ナデシコのブリッジ。
チューリップを撃破したナデシコは未だ地球から脱出していない。
地球を守る七つの防衛ラインがそれを阻む。
というわけでそれを管理する連合軍に邪魔しないようにお願いしようとそう!お願いしようとユリカが連合軍に通信を繋げ様としているところだ。
それをウィンドウに映る事が無いようにシンジがみている。

(何で振袖なんだろう?)

とシンジが思うようにユリカは振袖を着ている。
そして開くウィンドウ。
黒人の軍人が映っている。
そこで下に沈んでいたユリカが現われる。
もしかして狙ってた?とシンジは考えはぁ、と小さく溜息をつく。
ウィンドウを介してユリカと総司令が話しているがシンジには英語はわからない。
のでここにいても仕方がないとブリッジを後にする。
最後にちらりと振り返るとユリカが不敵な笑みを浮かべて通信を切っている所だった。

 

 

 

 

「アキトさん?います」

いまいちインターホンに慣れていないのかノックをするシンジ。
が返事が無い。
まぁいいかと部屋に入る。
踏み込んでみると馬鹿でかい音が聞こえてくる。
とりあえずと進むとガイとアキトが一緒にゲキガンガーを見ている。

「アキトさん?」

シンジの呼び声にん?と気づくアキト。
ガイは変わらずゲキガンガーを見続けている。

「どうしたのシンジ君?」
「はぁ暇だったもので…」
「そうなんだ…一緒に見る?」

とスクリーンを指差すアキト。
シンジも断る理由が無いなとアキトの横に座り込むのだった。

 

 

 

 

とりあえず一緒に見ていたシンジだが…。

(暑苦しい…)

等と考えていた。
一々叫ぶキャラクター。
そして濃いキャラクター。

(暑苦しい…)

となるわけだ。

話もクライマックス。
キャラクター、海燕ジョーが死ぬ場面で唐突に抱きしめあうガイとアキト。
二人とも涙を流している。

「ア、アキトさん…」

それをシンジは顔を歪ませ見ている。
そんな風にシンジが引いているところに。

「アーキート」

と振袖姿で入ってくる。

「ユリカさん(まだ振袖だったんですか)」
「……シンジ君。アキトとヤマダさん、なんで抱き合ってるの?」

ユリカもまたシンジ同様顔を引き攣らせ二人を見る。

「はぁ…」

と曖昧な返事を返しとくシンジ。

「ねーアキト。アキトってば」

必死に呼びかけるユリカだがアキトは全然聞いていない。

「私の方が絶対良いのに」

自分の振袖姿を見下ろし悲しげに去っていくユリカ。
シンジもこれ以上ここに居たら危険とでも思ったのか静かに部屋を出て行くのであった。

 

 

 

 

「おやシンジ君じゃないか?テンカワは一緒じゃないのかい」
「あっホウメイさん」

結局いくところなど思いつかないシンジは食堂に向った。
今はもう昼食時も過ぎ食堂内に居る人は少ない。
それゆえかホウメイがシンジに気づいたのは。

「アキトさんはヤマダさんとアニメを見ています」
「ふーんそうかい、であんたは一緒に見ないのかい?」
「その…ちょっと暑苦しくて…」

その言葉を聞きどんなアニメを見ているのか理解したホウメイは僅かながらに苦笑する。

「なるほどね」

と言ったときだった。
船体に振動が走った。

「うわっ!」
「おっと」

シンジが突然走った振動にバランスを崩し倒れる。

「大丈夫かい?」
「はい…なにか起きたんでしょうか?」

僅かながらに不安の色を浮かべるシンジ。

「なーに心配ないよ。どうせ防衛ラインに入ったんだろう。揺れはするが落ちはしないだろうさ」

と倒れたシンジに手を貸しながら言うホウメイ。

「防衛ライン?」
「ああ、詳しい事は知らないがねミサイルとか戦闘機とかロボットで構成されるラインだよ」
「ロボットってヤマダさんが喜びそうですね」
「まったくだね」

ふとあの騒がしい男を思い出し互いに笑う二人であった。

 

 

 

 

第三防衛ライン、デルフィニウムが収められているハンガー。
で、そのデルフィニウムの中の一機にジュンは座していた。
様々なケーブルがつなげられたスーツを着込み注意点などを話している男に返事を返しながらジュンはユリカのことを考えていた。
出逢った時の事、そして今に至るまでのこと。

(ユリカ…)

出逢いは大したことのない出逢いだった。
隣に越してきただけ。
親が知り合いだったのだろうか何時の間にか交流があった。
ジュンはよくユリカにつき合わされ門限を破る事になったりしたし怒られることもあった。
余り良い思い出が無いユリカとの日々。
それなのに

(いつからだろう……)

ジュンは考える。
そんな彼女が気になり始めたのはと。
何時の間にか彼女から目を離せなくなっていた。
ユリカが連合の士官学校に入ったからジュンも追うように入り、ユリカの傍に居たいからと必死で勉強しユリカに敵わないでも二位の座についた。
そしてユリカはナデシコの艦長となり、ジュンもそれを追いナデシコに乗る。
そこで見せ付けられたナデシコの力。
この力は地球を守る為に使うべきもの、そう思いジュンはユリカを説得する。
だが、今ジュンはここに居る。そしてユリカはナデシコに居る。
火星…そこを目指しナデシコは行く。
それを止める為にも地球でユリカの居場所を失わせない為にもジュンはここに居る。
それがユリカの望まぬ事と気づかぬままに……。
そんな邂逅を断ち切るように全ての準備が終了し後は飛び出すだけとなる。

(行こう・・・彼女を守る為に!)

そしてジュンはデルフィニウムを駆りナデシコへと向った。

 

 

 

 

ナデシコブリッジ。

「デルフィニウム9機確認」

ルリが平坦な声で告げる。
残る防衛ラインは3。
デルフィニウムとミサイル、最大の難関であるバリア衛星。
そして今はルリが告げたようにデルフィニウムの防衛ラインである第3防衛ライン。
それに対処すべくガイがエステに乗って出て行くところであった。

「ヤマダさん、張り切ってますね」
スクリーンに映し出されるエステを見てシンジが呟く。
戦闘中は本当に居場所が無いのでブリッジで戦闘を観賞しているところだ。

「ちょっと張り切りすぎなような気もしますがねぇ」

とは隣に居るプロスの言葉。
ガイの戦い方をみて少々汗をかいているのが分かる。
デルフィニウムと接触し回避行動を続けるガイ。
ナデシコより重武装タイプが打ち出されそれと空中でドッキングする作戦のようだが。
無論相手がそんなのを見過ごすはずが無い。
結局はミサイルで打ち落とされユリカに突っ込みを入れられる。
そして今度は零距離戦を挑もうとデルフィニウムへと向っていく姿が映し出されるのであった。

「はぁ…」

プロスの溜息がブリッジ内に響く。

「大丈夫ですか?プロスさん」

隣に居るシンジが心配そうな表情で聞く。

「いえいえ心配は無用です。ですがどうも胃がキリキリとしますねぇ。もう少し普通に戦ってもらいたいものです」
「無理だと思います」

プロスの言葉を切り捨てるようにシンジ。
その言葉にもう一つ溜息をつくプロス。
ブリッジの人間全てがプロスに同情の目を向ける。
スクリーンの中ではガイがデルフィニウム部隊に捕まっているのであった。

 

 

 

 

「ユリカ地球に戻るんだ」

ナデシコにジュンが送った通信の一声はそれであった。

「ユリカ!!今ならまだ間に合う!!ナデシコを地球に戻すんだ!!」

繰り返し先程よりも必死の声で言うジュン。
だがその言葉にユリカは。

「…駄目なのジュン君。ここが、ナデシコが私の居場所なの。ミスマル家の長女でもなく、お父様の娘でもない…私が、私らしくいられる場所はこのナデシコにしか無いの。」

様々な想いを巡らせ静かに胸に手を置き宣言するように言う。
決して変えることのない決意を示すように。

「…そんなに。解った、ユリカの決心が変わらないのなら。」

悲壮な決意を目に秘めるジュン。
ユリカはそれに気づかない。

「解ってくれたの、ジュン君!!」
「あの機体をまず破壊する!!」

とガイの機体にミサイルの照準を合わせる。

「ジュン君!」

ユリカの声が響く。

「ヤマダさん絶体絶命ですか?」
「困りましたねぇ、パイロットはもう一人でそれも予備の方ですのに」


などとユリカの後ろで話すシンジとプロス。
一応他の人間の耳には入らないように小声ではあるが。

「あ、けどアキトさんが向っていますよ」
「助けられるといいのですが…お葬式も高いですから」
「そうなんですか?」
「ええ、値切れませんので」


と二人が薄情なことを話している間にアキトに救出されるガイ。
もう、すぐそこにまで第二防衛ラインは迫っている。

「けどジュン君どうしてアキトにあんなにつっかかるのかな?」

と呟くユリカ。
それをシンジとルリを除く全員が驚いた目で見る。

「それは艦長、男の純情ってやつですよ」

プロスがそう言うがユリカそれでも頭を捻る。
そしてシンジはというと。

(男の純情?アオイさんも熱血とかの人なのかな?)

等と見当違いのことを考えていた。
そんなブリッジではあるが戦闘は進みアキトとジュンが一騎討ちをする事になっている。

「やっぱり、アオイさんも熱血なのか」

と聞こえる声よりまた暑苦しい人だったんだと嘆息をつくシンジ。
それを聞いたプロスがシンジに一言。

「シンジさん…貴方はもう少し男女の心の機微について学ばれるべきですねぇ」
「はい?」
「いえいえでなければ将来苦労する事になると思いまして。はい」
「はぁ…」

プロスの言葉に生返事を返すシンジ。
言葉自体に関しては理解できていないようだ。
ちなみにアキトはというとジュンの駆るデルフィニウムに一撃を入れているところだった。
他のデルフィニウムはというとガイを追っている。

(男女の心の機微ねぇ)

とそんなことをシンジが考えている間に。
ジュンがナデシコの前にいる。
その姿は腕を広げ盾とならんとする姿。
第二防衛ラインよりミサイルが雨霰と迫ってくるのがレーダーで分かる。
それを押さえるガイとアキト。
そのまま一言二言言葉を交わしナデシコ内へと戻る。
そしてミサイルが降り注ぐ。
ミサイルはディストーションフィールドに阻まれただ爆発を起こすのみだがその衝撃がナデシコを揺らす。
その衝撃に僅かに揺らされ衝撃を与えるものを見ながらアキトはジュンに話し掛ける。

「確かにさ、戦艦一隻で火星に向かうなんてバカかもしれないけどそれでもみんなナデシコで火星に向おうって頑張っているんだ。
 ユリカもそうだ。みんな自分なりの考えもってるんだ。それでも火星に行くのは難しいかもしれない…だから、ユリカの傍にいてやれる奴が必要だろう?」
「それは…君が…」
「俺とユリカはそんなんじゃないって!…はぁ、だからさユリカのナイト役はまだ空いてるんだそこにジュンが納まればいいだろう」
「僕が?」
「そう。それにさ誰も喜ばないよ、誰かの代わりに助かるなんてみんなそんなの…望まない」
「……」

静かにどこかを見つめるように言うアキトを見るジュン。
その表情はどこか苦しそうだった。

 

 

 

 

というわけでジュンを連れブリッジに戻った三人。

「ありがとう!ジュン君!やっぱりユリカの最高の友達だね!」

とジュンの手を握りユリカが言う。
ジュンの後ろでアキトが、いやそうじゃなくって、と呟いている。
ジュンは顔を悲しみに染めているというか涙を流している。

「あー時に艦長アオイさんのことはどうお想いで?」

余りにアオイが哀れに思ったのかプロスがユリカに聞く。

「ジュン君?ジュン君はユリカにとって大切な…お友達!」

その言葉を聞きジュンは更に涙を流しブリッジでそれを聞いていた人間は、はぁ、と一つ溜息を漏らす。
そこら中からジュンに同情の眼差しが向けられる。
その眼差しがジュンを刃のように貫くのであった。
そんな哀れな境遇のジュンを見ながらシンジが一言。

「?どうしてみんなため息つくんです?」

その言葉に、?、という表情を浮かべる。

「だって友達なんでしょう?」

シンジの一言それはブリッジ中の人間に驚愕をもたらした。
なぜあんなにあからさまなジュンの言葉に気づかないのか?そんな表情だ。
無論ユリカは除く。
鈍感ここに極まりだ。
こうしてアキトより先に鈍感王の称号をナデシコ内の人間に授けられたシンジ。
これに対するルリのコメント。

「バカ」

であった……。

 

 

 

 

ブリッジでシンジが衝撃をもたらした後に騒がしくゲキガンガーのシールを自慢げに取り出しそれを撃墜マークとし自らのエステに貼ろうと言った。
それゆえ今、ガイはハンガーにいる。

「うーむ何処に貼るべきか。やっぱり胸に貼るか?」

と頭を捻らせているところに静かなハンガーに響く靴音。
ん?、とガイがそちらを見やると連絡艇に乗り込んでいる多数の人間がいる。
大して気にはしないガイではあったがそれでも彼は言葉を発した。

「なにしてんのあんたたち?」

それに言葉の返事は無く銃声が返事となった。
腹部に灼熱感を感じ倒れるガイ。
その下にはシールが散らばる。
他の場所とは異なり静かなハンガー。
薄れ行く意識の中ガイは一体何を思うのだろうか。
それは決して余人に分かる事は無く静かに掠れていくのであった……。





次回予告

薄闇の中ガイは静かにその生を終えた

最早返事を返す事のないガイに涙を流すアキト

誰もが悲しみを抑えながらも職務を遂行するがアキトはそれを何も感じてないと思う。

そんなアキトはシンジに縋ろうとするがシンジの答えは冷淡であった

最早縋るべき人がいない中展望室に向うアキト

そこでメグミと出逢い彼らは意気投合する

沈むサツキミドリ。三名の補充パイロット

そしてやるべき事を見つけるアキト

そんな彼らを巡る人間模様

そしてユリカついでにシンジは見る

アキトとメグミの決定的瞬間

信じたくない光景を見てしまったユリカ

彼女の行く末は?


次回!!

「アキトさん、大胆…」 

 

 

 

代理人の感想

 

やっぱり死ぬのか(苦笑)。

まぁ時ナデVer.の描写からしてそうじゃないかとは思っていましたが。

 

ちなみに、時ナデVer.を見る限りプロスさんの忠告はあんまり活かされなかった様ですね(笑)。