暗く静まり返った艦内に現われる青い光。
ボソンの光芒だ。
その光が人型を生み出す。
現われるシンジ。
黒い姿で。
胸に輝くロザリオを身に着け。

『帰ってきたんですね』

アキトとシンジの部屋の中にジャンプしたシンジに開かれるウィンドウ。
もちろんそこに映っているのはルリだ。

「久しぶりだね。ルリちゃん」
『はい…と言っても私達が別れたのは少し前にしか感じませんけど』

クスリ、と笑みを浮かべ言うルリ。
眩しいものを見るかのようにシンジを見ている。

「けど僕には八ヶ月ぶりだよ」
『そうですね……。背…伸びましたね』
「そう…だね」

アキトと同じぐらいに伸びたシンジの身長。
シンジは訊かれたらどう言い訳をしようかと考えているがルリは自分の知らないシンジがあると思い寂しげな表情をする。
それにシンジの服装。
墓地で再会したときの服装。
黒いコートに同じく黒い戦闘服。
いつか感じた哀しみを思い出させる。

『それに…その胸のロザリオは?』

その感情を隠しルリは訊く。
シンジがアクセサリー類を身につけた姿など終ぞ見たことが無かったからである。
ルリの言葉に笑みを浮かべるシンジ。
哀しげな儚い笑み。
触れる事を躊躇う、そんな笑み。

「うん…色々とね」
『そうですか…』

シンジのはぐらかした答えに哀しげに眉を寄せる。
だがシンジの浮かべた笑みに触れてはいけない事とわかるのでそれ以上に訊きはしない。

「アキトさんは?」
『以前と同じで展望室です』

イネスさんと一緒に、と付け加えるルリ。

「それじゃあ今は…」
『はい、戦いの真っ最中です』

その言葉を証明するように映し出される外の光景。
数え切れないほどの数の無人兵器が飛び回り連合の戦艦を翻弄している。

「…アキトさん達はまだ起きないのかい?」
『いえ、アキトさんは起きています、けどユリカさんが…』
「なるほど…」

現われる三つ目のウィンドウ。
そこに映し出されているのはアキトとユリカとイネスの姿。

『おい、ユリカ起きろ!起きろってば!!』

ウィンドウの中でアキトがユリカを揺すり起こそうとしている。

『う〜〜ん、アキトォ〜〜。えへへ…』
『なんだよ?まだ寝てるのかよ』

だらしなく顔をにやけさせているユリカ。
そんなユリカの表情に途方も無く疲れを感じるアキト。

『えっ!!アキトそんな…。でもアキトなら…私…』
『……』

かなり疑わし気にユリカを見るアキト。
だがふとユリカの寝顔を見る。
それは忘れていた時を思い出させる。
否、忘れる事を絶対とした時を。
それは四人で屋台を引いていた時の事。
シンジとルリと…ユリカの三人で屋台を引き皆で笑いあっていた時。
もう戻れない幸せの時。
今なら…戻れるだろうか?
アキトは寝顔を見ながらそう思った。
狂おしいほどにその時に戻る事を望み、だが望んではいけないと自分を戒める。
そっと…手を伸ばす。
ユリカの頬に。
頬に掛かる髪が流れる。
手先から伝わる仄かな温もり。
ただ、これを取り戻したいが為にシンジと共に宇宙を翔けた。

『ユリカ…』

万感の想いを込め呟く。
が、その想いを抱くたびに囁く声がある。
自らの裡から強く、突き刺さるように。

そんな血に濡れた手で触れる資格は無い

と囁く声がアキトを縛る。
触れたときと同じようにそっと手を戻す。
それでも囁き声は聞こえる。
傍に居る資格など無い、と。
戻りたい、けど戻れない。
二律背反の想いがアキトを苛む。
そんなアキトをウィンドウ越しに見ているシンジとルリ。
息を呑むルリに小さく首を振るシンジ。

「アキトさん」

ルリに代わりシンジが声を掛けた。
ハッ、と顔を上げるアキト。

『シンジ…』

ウィンドウに映るシンジの顔に複雑そうな表情をするアキト。
見られてはいけないものを見られたような、だが見られてもいいかと言う様な表情。
おそらくシンジだからこそのアキトの表情だろう。

『すまん…』
「いえ…」

感情が複雑に絡み合うアキトの言葉に短く返事を返すシンジ。

「アキトさん、ついでにユリカさんを起こしてもらえますか?今戦闘中ですので」

展望室より遠方を望めば幾筋もの光。

「そういえばそうだったな」

以前もそうだったとアキトは思い出しユリカを起こしに掛かる。

『おい!ユリカ!!起きろ!!』

とアキトは揺さぶり呼びかけるがユリカに起きる気配は全く無い。
そんな二人の姿を見てシンジが言う。

「眠れるお姫様を目覚めさせる方法は一つ、といったところですか?」
『…なるほど』

とアキトが言ったのはシンジの言葉を聞いただけではなかった。
心なし突き出すようにしているユリカの唇が物語っている。
つまり狸寝入りだ。
それをアキトは見て取った。
故に、

『シンジ、お姫様の起こし方はどうするんだったか』

唇の端を吊り上げシンジに訊くアキト。
その表情からアキトがどんな答えを期待しているか悟ったシンジは同じように唇を吊り上げる。

「決まっていますよ、アキトさん。眠れるお姫様の覚まし方は…」
「『殴って起こす!!』」

と二人が言った途端、

『いやあああああ!!』

ガバッ!とユリカが起き上がった。
その目には僅かに涙が浮かんでいる。

『アキト〜。違うよ〜。お姫様の起こし方はキスなのに〜』
『…で』

ユリカの言葉に冷たい反応をするアキト。
自分の狸寝入りがばれていたとそれでユリカは知る。
アキトとシンジ、更にはルリにまでジト目をされたユリカは…、

「てへへへ」

笑って誤魔化そうとするのであった。
が無論誤魔化される三人ではない。
ますます冷たい目を向けユリカを更に萎縮させる。
その冷たい視線に耐えかねたユリカは必死に話題を変える。

「えーと、ルリちゃん!今の現状を報告!!」

とさすがにその言葉を持ち出されては答えないわけには行かない。
未だ冷たい視線を向けながらもルリは答える。

「はい。ナデシコは通常空間に復帰しました。現在ナデシコ船外に於いて戦闘中です」
「戦闘中?誰と誰が?あれ?私どうして展望室にいるの?」

復帰したは良いが今は戦闘真っ只中、おまけにブリッジに居たのに展望室に居る。
この奇妙な状況の中でさすがに頭を捻るユリカ。
そんなユリカにルリは説明するより見せた方が早いとウィンドウを開いた。
それも特大の。
映し出された映像にはそれぞれの、連合宇宙軍と木星蜥蜴の姿がある。
そしてバッタがドアップで飛んで来た。

「のええええええ!!」

未だ完全には覚醒していないユリカにその映像はかなりの迫力があった様で、

「グ、グラビティ・ブラスト広域放射!!直後にフィールドを張って後退!!」

と叫んだ。
かつてを繰り返す事になることをルリも知っているだろうに口に出す事無くその命令を実行する。
放たれる重力波。
それは木星蜥蜴を大きく壊滅させた。
…一緒に連合軍も。

『ルリちゃん…』

シンジの苦い声が聞こえる。
実際表情にも苦いものがある。

「大丈夫です、奇跡的にも連合宇宙軍に死者はありません」

ルリの言葉にアキトとシンジは互いに顔を見合わせ笑う事しか出来なかった。
随分と乾いた笑い声を…。







「ふっふっふっふ…」

不敵な笑い声が響く。
そこはナデシコの医療室。
そしてそこの主と呼ばれて久しい男がいた。
ダイゴウジ・ガイ(魂の名前)ことヤマダ・ジロウ(本名)である。
かつて地球を脱出する際にシンジに素晴らしい一撃を喰らい医療室に篭る事となった男だ。
常人であれば死んでいてもなんら不思議でない一撃だったと言うのにこの男はなんら後遺症も無く復活していた。
その点でもうマトモではない。
そして復活してみれば今は戦闘の最中。
ならばやることは一つと、今はエステに乗り込んでいる。
整備員に、アンタ誰?と言われへこみはしたがこの後の戦闘に気分が昂揚している。

「行くぜ!!」

と重力カタパルトを用いて出撃する。
その先には既にアキト達が居る。

「俺の時がやってきたあああ!!」







さすがにあの姿で皆の前に出るわけにも行かずシンジは着替えてブリッジへと向った。
服はフリーサイズであったのでサイズは問題なかった。
無論、色は黒で占めている。
シンジ自身ふと気づけば黒の服を選んでいる時点で毒されているなと思わず苦笑していたりする。
黒のシャツに黒のパンツ、胸元には銀のロザリオ。
黒の生地に銀がよく映える。
ブリッジに辿り着き、中に入る。
そして、

「「「「「「アンタ誰?」」」」」」

とルリを除くブリッジクルーが言った。
予想していたとはいえまさか声をそろえて言われるとは思わなかったシンジは思わずたじろぐ。

「いや、誰って…」
「……もしかして…シンジ君?」

ミナトがそう訊く。
いまいち目の前に立つ青年が誰か分からないようだ。
無理も無い。
少年としか見えなかった背丈は伸び、アキトと並ぶほどになっているだから。
そして容貌もまた少年から青年と呼べる程になっている。
雰囲気に関してはさほど変わっていないが。

「そうですが?」
「「「「「「うっそ〜〜〜〜〜!!」」」」」」

皆が一斉に叫んだ。
無論ルリを除いてだ。

「嘘って…そんな」
「でもすっごい変わってるわよ!」
「そうそう、何時の間にそんなに背が伸びたの?」
「そういえばなんか変わってた様な…」
「僕より…かっこいい…」
「これはまたなんとも不思議な事があるものですね」
「むう。確かに」

上からシンジ、ミナト、メグミ、ユリカ、ジュン、プロス、ゴートだ。

「でもどうして…」
「はあ、なんか気づいたら大きくなっていました」

どうやら言い訳が思いつかず力押しで逃げようとしているらしい。
良策と見るべきかはたまた…。

「ふ〜ん、そうなんだ」

とミナトが言う。
その表情は、まあそう言うこともあるか、といった程度のものでしかない。
ミナト以外の者も同じ表情だ。

「あの、それだけで…?」

必死に言い訳を考えていた(思いつかなかったが)シンジとしてはそんな反応を返されると逆に物足りない気がしている。
が、皆の反応もナデシコらしいと言えばらしいかもしれない。
変わったシンジの姿よりも今は戦闘の方に意識を向けている皆。
その様子にシンジは少し涙が出そうになり思わず空(上)を見上げてしまうのだった。







シンジが思わず涙を流しそうになっている中でも外では戦闘が行われている。
ユリカとイネスの二人で展望室に居た事を追求されたアキトがその際のストレスを発散させていた。
エステを動かし目に付く無人兵器を散々に破壊している。
その凄まじいまでの戦いっぷりにリョウコ達は目を見開いている。
どうにも随分とストレスが溜まっているようだ。
そんなアキトに入る通信。

「ふっ。中々やるなアキト!!だがこれからは違う!
俺こそがナデシコのエースだと言う事を教えてやろう!!」

エステでわざわざ腕組みをして現われるガイ。
無論足はそろえている。

「ねえねえ。あの人…誰?」

突如、という訳でもないが現われたガイに関してアキトに訊くヒカル。
彼女達はガイと出会ったことが無い。
シンジの苛烈な一撃で沈んだまま医療室のベッドで今まで過ごしていた人物だから。

『そういえば、居ましたね』

シンジの声がそれぞれのコクピットに響いた。
ガイを沈めた張本人だと言うのに暢気なセリフである。
もしかすればもう忘れているのかもしれないが。

「お前が俺を入院させたんだろうが!!」

暢気なセリフを言うシンジにガイが叫ぶ。
ただ、シンジにしてみれば自業自得だと言いたかったかもしれないが。

「あ〜ガイ。その話はまた後でな。今は戦闘中だしな」

アキトがとりなすように言った。
疲れた表情で。

「そういえばそうだったな。よし!アキト!!俺がナデシコの真のエースだと言う事をよく見てろよ!!」

ガイはそう叫ぶように言い、エステを一気に敵に向け走らせた。
そんな彼の姿に一言、バカ、と呟くルリ。
が、それは彼を見たもの全ての言葉だっただろう。
今までの流れに溜息を零しつつアキトも、そして他のパイロット達も戦闘へと突入した。

「やはり強化されているか」

ライフルでバッタを次々と落としながらアキトはそう呟いた。
火星へと至るまでは呆気なくライフルの一発で撃ちぬけたフィールドが今は撃ち抜けない。
それはアキト以外のパイロットも同じのようだ。
ただしガイを除いて。

「ガイ!!スゥーパァー…ぐあ!!」

とこんな感じでわざわざ攻撃する際に叫びながらやろうとするためそこを付け入られている。
それをなんども繰り返していると言うのにこりずに叫ぼうとする為どんどん損傷が増えていく。
戦闘の最中でその光景をみるアキトは頭痛を堪えきれなかった。

「おのれ卑怯な!!アキト!親友のピンチだぞ!!」

幾機ものバッタに囲まれるガイがそうアキトに告げた。
その言葉にアキトはふと天を仰ぐ。
親友、止めてやろうか?などと思いながら。
それでもまさかこの場で見殺しにするわけにも行かず機体を動かそうとした…そのとき、

「君達下がりたまえ!ここは危険だ!!」

とアキトが動くまでもなくガイの機体を助け出す乱入者。
この場に現われるのは間違いなくアカツキだ。
まるで狙っていたようなタイミングで現われたアカツキ。
そしてリョウコと話す中で光が虚空を駆けた。
その光が一気に敵を駆逐する。
続けて迫る光もまた呆気なく駆逐する。

「多連装のグラビティ・ブラストだと!!」

ブリッジにゴートの驚きの声が響いた。
そしてアキトもまた叫ぶ。

「ちょっと待て!俺はまだストレスを…!!」

どうでもいい叫びだった。







ナデシコの格納庫で挨拶もそこそこに自室へむかうアキト。
すぐさまブリッジへと向わなくてはならないのだがシンジとまだマトモに話をしていないからだ。
アキトにとっては僅かな時間の流れでもシンジにとっては八ヶ月ぶりだ。
通常空間に復帰したと思ったら戦闘で話をしている暇など無かった。

「シンジ、いるか?」

自室へと入り、声をかけるアキト。
すぐさま返事が返ってきた。

「ええ」

部屋へと入ったアキトが見たのは明かりもつけずに座り込んでいるシンジの姿。
彼は座り込みロザリオを眺めている。
哀しそうな目で。

「どうしたシンジ?」

この薄闇に溶けてしまいそうなシンジの希薄な気配にアキトが声を掛ける。
そうでもしないと本当にシンジが消えてしまいそうだったから。
そんなアキトにシンジはロザリオを眺めながら言葉を返す。

「この八ヶ月…色々あったんです」

短い言葉でシンジはたった八ヶ月の物語を始めた。
変わった店での変わった品物。
本当か?と問いたくなるような物ばかりがあった。
アキトもシンジも互いに笑っている。
品物に、まるでウリバタケの様な店主に。
そしてかつて出会った、少女の話。
どこか寂しそうな表情をするシンジにアキトは何も言わずその肩に手を置いた。
寂しさが見える笑みを向けるシンジ。
次は少し業務連絡みたいに。
ジュデッカとブラックサレナの話。
シンジがふと思い出したことは告げずにその完成が近いということのみを。
ついでにナデシコでもやっていけるだろう技術者達の話を。
ウリバタケさんと気が合いそうだな、とはアキトの言葉。
そして…シンジが持つロザリオの元の持ち主であった少女の話…。

「このロザリオは…報酬なんです。名前も知らない少女を殺した」

薄闇の中でも輝く様な銀光を見せるロザリオを手にシンジが言った。

「僕はあの少女を殺す事以外に思いつかなかった…自分の行動が正しいとは言いません。
それでも…それ以外に方法は無かったのか、そう思います」

ロザリオを見るシンジの目は哀しく、優しい。
微かな光のみが部屋を薄闇へと導く中でまるでその姿は影のように見える。
決して触れれる事無く、光と共に消え失せてしまいそうな影に。
同様にアキトもまた影の住人となる。
彼もまた思い出したのだ。
復讐者となった時に火星の後継者のラボで出会った者達の事を。
忘れる事など出来ない。
絶望とはまた違うあの空虚感を。
死を懇願するものと出会い、同様に死を与えた。
その空虚さが胸に押し寄せる度に胸を掻き毟りたくなる。
その空虚感がそうすれば消えると思っているかのように。
シンジには…そんな想いなど感じて欲しくなかった…。
アキトはそう思った。
ラボに侵入するのはアキトの役であった。
シンジはその露払いをしていた。
だからアキトが感じる事となった空虚感をシンジは知らなかった。
だが、今は知ってしまった。
止めるべきだった、シンジが八ヶ月の空白の間に動くのを。
口を閉ざし影のように霞むシンジの姿を横目にアキトはそう考えた。
だがもう過ぎた事、過去の話。
誰の為か、涙が流れそうになる。

「それで女の子と出会ったんですよ」

影となっていたシンジが再び口を開いた。
え?とアキトは訊き返した。
訊き返すアキトにシンジは気を悪くする事無く言葉を繰り返した。

「女の子です。…いい娘ですよ」

優しく微笑むシンジ。
その微笑に霞んでいた影の様な存在感が失せていく。

「そう、か。お前がそう言うのならいい娘なんだろうな」

ここにはいない少女のことを思いアキトは言った。
シンジが抱く空虚な思いを安らげてくれた未だ出会わぬ少女に対して感謝の念を込め。
そして再開の時は終わる。

『もうアキトったら、時間過ぎてるよ。プンプーン!』

光源が生まれにわかに明るくなる室内。
映るユリカが頬を膨らませている。

「ああ、そうか悪い。今行くよ」
『それじゃあ待ってるから』

名残惜しそうに通信を終えるユリカ。
ユリカの言葉と雰囲気でそれぞれの心中を覆っていた薄闇が晴れたかの様だ。

「じゃあ俺はブリッジに行くから」
「ええ」

立ち上がり、出口へと向うアキト。
部屋を出る前に足を止め、振り向く事無くシンジに言葉を投げ掛ける。

「シンジ…終わらせような。もうそんな娘が出ないように…」

と、言って部屋を去る。
残されたシンジはそっとロザリオを首に掛け呟いた。

「ええ…終わらせましょう…」







ブリッジでは現状と以降のことについて話が行われていた。
ネルガル本社の意向――連合との共同戦線、極東方面軍への編入についてだ。
騒々しいブリッジの中でアキトは何をするでなく立っていた。
どのみちアキト自身が目指す未来を現実にするにはナデシコに居なくてはならないからだ。
これは予定の中の一つにしか過ぎない。
ので入る言葉を馬耳東風と受け流し、アカツキとミナトの駆け引きを見ていた。

アカツキ、ミナトの肩に手を置く。

ミナト、その手を払いのける。

アカツキ、笑みを見せ言葉を掛ける。

ミナト、完全に無視。

アカツキ、がっくりと項垂れる。

ミナト、WIN!!

「まあ、予想通りだな。けどアカツキの奴、誰にでも手を出す奴だな」

アキトがそう呟いた時、

「アキトさんにそれを言う資格は無いと思います」

ルリが突っ込んできた。

「え!?ルリちゃん俺の独り言聞いてたの?」

ええ、と返すルリ。
微妙に怪しい笑みを浮かべるルリにアキトは恐怖を憶え早々とブリッジを退散する。

「う〜ん。ルリちゃんもなんだか変わったな」

通路を歩きながらそう呟く。
思い出しているのは先ほどのルリの怪しい笑みだ。
その笑みを思い出すたびになぜか背すじが凍りつくような感覚に襲われる。
ので、アキトはそれ以上思い出すのを止めた。
もしアキトがいずれはそれが日常茶飯事に見られることを知ったらどうしていただろうか。
答えは、何も出来ない、だけだろう。
部屋へ入ると、シンジの姿は無かった。

「居ないのか…」

と呟くと同時に閉じたドアが再び開いた。

「アキト!!この秘蔵テープを一緒に見ようぜ!!」

ガイが入ってきたのだ。
が、アキトは返事を返せなかった。
ガイの大声を至近距離で聞く羽目になり両耳を押さえて悶絶している。

「くくくくく…面白いね君達は」

そんなガイの後ろから聞こえた笑い声。
アカツキだ。ドアに寄りかかり笑みを浮かべアキト達を見ている。

「なんだお前は!!…ん、新しいパイロットじゃね〜か」
「そうそう、アカツキ・ナガレ。これからよろしく」
「で、何の用だ?」
「ああ、少し訊いてみたい事があってね」

訊きたい事?とアキトが訝しげな目でアカツキに問う。

「テンカワ君、君は蒼い機体を知っているかい?」

ストレートに訊いてくるアカツキ。
蒼い機体、ジュデッカの事だ。
だがそれを、正確にはシンジの存在を明かすのは得策ではないと、

「いや知らないが」

誤魔化す。
アキトの言葉が本当かどうか、とアカツキが探るように見る。
が、一切の動揺を見せないアキトからは何も探れない。

「そうか、なら別にいいんだけどね。
それで君達はナデシコが軍に編入されることについてどう思っているか訊いてみたいんだけど」
「どちらかと言えば、コックの方が向いているんですけど」

アキトの言葉にアカツキが目を細めた。
楽しそうに。

「…テンカワ君、君がその台詞を言うのは他のパイロットに対して失礼だよ。
 君は現在間違い無く、連合宇宙軍を含む中でのエステバリスライダーのエースだよ?
 そんな君が軍隊を否定するのかい?」

そう言うアカツキ。
だが内心では、あの蒼い機体のパイロットは別としてね、と考えている。
アカツキの言葉を聞いたアキトは静かに佇んだ。
軍隊――命令のままに戦う者達。
命令が正義だと信じきっている者達。
その為にどんな事も許されると思っているのか…。
佇むアキト。
その身に纏う雰囲気が変わっていく。
思い出すのは火星の後継者。
そしてその陰に生きる者達。
シンジと話をしていなければその激情は自制できたかもしれない。
だがシンジと話し、思い出した。
命令の言葉の下で繰り広げられた凄惨な世界。
死を懇願する程に苦しむ事となった者達の姿を。
銀のロザリオを哀しげに眺めるシンジの姿を。
ポタ…。
小さな音が響く。
アキトが握り締めた拳から伝い落ちた血の雫が発した音だ。

「アカツキ…」

その発せられた声のなんと昏いことか。
その声に励起するはありとあらゆる恐怖。
死すら優しいと呼べそうな程の展開が繰り広げられるのか?
身を縛る恐怖の呪縛に動く事も言葉を発することも出来ないアカツキとガイ。

「俺の前で軍の話などするな…」

そう言い捨てアキトは自室を後にした。
二人はただ呆然とその姿を見送るだけ…。







新たな敵に対する迎撃戦も終え、その時吹っ飛ばされたどこぞの熱血馬鹿も助け出し再びブリッジへと集まるクルー。
そこでは新たにナデシコに来たエリナと、再びナデシコに来たムネタケが挨拶をしていた。
ルリのきつい一言など色々あったが簡単に終わった。
ただ、その場にシンジの姿は無かった。
シンジは展望室に居た。
アキトと再会したすぐ後にから。
無表情に宇宙を眺め佇んでいる。

「ちょっといいかしら?」

佇むシンジを呼ぶ声。
振り向く事無くシンジは、ええ、と受諾する。
ムネタケがその後ろに居る。

「西欧で蒼い機体が大活躍したと言う話は知っているかしら?」

知るも何もシンジがその”大活躍”した本人だ。

「いえ、知りませんが」

がそれを明かすわけにもいかないので短く否定する。
透明な壁にシンジと、そして疑う目をしたムネタケの姿が映っている。

「…っそ」

ムネタケ自身、シンジが言うとは思わなかったのだろう。
簡単に引き下がる。
暫しの静寂。
シンジは変わらず宇宙に目を向け、ムネタケは扇子を広げその後姿を見ている。

「あんたもテンカワアキトも本当に謎よね。あんたら…一体何者なの?」
「それはまた、哲学的な質問ですね」

笑みを浮かべシンジが答える。

「んなこと聞いてないわよ!テンカワアキトも!アンタも!なんなのあの化け物じみた戦闘力は!」

激昂するムネタケとは対照的にシンジは変わる事無く佇む。

「大したものよね。特にテンカワは。もしかして英雄とでも呼ばれたいのかしら?」

その言葉でようやくシンジがムネタケに向き直り、ムネタケは自分の言葉を後悔した。
シンジのその顔には冷笑が浮かんでいる。
ムネタケの言葉を嘲笑うように。
吹き付ける、凍りつきそうな魔気。
天使の如き笑みではないので怒りを覚えているというわけでもないだろう。
だがそれでもその笑みは恐ろしい。

「英雄?あの人が?」

区切り、話すシンジ。
その一言一言を明瞭に。

「そんなものになりたいが為に得た力では無いんですよ…」

そう、英雄になりたいが為に得た力ではない。

「あの人が力を得た理由は復讐の為だったんですよ。
絶望と憎悪の中で取り戻す為、殺す為に力を得たんですよ。
身を削り、心を削り、人としてどれほど落ちようとも気にならなくなるほどの狂気に身を任せて得た力。
それを…英雄の為?」

笑みが変わっていく。
正反対の意味を持つ、優しく柔らかい笑みに。

「もう二度と無くしたくないからと、必死に足掻いているだけだと言うのに…」

一歩、足を踏み出す。
そしてムネタケも一歩下がる。

「英雄なんてあの人は望んでいない…望んでいるのは、ただ皆と笑いあえる時…」

一度は無くしてしまったから。
当人がそれを得る資格が無いと嘆こうと、それでも他の者にだけは笑っていられる時を。

「もう…二度と言わないで下さい…あの人が英雄などと…」

笑みが消える。
寂しそうな、哀しそうな声が霞むように吐かれる。
そしてシンジはムネタケの脇を通り過ぎ出口へと向う。

「テンカワアキトが望んでいなくたって軍は見逃しはしないわ!」

シンジの方を向く事無くムネタケは叫んだ。

「あれだけの力を持つ人間を軍は決して見逃したりはしないわ!」

ムネタケの言葉をその背に受けながら歩くシンジ。
ドアが開きシンジの姿がドアに飲み込まれる時に最後にシンジは囁くように、

「それでも、望んでいなくとも貴方がナデシコに乗っているのなら…あの人を英雄と呼ばないで下さい…」

と言った。
命令を下すような音ではなかった。
哀しみを滲ませたその声はただひたむきにムネタケに願いを込めて囁かれたのだった。
すなわち、哀願にして懇願。

「なによ…馬鹿げてるわよ、そんなの!」

シンジかアキトか軍か。
それとも自分自身にか。
まるで聞きたくなかった事を聞かされ、それを否定するかのようにムネタケは吐き捨てた。

「なによ…馬鹿馬鹿しい……」

直前の言葉とは違い、その言葉には力が無く誰にも聞こえる事無く静かに掻き消えていくのだった…。





後書き(もう後書きじゃないからと言うツッコミは却下)

月姫や。嗚呼、月姫や。

月姫を知らないという不届き者方が居るとの事で少しキャラ紹介。

アルクェイド・ブリュンスタッド

月姫の正ヒロインにして元祖ヒロイン、真ヒロインの無敵ヒロイン。
一言で言うなれば…アーパー。
とりあえず皐月的に死徒にしてくださいって感じ?
ロアの気持ちがわかるよ、ホント。

レン

アルクェイドの預かり使い魔。
普段の姿は黒猫。
だが一度変身すれば黒い服とニーソックス(これ重要)の幼女少女。
夢を操る力を持つ。
本人で俺の所にも来てくれないかなあ(核爆)

遠野秋葉

ナイムネ(無い乳)秋葉の二つ名を持つヒロイン。
実際無い。
何と言うか…ガンダムで言うなら…キシリアか?
いや、妹でね。
とりあえず妹シリーズな攻撃は止めとけ。
目潰しとかひざかっくんとか。

翡翠

洗脳探偵。
あんまり萌えないメイド服を着ているメイドさん。
遠野家の中でマトモそうな人だが結局まともじゃない(翡翠ちゃん反転衝動を参考)
暗黒翡翠拳だけは止めてくれ。
あれで転げまわったから<俺

琥珀

割烹着の悪魔
月姫に於けるイネスさん(時の流れにVer)
黒幕、策士など様々な異名を持つ。
う〜ん、琥珀さんになら地下室で飼われてもいいかも(核爆)

弓塚さつき

唯一の吸血鬼シナリオ保持者。
血の味に対してのこだわりがある人(?)
さっちんと呼ばれたりしていて大人の都合でシナリオが潰された人。
さっちん…まだ望みはあるぞ!…多分。

瀬尾晶

子犬な感じ。
よく夏とかに某所で並ぶ人たちの仲間(同類)
絶対そっち系の本を書いてるだろうと思われる。
秋葉のオモチャ。

先生(蒼崎青子)

出番が無いわりに人気の高い人。
今度は彼女をヒロインに入れて欲しい。
いやマジで…。



……。

…………。

………………。

ああ、そういえばもう一人居たな。
で、ラスト。





キレンジャー

カレー





代理人さん…あとは任せました(爆)

 

 

代理人の代読

我は神とカレーの代理人

神罰の地上執行者

我が使命は神とカレーと私に逆らう愚者を

その肉の最後の一片までも絶滅する事

汝皐月よ 

人間の分際で吸血鬼とニーソックスに味方する愚者よ

 

    チ  リ  は  チ  リ  に
Dust to Dust

チリに過ぎぬ貴様はチリに返るがいい

 

 エ  イ  メ  ン
Amen

 

 

・・・・以上、某女史より皐月さんへのメッセージです。

暗い夜道にはお気を付け下さい(爆)