エステより降りたアキトとシンジ。
そこには

「アキトォ」

とユリカが待ち構えていた。
ユリカの姿を確認したアキトは身体を震わせた。

「アキトさん」

シンジがそんなアキトに声を掛ける。

「大丈夫だ」

震える身体を無理矢理止めアキトはエステを降りる。

「アキト大丈夫だった?」

心配した目を向けるユリカ。
その目を極力見ないようにアキトは言葉を綴る。

「そんなわけ無いだろう。初めての戦闘だったんだぞ」

苦笑いを浮かべアキトは言う。

「悪いなユリカ。少し休ませてもらうぞ」

そしてユリカの返事を待つことなくアキトは歩き始めた。
そしてシンジは静かにその後を着いて行く。

「アキト…」

ユリカの声は決して届くことなくただ消えていくのであった……。

 

 

 

 

通路を歩くアキトとシンジ。
誰の姿も無くなったところでアキトはトンッと壁に背中をついた。
その手は苦しそうに胸を掴んでいる。

「シンジ…無様だな俺は…」

自嘲の笑みを浮かべ言うアキト。

「ユリカに会うたびに心が壊れそうになる。捨て去ったのは俺だと言うのに…本当に無様だ…」

だがシンジは返事を返すことなく静かに手を差し出す。
その手を見るアキト。続いてシンジの顔を見る。

「アキトさんが苦しむのは分かります…それでも明かしたくないのでしょう?ならどれほど苦しんでもそれを貫くしかありません」

シンジの言葉を聞きアキトは緩やかにその手を取る。

「いきましょう。時が全てを決める前に決めなくてはならないのだから」
「すまない…」

静かに立ち上がるアキト。
先程までの悲壮な雰囲気は微塵も無い。
アキトとシンジが部屋に戻ったところでウィンドウが開いた。

「アキトさんシンジさん、お疲れ様です」

ルリだ。

「やめてくれよルリちゃん。あんなの俺にとっちゃ戦闘にも入らないんだから」
「そう…でしたね」

アキトの言葉に柳眉を哀しげに歪めるルリ。
アキトの後ろに居るシンジが小さく溜息をつき話題をかえる。

「でルリちゃん、用件は?」
「はい、ユリカさんに事情は話されないのですか?」

ストレートに聞いてくるルリ。

「ああ、ユリカに事情を話して必要以上に干渉を大きくしたくないからな」
「干渉を大きくしてしまった為に更なる悲劇を招く……それは避けたいからね」

先ずアキトがそしてシンジが口を開く。

「そうですか。アキトさんがそう言われるのなら私は何も言いません…ですがアキトさんが死ぬ事が解ってる人を前にして、助けずにいられますか?」

ルリの言葉に苦笑を浮かべるアキト。
それをいぶかしんだルリが聞いてくる。

「どうしたんですか?」
「いや、シンジにも同じ事を言われてな…」
「それで答えは?」
「恐らく…助けてしまうだろうな。理解はしていてもそれでもきっと俺は彼らを……」

静かに目を伏せるアキト。
その心中に飛来するのはかつて死んだものたちの姿。

「良いですよ。そんなアキトさんだからこそ支えたいと思うんですから」

やわらかな笑みを浮かべ言うルリ。
その頬が僅かに紅潮している。

「すまない、ルリちゃん。…それじゃあ早速だけど手伝って欲しい事があるんだ」
「なんですか?」

そしてアキトはラピスに語った事をルリに話すのであった。

 

 

「…アキトさん、それってアカツキさんの影響ですか?」

と聞き終えたルリは一瞬だけ冷たい目でアキトを睨む。

「それはアカツキさんがかわいそうだと思うけど」
「じゃあアキトさんの悪知恵ですね」

ルリの言葉にやはり苦笑するしかない二人。

「分かりました。私もそのプランに参加します。…それとラピスに補佐をつけます」
「補佐?」

事情を理解できこのプランを実行できる人間。
いまいち思いつかない二人は怪訝な顔をする。

「はい、ハーリー君です」
「まさかマキビハリ君も?!」
「はいそうです」

アキトの驚きの顔を見れいたずらが成功した子供の表情を見せるルリ。
だがシンジは…。

「……誰ですそれ?」
「……」
「……」

と返事を返してしまったが故に沈黙となる二人。
もしかしたらどこかで件の少年がダッシュをしていそうだ。

「……出来れば直ぐに連絡を取って、ハーリー君にラピスの補佐を頼んでくれないか?」
「解りました…それではまたブリッジで。」
「ああ、ブリッジで会おう。」

問答無用でシンジの言葉を無かったものとする二人。
そして静かに通信は終わった。

「だから、誰なんですか?」

というシンジの言葉を黙殺しながら……。

 

 

 

 

「取り敢えずは一段落ついたかな?」
「ですね」

それぞれ座り込んで話す二人。

「アキトさん、とりあえず当面は身体、鍛えないと駄目ですね」
「確かに。無人兵器で囮役だったから良いがこれで普通の戦闘となると身体がついていけない」
「まぁ一朝一夕でできることではないですが早急に最低でもかつてのレベルにまで持っていく必要がありますね」
「ああ」

ふと言葉が途切れる。
その合間を狙ったのか突如ドアが開かれた。
流れ込んでくる銃を持った兵士達。
アキト、シンジそれぞれ目で言葉を交わしおとなしく以前と同じように食堂へと連れて行かれたのだった。

 

 

 

 

結局は大体同じような流れ。
ガイがゲキガンガーのディスクを取り出しそれを上映している。

「くー!!やっぱゲキガンガーは良いよな!みんな!このシチュエーションに心動かされるものは無いのか!」

叫ぶガイをアキトは懐かしそうにシンジは我関せずといった目で見ている。

「奪われた秘密基地!軍部の陰謀!これで動かなけりゃ男じゃないぞ!!」

そんな視線など気づいていないのだろうガイは尚も熱演を続ける。

「ようしそこの!一人だけ私服着てる奴!お前はどう感じてる!!」

以前と同じようにシンジを指差すガイ。
だが以前とは異なる言葉を返すシンジ。
それを知っているのはこの場では二人だけ。

「正義の為…その言葉に蹂躙された人達への咎は誰が受けるのか……というのはどうでしょう?」
「何を言ってる!!正義は勝つ!!罰を受けるのは悪の帝国だ!!」

その言葉を言い終えたガイは背筋が凍る感覚に囚われた。
シンジは何もしていない。
ただ微笑を浮かべているだけ。
それだけなのにガイは思わず気を失いそうなほどに危険な感覚に囚われていた。

「シンジ、よせ!」

シンジの隣に居るアキトが声を掛ける。
それでようやく硬直がとけるガイ。

「山田さん、正義にだろうと悪にだろうと踏み躙られた人間にはどちらでも同じなんですよ」
「ダ、ダイゴウジガイだっ!!」
「そうやってほざいてろ」

叫ぶガイに侮蔑の目を向け座りなおすシンジ。

「言いたいことは分かるがやりすぎだ」
「すいません」

とアキトに注意をされていたりする。

気を取り直したガイは熱く叫びみんなのテンションを上げていき

「ようしみんな!おれにつづけぇー!!」

と叫び、杖すらないのに走り出していく。
が途中で骨折しているの思い出したのか途端に不自然な動きになり倒れる。
その上をみんなが踏んでいく。

「バカ」
「シンジさん、それ私のセリフです」

なんてことがありながらも結局は自分達も動く。
取り敢えずはブリッジを取り戻す為にそこへ通じる通路を押さえている兵士達を排除する。
アキト、シンジ共に手加減はしているのだが身体が幼くなっているため手加減の具合が解らない。
ので通路の所々で呻き声と苦鳴の声が響くのであった。
そしてブリッジまであと僅かというところで三人はミナトとであった。
手にフライパンを持っているのがどことなくシュールだ。

「あら、ルリちゃんにアキト君とシンジ君」

と言って三人を見回すミナト。

「ふーん。ルリちゃんルリちゃん」

とルリの耳元に顔を寄せるミナト。

「どの彼が本命なの?私にだけ教えて」
「なっ!?ちっちがいます!!」

というが顔が真っ赤では意味が無い。

「もしかして二人ともそうだとか?」
「ですからっ!!ミナトさんっ!!」

んふふふふ、と笑いながら顔を離すミナト。

「まっ、いいけどルリちゃん、ちゃんと決めないとだめよ」
「もういいです……」

と疲れた表情をするルリを優しく見ながらミナトはブリッジへと入っていく。
そんな二人を見てアキト、シンジ共に苦笑するしかなかったのだった……。

 

 

 

 

というわけで前回と同じように動き出したチューリップ。
ガイはみんなに踏まれ医療室行きなので再びアキトが出撃する事となった。

「今回もマニュアル発進ですね」

となぜかルリが期待に満ちた目でアキトを見る。

「い、いや今回はちゃんと飛行ユニットをつけていくよ」

そんなルリに危険なものを感じながらアキトはどもりながらも返事を返す。

「「じゃあ、山田さん今回イイトコなしですね」」

とルリのみならずシンジまでもが声をそろえて言う。
やはり先程のことが糸を引いているのだろうか?
そんなシンジを見ながらアキトは

(お、お前もかブルータス)

と思っていたりしていた。

 

 

 

 

アキトがその力を隠している為やはり決着はナデシコのグラビティブラストの一撃でつけられた。
そしてハンガーへ戻ったアキト。
今度はユリカではなくシンジが待っていた。

「おつかれさまです」
「嫌味か?シンジ」
「どうでしょう?」

互いにおもしろそうに笑い連れ立って歩く。

「とりあえず僕もナノマシンを入れIFSを使用できるようにしておきます」
「随分と急だな?」
「保険ですよ。僅かな事とはいえ確実に変化は存在しているのですから」
「確かにな」

思い返せばその通りである。
ガイは本来骨折だけであったが今では医療室に縛り付けのような状態。
あの怪我では第三次防衛ラインでの出撃も不可能だろう……多分。
そうなれば撃墜シールを貼る必要もない。つまり脱走するムネタケ達と鉢合わせする事が無いという事なのだから。

「シンジ…すまんな」

何に対して謝ったのかはアキトにも分からなかった。
だがシンジはそんな言葉でも微笑みながら言うのであった。

「いいですよ、貴方の為なら…」

と己の誓いの言葉を……。





次回予告

ようやく地球を脱す事となるナデシコ。

だがやはり難関は待ち受けている。

アオイジュン。かつてのように立ちはだかる彼をどのように説得するのか。

そしてガイ。かつてはこのときに命を落とした彼を救えるのか。

結局変わらない彼氏彼女の事情。

包帯男になったガイが立ち上がるときシンジは静かに拳を振り上げる。


次回!!

はやすぎる「さよなら」!…なんて力ずくでも言わせない!…

 

 

 

 

代理人の「ちょっと待ていシンジ!」のコーナー(爆)

 

言ってることは確かに正しいかもしれない。

だが、ガイが何か間違った事を実際にしたか?

ただ間違っているだけで侮蔑の目を向けられなくてはならないのか?

そもそも、アキトの為だけに(突き詰めれば自分の心の平安の為に)

万単位の人を殺してきたシンジがガイを侮蔑できるほどの人間なのか?

 

「山田さん、正義にだろうと悪にだろうと踏み躙られた人間にはどちらでも同じなんですよ」

 

故にシンジにはこんなセリフを吐く資格はない、と私は考えます。

 

そしてもうひとつ私が今回のシンジに思うこと。

このセリフを吐いた直後シンジはガイを力づくで踏みにじりました。

実際に暴力を振るったわけではありませんが

シンジは自分の実力にものを言わせてガイの信念と尊厳をあからさまに侮辱しました。

ただ、自分と意見が違うからと言うだけの理由で。

自分の正義(この際それが正しいかどうかは関係ありません)から見て間違った人間であるというだけの理由で。

 

それは、自分の正義以外の正義を決して認めることのなかった

草壁にも通じる行動なのではないでしょうか?