人数を考慮されてか、あまり広くない医療室。
清潔さをイメージしてだろう室内の色は白で統一されている。
だが、今はその眩いと言えるほどの白にではなく目の前に並ぶ者達に目を奪われる。
さほど多くないベッドに寝かせられている者達に。

「気づいたか」

錆び付いた声が医療室内に響いた。
ユリカはその声の主を朧気な視界で見定めようとする。

「アキ…ト」

か細い声がアキトの耳に届く。
琴線を震わせる様な細い細い声。

「私……どうして…」

麻酔が未だ効いているのだろう頭が朦朧として思考が纏まっていないようだ。
朦朧とする頭を落ち着けようと顔に手を当てるユリカ。

「無理をするな。今は、大人しく寝ていろ…ナデシコも動けん事だしな」
「うん……」

アキトの言葉に従い、ユリカはそっと目を閉じた。
聞こえる細い寝息にアキトはそっと室内を出て行った。
ユリカと、未だ目覚めていない者達を起こさぬように。

 

 

 

 

「我ながらよくやったものだ」

医療室を出たアキトはブリッジへと赴いていた。
北斗との闘いによりブリッジは最早その機能を果たせそうにない。
『彼』が落とした、今では遺物だろうか?銃や煙草、それにライターを拾いながら呟いた。
その呟きに反応するのは、

「そう思うならもっと手加減して下さい!!」

宇宙そろばんを片手にプロスが叫んだ。
その手は忙しなく、そろばんを弾いている。

「ブリッジの修理に、クルーのお見舞い金…幾らすると思っているんですか!!」
「……。他の連中の所に行くか」

プロスの小言に辟易する。
いっそ耳を塞いで完全に無視してやろうかとも考えたが、それをやると後が怖い。
その為、聞かなかったフリをしてこの場を抜け出す事を考える。

「テンカワさん!!」

プロスの叫び声をその背で弾き、アキトはブリッジを出て行った。

『アキト、ルリが起きたよ』

ブリッジを出ると同時に開かれたウィンドウ。
映し出されているのは、鐘のマーク。
オモイカネだ。

「そうか、これから向おう」

小さく笑みを浮かべ、再び医療室へと足を向けるアキト。

「よっ。大変そうだな」
「ああ、そうだな」

靴音を鳴らし、歩くアキト。
ナオがその隣に立ち同じように歩く。

「本当、大変だな」

サングラスの奥からなにかを探るようにアキトを見るナオ。
アキトもその視線と、ナオがなにを聞きたいかを分かっているだろうに、

「……いずれ話してやる」

と返す。
その言葉に無言になるナオ。
今、隣に立つ青年が信用できるかを見極めようと。
間違いなくアキトは変わっている。
彼の影響により。

「……優華部隊の存在を忘れているのか?」

ナオ以外に聞こえぬように囁くアキト。
それがなにを意味するかはナオならば分かる。

「……変わったな、お前」

以前の彼であれば、無闇に疑おうなどとはしなかっただろう。
すなわち、優華部隊に内通者がいる可能性など思いつかなかっただろう、と。

「木連の首魁は開戦派だ。それに対し、優華部隊のトップは和平派。……俺ならば、草の一人や二人を仕込んでおく」
「……」
「パフォーマンスで綺麗汚いは選ぶが、実際戦争に綺麗汚いも無いだろう?ばれなければ幾らでも改竄のしようがあるしな」
「信用……できる人間が減るな」
「以前の俺が阿呆の様に信用しすぎていただけだ。現実に裏切られるなど、嫌となるほど味わったというのに」
「そんなお前だからみんながついてきたんだよ」
「それで土壇場に裏切られるか?」

冷笑を浮かべナオを見るアキト。
以前の彼からは考えられない仕草。

「今の俺についてこないならそれでもいい。ついてきて、信用できる人間を選ぶだけだ」

ナオの足が止まる。
それに構わず歩くアキト。
数歩分程離れた時にナオが口を開いた。
アキトに思い出させようとするかのように。

「彼女たちが哀しむぞ」

今も床に臥せる彼女たちが。

「……切り捨てるつもりはない。だが、優先すべきものでもない」

ナオに一瞥を与え、アキトは悠々と歩き去っていった。

 

 

 

 

再び医療室へと入ったアキト。
オモイカネよりの報せでは目覚めたのはルリだけであったはずだが、今はそれ以外の者達も目覚めていた。

「全員無事の様だな」

アキトの言葉に未だ頭が朦朧としている皆は言葉を返さず、静かにアキトを見ているだけだ。

「アキトさん……」

二三度、頭を振り意識を覚醒させたルリがアキトの名を呼んだ。
その声には心配げな響きがある。

「すまなかったな、ルリちゃん」

痛ましげな声でアキトが頭を下げた。
解れ、顔に掛かるルリの髪を指で払い、頬にその手を当てる。

「本当に、すまなかった」

真摯なアキトの表情にルリは頬を染め、大丈夫です、と言った。
麻酔の御陰か、アキトのその表情の御陰か、両足よりの痛みはない。

「アキトさん……」

今度はメグミがアキトの名を呼んだ。
ルリの頬より手を外し、メグミが寝ているベッド脇まで行くアキト。
紙の様に白い顔色が、受けた衝撃の深さを物語っている。

「すまなかった、メグミちゃん」
「アキトさん、ですよね?ここにいるのはアキトさんですよね」
「ああ」

アキトのその肯定の言葉にメグミは声もなく、抱きつき涙を流した。
アキトの胸にすがりつき、涙を流す。

「アキトさんっ!アキトさんっ!!」

胸の中にわだかまる暗雲を涙と共に流そうというのか、泣くメグミ。
制服に染みこんでいく涙。
アキトはそっとメグミの頭を抱き、無言で受け入れている。

「アキトさんはアキトさんですよね?」
「ああ、俺は俺だ」

メグミの聞いたこととアキトの答えはその意味が異なっている。
それでもアキトはそれを否定しようとはしなかった。
それが優しさとでも言うかのように。

「すまない、メグミちゃん。他の人にも謝らなくっちゃ」
「はい……よかったです。アキトさんがアキトさんでいてくれて」

その言葉に小さく微笑み、アキトはメグミを寝かしつける。

「おやすみ……」

目を閉じるメグミのベッドより離れ、アキトはエリナの元へと向う。
すでに二人の様子を見ていたエリナは、その順番に不満そうな表情をしている。
僅かに頬をふくらませたその顔は普段の怜悧な表情を知る者から見ればとても可愛らしい表情だ。

「ようやく来たのね」

その表情と同じように不満げな声。
アキトはそれに苦笑を浮かべ、

「すまなかったな、エリナ」

と告げた。
エリナさん、ではなく、エリナ。
そう、敬称を付けることなくエリナの名を呼んだアキト。
え?とエリナが驚いた表情でアキトを見る。

「どうかしたか?」

とアキトがエリナの表情に訝しぐ。

「テンカワ君……今私の事なんて……」
「ん?ああ、すまない。少し記憶が混濁していてな」

それは彼の記憶か、それともかつての記憶か。
アキトはそれ以上語ることはせずに、先の二人と同様に頭を下げた。

「すまなかった」
「もう、いいわ。もう終ったことだもの」

遠い目をし、呟く言葉を返すエリナ。
それはあれを悪夢の一つとして、心に整理をつけることを意味しているのだが……。

「……」

アキトはそれに同意せず、沈黙を保つ。
それをどのように捉えたのかエリナは、

「貴方も気にしない方がいいわよ」

と優しく微笑みながら言った。

「気にはしていないさ」

柔らかく微笑みながら言うアキト。
今まで見たことのないアキトの表情に頬を赤らめるエリナ。

「エリナ、もう少し休んでおけ。これから忙しくなることだしな」

微笑んだまま言うアキトに、ええ、と返し目を閉じるエリナ。
その柔らかな表情に、優しい眼差しを向けアキトはミナトの下へと向った。

「すまなかった。……傷の具合は大丈夫か?」
「なんとかね。……聞きたい事があるんだけど、いいかしら?」

儚げな微笑みを浮かべてミナトは言った。

「ああ」

短く言葉を返し、アキトは聞き入れる。

「彼は……一体なんだったの?」

短い言葉の質問であったが、それは核心に触れている。
アキトは暫し沈黙し、

「あれは俺だよ。否定しようとしていた……俺」
「アキト……君なの?」
「そうだ。残酷な精神を抱き、壊れた笑みを浮かべなんの躊躇も、後悔もなく人を傷つける事が出来る『俺』」
「……」
「俺はそんな自分を嫌悪していたが、気づかされたよ。アイツは間違いなく俺だと言うことを」

淡々と語るアキト。
その表情に自嘲もなにも浮かんでいない。
事実のみを語るその口調はただその事実を認めたという単純な事だけを表していた。

「なら、アキト君はルリルリ達を……?」
「それは違うさ。認めたからと言って、誰かを傷つける事を選ばなくてはならないという訳であるまい」

苦笑を浮かべ返答するアキト。

「その言葉……信じるわよ?」
「ああ」

短いが確固とした言葉であった。
その互いの意味合いが異なっていたとしても。

「暫くはナデシコも動けん。ゆっくり休んでおくと良い」
「そうさせて貰うわ」

起こしていた体を再び寝かせ、ミナトは目を閉じる。
少なくとも医療室内にいる者達で話をしてない者達はいない。
ユリカには後で再び話しをすると決め、アキトはもう一人撃たれた人物を捜そうと足を動かそうとした。

「彼女らしいと言えば彼女らしいが」

苦笑を浮かべ呟いたアキト。

「あら、誰の事かしら?」

と届く声。
何時の間に入ってきたものか入り口にイネスが立っている。
その片腕を三角巾で吊す姿は見ていて痛々しいものがある。
だが、当の本人は普段と変わることなく、冷静な表情をしていた。

「誰の事?もちろん、お前に決まっているだろう?……無茶をしすぎだ」

優しい声音でイネスを責めるアキト。
アキトのその声にイネスは小さく溜息を零し、

「なんだか変わったわね。アキト君」

と告げた。

「そうだな。変わったと言えば変わったな。だが、今更戻ろうとも思わんよ」
「そう。貴方がそう決めたのなら……私は何も言わないわ」
「すまないな。……聞きたいことがありそうだな」
「あら?貴方が気づくなんて……本当に変わったわね」
「それは悪かった。何しろ鈍感だったものでな」

苦笑を浮かべイネスの言葉にそう返答するアキト。
イネスもアキトの苦笑に小さく微笑み、

「場所を……変えましょう」

と言った。
その言葉に従い、アキトは歩き始めたイネスの後ろをついて行く。
歩いた距離は僅かでしかなかった。
医療室の隣の診療室に変わっただけだ。
が、少なくともここは医療室で眠る者達の為に防音が施されている。
二つある椅子の一つに座り、もう一つをアキトに勧める。
小さく音が鳴り、続いて言葉が響く。

「貴方がボソンジャンプを使えるのは知っているわ」

前置きもなく単刀直入に切り出すイネス。

「でも、それだけでは説明できないことがあるのも確か」

ルリの時折見せる態度。
現代の技術レベルではあり得ない機動兵器など。

「もしかして貴方は……貴方達は……」

自分自身信じられない事を口にしようとしていると分かっているがそれでも口は止まらない。
だが、イネスがそれ以上に口を開く前に、

「今は話すことが出来ない」

と言葉を止めた。

「それは少し勝手すぎないかしら?」

アキト自身が聞きたいことがあると、イネスに言ったのだから。
それだというのに、話すことが出来ないと言うのは……。

「そうだな。勝手だな」

と戯けて言う。

「だから代わりになにか言うことを聞くよ。無理無茶なものでなければな」

アキトのその言葉にイネスはふと、考え込んだ。
顎先に細い指を当てて、

「なら……」

と口を開く。

「キス……してくれる?」

妖しく流し目をアキトに向けた。
だがその瞳の輝きは蠱惑するものではなく不安に揺れている。
アキトもそれを読みとったのか、
「……」

無言でイネスに顔を近づける。
そっと重なる二人の影。
唇より流れ込んでくるアキトの温もりに、恐怖が払拭されていく。
離れる唇。
アキトが改めてイネスの顔を見ると……その瞳より涙が流れている。
何も言わずにアキトに抱きつくイネス。
胸元から聞こえるくぐもった声。

「アキト君……本当に……怖かったの……」
「すまない」
「撃たれた時、自分が死んだかと思った……」

動かすことの出来ない片手はそのままに、もう一方の手をアキトの背に回す。

「もう、終ったさ」

アキトもまたイネスの背に手を回す。
そしてその背を優しき撫でる。
その手の暖かさに堤防が決壊したかのように涙を流すイネス。
再びその制服が涙に濡れる。

「すまなかった……」

囁く様に謝るアキト。
イネスはなにも答えず、しがみつき涙を流す。
静かに、涙と共に恐怖を流そうとするのであった。

 

 

 

 

別れ際もう一度イネスと口づけを交わし、診療室を後にしたアキト。
通路に出るとアリサとサラが立っていた。
一様に不安、そして恐怖をその顔に浮かべている。

「どうした?」

古い鉄を思わせる声が二人の耳朶を打つ。
今まで一度も彼より聞いた事のないその重い声。
サラが身体を震わせる。

「アキトさん、あの……」

普段の快活とした姿からは全く想像もつかないほどにおどおどとしたアリサの声。
その後ろでサラが怯えた目でアキトを見ている。

「どうして……」

言葉を紡ぐことが出来ない。
聞きたいことは山のようにあるのに、言葉が出ない。
目の前に立つ人物が本当にアキトのなのかがワカラナイ。
あの時、ブリッジで惨状を創り上げたアキトなのか。
それともいつもの包み込んでくれる、優しい笑みを浮かべるアキトなのか。
不安と期待とを織り交ぜてその事を訊こうとするのだが、言葉が出ない。

「すまないが、これから用があるんでな。……できれば率直に頼む」
「……あなたは…アキトさんなんですか?」

アキトの言葉に意を決したのか、口を開くアリサ。
その言葉に苦笑を浮かべるアキト。

「それ以外に誰に見える?」
「誰って……」


その言葉の続きは言えなかった。
狂気を存分に見せつけた『彼』を認めてしまうような気がして。
二人が口を閉ざす姿を見て苦笑しながらアキトは近づいた。
すれ違いざまにサラの肩に手を置こうとするが……、

「ひっ……」

と小さく悲鳴を上げ、手を避けるサラ。
今の彼にだけはなぜか触れられたくなかった。

「……」

肩に置かれることの無かった手。
それをじっと見つめるアキト。

「あ……」

サラが声を漏らす。
後悔に濡れた声を。

「アキト…さん……」
「いや、すまなかったな」

手をぶら下げ歩いていくアキト。
二人はその背をただ見送ることしかできない。

「アリサァ……」

涙声でアリサの名を呼ぶ。
その姉の声にアリサはただ、彼女の手に手を重ねてやることしかできなかった。

 

 

 

 

「オモイカネ、アカツキとシュン提督はどこにいる?」

歩きながらオモイカネに訊くアキト。
すぐさま返事が返ってくる。

『アカツキさん達は、シュン提督の部屋にいるよ』

ととてもコンピューターらしくない返事が。

「これからそちらに出向く、そう伝えておいてくれ」
『うん』

そうウィンドウに表示し、消えた。
歩く速度を早めアキトはシュンの部屋に向う。
時折擦れ違うクルー。
ブリッジの修復やそれ以外でも忙しいのだろう、アキトには目もくれず走り去っていく。
それを横目で見ながら、

「襲撃するには良いタイミングだな」

なにかを危惧する声音で呟いた。

 

 

 

 

歩く速度を速めたため、程なくしてシュンの部屋に着いたアキト。
ドア横のインターホンを押し、来訪を告げる。
開くドア。
厳めしい表情をしたシュンが立っている。

「来たか……」

そう呟き、アキトを部屋へと招き入れる。
部屋の中はシンプルな色調でまとめられていた。
それは彼の精神を表すかのように、綺麗にまとめられている。
が、部屋の内装などには興味がないアキト。
アカツキとシュン、そしてカズシがいた。

「揃っていてくれて助かった」

芝居っ気たっぷり仕草と表情でアキトは言った。
だが、それに戯けた返事を返すものはいない。
普段で有ればシュンあたりが笑いながらそれに類する言葉を返すであろうに、さすがに今だけは返さない。

「……それで、なんの用だ?」

シュンが手にコーヒーを持ってアキトに尋ねた。
ちらりとアキトが壁際を見てみれば、芳醇な香りを漂わせるコーヒーとコーヒーメーカーが置かれている。
この匂いからすると豆自体を挽いているのだろう。
シュンよりカップを受け取りアキトは口を開いた。

「アカツキ……明日香インダストリーをこちらに引き込むことはできるか?」

アキトの言葉に口に含んでいたコーヒーをブッ!と吹き出すアカツキ。

「テンカワ君、君は……」

なぜかカズシが悲哀を滲ませた表情でアカツキの吹き出したコーヒーを拭いている。

「ネルガルとクリムゾンに匹敵する明日香インダストリーを、だ」
「……正直言ってそれはまだ判らない、君が今言う前より交渉はしているんだけどね」

すぐさま表情を律し、そう返すアカツキ。
その横で、シュンが難しい表情をして事の推移を見ている。

「……次回、交渉時俺の名前を出してみてくれないか?」
漆黒の戦神の?」
「いや、漆黒の戦神ではなく、俺の名をだ」
「そりゃまたなんで?」

アカツキの問いにすぐ答えるような事はせず、アキトは一つ溜息をつく。

「明日香インダストリーにいる人間に一人心当たりがあったのを思い出してな……」

疲れた声と表情がなぜか哀愁を誘う。

「カグヤ・オニキリマルだ」
「……」
「……」
「……」

三者三様の表情を浮かべ沈黙する。

「それを先に言ってくれ!!」

アカツキが叫んだ。

「忘れていたんだよ……」

自分自身に呆れているようだ。
その姿に、部屋に入った直後の固い雰囲気は霧散している。
シュンが一言を発するまで。

「アキト、お前は関係のない者を戦争に巻き込むのか?」

アキトがシュンを見る。
欺瞞は許さない、そんな苛烈な炎を宿した瞳がそこにはあった。

「……誰が関係ないんだ?」

その瞳を見据えアキトは言葉を返す。

「地球、火星、木星……この人類圏の中で誰が戦争に巻き込まれていないと言うんだ?」

アキトもその瞳に炎を宿す。
シュンと同じように欺瞞を許さないという炎を。

「どれほど欺瞞を重ねようと、誰もがこの戦争に関わっている。
 無人兵器に親しい者を殺された者、各企業の思惑、政治家達の利権、大小有れど誰もが色んな形で関わり、巻き込まれている」
「それこそ欺瞞だ!」
「なぜだ?戦争というものの犠牲者は戦争に巻き込まれていないのか?
 親しい者を殺された憎悪から武器を持ち、戦おうとする者は戦争に関わっていないのか?
 誰もが、もう関わり、巻き込まれているんだよ。ならば俺はそれを利用するだけだ」
「……それでお前はなにを目指す?」

シュンの言葉にアキトは目を閉じる。
なにかを思い出すように、なにかを懐かしむように。

「平和だ。木連も地球も関係なく、皆が笑っている世界……。
 馬鹿げた話だが、俺は和平を成すことは考えていたが、その後それをどう維持するかは考えていなかった」
「……」
「だが、それを維持するには権力というものを持つ者達の思惑を超えなければいけない」
「だから、巻き込むのか?」
「そうだ。歴史に俺の名がどのように刻まれるかはわからん。
 だが、後の歴史に俺の名が悪魔と刻まれようとも人類に考えさせてやる。
 ……戦争というものを、平和というものを、な」
「……変わったな、お前」

目を開け、絶対の決意を見せるアキトにシュンはそう言った。
その言葉にアキトは苦笑を浮かべ、

「いいや、変わってないさ。俺はどこまで行っても自分勝手だからな」

と答える。

「だから……和平を結ぼうとするんだよ。俺の見たくない未来を見ないためにな」
「……っくっくっくっく」

アキトの言葉に笑い声を上げるアカツキ。
本当に可笑しそうに、顔を手で押さえ笑い声を上げる。

「いいよ、実に良いよテンカワ君。『彼』が現れてから変わってしまった君を信じることができるかと思ったんだけど……」

笑うことをやめ、真剣な表情でアキトを見る。

「君を信じるよ。世のため人のためでなく、自分のために動く君をね?」

君はどうするんだい?といった表情でシュンをみるアカツキ。
それに対し、シュンは苦笑を浮かべて、

「俺も信じることにするさ。動機はなんであれ、お前の目指すものが平和だというのなら」

そして、カズシの方を向くシュン。

「あ、お前の参入はもう決定済みだからな?」
「って、そうなんですか!?……まあいいですけど」

シュンの言葉に苦笑を浮かべ返答するカズシ。
断らない事が判っている上でのシュンの発言であった。

「ああ、それとミスマル提督と、グラシス中将、それにピースランドの国王夫妻にも連絡を取っておいてくれ」
「……おやおや、徹底的にやる気だね?」
「ああ、徹底的にやるさ。誰も巻き込まないで平和を創るなんて甘ったれた考えなど捨てたからな」
「代償は大きいかもしれないねえ」

立ち上がり、部屋を出て行こうとするアキトに投げかけられた言葉。
歩き始めながらアキトは答えた。

「払えるものなら払う、払えないものは……踏み倒すさ」

不敵な笑みを浮かべるアキト。

「くくく、そうかい。なら結構。それじゃあ僕は明日香……いやカグヤ・オニキリマルとコンタクトをとってみるよ」
「カズシ、お前はグラシス中将とミスマル提督にコンタクトをとってくれ」
「俺が……ですか?」
「そうだ。ただ、コンタクトをとるだけで良い。それ以降は艦長も交えてこちらで動く」
「わかりました」
「俺は……ガトル大将とコンタクトをとる」

岳父たる人物に。
後悔してもしきれない、そんな表情を浮かべてシュンは言った。
カズシもまた痛ましげな表情をし、シュンを見る。
それを見たアキトは無言で部屋を出て行こうとした……。

『ハンガーに襲撃!!侵入者五名!!』

とオモイカネが告げなければ。

 

 

 

 

白い戦艦は外見ではなんら異常が無いように思えた。
だが、伝わってくる雰囲気は異常を伝えている。

「なんだぁ?本当になにか起きてやがる」

人を小馬鹿にしたような声を出しながら彼は戦艦を、ナデシコを見た。

「あのねえカエン、なにか起きてなければこのタイミングで襲撃しろなんて言わないでしょう」

呆れた表情で女が、エルが言う。
「まあ、確かにな。……大した情報網を持っていることだ」
「……」

巨漢、ジェイの言葉に無言の肯定が返された。

「……イン、幾らお前の機能が姿を消すことだからと言っても、存在感を消すまでしなくていいと思うぞ」
「……余計なお世話だ」

とジェイは言い、それに対しての返事は呆れているようだった。

「無駄話はそれくらいにしておけ。……行くぞ」

静かに四人の背後に立っていた男がそう言った。
サングラスに黒いコートに帽子という、ある意味奇抜な姿をしているが男の纏う雰囲気故か良く似合っている。
この僅か後であった。
ナデシコ艦内に轟音が響き渡ったのは。

 

 

 

 

『北斗、お前も手伝え』

ウィンドウ越しにアキトはそう言った。
今、北斗がいる場所はナデシコが誇る食堂。
アキトとの闘い故か腹が減ったのだろう、先ほどまで空腹を満たしていた。

「なんで俺が手伝わなくてはならないんだ?」

不敵な笑みを浮かべ言う北斗。
その北斗に対しアキトは面白がる表情をし、

『飯代の代わりだ。働かざる者食うべからずって知ってるか?』

と言葉を返した。

「なるほどな。なら仕方がないな」
『ああ、仕方がない。それに、相手は五名だ。……少なくとも俺が居ることを知っているのにな?』

それが表す事は、

「よほど自信が有ると言うことか」

たった五名で漆黒の戦神に向ってくるなど、余程の自信かさもなくばただの馬鹿だ。

『ついでに高杉も連れてこい』
「は?俺?」

突如呼ばれた自分の名に三郎太が驚く。
馬鹿でなくば、限りなく強敵だと分かる相手に自分がなんの役に立つのか分からなかったからだ。

『そうだ、お前だ』
「おいおい、俺がなんの役に立つんだよ?」

少しばかり焦りながら言う三郎太。

『じゃあ、お前は俺に女性を戦わせろと言うのか?』

器用に湾曲し、女性に、優華部隊の面々に目を向けるアキト。

「テンカワ、お前俺が女だと言うことを忘れていないか?」

とアキトの仕草に北斗がそう言った。

『生憎だが、都合の悪いことは忘れるようにしてるんでな』 「うぞ!?」

アキトの言葉以前に北斗の言葉に反応したのは零夜。
長年北斗に付き合ってきたが故に、北斗が自分を女だと認める発言をしたことが信じられなかったのだ。
だが、驚いたのは零夜のみならず他の優華部隊の人間も三郎太も同様だ。
驚いていないのは、深い事情を知らないナデシコクルーと当の本人である北斗、それにアキトだけだ。

「ま、まさか……私の北ちゃんが……」

何を想像したものか零夜が顔を青ざめさせ呟く。

「誰がお前ので、なにがまさかなんだ」

北斗が零夜を睨むが、今の零夜にその視線を気にする余裕はない。
さらに言うなら、

『北斗、遊んでる暇など無いぞ。今、そっちにサングラスと黒いスーツを着た、怪しい男が行くから待ってろ』

ちなみにナオの事である。
そして散々な言われようをしたナオが食堂に入ってきた。

「急いでくれ!!かなりヤバイ連中だ!!」

ナオのその焦った声に零夜との会話を止め、北斗は走り出した。
両脇に三郎太とナオを抱えて……。

「ちょ、ちょっと待て!」
「おわぁああああ!?」

二人の声が哀しく響いたのだった。

 

 

 

 

ハンガーへと続く通路を走る二人……と抱えられている二人。
計四人がハンガーへと向っていた。

「あのー北斗さん、下ろしてくれると助かるんですけど……」

三郎太が情けない声で言った。
その声に北斗が、

「仕方がない」

と言い、下ろした。
……と言うよりは落とした。

「ぐべっ!」

間抜けな声を上げる三郎太。
昂気を使ってないとはいえ、二人の走る速度はそれなりのものだ。
なのに、受け身を取ることすら出来ず床に落とされた三郎太。
その痛みは推して知るべし。
それでもなんとか立ち上がり、駆け出す。

「なあ、なんで俺が呼ばれたんだ?」

必死に離されないようにしながら三郎太はアキトに訊いた。

「……後で話してやるよ。なんでお前を呼んだかをな」

アキトのその言葉に得心がいったという表情をしたのはナオだけだった。

「だから、今はどっかに隠れていろ」

無体な言葉を言うアキト。
納得のいかない表情をしていた三郎太であったがその真剣な眼差しに気圧されるように二人(+一人)から離れていった。
そしてハンガーへと辿り着く。
ハンガーの中に居るのは、怪しい風体をした四人。
姿が消えている、インを含めてだと五人。
整備員達はすでに避難しているようだ。

「早いな……」

ハンガーへと入ってきたアキト達を見て黒衣の男、Dは呟いた。
その声はアキト達にも届いたが、それに答えはせずに対峙した。

「取り敢えず、邪魔だ」

三郎太のように落とされるナオ。

「もっと丁寧に扱ってくれよ……」

ナオは泣きそうな表情と顔で言うが、目の前に立つ者達より視線を外すようなことはしない。

「ヤガミ……ナオ」

憎悪を滲ませ呟いたのは誰だっただろうか。
それを言及するようなことはせずに、

「で、お前達は何者だ?」

とアキトが訊いた。

「それを言うと思ってるの?漆黒の戦神さん」

エルが嘲笑を浮かべ言った。
その言葉にアキトは冷笑を浮かべる。

「言ってくれると助かる。特にアンタの事は個人的にも良く知りたいと思うがね」
「アキト、お前……こんな時にもナンパか?」

呆れた表情のナオ。
そんなナオにアキトは軽く拳でツッコミを入れておく。

「残念ながら私はそちらのお嬢ちゃんの方が興味あるのよ」

視線で北斗を指すエル。

「よく言った。俺をお嬢ちゃんなどと呼んだからには覚悟はできてるんだろうな?」
女であることを認めても、お嬢ちゃんと呼ばれることは我慢できないようだ。
朱金の光を纏う北斗。

「やれやれ、歪んだ趣味だこと。
 一応言っておくと、女性には優しくと、いうのが俺のモットーなんだがね」

軽口を叩くアキト。
エルが答える。

「なら……大人しく死んでもらえる!」

それが一矢となった。

 

 

 

 

三人が床を蹴った。
その直後に空を切る音。

「糸か!!」

ナオが言う。
視認できない程、細い糸。
それとて速度と強度が有れば恐るべき武器となる。

それを避けつつアキトがまた軽口を叩く。

「悪いが、俺の専門はイカせる方なんでな!!」

新たな魂の光、闇色の輝きを纏いアキトは再び床を蹴り、今度は敵対者へと跳ぶ。
ヒュッ!と放たれた一撃。
それをカエンが受ける。
ハンガー内に響く轟音。
とても素手での戦いとは思えない。

「くそっ!手が痺れたぞ!テメエ!!」
「女相手じゃないんだ!すぐに感じなくしてやるよ!!」

刹那の間もなく今度は蹴りを放つ。
いや、放とうとした。
床を蹴るアキト。
直前まで居た場所を剛腕が過ぎていく。
それを避け、タン、と軽やかに着地するアキト。
髪の毛が幾本か舞う。

「むさ苦しい連中が相手かよ……」

ジェイとカエンの事だ。
残念そうな表情が印象的だった。

 

目に捉える事の出来ない速度の糸――鋼線が舞う。
それをどう捉えているのか、北斗は掠ることすらなく避けている。

「ウザイ武器だ……」

迫る鋼線を避けつつぼやく北斗。
もう何度目になるか分からない、攻撃に辟易したのか、一気に間合いを詰める。
それを迎撃しようと迫る鋼線。
北斗の頬が僅かに裂け、血が赤く化粧を施す。
だが、それまでだった。

「破ッ!!」

裂帛の気合いと共に一撃を放つ。
エルは舌打ちをし、避けようとするが北斗がそれを許さない。
より深く踏み込み、再度打つ。

「ッガ!」

大きく息を吐き出すエル。
そして憎々しげに北斗を睨み、蹴りを放つ。
背に迫る鋼線が避けようとする北斗を邪魔したが為に、その一撃を受ける北斗。
その実力からは想像も出来ない華奢な身体が跳んだ。
その姿は切ないほどに。
追い打ちを掛けるように飛来する鋼線。
つま先が床に触れた瞬間、それだけで再び、今度は自分から跳んだ。
アキトと同じ場所へと。

「別に離れた所から攻撃できるからと言っても、肉弾戦が弱いなんて言ってないわよ?」

嘲りを含んだエルの声が朗々と響き渡った。
「なるほど、改造人間か」
「改造人間なんて言って欲しくないわね。呼ぶならブーステッドマンと呼んで欲しいわ」

嘲る笑みを浮かべエルは言った。
だが北斗は、

「ブーステッドマン?貴様らなぞ人形で十分だ」

と返した。
怒りにその秀麗な顔を歪めるエル。
北斗の横でアキトは苦笑を浮かべているだけだった。

 

アキトと北斗の二人が大立ち回りをしているのとは対照的に、ナオは静かに佇んでいた。
時折、『何も見えない』場所へ銃弾を放ち、身体を動かしているだけだ。
それは何も知らないものがみればさぞかし滑稽な光景だ。
当事者にとっては笑えないが。
目を閉じ、銃を握りしめるナオ。
視覚を閉ざし、ただひたすらにそれ以外の感覚を鋭敏にしている。

「……!!」

無言で横に跳ぶ。
聞こえる空を切る音。
中空に有りながら、引き金を引き絞る。
が、それは虚しく床に弾かれた。

「ったく、姿が見えない相手というのも厄介だよなあ」

やれやれ、と疲れた表情で呟く。
そして跳ぶ。
インの攻撃があったのだ。
気配を感じる方向に向って銃弾を浴びせるナオ。
が、結局はそれも外れてしまう。

「面倒くせえ……」

呟き、ステップをするかのように、トン、トン、と跳ねてナオもアキト達と合流した。

 

 

 

 

「お早いお帰りだな、二人とも」

笑いながらアキトが言った。

「お前の方こそ手こずってるだろうが」
「姿の見えない相手って厄介なんだぞ」

二人に責められ、苦笑を浮かべるアキト。
その表情のままで『彼』が吸っていた煙草を取り出す。
それを口に銜え、

「北斗」

と呼び、視線を合わせる。
目で会話をする二人。
北斗が小さく頷いた。

「余裕だなあ!漆黒の戦神!!」

アキトの巫山戯た態度にカエンが激昂する。
そしてその名の通りに毒々しい赤の火炎を放った!
が、そんなものに当たる三人ではない。
余裕で火炎を避ける。
アキトに至っては眼前を過ぎていく火炎を使って煙草に火を着ける始末だ。
『彼』の様な仕草で一吸いするアキト。
『彼』と違ったのは吸った後に顔を歪めたことだ。

「……アイツよくこんなの吸ってたな」

口に銜えた煙草を見下ろしながら呟くアキト。
その態度に

「テメエェエエエ!!」

カエンが叫びながら三人に突進していった。

「よせ!カエン!!」

ジェイの制止の言葉も耳に入らず、顔を屈辱に染め突進するカエン。
その姿に嘲笑を浴びせるアキト。
その姿に冷笑を浴びせる北斗。
その姿に苦笑を浮かべるナオ。
それぞれの笑みをしながら、

「「二天にてん 鍔破列戒がくはれっかい!!」」

と烈火の声を放ち、カエンに一撃を食らわせたアキトと北斗。
アキトの一撃に耐えうる、強靱でしなやかな骨格が砕ける音が響いた。
倒れ伏せるカエンをアキトは口に煙草を銜えたまま彼らの方へと蹴り飛ばす。

「アキトお前……戦闘スタイルが意地悪くなったな」

呆れた表情でナオが言った。
ナオの言葉に紫煙をくゆらせながらアキトは、

「いや、俺もあんなミエミエの挑発に引っ掛かる奴が居るとは思わなかったんだけどな」

小馬鹿にした目でカエンを見る。

「貴様っ!!」

アキトの言葉にジェイが激昂した。
そして今度はジェイが突進してくる。
アキトの纏う闇色の炎がその猛りを増す。
そしてその姿が消える。
タックルを喰らわせようとしたジェイの横に回り込むアキト。
煙草を吹き捨て、ジェイの関節を取り……、

銃声と赤い閃光が走った。

……砕く。

「ッガアア!!」

苦鳴を上げるジェイ。
冷然と見下ろすアキト。
その後ろでナオの放った銃弾によって穿たれた穴を押さえながら、自分を踏み砕こうとする北斗に抵抗するインの姿がある。

「こそこそと人の背後に忍び寄るのが好きなようだな?」

嘲りと怒りを浮かべ北斗が言う。
その足に渾身の力を込めて。

「アキトが捨てた煙草な?あれの煙の動き方で簡単にお前の動きが分かったぞ」

銃を構えながらナオが言った。
姿が見えないと言っても身体が無いわけではない、それゆえ保険として吐き捨てた煙草。
その紫煙の普通ではない動きを見極めたが故に、一度も当たらなかった銃弾を簡単に当てることが出来た。
二人が口を開いてる合間にアキトはジェイに容赦なく一撃を食らわせた。
声もなく倒れるジェイ。

「ジェイ!イン!!」

エルの悲痛な声がハンガーに響く。

「光学迷彩の使い方を教えてやるよ。…俺たちが相手でなければ背後から襲い、俺たちが相手の場合は……」

改めて煙草を取り出し、今度はライターで火をつけるアキト。
その余裕たっぷりな仕草にエルが歯を軋らせた。

「……俺たちが相手の場合は、そんな事を考えないで、女の着替えでも覗いてろ」

紫煙をくゆらせるアキト。
そのあんまりな言葉にエルが怒りに形相を歪め、突撃しようとするが、

「引くぞエル」

Dの夜の湖面の様に静かな声が響いた。

「D!?」

驚愕するエル。
それには構わずDが跳ぶ。
三人の中心に。

「なに!?」

と北斗が驚きの声を上げると同時に、

「邪魔だ」

Dの声が聞こえ三人を吹き飛ばした。
壁に打ち付けられる三人。

「ディストーションフィールドか……」

痛みを堪え、呟いたナオ。

「失敗者には、死を。と思ってたんだがずいぶんと優しいことだな」

この状況でも煙草を銜えたままのアキトの言葉。
それはDが三人のみを吹き飛ばしたことを指している。

「当然だ、数少ない同胞を見捨てるようなことはしない」

冷たい声でDが返答する。
フィールドの中でインがよろめきながら立ち上がった。
光学迷彩は解除されている。

「エル、イン。カエンとジェイを運べ」

Dの言葉に頷くエルとイン。
さすがにこの不自然なまでに強力なフィールドを前にしては手も足も出せない三人。
DFSを持っていればまた話は別だったかもしれないが、今は持っていない。

「折角だから、自己紹介ぐらいしてくれても良いんじゃないか?」

それだというのに余裕な表情を見せるアキト。
だからだろうか?
ふ、と危険な空気が和らいだのは。

「いいわよ」

と口を開いたのはエル。
Dも止めようとしない。

「私がエル。この黒いコートを着たのがリーダーでもあるD」

視線をDに向ける。

「そして、このデカイのがジェイで地味なこの男がカエン、それでアナタがセクハラな言葉を向けたのがインよ」
「酷い紹介だ。同情の念を禁じえんよ」

面白そうに笑いながら言っては説得力がない。

「ちなみに俺はテンカワアキト。君には是非アキトと呼んで欲しい。
 美女には漆黒の戦神などという無粋な呼び方はして欲しくないんでね」
「よく言うぜ……」

もはや呆れた表情もできないナオ。

「……レポート通りね。漆黒の戦神は稀代の女たらしだっていうのは」

エルどころかDすら呆れた表情をしている。

「そのレポートに注釈を付け足しておいてくれ。『ただし、美女に限る』ってな」
「褒め言葉として受け取っておくわ。けど、私の興味は真紅の羅刹よ」
「だ、そうだぞ北斗」
「ああ、俺も同じだ。俺をお嬢ちゃんと呼んだことを後悔させてやるよ」
「お熱いことだ。今、熱いラブコールを送ったのが北斗。目下、君の一心を集めるこいつをどうしてやろうか考えてるところだ」

アキトの紹介もエルの紹介に負けず劣らず酷い。
アキトの隣で北斗が指を鳴らしているが気にしていないようだ。

「ちなみにこっちで寝ている、サングラスと黒のスーツという狙い過ぎな服装をしたのがナオ。
 ……どうやらそっちとも縁が深そうだがね」

意地の悪い笑みを浮かべアキトは言った。
それに対し、答えないD達。

「お前の黒のバイザーとマントだって狙い過ぎだろうが……」

無論ナオの言葉は黙殺された。

「テンカワアキト……」
「お前に名前を呼ばれても嬉しくない」

口を開いたDに無情な言葉を返すアキト。

「……漆黒の戦神」

言い直すあたり、Dもノリがいいかもしれない。

「今回は正直言ってお前達を侮りすぎた。
 ……次は殺す」
「そうかい。じゃあ次に会ったときは壊してやるよ」

再び張り詰めていく緊張感。

「私達を人形と呼んだこと、後悔させてあげるわ」
「言っただろう、俺をお嬢ちゃんと呼んだことを後悔させてやるって」

こちらもまた同じく。

「ヤガミナオ……貴様だけは赦さん」
「のまえに公序良俗に反するんじゃねえぞ」

インの言葉にアキトに毒されたのか辛辣な言葉で返すナオ。
互いに互いの敵を見つけたようだ。
一足でエルとインが外に飛び出る。
アキトはでかぶつを抱えたままで器用な事をすると思ったりしたがすぐにそんな事を考えていられる余裕は無くなった。

「また会おう……」

二人が外に出たことを確認したDがフィールドを広げてきたからだ。

「げっ」

とナオが呟くと同時にハンガーの入り口へと跳ぶアキトと北斗。
倒れたままのナオの足を掴んで跳んだものだからナオが悲鳴を上げている。
それを丁重に無視し三人は通路へと戻った。
ハンガーの喧噪とは無縁だった通路。
ハンガーより気配が消えたことを確認し再び入る。
張られたフィールドにより円形に綺麗にものが散らばっていた。

「ブロス、ディア無事か?」

フィルター部分まで燃えた吸い殻を拾いつつ訊くアキト。
しかし、ブローディアのAIより反応はない。

「ブロス、ディアどうした?」

再度呼びかけて漸くウィンドウが開かれた。

『うっうっうっ……。アキト兄が、アキト兄が汚れちゃったよぉぉぉ…』

とディアが涙を流した映像で応じた。

『ディア、アキト兄も男だったんだよ……』
『うっうっうっ……いいもんこうなったらブロスとハーリーを苛めてやるモン』
『なんでぇえええええええ!?』

叫ぶブロス。
無視するディア。
微妙にディアの性格がラピスの様なのはご愛敬。
そんな二人(?)を見てアキトはただ一言。

「……溶鉱炉にブチ込むぞ?鉄クズ」

であった。
勿論その直後に二人(?)が復活したのは言うまでもないことだった……。

 

 

後書き

 

分かる人は笑ってください(爆)

 

零―ゼロ―と言うゲームがある。
所謂、ホラーゲームだ。
これは要約すればカメラ悪霊と戦い謎を解いていくゲームである。
そんなホラーゲームだ。

 

 

 

きゅ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

究極戦隊コウガマンの歌が離れねえ……

 

 

 

メーカーから抗議が来たら消そう(爆)

 

 

 

 

代理人の感想

なんつーか、一話だけでまた本文と後書きの内容が乖離し始めましたね(爆)。

 

ま、それはそれとして。

 

軽いぞ、アキト!(笑)

 

まぁ、ここは一つ風流を解するようになった

誉めておいてあげましょうか(笑)。

でもタバコは料理人には大敵ですよ〜。舌も鼻もやられてしまうから。