機動戦艦ナデシコ <逆行者>
 第二話「なのに何故か内容は第三話。何でかって? アメンボさんが言ったからさ」


 あらすぢ
 何気にすっ飛ばされた第二話において、ナデシコは無難にチューリップを撃破。
 ユリカの現在の姿を見たコウイチロウも勿論一緒に撃破。
 ジュンは血反吐を吐きながら「アキトをブチ殺してユリカを取り戻す」を決意した。
 ついでにガイはいまだにゴートの教育を受けていた。



 では、大きく変化した、似て非なる世界を見て頂くとしよう。

「ナデシコ許すまじ!!」
 大声で議長であろう男が宣言する。
「し、しかしナデシコの乗員は大半が日系人でして……」
 まさに典型的な政治家といった風情の男が反論するが……隣に座り擁護すべきコウイチロウは、いまだ精神的に生死の境を彷徨っていた。
「彼らが連合軍に帰属すると言うのなら、これまでの罪は許そう」
 ……ナデシコが何かやったか、と考えてみる。
 まあ、都合の悪い事は逆行者が何とかしてくれたから大丈夫だ。
 例えばブリッジで銃が暴発してメグミのトレードマークであるおさげが無くなった時や、力加減を間違えたアキトがキノコを殺っちまった時も、チューリップに突っ込んだナデシコがそのまま木連の首都に突っ込んだりした事も、もう無かった事になっている
 そこで、もう一度彼が聞いた。
「議長。ナデシコは一体何をしたと言うのですか?」
 議長はフ、と笑うように。そしてその一瞬後叫んだ。
 彼は、心の内を叫んだ。
あんなモノ(=逆行者)を乗っけた艦に、チューリップが破壊された!! これ以上ない侮辱だ!! ネルガルの陰謀に違いないんだああああああああ!!!」
 どうやら……逆行者がシンボルヨロシクくっ付いている様な艦が活躍し、連合の艦が撃墜された事が許せないらしい。
「おおおおおおおお!!!!!!!!」
「ナデシコゆるすまじいいいい!!!!」
「KILL!! KILL!! KILL!! KILL!!」
「DEATH!! DEATH!! DEATH!! DEATH!!!」

 凄まじい熱気である。
 彼らがこれ以上無い位にズタズタにされたプライドを回復するには、ナデシコを下僕扱いで使役するしかないのだ。
 そんな中に入る通信。
「……ナデシコからの通信です」
「繋げ!!」

 そして、空中に浮かんだモニターに投影されるユリカの勇姿!!
 ……え゛?
 ヒュ! ビシィィィイイ!!
「フン……よくもこれだけ集まったわね、豚どもが」
 いきなり投げかけられる言葉!!
 しかし彼らは憤慨する事無く、逆に呆然とした表情で呟くだけだった。
「じょ、女王様……」
 ……と。
 ユリカの姿はある意味サイコーにイっていた。
 公共の電波ギリギリまでカットされた革のボンデージ。肘まで覆う手袋と、太腿のあらわなロングブーツ。濃い目の化粧とどっかの親衛隊を思わせる帽子。全身を煌かせる銀の装飾。そして手に鞭を構え、冷たい目で見下している。
 ……どういう意味があるのか、ボディオイルでも塗っているのだろう。物凄くてらてらと光った肌を見て、議長を含め、
皆さん前かがみだ。
 艶かしくも、紅潮した肌は桃色に染まっている……。
 何しろユリカは日本人。余所の人種から見れば、中高生にしか見えない。そんな彼女がこんな格好をしているのだ。脳味噌がヒートアップするのも当然だろう。

「ナデシコは火星に行くわ。……邪魔をしたら……分かてるわね?」
 カツン!
 艶かしく唇をなめ上げ、かかとを高く鳴らす。
「「「「「「「は、はい!! 女王様!!!」」」」」」
 会場中から全く同時に声が飛んだ!!
「良いわね……子豚ちゃん」
 プツン。

 し〜〜〜〜ん……。ものすっごく、間が、開いた。

「おのれナデシコ……」
 議長は、顔を赤くし、歯を食いしばっていた。
「おのれナデシコ!! 我らの女王様を火星に連れて行くだと!? そのような事はさせん!!
「「「「おおおおおおおおお!!!!!!」」」」
「必ずやナデシコをひっ捕らえ、あのヒールで踏んでもらうのだああああ!!!!!!」
「「「「おおおおおおおおお!!!!!!」」」」
 ……もう長くないな、連合も。

 ボンデージファッションのままナデシコ内部を歩き回るユリカ。
 何故か出会う人間が会うたび会うたびに「この豚めをふんでください女王様!!!!」と叫びながら床に這いつくばるこの状況は一体……?
 カシュ。
 空気の漏れ出る音が響いた後、その音を生み出したドアの向こうは完全防音のため、ナニをしているのかはようとして知れない。
 ……艦長不在のままナデシコは宇宙へと真っ直ぐに飛んでいくのだった。



「さて、これからどうするかな……」
『パイロット兼コック。それでいいじゃないか』
 アキトの独り言にも律儀に合の手を入れてくれる逆行者。
 おいしいヤツである。
「そうは言ってもな、色々と忙しいんだよ、俺も」
 ……何が忙しいのだろうか。
『すけべ。この状況で何を言うつもりだ?』
 ああ、なるほど。
 アキトの後ろで、描写したら「裏行き」間違い無しな状況のユリカが気を失っている。
「……」
『正直者』
「……いや、まあ……な」
 照れてポリポリと頭をかく。
『なあアキト。真面目な話だ。君は何故ユリカに手を出した? あの歴史を繰り返したくは無いのだろう? ならば不確定要素を増やす事無く、可能な限り前回の歴史をなぞればよかったのではないか』
 確かに、と納得するものがアキトの胸の中にある。
 だが。
「俺はユリカに幸せに出来なかった。体でなんて……歪んでいるのは分かっている。誹られても良い。ただアイツを……ユリカを繋ぎとめておきたかったんだ…俺の側にいて欲しかったんだ!!」
『そうか』
 沈黙が降りる。
 数分の間の沈黙。
 その時間を使って、アキトはこれからの事を考える。
 かつての歴史どおりに動くのなら、これからジュンが喧嘩を売りに来るはずだ。何をしたのか、デルフィニウム部隊を引き連れて。
『なあ、アキト』
「……なんだ?」
『君が消えた後、ナデシコのメンバーが何をしていたか知っているか?』
「いや? 興味なかったからな。お前は知っているのか?」
『ああ。彼らは成功した。声優やアイドル、料理人……悲しみの中でな』
「悲しみ?」
『彼らは、とても優しかった。君やユリカの事を忘れて楽しく生きるなんて出来るほど大人じゃなかったんだよ。純粋すぎたと言っても良いな』
「……」
『だからアキト、君には彼ら一人一人を幸せにする義務がある。それが出来なければ君は幸せになる権利も資格も無い』
「どうしろと言うんだ」
『それを考えるのは君の仕事だ』
「俺が、か。……おい、逆行者?」
『……』
「……だんまりか。さて、どうするかだな……」
 そしてアキトは深い思考の海に落ちていくのだった。

 しかし一方、逆行者といえば。
『く、くくくくくくくくくくくくくくくくく……そう、アキト。私のエネルギー源は君の精神エネルギー!! それも後ろ暗いなんだよ。君は僕のご飯だ。だから君には、試行錯誤の上で幸せになってもらう。そのお礼としてね』
 アキトは知らない。
 彼と逆行者との会話の裏では、常に催眠音波が刷り込みを行っていると言う恐るべき真実を。
『そしてアキト!! 漢の夢・漢の浪漫・漢の最大の幸福!!!!! それすなわちハーレムに他ならない!!! この世のすべてをお前のハーレムにしてやるぞ!!!
 ……おせっかいだが、凄まじくいいヤツかもしれない。誰の主観かは置いておくが

「……ん?」
 思考の海の中で、怖気を感じた瞬間に浮遊物にアキトはぶつかった。
 看過できない問題なので、とりあえずもう一度逆行者を呼んでみたら、簡単に繋がった。
「ところで聞きたかったんだが……」
『ああ。私でよければ聞こう。分かる事なら教えてあげよう』
「何でバッタとジョロがいなくて、先行者の群れと戦う羽目になったのかを聞きたいんだが」
 まあ、アレは確かにインパクトがあったわけだが。
『ああ、それは君のせいだ』
「は?」
『私のエネルギーは人の精神力なのだが、君のエネルギーが強すぎて木星のプラントに(悪)影響を及ぼしたのだ』
 何故、などと聞いてはいけない。
 彼は大宇宙の意思の具現なのだ。彼に影響があれば、宇宙に影響が出るというものだ。で、プラントは宇宙に存在する。
「をい?」
『と言う訳で、戦艦やチューリップが今後どうなるかは私にも想像出来んから気をつけてな
「……」
 アキトの気が、重くなっただけだった。

「ごめんくださーい」
 何時まで経っても起きないユリカをほーちぷれーと称して置き去りにした後、アキトはガイの見舞いに行く事にした。鍵も掛けんと。何時になってもブリッジに来ないユリカをわざわざ呼びに来たルリが沈黙する事になるのは別の話。
「おお、テンカワか。……ヤマダならそこだ」
「ああ、無事かガ……」
 ガイ、と呼ぼうとしてアキトは、この状況の原因を思い出した。
「あの、ゴートさん……何でコイツ、こんな目にあってるんですか?」
 こんな目、とは……。
「おお、戦友よ……来てくれたか……」
 そう言って憔悴しているガイが野性味の増した顔で答えた。
「……大丈夫か?」
「何のこれし…がぼぉっ!?」
「……」
「げほげほっ……これしきで俺のゲキガンガーへの情熱がぁ!? ぼふぉ!?」
 ……まあ、何と言うか……。
「……ゴートさん、これは何ですか?」
「うむ。俺が軍を辞め、ネルガルに入社したと言う事は聞いているな?」
「ええ、まあ。この間ウリバタケさんから聞きましたから」
「アレは俺が神の戦士として修練を積むため、ジャングラー号を駆り全国行脚していたときのことだ」
 ……ジャングラー号?!
幾度と無き十面鬼との戦い……いや、これは別にどうでもいいことだったな」
 何故か左腕の不自然すぎる膨らみを、何か懐かしむようにスーツ越しにさするゴート。……GIGIの腕輪でもあるのだろうか……。
「そして俺は見つけた。邪教徒を改心させ、聖なる道へと進める正しき儀式を」
「……」
「それがこれだ!! 水車に被害者を括り付けてありがたいお経を聞かせつつ、30分待つ!!
 それは洗脳とか、拷問とか言わないだろうか。
「……ところでゴートさん」
「なんだ?」
「なんでヤマダをこんな目に?」
「いや。自分の事をダイゴウジ・ガイなどと、ゲキガンガー教を広めるだの穢れた事を言いおったのでな」
 ゲキガンガー……
『いや、危なかったねアキト。もしあの時ガイ君が死んでいなかったら君は今ごろゲキガンガー教の司祭・テンカワ・ザ・アッカーラオウジになっていた筈なんだからね。いや残念残念』
(おいこら待て。じゃあ何か? ガイもゴートさんの同類だったって事か!?)
『いえーす。ひー、いず』
(な、なんてことだ……)
 そしてアキトはガイに生暖かい目を向けると、優しく言った。
「ヤマダ・ジロウ君……真人間になったら会おう!!」
 テンカワ・アキト。自分の事を棚の上に上げるのが上手すぎる男である。

 その頃、我らモテナイ男たちの心の代弁者、アオイ・ジュンはミスマル・コウイチロウ直筆の血判状を使いIFSとコロニー内の戦力を借り上げる事に成功していた。
「……良いかお前達!! 敵の名はテンカワ・アキト!! 漢の純情を打ち砕く邪悪な男だ!!」
 何気に、ホモ疑惑を持たれかねない、怪しげな響きが混ざっている。
 ちなみにジュンは女顔の美形である。
(聞いたか?)
(ああ。あの顔は、って思ったらやっぱりだな)
(……俺さっき、なんかすっごい顔で見られたんだ。……ヤバイかな……)
 ……ジュン、君の純情は我々が知っている。
 心置きなく散ってくれ!!

 ……って、散ったらダメじゃん。


『アキト。そろそろ…だ』
(ジュンか?)
『ああ』
 そこまで聞くとアキトは腰を上げた。
 向かった先は、格納庫。
 ユリカもブリッジに移動を開始した。
 衣装はそのままで。



「すいませーん、テンカワっスけど、機体、どうなってます?」
 と、答えなんてわかりきっているのに聞いてしまう。
「まだ、ダメだ。あの馬鹿がやったのは……どういう訳か、全部の機体が同じ所が壊れてやがる。使い回しもニコイチも出来ねえ」
 そう言って、スクラップ同然に山を指す。
 サセボでの戦闘。
 直後に現れたコウイチロウ。
 そして今。
 補給する間もなく宇宙に飛び出すように逃げてきたナデシコにとって、ロクなものがある訳なかった。
『よしアキト、合体だ!!』
 一番ロクでも無いモノから声がかかった。
「……」
『うむ。合体とくれば、掛け声は必要だ……』
 ああ、当然だ。
 アキトが石になりかけたとき、横を走っていく影が一つ。走り去った後にはまるで怪談のように水の跡が転々と。
「ぬうううおおおおおおおおお!!!! ヒーローたるこの俺様に、不可能などないいいいいいい!!!!」
 そう言いながら、立たせてあったままの空戦フレームに「折れていたはずの足でジャンプ」してコクピットハッチに張り付く。張り付いた体勢からまるでゴキブリのようにわさわさと蠢き、立ち上がる。
「ふははははははははははははははは!!! 見ていろテンカワ! この俺こそが真のナデシコのエース・ダイゴウジ・ガイだとガコン!!
 その瞬間、スパナが顔面に突き刺さった(様に見える)ガイの体がコクピットの中に落ちてった。
 スパナの主は勿論ウリバタケ。
「テメエ、ソコを動くんじゃねえ!! 今これから俺の可愛い可愛いエステバリス子ちゃんを傷つけた報いを受けさせてやる!!!」
 がちゃこんがちゃこんがちゃこん……バシュゥゥゥゥゥゥゥゥ……
 そこで、メグミの声とルリの声でアナウンスが入った。
「エステバリス、空戦フレームで出ました」
「……ヤマダさん、気を失ってます」


 その言葉どおり、ヤマダ・ジロウは気を失ったまま、エステバリスで宇宙へと放り出されたのだった……。

『ほれほれアキト。早く私を呼びたまえ。さっさとせんと、彼が宇宙の藻屑、言葉どおりスペースデブリになるぞ?』
 それを世間一般では脅迫と呼ぶ。
「……ならさっさと歩いて来いよ」
 と、返す。
 なぜなら逆行者は何時の間にか用意したビーチマットで大気圏からもうすぐ出ると言うのに日光浴を楽しんでいたからだ。
『分かってないなあ。これから戦うのだぞ? 巨大化が必要なのだ。その為にはアキト、君の叫びに込められた(羞恥の)エネルギーが必要なんだ』
 まあ、確かにあの叫び声は、とてつもなく恥ずかしいが。

「ぬがああああ!!!!? 何で、俺はいつのまに宇宙に!? いでででででで?! お〜いアキト、親友のピンチだ、た〜すけ〜てくれぇ〜〜」
 ようやく目が冷めたようだ。
 ただ。
「……ん? おいアキト、何でお前壁に立ってるんだ?」
「普通に床に立ってるよ。……おかしいのはお前の首の方だよ」
 そういわれてヤマダは合点が言ったかのように首をゴキリと鳴らして90度曲げ、いや戻す。
「あ、言い。もう分かった。これから助けに行くから死なない様にな」

 そしてアキトは、ペンダントを手にし、タオマークを掲げ叫んだ!!
「来い、逆行者!!」
 ブブーッ!
『駄目だ、エネルギーが足りない。もっと、別のを頼む』
「……な? 別のものをだと!?」
『ああ。君の魂の叫びの中に照れは必要ないのだ。もっと大声で叫ぶんだ!!』
 魂の叫び。
『別に私の名を呼ぶ必要など無い。君の、心の奥底にあるもの叫ぶのだ
 心の奥底。
 それを叫ぶ。
 しかし、二度もガイの死を目にしたくないと言う気持ちが、彼の口を割り開き、叫びを轟かせた!
「来い、逆行者。俺の魂の叫びを聞かせてやる……白のセーラー服+エプロンで目覚めのキス!! 無論下着無しだぁぁぁぁ!!!
 ……一体どういう……いや、もはや何も言うまい……後ろで、同好の士を見つけた喜びに浸っているウリバタケ達、整備班死天王と呼ばれる彼らのことも……。

 時間は僅かに遡る。
 防衛ラインの猛火に晒されながら、「間違っても撃墜しない(女王様を傷つけない)ように足止め」という命令が行き届いているらしく、ナデシコには余裕があった。
 しかし、フィールドが弱体化すれば砲火を受ける事になるし、上昇を避け、横に逃げる事を選べば連合のミサイルをかわす事は出来ても防衛ラインの弱体化は避けられず、木星蜥蜴の脅威に一般市民が晒される事になる。
 だからこそナデシコは綱渡りをしながらも上昇を選び、安定していくフィールドによって猛火を凌ぐ事に成功していた。

 その姿を眼前に臨むジュン。
 彼は非常に複雑な心境の中、最新型宇宙防衛機に乗っていた。
 ―30分前。
「…アオイ少尉、どうなされましたか?」
 悲壮な決意――他人から見れば、今にでも無理心中をしそうな追い込まれた男にしか見えなかったが――を込め、氷の如き表情を浮かべ格納庫に入ったジュンは固まっていた。
「……これ、は?」
 技術士官であろう男が答える。
「ああ、30分ほど前に搬入した新型です。それに伴いデルフィニウムは全機回収されてしまいましたが。……結構愛嬌があると思いませんか?」
 ……ジュンは、思った事を、口に出してしまっていた。
「確かにこれは正義を象徴できる機体だ。……しかし、これは……名作への冒涜じゃないのかああああああ!!!!???」

「連合の機影を確認。オモイカネが映像処理をかけているため、判別できません」
 映像処理。
 それは先行者(+逆行者)の驚異から生まれたマスク機能。しかしモザイク処理にしか見えず、かえって卑猥だと評判は悪かった。
また変なのが来たの?」
はい、変なのがです」
象さんが、象さんが……
 上からメグミ、ルリ、ミナトだが、ミナトはどうやらサセボでの精神汚染がいまだ抜けきっていないらしい。
「通信、繋ぎます!」
「ユリカ、聞い……ぶはぁっ!?」
 通信ウインドウの向こうに現れたジュンの姿。
 宇宙服のヘルメットに阻まれ、噴出した鼻血が目に入った!
「……ジュン君、どうしたの?」
 などと、何故か不思議そうに聞くユリカ。
 彼女の現在の格好は、よくあのプロポーションで、という感もあるが……
スクール水着(黒)・帽子つき(白線二本)だった。それにゼッケンが胸に着いており「なでしこぐみ ゆりか」と書かれている。
 とあるゲームの評価方法で言い表せればユリカは言わばLV4! スクール水着など……ぱっつんぱっつんでクリティカル!!
 ジュンの鼻から噴出すパトスの証!!



 ――暫くお待ちください――

 首の後ろをとんとん叩き。
「ユリカ、地球に戻るんだ!! 今なら連合軍は喜んで歓迎してくれる!!
 目を瞑りながら叫ぶジュン。
 別にフォースに目覚めたわけでは無いが目を閉じている。宇宙服の自浄機能が働いたのか顔が見えるようになっている。つまりは彼が目を開くとスク−ル水着が飛び込んでくるのだから仕方ない。
「いや。ご主人様が火星に行きたいって言うから」
 ……理由が、思いっきり変わっている。
「聞いてくれないんだねユリカ……ならコイツを……こいつを殺す!!」
 何時の間にかとっ捕まっていたヤマダエステに銃を向けながら叫ぶジュン。
 ガガガガガガガガガガ!!!
「ガイ、逃げろ!!」
「おお、テンカワ!! 俺をガイと呼んでくれるのだな!」
「うむ。テンカワ……既に邪教の徒であったか。では、この日本の一地域で見つけたありがたい脳波のヘルメットと……」
 上から、アキト、ヤマダ、ゴートである。
『やあ、アキト。これは困ったねえ。これじゃナデシコに帰った途端に異端審問に掛けられるよ。ゴート君が何気に邪教の主と言う気がしないでもないけどね』
「どどどどどどどどどど」
『どどどどどどどどどど? ……まさか奴隷? エロゲー風味にしてゴートさんに差し出すとか?』
「なワケあるか!? どうするかって言ってるんだよ!!」
『じゃ、やり直す?』
「ぷりーづ!!」

「聞いてくれないんだねユリカ……ならコイツを……こいつを殺す!!」
 何時の間にかとっ捕まっていたヤマダエステに銃を向けながら叫ぶジュン。
 ガガガガガガガガガガ!!!
 腰に備え付けられた
「ヤマダ、逃げろ!!」
「ちっがーう!! 俺の名は、ダイゴウジ・ガイだああああああ!!」
「? 大剛寺害……何かの暗号か?」
 と、ここで言葉に気をつけて返しておく
「NO! ダイゴウジ・ガイ!! これこそが俺の魂の名」
「魂の名? ……前世系? 電波受信者?」
「ぬがあああああああああああああああ」
 ヤマダの、悲しいまでの魂の叫びが宇宙にこだましたのだった……。
「漫才はもういい!! 僕と戦え、テンカワ・アキト!!」
「そうか。じゃ仕方ない……」
 と、あっさり振り向くアキト。
「てや」
 ヤマダエステの推進器に蹴りを入れ、そのままナデシコの方に落とす。後は彼らが何とかしてくれるだろう。
「アイ・シャル・リターン!!!」
 そう言って、戻って来た者がどれほど居ようか。

「で、ジュン。何のようだ?」
「言わなくても分かっているだろう……僕は君を殺す!!!」
 ストレートだった。
「あっそ。じゃ、抵抗するから殺されないようにな」
 あっさりピッチャー返し。
「貴様……貴様、貴様貴様貴様貴様嬲るのもいい加減にしろぉぉぉぉぉ!!!」
 襲い掛かるジュン!!
 そして彼はデルフィニウムに変わる新兵器アストロボーイを操り、アキトに迫ってきた!!

 アストロボーイは迫る!!
 足の裏にしかないジェットだけで自由自在に動き、100万馬力のパンチを武器に!!

 逆行者は自在に動く!!
 宇宙空間でシンクロ演技をしながら!!

 ナデシコは分からない!!
 モザイクだらけの戦場の所為で!!

 戦闘は熾烈にして苛烈。
 逆行者が『スイーム、スイーム』等と言いながら異様な動きをし、アストロボーイが『みんな、さようなら』などと言いながら何所からとも無く取り出した巨大なミサイルを撃ち出したり。
 とにかく、何故かナデシコに被害が出なかった。

「わはははははははははははははははは」
「笑うなあああああ!!!!!」
 ひょい、とマタドールの様に、何時の間にか構えた赤い布を操りながらジュンをからかうアキト。
 からかいながらも声をかける。
「なあ、ジュン。何でそんなに怒ってるんだ?」
「今更貴様がそれを聞くかぁ!?」
「だからこそ聞くんだよ。お前が何もしなかったからだろ、この状況は」
 ぐ、と黙ってしまう。
 ユリカが全く、全然、狙ってるだろと思ってしまうくらいに気づいてくれなかった事が原因の一つではあるのだが……ジュンの押しの余りの弱さもあるだろう。
「俺もいろいろあってな。だからこそ何だよ、この行動はな!!」
 その行動と共に、例の謎の踊りをする!!
「おい逆行者……何とかならんのか、この行動は……」
『何を言う!! この神聖なる儀式を止める事など出来るかああああ!!!』
 ぷち。
 あ、切れた。
「ふざけるなテンカワああああ!!!」
 ジュンはその声と共に後ろを向き、シリを突き出させる。
 途端にアストロボーイのシリが割れ、中からイキナリ、どういう脈絡なのか、原作を忠実に再現して主機関砲が飛び出してくる。
 ブォン!!
 さらにハイパー中華キャノン・発動!!

 激しい閃光!!
 故障するマスク機能!!
 ブリッジに大写しになる戦場の光景!!

 そしてミナトのシャウト!!
「いやあああああああああああ!!!!!!」
 その目はハイパー中華キャノンに釘付けだ!!

 一方ユリカは、
「ご主人様、立派です……」
 ……ナニを想像したのだろうか……。

 更にメグミ。
「病院で働いてた頃見たジョージさん(テキサス出身・仮名)のより貧相ですね」
 ……世界は広い……。

 ボロボロになったアストロボーイ。
 原作の最終回よりはマシ、という程度で、何故かジュンは無傷で宇宙をぷかぷかと浮いている。
「おーい、ジュン、生きてるか?」
「……殺せ」
「何だと?」
「もうユリカは僕の手の届かないところへ行ってしまった。もう、生きている意味は無い。殺せ!!」
 静かに、だが深い憤りと悲しみを込めて叫ぶジュン。
 だからこそアキトは努めて朗らかに言い返した。
「そう言われて殺せるか。せいぜい見せ付けてやるから覚悟しなよ」
「てんかわ、きさまあああああああ!!!!」
 罵倒するジュン。しかし次の瞬間、動きが止まる。
「……ところでユリカ、お前ジュンのことどう思ってるんだ?」
「え?」
 空気が固まり、全員の視線がユリカに集中し、スクール水着の魔力でプロスペクターとゴートが撃沈、フクベが「ケッ」と唾を吐き、ルリの目が「死の視線」に変わる。メグミと一緒に。
「うーーんと……」
 ここで正史であれば「お友達」と続くのであろうが……。
「ユリカの一番大事な下僕!!」
 全てが打ち砕かれ、ブラックジュンが早くも誕生した。


 素晴らしいまでに、沈静化したブリッジ。
 何時の間にやらビッグバリアを越えていたナデシコだったが、何故か歓声は上がらなかった。なぜなら……。
「あっ…う…んん……」
 しかし例外はあるもので、時たま悩ましげな声が響いてくる。くぐもった音が聞こえているような気もするが、誰もが自分自身に「何も見てない、聞こえてない」と言い聞かせている。
 その中心にいるのはユリカ。
 頬を妙に紅潮させ、チョーカーを巻いている。
 ……ま、それはファッションと言う事で納得しよう。だが、太い革製品で鎖付きというのは如何なものか。さらに認識票……いやドッグ・タグに「YURIKA」と刻印されている事が……いや、言うまい。
 ちなみにこのチョーカー(?)は艦内売店で購入したものである。
 冷や汗を流しながらミナトがプロスペクターが聞いたところ、「ネルガル会長が自ら選んだ必需品を多数販売」しているとの事。……大関スケコマシではなく、既に横綱なのかもしれない。

「私、少女ですから、オトナの話はよく分かりません」
 オトナ、のニュアンスが微妙に違っていたり、顔が真っ赤になっている事は、状況を的確に把握している事の裏返しでは無いだろうか? 第一、見ているわけだし。

 ……ただそれ以上に気になるのは、血の涙を流しながら、訳のわからない叫びをあげているジュンであろう。
「コロシテヤル。コロシテヤル。コロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤル……」
 四つ目の赤い巨大人型兵器のパイロットを思わせる言葉。
 そして口元から流れる血、そしてダイイングメッセージの如く床に書かれた「テンカワ」……おお、血文字など初めて見た!
 うむ、やはりアオイ・ジュン、彼の今後の活躍が楽しみだ。


 その頃。
 アキトがイロイロなコトに気を取られ、目を離している隙にヤマダは腹部に銃弾を受け、沈黙。
 後、再起動。
 自己修復能力を発揮し、K.H.F(キノコ・胞子・フィールド)を打ち破り、キノコを殲滅
 雄叫びを上げていた。
 ちなみにそれは身代わりキノコ(変わり身の術)である事が発覚。キノコは地球で相変わらずじめじめしていると言う。



あとがき

 何気に希望してくれる人がいたので。
 ……この世界は、逆行者がエネルギーを吸い取るためにアキトを利用しているだけで、全く悪意はありません。
 彼にとっては食事をしているだけですから。
 ちゃんとお礼だってする予定ですし……ね?

 とは言え、本当に打ち止めにせんとな……他の二品もあることだし。それでもまだ書けと?
 書けというなら
、第何話か、ターゲットは誰かをご明記の上……地雷踏んでる?
 にしても文字に強調が多いな。(汗)


 

 

代理人の感想

 

・・・・いや、法的に言えば十分悪意だと思いますが(笑)。

お礼も受け取って嬉しいものなのかどうか・・・・・・

欲望の充足と引き換えに魂を堕落させる、まさしく逆行者はメフィストフェレス。