「けど、反対に危なくないの?」

暗闇に閉ざされ、僅か数センチ先も窺えない部屋の中に響いた声。

「大丈夫です。これが成功すれば彼のプライベート時間は減ります。今、注意すべき事は彼が自由に動けるという点です」
「う〜ん、そうだね。あの子が自由に動けるからアキトにいつでも会いにいけるんだもね」
「そうです。なら自由に動けないようにしてしまえばいいんです」

互いの顔を見ることすら出来ない中で、口を歪め、笑みを形作る。

「幸い、どこに彼を置くかは彼自身が示してくれました。…まあ同じ場所と言うのがアレですけど」
「けどホウメイさんだから、ビシバシ!やってくれるんじゃないの?」
「でなければ置きませんよ」

この暗闇に相応しくなにやら姦計を弄そうとしているようだ。

「それじゃあ、決まりだね」
「ええ。これで上手く引き離せれば…」

続きは言葉にしない。
ただ胸中で呟くのみ。

(後は貴方が邪魔者ということになります…)

部屋に灯りが戻る。
何も無い部屋、そこに立ち会話するのは…。
ユリカとメグミであった…。











「ホウメイさ〜ん」

客も引け、閑散とした食堂に響いたお気楽な声。

「おや?どうしたんだい艦長」

後の仕込を行っていた手を休め、ユリカに向き直るホウメイ。
仕込みといってもまだまだ時間があるので少しばかり止めても大丈夫だからだ。

「え〜とですね、少し前にシンジ君がここでお料理作ったって聞いたんですけど…」
「おやおや、耳が早いねえ」
「で、どうでした?」

とは無論シンジの腕だ。

「うーんそうだねえ、まだ未熟な部分が有るけどあれなら良い腕を持ちそうだねえ」

シンジの料理姿を思い出しながら言うホウメイ。
その目がユリカより外れていた為、気づかなかったがその時ユリカの目が怪しい光を放った。

「それなら食堂のメンバーに入れても大丈夫ですか?」
「そう、だね。見習いってレベルだけど磨けば光る玉だね。テンカワみたいにさ」
「そうですか!わっかりました〜!!」

それだけ聞けば後は充分と、走り去っていくユリカ。
その後ろ姿を見ながらホウメイは苦笑を浮かべながら言った。

「やれやれ、今度はなにを考えてんだか…」





「プロスさ〜ん」

自室でさまざまな書類を整理しているプロスに声を掛けたのはメグミ。

「おや?どうしましたかレイナードさん」
「聞きました?食堂の事?」
「いえ私はなにも存じませんが」

首を捻るプロスを見ながらメグミはここからが勝負だと気を引き締める。

「少し前にシンジ君がお料理を作ったらしいんですよ」
「ほう。シンジさんが」
「ええ、それもホウメイさんが誉めるくらいに上手で…あ〜あ、一度食べてみたかったなあ」
「ホウメイさんが誉めるほどの腕ですか…」
「そうですよ!プロスさんも食べてみたいと思いません?」
「そうですねえ、ホウメイさんが誉めるほどの料理でしたら是非、召し上がってみたいものです」
「ですよねえ」

とメグミが返した時、メグミのコミュニケが鳴った。

「あっ!いけないもうこんな時間。それじゃあプロスさんまた後で」
「ええ、それでは」

と部屋を出て行くメグミ。
メグミの姿が消えると同時に考え込むプロス。

「ふむ、シンジさんがですか。…食堂も確かに人数不足というのはありますし…」

一人呟き、立ち上がるプロス。
サッ、と襟元を直し眼鏡を光らせる。

「これは一度交渉してみますかな」





「…というわけでして、如何でしょう?」
「あたしのほうは構わないよ」

と書類を後回しにし、ホウメイの元を訪れたプロス。
いきさつをホウメイに話し、ホウメイが諾したところだ。

「実際、ここも結構忙しいからね。もう一人いれば楽になるだろうし」
「なるほどなるほど」
「シンジ君ぐらいの腕なら即戦力なりそうだからね」

少し教えればという意味だ。

「ならば後はシンジさんが受けるかですな」
「そういうことだね」

ふと、そこで口が止まり、沈黙が支配する。
互いに互いを見やり、苦笑を浮かべた。

「艦長と、メグミさんの思惑通りといったところでしょうか」
「そうさね。やれやれ、あの二人も大変だ」

ホウメイの指す二人が一体どちらの事やら。
それはプロスには解るようで苦笑を浮かべたまま立ち上がり、その場を辞した。





ムネタケより告げられた、救出作戦もシンジには関係ない。
ので、することも無いので部屋で寝ていたシンジ。
プロスがコミュニケで呼び出すまでは、だ。

「つまり、働かざるもの食うべからず。シンジさんも働いてみては如何でしょうか?」
「はあ」

プロスの言葉にいまだ寝ぼけているのか生返事を返すシンジ。

「食堂の方――ホウメイさんの方では歓迎するとの言葉を頂いています」
「けど、僕が入って役に立つんですか?」

相変わらず自分を過小評価するシンジ。
プロスもそれは解っているようで、

「ホウメイさんの言葉では磨けば光る玉、との事です。あの方は料理に関して厳しい方ですが見る目もまた素晴らしいものがあります」
「……」
「そんな方がシンジさんのことを、そう評するのですからこれは間違いないと思います」
「そう、ですか」
「あ!もちろんお給料はお出ししますよ」

いつも持ち歩いている電卓に素早く数字を羅列するプロス。
給料の方は、まあそれなりといったところだろうか。
さすがにパイロットとの兼業をしているアキトには及びはしないが。

「どうでしょうか?食堂の方にはテンカワさんも勤めていることですし安心できるかと…」
「わかりました。僕でよければ」
「そうですか。いや、ありがとうございます」

シンジの手を取り握手をするプロス。
こうしてシンジは食堂勤務という仕事が決まったのであった。
これが彼女達にとってプラスとなるかマイナスとなるか。
とりあえず、作戦は成功と言ったところであろう。











「あ、シンジ君!暇かい?」

他のパイロット達と、ぼう、としていたアキトがシンジを見かけ言った。
その様子に寝転がったりしていたヒカル等は一斉に身体を下げ、怪しい笑みを浮かべる。
宇宙での戦闘以来、妙な風聞が流れているようだ。
それが事実なのかどうかは別としてシンジ気づいているのやらいないのやら。

「いえ、これから食堂に行きますので…」
「そうなんだ」

少しばかり残念そうな表情をしているアキトに”すいません”と言って去っていくシンジ。
そんなアキトの後ろでチッ!と舌打ちをしている皆。
と、折角のイベントを期待していたのに、なにも無かった落胆する皆を救う為か…、

「テンカワ君、ちょっと付き合ってくれないかい?」

とアカツキがアキトに声を掛けた。
途端、ザザザザザと素晴らしく感動しそうな程の素早さで下がる皆。
そのにやけた表情が全てを物語る。
アキトとアカツキの耳に届く言葉の断片。
禁断の…、三角関係…、などなど。
どれをとっても真っ当なものには聞こえない。

「…違うからね、君達」

冷や汗を流しながらアカツキが抗弁する。
無論そんなことなど聞く連中ではない。
怪しげに二人を見ながらぼそぼそと喋っている。

「だ〜か〜ら〜!!違うって言ってるだろうがあ!!」

と叫んだのはアキト。
少し前の発言が未だ尾を引いている。
全く聞く耳をもたない連中にいい加減暴れてやろうかと考えるアキト。
そんな危険な思考を知ってか知らずかアカツキが遮るように口を開いた。

「ちょっと、君と勝負してみたくてね」

唐突な発言に危険な思考が霧散する。
少し呆けた表情でアキトが訊きかえした。

「は?勝…負?」
「そっ」











「この…!!」

月面をモデルとしているのか仮想のものであれ生命の息吹を感じる事が出来ない中に響いたアキトの声。
アカツキと戦闘シミュレーションを行っている中でアキトはただ翻弄されていた。
苦し紛れに放つ一撃は空を虚しく抜けていき、攻撃を回避しようとすれば動きを読まれ一撃を喰らう。

「どうしたんだい?テンカワ君。強くなると言っていたのにその程度かい?」
「う、うるせえ!!」

アカツキの言葉に恥ずかしさと怒りを覚え、怒声を発す。
あの時、確かに強くなると彼は言った。
だが、『強くなる』と言っても一朝一夕で強くなれるものでもない。
コックの仕事の合間にシミュレーションを利用してはいても、だ。

「やれやれ…艦長も君のどこがいいのやら…」
「なんでユリカが出て来るんだよ!!」

そんなアキトの言葉を聞き、シミュレーターの中で皮肉気な笑みを浮かべるアカツキ。
あれだけ露骨に好意を向けられているのに、それに本気で気づいていない彼に向けてだ。

「じゃあ僕が貰っちゃうよ?艦長」

本気とも、冗談とも取れる口調言うアカツキ。
からかわれている、と思ったアキト。
が、なぜか思わず動揺し、

「なっ!?」

と短く言葉を吐いた。
途端、モニターが暗くなり、嫌な音と共に『GAME OVER』と映し出される。

「な、なんだ?」

あっという間の出来事に訳がわからなくなるアキト。
改めてモニターにその瞬間の映像が映し出された。
動揺し、その動きが止まったアキト機に肉薄したアカツキ機が持っていたライフルをまるで鈍器であるかのように使用しエステの頭を潰す。
それを見たアキトは、

「きたねえぞ!!ライフルを武器に使うか!?」
「汚いもなにもあるものかい?戦場では誰もそんなこと気にしないよ」

と至極正論を返されアキトの反論を封じる。
まるで、アキトを挑発するかのようににやけた笑みを浮かべているアカツキ。
唸るように低い声を出し、アキトは叫んだ。

「もういっぺん勝負だ!!」
「やれやれ…」

そして勢いよくシミュレーターを閉じる。
そんな熱くなっているアキトとは対照的に、嘆息し再びシミュレーターを起動させるアカツキ。
再び、アキトの声が響き渡る。
二人が改めて、シミュレーターの中に入り戦闘を行っているのを見ている複数の人影。
見つからないようにこっそりと見ていたようだが二人がシミュレーターの中に入ったのを確認し、姿を表した様だ。

「な〜んだ。本当に訓練してるや」

といったのはヒカルだ。
頭の後ろで手を組み、つまらなそうにぼやいた。

「ま、こんなこったろうとは思ったけどよ」

そんなヒカルの後ろから同じように頭の後ろで手を組んだウリバタケが姿を表した。
ヒカルと同じようにその表情はどこかつまらなそうだ。
どうやらアカツキが本当に戦闘シミュレーションのみを行うのか見にきたようだ。
結果は事実、シミュレーションのみを行っている。
…そんなに不毛な関係を見たいのだろうか?











「でぇりゃあああ!!」

と響くアキトの声。
相手はアカツキではない。
オモイカネが相手だ。
結局、アカツキ相手に惨敗を記して未だシミュレーションで修行中だ。
というわけなのだが、オモイカネ――コンピューターを相手にも中々勝てないようだ。
何度目かの『GAME OVER』が表示される。

「……ふぅ」

シミュレーターに腰を掛け息を零すアキト。
疲れた表情が鮮やかだ。

「ア・キ・トさん」

疲れたアキトに掛けられる声。
え?とアキトが顔を上げると、

「終わりました?」

と笑顔でメグミが問い掛ける。

「ん、ああ、少し休もうかとは思ってるけど…」
「なら少し付き合ってください」

嬉しそうな表情でメグミが言う。
その笑顔に少しばかり怖いものを感じるアキト。
例えて言うならば、ライオンの目の前に立った獲物、そんな感覚だ。

「え、と。シンジ君の所に行こうかなって思ってるんだけど…」
「シンジ君でしたらホウメイさんと一緒にお料理をつくってましたよ」
「あ、そうなんだ…。じゃあ…」
とわざわざ虎口に入り込むアキトであった。





「アキトさん、なにしてるのかなあ?」
「ほら!シンジ君!手を動かす!!」
「あ、はい!」





「ほら、ここ」

とメグミがアキトを連れて来たのは薄暗い部屋。
何も置かれているものが無い部屋の天井から吊るされているヘルメット。

「さっ、アキトさん」

とヘルメットを手に取りアキトに渡すメグミ。
受け取ったそれを被るアキト。
同じようにメグミも。
ヘルメットを被ったアキトが、床より競り上がってきたコンソールの『この部屋について』とい部分を押す。
現われる、イネスの姿。
適当に喋らせた後、問答無用で消すアキト。
メグミもそれを気にも留めない。

「じゃあ、レッツゴ〜!」





光景が変わった。
夕暮れの教室。
赤い夕日が鮮やかに教室の中を染め上げる。
静寂という言葉が相応しい、赤い教室。
その中に、アキトとメグミ。
アキトは学ラン、メグミがセーラー服。

「アキト先輩」

とスカートを翻しアキトに向き直るメグミ。
アキトはその姿を見ながらまるで当然の様に混乱していた。

「わぁ短いんだ。この時代のスカート」

とスカートを摘みながらメグミ。

「どうしたんです?もしかして初めてですか?」

とアキトに近づきながら訊くメグミ。
もちろん確信犯だ。
近づいてきたメグミ、すぐ目の前だ。
見上げるメグミ、悲しいかな、その胸元に目が行くアキト。
制服に押し上げられているためか実際より『豊か』に見えるメグミの胸。
狼狽しながら身体ごと後ろを向くアキト。

「どうしたんですか?」

と抱きつくメグミ。
嬉しいやらなにやら、複雑な表情をしているアキト。
アキト位置からメグミの表情は見えない。
それをメグミも分かっているのだろう。
艶美な笑みを浮かべ、胸中で呟やく。

(んふふ。シンジ君を排除しておいて正解ね)

姦計を用いてシンジを食堂へと送ったユリカとメグミ(発案者はメグミ)
その成果が十二分に現われている事を確信したのだ。

(ふふふ…。艦長、貴方の出番は無いのよ)











「メグミさんはドコへいったんでしょうか?」

ルリが本来メグミのいる場所へと目を送りながら誰ともなしに訊く。
ちなみにその場所には『お休み中』と札の着いたぬいぐるみが置かれている。
そんなことで休めるのかと突っ込みたくなるのだが、誰も突っ込むのはいない。

「あらあ、ルリルリ気になるの?」
「ええ、まあ」

途端、にんまりと現われるヒカルとイズミ。
本当、時々謎を振りまく連中だ。
とブリッジ下方で騒いでいる時、ユリカはというと、

(メグミさんに先を越されたあ!!)

とギリギリと拳を軋らせ、身体を震わせている。
共に姦計を用いたのはいいが、メグミに先を越された事を怒っているのだ。

(くっ!シンジ君に気を取られすぎた!!)

思わず、コンソールに思いっきり拳を打ちつけたくなるユリカ。

「…ちょう!艦長!!」
「は、はい!?」

怒り心頭のユリカに声を掛けたのはエリナ。
ユリカの内心を知らないが故の行動だ。

「なにをぼうっとしてるの!?そんな事だから彼に逃げられるのよ!!」

と禁句に触れた。
禁句に触れられたユリカは、

「そんなことありません!!」

と叫んだ。

「アキトはメグミさんの策略に引っかかっただけです!!」
「さ、策略?」

ぐぬぬ、と拳を握り締め力説するユリカ。
誰もユリカに声を掛けられる者はいない。

「アキト!!待ってて!!私がメグミさんの魔の手から貴方を救うわ!!」

ユリカとメグミ、ピンチなのは一体どちらだろうか?











「ふう…」

と溜息を零したのはシンジ。
ホウメイとの修行も一段落し休んでいるところだ。

「どうしたんだい?溜息なんかして」

椅子に座り休んでいるシンジの目の前に座るホウメイ。
コン、とシンジと自分の前にコーヒーの入ったカップを置く。
芳醇な香りがシンジの鼻に香る。
手に取り、一啜りするシンジ。

「いえ、アキトさん。どうしてるかなあと思って…」
「テンカワねぇ」

顎に手をやり考え込むホウメイ。
ただし、その表情は笑っている。
ユリカとメグミの暗躍を知っているからだ。

「まっ、心配ないだろ…多分ね」
「はあ」

とシンジは幾分疑わしげに呟くのであった。





ブリッジに残るのはユリカ一人。
他のクルー、ルリすらも昼食を食べに行き、ブリッジには居ない。

「ううう!策士メグミ!必ず貴方の手から私のアキトを取り戻すわ!!」

ドン!と勢い良く振り下ろした拳。
……自動迎撃システム始動。





放たれたグラビティ・ブラストによって発見されてしまったナデシコ。
ディストーション・フィールドを張りとことん逃げまくった後に、氷山の下へと落ち着いた。

「…一転して大変な状況になったみたいですねえ」

ほのぼのとシンジが言った。
警戒態勢の為、食堂を利用するものはいない。
それ故、食堂のメンバー、――アキトを除き――は暇を持て余している。

「そうだね」

とシンジの言葉に相槌を打ったのは、

「サユリさん、どうしたんです?」
「う〜ん、暇だからね」

可愛らしく首を小さく傾げて言う。
そうですか、と短く言葉を返すシンジ。

「あのさ…シンジ君…」
「なんですか?」

もじもじとしながら口を閉ざすサユリ。
若干顔が赤い。

「アキトさん…についてなんだけど…」
「はあ」

一体何を?と思うシンジ。
厨房の方に目を向ければにやにやとしている他の四人と苦笑しているホウメイ。

「アキトさんって…誰か…好きな人っている?」

例えば艦長とか、とは言葉にしない。
が口調がその言葉にしない言葉を知らしめている。

「え、と…分からないです」

とシンジは言った。
別に意地悪をしている訳ではない。
本当に、解らないのだ。
が、サユリはシンジが教えようとしないと思ったようで、

「えええ〜!?そんな事言わないで〜」
「あの、本当に分からないんですけど…」

お願い、と言ってくるサユリに心底困った表情で応えるシンジ。
助けを求め、厨房の方へと目を向けるが皆笑いながら目を逸らす。

「じゃあ、アキトさんについて教えて」

と、好きな人、については諦めアキト自身のことを聞こうとするサユリ。
ふとシンジは天を仰ぎ、

「助けて…アキトさん…」

と言うのであった。











シンジがアキトに助けを求めている頃、アキトはというと…。

「あのさ、ユリカ…」

ヴァーチャル・ルームの中でユリカといた。
先ほどと同じように鮮やかな赤に染まっている『教室』。
躊躇いがちに掛けられるアキトの声が『赤』に埋もれていく。
後ろを振り向いているユリカ。
アキトの声に振り向くと。
涙が綺羅々々と線を描き落ちる。
あっ…。
と声を漏らすアキト。
幻の現実の中であれ、ユリカの涙を見るのはこれで二度目。
火星での姿が重なる。

「ユリカ…」

静かなアキトの声。
静か、故かそれは響く。
響き浸透する声はユリカに更に涙を流させた。
頬を伝い、落ちる涙。
アキトが顔を引き締め一歩、踏み出す。

「ユリカ…忘れたのか?」
「え?」

すぐ近くにあるアキトの顔に思わず顔を赤らめるユリカ。
それには構わず凛々しい表情でアキトは続ける。

「シンジ君から聞いたよ…。俺が吹っ飛ばされた時の事…」

新たな騒動の元を振りまいた時の事だ。

「もっと…信じろよ。自分を…。あの時、誰も諦めなかったんだろう?」
「でも…」
「あの時とは状況は違うけど…それでも諦めたら…信じられなくなったら…それで終わりだろう?」
「……アキト…」

微笑みながら言うアキト。
あの時、気づいた自分の事。
あの時、教えられた『信じる』と言う事。
それは…忘れてはいけない事。

「俺がなにか言えることなんてないかも知れないけど…それでも…!!」

肩を掴むアキトの手に、自分の手を重ねるユリカ。
幻であるはずの手は不思議と暖かい。

「うん!ありがとう…アキト…」

満面に笑みを浮かべるユリカ。
花が咲き誇るようなその笑み。
花信である。
それぞれを見つめ、いい雰囲気という所で『教室』は消えた。
元に、無機質な室内に『戻った』二人。
表れるウィンドウを見て、それぞれの仕事に戻るのであった。











「邪魔だ!!」

作戦時間が訪れ、発進したナデシコとエステバリス。
アキトが親善大使を救出すべく動き、他のパイロットはそのフォローだ。
エステを駆りブリザードが吹き荒れる中を飛ばすアキト。
大半の無人兵器はナデシコの方へと向かい、他のパイロット達落とされているが…、

「くそっ!こんな所でエネルギーを消費するわけに行かないのに!」

数は多くないが無人兵器に追撃されている。
ブリザードが視界を奪う為にライフルでは命中しない。

「こうなったら!!」

エネルギーパックを取り出し放るアキト。
放られたパックが頂点へと達し、その動きが停止した瞬間、それを撃ち抜く。
途端、眩く辺りが照らされる。
そして無人兵器の陰影が鮮やかに表れた。

「でぇりゃああああ!!」

可能な限りライフルで撃ち抜き破壊する。
アカツキに惨敗を記したとは言え訓練の効果は確実に有る。

「これで…ラストォ!!ゲキガン…フレアァアア!!」

再び鮮やかに爆光が煌いた。











ブリッジより爆発を見ているクルー。
ブリザードにより通信が使えない…それが今の爆発がどれの、誰のものなのかわからなくする。

「アキト…」

ユリカが呟いた。

「帰ってきますよあの人は」

ルリが言った。
暗い雰囲気に包まれるブリッジ。
沈黙が支配する。

「大丈夫!アキトは帰ってくるもん!!」

明るい笑顔でユリカはそう言った。
空元気の類ではなく、本当にアキトが帰ってくると信じているその表情。

「よくそんな自信が湧いて来るわね」
「だって…信じてますから!」

呆れた表情のエリナにユリカは変わらない笑顔で言った。

「教えられましたから。アキトに…シンジ君に…。信じる事、諦めない事を」

ブリッジに響いたユリカの言葉。
いやブリッジのみではない、ナデシコへと戻ったパイロットのコミュニケを通して多くの人が聞いた。
ウリバタケがエステに寄りかかり小さく笑みを浮かべた。
アカツキが苦笑した。
リョウコが笑いを零す。
イズミが駄洒落を言う、このいつも騒がしい戦艦に笑みを向けながら。
ヒカルが眼鏡を拭きながら笑みを零す。
ホウメイがシンジの肩に手を置く。
シンジが優しい笑みを浮かべる。
そして…

『お〜いユリカ〜!』

響いたアキトの声。

「アキト!」
急いで外が見える場所へと駆け寄るユリカ。

「どこ?どこにいるのアキト!?」

笑顔で訊くユリカに苦笑を禁じえないクルー達。
ブリザードも晴れ、眩しく陽光がナデシコを照らす。
この後は何時もの展開。
皆が知った事を胸に秘め、ナデシコは動き出した。

「やっぱりナデシコはこうでなくっちゃ」

シンジの言葉を正しく証明して。
動き出した。





「くう!今日のところは譲ってあげますよ艦長!!だけどまだ勝負は始まったばかりです!!」

策士メグミの声がオチとなった。




俺の名を言ってみろ――のコーナー














台蒲鉾ってなによ!?(泣)

 

 

 

 

管理人の感想

 

なんかある人とある人が手を結んでも・・・

最終的には破綻する事は確実なんですよね(苦笑)

ま、今まで無職でタダ飯食いだったシンジにも、お仕事ができましたしね。

しかし、かなりアクティブだな・・・このユリカ(汗)

 

 

>台蒲鉾ってなによ!?(泣)

 

・・・観念しろ。