「ねえ…アキト…キス…して…」

「アキトがキスしてくれたら…頑張れるから…もっと頑張れるから」

艶やかな唇が誘うように動く。
薄暗い中に響くユリカの声。
それを狼狽しながら聞いているアキト。
潤んだ瞳がアキトを映す。
そして……。

「だあああああ!!」

ガバッ!と布団を跳ね除け起きるアキト。
荒々しい呼吸が奇妙な感情を示す。

「……惜しかった…」

夢の内容を思い出しあと少しだったのにな、何て事を考える。
が考えたところでブンブンと首を振り、違う!そうじゃない!と叫ぶ。

「なにが違うんです?」
「いや、ユリカとキス…」

突然掛けられた言葉につい返事を、自分の考えた事を口にしてしまうアキト。
声を掛けた人物はシンジだ。
シンジはアキトの言葉を聞き口元を手で隠しヨロリ…と身体を傾けさせる。

「そんな…アキトさん…ユリカさんにまでその毒牙を…」

もちろん冗談で言っている。
がそれでもアキトは顔を紅くし反論する。

「ってシンジ君!毒牙ってなんなんだ!」
「え?ですからアキトさんがユリカさんをその毒牙にかけたんですよね?」

シンジも少しばかり顔を赤らめている。
自分で言っておきながら恥ずかしいのだろう。

「……」
「アキトさん?」
「ふっふっふっふ…」

奇妙なというより不気味な笑い声を上げるアキト。

「シンジ君…」
「は…はい…」

アキトから離れようとずりずりと動くシンジ。
顔が引き攣っている。

「そんなことを言っちゃ…駄目だ〜〜!!

離れていくシンジを押さえ込みくすぐるアキト。
シンジはアキトの奇襲に笑い声を上げる。

「あははははははは!!」

アキトの手がそれはもう動いた。

「ア、アキトさん!!くすぐらない…あははははは!!」

どうでもいいことだが男二人でそれも、10台後半の二人が布団の中で暴れまわっていると某漫画家兼パイロットのいいネタにされると思う。
がもちろん二人は気づいていないし、某女史はここには居ない。
いたら怪しい笑みを浮かべながら見守って居てくれた事だろう。
そんな風に二人が怪しい絵図を繰り広げている時に小さくだが確実に響いた音があった。

「ん?この音は…」

とアキトが展開されているウィンドウに目をやると…
変な格好をしたユリカとルリの姿、そしてイネスの姿がある。
しゃがみこんでいるイネスの手元にあるのはゲキガンロボ。
正確には超合金ゲキガンガー3リミテッドモデルだ。

「あぁ〜〜〜!!俺のゲキガンロボ!!」

叫ぶアキト。
そして対照的にシンジ。

「そう言えば無いですねぇ」

ちらりと普段ゲキガンロボが置かれている場所へ目をやり呟くように言う。

「…いや、そんな落ち着いて言われると…。じゃなくって!!俺のゲキガンロボ返せぇ〜〜〜〜〜!!!」

ついついシンジの言葉に突っ込むが慌てて起き上がり部屋の外へと慌しく出て行くアキト。
だから気づかなかった。
ちょうどフクベがのんびりと部屋の前を通り過ぎようとしている事に。

「っだあ!!」
「むぐぅ!!」

タイミングよくぶつかる二人。
勢いがあった分ダメージは大きい。

「あっ!すいません提督…」
「いや…大丈夫だ…」







さすがにフクベを放っておくわけにも行かずアキトは自室にフクベを招いた。
アキトとシンジとフクベ。
その三人が円を作るように座り紅茶を啜っている。
ぶつかった、という引け目があるアキトは少しばかり窺うような目でフクベを見ている。
無言でお茶を啜るシンジ。

「美味いかね?」

唐突にフクベが口を開いた。
その言葉に咄嗟に反応できないアキト。

「え!?は、はあ…」

それでも生返事ではあるがなんとか返事を返す。
シンジはやはり紅茶を啜っている。

「ならばこれはここに置いていこう」

と持ってきていたポットをズズイと押し出す。

「ど、どうも…」

てっきり怒られると思っていたアキトは全然違う言葉に拍子抜けしながらポット受け取る。

バチコン!

そんな音がウィンドウより響いた。
アキトが見てみると床に置かれたゲキガンロボより落ちた腕。
ギミックであろうがアキトはそれを見止めて再び叫んだ。

「俺のゲキガンロボがぁああ!!」

こりもせず走り出ていくアキト。
今度は誰にもぶつかる事無く走り去っていった。
残されたシンジとフクベ。
共に無言だ。
シンジは湯のみが空になったので改めてポットより紅茶を湯飲みに注ぐ。
そしてまた啜る。

「君は…どこの出身なのかね?」

アキトの時同様唐突に口を開くフクベ。
シンジは湯飲みを静かに降ろし一息ついて返事を返す。

「日本です」

簡潔な言葉だ。
だがもし人の心の動きを知る事が出来るものが居ればシンジが怯えているのが解っただろう。
フクベに…というより人に。
アキトであればそんな心の動きは一切無いのだがアキト以外となるとその心は動く。
それはルリやミナト達も同様だ。
誰も決して気づかない程の密やかな心の動きだ。

「そうか…君はアキト君と一緒のコロニーの出身かと思ったが…」

ふとシンジが眉を寄せた。
フクベの漏らした言葉に感じるものがあったのだ。
つまり陰を感じさせる音に。

「提督?」
「ん?なにかね?」

なんでもない表情で聞き返すフクベ。
シンジも続ける事無く、いえ、と言葉を飲み込んだ。
フクベが抱いているものがなんであれ自分が関与すべき事ではないと感じたのだ。
ふとウィンドウに目を向ければアキトの姿がある。
がその姿はすぐさま消えた。
どうにも床を這ってゲキガンロボの腕を捜しているようだ。
その光景を想像し小さく笑みを浮かべるシンジ。
楽しげな笑み。
そんなシンジを見ているフクベ。
そしてまたフクベが口を開いた。

「君は…随分と不思議な表情をするな」
「不思議な…表情ですか?」
「うむ」

仰々しく頷くフクベ。
いまいちシンジには理解できない。

「他愛の無い事でもそれがとても大事な事の様に笑う」
「……」
「君は一体何を見てきたのだろうな…」

シンジはそんなフクベの言葉を聞き目をそっと伏せた。

「何も見てきてませんよ」

虚ろな声でそう返答する。

「何も見てきてないから…凄く大事に思うんです。それをあの人は教えてくれた」

言葉でなく、日常を以って。

「そうか…」

シンジが思い出すような目をするとフクベもまた思い出すような目をした。
互いの湯飲みからはもう暖かさを感じさせる湯気は出ていない。

「少し…私の話を聞いてくれるかね?」
「…はい」

ポツリポツリとフクベが語り始める。
遠い目をしながら、ここには無いものを思い出しながら。

「私はナデシコに乗る前、とある防衛戦に従事した事があった」

暗いなにかを潜ませた声で言うフクベ。

「だがそれは防衛戦などと呼べるほどのモノではなかった…敵には我々の攻撃は一切通じず、敵は我々を確実に撃破する…そんな戦いだ」

そっと湯飲みを置きフクベは独白する。

「そんな中、敵が動き出したのだ。私はそれを止めようと、乗っていた戦艦をぶつけた」

空になった手が強く握られるのが解る。
シンジはそれを見ながら静かに言葉を聞いている。

「全く無意味なものだった…軌道を外した”それ”はとあるコロニーへと落ち幾千もの人たちを消し去ってしまった」

とつとつと語るその姿に力は無い。
ただ後悔している力無い姿が印象的だ。

「自らの命令のせいで消し去ってしまった者達のことを考えると今でも悔恨の念に囚われる。
 だが地球に戻った後が私のとっては一番の地獄だった…。
 軍は無意味な殺戮を行った私を自分達が出た事が無意味でなかったと言う為に私を英雄に仕立て上げたのだ。
 誰もが私を褒め称えた。何も知らずに私を褒め称えた。
 私はそれを聞くたびに苦しみを憶えた。
 それからすぐの事だよ…私が軍を退役したのは」

小さく自嘲の笑みを浮かべ言う。

「まあ、なんの因果かこうして戦艦に乗り提督などと言う役職につき火星へと向っている。……皮肉なものだ」

それは本当は誰に聞いてもらいたかったものだろうか。
自嘲の笑みを浮かべ淡々と話すその姿をシンジは変わらず見ている。

「シンジ君…君の過去に何があったのかは知らん。だが決して私のようにはなってくれるな。これはこの老人の頼みだ」

フクベはそう言い立ち上がり部屋を出て行く。
残された物は湯飲みとポット。
残された者はシンジ。
シンジは姿勢を、正座を崩す事無く静かに手元を見つめている。
僅かに残る紅茶が静かに揺れていた…。







地球で消えたクロッカスの反応が見つかり皆でブリッジに集まっていた。
照明が落とされ暗くなったブリッジでそれぞれの意見を言い合う。
そんな時だった。
アキトがブリッジへと入ってきたのは。

「あ、あの…俺訊きたいことあるんすけど…」
「なにをやっている。今ごろのこのこと」

本来パイロットであれば既にこの場に居なければならないと言うのに遅れてきたアキトに叱責を浴びせるゴート。
がアキトはそれを気にも留めずフクベの前に立つ。

「提督が…第一次火星会戦で艦隊を指揮していたって本当ですか」

張り詰めた表情のアキト。
フクベは何も言わない。
静かにその場に立っているだけだ。
答えないフクベ。
そのまま口を閉ざしているアキト。
代わりにユリカが口を開いた。
まるで爆弾を放り込むように。

「提督が火星で指揮していたなんて誰でも知っているけど?」

それがどうしたのアキト?などといった表情をしているユリカ。
アキトは呟く様に言った。

「そうさ…知っていたさ」

心に過ぎるのは思い出と呼ばれるもの。
それはとても辛いもの。
空から落ちてくるチューリップ。
避難していた場所で出会った少女。
襲い来る無人兵器。
それは機械ゆえ無情で容赦なく。
人々を殺戮して回った。
少女の姿が再びよぎる。
助けられなかった、という思いが強くアキトを縛り付けている。
だがそれも…。

「…んたが…あんたが…!!」

目尻に浮かぶ涙。

「アンタがぁああああ!!」

フクベに掴みかかるアキト。
一切抵抗する事無くなすがままにアキトに掴まれているフクベ。
周りに居る者達がアキトを押さえつける。
互いに知りうる事のできないが故に、ただ擦れ違っていくのだった。







ブリッジにあるシートの一つに縛り付けられているアキト。
さらには猿轡までつけられ出す声は全て理解不能な音でしかない。
そんなアキトをからかう様にヒカルが色々としているが誰も気にしていない。

「やるじゃないかあいつ。見直したぜ」
「死に急ぐタイプよ」

イズミとリョウコが面白そうに言っている。
ジュンなんかは憤りユリカに切々とアキトの処遇に関して話している。
尤もユリカはいつもの如く変な考えに移行しているが。

「まあそれはおいといて、とりあえずこちらをご覧下さい」

映し出される映像
火星の映像だ。
ナデシコのマーカーと目的の場所。
ネルガルの研究所がある北極冠へと向おうと話が決まる。
と、その前にエステバリスで先行偵察だが。







リョウコ、イズミ、ヒカルの三機のエステバリスが偵察より戻りアキト達がクロッカスへと向った際に、自室でシンジはとあるものを見つけていた。
それは空となったポットの中にあったもの。
コーティングされていたのだろう濡れてはいるが文字が滲んだりしていることはない。
それはアキトへと宛てられた手紙。

「これは…」

思わぬものを見つけたシンジ。
さすがに中を見るようなことはしないがそれでも疑問を憶える。
なぜこんな風にしたのかと。
ともすれば見つけることの出来ないものだっただろうに。
ただ一つ分かる事はこれをアキトに届けなければいけないという事。
なぜこの様にしたのかは解らないがそれでもこれはきっと大切なものだと分かる。
だからシンジは手紙を持ち部屋を出る。
動き出したクロッカスが砲塔をナデシコに向けた時と同時に。







クロッカスより通信が入る。
ナデシコを破壊できると告げる。
表示された映像にはチューリップに入れと告げる。
なにを思うてか。
フクベは薄暗いブリッジで一人座りながら言葉を綴る。
ブリッジではそのチューリップに入れという言葉でない言葉に騒ぎ出す。

『自分の悪行を隠す為さ!!』

アキトの声が響く。
怒りに顔を歪め叫ぶ。
ブリッジの中、決定権をもつユリカが選んだのはチューリップへと入る事。
プロスの反対する声が響く。
だがユリカはその声に反論する。
エステを回収しチューリップへと入る事を選ぶ。
その光景をクロッカスより見ているフクベ。

「それでいい、艦長」

安堵した表情で呟くフクベ。
なにを思うてか。
クロッカスのブリッジにナデシコのブリッジクルーの声が響く。
ナデシコの船体はチューリップに飲み込まれるように消えていく。

『なんでそんないい風に考えるんだよ!』

一際大きく響くアキトの声。
フクベはそんなアキトの声を聞きながら苦笑する。
アキトに宛てた手紙、アキトがそれを読むかは解らない。
それでも宛てた手紙。

『アキトさん!!』

クロッカスのブリッジに新たに声が響いた。
シンジだ。
息を切らせブリッジに駆け込んできたようだ。
その手に持っているのはアキトに宛てられた手紙。

『なん…なんです…』

向こう側ではウィンドウに映るのはフクベだ。
大きくブリッジのウィンドウに映るフクベを見ているシンジ。
フクベはシンジがその手にアキトに宛てた手紙を持っている事に気づく。
実際シンジもアキトにその手紙を渡す事が目的だっただろうにきつい眼差しでフクベを睨む。

『なにやってるんですか…貴方は!!』

アキトを除いては初めてみるシンジの激昂した姿。
フクベに思い思いに声を掛けていた皆であったが今はそれもやんでいる。

『馬鹿げていますよ!そんなの…!!』

そんな誰かを助ける為の犠牲など。
激昂するシンジにフクベは一際優しく語りかけた。
諭すように。

「そうだな。確かに馬鹿げている。私の行動など下らん自己満足しか過ぎんだろう」
『だったら!』
「それでもだ。この下らない想いを叶える為に私は火星まで来た」

かつて自分の行動によって多くの人々が死んだこの星。

「どれほど下らなくとも、もう戻る事は出来ない」

幾隻もの戦艦がクロッカスを囲む。
先端に宿る光はグラビティブラストの光だろう。
だが戻れないとは死ぬ事ではない。
もっと深く強い何か。
伝えたい事はたくさんあった。
提督として。
惨事を引き起こしたものとして。
老人として。
だが大丈夫だろう。
フクベはそう一人想う。

『どうして!どうしてそんな風に死のうとするんです!勝手すぎるよそんなの!』

涙を流すシンジの姿。

『死ぬんなら誰にも知られないように死ねば良いじゃないですか!どうしてそんな風に…残された人が傷つくような死に方をするんです…』
「本当はそうするつもりだった…だが状況はそれを許してくれそうにないのでな。仕方が無い事だ」
『仕方が無いなんていわないで下さい!”仕方が無い”なんてそんなの嘘だ!そうやって自分勝手にやっているだけだ!』
『シンジ君…』

激昂しているシンジ。
その姿を見ているアキト。

「ならば君はこうはならないでくれ。こんな自分に言い訳をして死んでいくような人間には、な」

君ならこんな人間にはならないだろう?
フクベはそう胸中で呟く。
どれほどのものか計り知る事はできないが辛さを知っているのだから。
と胸中で呟く。

「シンジ君。君とはもう少し話をしてみたかったがもう終わりだ。そしてクルーの諸君、君達が乗るその艦は君達の艦だ。だから…」

フクベの言葉は続かなかった。
ナデシコ側においては映像が消えた。
起こる爆発。
ゴートが叫ぶ。
ミナトがコンソールを操作するがそれは無意味な行為とされる。
フクベが伝えたかった事は伝わったのだろうか。
フィールドの制御を最優先としたために暗くなる艦内。
シンジの小さな呟きを除き誰も声を発することが無い。
暗く暗く、ナデシコはどことも知れない場所を進んでいった。

「馬鹿げてるよ…こんなの…」





更新が散々遅れた言い訳のコーナー



……ア…アルクェイド〜〜〜〜〜〜!!

ぐう…まさかこんな平凡平穏な我が人生にこんな罠が仕掛けられているとは…。
俺なんかマジで引っかかっちゃうじゃないか。
くぅ〜〜〜。いかん!平常心だ!平常心!!
……ね、ねこ…。

……。(鼻血)

アルクェイド…激萌え〜〜。
とりあえずあれです。月姫やった事の無い人はやる事をお勧めします。
ある人はもう一度プレイです。
では最後にもう一度だけ叫ばせていただきます。



レンた〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!
ニーソックスばんざ〜〜〜〜い!!


……な感じで月姫&歌月十夜をプレイしていたためです。
ごめんね?

……いえ、まぢですいません。

 

 

代理人の感想

・・・・・・・・・まぁアルクェイドはよしとしよう。

中身はともかく大人の女性だし。

だがレンにどうこうするのは人としてマズくないでせうか(爆)?