体能力が非常に高く、その分寿命が短い。
 こんな感じですかね。

 それにしても、ジェイの本来の能力って一体何なんだろう……。特に書いてなかった……よな?
 それ以前に、中身がラピス達だったとはいえ、ロケット団が強いのは何か間違っているような気がする。

 

 

代理人の感想

公衆電話・・・なんだ、戦神○呼ぶのかと思ったのに(笑)

ちなみにジェイの能力は怪力と重装甲ですよ〜。

本編に書いてありますよ〜。